説明

潤滑剤劣化検出装置および検出装置付き軸受

【課題】 潤滑剤の混入物濃度を広い範囲にわたって測定できる潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受を提供する。
【解決手段】 この潤滑剤劣化検出装置1は、それぞれ潤滑剤9を介在させるギャップdを介して対向する投光手段3および受光手段4を有する複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cを備える。各単位劣化検出センサ2A〜2Cは、ギャップd間の潤滑剤9の透過光を測定することによって潤滑剤9の劣化具合を検出する。これら複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cの前記ギャップdの大きさは互いに異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤の混入物などによる劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受、例えば安全性やメンテナンス性が要求される鉄道車両、発電プラント、風車設備等に使用される潤滑剤劣化検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤を封入した軸受では、軸受内部の潤滑剤(グリース、油など)が劣化すると転動体の潤滑不良が発生し、軸受寿命が短くなる。転動体の潤滑不良を、軸受の振動状態などから判断するのでは、寿命に達して動作異常が発生してから対処することになるため、潤滑状態の異常をより早く検出できない。そこで、軸受内の潤滑剤の状態を定期的あるいはリアルタイムに観測し、異常やメンテナンス期間の予測を可能にすることが望まれる。
【0003】
潤滑剤の劣化の主要な要因として、軸受の使用に伴って発生する摩耗粉が潤滑剤に混入することが挙げられる。
軸受の摩耗状態を検出するものとしては、軸受のシールの内側に電極やコイル等のセンサを配置し、摩耗粉の混入する潤滑剤の電気的特性を前記センサで検出するようにしたセンサ付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−293776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサ付き軸受は、潤滑剤の電気的特性を検出するものであるため、大量の摩耗粉が入って導通が起こるなどの状況にならなければ、特性変化として検出されず、混入物の検出が困難な場合がある。
【0005】
このような課題を解決するものとして、例えば図9のように、発光側および受光側の光ファイバ46,47の各一端を検出対象となる潤滑剤45が存在する検出部48に対向させ、発光側の光ファイバ46の他端に発光素子43を、受光側の光ファイバ47の他端に受光素子44をそれぞれ配置した光学式の構成を考えた。
図9の構成では、発光素子43から出射された光が発光側の光ファイバ46を経由して検出部48に存在する潤滑剤45を透過し、さらに受光側の光ファイバ47を経由して受光素子44で検出され、受光素子44で検出される透過光量から潤滑剤45に混入する異物の量が推定される。
【0006】
また、このような光学式の構成のものにおいて、図10のように、検出部となる潤滑剤45の配置空間50を介して先端が並ぶ2本の光ファイバ46,47を設け、これら光ファイバ46,47の先端を斜めにカットしてその斜めのカット面を反射コーティングした反射面46a,47aとし、これら斜めの反射面46a,47aを、一方の光ファイバ46を通る光が先端の反射面46aで他方の光ファイバ47の反射面47aに向けて反射してこの反射面47aから他方の光ファイバ47内に反射する方向とする構成としても良い。この場合、一方の光ファイバ46の基端に発光素子43を、他方の光ファイバ47の受光素子44をそれぞれ配置し、受光素子44の出力から潤滑剤45に混入している異物の量を検出する。
【0007】
このように構成した場合、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部となる潤滑剤45の配置空間50を小型化でき、構成部品を減らすことができる。これにより、軸受内部などへの設置において、配置の自由度を高めることができ、発光素子43や受光素子44、判定回路を軸受内に配置することが可能となる。また、図10の構成において、2本の光ファイバ46,47は、その先端の反射面46a,47aの最下位置まで樹脂でモールドして固定状態とすると、検出部となる潤滑剤45の配置空間50のギャップが変動せず、安定した検出が可能となる。
【0008】
しかし、これらの光学式のものでは、両光ファイバ46,47の先端間のギャップによって潤滑剤45の厚みが定まるので、検出可能な潤滑剤の混入物濃度範囲が制限される。また、高い混入物濃度まで測定できるように前記ギャップを小さくすると、低濃度での測定感度が低下してしまうことになる。
【0009】
この発明の目的は、潤滑剤の混入物濃度を広い範囲にわたって測定できる潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、それぞれ潤滑剤を介在させるギャップを介して対向する投光手段および受光手段を有しギャップ間の潤滑剤の透過光を測定することによって潤滑剤の劣化具合を検出する単位劣化検出センサを複数設け、これら複数の単位劣化検出センサの前記ギャップの大きさを互いに異ならせたものである。
