済州島彼岸花抽出物及び/またはこれから分離された化合物を含む退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物

【課題】退行性神経疾患の治療効果が優れていて、副作用がなく、疾患の原因的治療まで可能な治療剤を開発する。
【解決手段】済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物及び/またはこれから分離されたジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及び/またはリコリシジノールを有効成分として含む、退行性神経疾患の予防、改善、及び/または治療用組成物、健康機能性食品、及びこれらの製造方法。
【解決手段】済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物及び/またはこれから分離されたジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及び/またはリコリシジノールを有効成分として含む、退行性神経疾患の予防、改善、及び/または治療用組成物、健康機能性食品、及びこれらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物またはこれから分離された化合物のベータアミロイドの生成抑制及び/または退行性神経疾患の予防、改善、及び/または治療における新規用途に関するものであって、より具体的には、済州島彼岸花抽出物及び/またはジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoricidine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)からなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物、退行性神経疾患の改善用健康機能性食品、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な退行性神経疾患の一つである痴呆(dementia)は、各種原因によって発生する脳細胞の損傷によって、正常であった記憶力、思考力、理解力、計算能力、学習能力、言語能力、及び判断力などの知能を含む脳機能が低下する症状をいう。老人性痴呆(senile dementia)は、老年による脳の退行性変化の結果として現れる老年性精神障害であって、65才前後から70才の老年期に主に発症する。
【0003】
特に、アルツハイマー病(Alzheimer´s disease)は、老人性痴呆の中でも最も多く発症している疾患で、ベータアミロイド(β−amyloid)の脳内蓄積及びそれによる神経毒性が発病の重要な原因として知られている。特に、ベータアミロイド(β−amyloid)は、蛋白質が脳に蓄積されて絡まるプラグを形成し、これによってアルツハイマー病が発病すると言われている。前記アルツハイマー病にかかると、脳の全般的な萎縮、脳室の拡張、神経原線維変化(neurofibrillary tangle)、及び老人斑(senile plaque)などの病理組織学的特徴が現れて、記憶力、判断力、及び言語能力などの指摘機能の減退及び行動様相障害が現れ、進行すると、うつ病などの精神医学的症状も伴う。また、このような症状が漸進的に進行して、発病後6乃至8年程度が経過すると、死に至ることもある。
【0004】
前記ベータアミロイド(β−amyloid)は、アミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が膜蛋白加水分解酵素であるベータセクレターゼ(BACE1)及びガンマセクレターゼの連続的な作用によって形成されると言われている。このようなベータアミロイド(β−amyloid)は、大きく二つの類型、つまり40個のアミノ酸からなるAβ40及び42個のアミノ酸からなるAβ42に分類することができる。ベータアミロイドは、Aβ40がその大部分を占めるが、相対的に少ないAβ42がプラグを容易に形成するため、最も重要な病因物質として注目されている。
【0005】
現在公知の代表的な痴呆治療剤としては、タクリン(tacrine;Cognex,1994)及びドネペジル(donepezil;Aricept,1996)が米国FDAの承認を受けて使用されている。前記薬品の作用機転は、中枢神経伝達系に中心的な役割を果たすアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエストラーゼ(AChE)酵素の活性抑制によって神経伝達物質であるアセチルコリンの濃度を増加させることによって、痴呆を予防及び治療するものであると言われている。しかし、前記タクリンは、効能に比べて価格が高く、深刻な肝毒性の問題があり、ドネペジルは、肝毒性はないが、副交感神経を刺激して、嘔吐、悪心、下痢などの多様な副作用の問題がある。また、前記薬品は、脳病変の改善のような原因的な治療のための薬品ではなく、記憶力減退などの痴呆の主要症状を緩和するための薬品にすぎないという問題がある。
【0006】
したがって、このような副作用がなく、原因的な治療が可能な、新たな形態の痴呆治療剤を開発するための研究が活発に進められている。そのうちの一つとして、アルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイド(β−amyloid)の生成を抑制する物質を開発しようとする努力が続けられているが、未だ効果的な治療剤は開発されていないのが実情である。
【0007】
一方、ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)は、スパイダーリリー類であるヒメノカリスリットラリス(Hymenocallis littoralis)、ヒメノカリスラティフォリア(Hymenocallis latifolia)などに含まれていて、主に抗ウイルス効果及び坑癌効果があることが報告されている。しかし、前記ジヒドロリコリシジンに痴呆の予防及び治療効果があることは全く知られていない。
【0008】
また、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)は、スパイダーリリー類であるヒメノカリス属(Hymenocallis sp.)植物に含まれていて、抗炎症、坑酸化、及び抗菌作用があることが知られているが、痴呆の予防及び治療効果があることは全く知られていない。
【0009】
また、リコリシジン(lycoricidine)及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、スイセン属植物(Narcissus)、リコリス属植物(Lycoris)、パンクラティウム属植物(Pancratium)、ハエマンサス属植物(Haemanthus)に存在することが報告されている。リコリシジン及びリコリシジノールは、抗ウイルス効果(Gabrielsen,B.et al.J.Nat.Prod.55:1569,1992)及び坑癌効果(Mondon,A.et al.Chem.Ber.108:445,1975)があることが知られているが、ベータアミロイドの生成抑制または痴呆(アルツハイマー)の予防及び治療に関する効果は報告されていない。
【0010】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)は、大韓民国済州道にだけ分布する白色のスイセン科植物であって、最近になって命名されたものである(Tae and Ko,Kor.J.Pl.Tax.23:233,1993)。済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)に対する化学分析的研究や生理活性及び臨床効果に対する研究は、未だ不十分であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、退行性神経疾患の治療効果が優れていて、副作用がなく、疾患の原因的治療まで可能な治療剤を開発することを課題とする。本発明者は、鋭意研究を行う過程で、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物またはこれから分離されたジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoricidine)、及び/またはリコリシジノール(lycoricidinol)がベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することによって、代表的な退行性神経疾患である痴呆の予防または治療において有効成分として使用が可能であることを確認して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の一側面は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を有効成分として含む退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物である。
【0013】
また他の側面は、下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、下記の化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)、下記の化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択された1種以上を有効成分として含む退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物である。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
また他の側面は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を含む退行性神経疾患の予防及び/または改善用健康機能性食品である。
【0019】
また他の側面は、前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)、前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの塩を含む退行性神経疾患の予防及び/または改善用健康機能性食品である。
【0020】
また他の側面は、
(a)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、
(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び
(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10、好ましくは3〜7:10、より好ましくは5〜7:10(有機溶媒の体積:水の体積)の体積比で混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む、前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)または前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)の製造方法である。
【0021】
また他の側面は、
(a´)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、
(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び
(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で7.1〜15:10、好ましくは9〜15:10、より好ましくは11〜15:10、さらに好ましくは13〜15:10(有機溶媒の体積:水の体積)の体積比で混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む、前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)または前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明による済州島彼岸花抽出物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を効果的に抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。また、本発明の化合物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)の濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図2】済州島彼岸花分画物(CJ−1、CJ−2、CJ−3、CJ−4)のベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図3】済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)の濃度によるベータアミロイド(Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図4】済州島彼岸花ブタノール小分画物(CJ−3−F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、及びF8)のベータアミロイド(Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図5】済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)またはブタノール分画物(CJ−3)の細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図6】ジヒドロリコリシジンの添加濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図7】2−メトキシパンクラシンの濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図8A】リコリシジン及びリコリシジノールの濃度によるベータアミロイド(Aβ40:8a)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図8B】リコリシジン及びリコリシジノールの濃度によるベータアミロイド(Aβ42:8b)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図9】ジヒドロリコリシジンの濃度によるベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図10】ジヒドロリコリシジンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図11】2−メトキシパンクラシンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図12】リコリシジンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図13】リコリシジノールの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図14】済州島彼岸花抽出物ブタノール小分画物中のアセトン及び水の体積比率を4:6にした場合に収得された分画物のHPLCクロマトグラムである。
【図15】済州島彼岸花抽出物ブタノール小分画物中のアセトン及び水の体積比率を6:4にした場合に収得された分画物のHPLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、これに限定されないが、済州島彼岸花の球根または根を利用して、当業界に公知の通常の抽出方法によって製造され得る。例えば、前記抽出方法は、加熱抽出法、超音波抽出法、ろ過法、加圧抽出法、還流抽出法、超臨界抽出法、電気的抽出法など、通常使用される全ての抽出方法がある。また、必要な場合には、前記抽出後に、当業界に公知の通常の濃縮及び/または凍結乾燥方法を追加的に行ってもよい。
【0025】
前記済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上、例えば70乃至100%(v/v)のC1乃至C4の低級アルコールと30乃至0%の水を抽出溶媒として使用して抽出して製造することができる。前記抽出溶媒は、済州島彼岸花の体積の1乃至5体積倍で使用されるが、これに限定されず、抽出時間は、1乃至12時間、好ましくは2〜5時間であるが、これに限定されない。
【0026】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、好ましくは、(i)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出した後、(ii)水、ヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出することによって製造されるものである。例えば、前記C1乃至C4の低級アルコールはブタノールであるが、これに限定されない。
【0027】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、最も好ましくは、(iii)前記(ii)段階で製造された抽出物にアセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を添加して追加的に抽出することによって製造されるものである。より好ましくは、前記済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、前記(ii)段階で製造された抽出物にアセトン及び水の混合溶媒を添加して抽出し、前記混合溶媒中のアセトン及び水の混合比は体積基準で1:4乃至4:1(アセトンの体積:水の体積)であるのが好ましいが、これに限定されない。
【0028】
本発明の一実施例において、済州島彼岸花の球根にエタノールを添加して減圧濃縮して、エタノール抽出物を製造することができる(<実施例1−1>参照)。また、前記製造された済州島彼岸花エタノール抽出物に水、ヘキサン、塩化メチレン、ブタノールを各々添加して追加的に抽出することによって、ヘキサン分画物、塩化メチレン分画物、ブタノール分画物、そして水分画物を製造することができる(<実施例1−2>参照)。また、前記製造された分画物のうち、アミロイドの生成抑制効果が最も優れていることが明らかになったブタノール分画物にアセトン、水、またはアセトン及び水の混合溶媒を使用して、ブタノール小分画物(subfraction)を製造することができる(<実施例1−2>参照)。
【0029】
前記有効成分であるところの、ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoridine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、そのものまたは塩の形態で使用される。前記塩としては、薬学的に許容可能な塩である、遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が好ましい。前記遊離酸としては、有機酸及び無機酸を使用することができる。前記有機酸は、薬学的に許容可能な全ての有機酸であり、例えばクエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、蟻酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、グルコン酸、メタスルホン酸、グリコール酸、琥珀酸、4−トルエンスルホン酸、グルタン酸、アスパルト酸などがあるが、これに制限されない。また、前記無機酸は、薬学的に許容可能な全ての無機酸であり、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、燐酸などがあるが、これに制限されない。
【0030】
本発明による前記ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoridine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、当業界に公知の抽出及び分離方法によって前記化合物が含まれている天然物から分離されたり、当業界に公知の合成方法によって化学的に合成して製造される。また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)の全草から抽出及び分離して製造することもできる。
【0031】
一方で、本発明の一実験例では、前記済州島彼岸花エタノール抽出物をアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株に投与した結果、ベータアミロイドの生成が効果的に抑制されることを確認した(<実験例1−1>参照)。また、前記済州島彼岸花ヘキサン分画物、塩化メチレン分画物、ブタノール分画物、及び水分画物でも前記と同様な結果を確認した(<実験例1−2>参照)。また、前記済州島彼岸花ブタノール小分画物でも前記と同様な結果を確認した(<実験例1−2>参照)。
【0032】
また、本発明の一実験例では、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールをアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株に投与した結果、ベータアミロイドの生成が効果的に抑制されることを確認した(<実験例3>参照)。
【0033】
また、本発明の一実験例では、前記ベータアミロイドの生成が抑制される原因をより具体的に見てみるために、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成程度を測定した結果、ジヒドロリコリシジンによってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成が抑制されることを確認した。したがって、前記ジヒドロリコリシジンは、ベータセクレターゼの活性を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を減少させ、これによってベータアミロイドの生成が抑制されることが分かる(<実験例4>参照)。
【0034】
このように、済州島彼岸花抽出物及びこれから分離されたジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールは、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を効果的に抑制することができる活性を有し、これと関連した疾患の予防または治療用薬学的組成物の有効成分として使用される。
【0035】
前記退行性神経疾患は、神経、特に脳神経の退行によって発症する全ての疾患を含み、例えば痴呆(dementia)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ピック病(Pick’s Disease)、及びパーキンス−ALS(amyotrophic lateral sclerosis)−痴呆複合症などからなる群から選択された1種以上である。本発明の具体的な例で、前記退行性神経疾患は、痴呆、特にアルツハイマー病である。
【0036】
本発明の組成物内の有効成分としての済州島彼岸花抽出物、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及び/またはリコリシジノールの含有量は、使用形態、使用目的、患者の状態、疾患の種類、及び疾患の程度などによって適切に調節することができ、組成物重量基準で0.001乃至99.9質量%、好ましくは0.1乃至50質量%であるが、これに限定されない。この時、済州島彼岸花抽出物の含有量は、固形分重量基準で示されたものであり、前記固形分重量は、抽出物中の溶媒成分を除去して残った成分の重量を意味する。
【0037】
本発明の組成物は、人間を含む哺乳動物に多様な経路で投与される。投与方式は、通常使用される全ての方式であり、例えば経口、直腸または静脈、筋肉、皮下、子宮内頚膜、または脳血管内(intracerebroventricular)注射によって投与される。本発明の薬学的組成物は、各々通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、経皮剤、座薬、及び滅菌注射用液などの非経口型剤形などに剤形化されて使用される。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、または前記済州島彼岸花抽出物以外に、薬学的に適切で生理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などの補助剤を追加的に含むことができる。本発明の組成物に含まれる担体、賦形剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストローズ、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、鉱物油などがある。本発明の組成物を製剤化する際には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤、賦形剤などを使用することができる。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などがあり、このような固形製剤は、前記有効成分以外に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)、またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤されたものである。また、単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクなどの潤滑剤を使用してもよい。経口投与のための液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、油剤、シロップ剤などがあり、通常使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン、及び/または多様な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含むものである。非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、油剤、凍結乾燥製剤、座薬、経皮剤などがある。非水性溶剤または懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレエートなどの注射可能なエステルなどを使用することができる。座薬の基剤としては、ハードファット(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0039】
本発明の組成物の投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態、及び疾患の程度により異なり、医師または薬剤師の判断によって一定の時間間隔で1日1回乃至数回にわたって分割投与する。例えば、有効成分含有量を基準にして1日の投与量が0.5乃至50mg/kg、好ましくは1乃至30mg/kgである。前記投与量は、平均的な場合を例示したものであって、個人差によってその投与量が多くても少なくてもよい。本発明の薬学的組成物の1日の投与量が前記投与量未満である場合には、有意性ある効果を得ることができず、それを超える場合には、非経済的であるばかりか、常用量の範囲を逸脱して好ましくない副作用が発生する恐れがあるので、前記範囲にするのが好ましい。
【0040】
前記で、患者とは、人間を含む哺乳動物を意味し、退行性神経疾患、例えば痴呆、特にアルツハイマー病の治療が必要な人間を意味する。
【0041】
また、本発明の健康機能性食品は、退行性神経疾患の予防及び/または改善効果がある各種食品(functional food)、栄養補助剤(nutritional supplement)、食品添加剤(food additives)などの全ての形態の食品を含む。前記類型の食品組成物は、当業界に公知の通常の方法によって多様な形態に製造される。
【0042】
例えば、前記食品としては、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物そのものを茶、ジュース、及びドリンクの形態に製造して飲用するようにしたり、顆粒化、カプセル化、及び粉末化して摂取するようにしたものがある。また、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物を痴呆改善効果があると言われている公知の活性成分と共に混合した組成物の形態であってもよい。また、前記食品は、飲み物(アルコール性飲料を含む)、果物及びその加工食品(例:果物の缶詰め、瓶詰め、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類、及びその加工食品(例:ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類、麺類(例:ウドン、蕎麦、ラーメン、スパゲッティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例:バター、チーズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性蛋白質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例:味噌、醤油、ソースなど)などにジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、及び/または済州島彼岸花抽出物を添加して製造されたものであってもよい。
【0043】
前記食品添加剤は、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物を粉末または濃縮液の形態で含むものである。
【0044】
本発明の食品中のジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物の含有量は、最終食品の形態、用途、及び使用目的によって適切に調節することができ、例えば食品100g当たり約0.001〜20gであるが、これに制限されない。本発明におけるジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または前記済州島彼岸花抽出物を含む食品は、退行性神経疾患、特に痴呆の改善効果があると言われている他の活性成分と共に混合して製造されてもよい。
【0045】
前記ベータアミロイドの生成抑制効果を有する済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物の製造方法は、(i)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;及び、任意的に(ii)前記(i)段階で収得された抽出物を水、ヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出する段階;及び、任意的に(iii)前記(ii)段階で製造された抽出物を、アセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を添加して追加的に抽出する段階;を含む。
【0046】
前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)または前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)の製造方法は、(a)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及び有機溶媒からなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む。
【0047】
前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)または前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)の製造方法は、(a´)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及び有機溶媒からなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された一種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積比で7.1〜15:10に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む。
【0048】
具体的に、前記(a)または(a´)段階で、済州島彼岸花の全草を利用して、当業界に公知の抽出方法によって、済州島彼岸花抽出物を製造することができる。前記抽出方法は、例えば加熱抽出法、超音波抽出法、ろ過法、加圧抽出法、還流抽出法、超臨界抽出法、及び電気的抽出法など、通常使用される抽出方法である。また、必要な場合には、前記抽出後に、当業界に公知の濃縮または凍結乾燥方法を追加的に行ってもよい。前記(a)または(a´)段階で、有機溶媒はC1乃至C4の低級アルコールであるのが好ましいが、これに限定されない。前記水または有機溶媒は、済州島彼岸花の体積の1乃至5体積倍で使用するのが好ましいが、これに制限されず、抽出時間は、1乃至12時間、好ましくは2〜5時間であるが、これに制限されない。
【0049】
前記(b)または(b´)段階で、前記(a)または(a´)段階で製造された抽出物に水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出することによって、各溶媒に応じた分画物を製造することができる。前記C1乃至C4の低級アルコールはブタノールであるのが好ましいが、これに制限されない。
【0050】
前記(c)または(c´)段階で行われる逆相コラムクロマトグラフィーは、例えばHP20逆相コラムクロマトグラフィー及びC18逆相コラムクロマトグラフィーを順次に行うことができるが、これに制限されない。例えば、前記(b)または(b´)段階で製造された抽出物にアセトニトリル、メタノール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を溶離液として使用して、アセトニトリル、メタノール、またはアセトンの濃度を変化させながらHP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。
【0051】
より具体的に、前記ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で3〜7:10にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができ、前記2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で7.1〜15:10にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。好ましくは、前記ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で1:1.5にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができ、前記2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で1:0.67にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。
【0052】
その後、順次にC18逆相コラムクロマトグラフィーを行うことによって、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールを製造することができる。より好ましくは、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、アセトニトリルの濃度を変化させながらC18逆相コラムクロマトグラフィーを行うことによって、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及びリコリシジノールを製造することができる。
【0053】
上記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、または済州島彼岸花抽出物は、ベータアミロイドの生成抑制効果が優れていて、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果が優れているので、ベータアミロイド及びベータセクレターゼ産物(sAPPβ)によって誘導される神経細胞毒性及びこれによって誘発される退行性神経疾患の予防及び/または治療に効果的に使用される。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されるわけではない。
【実施例1】
【0055】
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物の製造
<1−1>済州島彼岸花エタノール抽出物の製造
済州道で採集した済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)の球根を乾燥して収得された試料590gを細切りした後、抽出容器に入れて、95%(v/v)のエタノールを前記試料の体積の2体積倍で加えた後、3時間還流抽出し、常温で冷却してろ過した。前記ろ過された抽出液を溶媒が完全に蒸発するまで減圧下で40℃で濃縮して、エタノール抽出物200g(以下、「CJ」とする)を収得した(収率:33.9%)。
【0056】
<1−2>済州島彼岸花分画物の製造
前記<実施例1−1>で製造した済州島彼岸花エタノール抽出物200gを水1Lに懸濁した後、ヘキサン、塩化メチレン、及びブタノール各1Lを各々2回ずつ順次に加えて溶媒分画することによって、ヘキサン分画物1g(以下、「CJ−1」とする)、塩化メチレン分画物1g(以下、「CJ−2」とする)、ブタノール分画物5.5g(以下、「CJ−3」とする)、そして水分画物192g(以下、「CJ−4」とする)を収得した。
前記収得された済州島彼岸花ブタノール分画物5.5gをアセトン、水、またはアセトン及び水の混合溶媒を利用して済州島彼岸花ブタノール小分画物を製造した。具体的に、アセトン、水、またはアセトン及び水の比率を0:10(水単独)、2:8、4:6、6:4、8:2、及び10:0(アセトン単独)の体積比に変化させながら、固定相としてHP−20を200g使用した逆相クロマトグラフィーを行うことによって、8種の済州島彼岸花ブタノール小分画物[以下、CJ−3−F1(水単独、400ml)、CJ−3−F2(アセトン:水=2:8、400ml)、CJ−3−F3(アセトン:水=4:6、前半部200ml)、CJ−3−F4(アセトン:水=4:6、後半部200ml)、CJ−3−F5(アセトン:水=6:4、前半部200ml)、CJ−3−F6(アセトン:水=6:4、後半部200ml)、CJ−3−F7(アセトン:水=8:2、400ml)、CJ−3−F8(アセトン単独、400ml)とする]を収得した。
【実施例2】
【0057】
済州島彼岸花抽出物からの化合物の分離及び同定
<2−1>ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンの分離及び同定
前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物のうち、アセトン及び水の比率を4:6(アセトンの体積:水の体積; CJ-3-F3+CJ-3-F4)体積比にした場合に収得された分画物のHPLC クロマトグラム(UV波長210nm、移動相10体積%のアセトニトリル/水〜20体積%のアセトニトリル/水、20分, for analysis)の結果を図14に示した。図14に示したように、前記分画物にジヒドロリコリシジン及びリコリシジンが含まれていることを確認した。
前記<実施例1−2>において、アセトン及び水の比率を体積基準で4:6にしたブタノール小分画物を減圧濃縮した後、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、C18逆相コラム(preparative)を利用した高速流体クロマトグラフィー分離法によって化合物を精製した。具体的に、10体積%のアセトニトリル/水から20体積%のアセトニトリル/水まで40分間にわたってアセトニトリルの組成を高める濃度勾配でC18逆相コラムを利用した高速流体クロマトグラフィーを行った。前記の結果、済州島彼岸花アルコール抽出物200gから各々10mg(収率:0.005%)及び40mg(収率0.02%)の2種の化合物を精製した。
前記0.005%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって293に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H及び13C−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式1のようにジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)と同定し(George R.T.及びNoeleen M.J.Nat.Prod 68:207−211,2005)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0058】
【化5】

