火災発生時間を予測可能な火災警報装置
【課題】煙が発生する前に生じた焦げにおいをいち早くにおいセンサよりキャッチし、シグモイド曲線近似モデルによりセンサの出力履歴から火災の発生時刻を早期に予測する方法を提供する。さらに、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサまたはCCDカメラと組合わせて火災の発生を確認し、早期予測と誤報の少ない警報装置及び方法を提供する。
【解決手段】火災に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、前記センサからの信号を処理し、火災発生予測時刻を予測する信号処理手段と、前記信号処理手段で予測した火災発生予測時刻を出力する出力手段と、を有し、前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻でのセンサ出力値と微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時刻を予測する。
【解決手段】火災に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、前記センサからの信号を処理し、火災発生予測時刻を予測する信号処理手段と、前記信号処理手段で予測した火災発生予測時刻を出力する出力手段と、を有し、前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻でのセンサ出力値と微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時刻を予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するガスセンサの出力をシグモイド曲線で近似することにより、火災発生時間(火災発生までの時間)を予測する火災警報装置および火災発生時間予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火災による死傷者は平成9年以後2千人を越えて、平成17年にその数は2195人とほぼ横ばい状態が続いている。その内訳を見ると、放火自殺者を除いて発見の遅れ等による逃げ遅れによる死亡が57%を占めており、さらにそのうち9割が高齢者である。高齢者特に後期高齢者は、通常の正常者よりも3分の1ほど濃度のCOガスで意識がもろくなり、状況の判断ができなくなることや、身体が動けなくなることがある。そのため、いち早く火災発生の危険性を知らせ、事態への対処に必要の時間や逃げるための時間を確保してやることができれば、逃げ遅れによる死亡率が大きく軽減できると思われる。
【0003】
従来技術としては以下のものが挙げられる。
特許文献1には、「火災判定装置及びニューラルネットワークの学習方法」が記載されている。この火災判定装置は、入力処理部として、温度を検出する温度センサ、煙による減光率を検出する煙センサ、およびCOガスの濃度を検出するCOガスセンサを用い、検出温度から発熱量、煙による減光率から発煙量、およびCOガス濃度からCOガスの発生量を演算し、さらにそれぞれの微分値を演算することで、求めた発熱量、発煙量、およびCOガス発生量をニューラルネットワークに出力し火災を判定するものである。この特許文献1は、温度や煙さらにCOガス濃度の発生量を算出しニューラルネットワークにより火災の判定を行うものであるが、一般初期火災の場合においては、出火燃焼の場合についてはCOガスや煙が余り発生しないこと、くん燃焼の場合は温度があまり上昇していないことを考えると、火災の発生を早期に予測することではなく、誤報の軽減に機能をさせた火災判定装置である。
特許文献2には、「初期火災検出装置」が記載されている。この特許文献2は、早期の初期火災を検知することを目的とし、火災の初期状態で応答が得られる高感度煙センサSS及びニオイセンサNSからの出力を信号処理して煙の現在値及びその増減を示す差分値とニオイの現在値及びその増減を示す差分値とからなる火災情報を入力し、これら火災情報に対して得られるべき火災確度を定義したテーブル及び重み付け値に基づいて火災確度を割り出し、火災状態を判別するものである。この特許文献2は、においセンサを用いた初期火災の検知を、前もって定義された火災確度テーブルを利用して行うものであり、使用場所によっては定義したテーブルが対応できないことが予想される。
特許文献3には、「警報器」が記載されている。この文献は、ガス警報器と火災警報器とを一体化し、ガスセンサ及び火災センサの信号を統合して信号処理し、より誤報の少ない警報器を提供するものである。その警報器には、センサとして感熱センサ、煙感知センサ、COセンサ及び炭化水素センサの4つのセンサを有している。各センサの信号は、マイコン等で構成される判定部に送られ、各センサの信号を処理して、火災、ガス洩れ、不完全燃焼等を判定し、その結果を音声警報部や液晶表示部に表示する。この文献は、ガスセンサ及び火災センサの信号を統合的に信号処理し、より誤報の少ない警報器を提供するものであって、火災発生の予測方法を提示するものではない。
【特許文献1】特開平6−325270号公報
【特許文献2】特開平7−272143号公報
【特許文献3】特開2000−30165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、煙が発生する前に生じた焦げにおいをいち早くにおいセンサよりキャッチし、シグモイド曲線近似モデルによりセンサの出力履歴から火災の発生時刻を早期に予測する方法を提供する。さらに、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサまたはCCDカメラと組合わせて火災の発生を確認し、早期予測と誤報の少ない警報装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理手段と、前記信号処理手段で予測した火災発生時間を出力する出力手段と、を有し、前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災警報装置及び火災発生時間予測方法。
