説明

減衰バルブ

【課題】弁体の発振を抑制して緩衝器に安定した減衰力を発生させることができる減衰バルブを提供することである。
【解決手段】本発明の課題解決手段は、環状弁座4を備えた弁孔3と、弁孔3内に軸方向移動自在に挿入される弁体5と、弁孔3内に固定されるばね座10と、弁体5とばね座10との間に介装されたコイルばね6とを備えた減衰バルブ1において、弁孔3内に収容されて内方に弁体5を収容して弁孔内周との間にポート11に通じる環状隙間Aを形成する筒状のカラー7を設け、カラー7が弁体5の外周に径方向で対向する透孔7eを備え、透孔7eと弁体5とで可変絞りを形成し、弁体5の環状弁座4からの離間で可変絞りの流路面積が大きくなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰バルブの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
減衰バルブは、緩衝器の伸縮に伴う作動流体の流れに抵抗を与えて緩衝器に減衰力を発揮させるものであるが、たとえば、複筒型緩衝器におけるロッドガイドに組み込まれたり、ピストンに組み込まれたりして使用される。なお、ロッドガイドは、シリンダと、シリンダの外方に配置されてシリンダとの間にリザーバを形成する外筒との双方の端部に嵌合して、シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンに連結されるピストンロッドを軸支するものである。
【0003】
そして、たとえば、複筒型緩衝器のロッドガイドに組み込まれる減衰バルブにあっては、上記ロッドガイドに設けられて上流側となるシリンダ内と下流側となるリザーバとに連通される弁孔と、弁孔の内周に設けた弁座と、弁孔内に軸方向に移動自在に挿入される弁体と、弁体を弁座側へ向けて附勢するコイルばねとを備えている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
また、複筒型緩衝器は、シリンダ内に作動流体が充填されるロッド側室とピストン側室を区画するとともに上記ピストンロッドに連結されるピストンと、ピストン側室からロッド側室へ向かう作動流体の流れのみを許容する逆止弁と、リザーバからピストン側室へ向かう作動流体の流れのみを許容する吸込弁を備えており、上記弁孔は、シリンダ内のロッド側室とリザーバとを連通するようになっている。
【0005】
この複筒型緩衝器は、伸長しても収縮してもシリンダ内から弁孔を介してリザーバへ作動流体を排出するようになっており、いずれにしても減衰バルブでシリンダ内からリザーバへ向かう作動流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮するようになっている。なお、伸長時にはシリンダ内で不足する作動流体が吸込弁を介してシリンダ内に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−349629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この従来の減衰バルブにあっては、弁体がコイルばねによって附勢されており、このコイルばねの初期荷重によって開弁圧が調節されるとともに、コイルばねのばね定数によって複筒型緩衝器における減衰特性を調節することができるようになっている。
【0008】
しかしながら、このようにコイルばねで弁体を附勢する減衰バルブにあっては、複筒型緩衝器が高速作動を呈すると、つまり、複筒型緩衝器が高速で伸縮を繰り返すと、シリンダ内の圧力変動によって弁体の軸方向振動が励起されて発振し、複筒型緩衝器が発生する減衰力が安定せず振動的となってしまう問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、弁体の発振を抑制して緩衝器に安定した減衰力を発生させることができる減衰バルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、緩衝器内に形成される二つの室の一方の室を上流とし他方の室を下流として当該一方の室へ連通されるとともに途中に環状弁座を有する弁孔を備えたハウジングと、上記弁孔内に軸方向に移動自在に挿入されて上記環状弁座に離着座する弁体と、上記弁孔の側方から開口して上記した他方の室へ連通するポートと、上記弁孔内に収容されるばね座と、上記弁体と上記ばね座との間に介装されて当該弁体を環状弁座側へ向けて附勢するコイルばねとを備えた減衰バルブにおいて、上記弁孔内に収容されて内方に上記弁体を収容して弁孔内周との間に上記ポートに通じる環状隙間を形成する筒状のカラーを設け、当該カラーが内方を上記環状隙間へ連通して上記弁体の外周に径方向で対向する透孔を備え、上記透孔と上記弁体とで可変絞りを形成し、上記弁体の上記環状弁座からの離間で上記可変絞りの流路面積が大きくなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の減衰バルブによれば、緩衝器が高速作動を呈して減衰バルブを通過する流体の流量が増加しても、コイルばねの横方向の振動が励起が抑えられて弁体の軸方向振動を励起することなく、安定した減衰力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施の形態における減衰バルブが搭載された複筒型緩衝器の断面図である。
【図2】一実施の形態における減衰バルブの拡大側面断面図である。
【図3】一実施の形態の減衰バルブのカラーの斜視図である。
【図4】一実施の形態の一変形例における減衰バルブの拡大側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における減衰バルブ1は、図1および図2に示すように、緩衝器Dにおけるシリンダ20と外筒21の双方の端部に嵌合されるロッドガイド2に設けられており、このロッドガイド2をハウジングとして一方の室としてのロッド側室R1に連通されて途中に環状弁座4を有する弁孔3を当該ロッドガイド2に設けていて、当該弁孔3を備えたロッドガイド2と、弁孔3内に軸方向となる図1,2中左右方向に移動自在に挿入されて環状弁座4に離着座する弁体5と、弁孔3の側方から開口して他方の室としてのリザーバRへ連通するポート11と、弁孔3内に収容されるばね座10と、弁体5とばね座10との間に介装されて弁体5を環状弁座側へ向けて附勢するコイルばね6と、弁孔3内であってばね座10の外周側から環状弁座側へ向けて立ち上がりコイルばね6が挿入される筒状のカラー7を備えて構成されている。
【0014】
他方、この減衰バルブ1が適用される緩衝器Dは、シリンダ20と、シリンダ20との間にリザーバRを形成する外筒21と、シリンダ20内に摺動自在に挿入されてシリンダ20内を作動流体としての作動油が充填されるロッド側室R1とピストン側室R2とに区画するピストン22と、シリンダ20内に移動自在に挿入されてピストン22に連結されるピストンロッド23と、シリンダ20と外筒21の双方の端部に嵌合されてピストンロッド23を軸支するロッドガイド2と、シリンダ20の図1中下端に嵌合される仕切部材24と、外筒21の図1中下端を閉塞する蓋25と、ピストン22に設けたピストン側室R2とロッド側室R1とを連通するピストン通路26と、ピストン通路26に設けられてピストン側室R2からロッド側室R1へ向かう作動油の流れのみを許容する逆止弁27と、仕切部材24に設けられてリザーバRとピストン側室R2とを連通する吸込通路28と、吸込通路28に設けられてリザーバRからピストン側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込弁28aとを備えて構成され、複筒型の緩衝器とされている。なお、作動流体は、作動油のほか、気体、水、水溶液、電気粘性流体、磁気粘性流体等、緩衝器に適用可能なものを採用することが可能である。
【0015】
そして、緩衝器Dが伸長作動してピストン22が図1中上方へ移動する場合、減衰バルブ1が開弁して圧縮されるロッド側室R1から弁孔3およびポート11に接続されたパイプ9を介してリザーバRへ作動油が流れ、当該作動油の流れに減衰バルブ1で抵抗を与えることでロッド側室R1が昇圧され緩衝器Dは伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。なお、この伸長作動に際して、ピストン22が図1中上昇することでピストン側室R2の容積が増大するが、吸込通路28に設けた吸込弁28aが開弁して当該増大見合いの作動油がリザーバRからピストン側室R2へ供給される。
【0016】
また、緩衝器Dが収縮作動してピストン22が図1中下方へ移動する場合、ピストン通路26に設けた逆止弁27が開弁して圧縮されるピストン側室R2からロッド側室R1へ作動油が移動するとともに、シリンダ20内へ侵入するピストンロッド23の体積に見合った作動油がシリンダ20内で過剰となるので、減衰バルブ1が開弁してこの過剰分の作動油が弁孔3およびパイプ9を介してリザーバRへ作動油が流れ、当該作動油の流れに減衰バルブ1で抵抗を与えることでシリンダ20内の全体の圧力が上昇し緩衝器Dは収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0017】
