説明

測距装置、形状測定装置及びそれらの方法

【課題】スペクトラム拡散レーダを用いた測距装置であって、低コストで精度の高い測距をすることができる測距装置を提供する。
【解決手段】一定のチップレートの符号によって拡散された送信波75を放射する送信部71と、反射波76を受信する受信部72と、送信波75と反射波76との相関と遅延時間との関係を示す相関波形を算出する相関部73と、相関波形におけるピーク位置から、対象物までの距離を算出する距離算出部74とを備え、相関部73は、チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに遅延時間を変化させたときの相関波形を算出し、距離算出部74は、相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、相関波形におけるピークに対応する遅延時間をレンジゲートよりも小さい分解能で算出することで、対象物までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトラム拡散レーダを用いて対象物までの距離を測定する測距装置、及び、その測距装置を用いて対象物の形状を測定する形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット、車両、船舶及び航空機等の移動体や、室内・室外から外界の状況を知りたい場合において、周囲の物体を認識し、その形状を認識することは重要である。特に移動体を自動走行させる場合には形状認識が危険回避の点などからより重要となる。また、人体の形状推定はセキュリティや介護を目的として社会的需要が大きい。このような物体形状推定の手段として、レーダを用いたイメージングシステムが注目されている。たとえば超広帯域(UWB)信号を利用したUWBレーダは近距離目標の形状を高い分解能で測定できることから、地中探査や非破壊検査の用途に多く用いられてきた。しかしながら、従来の地下探査レーダイメージングでは、測定結果から形状を推定する指定アルゴリズムが反復改良や繰り返し計算などに基づくものが多く、形状推定に時間がかかるため、前述したようなロボットなどのリアルタイム処理への直接の応用は困難であった。
【0003】
そのため、本願発明者らは、リアルタイム処理を可能にする高速形状推定アルゴリズムとして、送信信号の送受信位置を変化させることによって得られる散乱波の遅延時間と送受信位置の関係と物体の形状との間に成り立つ可逆な変換関係を利用して物体の形状を推定するSEABED(Shape Estimation Algorithm based on BST(Boundary Scattering Transform) and Extraction of Directly scattered waves)法を開発し、提案してきた(例えば、特許文献1、非特許文献1乃至非特許文献5)。
【0004】
SEABED法では、逆境界散乱変換の数式で形状を推定する。この逆境界散乱変換で得られる画像は近似解でなく数学的に厳密な解となっており、反復計算に基づかず、直接的に画像を得ることが可能である。SEABED法は、従来に比べて高精細でかつ、非常に高速に算出可能なイメージングアルゴリズムとなっている。
【特許文献1】特開2006−343205号公報
【非特許文献1】阪本卓也、佐藤亨、「UWBパルスレーダシステムのためのノンパラメトリックな目標形状推定法」、電子情報通信学会技術研究報告、A・P2003−36、103巻120号、1〜6頁、2003年6月19日
【非特許文献2】阪本卓也、佐藤亨、「パルスレーダを用いた高分解能形状推定のための位相補正法」、電子情報通信学会技術研究報告、A・P2004−72、104巻202号、37〜42頁、2004年7月22日
【非特許文献3】Takuya SAKAMOTO,Toru SATO,“A Target Shape Estimation Algorithm for Pulse Radar Systems based on Boundary Scattering Transform”,IEICE TRANSACTIONS on Communications,Vol.E87−B,No.5,MAY 2004,pp.1357−1365
【非特許文献4】木寺正平、阪本卓也、佐藤 亨、“UWBパルスレーダのためのバイスタティックアンテナ型高速物体像推定法の開発”電子情報通信学会 第34回電磁界理論シンポジウム、EMT−05−58、Nov. 2005
【非特許文献5】Shouhei Kidera,Takuya Sakamoto,and Toru Sato,“A High−resolution 3−D Imaging Algorithm with Linear Array Antennas for UWB Pulse Radar Systems”IEEE AP−S International Symposium,USNC/URSI National Radio Science Meeting,AMEREM Meeting,pp.1057−1060,July, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際のイメージング応用においては、イメージの精度がその性能を決める大きな要素であることは言うまでもない。SEABED法を用いたイメージングの場合、レーダの測距精度に大きく依存する。リアルタイムイメージングのためにスペクトラム拡散レーダを用いた場合には、通常、シンボル時間長(符号のチップレートの逆数;レンジゲート)ごとにサンプリングを行うために、測定距離の精度(分解能)は符号のチップレートで決まる。
【0006】
スペクトラム拡散レーダに使う拡散符号(PN符号)のレートは、通常の技術では、速くても数Gcps程度に限られる。このレートで決まる測距精度は、数cm程度となる。たとえば、符号のチップレートが2.5Gcpsの場合、チップ時間(レンジゲート)は、その逆数の0.4nsとなるから、空中の電波の伝送速度を3×108m/sとすると、チップ時間(レンジゲート)の間に電波が進む距離の2倍(ターゲットで反射した信号を受けるので往復距離となるため)である6cmの分解能しか得られないことになる。
【0007】
図11(a)及び図11(b)は、従来のスペクトラム拡散レーダを用いた測距装置における測距精度の限界(分解能)を説明するための図である。図11(a)は、実際にスペクトラム拡散レーダを用いてアンテナから40〜50cm(44.6cm、46.8cm、50.3cm、52.2cm)離れた位置に置かれた金属球までの距離を測定したときの位置関係を示す図である。この実測に用いたスペクトラム拡散レーダの拡散符号のチップレートは2.5Gcpsである。
