説明

溶接装置および溶接方法

【課題】 ポロシティの発生を防止しつつ、深い溶け込み溶接を達成できる溶接装置を提供する。
【解決手段】 重ね合わされた金属材100間の隙間量tを測定する電流供給装置30、制御装置40および力測定部50と、測定した隙間量tが適正値になるように、隙間量tを増大または低減して、隙間量tを矯正する加圧部60およびコイル62と、隙間量tが矯正された金属材100上にレーザ光を集光して照射するレーザ光照射部20と、を有する溶接装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置および溶接方法に関し、特に、ポロシティや未融着部分の発生を防止できる溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の溶接方法として、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接では、重ね合わされた金属材に対して、レーザ光を集光して照射する。レーザ光は高エネルギ密度を有する。したがって、金属材表面に激しい蒸発が起こり、蒸気反力としてキーホールと呼ばれる穴が形成される。キーホールに入ったレーザ光は反射損失が小さくなるので、キーホールは次第に深くなる。これにより、深い溶け込み溶接ができる。レーザ光の照射を止めると、金属材はすぐに融点以下になり、凝固するので、凝固速度が比較的速い(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、溶け込み深さが深いことや、凝固速度が速いため、溶接金属中に気泡(ポロシティ)が発生する問題がある。特に、亜鉛メッキ鋼板同士を溶接する場合にポロシティが多く発生する。その原因は、亜鉛の融点が約420度であり、約1535度の鉄の融点に比べて大幅に低いことにある。この融点の差により、溶融金属の凝固が始まっても、亜鉛蒸気が発生し、溶融金属内に残ってしまう。
【0004】
上記ポロシティの問題は、溶接対象となる鋼板同士が密着していなければ、抑制できると考えられている。そこで、亜鉛メッキ鋼板同士を溶接する場合、鋼板同士の間に隙間を確保して、該隙間を亜鉛蒸気の外部排出用の誘導路として利用する技術が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平10−505791号公報
【特許文献2】特開2004−330292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の技術を採用しても、次のような問題がある。
【0006】
亜鉛メッキ鋼板を溶接する場合、重ね合わせる鋼板の精度によっては、隙間量がレーザ溶接可能な隙間量0.3mmを超えてしまい、レーザ溶接自体が達成できなくなる場合がある。
【0007】
これに対し、加圧ローラや加圧ピンなどにより隙間量を矯正しながらレーザ溶接を実行することも考えられる。しかし、鋼板自体や部品精度のばらつきにより、隙間矯正力が一様でないため、隙間量が一定にならない。すなわち、部分的に隙間量がなくなってポロシティが発生したり、隙間量が大きすぎて未融着部分発生したりすることがある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ポロシティの発生を防止しつつ、深い溶け込み溶接を達成できる溶接装置および溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶接装置は、重ね合わされた金属材間の隙間量を測定する隙間量測定手段と、測定した前記隙間量が適正値になるように、前記隙間量を増大または低減して、前記隙間量を矯正する矯正手段と、前記隙間量が矯正された前記金属材上にレーザ光を集光して照射するレーザ光照射手段と、を有する。
【0010】
本発明の溶接方法は、重ね合わされた金属材間の隙間量を測定する測定工程と、測定した前記隙間量が適正値になるように、前記隙間量を増大または低減して、前記隙間量を矯正する矯正工程と、前記隙間量が矯正された前記金属材上にレーザ光を集光して照射するレーザ照射工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接装置によれば、矯正手段により金属材間の隙間量を適正値に矯正するので、隙間量が不適切なことによるポロシティや未融着部分の発生を防止しつつ、レーザ光による深い溶け込み溶接を達成できる。
【0012】
本発明の溶接方法によれば、金属材間の隙間量を適正値に矯正するので、隙間量が不適切なことによるポロシティや未融着部分の発生を防止しつつ、レーザ光による深い溶け込み溶接を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は重ね合わせた金属材を示す図である。