つまり、この緩衝器Dは、伸長作動時であっても収縮作動時であっても作動油がロッド側室R1から減衰バルブ1を通過してリザーバRへ流れ、伸縮作動を繰り返すことによって、作動油がロッド側室R1、リザーバR、ピストン側室R2、ロッド側室R1の順に循環するユニフロー型の緩衝器に設定されている。すなわち、この場合、緩衝器D内に形成される減衰バルブ1の上流となる一方の室はロッド側室R1であり、下流となる他方の室はリザーバRとされている。
【0018】
以下、減衰バルブ1について詳細に説明する。ロッドガイド2は、筒状であって、外周が外筒21の図1中上端内周に嵌合し、内周がシリンダ20の図1中上端外周に嵌合している。
【0019】
また、ロッドガイド2の図1中下端の内周径がシリンダ20の外周に嵌合可能な径とされるほか、図1中上端内周にはピストンロッド23の外周に摺接してピストンロッド周りをシールするシール部材40が装着される凹部2aが形成されるとともに、内周であって凹部2aより下方にはピストンロッド23の外周に摺接する筒状の軸受41が装着されている。また、ロッドガイド2の内周であって軸受41の装着部より下方であってシリンダ20の嵌合部より上方の中間部2bにおける内径は、ピストンロッド23の外径より大径に設定されていて、ピストンロッド23との間に隙間が形成されている。
【0020】
つづいて、ロッドガイド2に設けられる弁孔3は、ロッドガイド2の外周から開口して中間部2bへ抜けていて、ロッドガイド2のリザーバRへ臨む端部から開口して弁孔3の途中へ通じるポート11によってリザーバRへ連通されている。
【0021】
また、弁孔3は、ロッドガイド2の中間部2bの内周に開口してロッド側室R1に連通される小径部3aと、小径部3aに連なる内径が小径部3aより大径な大径部3bと、小径部3aと大径部3bとの間の段部3cの内周縁に設けた環状弁座4と、大径部3bの図2中右端内周に設けた螺子部3dとを備えており、この螺子部3dには、カラー7が螺着されている。
【0022】
そして、上記弁孔3の大径部3bの途中から開口してロッドガイド2のリザーバRへ臨む端部へと通じるポート11が設けられており、このポート11にも螺子部11aが設けられていて、当該螺子部11aにパイプ9の図2中上端外周に設けた螺子部9aを螺合することで、ロッドガイド2にパイプ9が固定されている。パイプ9は、リザーバR内に突出して収容され、その図2中下端開口端はリザーバRの途中に配置される。したがって、シリンダ20のロッド側室R1とリザーバRとは、弁孔3、ポート11およびパイプ9を介して連通されている。なお、パイプ9のポート11への固定は、螺子結合以外にも圧入、溶接によって行うようにしてもよい。
【0023】
弁体5は、上記弁孔3内に軸方向へ移動自在に収容され、環状弁座側端外周に設けた面取部5eと外周に設けた複数の切欠5fとを備え環状弁座4に離着座する円盤状の弁部5aと、弁部5aの環状弁座側端となる図2中左端から伸びる円柱状の軸部5bと、弁部5aの反環状弁座側となる図2中右側に突出されるばね嵌合部5cと、軸部5bに設けた溝5dとを備えて構成されている。
【0024】
軸部5bは、弁孔3における環状弁座4の内周となる小径部3a内に摺動自在に挿入され、この軸部5bをガイドとして弁体5は、弁孔3に対し軸ぶれすることなく軸方向へ移動することができるようになっている。
【0025】
そして、弁部5aの図2中左端を環状弁座4の図2中右端面に当接させて着座させると、減衰バルブ1は閉弁し、弁孔3内への作動油の流入を遮断することができるようになっている。また、軸部5bには、先端から基端にかけてU字状の溝5dを備えており、弁部5aの図2中左端となる環状弁座側端が環状弁座4の図2中右端面から図2中右方の反環状弁座側となる弁孔3内側へ後退すると、その後退量に応じて溝5dが小径部3aより弁孔3内側に入り込んで減衰バルブ1が開弁し、当該溝5dを介して作動油が弁孔3内へ流入することができるようになっている。つまり、この弁体5における弁部5aの後退量が大きくなるに従って、減衰バルブ1の弁開口面積が増加するようになっている。なお、軸部5bの形状は、上記したところには限定されるものではなく、特に、弁体5のばね嵌合部5cの先端とばね座にガイド軸とガイド軸を軸支する軸受を設けるのであれば、軸部5bにガイド機能を求めなくともよい。
