説明

溶融性水膨潤性止水組成物及びそれを使用した止水方法

【課題】溶剤を使用することのない止水用水膨潤性塗料組成物を提供する。
【解決手段】200℃以下で溶融流動化するエラストマーとして熱可塑性脂肪族ポリエステル樹脂100重量部、電離性吸水ポリマーとしてカルボキシメチルセルロースナトリウム100重量部、多価金属化合物として硫酸アルミニウム4重量部を混合して水膨潤性止水組成物を得た。この組成物を100℃に加熱して溶融させて鋼矢板の継手部に流し込んで水膨潤性止水膜を形成したところ、従来の溶剤型水膨潤性止水材と同等の止水性能を発揮した。溶剤を使用しないので、作業者に影響を与えず、また、固化時間が短いので施工効率が向上した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の接合部の止水用塗布剤に関するものである。更に詳しくは土木建設資材の接合部に150〜200℃以下の温度で溶融または軟化した組成物を塗布または貼付けて塗膜を形成する水膨潤性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事においては、鋼矢板、鋼管矢板、コンクリート矢板等を使用して土留、締切り工事が行われている。これらの土木建設用資材の接合部の止水が不完全であると漏水が生じ、排水作業が必要となり余分な労力を必要とするとともに工事を遅延させ、コストがかかることとなる。その対策として、土木資材の接合部に水膨潤性塗料を塗布して止水をおこなっている。あるいは、コンクリートの打ち継部やH鋼とコンクリートの接合部などの防水にシーリング材などを用いる対策を行っている。
【0003】
従来の水膨潤性塗料の多くは、土木建築資材の接合部に、刷毛塗り塗布、または、流し込み等の方法で塗布されている。刷毛塗り用水膨潤性塗料の多くは溶剤タイプであり、また、流し込みタイプとしてはウレタン系の塗料が多い。
例えば、特許文献1(特公昭47−43612)には、吸水率が0.5以上の成膜性樹脂と、この樹脂に対し30〜500部の水溶性充填材とを主成分とした水膨潤性塗料が開示されている。
特公昭48−11807には、吸水率が0.5以上の樹脂をビヒクルとし、水溶性の固体酸及びそれと反応して気体を発生せしめる物質をビヒクルに対し10〜100部添加してなる発泡性塗料組成物が開示されている。
特開昭60−235863には、水膨潤性物質と水硬性物質とを含有することを特徴とする水膨潤性組成物が開示され、特開昭62−109883には、水膨潤性物質と水硬性セメント、セメント急硬剤、ゴム、及び石膏を含有する水膨潤性組成物が、また、特開昭61−34087には、水膨潤性物質、水硬性物質、ゴム及び/又はエラストマーを含有する水膨潤性止水組成物の成型品の表面をゴム状弾性物で被覆した水膨潤性複合シ−リング材が開示されている。
特公平1−25798にはブチル再生ゴム、タイヤ再生ゴムのいずれかとブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等の未架橋ゴムにケイ酸類、ベントナイト、可塑剤とを配合した水膨潤性止水組成物が開示されている。
そして、特公平6−96688には、電離性吸水ポリマー、多価金属化合物およびエラストマーの有機溶剤溶液からなる水膨張性塗料組成物が開示されている。
尚、他にポリウレタン系の水膨張性塗料組成物(特公昭53−38750、特開昭60−235863、特開昭61−14279、特開昭62−167314、特願昭58−039088等)がある。
【特許文献1】特公昭47−43612
【特許文献2】特開昭60−235863
【特許文献3】特開昭62−109883
【特許文献4】特公平1−25798
【特許文献5】特公平6−96688
【特許文献6】特公昭53−38750
【特許文献7】特開昭60−235863
【特許文献8】特開昭61−14279
【特許文献9】特開昭62−167314
【特許文献10】特願昭58−039088
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土木建設資材の接合部に上述したような塗料を塗布または貼り付けることによって、水膨潤性塗料が水と接触して膨潤し、接合部の隙間を埋めて止水効果を発揮している。しかし、従来の水膨潤性止水塗料の多くが、塗布後24時間程度乾燥のための養生が必要となる。また溶剤タイプの水膨潤性止水塗料においては、溶剤が揮発するため臭気が漂い作業環境が悪化する。更に溶剤は揮発して大気中に放出されるので環境汚染の原因となる等の問題があり、作業工程の短縮及び作業環境の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水膨潤性組成物は、200℃以下で溶融流動化するエラストマーに電離性吸水ポリマー、多価金属化合物が少なくとも一種、または水親和性のウレタン樹脂を含むことを特徴とする組成物である。
