説明

温度変化による静電容量変化の小さい複合誘電体組成物及びこれを用いたシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタ

【課題】本発明は温度変化に対して正または負の静電容量変化を現すポリマーマトリックス、そしてポリマーマトリックスと反対になる静電容量変化を現すセラミックフィラーが配合された、温度変化による静電容量変化率の小さい複合誘電体組成物及びこれを用いて製造されたシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに関する。
【解決手段】温度変化により正または負の静電容量変化を現すポリマーマトリックス、そしてポリマーマトリックスの静電容量変化と反対になる静電容量変化を現すセラミックフィラーを含んで成る複合誘電体組成物及び本発明の複合誘電体組成物から形成され、温度変化に対する静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%であるシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタを提供する。本発明の誘電体複合組成物は温度変化による静電容量変化が小さくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに利用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーマトリックスとセラミックフィラーからなり、温度変化による静電容量変化率の小さい複合誘電体組成物及びこのような複合誘電体組成物から成る誘電体層を含むシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに関し、より詳しくは温度変化に対して正または負の静電容量変化を現すポリマーマトリックス、そしてポリマーマトリックスと反対になる静電容量変化を現すセラミックフィラーが配合された、温度変化による静電容量変化率の小さい複合誘電体組成物及びこのような複合誘電体組成物から成る誘電体層を含むシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層型回路基板の小型化及び高周波化により、従来の印刷回路基板(Printed Circuit Board、PCB)に搭載され配置される能動(passive) 素子が小型化の障害要素として作用する。特に、半導体における急激なエンベッディド(embedded)傾向および入力/出力端子数の増加により能動チップ(active chip)の周辺にキャパシタを含んだ多数の手動素子の配置空間の確保が難しくなった。かかる小型化及び高周波化により、能動素子の周辺にキャパシタを効率的に位置させることに対する限界を克服するための方案として、チップを基板の活性チップの直下に内蔵する方法またはチップのインダクタンス値を減らす方法が提案された。これにより、低等価直列インダクタンス(Low Equivalent Series Inductance;Low ESL)を有する多層セラミックキャパシタ(Multi−Layer Ceramic Capacitor;MLCC)が開発されている。
【0003】
上記問題を克服するための他の解決方案としてエンベッディドキャパシタが提案された。エンベッディドキャパシタは、PCBにおいて能動チップの下の1層を誘電体層に形成して成るキャパシタのことを言う。特許文献1乃至4などのSanmina特許において、エンベッディドキャパシタは能動チップの入力(input)端子から最も近接した位置に配置されるのでキャパシタと連結される導線の長さを最小化し高周波による誘導インダクタンスを最小化する方式が開示されている。このようなエンベッディドキャパシタを実現するためのキャパシタ用誘電体では、従来のPCB部材として用いられていたFR4で知られているガラス繊維エポキシ樹脂を利用する場合でもその特性が実現されるものと知られている。また、静電容量を実現するために高誘電率の強誘電体粉末であるBaTiOフィラーがエポキシ樹脂に分散された複合材料が使用され得るものと知られている。
【0004】
一方、実際基板に搭載される受動素子の面積の35〜45%程度をキャパシタが占めており、これらの中の殆どがデカップリング(Decoupling)用またはシグナルマッチング(Signal Matching)用である。従来のエンベッディドキャパシタ用材料では誘電率の高い強誘電性粉末をエポキシ樹脂に分散させた材料が使用されてきており、これを用いて製造したキャパシタは主に誘電率20以上のデカップリングキャパシタ(Decoupling Capacitor)に使用される。このように、デカップリングキャパシタは強誘電性粉末とエポキシ樹脂を利用する方向に多様な試みが行われている。
【0005】
キャパシタ誘電体組成物に対する従来技術として、高温ラミネーティング工程において誘電体層と銅基板の付着性を増大させる方法などに対する特許文献5及び重合体マトリックス中に分散された超微細セラミック粒子から形成された固誘電定数の材料を提供する特許文献6において、誘電層はエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂とチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛などのセラミックフィラーが使用されるのが開示されている。しかし、これらの特許文献は本発明の温度変化による静電容量の変化を最小化することについては開示されていない。