【0059】
微黄色半固形性物質;分子式C14H15NO6;ESI−MS:m/z294[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ1.86(1H,td,J=13.0,3.0Hz,H−1ax)、2.27(1H,dt,J=13.0,3.0Hz,H−1eq)、3.07(1H,td,J=13.0,3.0Hz,H−10b)、3.49(1H,dd,J=13.0,10.0Hz,H−2)、3.89(1H,dd,J=10.0,3.0Hz,H−3)、3.92(1H,dd,J=3.0,3.0Hz,H−4)、4.10(1H,dt,J=3.0,3.0Hz,H−4a)、6.03 and 6.05(each 1H,d,J=1.5Hz,OCH2O)、6.90(1H,br s,H−10)、7.40(1H,s,H−7).Exchangeable Proton Signal(500MHz,DMSO−d6)δ7.30(1H,br s,NH)、5.00(1H,br s,OH)、4.58(1H,br s,OH)、4.56(1H,br s,OH);13C NMR(125MHz,DMSO−d6):δ30.3(C−1)、32.7(C−10b)、58.2(C−4a)、69.3(C−2)、70.2(C−3)、74.0(C−4)、102.5(OCH2O)、104.9(C−10)、107.2(C−7)、124.5(C−6a)、138.8(C−10a)、146.5(C−8)、151.0(C−9)、165.0(C−6).
【0060】
また、前記0.02%の収率で収得した本発明の化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって291に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式3のようにリコリシジン(lycoricidine)と同定し(George R.Tettit and Joy A.Bell,J.Nat.Prod 69:7−13,2006)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0061】
【化6】

【0062】
微黄色半固形性物質;分子式C14H13NO6;ESI−MS:m/z292[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ3.92(1H,m,H−3)、3.94(1H,m,H−4)、4.26(1H,ddd,J=4.5,2.0,1.5Hz,H−2)、4.40(1H,ddt,J=9.5,2.5,1.0Hz,H−4a)、6.06 and 6.08(each 1H,d,J=1.0Hz,−OCH2O−)、6.18(1H,m,H−1)、7.17(1H,s,H−10)、7.40(1H,s,H−7).
【0063】
<2−2>2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールの分離及び同定
前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物のうち、アセトン及び水の比率を6:4(アセトンの体積:水の体積; CJ-3-F5+CJ-3-F6)体積比にした場合に収得された分画物のHPLC クロマトグラム(UV波長210nm、移動相10%(w/v)のアセトニトリル/水〜20%(w/v)のアセトニトリル/水、20分)を図15に示した。図15に示したように、前記分画物に2−メトキシパンクラシン及びリコリシジノールが含まれていることを確認した。
前記<実施例1−2>において、アセトン及び水の比率を6:4にしたブタノール小分画物を減圧濃縮した後、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、C18逆相コラム(preparative)を利用した高速流体クロマトグラフィー分離法によって化合物を精製した。具体的に、10体積%のアセトニトリル/水から50体積%のアセトニトリル/水まで40分間にわたってアセトニトリルの組成を高める濃度勾配でC18逆相コラムを使用した高速流体クロマトグラフィーを行った。前記の結果、済州島彼岸花アルコール抽出物200gから各々3mg(収率:0.0015%)及び80mg(収率0.04%)の2種の化合物を精製した。
前記0.0015%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって301に決定し、核磁気共鳴器(Varian500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式2のように2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)と同定し(Ishizaki M.et al.J.Org.Chem 57:7285−7295,1992)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0064】
【化7】

【0065】
微黄色半固形性物質;分子式C17H19NO4;ESI−MS:m/z302[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ1.45(1H,dt,J=12.5,3.0Hz,H2−4)、2.12(1H,m,H2−4)、3.05(2H,m,H−12)、3.38(1H,d,J=2.5Hz,H−11)、3.43(3H,s,3−OMe)、3.45(1H,m,H−4a)、3.47(1H,m,H−2)、3.82(1H,d,J=16.5Hz,H−6)、4.05(1H,m,H−3)、4.31(1H,d,J=16.5Hz,H−6)、5.58(1H,m,H−10)、5.87 and 5.88(each 1H,d,J=1.0Hz,OCH2O)、6.53(1H,s,H−7)、6.61(1H,s,H−10)
【0066】
また、前記0.04%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって307に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式4のようにリコリシジノール(lycoricidinol)と同定し(Shanmugham Elango and Yu−Hsin Yan,J.Org.Chem67:6954−6959,2002)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0067】
【化8】

【0068】
微黄色半固形性物質;分子式C14H13NO7;ESI−MS:m/z308[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ3.91(1H,m,H−3)、3.92(1H,m,H−4)、4.24(1H,m,H−2)、4.36(1H,m,H−4a)、6.03 and 6.05(each 1H,d,J=1.0Hz,−OCH2O−)、6.18(1H,m,H−1)、6.75(1H,s,H−10).
【0069】
<実験例1>
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
【0070】
<1−1>済州島彼岸花エタノール抽出物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例1−1>で収得された済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)のベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、人間から由来したアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株をDMEM培養液(Cat.♯11995,Gibco,USA)で培養して使用した。この細胞株は、キム・テワン教授(Prof.Tae−Wan Kim,Department of Pathology,Columbia University Medical Center,New York,NY10032,USA)から提供を受けた。
前記細胞株が培養された細胞培養液に前記<実施例1−1>で収得された済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)を添加した後、8時間37℃で培養して、培養液に分泌されたベータアミロイド(β−amyloid)の量を測定した。より具体的に、前記ベータアミロイド、つまり2種類の類型のベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)を定量するために、Human β−Amyloid[1−40](Aβ40)、Human β−Amyloid[1−42](Aβ42)Colorimetric ELISAキットを各々使用した(♯KHB3482及び♯KHB3442;Bio Source International,Inc.,米国)。前記ベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を定量して、その結果を下記の表1及び図1に示した。この時、済州島彼岸花抽出物を添加しないものを陰性対照群とした。
【0071】
【表1】

