説明

測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カード、無線端末及び位置測定ネットワークシステム

【課題】本発明は、ホストコンピュータ側に負荷をかけず低消費電力で、時間応答性がよく、通信の秘匿性に優れ、精度の高い位置測定が行える測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カード、無線端末及び位置測定ネットワークシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の測位機能付無線制御チップセット1aは、MAC制御部71に、すべての受信パケットの送信元MACアドレスを取り出すと共にこれを受信信号強度と対応付けてRSSIテーブルの要素とする位置測定制御手段75aが設けられ、記憶制御部74がこの要素をメモリセクション8内のRSSIテーブルに格納することを特徴とする。測位機能付無線通信カード、無線端末及び位置測定ネットワークシステムは測位機能付無線制御チップセット1aを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信するとともに周囲の受信信号強度(Received Signal Strength Indicator、以下RSSI)を測定してホストコンピュータに出力する測位機能付無線制御チップセット、またこれを備えた測位機能付無線通信カード、さらにこの測位機能付無線制御チップセットを搭載して無線ネットワーク内での位置を測定することができる無線端末、そして無線ネットワーク内での通信を利用して無線端末の位置を測定することができる位置測定ネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、位置測定に関する研究が盛んに行われてきた。とくに、GPSはカーナビゲーションの普及とともに実用上位置測定の主要な位置を占めるに至っている。しかし、GPSは衛星との通信が必要なため基本的に屋外で利用可能なものにすぎず、駅や空港、博物館、図書館等の公共の屋内空間、あるいはデパートやイベント会場等の商用の屋内空間での位置情報の提供には無力ともいえる。GPS以外の位置測定の技術としては、携帯電話を使って複数の基地局からの時刻を受信し、時刻のずれによる三角測量を行って位置を測定するE−OTD(Enhanced Observed Time Differences)、逆に携帯電話からの電波を複数の基地局で受信してその時間差から位置を測定するTDOA(Time Difference of Arrival)といった技術も実用化されている(例えば特許文献1参照)。しかし、E−OTDやTDOAは複数の基地局などで高精度に時刻の同期をとる必要があり、各基地局等に専用のハードウェア等が必要となる。そして、屋内の位置測定を行うとき後述するように壁や屋根等のために測定精度が低下するものであった。
【0003】
従って、屋内の位置測定を行うために超音波や赤外線、あるいは2.4GHz帯や5GHz帯等の電波を使った無線LANによるシステムが研究されている。このうち超音波や赤外線を利用したシステムは、これらの媒体の特性のため受信機等の設置場所が限られ、専用の設備が必要となるなど、この施設を導入するための導入費が高額となり、設置後の維持費も大きくなる傾向を有する。従って、超音波や赤外線を利用したシステムは、特殊な環境では適しても、一般に普及することはあまり見込めない。この点で、IEEE802.11b/a/gなどの規格に準拠したプロトコルで無線通信を行う無線LAN、あるいはBluetoothやhomeRF、UWB(Ultra Wideband)等の無線デバイスを搭載した機器間で無線通信を行って機器の位置を測定する位置測定ネットワークシステムは、無線通信と位置測定が1つのデバイスで行えるとともに、既に普及している無線デバイスを使うため比較的安価に設置でき、今後の普及が期待されるものである。
【0004】
ところで、無線LANによる位置測定ネットワークシステムの1つとして、予め無線LANを構成する基地局で無線端末が出す電波のRSSIと位置の関係を学習しておき、位置測定の際に基地局で無線端末の電波のRSSIを測定し、これにより無線端末の位置を測定するRADARシステムが知られている。しかし、このシステムは無線端末の電波のRSSIと位置の関係を予めテーブル(マップ)にしておかねばならず、この測定精度を上げるためキャリブレーションを行わなければならない。これは、屋内の無線通信の場合電波の減衰や反射、回折等が生じるからである。しかし、キャリブレーションは単調で面倒な作業であり、これを減少させるため次の技術が提案された(特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2の技術は、建物の部屋単位でRSSIを記録し、キャリブレーションデータまたは利用可能な最小限のデータの欠落があっても、RSSIに応じて十分正確な位置情報を生じさせる回帰関数を利用することを提案する。回帰アルゴリズムは、建物内の既知の位置から1組のRSSIをとり、RSSIを(x,y)の位置にマッピングする関数を生成するものであり、この関数は新しい位置(群)を推定するのに使われる。回帰のためにガウスカーネル関数等の同型基底関数が使われる。
【0006】
このように、RADARシステムなどは、無線端末の1つ1つに対して基地局でRSSIと位置の関係を学習する必要があり、精度を上げるためにはキャリブレーションが必要となる。特許文献2の技術は、キャリブレーションを減少させることはできるが、基本的にはRADARシステムと同様であり、最小限のキャリブレーションは必要である。
【0007】
そして従来の位置測定ネットワークシステムにおいて注目されるべきことは、無線端末の位置情報を得るために基地局と無線端末の位置関係が重要で、これだけが問題にされ、無線端末同士の位置関係が問題にされることはなかったことである。従って、無線端末が多数存在しても、これらが位置測定のためには役に立つことはなかった。
【0008】
そこで、本発明者らのうちの3人は、無線LAN内の基地局または無線端末(以下、両者を含めてホスト)が周囲のホストの出すパケットを受信し、その際にRSSIを測定することでホスト間の距離を推定(以下、測定)する位置測定ネットワークシステム、WiPS(Wireless LAN based Indoor Positioning System)を提案した(非特許文献1参照)。なお、受信するパケットは自分宛のパケットだけでなく、周囲のホスト間で送受信するすべてのパケットを受信する。
【0009】
