説明

温度測定装置

【課題】油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉に対して、該油槽内の液体の影響を防ぎつつ、各処理室内の炉内温度を測定する温度測定装置であって、該炉内温度の影響によって断熱効果が低下することなく、該炉内温度を常に正確に測定することができる温度測定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】測定データを処理する測定装置本体2と、測定装置本体2を内装する内耐熱ケース31と、蓄熱素材32を介して内耐熱ケース31を被包する断熱層4と、断熱層4を内装する外耐熱ケース6とを備え、断熱層4が、互いに積層された外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・によって構成されるとともに、外耐熱ケース6の内面に沿って、積層方向に摺動可能に配設される温度測定装置1であって、外耐熱ケース6と断熱層4との間には、断熱層4を積層方向に沿って挟持する方向に付勢する付勢手段5・5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉において、該連続浸炭炉の各処理室内の温度を測定する温度測定装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄鋼材料(以下、「ワーク」と記載する)に施す表面硬化法の一つとして、浸炭処理が知られている。
前記浸炭処理は細分化された複数の工程によって実施されるとともに、これら複数の工程からなる浸炭処理ラインは、主に、各工程が実施される処理室をワークの進行方向に沿って一直線上に並べた連続浸炭炉によって構成される。
【0003】
ここで、図7を用いて、従来の連続浸炭炉の一例について説明する。
図7は、従来の連続浸炭炉100を示した全体斜視図であるが、本図に示すように、連続浸炭炉100は主に脱脂室101、予熱室102、浸炭室103、拡散室104、降温室105、および油槽106aを有する油焼入れ室106などからなり、これら各処理室101・102・・・106が、ワーク150の搬送方向(図7中の矢印Aの方向)に沿って連続的に一列に配設されて構成される。
そして、ワーク150に対して浸炭処理を施す際は、先ず、(1)脱脂室101によってワーク150の表面に付着した油脂分を除去し、(2)予熱室102によってワーク150の温度を浸炭処理に適した温度にまで昇温させ、(3)浸炭室103によってワーク150の表面に浸炭ガス(COガス)を吹き付けて該表面から炭素を浸透させ、(4)拡散室104によってワーク150を所定の温度に保持し、ワーク150に浸透した炭素(原子)を拡散させ、(5)降温室105によってワーク150の温度を焼入れ温度に適した温度にまで降温させた後、(6)ワーク150を油焼入れ室106内に投入し、ワーク150を油槽106a内に浸漬することで焼入れ処理を行うという、一連の作業工程が行われるのである。
【0004】
このような構成からなる連続浸炭炉においては、例えばワークの焼入れ特性などといった熱処理の結果に大きな影響を及ぼすことから、各処理室内の温度(以下、「炉内温度」と記載する)を厳格に管理する必要があり、処理室ごとに適正な温度が予め定められている。
即ち、炉立上げ直後や年数回の定期点検の際には、各処理室内の炉内温度を測定し、これら炉内温度が予め定められた温度にそれぞれ維持されていることを確認する作業が必要となる。
そこで近年、簡単、且つ人手をかけずに各処理室内の炉内温度が測定可能なことから、データロガーと称される履歴データ記録装置を備える測定装置を用いて、これら炉内温度を測定することが行われている(例えば、「特許文献1」を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−292421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記「特許文献1」によって示される技術を用いれば、約950℃にもおよぶ高温の炉内温度や油槽内の液体の侵入に対して、測定装置を確実に保護し、連続浸炭炉における各処理室内の炉内温度を容易に測定可能であるとも思われる。
しかし、前記「特許文献1」による技術では、双方の熱膨張率の違いより、二重構造からなる断熱ケースと、これら断熱ケースの間に挟装される断熱材との間に隙間が発生することもあり、常に期待した断熱効果を発揮することは難しい。
