説明

溶射部材の製造方法

【課題】基材に溶射皮膜が形成された溶射部材の製造に際し、密着性に優れた溶射皮膜を形成することができる溶射部材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材に溶射皮膜が形成された溶射部材の製造に際し、主粉末21の表面に硬質材料からなるラミネート層24を形成した第1の溶射粉末25と、前記ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末27とを同時に溶射し、前記第2の溶射粉末を前記第1の溶射粉末に付着させることにより、前記第1の溶射粉末の前記第2の溶射粉末との付着部において前記主粉末を露出させ、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末と前記基材側とを結合させる、及び/又は、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末どうしを結合させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材に溶射皮膜が形成されてなる溶射部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車などの内燃機関のエンジン性能を維持するために、内燃機関を構成する機械部品の摺動部には耐摩耗性を確保することが求められている。耐摩耗性を確保するための方法として、粉末状又は棒状に形成された溶射材料を、プラズマなどの電気エネルギーや燃焼エネルギーなどを用いて溶融又はそれに近い状態にして高速に加速し、機械部品の摺動面に吹き付けて溶射皮膜を形成する溶射法が知られている。
【0003】
溶射法として、プラズマ溶射やフレーム溶射などの溶射法が知られており、例えばプラズマ溶射や高速フレーム溶射(HVOF)などの溶射法では、一般に粉末状に形成された溶射材料(溶射粉末)が用いられている。溶射粉末を用いるものとして、機械部品の摺動面に溶射皮膜を形成するものではないが、例えば特許文献1には、中性子吸収材に関し、金属製の基材の表面に、アルミニウムやニッケルなどの金属粉末と炭化ホウ素などのホウ素化合物粉末とを溶射方法によりコーティングし、該基材の表面に対し実質的に全面にわたって密着した金属−ホウ素複合層を設けることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−177697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基材に溶射皮膜が形成されてなる溶射部材において、耐摩耗性などの溶射部材の特性を向上させるために、溶射粉末として、主粉末の表面を硬質材料で被覆し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した溶射粉末を用いることが知られている。
【0006】
このように、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した溶射粉末を用いる場合、耐摩耗性などの溶射部材の特性を向上させることができるものの、このラミネート層によって溶射皮膜の密着性が低下し、溶射皮膜に過大な負荷が加わると、溶射皮膜が剥離したり脱落したりする場合がある。
【0007】
図8は、主粉末の表面にラミネート層が形成された溶射粉末の飛行中の状態を模式的に示す図である。主粉末101の表面にラミネート層102が形成された溶射粉末100を、例えばプラズマ溶射法などによって溶射して溶射皮膜を形成する場合、図8に示すように、溶射粉末100は、溶射過程において、主粉末101の表面にラミネート層102が形成された状態のまま飛行する。
【0008】
図9は、前記溶射粉末を用いて溶射皮膜を形成した溶射部材の断面を模式的に示す図であり、図9に示す基材には、基材と溶射皮膜との密着性を向上させるためのアンダーコート層が設けられている。図9に示すように、基材110に溶射粉末100を溶射し、基材110に溶射皮膜115が形成された溶射部材120を製造する場合、基材110にアンダーコート層111が設けられている場合、アンダーコート層111を介して基材110に溶射皮膜115が形成されることとなる。
【0009】
溶射部材120では、アンダーコート層111を用いて基材110と溶射皮膜115との密着性の向上が図られているものの、溶射粉末100は、主粉末101の表面にラミネート層102が形成されているので、アンダーコート層111との界面ではラミネート層102によって溶射皮膜115の密着性が低下することとなる。特に、基材110にアンダーコート層111が設けられていない場合には、このような傾向がより顕著になり得る。また、溶射皮膜115中においても、ラミネート層102を介して溶射粉末100どうしが結合することとなるので、基材110側から脱落しやすい溶射皮膜115が形成されることとなる。
【0010】
したがって、主粉末101の表面に硬質材料からなるラミネート層102を形成した溶射粉末100を、基材110に溶射して溶射皮膜115を形成する場合、ラミネート層102によって溶射皮膜115の密着性が低下し得るので、溶射皮膜の密着性を向上させることが望まれる。