【0015】
金属材は、たとえば、鉄板に亜鉛がコーティングされてなる亜鉛メッキ鋼板である。
【0016】
2枚の金属材100を重ね合わせた場合、図1に示すように、金属材100の精度により、一部で隙間がなかったり(隙間量t=0)、隙間量tが適正値でなかったりする。本実施形態の溶接装置は、重ね合わせたときの隙間量tが適正値でなくても、隙間量tを矯正して適切に重ね溶接できる。
【0017】
図2は溶接装置の概略構成図、図3は力測定部を示す図、図4は加圧部を示す図である。
【0018】
溶接装置10は、レーザ光照射部20、電流供給装置30、制御装置40、力測定部50、加圧部60、観察部(観察手段)70、溶接トーチ80を有する。
【0019】
電流供給装置30(電流供給手段)、制御装置(演算手段)40および力測定部(力測定手段)50は、隙間量測定手段として機能する。
【0020】
レーザ光照射部20、電流供給装置30、制御装置40、力測定部50、加圧部60、観察部70、溶接トーチ80は、フレーム90により保持されている。溶接装置10は、溶接方向、たとえば、図1に矢印で示す方向に進行する。
【0021】
レーザ光照射部20は、図示しないレーザ発振装置により発生されたレーザ光を、集光レンズで細く絞って、重ね合わされた金属材100上に照射する。
【0022】
電流供給部は、各金属材100に電流を供給する装置である。電流供給部は、金属材100の枚数分端子が設けられている。各端子は、それぞれ金属材100に接続されている。電流供給部は、異なる大きさの電流を各金属材100に供給する。電流供給部は、制御装置40に接続されている。
【0023】
制御装置40は、力測定部50、加圧部60、観察部70および溶接トーチ80に接続されており、各構成を制御する。
【0024】
力測定部50は、レーザ光が集光される金属材100上の溶接部位よりも、溶接方向前方にフレーム90に取り付けられている。力測定部50は、図3に示すように、先端にピン52が設けられている。ピン52は、常に先端が金属材100に接触するように、揺動自在に保持されている。ピン52は、金属材100から加えられる力により揺動する。したがって、ピン52の位置を測定することによって、金属材100に作用している力を測定できる。測定結果は、制御装置40に送信される。
【0025】
加圧部60は、力測定部50の側方に取り付けられている。加圧部60は、先端が半球状に形成されており、コイル62(磁石)が内蔵されている。コイル62を内蔵した加圧部60は、金属材100間の隙間量を矯正する矯正手段として機能する。加圧部60は、必要に応じて、金属材100を加圧して金属材100間の隙間量を低減し、または、コイル62に発生した磁力により金属材100をひきつけ、金属材100間の隙間量を増大する。
【0026】
観察部70は、レーザ光が照射されている溶接部位が溶接良好か溶接不良かを観察するセンサである。溶接良好か溶接不良かは、観察部70により撮影された画像に基づいて制御部により判断される。観察部70は、たとえば、特開2003−103387号公報に開示されているように、レーザ溶接の際に金属材100表面に発生するプラズマプルームの発光を観察する。制御部は、プラズマプルームの信号強度に基づいて、溶接の良否を判定できる。
【0027】
溶接トーチ80は、レーザ光が集光されている溶接部位よりも、溶接方向後方にフレーム90に取り付けられている。溶接トーチ80は、電極からアークを発生するミグ溶接用の消耗式トーチである。溶接トーチ80は、ワイヤ(溶融用金属材料)を電極として、一定速度でトーチのコンタクトチップから供給して、金属材100との間でアークを発生する。そして、溶接トーチ80は、アークの熱で金属材100を溶融しつつ、ワイヤ自身も溶融して、溶融箇所に溶融金属を供給しつつ金属材100を溶接する。ここで、アークおよび溶融金属は不活性ガスによって空気より保護される。なお不活性ガスとしてはアルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いる。
【0028】
(作用)
次に、溶接装置10の作用を説明する。
【0029】
図5は、溶接装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【0030】
溶接装置10は、図2に示す矢印方向に進みながら、亜鉛メッキ鋼板を溶接する。以下では、金属材100上に渉る溶接部位のうち、一箇所の溶接部位に注目し、該溶接部位上を進行する溶接装置10の作用を説明する。
【0031】
まず、電流供給装置30により、各金属材100に電流が流される(ステップS1)。電流が流された金属材100には、磁界m1、m2が発生する。したがって、クーロンの法則により、金属材100間に隙間tがあると、次式のように、力Fが発生する。kは定数である。