【0008】
図11(b)は、図11(a)に示された4つのケースにおける送信信号と受信信号との相関を示す図である。ここで、スペクトル拡散レーダによる測距では、搬送波を符号でスペクトル拡散してレーダ波として放射し、ターゲットからの反射波に対して、上記符号を遅延させたもので逆拡散し、逆拡散後の信号のうち、上記搬送波の周波数成分を抽出することが行われるが、図11(b)の横軸は、逆拡散に用いた符号の遅延時間、すなわち、ターゲットまでの距離を示し、図11(b)の縦軸は、逆拡散後の上記周波数成分の強度である。なお、図11(b)では、横軸の時間に対して滑らかな曲線データが得られているが、これは、上記周波数成分を抽出するフィルタ処理によるものであり、実際には、各曲線のピークが出ている0.4nsごとの離散値が測定値である。この曲線から明らかなように、上記相関については、チップレートの逆数の時間(つまり、レンジゲート、本例では、0.4ns)ごとにしか測定できないため、本例のように、46.8cmと50.3cmの最大ピークが同じ位置で観測されてしまう。つまり、従来のように、最大ピークを検出するだけでは、この2つの距離差は区別できない。言い換えれば、従来の技術では、レンジゲート以下の分解能を得ることができないという問題がある。
【0009】
ところが、イメージングの用途によっては、mmオーダの精度が要求されるため、さらに1桁以上の精度の向上が求められる。
【0010】
ここで、測距精度を上げるために拡散符号のビットレートを上げることが考えられるが、そのためには、高性能な符号発生器が必要となってコストが高くなるうえに、1桁だけビットレートを向上させるのに技術的にもかなりハードルが高い。
【0011】
そこで、本願発明は、このような問題点に鑑み、スペクトラム拡散レーダを用いた測距装置であって、低コストで精度の高い測距をすることができる測距装置及びその測距装置を用いた精度の高い形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る測距装置は、スペクトラム拡散レーダを用いて対象物までの距離を測定する測距装置であって、一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、前記対象物に向けて放射する送信部と、前記対象物で反射された前記信号を受信する受信部と、前記受信部で受信された信号の波形と前記送信部から放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関部と、前記相関部で算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記対象物までの距離を算出する距離算出部とを備え、前記相関部は、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、前記距離算出部は、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出することを特徴とする。
【0013】
これにより、相関波形における2点を用いてピークに対応する遅延時間がレンジゲートよりも小さい分解能で算出されるので、簡易な方法、つまり、低コストで、かつ、チップレートで決まる距離精度(分解能)より細かい測距が可能になる。
【0014】
なお、本発明の説明における相関波形の「ピーク」とは、相関波形の真の(あるいは、計算上の)ピークであり、言い換えると、相関波形を構成する離散的な実測点だけでなく、それらの実測点の間を補間する計算上の点も含めた全ての点の中で最大の相関を示す点である。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る形状測定装置は、スペクトラム拡散レーダを用いて対象物の形状を測定する形状測定装置であって、一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、前記対象物に向けて放射する複数の送信部と、前記対象物で反射された前記信号を受信する受信部と、前記受信部で受信された信号の波形と前記複数の送信部のうち受信された前記信号を放射した送信部から放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関部と、前記相関部で算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記複数の送信部から対象物までの距離を算出することによって擬似波面を抽出し、抽出した擬似波面と前記対象物の形状との関係に基づいて前記対象物の形状を推定する形状推定部とを備え、前記相関部は、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、前記形状推定部は、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出することを特徴とする。
【0016】
これにより、相関波形における2点を用いてピークに対応する遅延時間がレンジゲートよりも小さい分解能で算出されるので、簡易な方法、つまり、低コストで、かつ、チップレートで決まる距離精度(分解能)より細かい測距が可能になり、高精度のイメージングが実現される。
【0017】
また、複数の送信器から異なる符号を同時に送信するいわゆる符号多重化の技術が用いられるので、測定時間が圧倒的に短縮され、測定から信号処理も含めてリアルタイムのイメージングが可能になる。
【0018】
なお、本発明は、以上のような構成を備える測距装置及び形状測定装置として実現されるだけでなく、それらの構成要素をステップとする測距方法及び形状測定方法として実現したり、そのステップを記述したプログラムとして実現したり、そのプログラムが記録されたCD−ROM等の記録媒体として実現したり、LSI等の半導体集積回路で実現したりすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、簡易な方法で、拡散符号のチップレートに相当する距離間隔より細かい分解能での測距が可能となり、低コストで、かつ、精度の高い測距をすることができる測距装置及びその測距装置を用いた高精度の形状測定装置が実現される。
【0020】
また、符号多重化の技術によってリアルタイムのイメージングが可能となり、ロボット等の移動体の状況を知るための測距装置及び形状測定装置として、その実用的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る測距装置及び形状測定装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
