説明

漏電検出装置

【課題】検出対象の浮遊容量の影響を除いて、より正確に漏電を検出する。
【解決手段】漏電検出装置101は、交流信号を発振する発振回路111と、高電圧回路102と発信回路111との間に直列に接続される抵抗112およびカップリングコンデンサ113、抵抗112の両端の電圧を検出する電圧検出部114,115、および、演算部116を備える。演算部116は、抵抗112の両端の電圧の電圧比および位相差を検出し、抵抗112の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、高電圧回路102とボディアース間の漏電の有無を検出する。本発明は、例えば、電動車両用の漏電検出装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏電検出装置に関し、特に、検出対象に交流信号を印加して漏電検出を行う漏電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle、電気自動車)、HEV(Hybrid Electric Vehicle、ハイブリッドカー)、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、プラグインハイブリッドカー)などの電動車両において、高電圧電源や高電圧負荷(例えば、駆動用モータ制御インバータ等)により構成される高電圧回路は、感電を防止するために、電動車両のボディアースに対して絶縁されている。しかし、事故や、高電圧電源で使用する高圧バッテリのバッテリ液の付着等により、高電圧回路とボディアース間の絶縁抵抗が低下し、漏電が発生した場合に、利用者が感電する恐れがあるため、漏電の有無を検出する漏電検出装置が電動車両に設けられる。そして、絶縁抵抗が所定の閾値(例えば100kΩ)以下に低下すると、漏電検出装置は漏電が発生していると判定し、感電防止のため、例えば、各負荷への電力の供給を停止したり、充電動作を停止したりする等の措置が施される。
【0003】
そこで、従来、カップリングコンデンサを介して交流信号を高電圧回路に印加し、交流信号の振幅変動量から漏電を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来、車両のボディと高圧バッテリの間に交流信号を印加して、交流信号の電圧と電流の位相関係から、ボディと高圧バッテリとの間のアドミタンスの抵抗成分を求め、求めた抵抗成分から漏電を検出することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、従来、車両のボディと高圧バッテリの間に、抵抗とコンデンサとの直列回路を介して交流電圧を印加し、当該抵抗の両端の電圧を測定し、測定した電圧に基づいて、ボディと高圧バッテリ間の浮遊容量を算出する。そして、浮遊容量の算出値、抵抗の入力側電圧Vin、および、検出したい絶縁抵抗の抵抗値から、抵抗の出力側電圧Voutの基準データを設定し、実際の出力側電圧Voutと比較することにより、漏電を検出することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の漏電検出方法では、車両側の容量成分を含めた合成インピーダンスしか検出できないため、高電圧回路の配線による浮遊容量や高電圧負荷に実装されたコンデンサの影響を受けてしまう。また、浮遊容量は経年変化するため、絶縁抵抗が劣化しなくても、浮遊容量の変動により漏電が誤検出される恐れがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の漏電検出方法では、アドミタンスの抵抗成分の検出に必要な微小電流を測定するために、高精度の電流測定回路を設ける必要がある。逆に、電流測定回路の精度が低い場合、漏電が誤検出される恐れがある。
【0008】
さらに、特許文献3に記載の漏電検出方法は、浮遊容量がほとんど変化しないことが想定されているため、浮遊容量が変化した場合、漏電が誤検出される恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−70503号公報
【特許文献2】特開平11−218554号公報
【特許文献3】特開2002−323526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、検出対象の浮遊容量の影響を除いて、より正確に漏電を検出できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面の漏電検出装置は、検出対象の漏電を検出する漏電検出装置であって、交流信号を発振する発振回路と、前記検出対象と前記発振回路との間に直列に接続されるコンデンサと、前記コンデンサと前記発振回路との間に直列に接続される抵抗と、前記抵抗の両端の電圧比を検出する電圧比検出手段と、前記抵抗の両端の電圧の位相差を検出する位相差検出手段と、前記抵抗の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、漏電の有無を検出する漏電検出手段とを備える。
【0012】
本発明の一側面の漏電検出装置においては、交流信号が抵抗およびコンデンサを介して検出対象に印加され、前記抵抗の両端の電圧比、および、前記抵抗の両端の電圧の位相差が検出され、前記抵抗の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、漏電の有無が検出される。
【0013】
従って、検出対象の浮遊容量の影響を除いて、より正確に漏電を検出することができる。
【0014】