【0006】
また、以下の実施態様を有する。
前記信号処理手段は、前記火災発生時間TESを、
【数3】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻t(=a/b)におけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求める。
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う。
【0007】
さらに、以下の実施態様を有する。
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出する前記センサは、ガスセンサ、においセンサまたは煙センサである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記構成により、煙が発生する前に生じた焦げにおいをいち早くガスセンサよりキャッチし、シグモイド曲線近似モデルによりセンサの出力履歴から火災の発生時間を早期に予測することができる。センサ出力の近似にシグモイド曲線を用いたことにより、ある時刻以降のセンサ出力値の予測を高い精度でできることを、本発明者は実験により見出した。さらに、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサまたはCCDカメラと組合わせて火災の発生を確認することで、早期予測と誤報の少ない警報装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本発明の実施形態の一例の概略図を示す。本火災警報装置は、燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサ1(ガスセンサ、においセンサ、煙センサなど)と、火災の発生を検出する補助センサ2(CCDカメラ、熱センサ、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサなど)と、センサ1の出力値に基づいて火災発生時間の予測を行う信号処理手段3(コンピュータ等)と、信号処理手段3からの信号により警報を発したり火災発生時間を表示する警報手段4とからなる。補助センサ2は無くても良いが、あった方がより確実に火災の発生を検知できる。信号処理手段3は、センサ1の出力値をシグモイド曲線に近似をして火災発生時間を予測する。
【0010】
図2に、本実施形態における火災発生時間の予測アルゴリズムを示す。センサ出力の時系列データx(i)から、移動平均値u(k)およびその微分値v(k)を求める。u(k)が閾値U0(例えば、センサの最大出力値の5%)より大きいか、v(k)が閾値V0(例えば、センサの最大出力値の0.5%)より大きかったら、火災発生時間TESの計算を開始する。火災発生時間TESの計算については後で詳しく説明する。
【0011】
以下、実験条件、予測アルゴリズム、比較例、実験結果などについて詳しく説明する。
<実験装置と実験条件>
においセンサTGS2600(フィガロ技研(株)製)は空気汚れ、イソブタン、エタノール、水素、一酸化炭素の検知が可能であるため、可燃ガス漏れを検出することで、火災の危険状態を早期に知らせることができると考えられる。また、においセンサTGS2602(フィガロ技研(株)製)は各種発揮性有機化合物(V.O.C)、生活悪臭(硫化水素、アンモニア)などを高感度に検知可能であり、室内環境のモニタリングや焦げ臭いによる火災予測に利用できると考えられる。本発明では、これらのにおいセンサに注目し、室内環境のにおいレベルをモニタリングしながら、火災の発生危険性を早い段階で予測する。さらに、火災が発生しているかどうかの確認は一酸化炭素センサ(TGS5042(フィガロ技研(株)製))と二酸化炭素(TGS4161(フィガロ技研(株)製))を用いることが有効であることを検証する。
【0012】
燃焼実験は図3に示す実験装置で行った。燃焼チャンバーのサイズは90cm×90cm×90cmであり、各種におい・ガスセンサと市販の煙式警報器(YSA-209JP)をチャンバーの上部に取り付け、火災源としては電気コンロ(1200W,300W)を用い、火災は電気コンロの上に置かれる可燃物を加熱することで発生させた。また、燃焼実験はチャンバーを密封している状況下で行った。センサから信号をデータ収集装置(NR-2000,Keyence)により採集し、USB経由でPCに送信する。なお、燃焼状況を監視するため、チャンバーの側面にカラーを設置し、燃焼状況を撮影・記録した。なお、データ採集サンプリング周期はΔT=0.2secである。
【0013】
図4には、A4用紙を二つ折りにして電気コンロ(1200W)上に置き、スイッチをONにしてから紙が燃えつくすまでに測定した空気センサ(TGS2600)、悪臭センサ(TGS2602)、一酸化炭素センサ(TGS5042)、二酸化炭素(TGS4161)の出力を示す。実験結果を見ると、プリンター用紙が電気コンロで加熱され、その焦げにおいが発生するとセンサTGS2600とTGS2602が反応し始める。約165秒後になると煙の発生が観察される。約175秒に紙に着火し、CO2センサTGS4161が反応し始める。これは出火燃焼によりCO2濃度が上昇するためと考えられる。約200秒になると紙がほぼ燃えつくし、COセンサ(TGS5042)が反応し始め、COガスが検出されたと思われる。TGS2600センサはCOガスを検知できるため200秒の時点からTGS2600の出力に急上昇が見られることが分かる。
