説明

溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置

【課題】 TRIP鋼板とDP鋼板のいずれについても、同一設備により安定した品質の溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造することができる装置を提供する。
【解決手段】 加熱帯1及び均熱帯2からなる加熱・均熱手段と、徐冷帯3と冷却帯4とからなり冷却速度を選択可能な冷却手段と、短時間保持手段5と、めっきに適切な温度への板温調整手段6と、溶融亜鉛めっき手段7とを備えた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置である。冷却手段は350〜450℃まで10℃/秒以上100℃/秒以下の冷却速度で冷却する中速冷却手段と、450℃を下回らない温度まで10℃/秒以下の冷却速度で冷却する緩速冷却手段とを選択可能な冷却帯4であり、TRIP鋼の場合には中速冷却手段を、DP鋼の場合には緩速冷却手段を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TRIP鋼やDP鋼などの高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施した溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置に関するものである。ここでTRIP鋼とはTransformation Induced Plasticity鋼を意味し、残留オーステナイトが少しの力を受けるだけで硬いマルテンサイトに変わるという原理を利用して延性を高めた高張力鋼である。またDP鋼はDual Phase鋼を意味し、フェライトとマルテンサイトの2相の析出比を制御することにより加工性を確保しつつ強度を高めた鋼である。
【背景技術】
【0002】
鋼帯に加熱、均熱、冷却その他の熱処理を施したうえ、その後段に直結されためっき装置により溶融亜鉛めっきを行う設備は、特許文献1に示されるように従来から知られている。この特許文献1の装置は軟鋼用であり、セメンタイト析出のための過時効帯をめっき装置の前に設けたものである。
【0003】
ところが強度発現の原理が全く異なるTRIP鋼やDP鋼などの高張力鋼板について特許文献1に示されたような軟鋼用の設備を適用すると、加熱、均熱温度が不足する一方、冷却能力が過剰であるなどの問題があって、安定した品質の溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができない。しかも高張力鋼板のうちTRIP鋼とDP鋼とでは必要な熱処理条件が異なるため、それぞれの鋼板種類について個別の設備を設けねばならず、設備コスト及び生産コストの上昇を招いていた。
【特許文献1】特開2002−155318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、高張力鋼板の種類がTRIP鋼とDP鋼のいずれの場合についても、同一設備により安定した品質の溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造することができる溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためになされた本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置は、加熱・均熱手段と、冷却速度を選択可能な冷却手段と、短時間保持手段と、めっきに適切な温度への板温調整手段と、溶融亜鉛めっき手段とを備えたことを特徴とするものである。なお、冷却手段が、350〜450℃まで10℃/秒以上100℃/秒以下、さらに好ましくは20℃/秒以上50℃/秒以下の冷却速度で冷却する中速冷却手段と、450℃を下回らない温度まで10℃/秒以下の冷却速度で冷却する緩速冷却手段とを選択可能な冷却帯であることが好ましい。
【0006】
また短時間保持手段が、350〜600℃で100秒以上保持する再均熱帯であり、板温調整手段が、450〜500℃に板温を加熱又は冷却するものであることが好ましい。さらに高張力鋼板がTRIP鋼またはDP鋼であり、TRIP鋼の場合には中速冷却手段を選択し、DP鋼の場合には緩速冷却手段を選択することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置は、TRIP鋼、DP鋼などの高張力鋼板の特性に適した熱処理が可能であるうえ、めっきに適切な温度への板温調整手段と、溶融亜鉛めっき手段とを備えているため、めっき品質も高めることができる。しかも冷却帯が中速冷却手段と緩速冷却手段とを選択可能なものとしたので、異なる2種類の溶融亜鉛めっき高張力鋼板を1ラインで実施することができ、設備コスト及び生産コストを引き下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置の全体図であり、1は加熱帯、2は均熱帯、3は徐冷帯、4は冷却帯、5は再均熱帯、6は板温調整手段、7は溶融亜鉛めっき手段である。TRIP鋼、DP鋼などの高張力鋼板はこれらの各部分を矢印方向に連続的に走行しつつ、熱処理され溶融亜鉛めっきされる。なお冷却帯4の内部には能力の異なる複数の冷却装置8が設置されており、それらを使い分けることによって冷却速度を中速冷却と緩速冷却とに切り替え可能となっている。加熱帯1と均熱帯2とは加熱・均熱手段を構成し、徐冷帯3と冷却帯4は冷却手段を構成し、再均熱帯5は短時間保持手段を構成する。
【0009】
図2はTRIP鋼が本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を通過する間の板温変化を示すグラフである。この実施形態のTRIP鋼は、0.2%C−1.3%Mn−1.4%Al−0.13%Moを含有し、引張強度590MPa以上を発現するものである。まずTRIP鋼は均熱帯2において図2中にAとして示したように、800〜850℃の二相域焼鈍の温度域に保持され、フェライト組織生成を促す。
【0010】