【0011】
そこで、この発明は、前記技術的課題に鑑みてなされたものであり、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層が形成された溶射粉末を用い、基材の表面に溶射皮膜が形成された溶射部材を製造するに際し、密着性に優れた溶射皮膜を形成することができるようにする、ことを基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本願の請求項1に係る溶射部材の製造方法は、基材に溶射皮膜が形成されてなる溶射部材の製造方法であって、主粉末の表面に該主粉末よりも硬質な硬質材料を被覆し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、前記ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射し、溶射過程において前記第2の溶射粉末を前記第1の溶射粉末に付着させることにより、前記第1の溶射粉末の前記第2の溶射粉末との付着部において前記主粉末を露出させ、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末と前記基材側とを結合させる、及び/又は、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末どうしを結合させるようにしたことを特徴としたものである。
【0013】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記第1の溶射粉末及び前記第2の溶射粉末の飛行中に、前記第2の溶射粉末を前記第1の溶射粉末に付着させることを特徴としたものである。
【0014】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記硬質材料が、セラミック系材料であり、前記第2の溶射粉末が、酸化物系の低融点ガラス材料からなることを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一に係る発明において、前記第1の溶射粉末の粒径が、前記第2の溶射粉末の粒径よりも大きいことを特徴としたものである。
【0016】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一に係る発明において、前記主粉末は、前記基材又は前記基材上に形成されるアンダーコート層に含有される元素と同一の元素を含有してなることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に係る溶射部材の製造方法によれば、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射し、溶射過程において第2の溶射粉末を第1の溶射粉末に付着させることにより、第1の溶射粉末の第2の溶射粉末との付着部において主粉末を露出させるので、第1の溶射粉末の主粉末を比較的簡単に露出させることができ、第1の溶射粉末と基材側との結合、及び/又は、第1の溶射粉末どうしの結合を強固にし、密着性に優れた溶射皮膜を形成することができる。
【0018】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、第1の溶射粉末及び第2の溶射粉末の飛行中に、第2の溶射粉末を第1の溶射粉末に付着させることにより、飛行中に第1の溶射粉末の主粉末を露出させるので、前記効果をより確実に奏することができる。
【0019】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、硬質材料が、セラミック系材料であり、第2の溶射粉末が、酸化物系の低融点ガラス材料からなることにより、前記効果を有効に実現し得る硬質材料及び第2の溶射粉末を提供することができる。
【0020】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、第1の溶射粉末の粒径が、第2の溶射粉末の粒径よりも大きいことにより、溶射皮膜において第2の溶射粉末を第1の溶射粉末間に充填させることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0021】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、主粉末は、基材又はアンダーコート層に含有される元素と同一の元素を含有してなることにより、第1の溶射粉末と基材又はアンダーコート層との結合をより強固にすることができ、前記効果を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
本実施形態では、主粉末の表面に該主粉末よりも硬質な硬質材料を被覆し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、前記ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射して溶射皮膜を形成し、溶射部材を製造した。
【0023】
(1)溶射粉末の製造