この構成によると、ギャップの大きさを互いに異ならせた複数の単位劣化検出センサを併用し、潤滑剤の混入異物濃度を測定するので、数種類の感度で測定することになる。そのため、潤滑剤の混入物濃度を広い範囲にわたって測定できる。
【0011】
この発明において、前記投光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた発光素子を有し、前記受光手段が、投光手段の光ファイバと平行に配置された光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた受光素子を有し、前記両光ファイバは、それぞれ先端を斜めにカットしてその斜めカット面を反射面とし、これら斜めの反射面は、投光側の光ファイバを通る光が先端の反射面で受光側の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から受光側の光ファイバ内に反射するものとしても良い。
この構成の場合、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、各単位劣化検出センサをコンパクトで故障し難い構成とすることができる。これにより、例えば検出対象の潤滑剤が封入された軸受の内部などへの設置において、配置の自由度を高めることができる。
また、このような構成により、検出部のギャップを小さくできることから、ギャップへ潤滑剤が入り込み易くなり、潤滑剤を一定厚さに保持でき、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0012】
この発明において、前記投光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた発光素子を有し、前記受光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた受光素子を有し、前記両光ファイバは、互いに先端面が上記ギャップを介して対向するものとしても良い。
【0013】
この発明において、前記複数の単位劣化検出センサの出力から潤滑剤の現在の劣化度合いを算出する検出回路を有するものとしても良い。
【0014】
この発明の検出装置付き軸受は、この発明の上記いずれかの構成の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものである。
この構成によると、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。これにより、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の潤滑剤によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明の効果】
【0015】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、それぞれ潤滑剤を介在させるギャップを介して対向する投光手段および受光手段を有しギャップ間の潤滑剤の透過光を測定することによって潤滑剤の劣化具合を検出する単位劣化検出センサを複数設け、これら複数の単位劣化検出センサの前記ギャップの大きさを互いに異ならせたため、潤滑剤の混入物濃度を広い範囲にわたって測定できる。
この発明の検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものであるため、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。その結果、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の潤滑剤によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1は、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置の概略構成図を示す。この潤滑剤劣化検出装置1は、潤滑剤9の劣化具合を検出する複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cと、これら複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cの出力から潤滑剤9の現在の劣化具合を算出する検出回路10とを備える。各単位劣化検出センサ2A〜2Cは、それぞれ潤滑剤9を介在させるギャップdを介して対向する投光手段3と受光手段4とでなる。投光手段3は、光ファイバ7と、この光ファイバ7の基端に設けられた発光素子5とを有する。受光手段4は、投光手段3の光ファイバ7と平行に配置された光ファイバ8と、この光ファイバ8の基端に設けられた受光素子6とを有する。両光ファイバ7,8の先端間が、潤滑剤9を介在させるギャップdとされる。