【0014】
図5には、小さめの電気コンロ(300W)を使用し、炎ができないよう加熱の量を抑える場合に得られたA4用紙のくん焼実験結果を示す。この場合、実験開始から約255秒のときに煙が発生しはじめ、プリンター用紙に炎が出ないまま煙が増加していく。約340秒のときに、COセンサが反応し始める。また、炎が出ていないため、CO2センサの出力が常に小さい値となっている。従って、くん焼の場合、TGS2600ならびにTGS2602の上昇速度は図4の出火燃焼の場合に比べセンサ出力の上昇速度が遅いことと、CO2センサの出力が小さいことが特徴的といえる。
【0015】
図4と図5の実験において、市販の煙式火災警報器も同時に取り付けている。図4の出火燃焼の場合においては、炎が発生し、紙が燃えつくしても煙があまり出ていないため、全燃焼過程において煙式警報器が鳴ることはなかった。しかし、図5のくん焼の場合は、約280秒の時に、煙が充満し始めているため、警報器が鳴り始めた。
以上の結果より、出火の前、または、煙が小さいときにも、においセンサのTGS2600とTGS2602を用いることで火災の発生を予測することが可能と考えられる。以下では、センサTGS2600とTGS2602の出力から火災の発生時刻を推定する方法を検討する。
【0016】
<直線近似による火災発生時刻予測法(比較例)>
初めに、一般的によく用いられる直線近似方法、すなわち、においセンサの出力曲線の傾きを利用した直線近似で火災の発生時刻を予測する方法を検討する。
センサ出力をx(t)とし、サンプリング周期をΔT、移動平均の窓長をL、移動ステップをpとすると、センサ出力x(t)に窓長Lの移動平均を施した結果が
【数4】
となる。さらにその微分値を
【数5】
と求めることができる。
【0017】
図6にL=25,p=5の窓長における平均移動により得られたセンサ出力u(k)の一例を示す。点u(k)における接線の傾きをv(k)、火災発生時のセンサ出力閾値をUTHVと設定すれば、図6より現時刻T(k)からの火災発生までの推定時間TESは
【数6】
により求めることができる。しかし、式(数6)を用いて火災の発生時刻を推定する場合、その閾値UTHVの設定が重要である。この閾値UTHVを決定するために、いくつの燃焼実験を行った。実験で得られたセンサ出力信号に対して正規化し、さらに式(数4)と(数5)を用いて炎が発生時におけるu(k)とv(k)を求め、プロットした結果を図7に示す。図7の横軸は正規化されたセンサ出力値u(k)であり、縦軸がその微分値v(k)である。また、左図はセンサTGS2600、右図はTGS2602の結果を示す。図より、TGS2600に関してはu(k)が0.4〜0.8、センサTGS2602に関してはu(k)=0.6〜0.95の範囲で出火可能性が最も高いことがわかる。火災発生の閾値UTHV=αumaxとすれば、図7の結果からα=0.6〜0.8と設定することが妥当と考えられる。後に示す結果からは、線形近似予測の場合、閾値の決め方に依存度高いことと、出火までの時間が比較的に長い場合の推定精度が悪くなることが分かる。次により高精度の推定方法を述べる。
【0018】
<シグモイド関数による火災発生時刻予測法(本発明)>
ロジスティック式は個体群生態学において、固体群成長のモデルとして考案された微分方程式であり、その後、確率関数の正規分布やカオス理論などに多くの分野で応用されている。本発明ではロジスティック微分方程式の解であるシグモイド関数に着目し火災発生時刻の予測方法を提案する。
ロジスティック微分方程式の解を一般的にシグモイド関数(数7)で表すことができる。
【数7】
シグモイド関数はニューラルネットの一種であるパーセプトロンにおけるバックプロパゲーションなどでも用いられる。式(数7)を用いて火災発生時刻を推定する場合、その係数[a,b,c]の値をまず求める必要がある。
まず、これらの係数の決定方法について検討する。
式(数7)を時間に対して微分すると
【数8】
が得られる。ここで、a-bt=0において、式(数7)と(数8)より
【数9】
となることが分かる。
そこで、ある時刻T(k)におけるセンサ出力値u(k)とその微分値v(k)に対して、各係数が
【数10】
になるように定義すると、
【数11】
が求まる。ここにUTHVは火災発生時のセンサ出力閾値である。一般的にはこの閾値を決定するためには、各条件化における大量な実験データを収集し、解析する必要がある。そこで本発明では、直線近似のように未知のセンサ出力最大値を用いることをせずに、現時刻T(k)におけるセンサ出力値u(k)を用いて次のように閾値を定義する。
【数12】
ここにλは0.6〜0.8とおくとよい。これはセンサ出力最大値の60-80%に相当する。すなわち、u(k)=umax/2と仮定した場合における出火の時刻を推定することにある。これより、現時刻から火災発生までの時間TESは式(数7)より次式で見積もることができる。
【数13】
図8に、センサ出力と近似されたシグモイド曲線の一例を示す。
以下、直線近似(式(数6))とシグモイド曲線近似(式(数13))を用いて火災の発生時刻を予測し、その結果について検証する。
【0019】
<結果と考察>