【0032】
【数1】

【0033】
そして、溶接部位上に力測定部50が位置するように、フレーム90が移動される(ステップS2)。フレーム90の移動は、制御装置40により制御される。制御部には、加工プログラムが予め入力されている。
【0034】
力測定部50は、溶接部位へのレーザ照射に先行して、上記式(1)により発生する力Fを測定する(ステップS3)。制御部は、測定した力Fを式(1)に代入して、金属材100間の隙間tを算出する(ステップS4)。なお、磁界m1、m2は、各金属材100に供給する電流値に基づいて、予め算出されており、定数kは予め制御部に記憶されている。
【0035】
制御部は、求めた隙間量tが適正値、たとえば、3mmであるかを判断する(ステップS5)。
【0036】
隙間量tが3mmでない場合(ステップS5:NO)、制御部は、さらに、隙間量tが3mm未満かが否かを判断する(ステップS6)。
【0037】
隙間量が3mm未満である場合(ステップS6:YES)、溶接部位上に加圧部60が位置するように、フレーム90が移動される(ステップS7)。そして、制御部は、加圧部60に内蔵されたコイル62に電流を流し、発生した磁力により手前の金属材100を引き付け、金属材100間の隙間量tを増大させ、適正値3mmに矯正する。
【0038】
隙間量が3mm未満ではない場合(ステップS6:NO)、すなわち、隙間量が3mmより大きい場合、溶接部位上に加圧部60が位置するように、フレーム90が移動される(ステップS9)。そして、制御部は、加圧部60により金属材100を加圧し、金属材100間の隙間量tを適正値3mmに矯正する(ステップS10)。
【0039】
一方、隙間量が3mmの場合(ステップS5:YES)、加圧部60は、金属材100に作用せずに、溶接部位上を通り過ぎる。隙間量tを矯正する必要がないからである。ステップS11の処理に進む。
【0040】
続けて、溶接部位上にレーザ光照射部20が位置するように、フレーム90が移動される(ステップS11)。レーザ光照射部20は、溶接部位にレーザ光を照射する(ステップS12)。レーザ照射により、金属材100の表面に蒸発が起き、キーホールが形成される。キーホール内においてレーザ光が反射し、深く金属材100が溶融される。
【0041】
このとき、観察部70は、レーザ溶接の様子を観察する(ステップS13)。制御装置40は、観察部70により検出した溶接の様子に基づいて、レーザ溶接が良好であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0042】
レーザ溶接が不良である場合(ステップS14:NO)、溶接部位上に溶接トーチ80が位置するように、フレーム90が移動される(ステップS15)。そして、溶接トーチ80は、レーザ照射が終わった溶接部位に対して、ミグ溶接を実行する(ステップS16)。ここで、溶接トーチ80は、ワイヤを電極としてアークを発生させ、溶接部位を再度溶融し、同時に溶融したワイヤを補充する。
【0043】
溶接が良好である場合(ステップS14:YES)、溶接トーチ80は、溶接部位に対して作用せずに、溶接部位上を通り過ぎる。
【0044】
以上の作用の説明では、広い範囲の溶接部位における特定の溶接箇所に対して、溶接装置10がどのように作用するかを説明している。したがって、たとえば、ステップS3の溶接部位の力の測定と、ステップS12のレーザ溶接とは、該特定の溶接箇所には、同時に実行されていない。しかし、実際は、溶接装置10は、同時に異なる位置の溶接箇所を処理しているので、特定の溶接箇所に働く力を測定して最中にも、他の溶接箇所にレーザ溶接などの他の処理を実行している。
【0045】
(効果)
以上のように、本実施形態の溶接装置10によれば、加圧部60や該加圧部60に内蔵されたコイル62などの矯正手段により金属材100間の隙間量tを適正値に矯正できる。したがって、隙間量tが不適切なことによるポロシティや未融着部分の発生を防止しつつ、レーザ光による深い溶け込み溶接を達成できる。
【0046】
また、溶接装置10は、電流供給装置30により各金属材100に異なる大きさの電流を流している。したがって、金属材100に異なる磁界を発生させて、クーロンの法則により、金属材100間の隙間量tを容易に算出できる。
【0047】
さらに、加圧部60には、通電により磁石となるコイル62が内蔵されている。したがって、隙間量tが大きい場合には、加圧部60により押圧することにより隙間量tを低減し、適正値に矯正できる。一方、隙間量tが小さい場合には、コイル62に通電して一方の金属材100を引き付けることにより隙間量tを増大し、適正値に矯正できる。
【0048】
