説明

火力発電プラント、及び火力発電プラントの運転方法

【課題】運転開始した発電プラントをより円滑に通常の運転状態に移行させることを目的とする。
【解決手段】火力発電プラントの運転方法であって、運転開始後、蒸気機関を起動モードにて運転しながら電力系統に並列接続された同期発電機の有効電力を上げてゆき、有効電力の値が予め設定された目標値の近傍域に到達した後、当該有効電力の上昇度合いが一定のレベルを下回っている場合には、当該同期発電機の電力の無効分を減じるように励磁手段により回転子の界磁を弱める調整操作をして励磁のために消費していたエネルギーを減ずることで、有効電力を高めて目標値に至らしめ、同期発電機の有効電力が目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、通常モードに切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電プラント、及び火力発電プラントの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、給水ポンプ、ボイラ、蒸気タービン、復水器などの蒸気機関と発電機とを備えた火力発電プラントが知られている。このものは、蒸気機関によって蒸気の持つ熱エネルギーを機械エネルギーに変換しつつ、これを、発電機により電気エネルギーとして取り出すものである。係る火力発電プラントの発電機は電力系統に対して他の発電機と並列接続され、電力を分担して供給する構成をとっている。
【0003】
上記した火力発電プラントの蒸気機関は、起動の際、熱源となるボイラの出力を予め決めされた手順に従って高めてゆく起動モードを行いながら同期発電機の出力を上げてゆく。そして、同期発電機の有効電力が目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、通常モードに自動的に移行し、それ以降は、設定された出力目標(同期発電機の出力目標)になるように火力発電プラントが自動制御される。
【0004】
尚、火力発電プラントの運転方法に関する関連技術には、次の文献のものがある。
【特許文献1】特開2007−85678公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、出願人の知見によると、決められた手順に従って起動モードを行ってボイラの出力がある程度の出力になったとしても、例えば、蒸気タービン入り口における過熱蒸気の温度や圧力が、目標より少しだけ低い場合などがあり、このような場合には、出力条件の閾値となる目標値付近で、有効電力の上昇が鈍ることがある。このような場合には、ボイラに燃料を再投入したり、またボイラに取り込む給水量を増加させて、ボイラの出力を更に高めることにより、同期発電機の有効電力を強制的に上昇させ、出力条件を成立させていた。
【0006】
しかしながら、ボイラに燃料を再投入すること、及び給水量を増加させることは、エネルギーを余分に消費することになるし、また、ボイラの出力応答(蒸気圧力の上昇、蒸気温度の上昇)もそれほど早くないから、起動スケジュールが遅れ勝ちになる。更に、言えば、これらの事は、循環する蒸気の状態を不安定にさせるものであり、対策が望まれていた。
【0007】
本発明は上記事情に基づいて考案されたものであって、運転開始した発電プラントをより円滑に通常の運転状態に移行させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電力系統に他の同期発電機と並列的に接続され前記他の同期発電機と分担して電力を供給する同期発電機と、前記同期発電機の回転子を励磁する励磁手段と、起動モードと通常モードの両モードで運転可能とされ前記同期発電機を駆動させる蒸気機関と、前記蒸気機関の一部を構成するボイラと、を備えた火力発電プラントの運転方法であって、運転開始後、前記蒸気機関を起動モードにて運転しながら前記電力系統に並列接続された前記同期発電機の有効電力を上げてゆき、有効電力の値が予め設定された目標値の近傍域に到達した後、当該有効電力の上昇度合いが一定のレベルを下回っている場合には、当該同期発電機の電力の無効分を減じるように前記励磁手段により前記回転子の界磁を弱める調整操作をして前記励磁のために消費していたエネルギーを減ずることで、前記有効電力を高めて前記目標値に至らしめ、前記同期発電機の有効電力が前記目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、通常モードに切り換えるところに特徴を有する。
【0009】