直線近似係数α=0.7,シグモイド曲線近似係数λ=0.7とした場合の結果を図9に示す。図9は、上から、各センサの出力電圧、各センサの微分値曲線、直線近似とシグモイド曲線近似した場合の各センサの火災発生推定時間の推移を示している。本例の場合、165秒で煙の発生が観察され、175秒で発火し、約200秒で燃えつくした。TGS2602について、直線近似の場合、160秒時点で予測が開始、そのときにおける火災発生推定時間が約150秒であった。一方シグモイド曲線近似を用いる場合その推定時間が約50秒であった。TGS2600センサについても同様な結果が得られている。これらの結果より、シグモイド曲線近似法が直線近似法より高い予測精度があることがいえる。
前節に述べたように推定時間の精度が閾値の設定に依存する。以下では、係数α=0.6〜0.8,λ=0.6〜0.8の範囲で変化させながら、予測時間精度への影響を調べる。その結果を図10に示す。図10(a)と(b)はシグモイド曲線近似係数λ=0.7を一定にし、直線近似係数α=0.8,0.6とした場合の推定結果を示す。図9(c)と比べてみると、直線近似係数αが大きく設定すると推定された時間が長くなり、直線近似係数α=0.6を小さくすると、推定時間が短くなることが分かる。本例の場合においてはその変動幅は50秒ほどあることが図から読み取れる。
【0020】
次に、直線近似係数α=0.7を固定し、シグモイド曲線近似係数λ=0.6と0.8にした場合の結果を図10(c)と(d)に示す。ちなみに本例の場合、165秒で煙が発生、175秒で発火、さらに、約200秒で燃えつくしたことが観察されている。直線近似法に比べ、どのケースでもシグモイド曲線近似を用いたほうが推定精度の高いことが分かる。例えば、165秒の時点を予測時刻原点とすれば、燃焼物への出火はその約10秒後であったが、TGS2602における推定時刻は、直線近似の場合は約35秒、シグモイド曲線近似を用いる場合は12秒であった。また、TGS2600センサに関しては、直線近似の場合は約242秒、シグモイド曲線近似を用いる場合は79秒である。また、170秒時点を原点として求めた推定時刻はTGS2602については、それぞれ18秒と7秒であり、TGS2600に関しては、それぞれ54秒と19秒であった。TGS2600がTGS2602による推定時刻が長いのは、TGS2600の出力値が小さいことと、上昇速度が遅いためと考えられ、センサ別に閾値の設定が必要と考えられる。
【0021】
また、出火燃焼とくん焼のケースを想定し、種々の実験を行った。そのうちの5例について求めた推定時刻の表を図11に示す。表に示すdata1とdata2は煙があまり発生せず炎ができる場合、data3とdata4はくん燃焼で、煙が発生し、煙検知器が警報したのち、出火した場合、data5はくん燃焼で煙が発生し、煙式警報機が警報するものの、全燃焼過程においては出火しない場合を示す。data1およびdata2は出火燃焼でセンサ出力の上昇が早いため、TGS2602がより正確に予測している。一方、data3およびdata4のくん焼の場合は予測を始める頃はTGS2600の精度が良く、火災時刻に近くなるとTGS2602の予測精度が高くなることが分かる。さらにdata5は出火しないくん焼の場合であり、この場合、TGS2600の方が良く、精度は高い。
ほぼすべての実験データにおいては、本発明で提案したシグモイド曲線近似法が直線近似法に比べ、より高い予測精度を有することが確認された。
【0022】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の概略図
【図2】火災発生時刻予測アルゴリズム
【図3】実験装置
【図4】各センサの出力(出火する場合)
【図5】各センサの出力(くん焼で出火しない場合)
【図6】直線近似予測
【図7】炎発生時のセンサ出力値とその微分値
【図8】シグモイド曲線による予測法
【図9】各センサの出力電圧、微分値曲線、火災発生推定時刻の推移
【図10】出火時刻予測結果の比較
【図11】直線近似予測およびシグモイド曲線予測による火災発生時刻予測の比較表
【符号の説明】
【0024】
1:センサ(においセンサ、ガスセンサなど) 2:補助センサ(熱センサ、CCDカメラなど) 3:信号処理手段(コンピュータ等) 4:警報手段(警報装置、表示装置など) 5:火災発生源
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するガスセンサの出力をシグモイド曲線で近似することにより、火災発生時間(火災発生までの時間)を予測する火災警報装置および火災発生時間予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火災による死傷者は平成9年以後2千人を越えて、平成17年にその数は2195人とほぼ横ばい状態が続いている。その内訳を見ると、放火自殺者を除いて発見の遅れ等による逃げ遅れによる死亡が57%を占めており、さらにそのうち9割が高齢者である。高齢者特に後期高齢者は、通常の正常者よりも3分の1ほど濃度のCOガスで意識がもろくなり、状況の判断ができなくなることや、身体が動けなくなることがある。そのため、いち早く火災発生の危険性を知らせ、事態への対処に必要の時間や逃げるための時間を確保してやることができれば、逃げ遅れによる死亡率が大きく軽減できると思われる。
【0003】
従来技術としては以下のものが挙げられる。
特許文献1には、「火災判定装置及びニューラルネットワークの学習方法」が記載されている。この火災判定装置は、入力処理部として、温度を検出する温度センサ、煙による減光率を検出する煙センサ、およびCOガスの濃度を検出するCOガスセンサを用い、検出温度から発熱量、煙による減光率から発煙量、およびCOガス濃度からCOガスの発生量を演算し、さらにそれぞれの微分値を演算することで、求めた発熱量、発煙量、およびCOガス発生量をニューラルネットワークに出力し火災を判定するものである。この特許文献1は、温度や煙さらにCOガス濃度の発生量を算出しニューラルネットワークにより火災の判定を行うものであるが、一般初期火災の場合においては、出火燃焼の場合についてはCOガスや煙が余り発生しないこと、くん燃焼の場合は温度があまり上昇していないことを考えると、火災の発生を早期に予測することではなく、誤報の軽減に機能をさせた火災判定装置である。