【0072】
前記表1及び図1に示したように、済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)によってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0073】
<1−2>済州島彼岸花分画物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例1−2>で収得されたヘキサン分画物(CJ−1)、塩化メチレン分画物(CJ−2)、ブタノール分画物(CJ−3)、及び水分画物(CJ−4)を各々25μg/mlの量で前記<実験例1−1>と同様な方法で添加して、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成量を定量した後、その結果を表2及び図2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
前記表2及び図2に示したように、済州島彼岸花分画物(CJ−1、CJ−2、CJ−3、CJ−4)によってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が抑制されることが分かる。
また、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果が優れていると判断された済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を各々5、1、0.5、0.2、及び0.1μg/mlの濃度で添加して、追加的にベータアミロイド(Aβ42)の生成量を定量して、その結果を図3に示した。図3に示したように、済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)によってベータアミロイド(Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0076】
一方で、前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物(CJ−3−F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8)を10μg/mlの量で前記<実験例1−1>と同様な方法で添加して、ベータアミロイド(Aβ42)の生成量を定量した後、その結果を表3及び図4に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
前記表3及び図4に示したように、前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物によってベータアミロイド(Aβ42)の生成が抑制されることが分かる。
したがって、済州島彼岸花抽出物は、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を抑制することによって、これと関連する退行性神経疾患、例えば痴呆の予防、改善、及び/または治療に有用に適用されることが分かる。
【0079】
<実験例2>
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物または分画物の細胞死滅に及ぼす効果及び安定性の評価
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物または分画物が細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、公知のMTT Cell Proliferation assay方法(ATCC catalog♯30−1010K,Manassas,米国)を使用した。具体的に、多様な濃度の済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)及び済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を8時間にわたって細胞に処理した後で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表4、表5、及び図5に示した。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
前記表4、表5、及び図5に示したように、済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)を50μg/mlの濃度で投与した場合、30%以内の細胞だけが死滅し、済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を5μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅したことが分かる。
したがって、済州島彼岸花抽出物がベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を抑制することができるのは、単純に細胞の死滅によるものではないことが分かり、同時に、済州島彼岸花抽出物を多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、済州島彼岸花抽出物は生体に安全に使用されることが分かる。
【0083】
<実験例3>
化合物のベータアミロイドの生成抑制効果
【0084】
<3−1>ジヒドロリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果
前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でジヒドロリコリシジンの適用によるベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を下記の表6及び図6に示した。この時、ジヒドロリコリシジンを添加しないものを陰性対照群とした。
【0085】
【表6】

【0086】
前記表6及び図6に示したように、ジヒドロリコリシジンによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0087】
<3−2>2−メトキシパンクラシンのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−2>で収得された2−メトキシパンクラシンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法で2−メトキシパンクラシンの適用によるベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、5、1、0.5、0.2、0.1、0.05μg/mlの濃度の2−メトキシパンクラシンを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を図7に示した。この時、2−メトキシパンクラシンを添加しないものを陰性対照群とした。図7に示したように、2−メトキシパンクラシンによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0088】
<3−3>リコリシジンのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−1>で収得された本発明による化合物であるリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、1、0.1、0.01μg/mlの濃度のリコリシジンを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を表7、図8A、及び図8Bに示した。この時、リコリシジンを添加しないものを陰性対照群とした。
【0089】
【表7】

【0090】
前記表7、図8A、及び図8Bに示したように、リコリシジン及びリコリシジノールによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0091】
<3−4>リコリシジノールのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−2>で収得された本発明による化合物のリコリシジノールのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、1、0.1、0.01μg/mlの濃度のリコリシジノールを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を表8、図8A、及び図8Bに示した。この時、リコリシジノールを添加しないものを陰性対照群とした。
【0092】
【表8】

【0093】
前記表8、図8A、及び図8Bに示したように、リコリシジノールによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0094】
<実験例4>
化合物のベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果
前記<実験例3>においてベータアミロイドの生成が抑制される原因をより具体的に見てみることにした。前記ベータアミロイドは、アミロイド前駆体蛋白(APP)が膜蛋白加水分解酵素であるベータセクレターゼ(BACE1)及びガンマセクレターゼの連続的な作用によって生成される(Vassa and Citron,Neuron27,419−422,2000)。より具体的に、アミロイド前駆体(APP)がベータセクレターゼの作用によってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)が生成され、ガンマセクレターゼ作用によってベータアミロイドが生成される。
このような事実に基づいて、前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンがベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができるかを確認した。具体的に、前記<実験例3>と同様な方法を行うが、sAPPβを定量するために、sAPPβ−Wild Type Assay Kit(Immuno−Biological Laboratories Co.,Ltd.,日本)を使用した。得られた結果を表9及び図9に示した。この時、ジヒドロリコリシジンを投与しないものを陰性対照群とした。
【0095】
【表9】

【0096】
前記表9及び図9に示したように、ジヒドロリコリシジンによってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成が抑制されることが分かる。したがって、ジヒドロリコリシジンは、ベータセクレターゼの活性を抑制して、sAPPβの生成を減少させ、これによってベータアミロイドの生成が抑制されることが分かる。
【0097】
<実験例5>
化合物の細胞死滅に及ぼす効果及び安定性評価
【0098】
<5−1>ジヒドロリコリシジンの場合
前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<実験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を下記の表10及び図10に示した。
【0099】
【表10】

【0100】
前記表10及び図10に示したように、本発明による化合物を50μMの濃度で投与した場合、30%以内の細胞だけが死滅した。したがって、ジヒドロリコリシジンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、ジヒドロリコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、ジヒドロリコリシジンは生体に安全に使用されることが分かる。
【0101】
<5−2>2−メトキシパンクラシンの場合
前記<実施例2−2>で収得された2−メトキシパンクラシンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<実験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を図11に示した。
図11に示したように、2−メトキシパンクラシンを5μg/mlの濃度で投与した場合、10%以内の細胞だけが死滅した。したがって、2−メトキシパンクラシンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、2−メトキシパンクラシンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、2−メトキシパンクラシンは生体に安全に使用されることが分かる。
【0102】
<5−3>リコリシジンの場合
前記<実施例2−1>で収得されたリコリシジンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<試験例1>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表11及び図12に示した。
【0103】
【表11】

【0104】
前記表11及び図12に示したように、本発明による化合物を10μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅した。したがって、リコリシジンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、リコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、リコリシジンは薬学的組成物または食品組成物の有効成分として安全に使用されることが分かる。
【0105】
<5−4>リコリシジノールの場合
前記<実施例2−2>で収得されたリコリシジノールが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<試験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表12及び図13に示した。
【0106】
【表12】