この検出対象は、例えば、電動車両の高電圧回路により構成される。この電圧比検出手段、位相差検出手段、漏電検出手段は、例えば、マイクロコンピュータまたはプロセッサ等により構成される。
【0015】
この漏電検出手段には、前記抵抗の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、前記検出対象とアース間の直流抵抗成分を算出させ、算出した直流抵抗成分と所定の閾値とを比較した結果に基づいて、漏電の有無を検出させることができる。
【0016】
これにより、漏電を検出する基準を所望の値に設定することができる。
【0017】
このアースは、例えば、電子機器や電気回路等のアース、電動車両のボディアース等により構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によれば、検出対象の漏電を検出することができる。特に、本発明の一側面によれば、検出対象の浮遊容量の影響を除いて、より正確に漏電を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した漏電検出装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】漏電検出装置の演算部の機能の構成例を示すブロック図である。
【図3】浮遊容量が存在しない場合に検出される交流電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】浮遊容量が存在する場合に検出される交流電圧のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.変形例
【0021】
<1.実施の形態>
[漏電検出装置の構成例]
図1は、本発明を適用した漏電検出装置の一実施の形態を示すブロック図である。漏電検出装置101は、例えば、高電圧回路102を備える電動車両に設けられ、高電圧回路102と電動車両のボディアース間の漏電の有無を検出する。漏電検出装置101は、発振回路111、抵抗112、カップリングコンデンサ113、電圧検出部114,115、および、演算部116を含むように構成される。
【0022】
発振回路111と高電圧回路102の間には、抵抗112およびカップリングコンデンサ113が直列に接続されており、発振回路111から出力される交流信号が、抵抗112およびカップリングコンデンサ113を介して、高電圧回路102に印加される。なお、発振回路111の抵抗112に接続されている一端と異なる一端は、ボディアースに接続されている。また、カップリングコンデンサ113の抵抗112に接続されている一端と異なる一端は、高電圧回路102のバッテリ121の−端子に接続されている。
【0023】
電圧検出部114は、発振回路111と抵抗112の間の交流電圧Vを検出し、検出結果を示す信号を演算部116に供給する。電圧検出部115は、抵抗112とカップリングコンデンサ113の間の交流電圧Vを検出し、検出結果を示す信号を演算部116に供給する。すなわち、電圧検出部114,115により、抵抗112の両端の交流電圧V,Vが検出される。
【0024】
演算部116は、例えば、マイクロコンピュータまたはプロセッサ等により構成される。演算部116は、後述するように、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|(=|V/V|)および位相差φに基づいて、高電圧回路102とボディアース間の漏電の有無を検出し、検出結果を外部に出力する。
【0025】
高電圧回路102は、バッテリ121および高電圧負荷122を含むように構成される。高電圧負荷122は、例えば、電動車両の駆動用モータ制御インバータ、エアコンディショナのコンプレッサモータ等により構成され、バッテリ121の電力により駆動される。
【0026】
また、高電圧回路102とボディアース間は絶縁されている。従って、図1に示されるように、両者が絶縁抵抗131により接続されていると等価的に見なすことができる。また、高電圧回路102とボディアース間には、浮遊容量132が存在する。
【0027】
なお、以下、抵抗112の抵抗値をR、カップリングコンデンサ113の容量をC、絶縁抵抗131の抵抗値をR、浮遊容量132の容量をCで表す。また、発振回路111の交流信号の周波数をfで表し、角周波数をω(=2πf)で表す。
【0028】
[演算部116の構成例]
演算部116は、振幅比検出部151、位相差検出部152、および、漏電検出部153を含むように構成される。
【0029】
振幅比検出部151は、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|を検出し、振幅比|V|を漏電検出部153の直流抵抗算出部161に出力する。
【0030】
位相差検出部152は、交流電圧Vと交流電圧Vの位相差φを検出し、位相差φを漏電検出部153の直流抵抗算出部161に出力する。
【0031】
漏電検出部153は、直流抵抗算出部161、比較部162、および、メモリ163を含むように構成され、以下に述べる方法で、高電圧回路102とボディアース間の漏電の有無を検出する。
【0032】
直流抵抗算出部161は、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|および位相差φから、絶縁抵抗131の抵抗値Rを算出する。
【0033】
[絶縁抵抗131の抵抗値Rの算出方法]
ここで、絶縁抵抗131の抵抗値Rの算出方法について説明する。
【0034】
高電圧回路102とボディアース間の合成インピーダンスZは、次式(1)により表される。
【0035】
【数1】