図1は、本実施形態において第1の溶射粉末の製造に用いた造粒装置の概略構成図である。本実施形態では、図1に示す造粒装置10を用いて第1の溶射粉末を製造した。造粒装置10は、高速気流中衝撃法によって造粒する造粒装置であって、円筒状に形成される衝突リング11と、衝突リング11の前部(図1において左側)を覆う前部カバー12と、衝突リング11の後部(図1において右側)を覆う後部カバー13と、衝突リング11と前部カバー12と後部カバー13とによって形成される衝撃室14内において衝突リング11の中心軸に対して回転可能に設けられる円盤状のロータ15と、該ロータ15の外周部に放射状に配置されるブレード16と、その一端が衝突リング11の一部を貫通して衝撃室14に開口し、その他端が前部カバー12の中心部から衝撃室14内に開口して閉回路を形成する循環回路17と、を備え、この循環回路17には、図示しない原料投入部と接続される原料供給バルブ18が設けられている。
【0024】
造粒装置10は、図示しない駆動手段によってロータ15を回転して衝撃室14及び循環回路17において循環気流を発生させ、それに伴って、原料供給バルブ18を通じて循環回路17に投入される原料が衝撃室14及び循環回路17を循環し、その際に、ブレード16や衝突リング11内壁に衝突して、原料に衝撃力などの機械的エネルギーを繰り返し付与して造粒する。この造粒装置10に、主粉末の表面に主粉末より硬い硬質材料からなる副粉末を付着させた原料を投入し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層が形成された粉末(第1の溶射粉末)を造粒した。
【0025】
本実施形態では、第1の溶射粉末用の主粉末としてクロムカーバイド−ニッケルクロム合金(Cr−NiCr合金)粉末を用い、第1の溶射粉末用の副粉末として窒化ケイ素(Si)粉末を用い、通常の撹拌混合装置を用いて、Cr−NiCr合金粉末の表面にSi粉末を付着させ、造粒装置10に投入する原料を調製した。
【0026】
第1の溶射粉末用の主粉末及び副粉末として用いた材料を以下に示す。なお、後述する第2の溶射粉末として用いた材料も合わせて以下に示す。
a)第1の溶射粉末用の主粉末
・材質 :Cr−25NiCr
・品番 :WOKA−7302(スルザーメテコ社製)
b)第1の溶射粉末用の副粉末
・材質 :Si
・品番 :SN−E10(宇部興産社製)
c)第2の溶射粉末
・材質 :SiO−B−PbO
・品番 :ASF1291(旭硝子社製)
【0027】
図2は、造粒装置における第1の溶射粉末の形成過程を模式的に示す図であり、図2の(a)は、主粉末の表面に副粉末が付着した状態を模式的に示す図、図2の(b)は、主粉末の表面にラミネート層が形成された状態を模式的に示す図である。造粒装置10では、図2(a)に示すように、主粉末21の表面に副粉末22を付着させた原料が投入され、衝撃力などの機械的エネルギーを付与して、図2(b)に示すように、主粉末21の表面にラミネート層24を形成した粉末(第1の溶射粉末)25を製造する。
【0028】
第1の溶射粉末の製造に用いた造粒装置及び造粒条件等を以下に示す。
・造粒装置 :NHS−3型(奈良機械製作所製)
・粉末投入量:600g/バッチ
(Cr−25NiCr(570g)、Si(30g))
・摺速 :80m/s
・造粒時間 :10min
【0029】
本実施形態では、以上のような条件によって、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面に該主粉末よりも硬質な硬質材料であるSiを被覆し、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなるラミネート層を形成して第1の溶射粉末を製造した。
【0030】
図3は、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなる副粉末が付着した前記主粉末の電子顕微鏡写真であり、図4は、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなるラミネート層が形成された前記主粉末の電子顕微鏡写真である。
【0031】
通常の撹拌混合装置を用いてCr−NiCr合金からなる主粉末とSiからなる副粉末とを撹拌混合すると、図3に示すように、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなる副粉末が点在した状態で付着した原料が調製される。そして、この原料を造粒装置10によって造粒すると、図4に示すように、Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面に、図4において灰色部で示されるSiからなるラミネート層が形成される。
【0032】
なお、第1の溶射粉末を製造するために用いる主粉末と副粉末の大きさは、これに限定されるものではないが、造粒装置10において詰まりを防止するために、主粉末は325メッシュ以下で粒径45μm以下のものを用い、副粉末については粒径1μm程度のものを用いた。
【0033】