本発明は、電力系統に他の同期発電機と並列的に接続され前記他の同期発電機と分担して電力を供給する同期発電機と、前記同期発電機の回転子を励磁する励磁手段と、起動モードと通常モードの両モードで運転可能とされ前記同期発電機を駆動させる蒸気機関と、前記蒸気機関の一部を構成するボイラと、を備えた火力発電プラントであって、運転開始後、前記蒸気機関を起動モードにて運転しながら前記電力系統に並列接続された前記同期発電機の有効電力を上げてゆき、当該同期発電機の有効電力が目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、前記起動モードから前記通常モードに運転を切り換えるものにおいて、前記起動モードの実行により、出力上昇する前記同期発電機の有効電力の値が前記目標値の近傍域に到達した後、当該有効電力の上昇度合いが一定のレベルを上回っているかを判断する判断手段と、前記有効電力の上昇度合いが前記一定のレベルを上回っていない場合には、前記同期発電機の電力の無効分を減じるように前記励磁手段により前記回転子の界磁を弱める調整操作をして前記励磁のために消費していたエネルギーを減ずることで、前記有効電力を高めて前記目標値に至らしめ前記出力条件を成立させる調整手段と、を備えるところに特徴を有する。
【0010】
尚、これら発明で言うところの、「起動モード」とは、ボイラの出力を予め決めされた手順に従って高めてゆくことで同期発電機の出力を段階的に上げてゆくモードである。また、これら発明で言うところの、「通常モード」とは、設定された出力目標(同期発電機Gの出力目標)となるように火力発電プラントの各制御要素が自動コントロールされるモードである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、起動モードの実行により、同期発電機の出力(有効電力)が、次第に上昇してゆき、やがて目標値近傍に到達する。このとき、同期発電機の有効電力の上昇度合いが鈍く、一定のレベルを下回る状態にあって、そのままでは、有効電力が目標値に到達しない、又到達するのに時間がかかる状況下にあったとしても、そのときには、同期発電機の電力の無効分を減じるように回転子の界磁を弱める調整操作がなされる。すると、調整操作後には、同期発電機の回転子を励磁させるために必要となる励磁手段側のエネルギー(発電エネルギー)が、調整前のそれに比べて小さくて済み、又励磁手段の電機子における銅損、同期発電機側の回転子における銅損についても減少する。そして、これら励磁用として必要となる発電エネルギーの減少分及び、銅損として消費されていたエネルギーの減少分が、同期発電機の発電に回される。その結果、同期発電機の発電量が増えるので、有効電力が目標値を超え、出力条件が満たされる。以上のことから、スケジュールどおりに、発電プラントの運転状態を通常モードに切り換えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態1を図1ないし図9によって説明する。
1.火力発電プラントSの構成
図1は本火力発電プラント(以下、単に発電プラントとも言う)Sの系統図である。図1に示すように、本発電プラントSは、同期発電機G、励磁機(発電機)70、及び蒸気機関10を備えてなる。
【0013】
同期発電機Gは、電力系統(送電線)Zに他の同期発電機G’と並列的に接続され、他の同期発電機G’と分担して電力を供給する構成となっている。この同期発電機Gは、後述する蒸気タービン(より具体的には、そのタービン軸)50に直結する回転子と、固定子とを備えてなる。そして、蒸気タービン50のタービン軸の回転と一体的に回転子が回転する結果、発電する構成となっている。
【0014】
また、蒸気タービン50のタービン軸には同期発電機Gの回転子と共に励磁機70の回転子が直結され、励磁機70は同期発電機Gと共に発電する。係る励磁機(本発明の「励磁手段」に相当)70は、同期発電機Gに対して整流器75を介挿させた通電ラインによって接続されている。これにより、励磁機70から同期発電機Gに、同期発電機Gの回転子を励磁させる励磁電流(直流電流)を供給出来る構成となっている。
【0015】
尚、この励磁機70は調相器として機能し、励磁電流を調整しつつ、同期発電機Gの回転子の界磁を強めたり、弱めたりすることで同期発電機Gの無効電力を増減調整することが出来る。
【0016】
蒸気機関10は同期発電機G、励磁機70を駆動(発電)させるものであって、給水ポンプ20、定圧貫流ボイラ30、蒸気加減弁40、蒸気タービン50、復水器60、フラッシュタンク65を主体に構成されている。図1にて示すように給水ポンプ20、定圧貫流ボイラ30、蒸気加減弁40、蒸気タービン50、復水器60は、配管を介して順に接続されている。
