説明

深絞り性に優れた冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】 深絞り用冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱延鋼板の結晶粒微細化を板厚全厚に十分達成し、最終製品の深絞り性を達成するための、熱延鋼板の鋼板冷却方法を提供する。
【解決手段】 スラブを、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍を行って冷延鋼板若しくは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列における最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいて仕上げ圧延を終了し、その後最終スタンドまでの間に冷却する際に、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)が次式を満足する条件で製造する。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り性に優れた極低炭素冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の、特に熱延工程での冷却方法に関するものである。本発明が係わる冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家庭電気製品、建物などに使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
深絞り性に優れた極低炭素冷延鋼板の製造方法として、その素材となる熱延鋼板の金属組織や状態は重要であることから、様々な技術が検討されてきた。特に熱延組織の細粒化は続く冷間圧延及び連続焼鈍時の集合組織形成に多大な影響を及ぼし、優れた深絞り性を得るために非常に有用なことから、成分及び熱延条件に関する膨大な研究が行われ、多くが実際の製造技術として用いられている。ところでこのような技術の一つに仕上げ圧延後に短時間で冷却することで細粒化を達成する技術がある。しかしながら通常仕上げ最終スタンド直後には種々の計器類が配備されているため、短時間での冷却は困難であった。
【0003】
しかし近年、例えば特許文献1のような仕上げスタンド間で冷却する技術により短時間での冷却が可能となってきた。そして特許文献2のようなスタンド間での冷却能力を勘案して複数のスタンド間で冷却する技術も開示されている。またこのような短時間冷却による極低炭素鋼板の材質向上については、特許文献3のように仕上げ温度や冷却開始時間などを規定した技術が開示されている。しかしながらこれらの温度や時間についての関連性などは十分検討されているとは言い難く、特に冷却開始時間について下限を規定したものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3705233号
【特許文献2】特開2009−241115号
【特許文献3】特開2009−114473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、仕上げ圧延後の冷却開始時間は、一般に圧延後のオーステナイト組織が粗大化するのを防止するため、出来るだけ短くすることに注意が払われてきた。またこの粗大化は仕上げ温度が高いほど起こりやすいことからAr3以上で且つ板幅方向の温度変動などを勘案し、Ar3〜Ar3+数十℃の温度範囲に規定されてきた。しかしながら本来、組織の粗大化は温度と時間が密接に関る現象であり、両者の間には何らかの関連性があってしかるべきである。さらに仕上げ圧延時には僅か板厚が3〜4mm程度の薄鋼板であっても圧延ロールの接触による抜熱で板厚方向に急激な温度勾配が生じており、圧延後に板内部からの復熱で温度が均一化する以前に冷却を開始すると、この温度勾配に従って板厚方向に組織が変化し、このことが最終的な冷延鋼板における材質向上を阻害する可能性が、実際にスタンド間冷却を実施する中で確認された。
【0006】
本発明は、深絞り性に優れた冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、熱延鋼板を細粒化するために仕上げ圧延後に短時間で冷却する場合の、仕上げ温度と冷却開始時間の適正な条件及び関連性を決めた深絞り性に優れた冷延鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目標を達成するために、鋭意、研究を遂行し、以下に述べるような、従来にはない知見を得た。
【0008】
すなわち、仕上げ温度と冷却開始時間の種々組み合わせを調査し、冷延鋼板の材質に好ましい熱延鋼板の金属組織、即ち、板厚方向に均一細粒な組織が得られる条件として、両者の関連性を見出したものである。
【0009】