特許文献2には、「初期火災検出装置」が記載されている。この特許文献2は、早期の初期火災を検知することを目的とし、火災の初期状態で応答が得られる高感度煙センサSS及びニオイセンサNSからの出力を信号処理して煙の現在値及びその増減を示す差分値とニオイの現在値及びその増減を示す差分値とからなる火災情報を入力し、これら火災情報に対して得られるべき火災確度を定義したテーブル及び重み付け値に基づいて火災確度を割り出し、火災状態を判別するものである。この特許文献2は、においセンサを用いた初期火災の検知を、前もって定義された火災確度テーブルを利用して行うものであり、使用場所によっては定義したテーブルが対応できないことが予想される。
特許文献3には、「警報器」が記載されている。この文献は、ガス警報器と火災警報器とを一体化し、ガスセンサ及び火災センサの信号を統合して信号処理し、より誤報の少ない警報器を提供するものである。その警報器には、センサとして感熱センサ、煙感知センサ、COセンサ及び炭化水素センサの4つのセンサを有している。各センサの信号は、マイコン等で構成される判定部に送られ、各センサの信号を処理して、火災、ガス洩れ、不完全燃焼等を判定し、その結果を音声警報部や液晶表示部に表示する。この文献は、ガスセンサ及び火災センサの信号を統合的に信号処理し、より誤報の少ない警報器を提供するものであって、火災発生の予測方法を提示するものではない。
【特許文献1】特開平6−325270号公報
【特許文献2】特開平7−272143号公報
【特許文献3】特開2000−30165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、煙が発生する前に生じた焦げにおいをいち早くにおいセンサよりキャッチし、シグモイド曲線近似モデルによりセンサの出力履歴から火災の発生時刻を早期に予測する方法を提供する。さらに、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサまたはCCDカメラと組合わせて火災の発生を確認し、早期予測と誤報の少ない警報装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理手段と、前記信号処理手段で予測した火災発生時間を出力する出力手段と、を有し、前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災警報装置及び火災発生時間予測方法。
【0006】
また、以下の実施態様を有する。
前記信号処理手段は、前記火災発生時間TESを、
【数3】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻t(=a/b)におけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求める。
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う。
【0007】
さらに、以下の実施態様を有する。
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出する前記センサは、ガスセンサ、においセンサまたは煙センサである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記構成により、煙が発生する前に生じた焦げにおいをいち早くガスセンサよりキャッチし、シグモイド曲線近似モデルによりセンサの出力履歴から火災の発生時間を早期に予測することができる。センサ出力の近似にシグモイド曲線を用いたことにより、ある時刻以降のセンサ出力値の予測を高い精度でできることを、本発明者は実験により見出した。さらに、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサまたはCCDカメラと組合わせて火災の発生を確認することで、早期予測と誤報の少ない警報装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本発明の実施形態の一例の概略図を示す。本火災警報装置は、燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサ1(ガスセンサ、においセンサ、煙センサなど)と、火災の発生を検出する補助センサ2(CCDカメラ、熱センサ、一酸化炭素センサ、二酸化炭素センサなど)と、センサ1の出力値に基づいて火災発生時間の予測を行う信号処理手段3(コンピュータ等)と、信号処理手段3からの信号により警報を発したり火災発生時間を表示する警報手段4とからなる。補助センサ2は無くても良いが、あった方がより確実に火災の発生を検知できる。信号処理手段3は、センサ1の出力値をシグモイド曲線に近似をして火災発生時間を予測する。
【0010】
図2に、本実施形態における火災発生時間の予測アルゴリズムを示す。センサ出力の時系列データx(i)から、移動平均値u(k)およびその微分値v(k)を求める。u(k)が閾値U0(例えば、センサの最大出力値の5%)より大きいか、v(k)が閾値V0(例えば、センサの最大出力値の0.5%)より大きかったら、火災発生時間TESの計算を開始する。火災発生時間TESの計算については後で詳しく説明する。