その結果、連続浸炭炉における各処理室内の炉内温度の影響によって測定装置が故障し、該炉内温度を常に正確に計測できるとは言い難い。
【0007】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉に対して、該油槽内の液体の影響を防ぎつつ、各処理室内の炉内温度を測定する温度測定装置であって、該炉内温度の影響によって断熱効果が低下することなく、該炉内温度または炉内を通過するワークの温度を常に正確に測定することができる温度測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、測定データを処理する測定装置本体と、該測定装置本体を内装する内耐熱ケースと、該内耐熱ケースを被包する断熱材と、該断熱材を内装する外耐熱ケースと、を備え、前記断熱材が、互いに積層された複数の板状部材から構成されるとともに、前記外耐熱ケース内を積層方向に沿って摺動可能に配設される温度測定装置であって、前記外耐熱ケースと前記断熱材との間には、前記断熱材を積層方向において圧縮する側へ付勢する付勢手段を備えるものである。
【0010】
請求項2においては、請求項1に記載の温度測定装置であって、前記付勢手段は、蛇腹構造を有した略筒状に形成され、軸心方向に向かって伸縮可能に構成されるとともに、前記外耐熱ケースと前記断熱材との間において、前記軸心方向を前記断熱材の積層方向に向けて配設され、前記付勢手段の内部には流体が充填されるものである。
【0011】
請求項3においては、請求項2に記載の温度測定装置であって、前記付勢手段に充填される流体は、空気または水であるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における温度測定装置によれば、油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉に対して、該油槽内の液体による影響を防ぎつつ、各処理室内の炉内温度の影響によって断熱効果が低下することなく、該炉内温度または炉内を通過するワークの温度を常に正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係る温度測定装置の全体的な構成を示した断面側面図。
【図2】温度測定装置に備えられる弾性部材を示した図であり、(a)は周囲の温度が常温である場合の状態を示した側面図、(b)は周囲の温度が高温である場合の状態を示した側面図。
【図3】温度測定装置に備えられる耐熱ケースの構成を示した分解立体図。
【図4】温度測定装置とワークを搭載する搬送トレイを示した斜視図。
【図5】油槽内に沈水する、温度測定装置とワークを搭載する搬送トレイを示した側面図。
【図6】温度測定装置によって温度測定されるワークを示した正面図。
【図7】従来の連続浸炭炉を示した全体斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0015】
[温度測定装置1]
先ず、本発明を具現化する温度測定装置1の構成について、図1乃至図3を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図1および図3における矢印Aの方向を前方と規定して以下説明する。また、図1乃至図3においては、図面上の上下方向を温度測定装置1、付勢手段5、および外耐熱ケース6の上下方向と各々規定して説明する。
【0016】
温度測定装置1は、例えば油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉に対して、該連続浸炭炉を構成する各処理室内の温度(以下、「炉内温度」と記載する)またはワークの温度を測定するための装置であって、前記油槽内の液体による影響を防止する機能(耐油機能)、および高温の炉内温度による影響を防止する機能(耐熱機能)を同時に兼ね備えた温度測定装置である。
【0017】
即ち、図1に示すように、温度測定装置1は主に測定装置本体2と、測定装置本体2を内装する内装部3と、内装部3を全体的に被包する断熱層4と、断熱層4を挟持しつつ付勢する複数の付勢手段5・5と、これら内装部3(測定装置本体2を含む)や断熱層4や付勢手段5・5などを全体的に囲繞(内装)する外耐熱ケース6とを有して構成される。
【0018】