【0107】
前記表12及び図13に示したように、本発明による化合物を10μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅した。したがって、リコリシジノールがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、リコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、リコシジノールは薬学的組成物または食品組成物の有効成分として安全に使用されることが分かる。
【0108】
前記で説明したように、本発明における済州島彼岸花抽出物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を効果的に抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。また、本発明の化合物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物またはこれから分離された化合物のベータアミロイドの生成抑制及び/または退行性神経疾患の予防、改善、及び/または治療における新規用途に関するものであって、より具体的には、済州島彼岸花抽出物及び/またはジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoricidine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)からなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物、退行性神経疾患の改善用健康機能性食品、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な退行性神経疾患の一つである痴呆(dementia)は、各種原因によって発生する脳細胞の損傷によって、正常であった記憶力、思考力、理解力、計算能力、学習能力、言語能力、及び判断力などの知能を含む脳機能が低下する症状をいう。老人性痴呆(senile dementia)は、老年による脳の退行性変化の結果として現れる老年性精神障害であって、65才前後から70才の老年期に主に発症する。
【0003】
特に、アルツハイマー病(Alzheimer´s disease)は、老人性痴呆の中でも最も多く発症している疾患で、ベータアミロイド(β−amyloid)の脳内蓄積及びそれによる神経毒性が発病の重要な原因として知られている。特に、ベータアミロイド(β−amyloid)は、蛋白質が脳に蓄積されて絡まるプラグを形成し、これによってアルツハイマー病が発病すると言われている。前記アルツハイマー病にかかると、脳の全般的な萎縮、脳室の拡張、神経原線維変化(neurofibrillary tangle)、及び老人斑(senile plaque)などの病理組織学的特徴が現れて、記憶力、判断力、及び言語能力などの指摘機能の減退及び行動様相障害が現れ、進行すると、うつ病などの精神医学的症状も伴う。また、このような症状が漸進的に進行して、発病後6乃至8年程度が経過すると、死に至ることもある。
【0004】
前記ベータアミロイド(β−amyloid)は、アミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が膜蛋白加水分解酵素であるベータセクレターゼ(BACE1)及びガンマセクレターゼの連続的な作用によって形成されると言われている。このようなベータアミロイド(β−amyloid)は、大きく二つの類型、つまり40個のアミノ酸からなるAβ40及び42個のアミノ酸からなるAβ42に分類することができる。ベータアミロイドは、Aβ40がその大部分を占めるが、相対的に少ないAβ42がプラグを容易に形成するため、最も重要な病因物質として注目されている。
【0005】
現在公知の代表的な痴呆治療剤としては、タクリン(tacrine;Cognex,1994)及びドネペジル(donepezil;Aricept,1996)が米国FDAの承認を受けて使用されている。前記薬品の作用機転は、中枢神経伝達系に中心的な役割を果たすアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエストラーゼ(AChE)酵素の活性抑制によって神経伝達物質であるアセチルコリンの濃度を増加させることによって、痴呆を予防及び治療するものであると言われている。しかし、前記タクリンは、効能に比べて価格が高く、深刻な肝毒性の問題があり、ドネペジルは、肝毒性はないが、副交感神経を刺激して、嘔吐、悪心、下痢などの多様な副作用の問題がある。また、前記薬品は、脳病変の改善のような原因的な治療のための薬品ではなく、記憶力減退などの痴呆の主要症状を緩和するための薬品にすぎないという問題がある。
【0006】
したがって、このような副作用がなく、原因的な治療が可能な、新たな形態の痴呆治療剤を開発するための研究が活発に進められている。そのうちの一つとして、アルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイド(β−amyloid)の生成を抑制する物質を開発しようとする努力が続けられているが、未だ効果的な治療剤は開発されていないのが実情である。
【0007】
一方、ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)は、スパイダーリリー類であるヒメノカリスリットラリス(Hymenocallis littoralis)、ヒメノカリスラティフォリア(Hymenocallis latifolia)などに含まれていて、主に抗ウイルス効果及び坑癌効果があることが報告されている。しかし、前記ジヒドロリコリシジンに痴呆の予防及び治療効果があることは全く知られていない。
【0008】
また、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)は、スパイダーリリー類であるヒメノカリス属(Hymenocallis sp.)植物に含まれていて、抗炎症、坑酸化、及び抗菌作用があることが知られているが、痴呆の予防及び治療効果があることは全く知られていない。
【0009】
また、リコリシジン(lycoricidine)及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、スイセン属植物(Narcissus)、リコリス属植物(Lycoris)、パンクラティウム属植物(Pancratium)、ハエマンサス属植物(Haemanthus)に存在することが報告されている。リコリシジン及びリコリシジノールは、抗ウイルス効果(Gabrielsen,B.et al.J.Nat.Prod.55:1569,1992)及び坑癌効果(Mondon,A.et al.Chem.Ber.108:445,1975)があることが知られているが、ベータアミロイドの生成抑制または痴呆(アルツハイマー)の予防及び治療に関する効果は報告されていない。
【0010】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)は、大韓民国済州道にだけ分布する白色のスイセン科植物であって、最近になって命名されたものである(Tae and Ko,Kor.J.Pl.Tax.23:233,1993)。済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)に対する化学分析的研究や生理活性及び臨床効果に対する研究は、未だ不十分であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、退行性神経疾患の治療効果が優れていて、副作用がなく、疾患の原因的治療まで可能な治療剤を開発することを課題とする。本発明者は、鋭意研究を行う過程で、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物またはこれから分離されたジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoricidine)、及び/またはリコリシジノール(lycoricidinol)がベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することによって、代表的な退行性神経疾患である痴呆の予防または治療において有効成分として使用が可能であることを確認して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の一側面は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を有効成分として含む退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物である。
【0013】
また他の側面は、下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、下記の化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)、下記の化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択された1種以上を有効成分として含む退行性神経疾患の予防及び/または治療用組成物である。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
また他の側面は、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を含む退行性神経疾患の予防及び/または改善用健康機能性食品である。
【0019】
また他の側面は、前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)、前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの塩を含む退行性神経疾患の予防及び/または改善用健康機能性食品である。
【0020】
また他の側面は、
(a)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、
(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び
(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10、好ましくは3〜7:10、より好ましくは5〜7:10(有機溶媒の体積:水の体積)の体積比で混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む、前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)または前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)の製造方法である。
【0021】
また他の側面は、
(a´)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、
(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び
(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で7.1〜15:10、好ましくは9〜15:10、より好ましくは11〜15:10、さらに好ましくは13〜15:10(有機溶媒の体積:水の体積)の体積比で混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む、前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)または前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明による済州島彼岸花抽出物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を効果的に抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。また、本発明の化合物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)の濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図2】済州島彼岸花分画物(CJ−1、CJ−2、CJ−3、CJ−4)のベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図3】済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)の濃度によるベータアミロイド(Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図4】済州島彼岸花ブタノール小分画物(CJ−3−F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、及びF8)のベータアミロイド(Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図5】済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)またはブタノール分画物(CJ−3)の細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図6】ジヒドロリコリシジンの添加濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図7】2−メトキシパンクラシンの濃度によるベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図8A】リコリシジン及びリコリシジノールの濃度によるベータアミロイド(Aβ40:8a)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図8B】リコリシジン及びリコリシジノールの濃度によるベータアミロイド(Aβ42:8b)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図9】ジヒドロリコリシジンの濃度によるベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果を測定したグラフである。
【図10】ジヒドロリコリシジンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図11】2−メトキシパンクラシンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図12】リコリシジンの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図13】リコリシジノールの濃度による細胞死滅に及ぼす効果を測定したグラフである。
【図14】済州島彼岸花抽出物ブタノール小分画物中のアセトン及び水の体積比率を4:6にした場合に収得された分画物のHPLCクロマトグラムである。
【図15】済州島彼岸花抽出物ブタノール小分画物中のアセトン及び水の体積比率を6:4にした場合に収得された分画物のHPLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、これに限定されないが、済州島彼岸花の球根または根を利用して、当業界に公知の通常の抽出方法によって製造され得る。例えば、前記抽出方法は、加熱抽出法、超音波抽出法、ろ過法、加圧抽出法、還流抽出法、超臨界抽出法、電気的抽出法など、通常使用される全ての抽出方法がある。また、必要な場合には、前記抽出後に、当業界に公知の通常の濃縮及び/または凍結乾燥方法を追加的に行ってもよい。
【0025】
前記済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上、例えば70乃至100%(v/v)のC1乃至C4の低級アルコールと30乃至0%の水を抽出溶媒として使用して抽出して製造することができる。前記抽出溶媒は、済州島彼岸花の体積の1乃至5体積倍で使用されるが、これに限定されず、抽出時間は、1乃至12時間、好ましくは2〜5時間であるが、これに限定されない。
【0026】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、好ましくは、(i)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出した後、(ii)水、ヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出することによって製造されるものである。例えば、前記C1乃至C4の低級アルコールはブタノールであるが、これに限定されない。
【0027】
また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、最も好ましくは、(iii)前記(ii)段階で製造された抽出物にアセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を添加して追加的に抽出することによって製造されるものである。より好ましくは、前記済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物は、前記(ii)段階で製造された抽出物にアセトン及び水の混合溶媒を添加して抽出し、前記混合溶媒中のアセトン及び水の混合比は体積基準で1:4乃至4:1(アセトンの体積:水の体積)であるのが好ましいが、これに限定されない。
【0028】
本発明の一実施例において、済州島彼岸花の球根にエタノールを添加して減圧濃縮して、エタノール抽出物を製造することができる(<実施例1−1>参照)。また、前記製造された済州島彼岸花エタノール抽出物に水、ヘキサン、塩化メチレン、ブタノールを各々添加して追加的に抽出することによって、ヘキサン分画物、塩化メチレン分画物、ブタノール分画物、そして水分画物を製造することができる(<実施例1−2>参照)。また、前記製造された分画物のうち、アミロイドの生成抑制効果が最も優れていることが明らかになったブタノール分画物にアセトン、水、またはアセトン及び水の混合溶媒を使用して、ブタノール小分画物(subfraction)を製造することができる(<実施例1−2>参照)。
【0029】
前記有効成分であるところの、ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoridine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、そのものまたは塩の形態で使用される。前記塩としては、薬学的に許容可能な塩である、遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が好ましい。前記遊離酸としては、有機酸及び無機酸を使用することができる。前記有機酸は、薬学的に許容可能な全ての有機酸であり、例えばクエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、蟻酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、グルコン酸、メタスルホン酸、グリコール酸、琥珀酸、4−トルエンスルホン酸、グルタン酸、アスパルト酸などがあるが、これに制限されない。また、前記無機酸は、薬学的に許容可能な全ての無機酸であり、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、燐酸などがあるが、これに制限されない。
【0030】
本発明による前記ジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、リコリシジン(lycoridine)、及びリコリシジノール(lycoricidinol)は、当業界に公知の抽出及び分離方法によって前記化合物が含まれている天然物から分離されたり、当業界に公知の合成方法によって化学的に合成して製造される。また、済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)の全草から抽出及び分離して製造することもできる。
【0031】
一方で、本発明の一実験例では、前記済州島彼岸花エタノール抽出物をアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株に投与した結果、ベータアミロイドの生成が効果的に抑制されることを確認した(<実験例1−1>参照)。また、前記済州島彼岸花ヘキサン分画物、塩化メチレン分画物、ブタノール分画物、及び水分画物でも前記と同様な結果を確認した(<実験例1−2>参照)。また、前記済州島彼岸花ブタノール小分画物でも前記と同様な結果を確認した(<実験例1−2>参照)。