【0011】
以下、実験条件、予測アルゴリズム、比較例、実験結果などについて詳しく説明する。
<実験装置と実験条件>
においセンサTGS2600(フィガロ技研(株)製)は空気汚れ、イソブタン、エタノール、水素、一酸化炭素の検知が可能であるため、可燃ガス漏れを検出することで、火災の危険状態を早期に知らせることができると考えられる。また、においセンサTGS2602(フィガロ技研(株)製)は各種発揮性有機化合物(V.O.C)、生活悪臭(硫化水素、アンモニア)などを高感度に検知可能であり、室内環境のモニタリングや焦げ臭いによる火災予測に利用できると考えられる。本発明では、これらのにおいセンサに注目し、室内環境のにおいレベルをモニタリングしながら、火災の発生危険性を早い段階で予測する。さらに、火災が発生しているかどうかの確認は一酸化炭素センサ(TGS5042(フィガロ技研(株)製))と二酸化炭素(TGS4161(フィガロ技研(株)製))を用いることが有効であることを検証する。
【0012】
燃焼実験は図3に示す実験装置で行った。燃焼チャンバーのサイズは90cm×90cm×90cmであり、各種におい・ガスセンサと市販の煙式警報器(YSA-209JP)をチャンバーの上部に取り付け、火災源としては電気コンロ(1200W,300W)を用い、火災は電気コンロの上に置かれる可燃物を加熱することで発生させた。また、燃焼実験はチャンバーを密封している状況下で行った。センサから信号をデータ収集装置(NR-2000,Keyence)により採集し、USB経由でPCに送信する。なお、燃焼状況を監視するため、チャンバーの側面にカラーを設置し、燃焼状況を撮影・記録した。なお、データ採集サンプリング周期はΔT=0.2secである。
【0013】
図4には、A4用紙を二つ折りにして電気コンロ(1200W)上に置き、スイッチをONにしてから紙が燃えつくすまでに測定した空気センサ(TGS2600)、悪臭センサ(TGS2602)、一酸化炭素センサ(TGS5042)、二酸化炭素(TGS4161)の出力を示す。実験結果を見ると、プリンター用紙が電気コンロで加熱され、その焦げにおいが発生するとセンサTGS2600とTGS2602が反応し始める。約165秒後になると煙の発生が観察される。約175秒に紙に着火し、CO2センサTGS4161が反応し始める。これは出火燃焼によりCO2濃度が上昇するためと考えられる。約200秒になると紙がほぼ燃えつくし、COセンサ(TGS5042)が反応し始め、COガスが検出されたと思われる。TGS2600センサはCOガスを検知できるため200秒の時点からTGS2600の出力に急上昇が見られることが分かる。
【0014】
図5には、小さめの電気コンロ(300W)を使用し、炎ができないよう加熱の量を抑える場合に得られたA4用紙のくん焼実験結果を示す。この場合、実験開始から約255秒のときに煙が発生しはじめ、プリンター用紙に炎が出ないまま煙が増加していく。約340秒のときに、COセンサが反応し始める。また、炎が出ていないため、CO2センサの出力が常に小さい値となっている。従って、くん焼の場合、TGS2600ならびにTGS2602の上昇速度は図4の出火燃焼の場合に比べセンサ出力の上昇速度が遅いことと、CO2センサの出力が小さいことが特徴的といえる。
【0015】
図4と図5の実験において、市販の煙式火災警報器も同時に取り付けている。図4の出火燃焼の場合においては、炎が発生し、紙が燃えつくしても煙があまり出ていないため、全燃焼過程において煙式警報器が鳴ることはなかった。しかし、図5のくん焼の場合は、約280秒の時に、煙が充満し始めているため、警報器が鳴り始めた。
以上の結果より、出火の前、または、煙が小さいときにも、においセンサのTGS2600とTGS2602を用いることで火災の発生を予測することが可能と考えられる。以下では、センサTGS2600とTGS2602の出力から火災の発生時刻を推定する方法を検討する。
【0016】
<直線近似による火災発生時刻予測法(比較例)>
初めに、一般的によく用いられる直線近似方法、すなわち、においセンサの出力曲線の傾きを利用した直線近似で火災の発生時刻を予測する方法を検討する。
センサ出力をx(t)とし、サンプリング周期をΔT、移動平均の窓長をL、移動ステップをpとすると、センサ出力x(t)に窓長Lの移動平均を施した結果が
【数4】
となる。さらにその微分値を
【数5】
と求めることができる。
【0017】
図6にL=25,p=5の窓長における平均移動により得られたセンサ出力u(k)の一例を示す。点u(k)における接線の傾きをv(k)、火災発生時のセンサ出力閾値をUTHVと設定すれば、図6より現時刻T(k)からの火災発生までの推定時間TESは
【数6】
により求めることができる。しかし、式(数6)を用いて火災の発生時刻を推定する場合、その閾値UTHVの設定が重要である。この閾値UTHVを決定するために、いくつの燃焼実験を行った。実験で得られたセンサ出力信号に対して正規化し、さらに式(数4)と(数5)を用いて炎が発生時におけるu(k)とv(k)を求め、プロットした結果を図7に示す。図7の横軸は正規化されたセンサ出力値u(k)であり、縦軸がその微分値v(k)である。また、左図はセンサTGS2600、右図はTGS2602の結果を示す。図より、TGS2600に関してはu(k)が0.4〜0.8、センサTGS2602に関してはu(k)=0.6〜0.95の範囲で出火可能性が最も高いことがわかる。火災発生の閾値UTHV=αumaxとすれば、図7の結果からα=0.6〜0.8と設定することが妥当と考えられる。後に示す結果からは、線形近似予測の場合、閾値の決め方に依存度高いことと、出火までの時間が比較的に長い場合の推定精度が悪くなることが分かる。次により高精度の推定方法を述べる。