【0006】
さらに、デカップリングキャパシタと異なってシグナルマッチング用キャパシタに対する誘電体組成物は殆ど開発されていない。その理由は強誘電性粉末を分散させたエポキシ樹脂の場合、シグナルマッチング用キャパシタで求める静電容量の温度特性を満足することができないためである。一般的に強誘電性粉末はキューリー温度で相転移(四角形(tetragonal)から立方形(cubic))が起こるが、この時ストレス(stress)によって誘電率が急激に増加するためである。誘電率の増加は、まさに静電容量の増加を意味し、温度増加により静電容量の急激な変化をもたらす。
【0007】
温度による静電容量の変化がX7R特性を満足する場合デカップリング用キャパシタに使用することができるが、シグナルマッチング用キャパシタに使用するためには同温度範囲において静電容量変化率のバラツキがより少なくなければならない。即ち、シグナルマッチング用キャパシタの誘電層材料は温度による静電容量の変化が極小な材料でなければならない。例えば、特許文献7では強誘電性粉末の相を制御してエポキシ/BaTiO複合系の温度安全性がX7Rを満足する材料について開示しているが、これは静電容量の変化が大きくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタには使用することができない。
【0008】
一方、現在使用中のエンベッディドキャパシタには強誘電性セラミックフィラーとエポキシ樹脂が主材料として使用されている。しかし、強誘電性セラミックフィラーの場合、相転移現象によりTc近辺において静電容量が急激に増加する。さらに、エポキシ樹脂は材料の極性によって双極(dipole)分極が生じるようになり、これは温度増加と共に静電容量値を増加させる原因になる。
【0009】
従来の複合誘電体組成物の温度変化による静電容量変化を減少させる方法としては、複合系を構成するポリマーマトリックスとセラミックフィラーの各々の温度による静電容量値を減少させる方法が使用されている。しかし、温度変化による静電容量変化率の少ないBCB(Benzo Cyclo Butene)やLCP(Liquid Crystalline Polymer)のようなポリマー樹脂の場合、材料自体の低い誘電定数によってキャパシタにおいて求められる特性である静電容量を満足することができない。
【0010】
したがって、BCB、LCPなど誘電定数の低いポリマー樹脂を用いる場合には静電容量を高めるために誘電率の高いセラミックフィラー(filler)を使用すべきである。しかし、誘電率の高い強誘電性フィラーは上記したように温度変化により大きな静電容量変化を現す。そのため、BCB、LCPなどと強誘電体フィラーから成る複合誘電体組成物を使用する場合には各構成成分の温度特性の和で示される複合系の温度変化による静電容量変化が大きくなる。なお、BCBやLCPの場合、既存のエポキシ樹脂に比べて工程性が脆弱である問題もある。
【特許文献1】米国特許第5079069号
【特許文献2】米国特許第5162977号
【特許文献3】米国特許第5155655号
【特許文献4】米国特許第5161086号
【特許文献5】韓国公開特許第2004−30801号
【特許文献6】韓国公開特許第2003−24793号
【特許文献7】米国特許第6608760号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は温度変化による静電容量変化の小さい複合誘電体組成物を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、温度変化による静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%である複合誘電体組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、温度変化による静電容量変化が小さくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに使用される複合誘電体組成物を提供することである。
【0014】
さらにまた、本発明の他の目的は温度変化に対する静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%であるシグナルマッチング用(signal matching)エンベッディドキャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の実施形態によれば、温度変化により正または負の静電容量変化を現すポリマーマトリックス、そしてポリマーマトリックスの静電容量変化と反対になる静電容量変化を現すセラミックフィラーを含む複合誘電体組成物が提供される。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、本発明の複合誘電体組成物から誘電体層が形成され、温度変化に対する静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%であるシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタが提供される。