【0017】
給水ポンプ20は、取り込まれる水を断熱圧縮して高圧水にしつつ給水する機能を担うものである。定圧貫流ボイラ30は給水ポンプ20より給水される高圧水を高温高圧の過熱蒸気に変えて蒸気タービン50に供給する機能を担うものであり、節炭器31、後部伝熱壁33、横置過熱器35、吊下過熱器37、バーナを付設した燃焼室(不図示)などを備える。
【0018】
節炭器31、後部伝熱壁33は、内部に水又は蒸気の流通経路を形成してなる伝熱パネルより構成され、横置過熱器35、吊下過熱器37は、内部に過熱蒸気の流通経路を形成した伝熱管より構成されている。節炭器31、後部伝熱壁33、横置過熱器35、吊下過熱器37は、配管接続されて順に連なっており、給水ポンプ20を通じて取り込まれた給水(高圧水)は節炭器31、後部伝熱壁33、横置伝熱壁、横置過熱器35、吊下過熱器37を順に通される構成となっている。
【0019】
係る節炭器31は、排ガスの保有熱などを使用して給水を飽和温度又は、これに近い温度まで余熱する機能を担い、後部伝熱壁33は飽和温度に達した給水を気化させて飽和蒸気を生成する機能を担うものである。そして、横置過熱器35、吊下過熱器37は、後部伝熱壁33にて生成された飽和蒸気を、更に過熱して高温高圧の過熱蒸気にするものである。
【0020】
また、横置過熱器35と吊下過熱器37との間にはSR弁(Superheater Reducing Valve)とBS弁(Boiler Stop Valve)とならなる弁対が介挿されている。SR弁とBS弁は並列的に接続されている。
【0021】
SR弁は横置過熱器35にて生成された過熱蒸気を減圧する機能を担う空気式制御弁であり、またBS弁は、後述する起動モードにおいて、主蒸気圧力が規定圧力V8に達した後、全開する電動弁である(図2参照)。
【0022】
蒸気タービン50はタービン軸と、同タービン軸を収容した車室を主体に構成され、定圧貫流ボイラ30より供給される高温高圧の過熱蒸気が車室内に導入されると、タービン軸が高速回転する。そして、この蒸気タービン(より詳しくは、そのタービン軸)50に同期発電機Gの回転子、及び励磁機70の回転子が直結してあり、同期発電機G及び励磁機70が、蒸気タービン50の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する構成となっている。
【0023】
復水器60は蒸気タービン50に直結されている。この復水器60は、蒸気タービン50からの排気蒸気を冷却して凝縮させるものである。そして、復水器60の出口には給水ポンプ20の入口が連なっており、復水器60の復水(凝縮した水)は再び給水ポンプ20に取り込まれる構成となっている。
【0024】
また、図1に示すように、フラッシュタンク65の入口には、第一バイパス配管L1と第二バイパス配管L2がそれぞれ接続されている。第一バイパス配管L1の他端は、定圧貫流ボイラ30の備える後部伝熱壁33の出口に連なっている。そして、この第一バイパス配管L1上には、空気式制御弁であるPSB弁(Primary Superheater Bypass Valve)が設けられている。このPSB弁を開放することで、後部伝熱壁33にて生成された飽和蒸気を第一バイパス配管L1を通じてフラッシュタンク65側に導入できる構成となっている。
【0025】
また、第二バイパス配管L2の他端は、定圧貫流ボイラ30の備える横置過熱器35の出口に連なっている。そして、この第二バイパス配管L2上には、空気式制御弁であるSSB弁(Secondary Superheater Bypass Valve)が設けられている。このSSB弁を開放することで、横置過熱器35にて一次過熱された過熱蒸気を、第二バイパス配管L2を通じてフラッシュタンク65側に導入できる構成となっている。
【0026】
また、フラッシュタンク65のタンク上部からは上部配管L3が導出されている。係る上部配管L3は電動弁であるSA弁(Super heater Admission Valve)を設けており、吊下過熱器37の入口に連なっている。そして、上部配管L3は、SA弁の下流側にて二股に分かれており、分かれた分岐管L4は空気式制御弁であるSP弁(Spillovers Valve)を介して復水器60に連なっている。
【0027】
上記フラッシュタンク65のタンク下部からは下部配管L5が導出されている。係る下部配管L5はFD弁(Flush tank Drain Valve)を設けており、復水器60に連なっている。このような構成とすることで、フラッシュタンク65内にて凝縮したドレイン(水)を復水器60に戻せる。
【0028】