【0018】
<シグモイド関数による火災発生時刻予測法(本発明)>
ロジスティック式は個体群生態学において、固体群成長のモデルとして考案された微分方程式であり、その後、確率関数の正規分布やカオス理論などに多くの分野で応用されている。本発明ではロジスティック微分方程式の解であるシグモイド関数に着目し火災発生時刻の予測方法を提案する。
ロジスティック微分方程式の解を一般的にシグモイド関数(数7)で表すことができる。
【数7】
シグモイド関数はニューラルネットの一種であるパーセプトロンにおけるバックプロパゲーションなどでも用いられる。式(数7)を用いて火災発生時刻を推定する場合、その係数[a,b,c]の値をまず求める必要がある。
まず、これらの係数の決定方法について検討する。
式(数7)を時間に対して微分すると
【数8】
が得られる。ここで、a-bt=0において、式(数7)と(数8)より
【数9】
となることが分かる。
そこで、ある時刻T(k)におけるセンサ出力値u(k)とその微分値v(k)に対して、各係数が
【数10】
になるように定義すると、
【数11】
が求まる。ここにUTHVは火災発生時のセンサ出力閾値である。一般的にはこの閾値を決定するためには、各条件化における大量な実験データを収集し、解析する必要がある。そこで本発明では、直線近似のように未知のセンサ出力最大値を用いることをせずに、現時刻T(k)におけるセンサ出力値u(k)を用いて次のように閾値を定義する。
【数12】
ここにλは0.6〜0.8とおくとよい。これはセンサ出力最大値の60-80%に相当する。すなわち、u(k)=umax/2と仮定した場合における出火の時刻を推定することにある。これより、現時刻から火災発生までの時間TESは式(数7)より次式で見積もることができる。
【数13】
図8に、センサ出力と近似されたシグモイド曲線の一例を示す。
以下、直線近似(式(数6))とシグモイド曲線近似(式(数13))を用いて火災の発生時刻を予測し、その結果について検証する。
【0019】
<結果と考察>
直線近似係数α=0.7,シグモイド曲線近似係数λ=0.7とした場合の結果を図9に示す。図9は、上から、各センサの出力電圧、各センサの微分値曲線、直線近似とシグモイド曲線近似した場合の各センサの火災発生推定時間の推移を示している。本例の場合、165秒で煙の発生が観察され、175秒で発火し、約200秒で燃えつくした。TGS2602について、直線近似の場合、160秒時点で予測が開始、そのときにおける火災発生推定時間が約150秒であった。一方シグモイド曲線近似を用いる場合その推定時間が約50秒であった。TGS2600センサについても同様な結果が得られている。これらの結果より、シグモイド曲線近似法が直線近似法より高い予測精度があることがいえる。
前節に述べたように推定時間の精度が閾値の設定に依存する。以下では、係数α=0.6〜0.8,λ=0.6〜0.8の範囲で変化させながら、予測時間精度への影響を調べる。その結果を図10に示す。図10(a)と(b)はシグモイド曲線近似係数λ=0.7を一定にし、直線近似係数α=0.8,0.6とした場合の推定結果を示す。図9(c)と比べてみると、直線近似係数αが大きく設定すると推定された時間が長くなり、直線近似係数α=0.6を小さくすると、推定時間が短くなることが分かる。本例の場合においてはその変動幅は50秒ほどあることが図から読み取れる。
【0020】
次に、直線近似係数α=0.7を固定し、シグモイド曲線近似係数λ=0.6と0.8にした場合の結果を図10(c)と(d)に示す。ちなみに本例の場合、165秒で煙が発生、175秒で発火、さらに、約200秒で燃えつくしたことが観察されている。直線近似法に比べ、どのケースでもシグモイド曲線近似を用いたほうが推定精度の高いことが分かる。例えば、165秒の時点を予測時刻原点とすれば、燃焼物への出火はその約10秒後であったが、TGS2602における推定時刻は、直線近似の場合は約35秒、シグモイド曲線近似を用いる場合は12秒であった。また、TGS2600センサに関しては、直線近似の場合は約242秒、シグモイド曲線近似を用いる場合は79秒である。また、170秒時点を原点として求めた推定時刻はTGS2602については、それぞれ18秒と7秒であり、TGS2600に関しては、それぞれ54秒と19秒であった。TGS2600がTGS2602による推定時刻が長いのは、TGS2600の出力値が小さいことと、上昇速度が遅いためと考えられ、センサ別に閾値の設定が必要と考えられる。
【0021】
また、出火燃焼とくん焼のケースを想定し、種々の実験を行った。そのうちの5例について求めた推定時刻の表を図11に示す。表に示すdata1とdata2は煙があまり発生せず炎ができる場合、data3とdata4はくん燃焼で、煙が発生し、煙検知器が警報したのち、出火した場合、data5はくん燃焼で煙が発生し、煙式警報機が警報するものの、全燃焼過程においては出火しない場合を示す。data1およびdata2は出火燃焼でセンサ出力の上昇が早いため、TGS2602がより正確に予測している。一方、data3およびdata4のくん焼の場合は予測を始める頃はTGS2600の精度が良く、火災時刻に近くなるとTGS2602の予測精度が高くなることが分かる。さらにdata5は出火しないくん焼の場合であり、この場合、TGS2600の方が良く、精度は高い。
ほぼすべての実験データにおいては、本発明で提案したシグモイド曲線近似法が直線近似法に比べ、より高い予測精度を有することが確認された。
【0022】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の概略図