【0026】
また、弁孔3の大径部3b内には、有底筒状のカラー7が収容されている。このカラー7は、筒部7aと底部7bとを備えており、筒部7aは、弁孔3の段部3cに当接して弁孔3の大径部3bとの間に環状隙間Aを形成する縮径部7cと、縮径部7cに連なって弁孔3の大径部3bに形成した螺子部3dに螺着される螺子部7dとを備えて構成されている。
【0027】
縮径部7cには、図2および図3に示すように、カラー7内を上記した環状隙間Aに連通する矩形の透孔7eが周方向に等間隔を三箇所に設けてある。この三つの透孔7eは、弁体5のストローク範囲で弁体5における弁部5aの外周に径方向で対向するようになっている。なお、透孔7eの形状および設置数は任意に変更することができる。
【0028】
そして、この減衰バルブ1にあっては、弁体5が環状減座4に着座した状態では、弁部5aの環状弁座側端と透孔7eの環状弁座側端とが同じレベルにあって、弁体5における弁部5aの外周を透孔7eに対向させることで流路を制限しており、弁体5が環状弁座4から離間する方向となる図2中右方へ後退すると、透孔7eが大きく開放されて流路が大きくなるようになっている。つまり、弁体5と透孔7eとで可変絞りを構成していて、この可変絞りは、弁体5が環状弁座4から後退すればするほど、透孔7eの開放度合が大きくなって、流路面積が大きくなるようになっている。このように、この減衰バルブ1にあっては、弁体5の溝5dを通過した作動油は、上記した可変絞りを通過して環状隙間Aを通り、ポート11へ流れるようになっている。
【0029】
なお、この実施の形態の場合、弁体5の弁部5aの外周とカラー7の内周との間に極僅かの環状の隙間が設けられているので、寸法誤差によりカラー7と弁体5の軸芯がずれていても、カラー7が弁体5に接触することがないようになっていて、カラー7と弁体5の組み付けが不能となったり、カラー7が弁体5の移動を妨げたりといった不都合がないようになっている。上記の不都合が生じないようであれば、弁部5aの外周をカラー7の内周に摺接させるようにしてもよい。
【0030】
さらに、このように構成された上記カラー7内には、ばね座10が収容されている。詳しくは、当該ばね座10は、円柱状のばね嵌合部10aと、ばね嵌合部10aの外周に設けられてカラー7の底部7bに積層されるフランジ状のばね受部10bとを備えて構成されている。
【0031】
また、当該ばね座10と弁体5との間には、コイルばね6が介装されている。このコイルばね6は、ばね座10と弁体5との間に圧縮状態で介装されていて初期荷重が与えられており、この圧縮されたコイルばね6の初期荷重による附勢力で弁体5を環状弁座4に着座した状態においても環状弁座4へ向けて押し付けている。コイルばね6によってばね座10も荷重を受けており、ばね座10がカラー7の底部7bから離間しないようになっている。
【0032】
コイルばね6の一端となる図2中右端の内周には、上記ばね座10のばね嵌合部10aが嵌合され、コイルばね6の他端となる図2中左端の内周には、弁体5のばね嵌合部5cが嵌合されて、コイルばね6が径方向に位置決めされている。そして、コイルばね6がばね座10および弁体5によって径方向に位置決められるので、カラー7内に挿入されるコイルばね6がカラー7に干渉することが阻止される。
【0033】
なお、カラー7を筒状としてばね座10をカラー7内に螺合するようにし、ばね座10を緩衝器Dの外側から回転させることができるようにしてもよく、この場合には、ばね座10を回転させて送り螺子の要領で弁孔3内で軸方向へ進退させることで、コイルばね6の初期荷重を調節できる。
【0034】
以上のように構成された減衰バルブ1は、ロッド側室R1内の圧力が弁体5の軸部5bに作用して、弁体5を押す力がコイルばね6の弁体5を附勢する附勢力を上回ると開弁して、弁体5を押し退けて溝5dを通過した流体は、弁孔3内に流入するとともに弁体5と透孔7eとでなる可変絞りを通過して環状隙間Aを介してポート11へ抜け、パイプ9を通過しリザーバRへと移動することになる。
【0035】
そして、弁体5は、先端側に作用する圧力が大きくなればなるほど、環状弁座4から離れて反環状弁座側となる弁孔3の内方への後退量が増加し、後退量の増加とともに環状弁座4で制限する弁開口面積も増加し、減衰バルブ1を通過する流体の流量も増大する。また、可変絞りにおける流路面積も、弁体5における環状弁座4からの後退量の増加によって増加する。