【発明の効果】
【0017】
従来の複合誘電体組成物は、温度変化による静電容量変化が大きくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに使用することができずデカップリング用キャパシタのみに利用された。しかし、本発明の複合誘電体組成物は温度変化による静電容量変化が小さくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタの誘電層に利用可能である。即ち、本発明の複合誘電体組成物はシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに使用するために求められるΔC/C×100(%)≦5%の温度特性を満足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0019】
本発明の複合誘電体組成物は温度変化による静電容量変化率(TCC)が小さくて安定した静電容量を現す。即ち、本発明の複合誘電体組成物はΔC/C×100(%)が≦5%であり温度変化に対して小さい静電容量変化を現す。従って、シグナルマッチング用エンベッディドキャパシタの誘電体材料に使用するのに適する。
【0020】
本発明の温度変化による静電容量変化(以下、「温度特性」ともいう)の少ない複合誘電体組成物(以下、「誘電体組成物」という)は温度特性が誘電体組成物を構成する各成分の温度特性の和に表されるのに基づいて開発されたものである。
【0021】
従って、本発明の誘電体組成物は温度変化による静電容量変化を減少させるために温度特性の挙動の異なる材料が混合されて、製造されることを特徴とする。このような概念を示す模式図を図1に示す。
【0022】
図1に示すように、温度上昇に対して正の静電容量変化を現す物質と負の静電容量変化を現す物質が混合された複合物を用いることによって、各物質の温度特性が相殺され温度変化に対する静電容量変化率(TCC)が小くなる。従って、静電容量変化のバラツキが小さくて安定した静電容量を現す。
【0023】
図1に示すように、正の温度特性を現す材料の場合、負の温度特性を現す材料と混合することにより誘電体組成物全体の温度特性変化率が減少される。このように誘電体組成物を製造する場合、誘電体材料、即ち、ポリマー樹脂とセラミックフィラーを選択するにあたって、温度変化による静電容量変化が0に近い材料に制限されず、多様な誘電体組成物により設計することができる。従って、マトリックスとなるポリマーにより高価のBCBやLCPを使用することなく既存のエポキシ樹脂を使用することができる。選択されるポリマーマトリックスとセラミックフィラーの量及び組成を変化させることにより静電容量と温度変化による静電容量変化を多様に調節できる。
【0024】
図2(a)に、一例として、エポキシ樹脂の温度変化による静電容量変化を表すグラフを示す。図2(b)では図2(a)のグラフに相応する値を数値に表した。図2(a)及び図2(b)から分かるように、エポキシ樹脂は温度増加により静電容量値も増加する正の温度特性を有する。従って、エポキシ樹脂と反対となる温度特性、即ち、温度増加の際に静電容量値が減少する負の温度特性を有するセラミックフィラーをエポキシ樹脂と共に配合して誘電体組成物を製造することによって、温度変化による静電容量変化を減少させることができる。
【0025】
上記正の温度特性を現すポリマーマトリックスではエポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上混合して使用され得る。
【0026】
エポキシ樹脂にはこれに限定するのではなく、一例として大韓民国特許出願 第2005−12483号に開示されているエポキシ樹脂が使用され得る。これにより限定するのではなく、上記特許文献に開示されているエポキシ樹脂の例として、臭素含量が40重量%以上である臭素化エポキシ樹脂(brominated epoxy resin)10乃至40重量%及びビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、多機能性エポキシ樹脂、ポリイミド、シアン酸エステル及びこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも一つの樹脂60乃至90重量%を含んで構成されるエポキシ樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂及びこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも一つの樹脂1乃至50重量%、臭素含量が40重量%以上の臭素化エポキシ樹脂(brominated epoxy resin)9乃至60重量%及びビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、多機能性エポキシ樹脂、ポリイミド、シアン酸エステル及びこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも一つの樹脂30乃至90重量%を含んで構成されるエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