次に均熱帯2を出たTRIP鋼は徐冷帯3で700℃付近まで徐冷されたうえ、冷却帯4に入る。TRIP鋼の場合には冷却帯4は中速冷却手段が選択されており、図2中にBとして示したように、鋼帯を350〜450℃まで10℃/秒以上100℃/秒以下、好ましくは20℃/秒以上50℃/秒以下の冷却速度で冷却する。これは冷却中のパーライト生成を回避し、残留オーステナイト量を安定確保することによって、目標とする強度と延性を得るためである。冷却速度が10℃/秒よりも遅いと延性が低下するので好ましくない。また、冷却速度が100℃/秒よりも速いと冷却制御が困難となって温度精度が低下し、製品品質が悪化するので同様に好ましくない。
【0011】
次にTRIP鋼は図2中にCとして示されるように、再均熱帯5において350〜450℃で100秒以上保持される。この温度域ではベイナイト変態が進行し、オーステナイト中の[C]濃度を高め、残留オーステナイトの生成を促す。この温度域を外れるとこの効果が減少する。また保持時間が100秒未満でもこの効果が減少し延性が悪化する。しかし200秒以上の保持を行うと延性とともに強度も低下するため、100〜200秒が適切である。
【0012】
次にTRIP鋼は図2中にDとして示されるように板温調整手段6においてめっきに適した450℃から500℃程度まで加熱され、溶融亜鉛めっき手段7に浸漬されて溶融亜鉛めっきされる。なお図2中のEは亜鉛めっきを合金化処理する際の加熱温度である。このようにして溶融亜鉛めっきされたTRIP鋼は、室温まで冷却されて製品となる。
【0013】
このように本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を用いれば、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトの各相を含む溶融亜鉛めっきされたTRIP鋼を製造することができる。このTRIP鋼は加工されると歪みを受けた部位の残留オーステナイトが硬いマルテンサイトに変わり、高い延性と引張強度を発揮する。
【0014】
図3はDP鋼が本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を通過する間の板温変化を示すグラフである。この実施形態のDP鋼は、0.12%C−2.0%Mn−0.3%Mo−0.01%Nbを含有し、引張強度780MPa以上を発現するものである。このDP鋼も図3中にAとして示したように、均熱帯2において800〜850℃の温度域に保持され組織の均一化を図る。
【0015】
次に均熱帯2を出たDP鋼は徐冷帯3を通過し、冷却帯4に入る。DP鋼の場合には冷却帯4は緩速冷却手段が選択されており、図2中にBとして示したように、鋼帯を450℃を下回らない温度まで10℃/秒以下の冷却速度で冷却する。この冷却終点温度は、出来上がり組織の分率を決定する因子であり、冷却温度が10℃/秒を越えると温度制御精度が低下して製品品質を損うので好ましくない。
【0016】
次に図2中に図2中にCとして示したようにDP鋼は再均熱帯5において450〜600℃で100秒以上保持される。この保持温度はベイナイトの生成を回避してマルテンサイトの生成を確保するために重要であり、450℃未満では引張強度が目標とする強度を下回るので好ましくない。また600℃以上としても引張強度の向上はない。
【0017】
次にDP鋼は図3中にDとして示されるように板温調整手段6においてめっきに適した450℃から500℃程度まで冷却され、溶融亜鉛めっき手段7に浸漬されて溶融亜鉛めっきされる。なお図3中のEは亜鉛めっきを合金化処理する際の加熱温度である。このようにして溶融亜鉛めっきされたDP鋼は、室温まで冷却されて製品となる。
【0018】
このように本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を用いれば、大部分がフェライトとマルテンサイトであり一部にベイナイトを含む溶融亜鉛めっきされたDP鋼を製造することができる。
【0019】
以上に説明したように、本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を用いれば、鋼板の種類がTRIP鋼とDP鋼のいずれの場合についても、同一設備により安定した品質の溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置を示す全体図である。
【図2】TRIP鋼についての板温変化を示すグラフである。
【図3】DP鋼についての板温変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1 加熱帯
2 均熱帯
3 徐冷帯
4 冷却帯
5 再均熱帯
6 板温調整手段
7 溶融亜鉛めっき手段
8 冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱・均熱手段と、冷却速度を選択可能な冷却手段と、短時間保持手段と、めっきに適切な温度への板温調整手段と、溶融亜鉛めっき手段とを備えたことを特徴とする溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置。
【請求項2】
冷却手段が、350〜450℃まで10℃/秒以上100℃/秒以下の冷却速度で冷却する中速冷却手段と、450℃を下回らない温度まで10℃/秒以下の冷却速度で冷却する緩速冷却手段とを選択可能な冷却帯であることを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置。
【請求項3】
短時間保持手段が、350〜600℃で100秒以上保持する再均熱帯であり、板温調整手段が、450〜500℃に板温を加熱又は冷却するものであることを特徴とする請求項2記載の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置。
【請求項4】
高張力鋼板がTRIP鋼またはDP鋼であり、TRIP鋼の場合には中速冷却手段を選択し、DP鋼の場合には緩速冷却手段を選択することを特徴とする請求項2記載の溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−52445(P2006−52445A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235129(P2004−235129)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】