また、本実施形態では、溶射粉末として、前述した第1の溶射粉末25に加え、第1の溶射粉末25のラミネート層24を形成する材料に対して濡れ性がよく、第1の溶射粉末25のラミネート層24の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末を用いる。第2の溶射粉末として、各種セラミックの焼結温度を低下させるために用いられる酸化物系の低融点ガラス材料からなる粉末を用いることができ、具体的には、ケイ酸(SiO)を主成分とし、軟化点を下げるホウ酸(B)と、金属との濡れ性を向上させる酸化鉛(PbO)とを含むSiO−B−PbOからなる粉末を用いた。なお、第2の溶射粉末の大きさは、第1の溶射粉末より小さいことが好ましく、第2の溶射粉末は、第1の溶射粉末と第2の溶射粉末との総質量に対する第2の溶射粉末の質量の割合が5〜20質量%であることが好ましい。
【0034】
(2)溶射部材の製造
図5は、本実施形態に係る溶射部材の製造に用いた溶射装置の構成を模式的に示す断面説明図である。図5に示す溶射装置30を用いて、第1の溶射粉末と第2の溶射粉末とを同時に、アルミニウム合金などからなる基材に溶射し、溶射部材を製造した。なお、基材には、前処理としてショットブラストを施し、密着性を阻害する錆びや汚れを落として表面を活性化させ、洗浄及び乾燥後に、ニッケルを含有するアンダーコート層を被覆した。
【0035】
溶射装置30は、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とを基材に向けて噴射するためにプラズマアークを用いるプラズマ溶射装置であり、陰極を備えた第1の溶射トーチ40と、陽極を備えた第2の溶射トーチ50及び第3の溶射トーチ60と、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とを供給するための溶射粉末供給ノズル70とを備えている。
【0036】
第1の溶射トーチ40は、ノズル41と、該ノズル41内に配設される電極棒42とを備え、この電極棒42は、図示しない直流電源に接続され陰極とされている。また、ノズル41には、アルゴンガス供給源(不図示)からアルゴンガスを供給するためのガス供給通路43と、ガス供給通路43よりもノズル先端側に設けられ、空気供給源(不図示)から空気を供給するための空気供給通路44と、空気供給通路44よりもノズル先端側に設けられ、ガス供給通路43と空気供給通路44と連通してアルゴンガスと空気とを混合する混合通路45とが設けられ、アルゴンガスと空気との混合ガスがノズル先端部に設けられた開口部46から噴出されるようになっている。
【0037】
第2の溶射トーチ50は、第1の溶射トーチ40よりも溶射すべき基材側に配置され、ノズル51と、該ノズル51内に配設される電極棒52とを備え、この電極棒52は、図示しない直流電源に接続され陽極とされている。また、ノズル51には、アルゴンガス供給源(不図示)からアルゴンガスを供給するためのガス供給通路53を備え、アルゴンガスがノズル先端部に設けられた開口部56から噴出されるようになっている。
【0038】
第3の溶射トーチ60は、第1の溶射トーチ40よりも溶射すべき基材側に配置されるとともに第2の溶射トーチ50に対向して配置され、ノズル61と、該ノズル61内に配設される電極棒62とを備え、この電極棒62は、図示しない直流電源に接続され陽極とされている。また、ノズル61には、アルゴンガス供給源(不図示)からアルゴンガスを供給するためのガス供給通路63を備え、アルゴンガスがノズル先端部に設けられた開口部66から噴出されるようになっている。
【0039】
溶射粉末供給ノズル70は、第1の溶射トーチ40の外周側を覆うように設けられ、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とを供給するための溶射粉末供給通路71を備えた二重管構造で構成されている。溶射粉末供給ノズル70は、陰極を備えた第1の溶射トーチ40と陽極を備えた第2の溶射トート50との間、及び、陰極を備えた第1の溶射トーチ40と陽極を備えた第3の溶射トーチ60との間で発生するプラズマアーク71によるプラズマジェット流72に、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とを供給することができるようになっている。
【0040】
このようにして構成される溶射装置30では、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とが、第1、第2及び第3のトーチ40、50、60によって形成されたプラズマジェット流72中に材料供給通路71を通じて供給されることにより、基材に向けて第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末とを同時に溶射することができるようになっている。
【0041】
なお、プラズマジェット流72への第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末との供給は、溶射装置30のように第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末と混合した状態で溶射粉末供給ノズル70に供給して同時に溶射するものに限定されるものでなく、第1の溶射粉末を供給する第1の溶射粉末供給ノズルと第2の溶射粉末を供給する第2の溶射粉末供給ノズルを用いて2つのノズルから第1の溶射粉末と第2の溶射粉末とをプラズマジェット流に供給し、同時に溶射するようにしてもよい。