上記正の温度特性を現すポリマーマトリックスが用いられる場合、誘電率は増加させ温度による変化は少なくするためにMO6群を含むか、ペロブスカイト構造を有する負の温度特性を現すセラミックフィラーを使用して誘電体組成物を製造することができる。
【0028】
負の温度特性を現すセラミックフィラーではチタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸亜鉛(ZnO−TiO)及びチタン酸ビスマス(Bi−2TiO)などが挙げられる。これらは単独または2種以上の混合により使用することができる。特に、エポキシ樹脂にチタン酸カルシウムまたはチタン酸ストロンチウムが分散された誘電体組成物が好ましい。
【0029】
上記負の温度特性を現すフィラーの温度特性を下表1に表す。
【表1】

【0030】
一方、負の温度特性を現すポリマーマトリックスは正の温度特性を現すセラミックフィラーと配合して温度特性変化の少ない誘電体組成物を製造することができる。負の温度特性を現すポリマーマトリックスではテプロン樹脂(TCC:−100ppm/℃)、ビスマレイミド−メチレンジアニリン(BMI−MDA) ポリイミド樹脂などが単独、または混合して使用され得る。正の温度特性を現すセラミックフィラーではチタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ランタン(La−TiO、TCC:+600ppm/℃)、チタン酸マグネシウム(MgTiO、TCC:+100ppm/℃)などが挙げられる。これらは単独、または混合して使用され得る。好ましくは、テプロン樹脂はチタン酸バリウムと共に、そしてBMI−MDAポリイミド樹脂はチタン酸ランタンまたはチタン酸マグネシウムと複合誘電体組成物を製造することができる。
【0031】
本発明で温度変化による静電容量変化率(TCC)を減少させるためにセラミックフィラーとポリマーマトリックスから成る誘電体組成物が用いられる。しかし、誘電体を形成するポリマーマトリックスの静電容量変化を調節する必要がなければ接着力等を考慮してポリマーマトリックス(樹脂)のみで誘電層を形成するのが好ましく、本発明の誘電体組成物においてポリマーマトリックスとセラミックフィラーは温度変化による静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦7%、好ましくはΔC/C×100(%)≦5%の温度特性を満足するように配合される。具体的には、誘電体組成物においてポリマーマトリックスとセラミックフィラーの全体積を基準にセラミックフィラーは60体積%未満、好ましくは50体積%未満にポリマーマトリックスと配合されるのが好ましい。誘電体組成物においてセラミックフィラーの含量が60体積%を超えるとキャパシタ製造時、上、下部電極として使用されるCuホイルとの接着力が悪くなって信頼性に問題を引き起こす恐れがあるので好ましくない。
【0032】
誘電体組成物は溶媒中でポリマーマトリックスにセラミックフィラーを分散させ製造する。セラミックフィラーは粒径が10nm〜10μmであることが好ましい。粒径が10nm未満であるとポリマーマトリックスによく分散されず、10μmを超えると誘電体複合物の厚みが厚くなって静電容量が減少するので好ましくない。
【0033】
上記本発明の誘電体複合物には必要に応じて硬化剤、硬化促進剤、泡除去剤及び/または分散剤等の添加剤が使用され得る。これらの種類及び含量は用いられたポリマーマトリックス及びセラミックフィラーの種類などによって変わり、本発明が属する技術分野において通常使用されているもので、必要に応じてこの技術分野の技術者が適切に選択して使用することができる。
【0034】
例えば、エポキシ樹脂が使用された場合、一般的に知られているエポキシ樹脂硬化剤を使用することができる。これにより限定するのではないが、エポキシ樹脂硬化剤ではフェノールノボラックなどのフェノール類、ジシアングアニジン、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等のアミン系、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などの酸無水物硬化剤が単独、または2種以上混合して使用され得る。
【0035】
エポキシ樹脂硬化促進剤では、例えば、ビスフェノールAノボラック樹脂などが使用され得る。
【0036】
誘電体層が上記本発明の誘電体組成物から成るエンベッディドキャパシタは、温度変化により静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%でありシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタに使用され得る。
【0037】
以下、実施例に従って、本発明について詳しく説明する。
【実施例1】
【0038】
下表2に表したセラミックフィラーとエポキシ樹脂を表2に表した割合に混合して複合誘電体組成物を製造した。エポキシ樹脂組成物では大韓民国特許出願第2005−12483号の実施例2のビスフェノールAエポキシ樹脂/臭素化ビスフェノールAエポキシ樹脂/ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂が2:2:6の重量割合に混合したものを用いた。硬化剤にはビスフェノールAノボラックを、硬化促進剤には2−メチルイミダゾールを、そして溶媒には2−メトキシエタノールを用いた。