まず、本発明に係る測距測定装置の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態における測距装置70の構成を示すブロック図である。なお、本図には、測距の対象となるターゲット(対象物)77も併せて図示されている。
【0024】
この測距装置70は、スペクトラム拡散レーダを用いてターゲット77までの距離を測定する装置であり、送信部71、受信部72、相関部73及び距離算出部74を備える。
【0025】
送信部71は、一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、ターゲット77に向けて放射する処理部であり、例えば26GHz帯の正弦波(搬送波)を生成する発振器71a、擬似ランダム(PN)符号(つまり、拡散符号)を生成するPN符号発生器71b、上記正弦波を上記拡散符号で周波数拡散(変調)する拡散器71c及び拡散後の信号を送出する送信アンテナ71d等からなる。
【0026】
受信部72は、ターゲット77で反射された信号を受信する処理部であり、例えば、受信アンテナ72a等からなる。
【0027】
相関部73は、受信部72で受信された信号の波形と送信部71から放射された信号の波形との相関が、放射から受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する処理部であり、PN符号発生器71bで発生された拡散符号を、遅延時間を変化(スイープ)させながら遅らせる可変遅延器73a、受信アンテナ72aで受信された信号を可変遅延器73aから出力されたPN符号で逆拡散(復調)する逆拡散器73b及び逆拡散後の信号のうち、発振器71aで生成される正弦波の周波数成分だけを通過させる狭帯域フィルタ73c等からなる。なお、この相関部73は、チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに遅延時間を変化(スイープ)させた場合における相関の変化を示す相関波形を算出する。
【0028】
距離算出部74は、相関部73で算出された相関波形におけるピークを特定することにより、測距装置70(正確には送受信アンテナ)からターゲット77までの距離を算出する処理部であり、より詳しくは、相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、相関波形におけるピークに対応する遅延時間を、レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、ターゲット77までの距離を算出する。このための距離算出部74は、例えば、専用のプログラム、CPU、メモリ、入出力部等を備えるコンピュータ等で実現される。
【0029】
この距離算出部74は、相関波形において相関が最大となる点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点で挟まれるレンジゲートを特定し、それら2点のうち、遅延時間の小さい点と大きい点とをそれぞれ第1の点と第2の点とした場合に、第1の点の相関と第2の点の相関との比を算出し、算出した比に基づいて、レンジゲートにおけるピークの時間位置を特定し、特定したピークの時間位置に対応する遅延時間からターゲット77までの距離を算出する。
【0030】
具体的には、この距離算出部74は、第1の点の相関と第2の点の相関との比がレンジゲートにおけるピークの時間位置、時間位置に対応する遅延時間、又は、時間位置に対応する(その時間で電波が進む)距離に依存してどのように変化するかを示す較正曲線74aを予め保持し、保持している較正曲線74aを参照することで、相関部73で算出された相関波形から算出した比に対応する時間位置、遅延時間、又は、距離を特定することで、ターゲット77までの距離を算出する。
【0031】
ここで、較正曲線74aは、レンジゲートに対応する(その時間で電波が進む)距離よりも小さい距離の刻みで、上記比が距離に依存してどのように変化するかを示す曲線である。従って、この距離算出部74は、較正曲線74aを参照することで、相関部73で算出された相関波形から算出した比に対応する距離を特定することで、ターゲット77までの距離を、レンジゲートよりも細かい分解能で算出する。
【0032】
次に、以上のように構成される本実施の形態における測距装置70の動作(つまり、測距の原理)について説明する。
【0033】
まず、発振器71aで生成された信号は、PN符号発生器71bで生成された拡散符号によって拡散器71cで周波数拡散され、送信波(つまり、レーダ波)75として、送信アンテナ71dからターゲット77に向かって出射される。次に、ターゲット77で反射された反射波76は、受信アンテナ72aで受信され、PN符号発生器71bで生成された拡散信号を可変遅延器73aで時間t1だけ遅らせた信号を用いて、逆拡散器73bで逆拡散される。
【0034】
ここで、可変遅延器73aでの遅延時間t1が、送信波75を送信してからターゲット77で反射して受信されるまでにかかった時間と一致していれば、逆拡散器73bに入る受信アンテナ72aからの信号に含まれる拡散符号と可変遅延器73aからの拡散符号とが一致するために、逆拡散器73bによって発振器71aで生成される狭帯域信号が復元され、一方、上記時間が異なっていれば、逆拡散器73bで逆拡散された後の信号は広帯域に拡散されたままとなる。したがって、逆拡散器73bで逆拡散された信号を狭帯域フィルタ73cに通すことで、拡散符号の遅延時間が、測距装置70から出射されたレーダ波75がターゲット77に当たって反射してもどってくるまでの時間と一致したときにのみ、信号として抽出することができる。レーダ波75がターゲット77に当たって反射してもどってくるまでの時間は、電波がターゲット77までの距離の2倍を伝送するのにかかった時間なので、測距装置70からターゲット77までの距離を計算することができる。
【0035】
次に、本実施の形態における測距装置70の距離算出部74の詳細な動作について説明する。図2は、距離算出部74の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【0036】
距離算出部74は、図3に示すように、相関部73で算出された相関波形、つまり、可変遅延器73aでの遅延時間と狭帯域フィルタ73cからの出力信号の強度との関係を示す曲線において、相関が最大となる点(図3では、点P1)とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点(図3では、点P2)で挟まれるレンジゲートを特定する(S1)。なお、距離算出部74は、レンジゲートごとに対応する複数の較正曲線を保持している場合には、ここで特定したレンジゲートに対応する較正曲線を特定し、特定した較正曲線を用いて、後述するステップS3での処理を行う。