測定装置本体2は、所謂データロガーと称される履歴データ記録装置によって構成される。また、測定装置本体2には、熱電対からなる複数のプローブ2a・2a・・・(図1においては1本のみ記載)が電気的に接続され、各プローブ2a・2a・・・の先端部には、各処理室内の炉内温度を検出する接触端子部2b・2b・・・(図4を参照)が配設される。
そして、接触端子部2bによって検出された各処理室内の炉内温度は、電気信号に変換されて測定装置本体2に送信され、履歴データ(測定データ)として測定装置本体2によって処理され保存される。
【0019】
次に内装部3について説明する。
内装部3は、測定装置本体2を内装する内耐熱ケース31と、内耐熱ケース31の周囲に配設される蓄熱素材32とを有して構成される。
内耐熱ケース31は、測定装置本体2を内装するのに十分な内部空間を有する箱状の部材からなり、本体部31aと蓋部31bとからなる分割構造を有して構成される。
また、蓋部31bによって本体部31aを閉塞する際において、これら本体部31aと蓋部31bとの間には、樹脂性素材からなるシール部材33が配設される。つまり、シール部材33は、本体部31aと蓋部31bとによって挟持されつつ、これら本体部31aの合わせ面31cと、蓋部31bの合わせ面31dとに対して同時に密着されており、内耐熱ケース31の内部空間は、シール部材33によってシールされ、より密閉性が高められる構成となっている。
【0020】
そして、このような構成からなる内耐熱ケース31の内部空間に、測定装置本体2は内装される。また、測定装置本体2に接続されたプローブ2aは、本体部31aと蓋部31bとの合わせ面31c・31d間に生じる間隙部(以下、「合わせ面間隙部」と記載する)を介して、前記内部空間より内耐熱ケース31の外部へと延出される。
【0021】
なお、前記合わせ面間隙部において、シール部材33は十分な弾力性を有することから、プローブ2aは、断面形状をつぶされることなく、シール部材33に被包されることとなる。また、シール部材33による耐熱ケース31の内部空間のシール性が損なわれることもない。
【0022】
蓄熱素材32は外部の熱を潜熱として内部に取り込む性質を有した部材であり、無機水和塩や有機物化合物など既知の素材によって形成される。
蓄熱素材32は、内耐熱ケース31の形状に即して形成された内部空間を有し、本体部32aと蓋部32bとからなる分割構造を有して構成される。また、前記内部空間に内耐熱ケース31を内装しつつ、蓋部32bによって本体部32aを閉塞した状態において、これら本体部32aおよび蓋部32bの合わせ面は、内耐熱ケース31の合わせ面31c・31dと略同一平面上に位置するようになっている。
このように、蓄熱素材32は内耐熱ケース31の外周を全体的に被覆している。
【0023】
そして、内耐熱ケース31の内部空間より外部に向かって延出されたプローブ2aは、これら本体部32aおよび蓋部32bの合わせ面によって挟持されつつ、さらに蓄熱素材32の外部へと延出される。
なお、これら本体部32aおよび蓋部32bの合わせ面において、蓄熱素材32は十分な弾力性を有することから、プローブ2aの断面形状がつぶされることはない。
【0024】
次に断熱層4について説明する。
断熱層4は、複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・によって構成される。
外側断熱材4Aおよび内側断熱材4Bは、熱の伝導を抑える性質を有した部材であり、例えば発泡系断熱素材や繊維系断熱素材など既知の素材によって形成される。
【0025】
外側断熱材4Aおよび内側断熱材4Bは、外耐熱ケース6の内周面に沿った外縁形状を有する板状部材からなり、所定の厚みを有して形成される。また、内側断熱材4Bの板面の中央部には開口部4bが形成される。
なお、開口部4bは、正面視にて蓄熱素材32の外形形状に即した形状に形成される。
【0026】
外側断熱材4Aおよび内側断熱材4Bは、それぞれ複数枚が板厚方向に積層されており、その積層方向が略筒状の金属部材からなる外耐熱ケース6の軸心方向となるように配置されている。
【0027】
複数積層された内側断熱材4B・4B・・・は、外耐熱ケース6内の軸心方向中央部に配置され、複数積層された外側断熱材4A・4Aは、内側断熱材4B・4B・・・の積層方向における一側(前側)および他側(後側)に配置されている。
つまり、外側断熱材4Aおよび内側断熱材4Bは、積層方向の一側から他側へ向けて、外側断熱材4A・4A、内側断熱材4B・4B・・・、および外側断熱材4A・4Aの順に積層されており、一側の外側断熱材4A・4Aと他側の外側断熱材4A・4Aとで内側断熱材4B・4B・・・を挟持するように配置されている。