このシステムは、すべてのホストがRSSIを測定するとともにRSSIを測定される、という2面性を備えたもので、従来の位置測定ネットワークシステムとは異なってキャリブレーションを行う必要がない。ホストがそれぞれに互いのRSSIを測定する機能をもつことで、キャリブレーションによって精度を向上させるのではなく、基準局中心の視点を無線端末中心の視点に変更し、RSSIを基に各ホスト間の距離を測定することにより、収集するデータ数を増加させることで精度を向上させるものである。
【0010】
図15は従来の位置測定ネットワークシステムの全体図である。図15において、G〜GはGPS等の測位手段を備え自分の位置情報を所有している基準局、M〜Mはそれぞれ移動可能で自分の位置情報を所有していない無線端末である。無線端末M〜M、基準局G〜Gはそれぞれが無線LANを構成するホストh(0≦i<8)として一括して表現できる。このとき無線端末M〜Mはh(0≦i<5)、基準局G〜Gはh(5≦i<8)となる。そして、各ホストhは直接通信可能なホストh(i≠j)のRSSIを測定する機能と、距離を推定(測定)する機能を備えている。また、基準局G〜G、無線端末M〜Mの中の1つ、例えば基準局Gは、各ホストhで推定した他のホストhとの距離を集計して位置測定を行う測位サーバとして機能する。なお、図15に示すシステムでは基準局G〜G、無線端末M〜Mからなる無線LANはアドホックネットワークを構成している。
【0011】
ところで一例を挙げると、無線端末Mは基準局として基準局Gだけとしか通信できないため、従来は基準局Gの通信圏内に存在するというだけしか分からなかった。しかし、WiPSによる位置測定ネットワークシステムにおいては、基準局Gのほかに無線端末M,M,Mとの通信を利用して、合計4つのホストのRSSIを測定して距離を測定することができる。推定されたホスト間の距離は無線端末Mから測位サーバ(ここでは基準局G)に送信され、測位サーバがこれらを総合して位置測定を行う。
【0012】
そこで、従来のWiPSによる位置測定ネットワークシステムで行う計算を簡単に説明する。無線端末数をm、基準局と無線端末の合計をnとし、ホストh(その位置はベクトルpで表される)とホストh(その位置はベクトルpで表される)が直接通信可能な場合の測定距離dij、両者が直接通信不可能な場合の距離をdmax+とすると、無線端末の位置測定は、基準局の位置リスト{ベクトルp|m≦i<n}とホスト間の測定距離のリスト{dij|0≦i,j<n;i≠j}を使って、無線端末の位置リスト{ベクトルp|0≦i<m}を求める問題と言い換えられる。なお、dmaxを電波の届く最大距離とすると、dmax+=max(|ベクトルp−ベクトルp|,dmax)と定義される。
【0013】
しかし、|ベクトルp−ベクトルp|〜dijであり、RSSIを測定して演算した測定距離dijには誤差が含まれている。従って、これをすべて真の距離として計算すると全体的に矛盾が生じるため、できるだけこの関係を満足し、矛盾が生じないような調和点としての位置を決定する。
【0014】
測位サーバで実行する測位アルゴリズムは、最小二乗法でも可能であるが、最急降下法によっている。このとき、無線端末(ホストh|0≦i<m)の位置の演算の初期値は、この無線端末と直接通信可能な基地局(ホストh|m≦i<n)の重心の位置にあるものと仮定する。この初期値と測定距離dijを前提に、各無線端末で位置に対する修正量ベクトルΔを求め、各ベクトルpに対して修正量ベクトルΔを加えて新たなベクトルpとし、新たな位置を基にこの修正を繰り返し、修正量ベクトルΔの最大値が所定の閾値を下回ったとき終了する。
【0015】
この修正量ベクトルΔは、RSSIを測定して算出された測定距離dijまたは上述のdmax+と距離lijとの差をとり、収束のためのパラメータα(経験的に0.1〜0.05程度の値)をかけた値である。この繰り返し計算により、別途得られた基準局の位置情報はそのままに、RSSIを測定して得た測定距離dijをできるだけ満足した最適解としての無線端末の位置を決定することができる。
【0016】
【特許文献1】特開2005−110314号公報
【特許文献2】特開2004−325440号公報
【非特許文献1】情報処理学会論文誌「コンピューティングシステム」、44巻、No.SIG10(ACS2)、2003年7月、北須賀輝明、中西恒夫、福田晃、p.131−p.140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上説明したように従来のWiPSによる位置測定ネットワークシステムは、TDOA等のように同期をとる必要がなく、超音波や赤外線を利用したシステムのように専用の設備のため費用がかかりすぎたりすることはない。また、RADARシステムや特許文献2の技術などではキャリブレーションが避けられないが、これが不要な点で優れた位置測定ネットワークシステムである。
【0018】
しかし、従来のWiPSによる位置測定ネットワークシステムでは、周囲のホストが送受信するパケットのすべてを受信し、RSSIを測定し、受信したパケットと共にこれをホストコンピュータへ送信して距離の演算をするため、ホストコンピュータはRSSIだけが必要であるにもかかわらず、自分宛ではないパケットまで無駄に受信し処理しなければならなかった。プロミスキャスモードを使っての処理となるため、普及時には通信の秘匿性も問題になる。しかも、演算をおこなった後に結果を測位サーバに送信する必要があり、これらの処理はホストコンピュータにとって負担であった。また、無駄な処理のためホストコンピュータの処理能力が不必要に低下し、時間応答性も悪くなる。また、移動端末の場合はとくに低消費電力が望まれるが、こうした無駄な処理のために電力消費が大きくなり、移動端末を使っての位置測定は事実上難しくなる。
【0019】
そこでこのような課題を解決するために本発明は、コンピュータに負荷をかけず低消費電力で、時間応答性がよく、通信の秘匿性に優れ、精度の高い位置測定が行える測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カード、無線端末及び位置測定ネットワークシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、変調部と復調部が設けられたベースバンド部と、物理層インターフェースを有しMAC層の通信制御を行うMAC制御部が設けられた下位層制御部と、書き換え可能なメモリ部とを備え、これらが一枚の基板に設けられた測位機能付無線制御チップセットであって、MAC制御部には、すべての受信パケットの送信元MACアドレスを取り出すと共にこれを受信信号強度と対応付けてRSSIテーブルの要素とする位置測定制御手段が設けられ、記憶制御部が該要素をメモリ部のRSSIテーブルに格納することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の測位機能付無線制御チップセットによれば、無線制御チップセットで受信パケットの処理とRSSIテーブルを生成させるため、ホストコンピュータに負荷をかけずに済み、低消費電力にすることができ、時間応答性が良好となる。また、プロミスキャスモードで動作するのではないため通信の秘匿性を危険にさらすことがない。