【0039】
下表2の体積%量で配合されたセラミックフィラーとエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び分散剤を添加したスラリーの110gをバッチ(1回分)にしてバッチのスラリーを製造した後、バッチが10wt%になるように溶媒をさらに加えた。用いられた硬化剤はエポキシ樹脂対比52.769wt%で、硬化促進剤はエポキシ樹脂対比0.1wt%で添加した。また分散剤はセラミック粉末対比3wt%添加した。これをボールミルを使用して12時間混合してスラリーを製造した。セラミックフィラーには粒径が約0.1〜1μmであるものを使用した。製造されたスラリーを銅ホイル上にハンドキャスティング方法により100μm厚さにキャスティング(casting)した。誘電体がキャスティングされたコイルホイルを乾燥機で、170℃で2分30秒間保って半硬化させ、WIPを利用して300psiで10分間圧着した。
【0040】
圧着させたサンプルを再び200℃で2時間積層させCCLを製造した後、電極部分を残して窒酸溶液でエッチングさせ誘電率及び温度特性測定用のサンプルを製作した。このように製造されたサンプルはHP4294Aインピーダンス分析機(impedence analyzer)を利用して1kHzで誘電特性(誘電定数及び誘電損失)を測定し、Single Chamber Capacitor Temp Test System(W−2500)を利用して温度変化に対する静電容量変化(温度特性)をΔC/C×100(%)(Cは25℃での静電容量、ΔCは温度変化による静電容量変化)で測定した。誘電特性は下表2に、そして温度特性は下表3に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
上記表3に示すように、正の温度特性を有するエポキシ樹脂とチタン酸バリウムから成る複合誘電体組成物である比較例1の場合、誘電損失が大きいだけでなく、温度特性変化が非常に大きくてシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタ製造に適しないことがわかる。
【0044】
TiOフィラーを使用した比較例2の場合、セラミックフィラーの半導性によって高い誘電定数値を有するが、損失と静電容量の変化も非常に大きい値を表した。しかし、発明例1〜6で用いたSrTiO粉末とCaTiO粉末の場合、添加する体積分画によってΔC/C×100(%)が±7〜±1.5%と非常に優れた結果を表した。特に、発明例2〜6までのサンプルの場合、ΔC/C×100(%)が≦5%以内でありシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタの誘電体層形成に使用するのに非常に適した特性を現した。また、上記実施例1乃至6の誘電定数は17〜25の間で、比較例1において強誘電性BaTiO粉末を使用した場合の値である23と類似する値を示しており、誘電率が低下することなく優れた温度特性を現した。
【実施例2】
【0045】
下表4に表したセラミックフィラーとエポキシ樹脂を表4に表した割合に混合して複合誘電体組成物を製造した。エポキシ樹脂には臭素化ビスフェノールAエポキシ樹脂を、硬化剤にはジシアンジアミド(DICY)を、硬化促進剤には2−メチルイミダゾールを、そして溶媒には2−メトキシエタノールを用いた。
【0046】
表4の体積%量で配合されたセラミックフィラーとエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び分散剤を添加したスラリーの110gをバッチ(1回分)にしてバッチのスラリーを製造した後、バッチが10wt%になるように溶媒をさらに加えた。用いられた硬化剤はエポキシ樹脂対比52.769wt%で、そして硬化促進剤はエポキシ樹脂対比0.1wt%添加した。また分散剤はセラミック粉末対比3wt%添加した。セラミック粒子には粒径が約0.1〜1μmであるものを使用した。製造されたスラリーを銅ホイル上にハンドキャスティング方法により100μm厚さにキャスティング(casting)した。誘電体がキャスティングされたコイルホイルを乾燥機で、170℃で2分30秒間保って半硬化させ、WIPを利用して300psiで10分間圧着した。
【0047】
圧着させたサンプルを再び200℃で2時間積層させCCLを製造した後、電極部を残し窒酸溶液でエッチングさせ温度特性測定用サンプルを製作した。こうして製造されたサンプルはSingle Chamber Capacitor Temp Test System(W−2500)を利用して温度変化に対する静電容量変化(温度特性)をΔC/C×100(%)(Cは25℃での静電容量、ΔC/C×100(%)は温度変化による静電容量変化)で測定した。温度特性を下表4に表す。
【0048】
【表4】

【0049】
臭素化されたビスフェノールAエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂に比べて温度特性変化が大きいため、これを使用する場合、負の温度特性を有するセラミックフィラーとしてCaTiOの場合約45±5体積%、SrTiOの場合50体積%になるとΔC/C×100(%)≦5%の温度特性を満足してシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタ製造に使用され得る。
