説明

火花点火式エンジンの点火制御装置

【課題】火花点火式の直噴エンジンEにおいて、シリンダC毎に2つの点火プラグ16,18を備えるとともに、燃焼室5のスワール流Swを強化して混合気の燃焼性を高める場合に、冷機時における燃料の壁面付着に起因する空燃比分布の偏りに着目し、その分布にマッチした適切な点火制御によって着火性及び燃焼性を向上する
【解決手段】燃焼室天井部5aには、シリンダ軸線c1に沿って見たときにインジェクタ14と反対側の周縁部よりもスワール流Swの下流側に、サイドプラグ18が配設されている。エンジン冷機時には一旦、シリンダC内壁面に付着した燃料Faが気化し、スワール流Swにより搬送されてサイドプラグ18の近傍に濃混合気Mを形成する。そこで、サイドプラグ18をセンタープラグ16よりも先に点火作動させて、濃混合気Mを確実に着火させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒内の燃焼室に燃料を直接、噴射して点火プラグにより点火するようにした火花点火式エンジンの点火制御装置に関し、特に、気筒毎に複数の点火プラグを設けて燃焼性を高めたものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、火花点火式エンジンにおいて気筒毎に複数の点火プラグを設けることは公知であり、これにより燃焼期間を短縮して、出力の向上及び燃費の低減を図ることができる。例えば特許文献1に記載の2点点火内燃機関では、気筒内の燃焼室に臨む2つの吸気ポート開口部にそれぞれ対応するように、2つの点火プラグを配設している。そして、一方の吸気ポートにのみEGRガスを還流させ、この吸気ポートに対応する点火プラグによりEGRガスの多く含まれる混合気に先に点火することによって、燃焼性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−009661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今の火花点火式エンジンにおいては、気筒内の燃焼室に燃料を噴射して燃焼させる直噴タイプのものが実用化されている。このような直噴エンジンおいては、燃料の気化に伴う吸気冷却効果によって充填効率が向上するとともに、ノッキングが抑制されることから、気筒の圧縮比を高めに設定して機関効率を向上することができる。
【0005】
しかしながら、気筒内に燃料を噴射する直噴エンジンにおいては、冷機時に気化し難くなった燃料噴霧の一部が液滴のまま気筒内壁面に付着しやすい。この影響で燃焼室周縁部の混合気濃度が高めになる一方で、燃焼室中央部の混合気濃度は低めになってしまい、着火安定性ひいては混合気の燃焼性が低下するという問題がある。
【0006】
この点につき燃焼室における気筒軸線周りの流動(スワール流)を強化して、燃料噴霧を分散させ、吸気との混合や気化霧化を促進するという技術は周知である。しかし、相対的に吸気量の少ない低回転域においてはスワール流も十分には強化し得ず、前記の混合気濃度の偏りを解消するには至らない。
【0007】
斯かる点に鑑みて本発明の目的は、前記のように直噴エンジンにおいて冷機時に生じる混合気濃度の偏りとスワール流との関係に着目して、複数の点火プラグを適切に点火作動させることにより、混合気への着火安定性及び燃焼性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために本発明では、一旦、気筒内壁面に付着した燃料が気化した後にスワール流により搬送されて、混合気濃度が高くなるような部位にサイド点火プラグを設け、エンジン冷機時にはそれを優先的に点火作動させるようにした。
【0009】
具体的に請求項1の発明では、気筒内の燃焼室にその周縁部の燃料噴射弁から燃料を噴射して、少なくとも、該燃焼室の天井部中央付近のセンター点火プラグによって点火するようにした火花点火式エンジンの点火制御装置を前提とする。
【0010】