【0022】
本発明の測位機能付無線通信カードによれば、装着するだけで送受信するパケットの処理を行い、RSSIテーブルを生成させるためホストコンピュータに処理させないで済み、低消費電力にすることができる。また、ホストコンピュータで処理を行わないので時間応答性が良好となる。プロミスキャスモードで動作するのではないため通信の秘匿性に優れた測位機能付無線通信カードにすることができる。
【0023】
本発明の無線端末によれば、測位サーバを使って位置測定することができ、RSSIテーブルを生成させるため低消費電力で、測定結果を得るまでの時間応答性が良好であり、ノーマルモードで動作するため通信の秘匿性に優れる。
【0024】
本発明の位置測定ネットワークシステムによれば、無線端末がRSSIテーブルを生成して測位サーバが演算するので、測定結果を得るまでの時間応答性が良好で、無線端末がノーマルモードで動作するため通信の秘匿性に優れた位置測定ネットワークシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第1の形態は、変調部と復調部が設けられたベースバンド部と、物理層インターフェースを有しMAC層の通信制御を行うMAC制御部が設けられた下位層制御部と、書き換え可能なメモリ部とを備え、これらが一枚の基板に設けられた測位機能付無線制御チップセットであって、MAC制御部には、すべての受信パケットの送信元MACアドレスを取り出すと共にこれを受信信号強度と対応付けてRSSIテーブルの要素とする位置測定制御手段が設けられ、記憶制御部が該要素をメモリ部のRSSIテーブルに格納する測位機能付無線制御チップセットであり、無線制御チップセットで受信パケットの処理とRSSIテーブルを生成させるため、ホストコンピュータに負荷をかけずに済み、低消費電力にすることができる。また、ホストコンピュータで処理を行わないので時間応答性が良好となる。
【0026】
本発明の第2の形態は、第1の形態に従属する形態であって、受信信号強度を測定するRSSI計測部と、該RSSI計測部で測定したデータを下位層制御部に送信するRSSIデータ線とが基板に設けられた測位機能付無線制御チップセットであり、従来あまり利用されることのない受信信号強度を有効利用し、RSSIテーブルを一枚の無線制御チップセットだけで生成することができる。
【0027】
本発明の第3の形態は、第1または第2の形態に従属する形態であって、位置測定制御手段が送信元MACアドレスを取り出すと共にこれと受信信号強度とを対応付けてRSSIテーブルの要素とする第1の処理を行い、該第1の処理後の受信パケットに対して、MAC制御部が自分宛MACアドレスでない受信パケットを破棄する第2の処理を行う測位機能付無線制御チップセットであり、無線通信可能なすべてのパケットを受信できるが、MAC制御部をプロミスキャスモードでなくノーマルモードに設定することができため、通信の秘匿性を低下させることはない。
【0028】
本発明の第4の形態は、第1〜第3のいずれかの形態に従属する形態であって、直交変復調部がベースバンド部に接続して設けられ、該ベースバンド部、下位層制御部及びメモリ部と共に一体に構成された測位機能付無線制御チップセットであり、無線通信カードをよりコンパクトにすることができる。
【0029】
本発明の第5の形態は、第1〜第3のいずれかの形態の測位機能付無線制御チップセットと、受信信号と送信信号の周波数変換と増幅を行う送受信部と、アンテナとを備えた測位機能付無線通信カードであり、装着するだけで送受信するパケットの処理を行い、RSSIテーブルを生成させるためホストコンピュータに処理させないで済み、低消費電力にすることができる。また、ホストコンピュータで処理を行わないので時間応答性が良好となる。プロミスキャスモードで動作しないので通信の秘匿性を低下させることはない。
【0030】
本発明の第6の形態は、第1〜第3のいずれかの形態の測位機能付無線制御チップセットと、受信信号と送信信号の周波数変換と増幅を行う送受信部と、アンテナと、ネットワーク通信制御手段とを備え、位置測定の演算を行う測位サーバに位置測定を要求するとともにRSSIテーブルを送信する無線端末であり、測位サーバを使って位置測定することができ、RSSIテーブルを生成させるため低消費電力で、測定結果を得るまでの時間応答性が良好であり、ノーマルモードで動作するため通信の秘匿性に優れた無線端末を提供することができる。
【0031】
本発明の第7の形態は、位置測定の演算を行う測位サーバと、電波で受信したパケットの送信元MACアドレスと受信信号強度とを対応付けてRSSIテーブルを生成し、測位サーバに位置測定を要求するとともに該RSSIテーブルを送信する無線端末と、無線端末と無線通信することができ、測位手段を備えて自分の位置情報を測位サーバに通知することができる複数の基準端末とから構成された位置測定ネットワークシステムであって、RSSIテーブルと位置情報、及び無線端末の電波の最大到達距離とに基づいて無線端末の位置測定の演算を行う位置測定ネットワークシステムであり、無線端末がRSSIテーブルを生成し、測位サーバが位置測定のための演算をするので、測定結果を得るまでの時間応答性が良好で、無線端末がノーマルモードで動作するため、通信の秘匿性に優れた位置測定ネットワークシステムを提供することができる。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1のWiPSに基づく測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カード、無線端末及び位置測定ネットワークシステムについて図面に基づいて説明をする。図1は本発明の実施例1における測位機能付無線通信カードを搭載した無線端末の構成図、図2は本発明の実施例1における測位機能付無線制御チップセットの構成図、図3は本発明の実施例1における位置測定ネットワークシステムの全体構成図、図4は本発明の実施例1における無線端末の要部ブロック構成図、図5は本発明の実施例1における測位サーバの要部ブロック構成図、図6(a)は本発明の実施例1における測位機能付無線制御チップセットに設けられたRSSIテーブルの説明図、図6(b)は基準局から通知される位置情報通知の説明図、図7は本発明の実施例1における全ホストRSSIテーブルの説明図、図8は本発明の実施例1における位置テーブルの説明図である。
【0033】