【0028】
このように配置された外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・においては、一側に配置される外側断熱材4A・4Aの他側端面4cと、内側断熱材4B・4B・・・の一側端面4eとが密接されるとともに、他側に配置される外側断熱材4A・4Aの一側端面4dと、内側断熱材4B・4B・・・の他側端面4fとが密接されている。
また、各外側断熱材4A・4A、および内側断熱材4B・4B・・・は、外耐熱ケース6内を、外耐熱ケース6の軸心方向に沿って摺動可能に設けられている。
【0029】
こうして配設された複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・からなる断熱層4の内部には、内側断熱材4B・4B・・・の開口部4b・4b・・・と、一側の外側断熱材4A・4Aの他側端面4cと、他側の外側断熱材4A・4Aの一側端面4dとによって囲まれた内部空間が形成される。
【0030】
そして、前記内部空間は、内装部3(より詳しくは、蓄熱素材32)の外形に即した形状を有し、断熱層4は、内部空間に内装された内装部3を全体的に被包するとともに、内装部3の外面と密接される。
換言すれば、内耐熱ケース3は、蓄熱素材32を介して、断熱層4によって全体的に被包される。
【0031】
このような構成を有することで、高温の炉内に設置された温度測定装置1においては、炉内雰囲気等からの熱が、断熱層4により内部に伝導されることが抑えられるとともに、潜熱として蓄熱素材32内に取り込まれることとなり、内耐熱ケース31内の断熱効果は、より向上するのである。
【0032】
なお、断熱層4の内部空間に内装部3を内装した状態において、蓄熱素材32の本体部32aおよび蓋部32bの合わせ面は、最前側に位置する内側断熱材4Bの後面(あるいは、内側断熱材4Bの後側に隣接する、内側断熱材4Bの前面)と、同一平面上に位置するようになっている。
【0033】
そして、内装部3の内部空間より外部に向かって延出されたプローブ2aは、最前側に位置する内側断熱材4Bと、内側断熱材4Bの後側に隣接する内側断熱材4Bとの合わせ面によって挟持されつつ、一旦断熱層4の外部へと延出され、さらに正面視において、断熱層4の外周面と、外耐熱ケース6の内周面とによって挟持されつつ、後述する外耐熱ケース6の継手64へと導かれる。
なお、外側断熱材4Aおよび内側断熱材4Bは十分な弾力性を有することから、断熱層4や外耐熱ケース6によって挟持されるプローブ2aは、その断面形状がつぶされることなく、断熱層4および外耐熱ケース6に被包されることとなる。また、内装部3に対する断熱層4による断熱効果が損なわれることはない。
【0034】
次に、付勢手段5について説明する。
付勢手段5は、断熱層4を構成する複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・に対して、これら部材間に隙間が生じないように、断熱層4を付勢するための部位である。
付勢手段5は、密閉された内部空間を有する略筒状の金属部材からなり、その筒形状の軸心方向に蛇腹構造5aが設けられる。つまり、付勢手段5は、蛇腹構造5aによって、軸心方向に向かって伸縮可能に構成される。
なお、付勢手段5の材質については、本実施例のものに限定されることはなく、例えば、耐熱性を有した樹脂素材などを用いてもよい。
【0035】
また、付勢手段5の内部には、例えば空気または水などからなる流体が充填されており、該流体の体積変化に伴って、付勢手段5は伸張あるいは縮退するようになっている。
なお、前記流体については、本実施例のものに特に限定されないが、例えば、油などの場合には、空気や水と比べて熱膨張率が低いため、これら空気や水と比べて温度変化に対する応答性に劣る。従って、付勢手段5に充填される流体は、空気または水を用いることが好ましい。
【0036】
そして、外耐熱ケース6内において、付勢手段5・5は、断熱層4の前方および後方に各々配設されるとともに、外耐熱ケース6と同軸上に設けられる。つまり、外耐熱ケース6と断熱層4との間において、付勢手段5・5は軸心方向を、断熱層4の積層方向(前後方向)に向けて配設される。
【0037】
また、これら付勢手段5・5は、一方の端面において、外耐熱ケース6内の前面(あるいは後面)と密着されつつ、他方の端面において、断熱層4の前面(あるいは後面)と密着される。
【0038】