【図2】火災発生時刻予測アルゴリズム
【図3】実験装置
【図4】各センサの出力(出火する場合)
【図5】各センサの出力(くん焼で出火しない場合)
【図6】直線近似予測
【図7】炎発生時のセンサ出力値とその微分値
【図8】シグモイド曲線による予測法
【図9】各センサの出力電圧、微分値曲線、火災発生推定時刻の推移
【図10】出火時刻予測結果の比較
【図11】直線近似予測およびシグモイド曲線予測による火災発生時刻予測の比較表
【符号の説明】
【0024】
1:センサ(においセンサ、ガスセンサなど) 2:補助センサ(熱センサ、CCDカメラなど) 3:信号処理手段(コンピュータ等) 4:警報手段(警報装置、表示装置など) 5:火災発生源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、
前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理手段と、
前記信号処理手段で予測した火災発生時間に基づいて警報を発する警報手段と、を有し、
前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災警報装置。
【請求項2】
前記信号処理手段は、前記火災発生予測時間TESを、
【数1】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻tにおけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求めることを特徴とする請求項1記載の火災警報装置。
【請求項3】
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う、請求項1または2記載の火災警報装置。
【請求項4】
燃焼に伴う空気中の成分変化をセンサにより検出する成分変化検出工程と、
前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理工程と、
前記信号処理工程で予測した火災発生時間に基づいて警報を発する警報工程と、を有し、
前記信号処理工程は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災発生時間予測方法。
【請求項5】
前記信号処理工程は、前記火災発生時間TESを、
【数2】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻tにおけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求めることを特徴とする請求項4記載の火災発生時間予測方法。
【請求項6】
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う、請求項4または5記載の火災発生時間予測方法。
【請求項1】
燃焼に伴う空気中の成分変化を検出するセンサと、
前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理手段と、
前記信号処理手段で予測した火災発生時間に基づいて警報を発する警報手段と、を有し、
前記信号処理手段は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災警報装置。
【請求項2】
前記信号処理手段は、前記火災発生予測時間TESを、
【数1】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻tにおけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求めることを特徴とする請求項1記載の火災警報装置。
【請求項3】
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う、請求項1または2記載の火災警報装置。
【請求項4】
燃焼に伴う空気中の成分変化をセンサにより検出する成分変化検出工程と、
前記センサからの信号を処理し、火災発生時間を予測する信号処理工程と、
前記信号処理工程で予測した火災発生時間に基づいて警報を発する警報工程と、を有し、
前記信号処理工程は、前記センサからの時系列データについて、ある時刻t以前のセンサ出力値とその微分値とから前記時系列データをシグモイド曲線に近似をし、近似されたシグモイド曲線に基づいて火災発生時間を予測することを特徴とする火災発生時間予測方法。
【請求項5】
前記信号処理工程は、前記火災発生時間TESを、
【数2】
(ただし、a=4v(t)t/UTHV、b=4v(t)/UTHV、c=2u(t)、UTHV=2λu(t)、u(t)は時刻tにおけるセンサ出力値の移動平均値、v(t)はu(t)の時間微分、λは定数)
により求めることを特徴とする請求項4記載の火災発生時間予測方法。
【請求項6】
さらに、CO2センサ、COセンサ、熱センサまたは画像センサの少なくともいずれか1つからなる補助センサを有し、前記補助センサの出力から火災発生の確認を行う、請求項4または5記載の火災発生時間予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−225857(P2008−225857A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63422(P2007−63422)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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