図1において、1はホストコンピュータに装着されてIEEE802.11b/a/g、あるいはBluetoothやhomeRF、UWB(Ultra Wideband)等のプロトコルで無線通信を行うスーパーヘテロダイン方式等の測位機能付無線通信カード、1aはこの測位機能付無線通信カード1のベースバンド部、MAC(Medium Access Control)制御部、メモリ部等が基板に一体で設けられ、無線通信制御を行うと同時に、RSSIの測定値を使ってRSSIテーブルを作成し、これをホストコンピュータと送受信する測位機能付無線制御チップセットである。なお、この測位機能付無線制御チップセット1aは上記各機能部を1モジュール化したものであり、測位機能付無線制御基板モジュールとも言い換えることができる。
【0034】
2はアンテナ、3は測位機能付無線通信カード1を装着して無線通信を行うことができるホストコンピュータ、4はアンテナ2と測位機能付無線制御チップセット1aの間に設けられ受信信号と送信信号の周波数変換と増幅を行うRF/IF変換部(本発明の送受信部)であり、5は受信信号からI/Q信号への直交復調、逆にI/Q信号から送信信号への直交変調を行うI/Q変復調部(本発明の直交変復調部)である。なお、RF/IF変換部4、I/Q変復調部5を1つにまとめてアナログ回路のRF制御部として構成した場合、このRF制御部と測位機能付無線制御チップセット1aとアンテナ2等とから測位機能付無線通信カード1が構成されることになる。
【0035】
次に図2において測位機能付無線制御チップセット1aの説明をすると、6はデジタルのI/Q信号を変調してI/Q変復調部5に出力するとともにアナログのI/Q信号を復調するベースバンド部である。なお、ベースバンド部6の変調部65、復調部62(後述する)にスペクトラム拡散処理、同逆拡散処理等の処理を行う機能を付加することもできる。7は物理層やMAC層の制御を行う下位層制御部、8はフラッシュメモリ等の書き換え可能メモリからなるメモリセクション(本発明のメモリ部)、8aはメモリセクション8に設けられた書き換え可能メモリ、8bは書き換え可能メモリ8aに設けられたRSSIテーブル部である。このRSSIテーブル部8bにRSSIテーブルが格納される。なお、実施例1においては、下位層制御部7、ベースバンド部6、メモリセクション8とからなるデジタル回路のチップセットを測位機能付無線制御チップセット1aとしたが、RSSI計測部が設けられたI/Q変復調部5や、場合によってRF/IF変換部4まで含め、デジタル回路とアナログ回路と組み合わせたチップセット、例えば図2に示す測位機能付無線制御チップセット1bとすることも可能である。
【0036】
続いて、図1に基づいて実施例1の測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カードの構成について詳細に説明する。RF/IF変換部4において、41は送受信の際に切り替えるアンテナ共用部、42はローカル周波数信号や搬送波用信号を設定して供給する信号設定重畳部、42aは信号設定重畳部42のための温度補償水晶発振器、43は受信側のLNA等のRFアンプ、44,44aはRF/IF変換部4の受信側のバンドパスフィルタ(BPFと略記)、45は信号設定重畳部42からの信号を重畳する受信側の周波数変換部、46は送信側のパワーアンプ(PAと略記)、47,47aはRF/IF変換部4のバンドパスフィルタ(BPFと略記)、48は信号設定重畳部42からの信号を重畳する送信側の周波数変換部である。
【0037】
次に、I/Q変復調部5について説明する。51は信号設定重畳部42によって搬送波信号の位相差が設定制御される移相部、52はI/Q変復調部5の受信側のAGC(Automatic Gain Control)アンプ、53はI/Q復調部、54はI/Q信号それぞれに設けられたローパスフィルタ(LPFと略記)である。55はAGCアンプ52のAM電圧の大きさからRSSIを検出するRSSI計測部である。なお、RSSI計測部55は実施例1ではRF/IF変換部4の基板側に形成されているが、必ずしもその必要はなく、ベースバンド部6が形成された基板側に設けることもできる。RSSI計測部55では、RSSIが単位dBmで測定され、xdBm、例えばx=−12.2dBmが測定されると、[x]+100=88(ここで[x]は整数)と計算され、実測の−12.2dBmが位置測定用の1バイトの換算RSSI値「88」に変換される。RSSI計測部55からのデータはベースバンド部6に入力され、さらに下位層制御部7に送られ、RSSIテーブルの要素としてMACアドレスと共に後述するRSSIテーブルに書き込まれる。次に、56はI/Q変復調部5の送信側のアンプである。
【0038】
続いて、図2に基づいて実施例1の測位機能付無線制御チップセットの詳細について説明する。まず、ベースバンド部6について説明すると、55aはRSSI計測部55で測定したデータを下位層制御部7に送るためのRSSIデータ線、61はデータを転送するためのI/O、62は受信側のアナログデータをデジタルデータに復調する復調部、63はアナログのI信号をデジタルのI信号に変換するADコンバータ(図2上、I
ADCと略記)、63aはアナログのQ信号をデジタルのQ信号に変換するADコンバータ(図2上、Q ADCと略記)である。なお、RSSIデータ線55aはI/O61に接続され、パケットごとに換算RSSI値のデータが下位層制御部7に送られる。64は受信側の信号の大きさを制御するためのAGC部であって、I/Q変復調部5のAGCアンプ52の制御を行う。
【0039】
また、65は送信側のアナログデータをデジタルデータに変調する変調部、66はデジタルのI信号をアナログのI信号に変換するDAコンバータ(図2上、I
DACと略記)、66aはデジタルのQ信号をアナログのQ信号に変換するDAコンバータ(図2上、Q DACと略記)である。そして、67はパワーアンプ46を制御するAPL部である。
【0040】
続いて、下位層制御部7の説明を行う。71は自分宛MACアドレスでない受信パケットを破棄するノーマルモードでMAC層を制御することができ、後述する送信元MACアドレスを取り出す前処理を行うための位置測定制御手段75が設けられたMAC制御部、72は物理層の通信処理を行うPHYI/F(本発明の物理層インターフェース)である。73は下位層制御部7とホストコンピュータ3との間のI/F、74はデータの読み出し書き込みを行う記憶制御部、74aは下位層制御部7を構成するための制御プログラムを格納したチップ内ROM、74bは下位層制御部7のチップ内RAMである。記憶制御部74は、位置測定制御手段75がRSSIテーブルの要素として決定した送信元MACアドレスと換算RSSI値をRSSIテーブルに書き込み、また読み出しを行う。
【0041】