前記両光ファイバ7,8は、それぞれ先端を斜めにカットした斜めカット面とされている。これらの斜めカット面は、図2(A),(B)に側面図および正面図で示すように、金蒸着、またはメッキ、または樹脂封止により反射コーティングした反射面7a,8aとされている。これら斜めの反射面7a,8aは、投光側の光ファイバ7を通る光が先端の反射面7aで受光側の光ファイバ8の反射面8aに向けて反射して、この反射面8aから受光側の光ファイバ8内に反射する方向に向けられている。すなわち、投光側の光ファイバ7は、発光素子5の発光面と対向する基端の端面に発光素子5から出射された光を入射させ、先端の反射面7aで反射させることで光路を90°曲げて、潤滑剤9の介在するギャップdに投光する。また、受光側の光ファイバ8は、潤滑剤9の介在するギャップdに対向する先端の面から潤滑剤9を透過した光を入射させ、先端の反射面8aで光ファイバ8内に反射させることで光路をさらに90°曲げて、受光素子6の受光面と対向する基端の端面から受光素子6に入射させる。なお、両光ファイバ7,8の先端の互いに対面する部分は、光の透過が可能な構成としておく。
このように投光側光ファイバ7および受光側光ファイバ8を配置することにより、発光素子5から出射された光が投光側光ファイバ7を介して潤滑剤9を透過し、その透過光が受光側光ファイバ8を介して受光素子6に入射される。
【0017】
前記各単位劣化検出センサ2A〜2Cのギャップdの大きさは互いに異ならせてある。具体的には、単位劣化検出センサ2Aのギャップdの大きさをd1、単位劣化検出センサ2Bのギャップdの大きさをd2、単位劣化検出センサ2Cのギャップdの大きさをd3とすると、
d1>d2>d3
の大小関係に設定されている。
【0018】
前記発光素子5としては、LED、EL、有機ELなどを用いることができ、発光回路11によって駆動される。前記受光素子6としては、フォトダイオード、フォトトランジスタなどを用いることができ、その出力を受ける受光回路12によって受光素子6の受光量が検出される。
【0019】
この潤滑剤劣化検出装置1を、例えば軸受内部の潤滑剤の劣化検出に使用する場合、前記各単位劣化検出センサ2A〜2Cは、例えば図3のように、軸受と同心のリング状保持体13に分配して保持される。
【0020】
潤滑剤9が新品のときには透明に近い状態にあり、投光側光ファイバ7から投光されて潤滑剤9を透過する透過光の強度は高い。ところが、潤滑剤9に混入する鉄粉等の異物の量が多くなると、透過光の強度が徐々に低下する。そこで、検出回路10は、透過光の強度に対応する受光素子6の出力から、潤滑剤9に混入している異物の量を検出する。潤滑剤9に混入する異物の量の増加は潤滑剤9の劣化の進行を意味するので、検出された異物の量から潤滑剤9の劣化具合を推定することができる。
【0021】
図4は、前記各単位劣化検出センサ2A〜2Cで同じ潤滑剤9の混入異物濃度(鉄粉)を測定した測定結果のグラフである。同図において、横軸は鉄粉濃度を、縦軸は光透過率をそれぞれ示す。このグラフから明らかなように、検出部のギャップdが大きい単位劣化検出センサ2A(d=d1)では、鉄粉濃度に対する光透過率の変化が大きい(感度が高い)が、透過光量が少なくなると検出できなくなるため、測定できる濃度範囲が狭い。これに対して、検出部のギャップdが小さい単位劣化検出センサ2C(d=d3)では、鉄粉濃度に対する光透過率の変化が小さい(感度が低い)ので、測定できる濃度範囲が広い。このように、この潤滑剤劣化検出装置1に用いられる各単位劣化検出センサ2A〜2Cは、単独で使用すると、それぞれの検出部のギャップdの大きさによって、検出可能な潤滑剤9の混入異物濃度範囲が限定されてしまう。
この潤滑剤劣化検出装置1では、ギャップdの大きさを互いに異ならせた複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cを併用して潤滑剤9の混入異物濃度を測定するので、数種類の感度で測定することになり、さまざまな劣化度合いの潤滑剤9を安定して測定することができる。
軸受内の潤滑剤の劣化検出に使用する場合、潤滑剤が軸受内部を動くが、図3のように軸受と同心のリング状保持体13に各単位センサ2A〜2Cを分配して保持させると、各保持位置の単位センサ2A〜2Cで同じ状態の潤滑剤を測定することができる。
【0022】
また、この潤滑剤劣化検出装置1では、各単位劣化検出センサ2A〜2Cにおいて、投光側光ファイバ7および受光側光ファイバ8を、それらの先端がギャップdを介して並ぶように設けると共に、それぞれの先端を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面7a,8aとしているので、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、各単位劣化検出センサ2A〜2Cをコンパクトで故障し難い構成とすることができる。これにより、例えば検出対象の潤滑剤9が封入された軸受の内部などへの設置において、配置の自由度を高めることができる。
また、このような構成により、検出部のギャップdを小さくできることから、ギャップdへ潤滑剤9が入り込み易くなり、潤滑剤9を一定厚さに保持でき、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0023】
図5は、この発明の他の実施形態の潤滑剤劣化検出装置における単位劣化検出センサの概略構成を示す正面図である。単位劣化検出センサ以外の部分の構成は図1の実施形態の場合と同様であり、ここでは説明を省略する。この実施形態では、図1の実施形態の潤滑剤劣化検出装置1において、単位劣化検出センサ2A〜2Cの構成部品である投光側光ファイバ7および受光側光ファイバ8のうち、ギャップdを介して対向配置される先端部以外の部分を樹脂14でモールドして固定状態としている。