本発明は、このような思想と新知見に基づいて構築されたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0010】
(1) 質量%で、
C :0.0010〜0.0025%、
Si:0.01〜0.1%、
Mn:0.05〜0.15%、
P :0.001〜0.015%、
S :0.001〜0.01%、
Al:0.005〜0.05%、
N :0.001〜0.003%
を含み、Ti及びNbの1種以上をTi:0.01〜0.05%、Nb:0.005〜0.02%の範囲で含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを加熱、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍を行って冷延鋼板を製造するに際し、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列における最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいて仕上げ圧延を終了し、その後最終スタンドまでの間に冷却する際に、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)が下記(1)式を満足する条件で冷却を開始し、最終スタンドにおける出側温度を(Ar3変態点−30℃)以下とし、650〜750℃で巻取ることを特徴とする、深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(1)
【0011】
(2) さらに、前記スラブが質量%で、B:0.0002〜0.0010%を含有することを特徴とする、上記(1)項の深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0012】
(3) 前記熱延鋼板の金属組織において全厚で均一に細粒、若しくは表層部に粗粒域が存在する場合でも、粗粒域が板厚比として表裏合計で20%以下であることを特徴とする、上記(1)または(2)項の深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0013】
(4) 質量%で、
C :0.0010〜0.0025%、
Si:0.01〜0.1%、
Mn:0.05〜0.15%、
P :0.001〜0.015%、
S :0.001〜0.01%、
Al:0.005〜0.05%、
N :0.001〜0.003%
を含み、Ti及びNbの1種以上をTi:0.01〜0.05%、Nb:0.005〜0.02%の範囲で含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを加熱、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、溶融亜鉛めっき、合金化熱処理、を行って合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列における最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいて仕上げ圧延を終了し、その後最終スタンドまでの間に冷却する際に、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)が下記(1)式を満足する条件で冷却を開始し、最終スタンドにおける出側温度を(Ar3変態点−30℃)以下とし、650〜750℃で巻取ることを特徴とする、深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(1)
【0014】
(5) さらに、前記スラブが質量%で、B:0.0002〜0.0010%を含有することを特徴とする、上記(4)項の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0015】
(6) 前記熱延鋼板の金属組織において全厚で均一に細粒、若しくは表層部に粗粒域が存在する場合でも、粗粒域が板厚比として表裏合計で20%以下であることを特徴とする、上記(4)または(5)項の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、本発明により、スタンド間冷却技術を用いて熱延板を細粒化し、冷延焼鈍後の冷延鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板の深絞り性を高める際の、適切な仕上げ圧延温度や冷却開始時間が選定できる。このような熱延条件による熱延組織の細粒化は、例えば合金元素の添加やその量の増加によって細粒化を達成する場合に生じる、冷延焼鈍時の再結晶遅延に起因する焼鈍温度の高温化や焼鈍速度の低下などの弊害がないことから、優れた深絞り性を製造する技術としてだけでなく、焼鈍時の生産効率を高めるなどの生産性の向上や、合金元素の削減にも繋がるものであることから、本発明は工業的に価値の高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】仕上げ圧延温度と冷却開始時間によって得られる熱延板の組織を表す図である。