また、図1に示す符号100は制御監視装置である。この制御監視装置100は界磁調整スイッチ130を少なくとも含む各種操作スイッチ、表示部110、制御部120、各種情報を記憶した記憶部(不図示)などを備えると共に、蒸気タービン50の入口の蒸気圧(以下、主蒸気圧力)を検出する圧力センサ140、及び同期発電機Gの出力ラインLoに接続される計器(具体的には、同期発電機Gの有効電力Pを計測するメガワット計、同期発電機Gの無効電力Qを計測する無効電力計)150に対して電気的に接続されている。
【0029】
制御部120は演算機能、制御機能、表示制御機能を備えている。この制御部120には、圧力センサ140を通じて圧力情報が取り込まれると共に、計器150を通じて同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)が取り込まれる構成となっており、表示部110上に主蒸気圧力V(kPa)、及び同期発電機Gの有効電力P(MW)、無効電力Q(MVar)を表示させる。
【0030】
これにより、オペレータは、表示部110に表示される表示内容を視認することで、主蒸気圧力V、及び同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)をモニタできる構成となっている。また、制御監視装置100は励磁機70に対して電気的に連なっている。オペレータが界磁調整スイッチ130を操作すると、制御監視装置100の制御部120から励磁機70に制御信号Srが与えられる結果、同期発電機Gの備える回転子の界磁が増減調整される構成となっている。
【0031】
上記のように構成された蒸気機関10は、以下の2つの系統にて作動流体(蒸気)を循環させる構成となっている。まず、第一には起動系統(図1にて一点鎖線で示す)である。起動系統は、給水ポンプ20→定圧貫流ボイラ30→第一バイパス配管L1/第二バイパス配管L2→フラッシュタンク65→分岐管L4→復水器60→給水ポンプ20の経路で作動流体を循環させる系統である。この起動系統は、後述する起動モードの際に使用される系統であり、それに続く通常モード中は切り離される構成となっている。
【0032】
第二には通常系統(図1にて実線で示す)である。通常系統は、給水ポンプ20→定圧貫流ボイラ30(節炭器31→後部伝熱壁33→横置過熱器35→BS/SR弁→吊下過熱器37)→蒸気加減弁40→復水器60の→給水ポンプ20の経路で作動流体を循環させる系統である。この通常系統は、後述する起動モードと、それに続く通常モードの双方共に使用される系統である。
【0033】
2.運転方法
本発電プラントSでは、制御監視装置100にて、蒸気タービン50の入口の主蒸気圧力Vと、同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)をモニタ出来る。そして、本発電プラントSは、停止状態(例えば、メンテナンスのため稼動を一時停止した状態)から運転を再開するときに、まず、運転開始後、以下の起動モードが行われる。
【0034】
起動モードは、予め決められた手順に従って、定圧貫流ボイラ30の出力を高めてゆくことで、蒸気機関10の持つ熱エネルギー、ひいては同期発電機Gの出力を段階的に上げてゆくモードであり、本発電プラントSは、ボイラ30に対する燃料の段階的な投入と並行して、以下に説明する弁の切り換え制御を行い、作動流体(蒸気)の循環経路についても段階的に切り換えている。
【0035】
起動モードの開始直後、まず、BS弁、SR弁はいずれも「全閉」状態に制御され、PSB弁、SSB弁、SA弁、SP弁、FD弁がそれぞれ「開」状態に制御される。これにより、起動モードの実行開始直後、作動流体(蒸気)は、図4にて太線で示す起動系統(給水ポンプ20→定圧貫流ボイラ30→第一バイパス配管L1/第二バイパス配管L2→フラッシュタンク65→分岐管L4→復水器60→給水ポンプ20)にて循環するサイクルを基本的には繰り返す状態になる。このようなサイクルを繰り返しつつ、バーナの火力を高めてゆくことで、ボイラ出力、引いては蒸気機関10の熱エネルギーが少しずつ上昇してゆく。
【0036】
また、この期間中も、SA弁は開いているから、フラッシュタンク65に取り込まれた蒸気の一部は、上部配管L3、吊下過熱器37を通って蒸気タービン50の車室にも流される。このようにすることで、蒸気タービン50は少しずつ暖められてゆく。そして、起動モードの開始から一定時間が経過すると、まず、同期発電機Gが電力系統Zに対して並列接続される(図2中の時刻t1、図3中のS10)。
【0037】