【0036】
カップリングコンデンサ113の容量Cと合成インピーダンスZとの合成インピーダンスをZとし、V/V=Vとすると、Vは次式(2)により表される。
【0037】
【数2】

【0038】
よって、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|は、次式(3)により表される。
【0039】
【数3】

【0040】
また、交流電圧Vと交流電圧Vの位相差φに基づく−tanφは、次式(4)により表される。
【0041】
【数4】

【0042】
式(3)および式(4)から、絶縁抵抗131の抵抗値Rは、次式(5)により表される。
【0043】
【数5】

【0044】
抵抗112の抵抗値R、および、カップリングコンデンサ113の容量Cは既知なので、検出した交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|および位相差φを式(5)に適用することにより、合成インピーダンスZの直流抵抗成分である絶縁抵抗131の抵抗値Rを求めることができる。
【0045】
直流抵抗算出部161は、以上のようにして算出した抵抗値Rを比較部162に出力する。
【0046】
比較部162は、抵抗値Rと、メモリ163に予め記憶されている漏電検出抵抗しきい値とを比較し、比較した結果に基づいて漏電の有無を検出する。すなわち、比較部162は、抵抗値Rが漏電検出抵抗しきい値以上である場合、漏電が発生していないと判定し、抵抗値Rが漏電検出抵抗しきい値未満である場合、漏電が発生していると判定する。比較部162は、漏電の有無の検出結果を外部に出力する。
【0047】
[交流電圧V,Vのシミュレーション結果]
図3および図4は、図1の回路において、浮遊容量132が存在しない場合と存在する場合の交流電圧V,Vのシミュレーション結果を示している。なお、両図のシミュレーションの条件は、浮遊容量132の容量Cのみが異なり、他は同じである。具体的には、図3のシミュレーションでは、容量C=0μFに設定し、図4のシミュレーションでは、容量C=0.5μFに設定している。また、両図のシミュレーションとも、抵抗112の抵抗値R=100kΩ、カップリングコンデンサ113の容量C=1μF、絶縁抵抗131の抵抗値R=100kΩ、発振回路111の交流信号の周波数f=10Hzに設定している。
【0048】
図4のシミュレーション結果を図3のシミュレーション結果と比較すると、交流電圧Vと交流電圧Vとの間に位相差φが生じるとともに、交流電圧Vの振幅小さくなっていることが分かる。すなわち、浮遊容量132の容量Cにより、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|および位相差φが変動することが分かる。
【0049】
従って、上述した特許文献1では、交流信号の波高値と検出電圧の波高値を単純に比較して漏電検出を行っているため、例えば、図4に示されるように、浮遊容量により検出電圧が低下した場合に、漏電の誤検出が発生する可能性がある。
【0050】
以上のようにして、漏電検出装置101によれば、浮遊容量132の影響を除いて、絶縁抵抗131の抵抗値Rのみに基づいて漏電の有無を検出することができ、その結果、漏電の検出精度が向上する。
【0051】
また、上述した特許文献2に記載の発明のように、微小電流を検出することなく、交流電圧Vと交流電圧Vの振幅比|V|および位相差φのみを検出するだけで、漏電の検出精度を向上させることができる。
【0052】
<2.変形例>
以上の説明では、漏電検出装置101を電動車両に適用する例を示したが、本発明は、電動車両以外の他の装置の漏電検出に適用することが可能である。
【0053】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
101 漏電検出装置
102 高電圧回路
111 発振回路
112 抵抗
113 カップリングコンデンサ
114,115 電圧検出部
116 演算部
121 バッテリ
122 高電圧負荷
131 絶縁抵抗
132 浮遊容量
151 振幅比検出部
152 位相差検出部
153 漏電検出部
161 直流抵抗算出部
162 比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の漏電を検出する漏電検出装置において、
交流信号を発振する発振回路と、
前記検出対象と前記発振回路との間に直列に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサと前記発振回路との間に直列に接続される抵抗と、
前記抵抗の両端の電圧比を検出する電圧比検出手段と、
前記抵抗の両端の電圧の位相差を検出する位相差検出手段と、
前記抵抗の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、漏電の有無を検出する漏電検出手段と
を備えることを特徴とする漏電検出装置。
【請求項2】
前記漏電検出手段は、前記抵抗の両端の電圧の電圧比および位相差に基づいて、前記検出対象とアース間の直流抵抗成分を算出し、算出した直流抵抗成分と所定の閾値とを比較した結果に基づいて、漏電の有無を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の漏電検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37278(P2012−37278A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175474(P2010−175474)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】