【0037】
次に、距離算出部74は、最大の相関を示す点(図3では、点P1)とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点(図3では、点P2)のうち、遅延時間の小さい点(図3では、点P1)の相関(図3では、約112dB)と遅延時間の大きい点(図3では、点P2)の相関(図3では、約98dB)との比(約14dB)を算出する(S2)。
【0038】
そして、距離算出部74は、予め保持している図4に示されるような較正曲線74a(ここでは、ステップS1で特定したレンジゲートに対応する較正曲線)を参照することで、上記ステップS2で算出した比に対応する距離を特定する(S3)。なお、図4において、縦軸は、最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点のうち、遅延時間の小さい点の相関と遅延時間の大きい点の相関との比を示し、横軸は、ステップS1で特定されたレンジゲートにおけるピークの時間位置(本実施の形態では、測距装置70とターゲットとの距離)を示す。
【0039】
ここで、較正曲線74aは、図4に示されるように、事前の実測によって得られた曲線であり、レンジゲートに対応する距離よりも小さい距離の刻みで、上記比が距離に依存してどのように変化するかを実測し、得られたデータを滑らかな曲線にフィッティングしたものである。相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点のうち、遅延時間の小さい点(第1の点)の相関と遅延時間の大きい点(第2の点)の相関との比(縦軸の値)は、図4に示されるように、真のピークがそれら2点で挟まれるレンジゲートの左(遅延時間が小さい位置)に位置するほど、大きな値となるので、遅延時間とともに小さくなる(正から負になる)単調減少を示す。
【0040】
このように、距離算出部74は、較正曲線74aを参照することで、相関部73で算出された相関波形から算出した比に対応する距離を特定し、レンジゲートよりも細かい分解能でターゲット77までの距離を算出する。
【0041】
なお、図4に示される較正曲線74aの横軸は、測距装置とターゲットまでの絶対距離であったが、距離算出部74が内部に保持する較正曲線74aとしては、その横軸が、レンジゲート内での相対位置(例えば、0〜60mm)であってもよい。その場合には、距離算出部74は、ステップS1で特定したレンジゲートの位置に基づいて、レンジゲート単位(0.4ns単位、60mm単位)で、オフセット距離(そのレンジゲートの左端に相当する距離)を特定し、さらに、ステップS2及びS3での処理において、レンジゲートより細かい距離(端数としての距離)を特定し、最後に、それらのオフセット距離と端数距離とを合計することで、レンジゲートよりも細かい分解能でターゲットまでの距離を算出することができる。
【0042】
(実施の形態2)
次に、本発明に係る形状測定装置の実施の形態(実施の形態2)について説明する。
【0043】
図5は、本発明の実施の形態2におけるスペクトラム拡散レーダを用いた形状測定装置80の構成の一例を示す図である。
【0044】
本実施の形態の形状測定装置80は、図5に示すように、複数のレーダと形状推定回路によって構成される。すなわち、本実施の形態の形状測定装置80は、互いに異なる位置に配置されたレーダ51、52、53、54と、レーダ51〜54から出力された信号を受ける形状推定回路5とを備えている。
【0045】
レーダ51〜54の各々は、電気信号を生成する信号生成器と、信号生成器で生成された電気信号を送信電波として空間に放射する送信アンテナと、目標(ターゲット)の物体0で反射された送信電波の反射波を受信して受信波に変換する受信アンテナと、受信波を受ける受信器と、受信器の出力を受ける相関回路とを有している。すなわち、レーダ51は、信号生成器21と、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、受信器31と、相関回路41とを有している。レーダ52は、信号生成器22と、送信アンテナ13と、受信アンテナ14と、受信器32と、相関回路42とを有している。レーダ53は、信号生成器23と、送信アンテナ15と、受信アンテナ16と、受信器33と、相関回路43とを有している。レーダ54は、信号生成器24と、送信アンテナ17と、受信アンテナ18と、受信器34と、相関回路44とを有している。
【0046】
なお、レーダの個数は4個に限られず、さらに多数であってもよい。また、ここでは簡単のために図5に示す平面内にレーダ51〜54が線状に配置されている例を説明するが、物体0の形状を平面的に測定するためにレーダが2次元のアレイ状に配置されたものであってもよい。また、送信アンテナと受信アンテナ(送受信アンテナ)は、符号を用いる場合、別個に設けられていることが好ましいが、1個のアンテナで兼用してもよい。また、送信電波は中心周波数に対する占有帯域幅の比である比帯域が20%以上であることが好ましい。
【0047】
次に、レーダ51を例にとって測定動作を説明する。まず、信号生成器21が例えば26GHz帯の正弦波(搬送波)を生成し、擬似ランダム(PN)符号で変調(周波数拡散)する。変調方法として例えば位相変調を行う。たとえばギルバートセルからなるダブルバランスミキサ回路に搬送波と擬似ランダム符号を入れて掛け合わせることで容易に位相変調された送信信号を生成することができる。送信アンテナ11から送信波として放射された信号は物体0で反射され、その一部が受信アンテナ12で受信される。そして、受信アンテナ12から出力された受信波は、受信器31で場合によっては増幅や整形(フィルタリング)などを受け、受信信号として相関回路41に送られる。相関回路41では、この受信信号と参照信号の相関を求めることによって相関波形が求められる。具体的には送信信号と同じPN符号で受信信号を復調するいわゆる逆拡散を行い、搬送波でダウンコンバートすることで相関波形が求められる。
【0048】
レーダ52〜54についてもレーダ51と同時に同様の動作を行い、レーダ51〜54それぞれの相関波形を形状推定回路5に送る。レーダ51〜54の場所がそのまま測定位置となるため、第1〜第4の測定位置における相関波形が揃うことになる。
【0049】