同期発電機Gの接続後、同期発電機Gの有効電力Pの値がP2に達すると、まず、閉状態にあるSR弁が一定量だけ開操作される(図2の時刻t2)。これにより、定圧貫流ボイラ30の横置過熱器35、吊下過熱器37を順に通されて過熱された過熱蒸気が、蒸気タービン50に対して少しつづ取り込まれることとなり、同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)が少しつづ上昇する。
【0038】
その後、一定時間経過したところで、SSB弁が全閉され、その後、蒸気タービン50の入口の主蒸気圧力VがV4になると、SA弁が完全に閉止される(図2に示す時刻t4)。これにより、それ以降、作動流体は、図5に示すように起動系統(節炭器31→後部伝熱壁33→フラッシュタンク65→復水器60→給水ポンプ20)と通常系統(節炭器31→後部伝熱壁33→後部伝熱壁33→横置過熱器35→吊下過熱器37→蒸気タービン50→復水器60→給水ポンプ20)の2系統で循環することとなる。
【0039】
そして、図2に示す時刻t4以降は、燃料(定圧貫流ボイラ30のバーナの燃料)の投入量が更に増やされ、ボイラ出力ひいては蒸気機関10の持つ熱エネルギーが更に高まってゆく。そして、蒸気機関10の持つエネルギーの上昇に伴って、通常系統側のSR弁が開けてられてゆく。
【0040】
これにより、蒸気タービン50の車室に流れ込む過熱蒸気の量が段階的に増えてゆく結果、図2にて示すように、蒸気タービン50入口の主蒸気圧力Vは段階的に上昇してゆき、また主蒸気圧力Vの上昇に追随して同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)も段階的に上昇してゆく。
【0041】
図2に示すように、主蒸気圧力VがV5に達すると、通常系統側のSR弁は、それ以降の一定期間、開度が保持される(時刻t5〜t6)。これにより、蒸気タービン50側へ供給される過熱蒸気量も一定量に抑えられることとなり、蒸気機関10に熱エネルギーが蓄えられてゆく。
【0042】
かくして、蒸気機関10に熱エネルギーがある程度ストックされると、図2に示すように、再び、通常系統側のSR弁が開方向に操作され、その一方、起動系統側のPSB弁は閉められてゆく(図2中では、時刻t6以降)。これにより、蒸気タービン50の車室に流れ込む過熱蒸気の量が増えてゆく結果、蒸気タービン50の入口の主蒸気圧力Vが一層上昇し、また主蒸気圧力Vの上昇に追随して同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)が一層上昇してゆく。
【0043】
そして、SR弁の開度が90%に達する(図2中の時刻t7)と、それ以降、SR弁に併設されるBS弁が段階的に開けられる(パルス開操作)。これにより、定圧貫流ボイラ30にて生成された高温、高圧の過熱蒸気が、蒸気タービン50側に益々流れ込む状態になる。従って、蒸気タービン50の入口の主蒸気圧力Vは右肩上がりに上昇してゆき、またそれに追随して同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)も右肩上がりに上昇してゆく。
【0044】
その後、SR弁の開度は、主蒸気圧力が目標となる圧力V8に達した時刻t8にて100%の全開状態になり、また、その後、直ぐに、BS弁の開度も100%の全開状態になる。すると、定圧貫流ボイラ30にて生成された蒸気(過熱蒸気)の大半が、通常系統を循環しながら蒸気タービン50の車室に流れ込む状態となり、起動系統側には、蒸気がわずかに循環する状態となる。これにて、起動モードは最終段階となり、あとは、以下の2つの条件(a)、(b)が整うと、起動モードから通常モードに運転モードを切り換え可能となる。
【0045】
(a)出力条件
(b)PSB弁が全閉すること
【0046】
出力条件とは、同期発電機Gの有効電力Pが、目標値(本実施形態では、図2のP10)に達することである。また、PSB弁は、定圧貫流ボイラ30の横置過熱器35の出口部分の蒸気圧力が一定値に達すると、自動的に全閉する構成となっており、出力条件とは無関係に閉止する。
【0047】
ところで、本実施形態では、図2に示すように、目標値となるP10の近傍(具体的には、BS弁の開度が100%に達した時刻t8’以降であって時刻t10に至るまでのどこかの時間帯)に切換帯(本発明の「近傍域」に相当)を設定してある。そして、同期発電機Gの有効電力Pの値が切換帯に達すると、有効電力Pの上昇度合いについて、それが一定のレベルを上回っているか、どうかをオペレータが判断する(図3に示すS20、S30)。
【0048】