2本の光ファイバ7,8の先端間のギャップdが変動すると、検出対象となる潤滑剤9の厚さが変動する。潤滑剤9を透過する透過光の強度は潤滑剤9の厚さに左右されるので、潤滑剤9の厚さ変動は安定した検出の妨げになる。この実施形態のように投光側光ファイバ7および受光側光ファイバ8を樹脂14でモールドして固定状態とすると、検出部のギャップdの変動がないので、より安定した劣化検出が可能となる。
【0024】
前記各実施形態では、各単位劣化検出センサ2A〜2Cの構造として、平行に並べた2本の光ファイバ7,8のギャップdを介して対向する各先端に斜めの反射面7a,8aを設け、各光ファイバ7,8の基端に発光素子5および受光素子6を配置した例を示したが、こに限らず、図6に示すように、投光側光ファイバ7の基端に発光素子5を配置してなる投光手段3と、投光側光ファイバ7と互いに先端面がギャップdを介して対向するように設けた受光側光ファイバ8の基端に受光素子6を配置してなる受光手段4とで各単位劣化検出センサ2A〜2Cを構成しても良い。
このような構造としたギャップdの異なる複数の単位劣化検出センサ2A〜2Cを用いた場合にも、さまざまな劣化度合いの潤滑剤9を安定して測定することができる。
【0025】
図7は、上記した潤滑剤劣化検出装置1を搭載した検出装置付き軸受を、鉄道車両用軸受ユニットに用いた一例の断面図である。この場合の鉄道車両用軸受ユニットは、検出装置付き軸受21とその内輪24の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り22および後ろ蓋23とで構成される。軸受21は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ26,26に対して設けた分割型の内輪24,24と、一体型の外輪25と、前記ころ26,26と、保持器27とを備える。
後ろ蓋23は、車軸20に軸受21よりも中央側で取付けられて外周にオイルシール28を摺接させたものである。油切り22は、車軸20に取付けられて外周にオイルシール29を摺接させたものである。これら軸受21の両端部に配置される両オイルシール28,29により軸受21の内部に潤滑剤が封止され、かつ防塵・耐水性が確保される。
【0026】
軸受21の外輪25の両端部には、それぞれシールケース30,31が取付けられ、これらシールケース30,31に前記オイルシール28,29が設けられる。図8は、一方のオイルシール29の取付け構造を示す拡大断面図である。同図において、シールケース31は、軸方向に複数の段部が階段状に並ぶ断面形状とした環状の部材であって、その一端部を軸受外輪25の内径面に圧入嵌合させることで、外輪25に取付けられる。このシールケース31の中間段部の内径面には、断面L字状のリング部材32がその円筒部32aを圧入嵌合させて取付けられており、そのリング部材32の内径側に延びる立板部32bが前記油切り22の外径面に対して所定のラビリンス隙間を形成するように配置されている。前記シールケース31に設けられるオイルシール29は、断面L字状の環状芯金33と、この環状芯金33の立板部に固定される弾性部材34とでなり、環状芯金33の円筒部を前記リング部材32の円筒部32aの内周面に圧入嵌合させることにより、リング部材32を介してシールケース31に固定されている。前記弾性部材34には、油切り22の外径面に摺接するラジアルリップが形成されている。シールケース31の他端部は、油切り22のフランジ部22aの内向き幅面に形成されたリング状の溝35に遊嵌させることで、この溝35とシールケース31の他端部との間にラビリンス隙間を形成している。このような構成により、軸受21の内外輪24,25間の環状空間の一端部では、前記リング部材立片部32bと油切り22の外径面との間に形成されるラビリンス隙間と、油切り22の外径面に摺接するオイルシール29と、油切り22の溝35とシールケース31の他端部との間に形成されるラビリンス隙間とで、密封が図られている。軸受21の内外輪24,25間の環状空間の他端部については説明を省略するが、上記した一端部と同様のシール構造とされる。
【0027】
この検出装置付き軸受21では、一方のシールケース31の内側に潤滑剤劣化検出装置1の電気回路部15および各単位センサ2A〜2Cが共に設けられ、単位センサ2A〜2Cのギャップdは、観測ポイントである外輪25の内径面における転走面の脇に配置されている。単位センサ2A〜2Cのギャップdは、大きさを互いに異ならせているので、潤滑剤の混入異物濃度を数種類の感度で測定することになり、さまざまな劣化度合いの潤滑剤を安定して測定することができる。また、各単位センサ2A〜2Cの検出部は小型化され配置の自由度が高いので、このような位置への配置を容易に行うことができる。これにより、軸受21の潤滑に寄与する転走面の脇の潤滑剤の劣化検出が可能である。具体的には、オイルシール29におけるリング部材立板部32bの軸方向内側に向く面に潤滑剤劣化検出装置1の電気回路部15が固定され、その配線ケーブル16がシールケース31を貫通して軸受外に引き出されている。その配線ケーブル16を通じて、軸受外から潤滑剤劣化検出装置1への電源供給と軸受外への検出信号の取り出しが行われる。シールケース31における配線ケーブル16の貫通部には防水・防油処理が施される。これにより、潤滑剤劣化検出装置1の取付部から軸受内部へ水分やゴミ等が侵入するのを防止している。