溶接装置10は、レーザ光照射部20に加えて、溶接良否を観察する観察部70と、レーザ光照射部20よりも溶接方向後方に配置された溶接トーチ80を有する。したがって、観察部70によりポロシティの発生や未融着などの溶接不良が観察された場合、溶接トーチ80により再度ミグ溶接できる。したがって、溶接不良を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】重ね合わせた金属材を示す図である。
【図2】溶接装置の概略構成図である。
【図3】力測定部を示す図である。
【図4】加圧部を示す図である。
【図5】溶接装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
10…溶接装置、
20…レーザ光照射部、
30…電流供給装置、
40…制御装置、
50…力測定部、
52…ピン、
60…加圧部、
62…コイル、
70…観察部、
80…溶接トーチ、
90…フレーム、
100…金属材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた金属材間の隙間量を測定する隙間量測定手段と、
測定した前記隙間量が適正値になるように、前記隙間量を増大または低減して、前記隙間量を矯正する矯正手段と、
前記隙間量が矯正された前記金属材上にレーザ光を集光して照射するレーザ光照射手段と、
を有する溶接装置。
【請求項2】
前記隙間測定手段は、
前記金属材のそれぞれに、異なる大きさの電流を供給する電流供給手段と、
前記電流の供給により、前記金属材間に発生する力を測定する力測定手段と、
測定した前記力に基づいて、前記隙間量を演算する演算手段と、
を含む請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記矯正手段は、
一方の前記金属材を他方の前記金属材に向かって加圧する加圧部と、
前記加圧部に設けられた磁石と、
を含み、
前記隙間量が適正値より大きいときは、前記加圧部により前記金属材を加圧して該隙間量を前記適正値まで低減し、
前記隙間量が適正値より小さいときは、前記磁石を作動させて、一方の前記金属材を引き付け、前記隙間量を前記適正値まで増大する請求項1または請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記レーザ光照射手段により照射されている溶接部位を観察する観察手段と、
前記溶接部位よりも溶接方向後方に配置され、前記溶接部位における溶接不良が観察された場合、レーザ照射が終わった前記溶接部位に対してアークを発生させて、前記溶接部位を再度溶融する溶接トーチと、
前記溶接トーチにより前記溶接部位を溶融する際に、該溶接部位に補充するための溶接用金属材料と、
をさらに有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接装置。
【請求項5】
重ね合わされた金属材間の隙間量を測定する測定工程と、
測定した前記隙間量が適正値になるように、前記隙間量を増大または低減して、前記隙間量を矯正する矯正工程と、
前記隙間量が矯正された前記金属材上にレーザ光を集光して照射するレーザ照射工程と、
を含む溶接方法。
【請求項6】
前記測定工程は、
前記金属材のそれぞれに、異なる大きさの電流を供給する工程と、
前記電流の供給により、前記金属材間に発生する力を測定する工程と、
測定した前記力に基づいて、前記隙間量を演算する工程と、
を含む請求項5に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記矯正工程では、
前記隙間量が適正値より大きいときは、加圧部により前記金属材を加圧して該隙間量を前記適正値まで低減し、
前記隙間量が適正値より小さいときは、磁石により一方の前記金属材を引き付け、前記隙間量を前記適正値まで増大する請求項5または請求項6に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光照射手段により照射されている溶接部位を観察する工程と、
前記溶接部位における溶接不良が観察された場合、レーザ照射が終わった前記溶接部位に対してアークを発生させて、前記溶接部位を再度溶融する工程と、
前記溶接トーチにより前記溶接部位を溶融する際に、該溶接部位に溶接用金属材料を補充する工程と、
をさらに含む請求項5〜7のいずれか一項に記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−38267(P2007−38267A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225836(P2005−225836)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】