【図2】熱延板の金属組織の例を表す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明を完成させるに至った実験について説明する。
【0019】
本発明者らは、質量%で、0.0019C−0.05Si−0.09Mn−0.038Tiの成分を有する250mm厚みのスラブを使用し、このスラブを1200℃に再加熱後、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列において最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいてAr3温度以上(Ar3:895℃)で3.5mm厚みとなるよう仕上げ圧延を終了した後、スタンド間に設置した冷却装置にて最終スタンド出側温度として855℃まで冷却し、その後通常の冷却ゾーンでの冷却を経て700℃で巻取る一連の熱間圧延を行った。そしてこの際の仕上げ圧延の入り側温度や鋼板の通板速度、更にはスタンド間の冷却装置の位置を変えて、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)を変化させ、これにより得られた熱延鋼板の金属組織を調査した。その結果を図1に示す。
【0020】
図1中で、◎印はASTMによる粒度番号で7.5番以上の細粒の組織が全厚に渡り形成されていた条件であり、△印は7.0以下の粗粒が全厚に渡り形成されていた条件である。そして○印及び×印は板厚内部では7.5番以上の細粒だが表層部に7.0以下の粗粒の領域が形成されていた条件である。但しここで、○印が粗粒領域が板厚比として表裏合計で20%以下であるのに対し、×印は20%超であった。図1によれば、上記4条件の領域は仕上げ温度と冷却開始時間によって規定されることは明確である。
【0021】
ここで○印や×印の表層部に粗粒領域を有する組織は、従来のスタンド間冷却に代表される仕上げ熱延直後に冷却する技術において、特段明示されたものは見当たらないが、これはこのような組織の形成される条件が仕上げ圧延後の極めて短時間領域に限られるためと考えられる。即ち、本実験は実機の連続熱延を用いたため、板の通板速度が600mpm以上と早く、更に冷却装置を実際に仕上げ圧延するスタンドから1m以内に近接させたことで、このような短時間での冷却開始時間が得られ、これにより特異な組織の存在が明らかになったと考えられる。
【0022】
なお、上記の4条件の代表的な金属組織を図2に示したが、特に表層部が粗粒となっている組織は細粒部と粗粒部が板厚のあるところで明確に分かれていることが特徴である。そしてこの粗粒領域が板厚比として表裏合計で20%超存在すると、例え板厚内部が7.5番以上の細粒であっても、その後に冷間圧延し連続焼鈍した冷延鋼板の特性、特に深絞り性の向上が見られなかった。即ち、本発明により明らかにされた特異な混合組織、更にはその板厚比率は、スタンド間冷却を含む仕上げ圧延後に短時間で冷却を開始して熱延鋼板を細粒化し、これにより冷延焼鈍後の材質、特に深絞り性の向上を図る上で考慮すべき組織であることが明らかとなった。
【0023】
次に、本発明において鋼組成を限定する理由についてさらに説明する。ここで、組成についての%は質量%を意味する。
【0024】
Cは製品の加工性を決定する極めて重要な元素であり、熱延鋼板で固溶Cが少ないほどその後の冷間圧延と連続焼鈍で形成される集合組織が深絞り性にとって好ましくなることはよく知られている。従って少ないほうが好ましいが、0.0010%より下げる場合には製鋼段階での負荷が高くなるばかりか、熱延板組織が水冷時の板厚方向の温度勾配に沿って粗大柱状晶化し易く、本発明のようなスタンド間冷却をもってしても細粒組織を得ることが困難となり、その結果、深絞り性が劣化する。一方、0.0025%を超えると、後述するTiあるいはNb添加量が多くなり、連続焼鈍時の再結晶温度の上昇を招き、深絞り性を劣化させる原因となるため、これを上限とする。
【0025】
Siは優れた深絞り性を付与するためには添加されない方が好ましく、0.1%を上限とする。一方、過度に低下させることは製鋼段階での負荷が高くなるため、0.01%を下限とする。
【0026】
Mnも優れた深絞り性を付与するためには添加されない方が好ましいことから、0.15%を上限とする。しかし0.05%未満になるとSの固定が不十分となり、熱間圧延での割れ発生の原因となることから、これを下限とする。
【0027】
Pもより優れた深絞り性を付与するためには添加されない方が好ましいため、0.015%を上限とする。一方、0.001%よりも低くすることは脱Pコストを極端に高めるため好ましくないことから、これを下限とする。
【0028】