本実施形態では、制御管理装置100の備える表示部110上に、有効電力Pの目標値、有効電力Pの実測値が、数値表示される構成となっている。そして、オペレータは、表示される有効電力Pの値が、一定時間の間に、定められた量、上昇するかどうかを基に、有効電力Pの上昇度合いを判断している。
【0049】
尚、有効電力Pの上昇度合いの判断方法は、数値表示された有効電力Pの実測値を、目で追いながら判断するものの他、例えば、図6に示すように有効電力Pの推移そのものを目標値P10と共に、表示部110上に表示させ、推移線の勾配の大きさに基づいて判断するなど、種々の方法が適用できる。尚、このように有効電力の推移を表示させる場合には、上昇度合いを判断する判断基準となる判断基準ライン(図6中では、一点鎖線にて示す)を有効電力の推移と合わせて表示させるとよい。
【0050】
そして、図2に示すように、切換帯に達した後、同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)が右肩上がりに上昇する傾向にあれば、表示部110上に表示される有効電力Pの値が、一定時間の間に定められた量、上昇するから、有効電力Pの上昇度合いが一定のレベルを上回っていると判断される(図3中のS30にて判断Yes)。このような場合、オペレータは、有効電力Pが目標値P10に到達するのを単に、待ってやればよく、図2にて示すように、時刻t10にて有効電力Pの値は目標値P10に到達し、そこで、出力条件が成立する。
【0051】
一方、図7に示すように、切換帯に達した後、同期発電機Gの出力(有効電力P、無効電力Q)がほぼ横ばいになる傾向にあれば、表示部110上に表示される有効電力Pの値が、一定時間の間に定められた量、上昇しないから、有効電力Pの上昇度合いが一定のレベルを下回っていると判断される(図3中のS30にて判断No)。このような場合、制御監視装置100の界磁調整スイッチ130がオペレータにより操作され、同期発電機Gの電力の無効分を減じるように、励磁機70の界磁を弱める調整、すなわち励磁電流が減ずる調整がなされる(図3中のS50)。
【0052】
すると、界磁調整後には、同期発電機Gの回転子を励磁させるために必要となる励磁機70側のエネルギー(発電エネルギー)が、調整前のそれに比べて小さくて済み、又励磁機70の電機子における銅損、同期発電機G側の回転子における銅損についても減少する。そして、これら励磁用として必要となる発電エネルギーの減少分及び、銅損として消費されていたエネルギーの減少分が、同期発電機Gの発電に回される。その結果、同期発電機Gの発電量が増えるので、図7に示すように、有効電力Pが増加し、目標値P10を超える(図3中のS60)。このようにすることで、同期発電機Gの有効電力Pが、目標値P10の近傍で横ばいの推移を示し、そのままでは、目標値P10に達しない、又は目標値P10に達するのに非常に時間がかかりそうな場合であっても、速やかに出力条件を成立させることが可能となる。
【0053】
尚、オペレータによる界磁の調整は、図8(同期発電機Gの出力可能曲線)にて示す不足励磁制限(UEL)を下回らない範囲内において、予め決められた許容無効電力変動量(例えば、50MVar/2分)以内にて行うことが好ましい。また、界磁調整により同期発電機Gにて無効電力が減少した分は、電力系統Zに並列接続された他の同期発電機G’にて補うことが出来るから、運用上何ら問題はない。
【0054】
そして、図2、図7の例では、いずれも、出力条件が成立した時刻t10にて、PSB弁が全閉しており、これにて、通常モードへの移行条件が全て整った状態になる(図3中のS70)。
【0055】
すると、制御管理装置100の制御下のもと、発電プラントSの運転状態が起動モードから通常モードに自動的に切り換えられる。通常モードでは、例えば、オペレータにより火力発電プラントSの出力目標(同期発電機Gの出力目標)が手動操作にて設定される。そして、設定された出力目標になるように、燃料の供給量による火力の調整、又は蒸気の循環サイクルなどを含む発電プラントSの各制御要素が制御管理装置100などにより自動的にコントロールされる。
【0056】
尚、起動モードから通常モードへの切り換えは、PSB弁の全閉が条件になっているから、通常モードでは、図9にて示すように、蒸気機関10から起動系統は完全に切り離された状態となり、作動流体は図9にて太線にて示す通常系統を通って蒸気サイクルを繰り返す。
【0057】
以上説明したように、本発電プラントSは、起動モードの最終段階に至ったときに、同期発電機Gの有効電力Pの上昇度合いが鈍くなり、そのままでは、有効電力Pが目標値に到達しない、又到達するのに時間がかかる状況下にあったとしても、そのときには、同期発電機Gの電力の無効分を減じるように、同期発電機Gの回転子の界磁を弱める調整操作がなされる。