形状推定回路5は、後述するSEABED法を用いて、レーダ51〜54から送られてきた相関波形の絶対値の極大位置を求め、擬似波面を抽出し、逆境界散乱変換によって物体の形状を出力する。この形状推定回路5は、実施の形態1における距離算出部74と同一の機能を有する距離算出部5a、つまり、それらの相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、相関波形におけるピークに対応する遅延時間をレンジゲートよりも小さい分解能で算出することによって対象物までの距離を算出する距離算出部5aを有する。この距離算出部5aは、同様の手法によって、レンジゲートよりも小さい分解能で、相関波形における極大値及び極小値を特定する。
【0050】
ここで、SEABED法の原理を説明する。ここでは、複数のアンテナを用いた符号多重の技術を利用したSEABED法について説明する。
【0051】
図6は、SEABED法における複数のアンテナの設置位置を説明するための図である。このSEABED法では、測定対象物は明確な境界を有する有体物であることを前提とし、当該境界を測定して「擬似波面」を得る。この擬似波面を逆変換することで対象物の形状を求める。
【0052】
この原理説明では、目標の物体0及び複数の送受信アンテナが同一平面内に存在すると仮定した2次元問題を扱い、電波の伝播は、TE波(Transverse Ele ctric Wave)によるとする。この目標の物体0及び複数の送受信アンテナが存在する空間を「r−空間(r−domain)」と呼称することとし、r−空間で集合を表現する場合その表現を「r−領域での表現」と呼称することとする。また、r−空間の点を(x,y)で表現する。ここで、x及びy(y>0)は、何れも真空中での送信パルスの中心波長λにより正規化される。各送受信アンテナは、無指向性であり、r−空間のx軸上で所定の間隔(例えば等間隔)を空けて設置された各測定位置xn(n=1〜Nの整数)でモノサイクルパルスの送受信を繰り返すものとする。そして、送受信アンテナの測定位置(x,y)=(X,0)における受信電界をs’(X,Y)と定義し、送信から受信までの時間をt、真空中の光速をcとした場合に、YをY=(c×t)/(2×λ)と定義する。なお、y>0よりY>0であり、また、送受信アンテナの測定位置xnにおける電界の瞬時包絡線が最大となる時刻をt=0とする。
【0053】
さらに、雑音除去の観点からs’(X,Y)のY方向に送信波形を用いた整合フィルタを適用し、この整合フィルタを適用して得られる受信波形を新たにs(X,Y)とする。このs(X,Y)を目標の物体0の形状を求めるデータとして用いる。ここで、(X,Y)で表現される空間を「d−空間(d−domain)」と呼称することとし、d−空間で集合を表現する場合、その表現を「d−領域での表現」と呼称することとする。X及びYは、それぞれ送信パルスの中心波長及び送信パルスの中心時間長で正規化されている。
【0054】
連続した境界面を持つ目標の物体0における複素誘電率ε(x,y)の変化が複数の区分的に微分可能な曲線の集合であるとする。即ち、目標の物体0における複素誘電率ε(x,y)が式(1)で表される。
【0055】
【数1】

【0056】
ここで、g(x)は、微分可能な1価関数であり、q={(x,y)|y=g(x),x∈Jq}∈Hとする。Jqは、関数g(x)の定義域である。aは、q∈Hに依存する正の定数であり、Hは、q全体の集合である。Hの要素が「目標境界面」である。
【0057】
d−空間の部分集合Pを式(2)で定義する。
【0058】
【数2】

【0059】
連結な閉集合p⊂Pを考え、領域Ipを式(3)で定義する。
【0060】
【数3】

【0061】
任意のX∈Ipに対し(X,Y)∈pを満たすYが唯一存在する場合にpに対し定義域Ipを有し、Y=fp(X)を満たす1価関数fp(X)が存在する。関数fp(X)が微分可能でかつ|∂fp(X)/∂X|≦1を満たすpの集合をGと定義し、このGの要素を「擬似波面(Quasi Wavefront)」と呼称することとする。
【0062】
式(1)が満たされる場合、境界からの直接散乱波は、目標境界面(目標の物体0の表面、目標の物体0の形状を表す)の情報を保持している。以下では、簡単のため、直接波の伝播経路は全て真空であるとするが、伝播速度が一定で既知である媒質でも同様に成立する。
【0063】
図7(a)、図7(b)は、境界散乱変換を説明するための図である。図7(a)は、r−領域における複素誘電率の変化の一例を示し、図7(b)は、図7(a)に対応するd−領域の擬似波面を示す。
【0064】
pがqからの直接散乱に対応すると仮定すると、図7(a)から分かるように、送受信アンテナからqの表す曲線Lqへ下ろした垂線の長さと各送受信アンテナの位置との関係を用いることで、p上の点(X,Y)は、式(4)によって表される。この式(4)によって表される変換を境界散乱変換(Boundary Scattering Transform)と呼称することとする。
【0065】
【数4】

【0066】
但し、(x,y)は、q上に存在する点である。
【0067】
この境界散乱変換の逆変換を求めれば、受信波形から目標の物体0の形状を求めることができる。この逆変換は、式(5)のように求められる。この逆変換を逆境界散乱変換(Inverse Boundary Scattering Transform)と呼称することとする。
【0068】
【数5】

【0069】
なお、以上では、2次元の測定の場合について説明したが、SEABED法は3次元の測定へ容易に拡張可能である。また、各送受信アンテナが直線上に設置される場合について説明したが、任意の曲線に沿って設置される場合に対応する変換式も容易に求めることができる。
【0070】
例えば、3次元の場合の境界散乱変換は式(6)のように表され、この逆変換は式(7)のように求められる。
【0071】
【数6】

【0072】
【数7】

【0073】
式(5)(三次元測定の場合は式(7))を用いて受信波形から目標の物体0の形状を推定するSEABED法では、具体的には、次のような処理を実行することで目標の物体0の形状を測定している。
【0074】
図8は、SEABED法によって物体の形状を測定する際の処理手順を示すフローチャートである。
【0075】
図8に示すように、SEABED法において、ステップS101として、形状測定装置80は、図6に示すように、無指向性の複数の送受信アンテナが各測定位置xnでモノサイクルパルスの送信パルスを送信し、目標の物体0で反射された送信パルスの反射波を受信し、受信波をA/D変換(アナログ/ディジタル変換)し、記憶する。
【0076】