Sは0.01%超では、熱間割れの原因となったり、加工性を劣化させるので0.01%を上限とする。しかし0.001%未満とする場合には、脱硫コストを極端に高めるため好ましくないことから、これを下限とする。
【0029】
Alは脱酸調製およびTiを添加しない場合にはNの固定に使用するが、0.005%未満ではその効果が不十分である。一方、Al量が0.05%超になるとコストアップを招いたり、表面性状の劣化を招くのでその上限を0.05%とする。
【0030】
Nも深絞り性を付与する鋼においては少ないほうが良いため、0.003%を上限とする。一方、極端に下げることはコストアップとなり好ましくないため、0.001%を下限とする。
【0031】
Tiは深絞り性を確保するために重要な元素の一つである。即ち、固溶C及びNを固定するために添加されるものである。そのため0.01%を下限とする。一方、0.05%を越えて添加されると析出する炭窒化物が多くなると共に固溶Ti量も増えるため、再結晶温度が高くなることから、これを上限とする。
【0032】
NbもTiと同様に深絞り性を確保するための重要な元素であるので、Ti、Nbの1種以上を添加すればよい。即ち、Nbは固溶C及びNを固定するために添加されるものである。そのためNbは0.005%を下限とする。一方、過度な添加はTi以上に再結晶温度の上昇を招く。このことから上限を0.02%とする。
【0033】
Bは2次加工脆化の防止に有効であるため添加するのが好ましい。その際、0.0002%未満では十分な効果が得られない。一方、0.0010%を越えるとその効果が飽和するばかりか、TiやNbと同様に再結晶温度の上昇を招くことから、これを上限とする。
【0034】
これらを主成分とする鋼にCu、Sn、Zn、Mo、W、Cr、Niを合計で1%以下含有しても構わない。
【0035】
次に、製造条件の限定理由について述べる。
【0036】
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
【0037】
本発明において最も重要な熱間圧延条件は、スラブを再加熱後、粗圧延により30〜60mm厚みまで減厚し、この後に連続して実施される熱延スタンド列において更に仕上げ圧延により2〜5mmまで圧延し、その後鋼板を冷却しコイル状に巻き取る一連の工程において、最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドで圧延を完了させ、その後、最終スタンド出側までの間に冷却を施す。そしてこの際の仕上げ圧延温度(T)と冷却開始時間(t)を先の実験に基づき次式を満足する条件とする。
T−Ar3(℃)≧40/(log[t(秒)]+2)−20 ・ ・ ・(2)
T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(3)
ここで上記(2)式は図1で×と○の境界、即ち、熱延鋼板の金属組織において表層部に存在する粗粒領域が板厚比として表裏合計で20%以下となる条件であり、上記(3)式は図1で◎と△の境界、即ち、全厚に渡り結晶粒度で7.5番以上の細粒となる条件である。よって、上記(2)式と(3)式を組み合わせた下記(1)式は図1で◎と○の領域を規定する条件を表す。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(1)
【0038】
なお、スタンド間冷却後の最終スタンド出側温度は(Ar3−30)℃以下とするが、これはこの温度が高いと、熱延ラインに通常設置されている冷却帯(ランアウトテーブル)でのこの後の冷却に至るまでの空走域の通過中に、得られた細粒組織が粗大化するためである。なおスタンド間冷却での冷速は特に規定しないが、圧延後の冷却開始から最終スタンド出側までの通過時間は、通常の熱延スタンド列のスタンド間隔が5m程度であれば、最終スタンドより2段前のスタンドで圧延を終了させて直ちに冷却を開始する場合でも、鋼板の通板速度が600mpm以上なら1s以下であることから、平均冷速で50℃/s以上は必要である。但し、実際には2段前のスタンドで圧延終了した場合、1段前のスタンド通過部分等、スタンド間であっても冷却できない領域があることなどから、スタンド間での冷却帯内の冷速は更に大きくする必要がある。例えばこの冷却帯内の冷速を150℃/s以上とすれば、本発明の温度変化を安定的に達成することが可能である。
【0039】
なお、その他の圧延条件は特に限定しないが、仕上げ最終圧延の圧下率は形状や通板安定性から上限を30%以内とすることが好ましい。
【0040】
一連の仕上げスタンド列において仕上げ圧延、及びスタンド間冷却を経て最終スタンドを通過した熱延鋼板は、鋼板温度がまだ十分に高いため、通常の冷却帯(ランアウトテーブル)にて更に冷却され、最終的にはコイル状に巻き取られるが、本発明ではこの巻取り温度を650〜750℃とする。これは650℃未満では固溶CやNが残存するため深絞り性が劣化するためであり、一方、750℃を超えると組織が巻き取り中に粗大化して、細粒化効果が失われるためである。