このような構成からなる付勢手段5・5によって、複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・から構成される断熱層4は、周囲の温度変化に影響を受けることなく、常に積層方向(前後方向)に沿って挟持される方向に付勢される。つまり、断熱層4は、付勢手段5・5によって、積層方向における圧縮される側へ付勢されている。
【0039】
即ち、図2(a)に示すように、例えば、温度測定装置1が未だ測定対象とする連続浸炭炉内に投入されておらず、周囲の温度が常温である場合、付勢手段5の全長(図2(a)に示す寸法X1)は、付勢手段5に充填された流体の体積によって、自然状態における断熱層4の前面(あるいは後面)と、外耐熱ケース6内の前面(あるいは後面)との間隙寸法に比べてやや大きな状態(以下、「縮退状態」と記載する)に維持される。
従って、付勢手段5は、常温状態においては、外耐熱ケース6の軸心方向、且つ外耐熱ケース6に対して相対的に後方(あるいは前方)に向かって、断熱層4の前面(あるいは後面)を付勢する。
【0040】
一方、温度測定装置1が連続浸炭炉内に投入されて周囲の温度が高温状態になると、双方(外耐熱ケース6および断熱層4)の熱膨張率の違いから、外耐熱ケース6は断熱層4に対して相対的に、軸心方向に向かって膨張する。
つまり、断熱層4の熱膨張率に比べて外耐熱ケース6の熱膨張率が高いため、外耐熱ケース6の軸心方向に関する膨張量は、断熱層4の前後方向(外耐熱ケース6の軸心方向)に関する膨張量に比べて大きい。
その結果、断熱層4の前面(あるいは後面)と、外耐熱ケース6内の前面(あるいは後面)との間隙寸法は、周囲の温度が常温である場合に比べて大きくなり、そのままでは断熱層4を構成する複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・間に隙間が生じることとなる。
【0041】
しかし、この際、図2(b)に示すように、本実施例における付勢手段5においては、外耐熱ケース6が膨張するのに追従して、内部に充填された流体の体積も膨張することとなる。
即ち、付勢手段5の全長(図2(b)に示す寸法X2)は、前記流体の体積変化によって、断熱層4の前面(あるいは後面)と、外耐熱ケース6内の前面(あるいは後面)との間隙寸法に比べて、常にやや大きな状態(以下、「伸張状態」と記載する)に維持される。
よって、付勢手段5は、高温状態においても、外耐熱ケース6の軸心方向、且つ外耐熱ケース6に対して相対的に後方(あるいは前方)に向かって、断熱層4の前面(あるいは後面)を付勢する。
その結果、断熱層4を構成する複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・に対して、これら部材間に隙間が生じることはなく、高温の炉内温度の影響により、内耐熱ケース31内の断熱効果が低下することもないのである。
【0042】
次に外耐熱ケース6について説明する。
図1に示すように、外耐熱ケース6は、密閉された内部空間を有する略筒状の金属部材からなり、図1では、その軸心方向が図1において規定した前後方向と一致している。
また、図3に示すように、外耐熱ケース6は軸心方向中央部にて分断された分割構造からなり、前部に位置する前側本体部6Aと、後部に位置する後側本体部6Bとを有して構成される。
【0043】
前側本体部6Aおよび後側本体部6Bの開口部(外耐熱ケース6の軸心方向中央部に位置する分割部)の縁部には、フランジ部6a・6aが各々設けられる。また、これらフランジ部6a・6aには、複数の貫通孔6b・6b・・・が、前側本体部6Aあるいは後側本体部6Bの軸心方向に対して平行、且つ配設位置が互いに同位相となるようにして形成される。
【0044】
そして、これら前側本体部6Aおよび後側本体部6Bは、同軸上に配設されつつ、各々のフランジ部6c・6dにおける互いの対向面を合わせ面として組み付けられ、貫通孔6b・6b・・・を介して、複数の耐熱ボルト61・61・・・および耐熱ナット62・62・・・を用いて締結される。
【0045】
ここで、前側本体部6Aおよび後側本体部6Bを組付ける際において、各フランジ部6a・6aの合わせ面の間には、銅板からなるシール部材63が配設される。つまり、シール部材63は、前側本体部6Aおよび後側本体部6Bによって挟持されつつ、各々のフランジ部6a・6aの合わせ面に対して同時に密着されており、高温の炉内温度下における外耐熱ケース6の内部空間は、シール部材63によって、より密閉性が高められる構成となっている。