即ち、形状測定装置80は、測定位置x1において無指向性の送受信アンテナからモノサイクルパルスの送信パルスを送信し、目標の物体0により反射された送信パルスの反射波を受信し、受信波をA/D変換して第1受信信号を生成し、これを記憶する。これと並行して、測定位置x1から所定の間隔だけ離れた測定位置x2においても、送受信アンテナからモノサイクルパルスの送信パルスを送信し、目標の物体0によって反射された送信パルスの反射波を受信し、受信波をA/D変換して第2受信信号を生成し、記憶する。以下同様に、測定位置x1から測定位置xNまでの各測定位置xnで、形状測定装置80は、送受信アンテナからモノサイクルパルスの送信パルスを送信し、目標の物体0から反射した送信パルスの反射波を受信し、受信波をA/D変換し、記憶する。こうして測定位置x1における第1受信信号から測定位置xNにおける第N受信信号が得られる。
【0077】
つまり、図5に示されるレーダ51〜54それぞれの相関波形が形状推定回路5に送られる。
【0078】
次に、ステップS102において、形状測定装置80の形状推定回路5は、第1乃至第Nの各受信信号に対し、当該受信信号の波形と参照信号の波形との相互相関を求めることによって、第1乃至第Nの各受信信号にそれぞれ対応する第1乃至第Nの相関波形を求める。相関関数ρ(τ)は、遅延時間をτ、参照信号をr(t)、受信信号をs(t)とすると、式(8)で与えられる。なお、積分範囲は、受信信号s(t)が存在する範囲である。
【0079】
【数8】

【0080】
ここで、参照信号の波形は、送信パルスの波形としており、これは、受信信号の波形が送信パルスの波形と同一形状であると仮定していることに相当する。この本ステップでの処理は、受信信号に整合フィルタを適用することに相当する。
【0081】
次に、ステップS103において、形状推定回路5の距離算出部5aは、第1乃至第Nの相関波形における極値(極大値及び極小値)を求める。
【0082】
つまり、距離算出部5aは、それらの相関波形において、最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、相関波形におけるピークに対応する遅延時間を、レンジゲートよりも小さい分解能で算出することによって、極値を求める。たとえば、距離算出部5aは相関波形において相関が最大となる点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点で挟まれるレンジゲートを特定し、それら2点のうち、遅延時間の小さい点と大きい点とをそれぞれ第1の点と第2の点とした場合に、第1の点の相関と第2の点の相関との比を算出し、算出した比に基づいて、レンジゲートにおける真のピーク(極値)を特定する。より詳しくは、第1の点の相関と第2の点の相関との比がレンジゲートにおける真のピークの時間位置に依存してどのように変化するかを示す較正曲線74aを予め保持し、保持している較正曲線74aを参照することで、相関波形から算出した比に対応する真の極値を求める。
【0083】
次に、ステップS104において、形状推定回路5は、近隣の極値同士を連結する。より具体的には、形状推定回路5が、式(9)を満たすように極値を連結する。
【0084】
【数9】

【0085】
ここで、極値Mnの位置は、測定位置xnにおいて得られた第nの相関波形から求められた極値のXY平面における位置である。このように極値を連結して得られた曲線が擬似波面である。
【0086】
次に、ステップS105において、形状推定回路5は、真の擬似波面を抽出する。ステップS104での処理によって得られた擬似波面には、雑音により生じたもの、振動的な部分を抽出したもの、及び、多重散乱により生じたもの等の不要な擬似波面が含まれている。このため、これらを取り除き、真に物体0の境界面を示す真の擬似波面を抽出する必要がある。この真の擬似波面の抽出では、第1に、式(10)で定義される評価値wを用い、所定の閾値αよりも評価値wが大きい擬似波面を選択し、抽出する。閾値αは、その値を小さくし過ぎると不要な擬似波面が多く含まれ、その値を大きくし過ぎると真の擬似波面まで除去されてしまうので、評価値wの最大値を考慮の上、実験的、経験的に設定される。
【0087】
【数10】

【0088】
評価値wは、擬似波面上における受信信号の振幅が大きく、しかもfp(X)の定義域が広い範囲に渡るものについて大きな値をとる。
【0089】
ここで、式(10)のみによって真の擬似波面を抽出すると、例えば雑音に起因する擬似波面が有意な擬似波面の近くに存在する場合ではその評価値wが大きくなり、除去することができない場合が生じ得る。そのため、p1,p2∈G、p1≠p2、w1≦w2に対し(x,y)∈p1かつ(x,y)∈p2が成立する場合には、p1→p1’、p1”(但し、p1’∪p1”=p1かつp1’∩p1”=p1∩p2)に擬似波面の分割を行って評価値wを求め不要な擬似波面を除去する。
【0090】
そして、真の擬似波面の抽出は、第2に、第1フレネルゾーンとして知られる式(11)で表されるFpを用いて式(12)で定義される新たな評価値Wpを用い、所定の閾値βよりも評価値Wpが大きい擬似波面を選択し、抽出する。閾値βは、その値を小さくし過ぎると不要な擬似波面が多く含まれ、その値を大きくし過ぎると真の擬似波面まで除去されてしまうので、評価値Wpの最大値を考慮の上、実験的、経験的に設定される。
【0091】
【数11】

【0092】
【数12】

【0093】
評価値Wpは、或る擬似波面のフレネルゾーン内に値の大きい別の境界面が存在する場合にはその値が低下する。ξ(x)は重み関数であり、簡単のために、例えば、ξ(x)=1に設定する。
【0094】
このように抽出された真の擬似波面は、各測定位置での送信パルスを送信してから、目標の物体0の表面における接平面に対し垂直に入射して反射した送信パルスの反射波を直接受信するまでの時間の集合である。
【0095】
次に、ステップS106において、形状推定回路5は、ステップS105で抽出した真の擬似波面から式(5)を用いて物体0の形状を求める。
【0096】
このように、SEABED法では、目標の物体0の形状を逆変換の式(5)により直接的に推定することができるので、極めて短時間で物体0の形状を測定することができる。
【0097】
以上で説明したSEABED法では、式(5)や式(7)で表されるような逆境界散乱変換の数式で形状を推定できる。この逆境界散乱変換で得られる画像は近似解でなく数学的に厳密な解となっており、反復計算に基づかず、直接的に画像を得ることが可能である。これらの利点から、SEABED法は以前の手法に比べて高精細でかつ、非常に高速に算出可能なイメージングアルゴリズムとなっている。
【0098】
図9(a)及び図9(b)は、本実施の形態における形状測定装置80のように、スペクトル拡散レーダと較正曲線とを用いて、実際に擬似波面を測定した例を示す。なお、測定対象物は、アンテナから27cm先の、幅33cm、深さ11cmの中華なべである。また、この測定では、較正曲線を用いたことの効果を確認するために、符号多重をすることなく、送受アンテナを隣接した状態で、X軸方向24cm、Y軸方向24cmを1cm刻みで走査し、測距した値をプロットしている。図9(a)が実際の距離(真の擬似波面)で、図9(b)が本実施の形態の形状測定装置80で測定した距離(擬似波面)である。測定誤差のRMS値は、0.16cmで、較正曲線を用いない従来の方法での精度の6cmを大きく上回る高い精度での測定ができている。