【0042】
また、溶射装置30には、溶射装置30の作動を制御する制御ユニット(不図示)が設けられ、該制御ユニットによって各溶射条件を設定することができるようになっている。 溶射に用いた具体的な装置及び溶射条件等を以下に示す。
・溶射装置 :APS7100(ツインアノード)(エアロプラズマ社製)
・電流 :250A
・電圧 :360V
・出力 :90kW
・粉末供給量:30g/min
・溶射距離 :100mm
【0043】
本実施形態では、以上のような条件によって、主粉末の表面に該主粉末よりも硬質な硬質材料を被覆し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射し、基材に溶射皮膜を形成して溶射部材を製造した。
【0044】
図6は、第1の溶射粉末と第2の溶射粉末の飛行中の状態を模式的に示す図である。第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末27とを同時に溶射すると、図6に示すように、溶射過程において、具体的には飛行中において、プラズマジェット流72によって第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末27とが加熱された状態で第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末27とが互いに衝突し、第2の溶射粉末27の一部は、第1の溶射粉末25に付着する。
【0045】
第1の溶射粉末25の第2の溶射粉末27との付着部では、第2の溶射粉末27を形成するSiと第1の溶射粉末25のラミネート層24を形成するSiO−B−PbOとが反応し、SiO−B−PbOが、より低融点を有する材料に変質し、第1の溶射粉末25のラミネート層24の融点が低下することとなる。第1の溶射粉末25は、飛行中プラズマジェット流72によって加熱され、第1の溶射粉末25の主粉末24が部分的に露出させられた状態で飛行する。
【0046】
図7は、第1の溶射粉末と第2の溶射粉末とからなる溶射皮膜が形成された溶射部材の断面を模式的に示す図であり、図7では、基材にアンダーコート層が設けられている。基材80に第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末27とを同時に溶射し、基材80に溶射皮膜85が形成された溶射部材90を製造する場合、図7に示すように、基材80にアンダーコート層81が設けられている場合、アンダーコート層81を介して基材80に溶射皮膜85が形成される。
【0047】
溶射皮膜85では、第1の溶射粉末25と第2の溶射粉末27とがラミネート層24を介して基材80側、具体的にはアンダーコート層81と結合することとなるが、本実施形態では、溶射過程において第1の溶射粉末25の主粉末21を部分的に露出させるので、この露出部25aを介して、第1の溶射粉末25の主粉末21とアンダーコート層81とが部分的に結合する。
【0048】
これにより、第1の溶射粉末25の主粉末21とアンダーコート層81とが冶金的に反応することができ、溶射皮膜85の密着性を向上させることができる。また、溶射皮膜85中においても、主粉末21の露出した露出部25aを介して第1の溶射粉末25どうしを結合させることができ、溶射皮膜85の密着性をさらに向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、溶射粉末として、第1の溶射粉末25に加えて第2の溶射粉末27を用いているので、図7に示すように、第2の溶射粉末27を、第1の溶射粉末25間や第1の溶射粉末25と基材80側、具体的にはアンダーコート層81との間に充填することができ、溶射皮膜85の密着性をさらに向上させることができる。
【0050】
基材にアンダーコート層が設けられていない場合においても、第1の溶射粉末と第2の溶射粉末とを同時に溶射し、溶射過程において第2の溶射粉末を第1の溶射粉末に付着させることにより、第1の溶射粉末25の主粉末21を露出させ、この露出部を介して第1の溶射粉末と基材とを結合させる、及び/又は、主粉末の露出した露出部を介して第1の溶射粉末どうしを結合させることで、溶射皮膜の密着性を向上させることができる。
【0051】
なお、第1の溶射粉末25の主粉末21は、基材80に含有される元素と同一の元素を含有していることが好ましく、基材80にアンダーコート層81が設けられる場合には、基材80上に設けられたアンダーコート層81に含有される元素と同一の元素を含有していることが好ましい。これにより、第1の溶射粉末と基材又はアンダーコート層との結合をより強固にすることができ、前記効果を確実に得ることができる。
【0052】
このように、本実施形態に係る溶射部材の製造方法によれば、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、ラミネート層に付着してラミネート層を低融点化させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射し、溶射過程において第2の溶射粉末を第1の溶射粉末に付着させることにより、第1の溶射粉末の第2の溶射粉末との付着部においてラミネート層を溶融させて主粉末を露出させるので、第1の溶射粉末の主粉末を比較的簡単に露出させることができ、第1の溶射粉末と基材との結合、及び/又は、第1の溶射粉末どうしの結合を強固にし、密着性に優れた溶射皮膜を形成することができる。