次に、75はMAC制御部71内に設けられ、全受信パケットから送信元MACアドレスを取り出すと共にその換算RSSI値とを対応付けてRSSIテーブルの要素とする位置測定制御手段である。このためのプログラムはチップ内ROM74aに設けられ、位置測定制御手段75は機能実現手段として構成される。また、位置測定制御手段75はホストコンピュータ3からの要求を受けてRSSIテーブルを送信することができる。75aは換算RSSI値あるいはRSSIの平均値を計算する平均値演算手段、75bは時間またはパケット数をカウントするカウンタ、76はWEPキーを使って暗号処理を行うWEPエンジンである。
【0042】
位置測定制御手段75は図6(a)に示すように、すべての送信元MACアドレスと換算RSSI値(あるいはRSSI)とを対応付けてこれらをRSSIテーブルの要素とし、記憶制御部がこれらの要素をRSSIテーブルに格納するが、この処理後の受信パケットに対してMAC制御部71は自分宛MACアドレスでない受信パケットを破棄する制御を行う。このため、MAC制御部71は自分宛のみ通過させるノーマルモードでありながら、周囲のあらゆる無線端末のMACアドレスを収集することができ、またこれとRSSIと対応付けることが可能になり、キャリブレーションを行うのではなく、データ収集量を増加させることにより位置測定の精度を高めることができる。
【0043】
このように、位置測定制御手段75が設けられたためホストコンピュータ3の処理量を減らすことができ、本来プロミスキャスモードの場合しか実行できなかった処理をノーマルモード下で実行することができ、通信の秘匿性を低下させることがない。
【0044】
なお、図6(a)などのMACアドレスは、製造者のID、例えば「AA:BB:CC」の部分と、製品固有のID「11:22:01」の部分とから構成される48ビットのIDで、2個は存在しないユニークな値である。取り出したMACアドレスは無線端末に対応するものとして換算RSSI値と共に後述のRSSIテーブルに格納される。
【0045】
続いて、メモリセクション8について説明を行う。RSSIテーブル部8bのRSSIテーブルには、図6(a)のように、送信元のMACアドレス、従って場合により送信元のホスト名、さらにはこのMACアドレスに対応した1バイトの換算RSSI値、以下説明するようにその平均値等が要素として格納される。あるいは、上述したように換算RSSI値に代えて、ビット数は大きくなるがdBm単位のRSSIを直接格納することもできる。そして、パケットを受信するたびごとにRSSIテーブルは更新される。
【0046】
ところで、1つのホストから送信されるパケットは例えば1秒間に複数個あり、RSSIテーブルの換算RSSI値はこの時間内に受信した順に時系列で順に追加する形態で格納される。MAC制御部71にはカウンタ75bが設けられており、このカウンタ75bによって時間またはパケット数をカウントし、所定の時間が経過するか、あるいは所定のパケット数になると、平均値演算手段75aが換算RSSI値(あるいはRSSI)の平均値を計算する。これにより、一時的な電波障害があってもノイズを平準化することができる。RSSIテーブルは定期的、例えば1秒間隔にホストコンピュータ3から要求されると、位置測定制御手段75が送信する。ホストコンピュータ3に送信されるRSSIテーブルは、上述の要素すべてから構成してもよいが、MACアドレスと平均値としての換算RSSI値(あるいはRSSI)から構成するのがよく、これで十分である。このRSSIテーブルは、平均値とあわせて分散値、パケット数をホストコンピュータ3に通知することも効果的である。
【0047】
以上説明したように、実施例1のホストコンピュータ3は、RSSIテーブルを生成する処理を測位機能付無線制御チップセットあるいは測位機能付無線通信カードで行い、RSSIテーブルを測位機能付無線制御チップセットのメモリ部に保存し、距離の演算は測位サーバ9に行わせるため、ホストコンピュータ3ですべての処理を行う必要がなく、ホストコンピュータ3の処理能力が低下したり、電力を無駄に消費したり、するということがない。また、測位機能付無線制御チップセットあるいは測位機能付無線通信カードで処理し、さらには測位サーバ9で演算するため時間応答性が良好になるという作用効果を有する。なお、本発明の無線端末は測位機能付無線通信カードを装着して使用するホストコンピュータだけでなく、測位機能付無線制御チップセットやアンテナ2等を内蔵した内蔵型のコンピュータを含むものである。
【0048】
続いて、本発明の実施例1の位置測定ネットワークシステムについて説明する。図3において、9は測位サーバ、101〜105は移動可能な無線端末、106,107,108は基準局であり、106a,107a,108aは基準局106,107,108に搭載された測位手段である。従来技術の説明と同様、無線端末には「M」、基準局には「G」が付されている。この測位手段106a,107a,108aは、例えば直接位置を測定するGPSや、基準点からの距離を測定するレーザー距離計測器等である。実施例1においては精度の点から東経方向、北緯方向をx方向、y方向とし、所定の基準点pからの距離を測定している。基準局106〜108は固定端末であっても移動端末であってもよいが、実施例1においては測位サーバ9を含めてイーサネット(登録商標)等を構成する固定端末にされており、基準局106〜108は無線端末101〜105のアクセスポイントとなっている。なお、このようなインフラストラクチャモードで動作するネットワークでなく、アドホックモードで動作するネットワークでもよいことは当然である。
【0049】
さて、図8に示すように、基準局106,107,108の位置p,p,pは基準点pを原点(0,0)、単位をmとして、それぞれp(152,123)、p(125,110)、p(135,150)の位置に存在している。なお、以下の説明を容易にするため、無線端末101〜105と基準局106,107,108をいずれもホストhとして一括して扱い、無線端末101〜105をそれぞれホストh〜h、基準局106〜108をホストh〜hとする。
【0050】
まず、この位置測定ネットワークシステムを構成する無線端末101〜105(ホストh〜h)の要部構成について説明する。ホストコンピュータ3の演算制御部は、ハードウェアとしてはCPUであって、メモリ部から各制御プログラムを読み出して、機能実現手段として各制御機能をソフトウェア的に実行するものである。
【0051】
図4において、31は測位機能付無線通信カード1を挿入するスロット、32は演算制御部内に設けられ、測位機能付無線通信カード1の位置測定制御手段75に対して定期的、例えば1秒ごとにRSSIテーブルを要求するとともに、測位サーバ9に対しても定期的、例えば1秒ごとに位置測定を要求する測位クライアント制御手段である。測位クライアント制御手段32は上述の機能実現手段である。また、33はRSSIテーブルの要求や位置測定の要求を行うとのタイミングを計測する計時部である。
【0052】