【0041】
次に、熱間圧延に続く、以降の製造条件について述べる。冷間圧延は、通常の条件でよく、焼鈍後の深絞り性を確保する目的からその圧延率は、60%以上とする。圧下率を95%超とすると加工性が劣化してしまうのでこれを上限とする。
【0042】
連続焼鈍ラインの焼鈍温度も通常の条件でよく、650℃以上Ac3変態点以下とする。焼鈍温度が650℃未満では、再結晶が完了せず、加工性が劣悪となる。一方、焼鈍温度がAc3変態点超では、変態によって加工性の低下を招く。なお合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、上記焼鈍工程を含むゼンジミア法だけでなく、焼鈍板にNiをプレNiめっきして製造する方法でも何ら差異はない。
【0043】
また、焼鈍後あるいはめっき後の調質圧延も通常の条件でよく、表面及び形状の調整から1%を上限として実施される。
【0044】
以上のような熱延の後の各工程、即ち、冷延鋼板製造工程であれば、酸洗-冷延-焼鈍-調質圧延、合金化融亜鉛めっき鋼板製造工程であれば、酸洗-冷延-焼鈍-亜鉛めっき-合金化処理-調質圧延、は各々独立した工程であってもかまわないし、部分的に連続している工程でもかまわない。生産効率から考えれば、全て連続化していることが理想である。
【実施例】
【0045】
次に本発明を実施例にて説明する。
【0046】
<実施例1>
表1に示す本発明の鋼を溶製し、スラブ加熱温度1200℃とし熱間圧延を行い、仕上げスタンド列の最終スタンドから2つ前のスタンドにて仕上げ温度940℃で4.0mm厚の鋼帯となるよう仕上げ圧延を終了し、その後スタンド間の冷却設備を用いて冷却開始時間が(1)式を満足する0.1sで冷却を開始し、最終スタンド出側温度を855℃となるように冷却し、その後通常の冷却帯(ランアウトテーブル)で更に冷却して巻取温度750℃で巻き取った。これを酸洗後、冷間圧延を施し0.7mm厚の冷延板とした。次いでこれを、連続焼鈍ラインにて加熱温度750℃で焼鈍後、0.4%の調質圧延率で調質圧延を施し、冷延鋼板を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
結果を表2に示す。ここで熱延板結晶粒径は、中間製品である熱延鋼板よりミクロ組織観察用のサンプルを採取し、断面組織から測定したASTM結晶粒度番号である。また材質特性の欄は冷延鋼板の引張特性であり、特に深絞り性の指標として平均r値及びΔr値を調査した。ここで平均r値とΔr値は圧延方向に対して平行なL方向、直角方向のC方向、そして45°方向のX方向の均一伸び領域での各r値(r−L、r−C、r−X)から次式の(4)(5)式を用いて算出した。
平均r値={(r−L)+(r−C)+2x(r−X)}/4 (4)
Δr値={(r−L)+(r−C)―2x(r−X)}/2(5)
表2によれば、本発明条件の鋼A〜G熱延板の結晶粒度は7.5以上と細粒であり、且つ全厚で均一(粗粒領域の板厚比率が0%)若しくは粗粒領域の板厚比率が20%以下であることから、冷延鋼板の平均r値は2.0以上と高く、Δr値は0.6以下と低く、深絞り性に優れた冷延鋼板が得られている。これに対し、C量が低く本発明外の鋼Hは結晶粒度が6.9と粗粒であり、平均r値が低い。またC量が高い鋼I、C量とTi量が高い鋼J、Nb量が高い鋼Kは熱延板の結晶粒度は7.5番以上と細粒ではあるが、焼鈍時の再結晶やその後の粒成長が十分に進まなかった結果、伸びや平均r値が低く、更にΔr値は高くなっており、深絞り性が劣っていた。
【0049】
【表2】

【0050】
<実施例2>
表1の鋼A(Ar3:905℃)と鋼B(Ar3:900℃)のスラブを用いてスラブ加熱温度1200℃で熱間圧延を行い、仕上げスタンド列の最終スタンドから2つ前のスタンドにて表3に示す種々の仕上げ温度で3.5mm厚の鋼帯となるよう仕上げ圧延を終了し、その後スタンド間の冷却設備を用いて種々の冷却開始時間で冷却を開始し、種々の最終スタンド出側温度まで冷却し、その後通常の冷却帯(ランアウトテーブル)で更に冷却して種々の巻取温度で巻き取った。これを酸洗後、冷間圧延を施し0.65mm厚の冷延板とした。次いでこれを、連続焼鈍ラインにて加熱温度770℃で焼鈍後、0.4%の調質圧延率で調質圧延を施し、冷延鋼板を得た。さらに鋼Bについてはこの冷延鋼板を素材としてNiプレめっき後、昇温し亜鉛浴に浸漬し、これをワイピングした後に、530℃で12秒の合金化処理後、再度、0.4%の調質圧延率で調質圧延を施し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0051】
【表3】

【0052】