【0046】
より具体的には、例えば測定対象とする連続浸炭炉内に温度測定装置1が投入されると、周囲の温度がおよそ200℃〜300℃に到達した時点で、シール部材63は軟化し始める。
この際、耐熱ボルト61および耐熱ナット62は、さほど周囲の温度に影響を受けることもなく十分な締付力が維持される。
その結果、これら耐熱ボルト61および耐熱ナット62の締付力によって、軟化したシール部材63は各々のフランジ部6a・6aの合わせ面に対して密着されることととなり、外耐熱ケース6の内部空間の密着性が高められる。
【0047】
一方、連続浸炭炉内の炉内温度の測定が進み、最高温度であるおよそ950℃近辺にまで周囲の温度が到達すると、耐熱ボルト61および耐熱ナット62は、前記周囲の温度に影響を受けて、十分な締付力を維持できなくなる。
しかし、この際においては、前述の通りシール部材63は既に軟化しているため、各々のフランジ部6a・6aの合わせ面に対して、依然密着されることととなり、外耐熱ケース6の内部空間の密着性が高められるのである。
【0048】
前側本体部6Aおよび後側本体部6Bの内の何れか一方、あるいは双方には、複数の継手64・64・・・が挿設されており(本実施例においては、前側本体部6Aのみに配設)、これら継手64・64・・・を介して、内装部3の外部へと延出されたプローブ2aは、外耐熱ケース6の内部より外部に向かって引き出される。
【0049】
以上のような構成を有することで、温度測定装置1は、「耐油機能」と「耐熱機能」と同時に兼ね備えることを可能としている。
即ち、内耐熱ケース31および外耐熱ケース6にシール部材33・63を各々設けることで、内装部3の内部空間に対する高度な「耐油機能」を実現し、また、蓄熱素材32および断熱層4を、内耐熱ケース31と外耐熱ケース6との間に設けることで、内装部3の内部空間に対する高度な「耐熱機能」を実現しているのである。
【0050】
[測定方法]
次に、本発明を具現化する温度測定装置1による炉内温度またはワーク温度の測定方法について、図4乃至図6を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図4および図6における矢印Aの方向を前方と規定して以下説明する。また、図4および6においては、図面上の上下方向を温度測定装置1の上下方向と各々規定して説明する。
【0051】
先ず、図4に示すように、温度測定装置1は、ジグ51によって支持された複数の鉄鋼材料(以下、「ワーク」と記載する)50・50・・・とともに、搬送トレイ52上に搭載される。
【0052】
温度測定装置1の外耐熱ケース6に配設される複数の継手64・64・・・からは、プローブ2a・2a・・・がそれぞれ引き出されている。また、これらプローブ2a・2a・・・の先端部に各々設けられる接触端子部2b・2b・・・は、搬送トレイ52上に搭載される複数のワーク50・50・・・・の表面にそれぞれ貼接される。
こうして、複数のワーク50・50・・・とともに、搬送トレイ52上に搭載された温度測定装置1は、測定対象とする連続浸炭炉内に投入される。
【0053】
連続浸炭炉内に投入された温度測定装置1は、その後、各処理室内を順に通過するに従って、これらのワーク50・50・・・の温度を測定し、これら測定結果を履歴データとして測定装置本体2(図1を参照)に記録する。
【0054】
即ち、搬送トレイ上に搭載された複数のワーク50・50・・・の表面は、各処理室内を通過するごとに、該処理室内の炉内温度にまで昇温されることとなり、昇温されたワーク50・50・・・の表面の温度は、接触端子部2b・2b・・・によって検知される。
そして、検知された炉内温度の測定データは電気信号に変換された後、プローブ2a・2a・・・を通じて、測定装置本体2に送信され、履歴データとして順次、測定装置本体2内に記録される。
なお、各処理室内を通過するワーク50・50・・・は、該処理室内の炉内温度にまで昇温されることから、プローブ2a・2a・・・により検知されたワーク50・50・・・温度を、各処理室内の炉内温度として捉えることも可能である。
【0055】
こうして、連続浸炭炉を構成する全ての処理室内におけるワーク50・50・・・の温度を測定し終えた温度測定装置1は、前記連続浸炭炉より搬出されると、内部より測定装置本体2を取り出される。
そして、パソコンなどによって、測定装置本体2に記録されたデータが読み取られることで、温度測定装置1による連続浸炭炉の炉内を通過するワーク50・50・・・温度の測定が完了するのである。