34は、測位サーバ9にRSSIテーブルを転送し位置測定を要求するためのパケットを生成する要求パケット生成手段である。なお、測位手段を搭載した基準局の要求パケット生成手段34は、図6(b)に示すような位置情報通知により自分の位置情報を測位サーバ9に通知する。
【0053】
次に、35は要求パケット生成手段34が生成したパケットをUDP,TCP/IP等のプロトコルでネットワークへ送信するネットワーク通信制御手段、36は有線ネットワークI/Fである。測位サーバ9がホストコンピュータ3と測位機能付無線通信カード1を介して無線でリンクされている場合は、要求パケットは測位機能付無線通信カード1のI/F73から送信されるが、測位サーバ9が図3のように100Base−TXケーブル等を介して接続されている場合は、要求パケットは有線ネットワークI/F36を介して測位サーバ9に送信される。
【0054】
そして、37は測位サーバ9で位置測定(位置の演算)が終わり、測定結果の位置テーブルがホストコンピュータ3に送信されてきたとき、これを記憶させる記憶制御部、38はホストコンピュータ3のメモリ部、38aはメモリ部38の中に設けられた位置テーブル部、38bはRSSIテーブルを格納するRSSIテーブル部である。なお、図8に示す位置テーブルは演算前の初期化段階のものである。
【0055】
このように実施例1のホストコンピュータ3本体は、動作時にRSSI測定のためにパケット処理は行わず、また演算による位置測定も測定サーバで行うので、ホストコンピュータ3本体が行うのは位置テーブル、RSSIテーブルの記憶と更新だけであり、位置測定の一連の処理によって処理能力が低下し、電力を無駄に消費するといったことがない。
【0056】
続いて、実施例1の位置測定ネットワークシステムにおける測位サーバ9の要部構成について説明する。測位サーバ9の演算制御部もハードウェアとしてはCPUであって、メモリ部から各制御プログラムを読み出して、機能実現手段として各制御機能をソフトウェア的に実行するものである。
【0057】
実施例1の位置測定ネットワークシステムは、従来技術の説明で説明したのと同様に、無線端末数をm、基準局と無線端末の合計をnとし、ホストh,hが直接通信可能な場合の距離dij、直接通信できない場合の距離をdmax+とする。このとき本発明の位置測定ネットワークシステムの位置測定は、基準局の位置{ベクトルp|m≦i<n}とホスト間の測定距離{dij|0≦i,j<n;i≠j}を使って、無線端末の位置{ベクトルp|0≦i<m}を求めることである。しかし、RSSIとこれを測定して得た測定距離には誤差が存在する可能性がきわめて高く、これをできるだけホスト間で矛盾が生じないように調和させ、無線端末の位置を決定するものである。
【0058】
図5において、91は、図8に示す位置テーブルの位置が未実測あるいは未計算のもの(図8で「偽」を表すf=0が付与されている)か、別途得た実測位置があるか若しくは計算済みのもの(図8で「真」を表すf=1が付与されている)かにより、初期値が具体化(特定)されているか否かを判断する初期化判定手段、92は位置演算手段である。図8に示すように、具体的に初期値が特定されていないf=0のものには(0,0)等の値が機械的に付与される。位置演算手段92は、初期化判定手段91がf=0のものが存在すると判定すると、(数1)によりこのホストhに対して初期値を計算する。(数1)の中でLは(数2)で定義される。なお、|L|はLの要素数である。すべてのホストhがf=1と判定され、f=0のものがなくなったときに、位置の初期値の計算を終了する。
【0059】
【数1】

【0060】
【数2】

この(数1)の意味は、初期値を基準局の重心の位置にする、ということであり、これを図3で説明すると、ホストh(M)は5つのホスト、h(M)、h(M)、h(M)、h(G)、h(G)と直接通信可能(dmaxより距離が短い)であるが、h,hはf,f=1であり、h,h,hはいずれもf,f,f=0である。このとき、L={6,7}であり、|L|=2であるから、ベクトルp=(ベクトルp+ベクトルp)/2となる。従って、ホストh(M)の位置pの初期値は基準局G,Gの重心の位置になる。なお、ホストh(M)は基準局としては基準局Gとしか通信可能でないため、h(G)の位置が初期値となる。あまり意味はないが、1個の場合も重心といえる。
【0061】
続いて、測位サーバ9は位置p,p間の距離lij、dmax+を計算する。93は距離lijを計算する第1距離演算手段、94は距離dmax+を計算する第2距離演算手段である。ここにlijは(数3)、dmax+は(数4)で表される。なお、dmaxは電波の届く最大距離であり、電波が届かないときは位置p,p間の実際の距離がdmax+となる。
【0062】
【数3】

【0063】
【数4】

95はこの距離lijとベクトルp,pから(数5)によって単位長ベクトルuijを求める単位長ベクトル演算手段である。
【0064】
【数5】

また、96は、送信されたRSSIテーブルのRSSI、あるいは換算RSSI値から計算したRSSIに基づいて、位置p,p間の距離dijを(数6)によって計算するRSSI−距離演算手段である。RSSI−距離演算手段96は各ホストからRSSIテーブルを受信すると、図7に示す全ホストRSSIテーブルを作成してその後の距離dijの演算に供する。図7は本発明の実施例1における全ホストRSSIテーブルの説明図である。
【0065】
なお、(数6)は自由空間損失に基づく減衰を前提にしたものである。図9は本発明の実施例1におけるRSSIと距離との関係を示す説明図である。なお、(数6)に代えて、建物の壁の影響や地面の反射を考慮したモデルによる計算もできる。
【0066】
【数6】

ここに、Rは単位がdBmのRSSIであり、Rは距離が0のときの値で実験的に求められるもので、例えば31.0dBm程度のものである。また、λ=c/fで、c=3×10cm/s、f=2.4GHz等の周波数である。
【0067】
97はホストh(0≦i<m)の無線端末に対して(数7)で修正量ベクトルΔを計算する修正量演算手段である。最急降下法による。ここで、Lは(数8)、Kは(数9)で表される。αは収束を速めるためのパラメータで、0.1〜0.05程度の値である。
【0068】
【数7】

【0069】
【数8】

【0070】
【数9】

この(数7)の修正量ベクトルΔの意味を説明すると、位置pから電波が届く位置pのホストの場合(圏内ホストの集合L)は、(数6)で計算した距離dijと位置テーブルの位置p,p間の距離lijとの差が修正量であり、圏外の場合(圏外ホストの集合K)は、位置pから電波の届く最大距離dmaxよりも計算上距離lijが小さいときのみこの差が修正量となり、そのほかはこの部分の修正量は0ということである。
【0071】