【0099】
図10(a)及び図10(b)は、図9(a)及び図9(b)に示された擬似波面を元にSEABED法にて形状推定した結果を示している。図10(a)は、実際の形状、図10(b)は、本実施の形態の形状測定装置80による形状推定の結果である。推定画像誤差のRMS値は、1.2mmであり、本実施の形態の形状測定装置80によって十分高精度なイメージングが実現できているのが分かる。
【0100】
以上のように、本実施の形態における形状測定装置80によれば、形状推定回路5の距離算出部5aが、レンジゲートよりも細かい分解能で、第1乃至第Nの相関波形における極値(極大値及び極小値)を求めるので、低コストで、かつ、従来よりも高い精度で対象物の形状が特定される。
【0101】
また、本実施の形態における形状測定装置80によれば、複数の送信器から異なる符号を同時に送信するいわゆる符号多重化の技術が用いられるので、測定時間が圧倒的に短縮され、測定から信号処理も含めてリアルタイムのイメージングが可能になる。
【0102】
以上、本発明に係る測距装置及び形状測定装置について、実施の形態1及び2を用いて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。これらの実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で変形を施して得られる形態や、これらの実施の形態の構成要素を任意に組み合わせて実現される形態も本発明に含まれる。
【0103】
たとえば、上記実施の形態では、較正曲線74aは、図4に示されるように、横軸が対象物までの距離であったが、本発明は、このような較正曲線だけに限られない。横軸が可変遅延器73aでの遅延時間であったり、そのレンジゲートにおける相対的な遅延時間であってもよい。較正曲線を参照して得られた遅延時間を距離に換算することで、ターゲットまでの距離を算出できるからである。
【0104】
また、上記実施の形態では、較正曲線74aは、図4に示されるように、1つのレンジゲートを対象としたものだけが示されたが、レーダの検知領域における全てのレンジゲートにおいても同様の較正曲線を準備しておいてもよい。これにより、どのレンジゲート内にターゲットがあっても正確な距離測定が可能になる。もちろん、各レンジゲートについて、予め、第1の点の相関と第2の点の相関との比と距離との関係を測定しておき、それぞれのレンジゲートに対応する較正曲線を作成しておけば、より正確な測定が可能になる。
【0105】
また、どのレンジゲート内にターゲットがあるか分からない一般の測距方法としては、予めとり得る複数のレンジゲートに対応する較正曲線を保持しておき、通常の測定によって図3に示される相関波形を取得し、その相関波形において相関が最大となる点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点で挟まれるレンジゲートを特定し、そのレンジゲートに対応する較正曲線を選択して用いることで、レンジゲート内の位置を推定すればよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、2つの隣接する点の相関比だけで、較正曲線を形成したが、たとえば、最大ピークとその両隣の信号強度の3つの点について、同様に較正曲線に相当するテーブルを作成してもおいてもよい。さらに多くの点を用いて較正しておくことで、より正確な測距が可能になる。ただし、その分だけ、システム構成が複雑になり、処理に時間がかかるという欠点もある。
【0107】
また、実施の形態2では、形状推定回路5内に1つの距離算出部5aが設けられたが、4つのレーダ51〜54それぞれに、各レーダで得られた距離を算出する距離算出部が設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、スペクトラム拡散レーダを用いて対象物までの距離を測定する測距装置及び対象物の形状を測定する形状測定装置として、例えば、ロボット、車両、船舶及び航空機等の移動体や、室内・室外から外界の状況を知るための装置として、利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施の形態1における測距装置の構成を示すブロック図
【図2】同測距装置の距離算出部の詳細な動作手順を示すフローチャート
【図3】同測距装置の相関部で算出された相関波形の例を示す図
【図4】同測距装置の距離算出部が予め保持している較正曲線の例を示す図
【図5】本発明の実施の形態2における形状測定装置の構成を示すブロック図
【図6】SEABED法におけるアンテナの設置位置を説明するための図
【図7】(a)、(b)は、境界散乱変換を説明するための図
【図8】SEABED法によって物体の形状を測定する処理手順を示すフローチャート
【図9】(a)及び(b)は、実施の形態2における形状測定装置によって実際に擬似波面を測定した結果を説明するための図
【図10】(a)及び(b)は、図9(a)及び図9(b)に示された擬似波面を元にSEABED法にて形状推定した結果を説明するための図
【図11】(a)及び(b)は、従来のスペクトラム拡散レーダを用いた測距装置における測距精度の限界(分解能)を説明するための図
【符号の説明】
【0110】
0、77 物体(ターゲット)
5 形状推定回路
5a 距離算出部
11、13、15、17 送信アンテナ
12、14、16、18 受信アンテナ
21〜24 信号生成器
31〜34 受信器
41〜44 相関回路
51〜54 レーダ
70 測距装置
71 送信部
71a 発振器
71b PN符号発生器
71c 拡散器
71d 送信アンテナ
72 受信部
72a 受信アンテナ
73 相関部
73a 可変遅延器
73b 逆拡散器
73c 狭帯域フィルタ
74 距離算出部
74a 較正曲線
75 送信波
76 反射波
80 形状測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトラム拡散レーダを用いて対象物までの距離を測定する測距装置であって、
一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、前記対象物に向けて放射する送信部と、