【0056】
ところで、本実施例における温度測定装置1においては、搬送トレイ52上に搭載される複数のワーク50・50・・・に対して、これらワーク50・50・・・の表面温度を一度に同時に測定し、これら測定値を履歴データとして測定装置本体2に記録することとしている。
【0057】
このような構成を有することで、例えば、連続浸炭炉の油槽内における液体の流れの状態を把握することが可能となり、前記液体の温度管理や流速管理に役立てることができる。
即ち、図5に示すように、油槽53において、内部に貯溜される液体54は、およそ百数十℃にまで昇温されるとともに、図示せぬ撹拌機構によって常に油槽53内を循環(図5に示す矢印Bの方向)している。
【0058】
そして、このような液体54の温度分布や流速分布は、ワーク50の焼入れ特性など、熱処理の結果に大きな影響を及ぼす。
即ち、複数のワーク50・50・・・を搭載した搬送トレイ52を液体54内に浸漬する際、液体54の温度分布や流速分布の偏りによっては、これらワーク50・50・・・が搭載される位置によって、冷却状態の差異が生じ、搬送トレイ52上にて歪みなどの品質不良を生じる原因ともなる。
【0059】
そこで、本実施例における温度測定装置1においては、搬送トレイ52上の複数の箇所に渡って配設される、それぞれのワーク50・50・・・に対して接触端子部2b・2b・・・を貼接し、これらワーク50・50・・・の表面温度を一度に同時に測定することを可能としている。
【0060】
こうして測定された測定結果によれば、搬送トレイ52上の場所ごとにおける液体54の温度差だけでなく、ワーク50の冷え方の差(温度変化)を基にして、搬送トレイ52上の場所ごとにおける液体54の流速差をも判断することができ、液体54の温度分布や流速分布を容易に把握することが可能となる。
【0061】
よって、このような油槽53内におけるワーク50の温度測定を定期的に行うことで、油槽53内の液体54に関する流れの状態を把握し、液体54の温度管理や流速管理を確実に行うことができるのである。
【0062】
なお、図6に示すように、例えば、油槽53の液体54(図5を参照)内において、1個のワーク50に対して、複数個所に接触端子部2b・2b・・・を貼接し、これら複数個所における表面および内部の温度を一度に同時に測定し、これら測定値を履歴データとして測定装置本体2に記録することとしてもよい。
【0063】
このような構成を有することで、一個のワーク50における部分ごとの冷却速度を把握することが可能となる。
そして、前記冷却速度に関するデータは、液体54によるワーク50の均一な冷却状態を実現するための荷姿(ジグ51によるワーク50の支持姿勢)を検討する際のデータとして役立たせることができるのである。
【0064】
以上のように、本実施例における温度測定装置は、測定データを処理する測定装置本体2と、測定装置本体2を内装する内耐熱ケース31と、蓄熱素材32を介して内耐熱ケース31を被包する断熱層(断熱材)4と、断熱層(断熱材)4を内装する外耐熱ケース6と、を備え、断熱層(断熱材)4が、互いに積層された複数の板状部材からなる外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・によって構成されるとともに、外耐熱ケース6内を積層方向に沿って摺動可能に配設される温度測定装置1であって、外耐熱ケース6と断熱層(断熱材)4との間には、断熱層(断熱材)4を積層方向において圧縮する側へ付勢する付勢手段5・5を備えることとしている。
【0065】
このような構成を有することで、本実施例における温度測定装置1によれば、油槽内へワークを浸漬する焼入れ室を備えた連続浸炭炉に対して、該油槽内の液体による影響を防ぎつつ、各処理室内の炉内温度の影響によって断熱効果が低下することなく、該炉内を通過するワークの温度を常に正確に測定することができる。
【0066】
即ち、本実施例における温度測定装置1においては、外耐熱ケース6および内耐熱ケース31による二重構造によって測定装置本体2を覆うため、内耐熱ケース31の内部空間の機密性が高められ、油槽内の液体による影響より、測定装置本体2を効果的に防ぐことができる。