すなわち、図3の場合において説明すると、ホストh(G)は3つのホスト、h(M)、h(M)、h(M)と通信できるため(dmaxより距離が短い)、距離dijと距離lijとの差にαをかけたものが第1の修正量となり、h(M)、h(M)、h(G)、h(G)は圏外であるから、計算上電波の到達距離dmaxが距離lijより大きい場合にのみこの差にαをかけて第2の修正量とするものである。
【0072】
この第1と第2の和による修正で、初期値から徐々に調和点に漸近させることができる。なお、実施例1の測位システムは、多数のホストh(m≦i<n)の位置pを固定し、ホストh(0≦i<m)の位置pを修正していくものであるから、電波の反射、回折等のためマルチパスフェージングが生じる場合にも、複数のパスが影響しあって、従来のRADARシステムなどと比べ比較的良好な測定結果になる傾向をもつものである。
【0073】
続いて図5において、98は修正量Δを計算して(数10)で更新したときの位置テーブルの位置pの値を更新する更新手段、99は計算結果が収束したか否かを判定する収束判定手段である。この収束は修正量Δが所定の閾値γ内に収まったか否かで判定し、閾値γ内に収まったときに位置測定は終了する。
【0074】
【数10】

【0075】
【数11】

そこで、本発明の実施例1の測位システムで行われる処理をフローチャートに基づいて説明する。まず、測位機能付無線通信カードで実行される処理を図10に基づいて説明する。図10は本発明の実施例1における測位機能付無線通信カードで実行される処理のフローチャートである。図10に示すように、周囲のホストが送信したパケットを受信するまで待機する(step1)。パケットを受信した場合、RSSIを測定し(step2)、MACアドレスを取り出し(step3)、これらを要素としてRSSIテーブルを更新する(step4)。
【0076】
ここで所定のタイミング(所定の時間間隔)か否かを判定して、所定のタイミングではない場合はstep1に戻り、所定のタイミングの場合はRSSIの平均値を計算する(step6)。次に、ホストコンピュータからRSSIテーブルの要求があるか否かがチェックされ(step7)、要求がなければstep1に戻って待機し、要求があれば必要な要素からなるRSSIテーブルをホストコンピュータに転送する(step8)。
【0077】
次に、ホストコンピュータで実行される処理を図11に基づいて説明する。図11は本発明の実施例1におけるホストコンピュータで実行される処理のフローチャートである。図11において、位置測定の要求モードになるまで待機し(step11)、このモードになった場合は直ちに、また要求モードを継続中の場合は前回の位置測定から所定時間、例えば1秒経過したかがチェックされ(step12)、所定時間経過している場合は、測位機能付無線通信カードにRSSIテーブルを要求する(step13)。
【0078】
RSSIテーブルを受信したら、測位サーバに位置測定を要求してRSSIテーブルを送信し、基準局では測位サーバに位置情報を通知する(step14)。その後、測位サーバから位置測定の結果が送信されるまで待機し(step15)、位置測定の結果を得た場合は、これを位置テーブルのデータを更新する(step16)。更新後はstep11に戻って所定時間が経過するのを待つ。
【0079】
最後に、測位サーバで実行される処理を図12に基づいて説明する。図12は本発明の実施例1における測位サーバで実行される処理のフローチャートである。図11に示すように、測位サーバは各ホストから位置測定の要求があるまで待機する(step21)。要求があった場合、各ホストの位置が具体化されているかが判定され(step22)、具体化(初期化)されていない場合はその位置に対して初期値を与えるために初期化を繰返す(step23)。
【0080】
位置が具体化されている場合には、RSSIを使って(数6)で計算した距離dij、特定した位置を使って(数3)で計算した距離lij等を使って修正量ベクトルΔの演算を行う(step24)。続いて、この修正量ベクトルΔの最大の絶対値が所定の閾値γ内に収束したか否かが判定され(step25)、この絶対値が所定の閾値γより大きい場合は、ベクトルpをベクトルp+Δで更新し(step26)、閾値γ内に収束した場合は位置テーブルを更新する(step27)。その後、この位置テーブルを基に、位置測定を要求したホストに対してそれぞれ位置測定の結果を通知し(step28)、step21に戻って各ホストから位置測定の要求があるまで待機する。
【0081】
以上、本発明の実施例1の測位システムと測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カードについて説明したが、これを使った位置測定の実験結果について説明する。図13は本発明の実施例1における測位システムの屋外での実験結果図、図14は本発明の実施例1における測位システムの屋内での実験結果図である。
【0082】
図13に示す屋外の測位システムの実験は、コンクリート面上で高さ110cmの位置に、2台のPDAを置き、それらのPDAの間隔が1m、2m、3m、4m、6m、8m、10mの7通りの場合について測定したものである。図13中にWiPSとあるのが実施例1の測位システムの実験値であり、RSSIとあるのはRSSIで計算した実験値である。実施例1の測位システムの実験値は3点、RSSIの実験値は6点ある。この図13の屋外の測位システムの実験によると、RSSIで測定した場合に比べ、実施例1の測位システムの実験値はバラツキが小さくなっているのが分かる。
【0083】
次に、図14に示す屋内の測位システムの実験は、高さ70cmの机の上に、PDAを7台25cm間隔で等間隔に並べ、両端のPDAを1.5m間隔の基準局として実験したものである。なお、図14にプロットされている点のうち、1.5mの値は基準局のPDAの位置(ここでは距離)であり、実験値ではない。図14の実験結果によると、実施例1の測位システムの測定値は実測距離にかなり近い値を示していることが分かる。屋外に比べ屋内の方が精度が高く、距離が小さいほど高精度になる。
【0084】
このように本発明の実施例1の測位システムは、近距離になるほど良好な測定結果を示し、屋内で多数の無線端末が存在する場合ほど有力な位置測定手段になることが分かる。また、本発明の実施例1の測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カードは、低消費電力でホストコンピュータ側に負荷をかけず、高精度の位置測定が行え、測位機能付無線制御チップセットあるいは測位機能付無線通信カードでパケット処理するため位置測定の時間応答性が良好になり、通信の秘匿性を低下させない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、無線通信するとともにRSSIを測定して位置測定用にホストコンピュータに出力する測位機能付無線制御チップセット、測位機能付無線通信カード、さらにこの測位機能付無線制御チップセットを搭載した無線端末、この無線端末からなる位置測定ネットワークシステムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施例1における測位機能付無線通信カードを搭載した無線端末の構成図