【0036】
したがって、この減衰バルブ1にあっては、弁体5が環状弁座4から離間して減衰バルブ1が開弁すると作動油が可変絞りを通過してポート11へ抜け、可変絞りが作動油の流れに抵抗を与えるので、弁体5の環状弁座4から離間する方向の移動を抑制するダンピング力が得られる。このダンピング力によって弁体5の軸方向の振動が抑制される。そして、可変絞りは、弁体5が環状弁座4から離座する開弁初期に流路面積を最小としており、開弁初期におけるダンピング力が大きく、弁体5の環状弁座4からの後退量が大きくなるとダンピング力が小さくなる。つまり、弁体5の振動が励起されやすい開弁初期にはしっかりとダンピング力を弁体5に作用させて、弁体5の軸方向の振動を押えこむことができる。これにより、本発明の減衰バルブ1は、弁体5の発振を抑制して緩衝器に安定した減衰力を発生させることができる。
【0037】
また、ダンピング力が弁体5に作用することによって、緩衝器Dが発生する減衰力にダンピング力に見合った減衰力がオーバーライドされるが、弁体5の環状弁座4からの後退量が増加するとダンピング力は低減されるので、ダンピング力が緩衝器Dの発生する減衰力に与える影響を少なくすることができる。
【0038】
さらに、カラー7を設置するだけで弁体5の振動を抑制することができるので、弁孔3を備えたハウジングへの新たな加工、この場合ロッドガイド2への新たな加工を必要とせず、既存の減衰バルブに容易かつコストを掛けずに組み込むことができる。
【0039】
なお、図4に示した一実施の形態の一変形例における減衰バルブ29のように、弁体30を弁本体31と透孔7eに径方向で対向する筒状壁32とで構成して、当該筒状壁32と透孔7eとで可変絞りを形成するようにしてもよい。なお、減衰バルブ29が減衰バルブ1と共通する部材については、説明の重複を避けるため同一の符号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0040】
この場合、弁本体31は、弁孔3内に軸方向へ移動自在に収容され、環状弁座側端外周に設けた面取部31eと外周に設けた複数の切欠31fとを備え環状弁座4に離着座する円盤状の弁部31aと、弁部31aの環状弁座側端となる図4中左端から伸びる円柱状の軸部31bと、弁部31aの反環状弁座側となる図4中右側に突出されるばね嵌合部31cと、軸部31bに設けた溝31dと、溝31dからばね嵌合部31cの端部に通じて途中にオリフィス31gを備えた圧力導入孔31hとを備えて構成されている。圧力導入孔31hは、弁本体31が正面側となる環状弁座側の圧力を弁本体31の背面側となる反環状弁座側へ導くようになっている。
【0041】
筒状壁32は、弁本体31における弁部31aに積層される環状の積層部32aと、当該積層部32aの外周から立ち上がり透孔7eに径方向で対向する筒状の壁部32bとを備えている。そして、積層部32aは、コイルばね6と弁本体31との間に介装されている。このように積層部32aは、コイルばね6で上記弁本体31へ押しつけられていて、弁本体31と筒状壁32の離間が阻止されている。
【0042】
また、壁部32bとカラー7との間には環状の隙間が設けられていて、壁部32bを透孔7eに径方向で対向させることで、弁体30の背面側の空間を環状隙間Aに連通する流路を制限しており、当該空間の圧力がポート11へ逃げるのを抑制して、当該空間を背圧室Pとして機能させるようになっている。
【0043】
他方、筒状壁32は、弁体30が環状弁座4から離間すればするほど、透孔7eとの径方向での重なりが少なくなり、透孔7eの開放度合が大きくなって、流路面積が増加するようになっている。つまり、筒状壁32と透孔7eとで可変絞りを構成している。
【0044】
したがって、この減衰バルブ29によっても、弁体30が環状弁座4から離間して減衰バルブ29が開弁すると作動油が可変絞りを通過してポート11へ抜け、可変絞りが作動油の流れに抵抗を与えるので、弁体30の環状弁座4から離間する方向の移動を抑制するダンピング力が得られる。また、弁体30の背面側には、背圧室Pが設けられていて、正面側の圧力を圧力導入孔31hを介して減圧して背圧室Pへ導入することができ、背圧室Pの圧力で弁体30を環状弁座4側へ向けて附勢することができる。このように、一変形例における減衰バルブ29にあっては、上記したダンピング力に加えて背圧室Pの圧力で弁体30を附勢することができるので、上記した減衰バルブ1に比較して、弁体30の軸方向振動の抑制効果が高くなる。これにより、本発明の減衰バルブ29は、弁体30の発振を確実に抑制して緩衝器に安定した減衰力を発生させることができる。