【0032】
また、本発明の一実験例では、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールをアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株に投与した結果、ベータアミロイドの生成が効果的に抑制されることを確認した(<実験例3>参照)。
【0033】
また、本発明の一実験例では、前記ベータアミロイドの生成が抑制される原因をより具体的に見てみるために、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成程度を測定した結果、ジヒドロリコリシジンによってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成が抑制されることを確認した。したがって、前記ジヒドロリコリシジンは、ベータセクレターゼの活性を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を減少させ、これによってベータアミロイドの生成が抑制されることが分かる(<実験例4>参照)。
【0034】
このように、済州島彼岸花抽出物及びこれから分離されたジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールは、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を効果的に抑制することができる活性を有し、これと関連した疾患の予防または治療用薬学的組成物の有効成分として使用される。
【0035】
前記退行性神経疾患は、神経、特に脳神経の退行によって発症する全ての疾患を含み、例えば痴呆(dementia)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ピック病(Pick’s Disease)、及びパーキンス−ALS(amyotrophic lateral sclerosis)−痴呆複合症などからなる群から選択された1種以上である。本発明の具体的な例で、前記退行性神経疾患は、痴呆、特にアルツハイマー病である。
【0036】
本発明の組成物内の有効成分としての済州島彼岸花抽出物、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及び/またはリコリシジノールの含有量は、使用形態、使用目的、患者の状態、疾患の種類、及び疾患の程度などによって適切に調節することができ、組成物重量基準で0.001乃至99.9質量%、好ましくは0.1乃至50質量%であるが、これに限定されない。この時、済州島彼岸花抽出物の含有量は、固形分重量基準で示されたものであり、前記固形分重量は、抽出物中の溶媒成分を除去して残った成分の重量を意味する。
【0037】
本発明の組成物は、人間を含む哺乳動物に多様な経路で投与される。投与方式は、通常使用される全ての方式であり、例えば経口、直腸または静脈、筋肉、皮下、子宮内頚膜、または脳血管内(intracerebroventricular)注射によって投与される。本発明の薬学的組成物は、各々通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、経皮剤、座薬、及び滅菌注射用液などの非経口型剤形などに剤形化されて使用される。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、または前記済州島彼岸花抽出物以外に、薬学的に適切で生理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などの補助剤を追加的に含むことができる。本発明の組成物に含まれる担体、賦形剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストローズ、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、鉱物油などがある。本発明の組成物を製剤化する際には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤、賦形剤などを使用することができる。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などがあり、このような固形製剤は、前記有効成分以外に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)、またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤されたものである。また、単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクなどの潤滑剤を使用してもよい。経口投与のための液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、油剤、シロップ剤などがあり、通常使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン、及び/または多様な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含むものである。非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、油剤、凍結乾燥製剤、座薬、経皮剤などがある。非水性溶剤または懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレエートなどの注射可能なエステルなどを使用することができる。座薬の基剤としては、ハードファット(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0039】
本発明の組成物の投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態、及び疾患の程度により異なり、医師または薬剤師の判断によって一定の時間間隔で1日1回乃至数回にわたって分割投与する。例えば、有効成分含有量を基準にして1日の投与量が0.5乃至50mg/kg、好ましくは1乃至30mg/kgである。前記投与量は、平均的な場合を例示したものであって、個人差によってその投与量が多くても少なくてもよい。本発明の薬学的組成物の1日の投与量が前記投与量未満である場合には、有意性ある効果を得ることができず、それを超える場合には、非経済的であるばかりか、常用量の範囲を逸脱して好ましくない副作用が発生する恐れがあるので、前記範囲にするのが好ましい。
【0040】
前記で、患者とは、人間を含む哺乳動物を意味し、退行性神経疾患、例えば痴呆、特にアルツハイマー病の治療が必要な人間を意味する。
【0041】
また、本発明の健康機能性食品は、退行性神経疾患の予防及び/または改善効果がある各種食品(functional food)、栄養補助剤(nutritional supplement)、食品添加剤(food additives)などの全ての形態の食品を含む。前記類型の食品組成物は、当業界に公知の通常の方法によって多様な形態に製造される。
【0042】
例えば、前記食品としては、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物そのものを茶、ジュース、及びドリンクの形態に製造して飲用するようにしたり、顆粒化、カプセル化、及び粉末化して摂取するようにしたものがある。また、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物を痴呆改善効果があると言われている公知の活性成分と共に混合した組成物の形態であってもよい。また、前記食品は、飲み物(アルコール性飲料を含む)、果物及びその加工食品(例:果物の缶詰め、瓶詰め、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類、及びその加工食品(例:ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類、麺類(例:ウドン、蕎麦、ラーメン、スパゲッティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例:バター、チーズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性蛋白質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例:味噌、醤油、ソースなど)などにジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、及び/または済州島彼岸花抽出物を添加して製造されたものであってもよい。
【0043】
前記食品添加剤は、ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物を粉末または濃縮液の形態で含むものである。
【0044】
本発明の食品中のジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または済州島彼岸花抽出物の含有量は、最終食品の形態、用途、及び使用目的によって適切に調節することができ、例えば食品100g当たり約0.001〜20gであるが、これに制限されない。本発明におけるジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、及び/または前記済州島彼岸花抽出物を含む食品は、退行性神経疾患、特に痴呆の改善効果があると言われている他の活性成分と共に混合して製造されてもよい。
【0045】
前記ベータアミロイドの生成抑制効果を有する済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物の製造方法は、(i)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;及び、任意的に(ii)前記(i)段階で収得された抽出物を水、ヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出する段階;及び、任意的に(iii)前記(ii)段階で製造された抽出物を、アセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を添加して追加的に抽出する段階;を含む。
【0046】
前記化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)または前記化学式3で示されるリコリシジン(lycoricidine)の製造方法は、(a)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及び有機溶媒からなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む。
【0047】
前記化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)または前記化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)の製造方法は、(a´)済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)を水及び有機溶媒からなる群より選択された1種以上を使用して抽出する段階、(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された一種以上を使用して追加的に抽出する段階、及び(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積比で7.1〜15:10に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階を含む。
【0048】
具体的に、前記(a)または(a´)段階で、済州島彼岸花の全草を利用して、当業界に公知の抽出方法によって、済州島彼岸花抽出物を製造することができる。前記抽出方法は、例えば加熱抽出法、超音波抽出法、ろ過法、加圧抽出法、還流抽出法、超臨界抽出法、及び電気的抽出法など、通常使用される抽出方法である。また、必要な場合には、前記抽出後に、当業界に公知の濃縮または凍結乾燥方法を追加的に行ってもよい。前記(a)または(a´)段階で、有機溶媒はC1乃至C4の低級アルコールであるのが好ましいが、これに限定されない。前記水または有機溶媒は、済州島彼岸花の体積の1乃至5体積倍で使用するのが好ましいが、これに制限されず、抽出時間は、1乃至12時間、好ましくは2〜5時間であるが、これに制限されない。
【0049】
前記(b)または(b´)段階で、前記(a)または(a´)段階で製造された抽出物に水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出することによって、各溶媒に応じた分画物を製造することができる。前記C1乃至C4の低級アルコールはブタノールであるのが好ましいが、これに制限されない。
【0050】
前記(c)または(c´)段階で行われる逆相コラムクロマトグラフィーは、例えばHP20逆相コラムクロマトグラフィー及びC18逆相コラムクロマトグラフィーを順次に行うことができるが、これに制限されない。例えば、前記(b)または(b´)段階で製造された抽出物にアセトニトリル、メタノール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上を溶離液として使用して、アセトニトリル、メタノール、またはアセトンの濃度を変化させながらHP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。
【0051】
より具体的に、前記ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で3〜7:10にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができ、前記2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で7.1〜15:10にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。好ましくは、前記ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で1:1.5にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができ、前記2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールを製造するために、アセトン及び水の混合比を体積比で1:0.67にして、HP20逆相コラムクロマトグラフィーを行うことができる。
【0052】
その後、順次にC18逆相コラムクロマトグラフィーを行うことによって、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、またはリコリシジノールを製造することができる。より好ましくは、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、アセトニトリルの濃度を変化させながらC18逆相コラムクロマトグラフィーを行うことによって、前記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、及びリコリシジノールを製造することができる。
【0053】
上記ジヒドロリコリシジン、2−メトキシパンクラシン、リコリシジン、リコリシジノール、または済州島彼岸花抽出物は、ベータアミロイドの生成抑制効果が優れていて、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果が優れているので、ベータアミロイド及びベータセクレターゼ産物(sAPPβ)によって誘導される神経細胞毒性及びこれによって誘発される退行性神経疾患の予防及び/または治療に効果的に使用される。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されるわけではない。
【実施例1】
【0055】
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物の製造
<1−1>済州島彼岸花エタノール抽出物の製造
済州道で採集した済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)の球根を乾燥して収得された試料590gを細切りした後、抽出容器に入れて、95%(v/v)のエタノールを前記試料の体積の2体積倍で加えた後、3時間還流抽出し、常温で冷却してろ過した。前記ろ過された抽出液を溶媒が完全に蒸発するまで減圧下で40℃で濃縮して、エタノール抽出物200g(以下、「CJ」とする)を収得した(収率:33.9%)。
【0056】
<1−2>済州島彼岸花分画物の製造
前記<実施例1−1>で製造した済州島彼岸花エタノール抽出物200gを水1Lに懸濁した後、ヘキサン、塩化メチレン、及びブタノール各1Lを各々2回ずつ順次に加えて溶媒分画することによって、ヘキサン分画物1g(以下、「CJ−1」とする)、塩化メチレン分画物1g(以下、「CJ−2」とする)、ブタノール分画物5.5g(以下、「CJ−3」とする)、そして水分画物192g(以下、「CJ−4」とする)を収得した。
前記収得された済州島彼岸花ブタノール分画物5.5gをアセトン、水、またはアセトン及び水の混合溶媒を利用して済州島彼岸花ブタノール小分画物を製造した。具体的に、アセトン、水、またはアセトン及び水の比率を0:10(水単独)、2:8、4:6、6:4、8:2、及び10:0(アセトン単独)の体積比に変化させながら、固定相としてHP−20を200g使用した逆相クロマトグラフィーを行うことによって、8種の済州島彼岸花ブタノール小分画物[以下、CJ−3−F1(水単独、400ml)、CJ−3−F2(アセトン:水=2:8、400ml)、CJ−3−F3(アセトン:水=4:6、前半部200ml)、CJ−3−F4(アセトン:水=4:6、後半部200ml)、CJ−3−F5(アセトン:水=6:4、前半部200ml)、CJ−3−F6(アセトン:水=6:4、後半部200ml)、CJ−3−F7(アセトン:水=8:2、400ml)、CJ−3−F8(アセトン単独、400ml)とする]を収得した。
【実施例2】
【0057】
済州島彼岸花抽出物からの化合物の分離及び同定
<2−1>ジヒドロリコリシジンまたはリコリシジンの分離及び同定
前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物のうち、アセトン及び水の比率を4:6(アセトンの体積:水の体積; CJ-3-F3+CJ-3-F4)体積比にした場合に収得された分画物のHPLC クロマトグラム(UV波長210nm、移動相10体積%のアセトニトリル/水〜20体積%のアセトニトリル/水、20分, for analysis)の結果を図14に示した。図14に示したように、前記分画物にジヒドロリコリシジン及びリコリシジンが含まれていることを確認した。
前記<実施例1−2>において、アセトン及び水の比率を体積基準で4:6にしたブタノール小分画物を減圧濃縮した後、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、C18逆相コラム(preparative)を利用した高速流体クロマトグラフィー分離法によって化合物を精製した。具体的に、10体積%のアセトニトリル/水から20体積%のアセトニトリル/水まで40分間にわたってアセトニトリルの組成を高める濃度勾配でC18逆相コラムを利用した高速流体クロマトグラフィーを行った。前記の結果、済州島彼岸花アルコール抽出物200gから各々10mg(収率:0.005%)及び40mg(収率0.02%)の2種の化合物を精製した。
前記0.005%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって293に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H及び13C−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式1のようにジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)と同定し(George R.T.及びNoeleen M.J.Nat.Prod 68:207−211,2005)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0058】
【化5】

【0059】
微黄色半固形性物質;分子式C14H15NO6;ESI−MS:m/z294[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ1.86(1H,td,J=13.0,3.0Hz,H−1ax)、2.27(1H,dt,J=13.0,3.0Hz,H−1eq)、3.07(1H,td,J=13.0,3.0Hz,H−10b)、3.49(1H,dd,J=13.0,10.0Hz,H−2)、3.89(1H,dd,J=10.0,3.0Hz,H−3)、3.92(1H,dd,J=3.0,3.0Hz,H−4)、4.10(1H,dt,J=3.0,3.0Hz,H−4a)、6.03 and 6.05(each 1H,d,J=1.5Hz,OCH2O)、6.90(1H,br s,H−10)、7.40(1H,s,H−7).Exchangeable Proton Signal(500MHz,DMSO−d6)δ7.30(1H,br s,NH)、5.00(1H,br s,OH)、4.58(1H,br s,OH)、4.56(1H,br s,OH);13C NMR(125MHz,DMSO−d6):δ30.3(C−1)、32.7(C−10b)、58.2(C−4a)、69.3(C−2)、70.2(C−3)、74.0(C−4)、102.5(OCH2O)、104.9(C−10)、107.2(C−7)、124.5(C−6a)、138.8(C−10a)、146.5(C−8)、151.0(C−9)、165.0(C−6).
【0060】
また、前記0.02%の収率で収得した本発明の化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって291に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式3のようにリコリシジン(lycoricidine)と同定し(George R.Tettit and Joy A.Bell,J.Nat.Prod 69:7−13,2006)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0061】
【化6】