そして、各処理室内の炉内温度の影響については、主に、互いに積層された複数外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・からなる断熱層(断熱材)4によって防がれるところ、外耐熱ケース6と断熱層4との熱膨張率の違いから、外耐熱ケース6が断熱層4に対して相対的に、断熱層4の積層方向に向かって膨張した結果、たとえ複数の外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・間に隙間が生じ得る状態になっても、外耐熱ケース6と断熱層4との間には、断熱層4を積層方向に沿って挟持する方向に付勢する付勢手段5・5が備えられているため、これら外側断熱材4A・4A・・・および内側断熱材4B・4B・・・間に隙間が生じることはない。
従って、本実施例における温度測定装置1によれば、各処理室内の炉内温度の影響によって断熱層4内に隙間が生じ、断熱効果が低下するようなこともなく、該炉内を通過するワークの温度を常に正確に測定することができるのである。
【0067】
また、本実施例における温度測定装置1において、付勢手段5は、蛇腹構造5aを有した略筒状に形成され、軸心方向に向かって伸縮可能に構成されるとともに、外耐熱ケース6と断熱層(断熱材)4との間において、前記軸心方向を断熱層(断熱材)4の積層方向に向けて配設され、付勢手段5の内部には流体が充填されることとしている。
【0068】
このような構成を有することで、本実施例における温度測定装置1は、数百℃にもおよぶ高温状態の環境下においても、付勢手段5の付勢力が低下することはなく、断熱層4内に生じる隙間を防止し、断熱効果の低下を極力防ぐことができる。
【0069】
即ち、数百℃にもおよぶ高温状態の環境下においては、例えば金属製のコイルバネによって付勢手段を構成した場合、材質の耐力の低下によって、弾性力が低下し、常温下における付勢力を発揮することができない。
一方、本実施例における付勢手段5においては、内部に流体を充填し、該流体の熱膨張による体積変化によって、付勢手段5を伸張あるいは縮退させることとしている。
従って、本実施例における温度測定装置1においては、数百℃にもおよぶ高温状態の環境下においても、付勢手段5の弾性力が低下することはなく、断熱層4内に生じる隙間を防止し、断熱効果の低下を極力防ぐことができるのである。
【0070】
また、本実施例における温度測定装置1において、付勢手段5に充填される流体は、空気または水であることとしている。
【0071】
即ち、付勢手段5に充填される流体については、特に限定されないが、例えば、油などの場合には、空気や水と比べて熱膨張率が低いため、これら空気や水と比べて応答性に劣る。従って、付勢手段5に充填される流体は、水または空気を用いることが好ましいのである。
【符号の説明】
【0072】
1 温度測定装置
2 測定装置本体
4 断熱層(断熱材)
4A 外側断熱材
4B 内側断熱材
5 付勢手段
5a 蛇腹構造
6 外耐熱ケース
31 内耐熱ケース
32 蓄熱素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定データを処理する測定装置本体と、該測定装置本体を内装する内耐熱ケースと、該内耐熱ケースを被包する断熱材と、該断熱材を内装する外耐熱ケースと、を備え、前記断熱材が、互いに積層された複数の板状部材から構成されるとともに、前記外耐熱ケース内を積層方向に沿って摺動可能に配設される温度測定装置であって、
前記外耐熱ケースと前記断熱材との間には、前記断熱材を積層方向において圧縮する側へ付勢する付勢手段を備える、
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、
蛇腹構造を有した略筒状に形成され、軸心方向に向かって伸縮可能に構成されるとともに、
前記外耐熱ケースと前記断熱材との間において、前記軸心方向を前記断熱材の積層方向に向けて配設され、
前記付勢手段の内部には流体が充填される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記付勢手段に充填される流体は、空気または水である、
ことを特徴とする、請求項2に記載の温度測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112845(P2012−112845A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262911(P2010−262911)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】