【0045】
また、ダンピング力に加えて背圧室Pの圧力を弁体30に作用することによって、緩衝器Dが発生する減衰力にダンピング力と背圧室Pの圧力に見合った減衰力がオーバーライドされるので、緩衝器Dの発生する減衰力をより高めることが可能となる。
【0046】
なお、上記した圧力導入孔31hを廃止することも可能であり、廃止しても背圧室Pは筒状壁32と透孔7eとで流路が制限されるので、弁体30の軸方向の移動を抑制する力を発揮することができ、上記したダンピング力に当該移動を抑制する力を付加して弁体30の軸方向の振動を抑制することができる。
【0047】
また、上記したところでは、本発明の減衰バルブ1を緩衝器Dに組み込む場合を例に挙げて説明したが、複筒型以外の緩衝器に適用することも可能であり、上記効果を発揮することができる。たとえば、単筒型、複筒型の別を問わず緩衝器のピストンをハウジングとしてこれに減衰バルブを組み込むことができ、その場合には、一方の室をロッド側室とピストン側室の一方とし、他方の室をロッド側室とピストン側室の他方として、減衰バルブは緩衝器の伸長時あるいは収縮時に緩衝器に減衰力を発生させることができる。また、緩衝器が複筒型緩衝器であってバイフローに設定される場合、ピストン側室を上流の一方の室とし、リザーバを下流の他方の室として減衰バルブをベースバルブ部に組み込んで緩衝器の収縮時に緩衝器に減衰力を発揮させるようにしてもよい。
【0048】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1,29 減衰バルブ
2 ハウジングとしてのロッドガイド
3 弁孔
4 環状弁座
5,30 弁体
6 コイルばね
7 カラー
7e 透孔
10 ばね座
11 ポート
31 弁本体
31g オリフィス
31h 圧力導入孔
32 筒状壁
32a 積層部
32b 壁部
A 環状隙間
D 緩衝器
P 背圧室
R1 一方の室としてのロッド側室
R 他方の室としてのリザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器内に形成される二つの室の一方の室を上流とし他方の室を下流として当該一方の室へ連通されるとともに途中に環状弁座を有する弁孔を備えたハウジングと、上記弁孔内に軸方向に移動自在に挿入されて上記環状弁座に離着座する弁体と、上記弁孔の側方から開口して上記した他方の室へ連通するポートと、上記弁孔内に収容されるばね座と、上記弁体と上記ばね座との間に介装されて当該弁体を環状弁座側へ向けて附勢するコイルばねとを備えた減衰バルブにおいて、上記弁孔内に収容されて内方に上記弁体を収容して弁孔内周との間に上記ポートに通じる環状隙間を形成する筒状のカラーを設け、当該カラーが内方を上記環状隙間へ連通して上記弁体の外周に径方向で対向する透孔を備え、上記透孔と上記弁体とで可変絞りを形成し、上記弁体の上記環状弁座からの離間で上記可変絞りの流路面積が大きくなることを特徴とする減衰バルブ。
【請求項2】
上記弁体は、外周に上記透孔に径方向で対向する筒状壁を備え、当該筒状壁と上記透孔とで可変絞りを形成することを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項3】
上記弁体は、弁本体と、上記筒状壁とを備え、当該筒状壁は、当該弁本体に積層される積層部と、当該積層部の外周から立ち上がり上記透孔に径方向で対向する筒状の壁部とを備え、上記コイルばねで上記積層部を上記弁本体へ押しつけて上記弁本体と上記筒状壁の離間を阻止したことを特徴とする請求項2に記載の減衰バルブ。
【請求項4】
上記弁体は、途中にオリフィスを備えて正面側となる環状弁座側の圧力を背面側となる反環状弁座側へ導く圧力導入孔を備え、上記弁体の背面側に背圧室を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の減衰バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197880(P2012−197880A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62777(P2011−62777)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】