【0062】
微黄色半固形性物質;分子式C14H13NO6;ESI−MS:m/z292[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ3.92(1H,m,H−3)、3.94(1H,m,H−4)、4.26(1H,ddd,J=4.5,2.0,1.5Hz,H−2)、4.40(1H,ddt,J=9.5,2.5,1.0Hz,H−4a)、6.06 and 6.08(each 1H,d,J=1.0Hz,−OCH2O−)、6.18(1H,m,H−1)、7.17(1H,s,H−10)、7.40(1H,s,H−7).
【0063】
<2−2>2−メトキシパンクラシンまたはリコリシジノールの分離及び同定
前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物のうち、アセトン及び水の比率を6:4(アセトンの体積:水の体積; CJ-3-F5+CJ-3-F6)体積比にした場合に収得された分画物のHPLC クロマトグラム(UV波長210nm、移動相10%(w/v)のアセトニトリル/水〜20%(w/v)のアセトニトリル/水、20分)を図15に示した。図15に示したように、前記分画物に2−メトキシパンクラシン及びリコリシジノールが含まれていることを確認した。
前記<実施例1−2>において、アセトン及び水の比率を6:4にしたブタノール小分画物を減圧濃縮した後、アセトニトリル(0.02体積%のトリフルオロ酢酸を含む)及び水の混合溶液を溶離液として使用して、C18逆相コラム(preparative)を利用した高速流体クロマトグラフィー分離法によって化合物を精製した。具体的に、10体積%のアセトニトリル/水から50体積%のアセトニトリル/水まで40分間にわたってアセトニトリルの組成を高める濃度勾配でC18逆相コラムを使用した高速流体クロマトグラフィーを行った。前記の結果、済州島彼岸花アルコール抽出物200gから各々3mg(収率:0.0015%)及び80mg(収率0.04%)の2種の化合物を精製した。
前記0.0015%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって301に決定し、核磁気共鳴器(Varian500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式2のように2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)と同定し(Ishizaki M.et al.J.Org.Chem 57:7285−7295,1992)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0064】
【化7】

【0065】
微黄色半固形性物質;分子式C17H19NO4;ESI−MS:m/z302[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ1.45(1H,dt,J=12.5,3.0Hz,H2−4)、2.12(1H,m,H2−4)、3.05(2H,m,H−12)、3.38(1H,d,J=2.5Hz,H−11)、3.43(3H,s,3−OMe)、3.45(1H,m,H−4a)、3.47(1H,m,H−2)、3.82(1H,d,J=16.5Hz,H−6)、4.05(1H,m,H−3)、4.31(1H,d,J=16.5Hz,H−6)、5.58(1H,m,H−10)、5.87 and 5.88(each 1H,d,J=1.0Hz,OCH2O)、6.53(1H,s,H−7)、6.61(1H,s,H−10)
【0066】
また、前記0.04%の収率で収得した化合物の構造を同定するために、NMR分析及び質量分析を行った。
具体的に、分子量は、Agilent 1100高速流体クロマトグラフィー質量分光計(HPLC−ESI−MS)を利用したMS測定によって307に決定し、核磁気共鳴器(Varian 500MHz NMR)を利用した1H−NMRスペクトル(spectrum)分析によって化合物の構造を下記の化学式4のようにリコリシジノール(lycoricidinol)と同定し(Shanmugham Elango and Yu−Hsin Yan,J.Org.Chem67:6954−6959,2002)、具体的な分析結果は下記の通りである。
【0067】
【化8】

【0068】
微黄色半固形性物質;分子式C14H13NO7;ESI−MS:m/z308[M+H]+;1H NMR(500MHz,CD3OD):δ3.91(1H,m,H−3)、3.92(1H,m,H−4)、4.24(1H,m,H−2)、4.36(1H,m,H−4a)、6.03 and 6.05(each 1H,d,J=1.0Hz,−OCH2O−)、6.18(1H,m,H−1)、6.75(1H,s,H−10).
【0069】
<実験例1>
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
【0070】
<1−1>済州島彼岸花エタノール抽出物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例1−1>で収得された済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)のベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、人間から由来したアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein、APP)が形質感染(transfection)されたHeLa細胞株をDMEM培養液(Cat.♯11995,Gibco,USA)で培養して使用した。この細胞株は、キム・テワン教授(Prof.Tae−Wan Kim,Department of Pathology,Columbia University Medical Center,New York,NY10032,USA)から提供を受けた。
前記細胞株が培養された細胞培養液に前記<実施例1−1>で収得された済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)を添加した後、8時間37℃で培養して、培養液に分泌されたベータアミロイド(β−amyloid)の量を測定した。より具体的に、前記ベータアミロイド、つまり2種類の類型のベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)を定量するために、Human β−Amyloid[1−40](Aβ40)、Human β−Amyloid[1−42](Aβ42)Colorimetric ELISAキットを各々使用した(♯KHB3482及び♯KHB3442;Bio Source International,Inc.,米国)。前記ベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を定量して、その結果を下記の表1及び図1に示した。この時、済州島彼岸花抽出物を添加しないものを陰性対照群とした。
【0071】
【表1】

【0072】
前記表1及び図1に示したように、済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)によってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0073】
<1−2>済州島彼岸花分画物のベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例1−2>で収得されたヘキサン分画物(CJ−1)、塩化メチレン分画物(CJ−2)、ブタノール分画物(CJ−3)、及び水分画物(CJ−4)を各々25μg/mlの量で前記<実験例1−1>と同様な方法で添加して、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成量を定量した後、その結果を表2及び図2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
前記表2及び図2に示したように、済州島彼岸花分画物(CJ−1、CJ−2、CJ−3、CJ−4)によってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が抑制されることが分かる。
また、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成抑制効果が優れていると判断された済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を各々5、1、0.5、0.2、及び0.1μg/mlの濃度で添加して、追加的にベータアミロイド(Aβ42)の生成量を定量して、その結果を図3に示した。図3に示したように、済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)によってベータアミロイド(Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0076】
一方で、前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物(CJ−3−F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8)を10μg/mlの量で前記<実験例1−1>と同様な方法で添加して、ベータアミロイド(Aβ42)の生成量を定量した後、その結果を表3及び図4に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
前記表3及び図4に示したように、前記<実施例1−2>で収得されたブタノール小分画物によってベータアミロイド(Aβ42)の生成が抑制されることが分かる。
したがって、済州島彼岸花抽出物は、ベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を抑制することによって、これと関連する退行性神経疾患、例えば痴呆の予防、改善、及び/または治療に有用に適用されることが分かる。
【0079】
<実験例2>
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物または分画物の細胞死滅に及ぼす効果及び安定性の評価
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物または分画物が細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、公知のMTT Cell Proliferation assay方法(ATCC catalog♯30−1010K,Manassas,米国)を使用した。具体的に、多様な濃度の済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)及び済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を8時間にわたって細胞に処理した後で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表4、表5、及び図5に示した。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
前記表4、表5、及び図5に示したように、済州島彼岸花エタノール抽出物(CJ)を50μg/mlの濃度で投与した場合、30%以内の細胞だけが死滅し、済州島彼岸花ブタノール分画物(CJ−3)を5μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅したことが分かる。
したがって、済州島彼岸花抽出物がベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成を抑制することができるのは、単純に細胞の死滅によるものではないことが分かり、同時に、済州島彼岸花抽出物を多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、済州島彼岸花抽出物は生体に安全に使用されることが分かる。
【0083】
<実験例3>
化合物のベータアミロイドの生成抑制効果
【0084】
<3−1>ジヒドロリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果
前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でジヒドロリコリシジンの適用によるベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を下記の表6及び図6に示した。この時、ジヒドロリコリシジンを添加しないものを陰性対照群とした。
【0085】
【表6】