結果を表4に示す。本発明条件A1〜A5及びB1〜B5の熱延板は粒度番号で7.5番以上の細粒であり、また表層部に存在する粗粒域が板厚比で表裏各10%以下となっており、得られた鋼Aの冷延鋼板、及び鋼Bの合金化溶融亜鉛めっき鋼板共に、高い平均r値と低いΔr値を示している。これに対し、図1の×の条件であるA5やB5は熱延板の板厚内部の結晶粒度は7.5番以上と細粒ではあるが、表層部に存在する粗粒域が板厚比で表裏共各20%超存在し、最終的な材質である平均r値はそれほど高くなく、Δr値は高かった。一方、図1の△の条件であるA6やB6は熱延板の結晶粒度が全厚で7.0番以下と粗粒であり、やはり最終的な材質の平均r値は高くなく、Δr値は高かった。
【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.0010〜0.0025%、
Si:0.01〜0.1%、
Mn:0.05〜0.15%、
P :0.001〜0.015%、
S :0.001〜0.01%、
Al:0.005〜0.05%、
N :0.001〜0.003%
を含み、Ti及びNbの1種以上をTi:0.01〜0.05%、Nb:0.005〜0.02%の範囲で含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを加熱、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍を行って冷延鋼板を製造するに際し、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列における最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいて仕上げ圧延を終了し、その後最終スタンドまでの間に冷却する際に、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)が下記(1)式を満足する条件で冷却を開始し、最終スタンドにおける出側温度を(Ar3変態点−30℃)以下とし、650〜750℃で巻取ることを特徴とする、深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(1)
【請求項2】
さらに、前記スラブが質量%で、
B:0.0002〜0.0010%
を含有することを特徴とする、請求項1に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延鋼板の金属組織において全厚で均一に細粒、若しくは表層部に粗粒域が存在する場合でも、粗粒域が板厚比として表裏合計で20%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の深絞り性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項4】
質量%で、
C :0.0010〜0.0025%、
Si:0.01〜0.1%、
Mn:0.05〜0.15%、
P :0.001〜0.015%、
S :0.001〜0.01%、
Al:0.005〜0.05%、
N :0.001〜0.003%
を含み、Ti及びNbの1種以上をTi:0.01〜0.05%、Nb:0.005〜0.02%の範囲で含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを加熱、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、溶融亜鉛めっき、合金化熱処理、を行って合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延が連続して実施される熱延スタンド列における最終スタンドより2段あるいは1段前のスタンドにおいて仕上げ圧延を終了し、その後最終スタンドまでの間に冷却する際に、仕上げ温度(T)と冷却開始時間(t)が下記(1)式を満足する条件で冷却を開始し、最終スタンドにおける出側温度を(Ar3変態点−30℃)以下とし、650〜750℃で巻取ることを特徴とする、深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
40/(log[t(秒)]+2)−20≦T−Ar3(℃)≦60/(log[t(秒)]+2) ・ ・ ・(1)
【請求項5】
さらに、前記スラブが質量%で、
B:0.0002〜0.0010%
を含有することを特徴とする、請求項4に記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板の金属組織において全厚で均一に細粒、若しくは表層部に粗粒域が存在する場合でも、粗粒域が板厚比として表裏合計で20%以下であることを特徴とする、請求項4または5に記載の深絞り性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225905(P2011−225905A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94238(P2010−94238)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】