【0058】
すると、界磁調整後には、同期発電機Gの回転子を励磁させるために必要となる励磁機70側のエネルギー(発電エネルギー)が、調整前のそれに比べて小さくて済み、又励磁機70の電機子における銅損、同期発電機G側の回転子における銅損についても減少する。そして、これら励磁用として必要となる発電エネルギーの減少分及び、銅損として消費されていたエネルギーの減少分が、同期発電機Gの発電に回される。これにより、同期発電機Gの発電量が増えるので、有効電力Pが増加して目標値P10を超える結果、出力条件が成立する。以上のことから、出力条件を成立させるが為だけに、ボイラ30に燃料を再投入するなど、余分なエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0059】
また、PSB弁が全閉することが要件として必要なものの、出力条件を成立させ易くなるので、発電プラントSの運転状態を、スケジュール通りに進め易くなり、起動モードから通常モードへの切り換えを円滑に行うことが可能となる。
【0060】
本発明の実施形態2を説明する。
実施形態2は、同期発電機Gの有効電力Pの値が切換帯に達した後、有効電力Pの上昇度合いについて、それが一定のレベルを上回っているかどうかの判断(図3のS30の処理)、及びその判断結果に基づいて行われる同期発電機Gの回転子の界磁調整(図3のS50の処理)を、制御管理装置100により自動的に行うようにしたものである。
【0061】
具体的には、制御管理装置100の備える制御部(本発明の「判断手段」、「調整手段」に相当)120に、有効電力Pの上昇度合いについてそれが一定のレベルを上回っているかどうかの判断機能、判断結果に基づいて行われる同期発電機Gの回転子の界磁の強さを調整する調整機能を持たせている。
【0062】
まず、判断機能(図3のS30の処理)から説明すると、制御部120は、同期発電機Gの有効電力Pを経時的にモニタし、有効電力Pの値が、目標値近傍の切換帯に達すると、それ以降は、有効電力Pの単位時間あたりの変化率(すなわち上昇度合い)を算出する。
【0063】
そして、算出した有効電力Pの単位時間あたりの変化率を、予め記憶した基準変化率と比較し、算出した変化率が基準変化率を複数回連続して上回る状態にあれば、有効電力Pの上昇度合いについてそれが一定のレベルを上回っていると判断する。また、算出した変化率が基準変化率を複数回連続して下回る状態にあれば、有効電力Pの上昇度合いについてそれが一定のレベルを下回っていると判断する。
【0064】
次、調整機能(図3のS50の処理)について説明する。制御部120は、有効電力Pの上昇度合いが一定のレベルを下回っていると判断した場合、判断時における有効電力Pの値と、目標値P10との偏差Δを算出する。そして、求めた偏差Δから界磁の調整量を求め(より具体的には偏差Δと、単位調整量あたりに見込まれる有効電力Pの上昇量とに基づいて界磁の調整量を算出)、求めた調整量を指令値とする制御信号Srを励磁機70に与える。これにより、制御部120にて算出して調整量だけ回転子の界磁を弱める調整が励磁機70にて自動的に行われる。そして、この結果、有効電力Pの値が上昇し、目標値P10に達することとなる。これにより、出力条件が成立する。
【0065】
このように、有効電力Pの上昇度合いについて、それが一定のレベルを上回っているかどうかの判断、及びその判断結果に基づいて行われる回転子の界磁調整を、制御管理装置100により自動で行うようにしておけば、オペレータの作業負担を軽減できる。
【0066】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
(1)実施形態1では、励磁手段の一例として、同期発電機Gの回転子の軸に対して直結し、自ら発電する励磁機70を説明したが、同期発電機Gの回転子を励磁させるものであればよく、例えば、同期発電機Gとは別に設けられ、同期発電機Gより電源の供給を受けつつ、それを整流して回転子に励磁電流を供給するものであってもよい。
【0068】
(2)実施形態1では、通常モードにおける運転パターンの一例として、火力発電プラントSの出力目標(同期発電機Gの出力)を、オペレータの手動操作により設定するものを説明したが、出力目標は必ずしもにオペレータが設定する必要はなく、例えば、制御管理装置100が自動設定する形式、又は中央給電指令所から火力発電プラントSに与えられる形式で設定されるものであってもよい。尚、この場合も、設定された出力目標となるように、火力発電プラントSの各制御要素が制御管理装置100などにて自動コントロールされることは、実施形態1と変わるところがない。