【0053】
本実施形態では、第1の溶射粉末について、主粉末の材料として、Cr−NiCr合金を用いているが、WC、TiCNiなどのその他のサーメット材料を用いることができ、また、副粉末の材料として、Siを用いているが、ZrO、ZrSiO、Al、SiCなどのその他のセラミック系材料を用いることができる。
【0054】
また、第2の溶射粉末の材料として、PbO−B−SiOを用いているが、第1の溶射粉末を製造するための副粉末の材料としてSiが用いられる場合には、Bi−B−SiO、B−ZnOなどを用いることができる。
【0055】
以上のように、本発明は、例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、基材に溶射粉末を溶射して基材に溶射皮膜が形成された溶射部材の製造に関するものであり、例えばエンジンのシリンダボアやピストンリングなどの摺動部材の表面処理として好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態において第1の溶射粉末の製造に用いた造粒装置の概略構成図である。
【図2】造粒装置における第1の溶射粉末の形成過程を模式的に示す図である。
【図3】Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなる副粉末が付着した前記主粉末の電子顕微鏡写真である。
【図4】Cr−NiCr合金からなる主粉末の表面にSiからなるラミネート層が形成された前記主粉末の電子顕微鏡写真である。
【図5】本実施形態に係る溶射部材の製造に用いた溶射装置の構成を模式的に示す断面説明図である。
【図6】第1の溶射粉末と第2の溶射粉末の飛行中の状態を模式的に示す図である。
【図7】第1の溶射粉末と第2の溶射粉末とからなる溶射皮膜が形成された溶射部材の断面を模式的に示す図である。
【図8】主粉末の表面にラミネート層が形成された溶射粉末の飛行中の状態を模式的に示す図である。
【図9】前記溶射粉末を用いて溶射皮膜を形成した溶射部材の断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0058】
21、101 主粉末
24、102 ラミネート層
25、100 第1の溶射粉末
25a 露出部
27 第2の溶射粉末
80、110 基材
81、111 アンダーコート層
85、115 溶射皮膜
90、120 溶射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に溶射皮膜が形成されてなる溶射部材の製造方法であって、
主粉末の表面に該主粉末よりも硬質な硬質材料を被覆し、主粉末の表面に硬質材料からなるラミネート層を形成した第1の溶射粉末と、前記ラミネート層の融点を低下させる材料からなる第2の溶射粉末とを同時に溶射し、溶射過程において前記第2の溶射粉末を前記第1の溶射粉末に付着させることにより、前記第1の溶射粉末の前記第2の溶射粉末との付着部において前記主粉末を露出させ、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末と前記基材側とを結合させる、及び/又は、前記主粉末の露出した露出部を介して前記第1の溶射粉末どうしを結合させるようにしたことを特徴とする溶射部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶射粉末及び前記第2の溶射粉末の飛行中に、前記第2の溶射粉末を前記第1の溶射粉末に付着させることを特徴とする請求項1に記載の溶射部材の製造方法。
【請求項3】
前記硬質材料が、セラミック系材料であり、前記第2の溶射粉末が、酸化物系の低融点ガラス材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射部材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の溶射粉末の粒径が、前記第2の溶射粉末の粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の溶射部材の製造方法。
【請求項5】
前記主粉末は、前記基材又は前記基材上に形成されるアンダーコート層に含有される元素と同一の元素を含有してなることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の溶射部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−242873(P2009−242873A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90952(P2008−90952)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】