【0050】
シグナルマッチング用エンベッディドキャパシタの場合、誘電率より温度特性が重要であり、そのため、本発明の複合誘電体組成物においてセラミックフィラーは誘電率ではない温度特性、或は損失値の改善を目的に配合される。従って、複合誘電体組成物においてセラミックフィラーの含量が少なく、かつ温度による静電容量変化も小さいものがより良い配合であり、このような点から温度特性変化の少ないエポキシ樹脂を使用するのが臭素化されたビスフェノールAエポキシ樹脂を使用するより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】温度変化による静電容量変化の挙動が異なる材料を混合する際、混合物の静電容量変化の挙動を表すグラフである。
【図2】aは温度変化に対して正の静電容量変化の挙動を現すエポキシ樹脂の静電容量変化値を表すグラフであり、bはaのエポキシ樹脂の静電容量変化値を表す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化により正または負の静電容量変化を現すポリマーマトリックス、そしてポリマーマトリックスの静電容量変化と反対になる静電容量変化を現すセラミックフィラーを含んでなる複合誘電体組成物。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスは温度変化に対して正の静電容量変化を現すエポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリイミド樹脂から成る群より選択された1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の複合誘電体組生物。
【請求項3】
前記セラミックフィラーではMO6群を含むか、ペロブスカイト構造を有する温度変化に対して負の温度特性を現すセラミックフィラーであることを特徴とする、請求項2に記載の複合誘電体組成物。
【請求項4】
前記セラミックフィラーは、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛及びチタン酸ビスマスから成る群より選択された1種または2種以上であることを特徴とする、請求項3に記載の複合誘電体組成物。
【請求項5】
ポリマーマトリックスとしてエポキシ樹脂とセラミックフィラーとしてチタン酸カルシウムまたはチタン酸ストロンチウムから成ることを特徴とする、請求項4に記載の複合誘電体組成物。
【請求項6】
前記ポリマーマトリックスは温度変化に対して負の静電容量変化を現すテプロン樹脂及び/またはビスマレイミド−メチレンジアニリンポリイミド樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の複合誘電体組成物。
【請求項7】
前記セラミックフィラーは温度変化に対して正の静電容量変化を現すチタン酸バリウム、チタン酸ランタン(Lanthanium Titanate)及びチタン酸マグネシウムから成る群より選択された1種または2種以上であることを特徴とする、請求項6に記載の複合誘電体組成物。
【請求項8】
ポリマーマトリックスとしてテプロン樹脂と、セラミックフィラーとしてチタン酸バリウムから成ることを特徴とする、請求項7に記載の複合誘電体組成物。
【請求項9】
ポリマーマトリックスとしてビスマレイミド−メチレンジアニリンポリイミド樹脂と、セラミックフィラーとしてチタン酸ランタンまたはチタン酸マグネシウムから成ることを特徴とする、請求項7に記載の複合誘電体組成物。
【請求項10】
前記ポリマーマトリックスとセラミックフィラーは、複合誘電体組成物の温度変化に対する静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%になるように配合されることを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の複合誘電体組成物。
【請求項11】
セラミックフィラーの含量が60vol%未満であることを特徴とする、請求項10に記載の複合誘電体組成物。
【請求項12】
セラミックフィラーの含量が50vol%未満であることを特徴とする、請求項11に記載の複合誘電体組成物。
【請求項13】
前記セラミックフィラーの直径が10nm〜10μmであることを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の複合誘電体組成物。
【請求項14】
請求項1記載の複合誘電体組成物から誘電体層が形成され、温度変化に対する静電容量変化、ΔC/C×100(%)が≦5%であるシグナルマッチング用エンベッディドキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−109655(P2007−109655A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277255(P2006−277255)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】