【0069】
(3)本発明は、起動モードから通常モードに切り換わる際に、同期発電機Gの出力が鈍る傾向を示すような火力発電プラントSであれば、適用可能であり、蒸気機関10を構成するボイラは実施例にて例示した定圧貫流ボイラ30に限定されるものではなく、変圧貫流ボイラ、ドラム式のボイラ又、コンバインドサイクル式のボイラであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態1における発電プラントの系統図
【図2】運転再開以降の、主蒸気圧力Vと有効電圧Pの推移を示す図
【図3】本発電プラントの運転再開以降の運転作業の流れを示すフローチャート図
【図4】起動モードにおける作動流体の循環経路を示す図(起動モード開始直後)
【図5】同じく起動モードにおける作動流体の循環経路を示す図(起動モード開始から一定時間経過した時)
【図6】有効電力の推移の表示例を示す図
【図7】運転再開以降の、主蒸気圧力Vと有効電圧Pの推移を示す図(目標値付近で有効電力が横ばいの推移になった状態を示す)
【図8】同期発電機の出力可能曲線を示す図
【図9】通常モードにおける作動流体の循環経路を示す図
【符号の説明】
【0071】
10…蒸気機関
20…給水ポンプ
30…定圧貫流ボイラ
31…節炭器
33…後部伝熱壁
35…横置過熱器
37…吊下過熱器
40…蒸気加減弁
50…蒸気タービン
60…復水器
65…フラッシュタンク
70…励磁機(本発明の「励磁手段」に相当)
75…整流器
100…制御監視装置
110…モニタ
120…制御部(本発明の「判断手段」、「調整手段」に相当)
130…界磁操作スイッチ
S…発電プラント
G…同期発電機
G’…他の同期発電機
Z…電力系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に他の同期発電機と並列的に接続され前記他の同期発電機と分担して電力を供給する同期発電機と、前記同期発電機の回転子を励磁する励磁手段と、起動モードと通常モードの両モードで運転可能とされ前記同期発電機を駆動させる蒸気機関と、前記蒸気機関の一部を構成するボイラと、を備えた火力発電プラントの運転方法であって、
運転開始後、前記蒸気機関を起動モードにて運転しながら前記電力系統に並列接続された前記同期発電機の有効電力を上げてゆき、
有効電力の値が予め設定された目標値の近傍域に到達した後、当該有効電力の上昇度合いが一定のレベルを下回っている場合には、当該同期発電機の電力の無効分を減じるように前記励磁手段により前記回転子の界磁を弱める調整操作をして前記励磁のために消費していたエネルギーを減ずることで、前記有効電力を高めて前記目標値に至らしめ、
前記同期発電機の有効電力が前記目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、通常モードに切り換える火力発電プラントの運転方法。
【請求項2】
電力系統に他の同期発電機と並列的に接続され前記他の同期発電機と分担して電力を供給する同期発電機と、前記同期発電機の回転子を励磁する励磁手段と、起動モードと通常モードの両モードで運転可能とされ前記同期発電機を駆動させる蒸気機関と、前記蒸気機関の一部を構成するボイラと、を備えた火力発電プラントであって、
運転開始後、前記蒸気機関を起動モードにて運転しながら前記電力系統に並列接続された前記同期発電機の有効電力を上げてゆき、当該同期発電機の有効電力が目標値に達する出力条件を満たすことを条件に、前記起動モードから前記通常モードに運転を切り換えるものにおいて、
前記起動モードの実行により、出力上昇する前記同期発電機の有効電力の値が前記目標値の近傍域に到達した後、当該有効電力の上昇度合いが一定のレベルを上回っているかを判断する判断手段と、
前記有効電力の上昇度合いが前記一定のレベルを上回っていない場合には、前記同期発電機の電力の無効分を減じるように前記励磁手段により前記回転子の界磁を弱める調整操作をして前記励磁のために消費していたエネルギーを減ずることで、前記有効電力を高めて前記目標値に至らしめ前記出力条件を成立させる調整手段と、を備えることを特徴とする火力発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−130887(P2010−130887A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306408(P2008−306408)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】