【0086】
前記表6及び図6に示したように、ジヒドロリコリシジンによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0087】
<3−2>2−メトキシパンクラシンのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−2>で収得された2−メトキシパンクラシンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法で2−メトキシパンクラシンの適用によるベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、5、1、0.5、0.2、0.1、0.05μg/mlの濃度の2−メトキシパンクラシンを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を図7に示した。この時、2−メトキシパンクラシンを添加しないものを陰性対照群とした。図7に示したように、2−メトキシパンクラシンによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0088】
<3−3>リコリシジンのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−1>で収得された本発明による化合物であるリコリシジンのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、1、0.1、0.01μg/mlの濃度のリコリシジンを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を表7、図8A、及び図8Bに示した。この時、リコリシジンを添加しないものを陰性対照群とした。
【0089】
【表7】

【0090】
前記表7、図8A、及び図8Bに示したように、リコリシジン及びリコリシジノールによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0091】
<3−4>リコリシジノールのベータアミロイド(β−amyloid)の生成抑制効果
前記<実施例2−2>で収得された本発明による化合物のリコリシジノールのベータアミロイドの生成抑制効果を調べるために、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定した。具体的に、10、1、0.1、0.01μg/mlの濃度のリコリシジノールを添加して、8時間培養した後、培養液を回収して、前記<実験例1−1>と同様な方法でベータアミロイド(β−amyloid)の生成量を測定して、その結果を表8、図8A、及び図8Bに示した。この時、リコリシジノールを添加しないものを陰性対照群とした。
【0092】
【表8】

【0093】
前記表8、図8A、及び図8Bに示したように、リコリシジノールによってベータアミロイド(Aβ40、Aβ42)の生成が濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0094】
<実験例4>
化合物のベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成抑制効果
前記<実験例3>においてベータアミロイドの生成が抑制される原因をより具体的に見てみることにした。前記ベータアミロイドは、アミロイド前駆体蛋白(APP)が膜蛋白加水分解酵素であるベータセクレターゼ(BACE1)及びガンマセクレターゼの連続的な作用によって生成される(Vassa and Citron,Neuron27,419−422,2000)。より具体的に、アミロイド前駆体(APP)がベータセクレターゼの作用によってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)が生成され、ガンマセクレターゼ作用によってベータアミロイドが生成される。
このような事実に基づいて、前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンがベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができるかを確認した。具体的に、前記<実験例3>と同様な方法を行うが、sAPPβを定量するために、sAPPβ−Wild Type Assay Kit(Immuno−Biological Laboratories Co.,Ltd.,日本)を使用した。得られた結果を表9及び図9に示した。この時、ジヒドロリコリシジンを投与しないものを陰性対照群とした。
【0095】
【表9】

【0096】
前記表9及び図9に示したように、ジヒドロリコリシジンによってベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成が抑制されることが分かる。したがって、ジヒドロリコリシジンは、ベータセクレターゼの活性を抑制して、sAPPβの生成を減少させ、これによってベータアミロイドの生成が抑制されることが分かる。
【0097】
<実験例5>
化合物の細胞死滅に及ぼす効果及び安定性評価
【0098】
<5−1>ジヒドロリコリシジンの場合
前記<実施例2−1>で収得されたジヒドロリコリシジンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<実験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を下記の表10及び図10に示した。
【0099】
【表10】

【0100】
前記表10及び図10に示したように、本発明による化合物を50μMの濃度で投与した場合、30%以内の細胞だけが死滅した。したがって、ジヒドロリコリシジンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、ジヒドロリコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、ジヒドロリコリシジンは生体に安全に使用されることが分かる。
【0101】
<5−2>2−メトキシパンクラシンの場合
前記<実施例2−2>で収得された2−メトキシパンクラシンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<実験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を図11に示した。
図11に示したように、2−メトキシパンクラシンを5μg/mlの濃度で投与した場合、10%以内の細胞だけが死滅した。したがって、2−メトキシパンクラシンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、2−メトキシパンクラシンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、2−メトキシパンクラシンは生体に安全に使用されることが分かる。
【0102】
<5−3>リコリシジンの場合
前記<実施例2−1>で収得されたリコリシジンが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<試験例1>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表11及び図12に示した。
【0103】
【表11】

【0104】
前記表11及び図12に示したように、本発明による化合物を10μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅した。したがって、リコリシジンがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、リコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、リコリシジンは薬学的組成物または食品組成物の有効成分として安全に使用されることが分かる。
【0105】
<5−4>リコリシジノールの場合
前記<実施例2−2>で収得されたリコリシジノールが細胞死滅(cell death)に及ぼす効果を測定するために、前記<試験例2>と同様な方法で生存細胞(viable cell)を定量して、その結果を表12及び図13に示した。
【0106】
【表12】

【0107】
前記表12及び図13に示したように、本発明による化合物を10μg/mlの濃度で投与した場合、20%以内の細胞だけが死滅した。したがって、リコリシジノールがベータアミロイドの生成を抑制することができるのは、単純に細胞死滅によるものではないことが分かり、同時に、リコリシジンを多量に服用するとしても、細胞毒性が微弱であるので、リコシジノールは薬学的組成物または食品組成物の有効成分として安全に使用されることが分かる。
【0108】
前記で説明したように、本発明における済州島彼岸花抽出物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を効果的に抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。また、本発明の化合物は、痴呆、特にアルツハイマー病の原因物質として知られているベータアミロイドの生成を抑制して、ベータセクレターゼ産物(sAPPβ)の生成を抑制することができ、これを有効成分として含む本発明の組成物は、痴呆の予防または治療に効果的に使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防または治療用組成物。
【請求項2】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものを、水、ヘキサン、 酢酸エチル、 塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して追加的に抽出して収得されたものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものを、水、ヘキサン、 酢酸エチル、 塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して追加的に抽出して収得されたものを、アセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上の溶媒を使用してさらに追加的に抽出して収得されたものである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、下記の化学式3で示されるリコリシジン(lycoridine)、及び下記の化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択された1種以上を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防または治療用組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項6】
前記退行性神経疾患は、痴呆、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びパーキンス−ALS−痴呆複合症などからなる群より選択された1種以上である、請求項1乃至請求項5のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物を含む、退行性神経疾患の予防または改善用健康機能性食品。
【請求項8】
(a)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;
(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出する段階;及び
(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10(有機溶媒の体積:水の体積)に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階;を含む、下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジンまたは化学式3で示されるリコリシジンの製造方法。
【化5】

【化6】

【請求項9】
(a´)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;
(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階;及び
(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で7.1〜15:10(有機溶媒の体積:水の体積)に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階;を含む、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシンまたは化学式4で示されるリコリシジノールの製造方法。
【化7】

【化8】

【請求項1】
済州島彼岸花(Lycoris chejuensis)抽出物を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防または治療用組成物。
【請求項2】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものを、水、ヘキサン、 酢酸エチル、 塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して追加的に抽出して収得されたものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記済州島彼岸花抽出物は、水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して抽出して収得されたものを、水、ヘキサン、 酢酸エチル、 塩化メチレン、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の溶媒を使用して追加的に抽出して収得されたものを、アセトニトリル、C1乃至C4の低級アルコール、アセトン、及び水からなる群より選択された1種以上の溶媒を使用してさらに追加的に抽出して収得されたものである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジン(dihydrolycoricidine)、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシン(2−methoxypancracine)、下記の化学式3で示されるリコリシジン(lycoridine)、及び下記の化学式4で示されるリコリシジノール(lycoricidinol)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択された1種以上を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防または治療用組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項6】
前記退行性神経疾患は、痴呆、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びパーキンス−ALS−痴呆複合症などからなる群より選択された1種以上である、請求項1乃至請求項5のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物を含む、退行性神経疾患の予防または改善用健康機能性食品。
【請求項8】
(a)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;
(b)前記(a)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して追加的に抽出する段階;及び
(c)前記(b)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で1〜7:10(有機溶媒の体積:水の体積)に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階;を含む、下記の化学式1で示されるジヒドロリコリシジンまたは化学式3で示されるリコリシジンの製造方法。
【化5】

【化6】

【請求項9】
(a´)済州島彼岸花を水及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上の抽出溶媒を使用して抽出する段階;
(b´)前記(a´)段階で製造された抽出物を、水、ヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、及びC1乃至C4の低級アルコールからなる群より選択された1種以上を使用して追加的に抽出する段階;及び
(c´)前記(b´)段階で製造された抽出物について、アセトニトリル、メタノール、及びアセトンからなる群より選択された1種以上の有機溶媒及び水を体積基準で7.1〜15:10(有機溶媒の体積:水の体積)に混合した溶媒を使用して逆相コラムクロマトグラフィーを行う段階;を含む、下記の化学式2で示される2−メトキシパンクラシンまたは化学式4で示されるリコリシジノールの製造方法。
【化7】

【化8】

【図5】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図6】


【図7】


【図8A】


【図8B】


【図9】




【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図6】


【図7】


【図8A】


【図8B】


【図9】


【公開番号】特開2010−202635(P2010−202635A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244257(P2009−244257)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(591074116)韓国科学技術研究院 (17)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF SCIENCE AND TECNOLOGY
【住所又は居所原語表記】39−1 Hawolgok−dong,Seongbuk−gu,Seoul 136−791KOREA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(591074116)韓国科学技術研究院 (17)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF SCIENCE AND TECNOLOGY
【住所又は居所原語表記】39−1 Hawolgok−dong,Seongbuk−gu,Seoul 136−791KOREA
【Fターム(参考)】
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