本発明に使用する熱溶融エラストマーは、200℃以下の温度で溶融流動化するものであり、好ましくは100〜150℃の範囲で溶融流動化するものである。
溶融温度が200℃以上であると、電離性吸水ポリマーの劣化、すなわち、熱により電離性吸水ポリマーが熱劣化を起こし、膨潤率特性が低下するので好ましくない。また、溶融温度が低くければ低いほど、溶融のための熱エネルギーが小さくてすみ、作業効率は向上するが、夏季などに直射日光に晒されて高温状態となって溶融する不都合があり、溶融温度は100〜200℃のエラストマーが実用的に適している。
これらの溶融物は鋼矢板継手部に流し込んだ後、30〜60分放置することで固化して膜が形成される。
この条件に適合するものとしては、熱可塑性脂肪族ポリエステル、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂、パラフィン等が挙げられる。
【0006】
電離性吸水ポリマーは、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル共重合体類等である。
そして、多価金属化合物は、水溶性の2価以上の金属塩であって、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、酢酸アルミニウム等の少なくとも一種であり、この多価金属化合物は水に溶解してイオン化し、この多価金属イオンが電離性吸水ポリマーと結合して電離性吸水ポリマーを難水溶性化させる働きをする。
水親和性ウレタン樹脂は、湿気硬化型および二液混合型のものが使用できる。
【0007】
本発明の水膨潤性止水組成物は、加熱溶融によって溶融して対象物に塗布するものであり、適宜の加熱溶融方法によって塗布することができる。
本発明の組成物を加熱容器に入れて溶融し、鋼矢板等の土木建設資材に流し込み塗布する。または、熱溶融エラストマー、電離性吸水ポリマー、多価金属化合物材料の各々規定量を計量し、これらを容器に入れて加熱溶融混合して鋼矢板等の土木建設資材に流し込みにより塗布する。或いは、加熱溶融吹出装置を用いて、溶融した止水材を吹出して鋼矢板等に塗布する。
【0008】
以下に本発明の水膨潤性止水組成物の製造方法を説明する。
熱溶融エラストマー、電離性吸水ポリマー、多価金属化合物の各々の規定量を計量し、加熱容器に入れて加熱溶融して材料を溶融混合し、冷却して固化したものを粉砕してチップ状にする。
あるいは、熱溶融エラストマー、電離性吸水ポリマー、多価金属化合物の各々規定量を計量して混合するドライ状で混合する等の方法によって本発明の水膨潤性止水組成物を製造する方法がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、従来の水膨潤性組成物のように溶剤が不要であり、溶剤の蒸発による作業環境の悪化がなく、更には塗布後の製膜固化が短時間であり施工効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施例について説明する。(尚、実施例中の部は、重量部である。)
実施例及び比較例の止水組成物の耐水圧試験結果を表1及び表2に示す。
【0011】
実施例1
熱可塑性脂肪族ポリエステル樹脂(商品名:ダイセル化学工業製、プラクセルH1P)100部とカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:日本製紙ケミカル製、サンローズF150LC)100部、硫酸アルミニウム4部を混合して水膨潤性止水組成物を得た。
この組成物をステンレス製の容器に入れて100℃に加熱して溶融させた。この溶融物を鋼矢板の継手部に流し込んで1mm厚の水膨潤性止水膜を形成した。尚、流し込みの際には、矢板継手部の一箇所に集中して流し込まない様に注意することが必要である。
【0012】
実施例2
エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂(商品名:住友化学製、エバフレクス−EEA A−704)100部とカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:日本製紙ケミカル製、サンローズF150LC)80部、硫酸アルミニウム3部を混合して本発明の水膨潤性組成物を得た。
この組成物を加熱溶融吐出装置に入れて150℃に加熱して溶融させた。この溶融物を鋼矢板の継手部に流し込んで1mm厚の水膨潤性止水膜を形成した。
【0013】
実施例3
熱可塑性脂肪族ポリエステル樹脂(商品名:ダイセル化学工業製、プラクセルH1P)100部にポリアクリル酸(商品名:日本純薬製、ジュリマーAC-10P)120部、硫酸アルミニウム3部を混合して100℃に加熱して溶融させて本発明の水膨潤性組成物を得た。
この組成物を加熱溶融吹出し装置に入れて100℃に加熱して溶融させた。この溶融物を鋼矢板の継手部にノズルより吹出して1.5mm厚の水膨潤性止水膜を形成した。