【0028】
例えば軸受21の外輪25等は、その製造の工程が煩雑であり、強度的にも厳しい要求があるため、上記潤滑剤劣化検出装置1を搭載する場合、工程の増加等のうえで好ましくない場合があるが、簡易な部品であるシールケース31に潤滑剤劣化検出装置1を配置する場合、その取付工程が容易である。また、シールケース31に潤滑剤劣化検出装置1を配置する場合、その他の軸受構成部品については、潤滑剤劣化検出装置1を搭載しない一般の軸受と軸受部品の共通化が図れ、製造工程を同じにできて生産性に優れる。
【0029】
上記潤滑剤劣化検出装置1を搭載したこの検出装置付き軸受21では、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。その結果、軸受21に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受21の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置1の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置の概略構成図である。
【図2】(A)は同潤滑剤劣化検出装置における単位劣化検出センサを構成する光ファイバの側面図、(B)は同背面図である。
【図3】同潤滑剤劣化検出装置における各単位劣化検出センサの保持構造の一例を示す概略構成図である。
【図4】同潤滑剤劣化検出装置における各単位劣化検出センサで同じ潤滑剤の混入異物濃度を測定した測定結果のグラフである。
【図5】この発明の他の実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置における単位劣化検出センサの概略構成を示す正面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置における単位劣化検出センサの概略構成を示す正面図である。
【図7】上記潤滑剤劣化検出装置を搭載した検出装置付き軸受の一例を示す断面図である。
【図8】同検出装置付き軸受の一部の拡大断面図である。
【図9】潤滑剤劣化検出装置の提案例の概略構成図である。
【図10】潤滑剤劣化検出装置の他の提案例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1…潤滑剤劣化検出装置
2A〜2C…単位劣化検出センサ
3…投光手段
4…受光手段
5…発光素子
6…受光素子
7…投光側光ファイバ
7a…反射面
8…受光側光ファイバ
8a…反射面
9…潤滑剤
10…検出回路
21…検出装置付き軸受
d…ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ潤滑剤を介在させるギャップを介して対向する投光手段および受光手段を有しギャップ間の潤滑剤の透過光を測定することによって潤滑剤の劣化具合を検出する単位劣化検出センサを複数設け、これら複数の単位劣化検出センサの前記ギャップの大きさを互いに異ならせた潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記投光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた発光素子を有し、前記受光手段が、投光手段の光ファイバと平行に配置された光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた受光素子を有し、前記両光ファイバは、それぞれ先端を斜めにカットしてその斜めカット面をした反射面とし、これら斜めの反射面は、投光側の光ファイバを通る光が先端の反射面で受光側の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から受光側の光ファイバ内に反射するものとした潤滑剤劣化検出装置。
【請求項3】
請求項1において、前記投光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた発光素子を有し、前記受光手段が、光ファイバおよびこの光ファイバの基端に設けられた受光素子を有し、前記両光ファイバは、互いに先端面が上記ギャップを介して対向するものとした潤滑剤劣化検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記複数の単位劣化検出センサの出力から潤滑剤の現在の劣化度合いを算出する検出回路を有する潤滑剤劣化検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載した検出装置付き軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−26044(P2008−26044A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196425(P2006−196425)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】