【図2】本発明の実施例1における測位機能付無線制御チップセットの構成図
【図3】本発明の実施例1における位置測定ネットワークシステムの全体構成図
【図4】本発明の実施例1における無線端末の要部ブロック構成図
【図5】本発明の実施例1における測位サーバの要部ブロック構成図
【図6】(a)本発明の実施例1における測位機能付無線制御チップセットに設けられたRSSIテーブルの説明図、(b)基準局から通知される位置情報通知の説明図
【図7】本発明の実施例1における全ホストRSSIテーブルの説明図
【図8】本発明の実施例1における位置テーブルの説明図
【図9】本発明の実施例1におけるRSSIと距離との関係を示す説明図
【図10】本発明の実施例1における測位機能付無線通信カードで実行される処理のフローチャート
【図11】本発明の実施例1におけるホストコンピュータで実行される処理のフローチャート
【図12】本発明の実施例1における測位サーバで実行される処理のフローチャート
【図13】本発明の実施例1における測位システムの屋外での実験結果図
【図14】本発明の実施例1における測位システムの屋内での実験結果図
【図15】従来の位置測定ネットワークシステムの全体図
【符号の説明】
【0087】
1 測位機能付無線通信カード
1a,1b 測位機能付無線制御チップセット
2 アンテナ
3 ホストコンピュータ
4 RF/IF変換部
5 I/Q変復調部
6 ベースバンド部
7 下位層制御部
8 メモリセクション
8a 書き換え可能メモリ
8b RSSIテーブル部
9 測位サーバ
31 スロット
32 測位クライアント制御手段
33 計時部
34 要求パケット生成手段
35 ネットワーク通信制御手段
36 有線ネットワークI/F
37 記憶制御部
38 メモリ部
38a 位置テーブル部
38b RSSIテーブル部
41 アンテナ共用部
42 信号設定重畳部
42a 温度補償水晶発振器
43 RFアンプ
44,44a バンドパスフィルタ
45 周波数変換部
46 パワーアンプ
47,47a バンドパスフィルタ
48 周波数変換部
51 移相部
52 AGCアンプ
53 I/Q復調部
54 ローパスフィルタ
55 RSSI計測部
55a RSSIデータ線
56 アンプ
61 I/O
62 復調部
63,63a ADコンバータ
64 AGC部
65 変調部
66,66a DAコンバータ
67 APL部
71 MAC制御部
72 PHYI/F
73 I/F
74 記憶制御部
74a チップ内ROM
74b チップ内RAM
75 位置測定制御手段
75a 平均値演算手段
75b カウンタ
76 WEPエンジン
91 初期化判定手段
92 位置演算手段
93 第1距離演算手段
94 第2距離演算手段
95 単位長ベクトル演算手段
96 RSSI−距離演算手段
97 修正量演算手段
98 更新手段
99 収束判定手段
101〜105 無線端末
106,107,108 基準局
106a,107a,108a 測位手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調部と復調部が設けられたベースバンド部と、物理層インターフェースを有しMAC層の通信制御を行うMAC制御部が設けられた下位層制御部と、書き換え可能なメモリ部とを備え、これらが一枚の基板に設けられた測位機能付無線制御チップセットであって、前記MAC制御部には、すべての受信パケットの送信元MACアドレスを取り出すと共にこれを受信信号強度と対応付けてRSSIテーブルの要素とする位置測定制御手段が設けられ、記憶制御部が該要素を前記メモリ部の前記RSSIテーブルに格納することを特徴とする測位機能付無線制御チップセット。
【請求項2】
前記受信信号強度を測定するRSSI計測部と、該RSSI計測部で測定したデータを前記下位層制御部に送信するRSSIデータ線とが前記基板に設けられたことを特徴とする請求項1記載の測位機能付無線制御チップセット。
【請求項3】
前記位置測定制御手段が送信元MACアドレスを取り出すと共にこれと受信信号強度とを対応付けてRSSIテーブルの要素とする第1の処理を行い、該第1の処理後の受信パケットに対して、前記MAC制御部が自分宛MACアドレスでない受信パケットを破棄する第2の処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の測位機能付無線制御チップセット。
【請求項4】
直交変復調部が前記ベースバンド部に接続して設けられ、該ベースバンド部、前記下位層制御部及びメモリ部と共に一体に構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の測位機能付無線制御チップセット。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの測位機能付無線制御チップセットと、受信信号と送信信号の周波数変換と増幅を行う送受信部と、アンテナとを備えたことを特徴とする測位機能付無線通信カード。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの測位機能付無線制御チップセットと、受信信号と送信信号の周波数変換と増幅を行う送受信部と、アンテナと、ネットワーク通信制御手段とを備え、位置測定の演算を行う測位サーバに位置測定を要求するとともに前記RSSIテーブルを送信することを特徴とする無線端末。
【請求項7】
位置測定の演算を行う測位サーバと、電波で受信したパケットの送信元MACアドレスと受信信号強度とを対応付けてRSSIテーブルを生成し、前記測位サーバに位置測定を要求するとともに該RSSIテーブルを送信する無線端末と、前記無線端末と無線通信することができ、測位手段を備えて自分の位置情報を前記測位サーバに通知することができる複数の基準端末とから構成された位置測定ネットワークシステムであって、前記測位サーバが、前記RSSIテーブルと前記位置情報、及び前記無線端末の電波の最大到達距離とに基づいて前記無線端末の位置測定の演算を行うことを特徴とする位置測定ネットワークシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−352810(P2006−352810A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179986(P2005−179986)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】