前記対象物で反射された前記信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信された信号の波形と前記送信部から放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関部と、
前記相関部で算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記対象物までの距離を算出する距離算出部とを備え、
前記相関部は、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、
前記距離算出部は、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記距離算出部は、前記相関波形において相関が最大となる点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点で挟まれるレンジゲートを特定し、それら2点のうち、遅延時間の小さい点と大きい点とをそれぞれ第1の点と第2の点とした場合に、前記第1の点の相関と前記第2の点の相関との比を算出し、算出した比に基づいて、前記レンジゲートにおけるピークの時間位置を特定し、特定したピークの時間位置に対応する遅延時間から前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の測距装置。
【請求項3】
前記距離算出部は、前記第1の点の相関と前記第2の点の相関との比が前記レンジゲートにおけるピークの時間位置、前記時間位置に対応する遅延時間、又は、前記時間位置に対応する前記距離に依存してどのように変化するかを示す較正曲線を予め保持し、保持している前記較正曲線を参照することで、前記関波形から算出した前記比に対応する前記時間位置、前記遅延時間、又は、前記距離を特定することで、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の測距装置。
【請求項4】
前記較正曲線は、前記レンジゲートに対応する距離よりも小さい距離の刻みで、前記比が前記距離に依存してどのように変化するかを示す曲線であり、
前記距離算出部は、前記較正曲線を参照することで、前記相関波形から算出した前記比に対応する前記距離を特定することで、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする請求項3記載の測距装置。
【請求項5】
スペクトラム拡散レーダを用いて対象物までの距離を測定する測距方法であって、
一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、前記対象物に向けて放射する送信ステップと、
前記対象物で反射された前記信号を受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信された信号の波形と前記送信ステップで放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関ステップと、
前記相関ステップで算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記対象物までの距離を算出する距離算出ステップとを含み、
前記相関ステップでは、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、
前記距離算出ステップでは、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする測距方法。
【請求項6】
スペクトラム拡散レーダを用いて対象物の形状を測定する形状測定装置であって、
一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、前記対象物に向けて放射する複数の送信部と、
前記対象物で反射された前記信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信された信号の波形と前記複数の送信部のうち受信された前記信号を放射した送信部から放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関部と、
前記相関部で算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記複数の送信部から対象物までの距離を算出することによって擬似波面を抽出し、抽出した擬似波面と前記対象物の形状との関係に基づいて前記対象物の形状を推定する形状推定部とを備え、
前記相関部は、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、
前記形状推定部は、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項7】
スペクトラム拡散レーダを用いて対象物の形状を測定する形状測定方法であって、
一定のチップレートで表現される拡散符号によってスペクトラム拡散された信号を生成し、複数の送信部から前記対象物に向けて放射する送信ステップと、
前記対象物で反射された前記信号を受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信された信号の波形と前記複数の送信部のうち受信された前記信号を放射した送信部から放射された信号の波形との相関が、前記放射から前記受信までの遅延時間に依存してどのように変化するかを示す相関波形を算出する相関ステップと、
前記相関ステップで算出された相関波形におけるピークを特定することにより、前記複数の送信部から対象物までの距離を算出することによって擬似波面を抽出し、抽出した擬似波面と前記対象物の形状との関係に基づいて前記対象物の形状を推定する形状推定ステップとを含み、
前記相関ステップでは、前記チップレートに対応する時間長であるレンジゲートごとに前記遅延時間を変化させた場合における前記相関の変化を示す相関波形を算出し、
前記形状推定ステップでは、前記相関波形において最大の相関を示す点とその点に隣接する前後2点のうち相関の大きい点とを用いて、前記相関波形におけるピークに対応する遅延時間を前記レンジゲートよりも小さい分解能で算出することにより、前記対象物までの距離を算出する
ことを特徴とする形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−222592(P2009−222592A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68287(P2008−68287)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】