【0014】
実施例4
パラフィン100部とカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:日本製紙ケミカル製、サンローズF800HC)150部、硫酸アルミニウム5部を混合して水膨潤性組成物を得た。
この組成物をステンレス製の容器に入れて、80℃に加熱して溶融させた。
溶融後、加熱を停止し、冷却して軟化状態の組成物をへらで鋼矢板の継手部に塗りつけて1mm厚の水膨潤性止水膜を形成した。
【0015】
実施例5
熱可塑性脂肪族ポリエステル樹脂(商品名:ダイセル化学工業製、プラクセルH1P)100部、水親和性ウレタン樹脂(商品名:日本化学塗料製、パイルロックNSの硬化粉砕物)100部を混合して水膨潤性組成物を得た。
この組成物をステンレス製の容器に入れて100℃に加熱して溶融させた。この溶融物を鋼矢板の継手部に流し込んで2mm厚の水膨潤性止水膜を形成した。
【0016】
比較例
クロロプレンゴム50部とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂50部を混合したエラストマーに400部のトルエンを加え50〜60℃に加熱溶解してエラストマー溶液500部を得た。これに電離性吸水ポリマー(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を250部配合し、硫酸アルミニウム10部を添加して撹拌混合した溶剤型の水膨潤性塗料組成物を得た。
比較例についても、先の実施例と同様にして耐圧試験用の供試体を作成した。ただ、比較例は溶剤型の塗料なので、乾燥膜厚が1mmになるように塗布して膜を形成した。
【0017】
実施例及び比較例の止水膜の耐水圧試験の方法は以下の方法でおこなった。
口径180mm、耐圧5Kg/cm2の閉止フランジの片面に、予め水膨潤性止水組成物を容器に入れて加熱溶融したものを流し込み約1mm厚の止水膜を形成する。そして、内径20mm以内、外径120mm以上を切り取り幅50mmのリング状の膜をフランジ面に残した。次に中央に穴を開け、ノズルをセットした同型のフランジに同様な処理をして内径20mm以内、外径120m以上を切り取り幅50mm、厚さ1mmのリング状の塗膜をフランジ面に残した。
次にフランジ面間隔をナットとワッシャーを利用して5mmに固定した水膨潤性止水組成物の供試体を作成した。
【0018】
これらの供試体を淡水、人工海水(3.8%食塩水)に48時間浸漬した。その後、コンプレッサーと圧力ゲージを組込んだ加圧ユニットに水膨潤性止水組成物の供試体を接続して加圧して耐水圧試験を行った。
試験は、100kPaから5分おきに100kPa上昇させ、最大500kPaまで加圧した。
【0019】
また、長期耐水圧性を確認するため同供試体の浸漬を続け、48時間後、1ヶ月後、3ヵ月後、6ヶ月後、1年後に同様に耐水圧試験をしたところ、表1及び表2に示す通り、従来の溶媒型水膨潤性止水材と同等の長期耐水圧性能を示した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃以下で溶融流動化するエラストマーと電離性吸水ポリマー、及び多価金属化合物とからなることを特徴とする水膨潤性止水組成物。
【請求項2】
200℃以下で溶融流動化するエラストマーと水親和性のウレタン樹脂とからなることを特徴とする水膨潤性止水組成物。
【請求項3】
請求項1において、電離性吸水ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル共重合体の少なくとも一種からなるものである水膨潤性止水組成物。
【請求項4】
請求項1または3において、多価金属化合物が硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、酢酸アルミニウムの少なくとも一種からなるものである水膨潤性止水組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、エラストマーが、熱可塑性脂肪族ポリエステル、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂、パラフィンの少なくとも一種からなる水膨潤性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの水膨潤性止水組成物を加熱溶融し、溶融状態の組成物を塗布することを特徴とする止水方法。

【公開番号】特開2009−57476(P2009−57476A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226172(P2007−226172)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(391035577)日本化学塗料株式会社 (5)
【Fターム(参考)】