そして、前記燃焼室にスワール流を生成させるスワール生成手段が設けられている場合に、該燃焼室の天井部において、気筒軸線に沿って見たときに前記燃料噴射弁とは反対側の燃焼室周縁部よりも前記スワール流の下流側に位置するように、サイド点火プラグを配設する。その上で、エンジン冷機時の前記スワール流の生成される運転状態においては、前記サイド点火プラグをセンター点火プラグよりも所定クランク角度進角側で点火作動させる、点火時期制御手段を備えるものとする。
【0011】
ここで、上述したようにエンジンの冷機時には、気筒内に噴射された燃料噴霧が気化し難く、その一部は液滴のまま気筒内壁面に付着することになる。こうして付着した燃料は、気筒内壁の熱を奪って気化するとともに、スワール流により気筒内壁に沿って搬送されることから、それが付着した部位よりもスワール流の下流側において比較的濃い混合気が形成されるようになる。
【0012】
前記の構成では、そうして比較的濃い混合気の形成される部位にサイド点火プラグが配設されていて、エンジンの冷機時には、それがセンター点火プラグよりも進角側で点火作動されることで、確実な着火が図られて混合気の燃焼性を確保することができる。
【0013】
一方で、エンジンの暖機が終了し燃料の壁面付着による悪影響が非常に小さくなれば、センター点火プラグをサイド点火プラグと同時に、或いはこれよりも所定クランク角度進角側で点火作動させることが好ましい(請求項2)。すなわち、暖機後は基本的に多点点火によって燃焼改善を図るものであり、その際は燃焼室の中央部寄りの点火を優先する。これは、燃焼室の周縁部寄りに先に点火した場合は、火炎伝播の初期に大きな熱損失が発生してしまい、多点点火とする意義が薄れてしまうからである。
【0014】
そうして燃焼室の中央部寄りの点火を優先し、補助的に周縁部においても点火を行うことによって、燃焼期間を短縮し出力の向上や燃費の低減が図られる。また、そうして燃焼室の中央部寄りから周縁部に向かい火炎が伝播する際に、エンドガスゾーンで自着火の起きる前にサイド点火プラグによる点火を行うようにすれば、ノッキングも抑制できる。
【0015】
そうしてエンジンの暖機後は多点点火により基本的に燃焼性を改善できるものであるが、そのためのサイド点火プラグの配設に伴い以下のような問題が生じる。すなわち、一般的に4バルブエンジンにおいて燃焼室の天井部には吸気及び排気ポートが4つ開口しており、排気側の周縁部は熱害が大きいので、吸気側の周縁部に燃料噴射弁を臨ませるとすれば、サイド点火プラグは周方向に隣接する吸排気弁間に配設せざるを得ない。
【0016】
しかしながら、それら吸排気弁間というのは多気筒エンジンの場合、隣接する気筒間であり、ここは構造上、冷却水が流れ難いため、サイド点火プラグの過熱が問題になり易い。例えばエンジン暖機後の高負荷高回転領域のように燃焼室温度が非常に高くなる運転状態では、過熱したサイド点火プラグが混合気の自着火(プレイグニッション)を誘発する虞れがある。
【0017】
そこで、エンジンの暖機後にはセンター点火プラグのみを点火作動させるようにしてもよく(請求項3)、こうすれば、サイド点火プラグの信頼性向上や消費電力の低減が図られる。
【0018】
より好ましいのは、少なくとも前記のような高負荷高回転領域においてはセンター点火プラグのみを点火作動させる一方(請求項5)、高回転域を除いた所定回転数域(例えば5000〜5500rpm以下の低中回転域)においては多点点火を行い、センター点火プラグをサイド点火プラグよりも所定クランク角度進角側で点火作動させることである(請求項4)。
【0019】
さらに、例えば1500rpm未満の低回転域においては気筒の圧縮行程において燃焼室内の吸気温度が上昇しやすく、やはりサイド点火プラグが混合気の自着火(プレイグニッション)を誘発する虞れがある。そこで、このような低回転域で負荷が所定以上に高いときにもサイド点火プラグによる点火は行わず、センター点火プラグのみの点火としてもよい。
【0020】
また、上述したようにエンジン冷機時にはサイド点火プラグによる点火を優先する一方、暖機後はセンター点火プラグによる点火を優先する場合に、好ましいのは、エンジンの負荷や回転数に応じてセンター点火プラグの点火時期を決定し、これに対してサイド点火プラグの点火時期を冷機時には進角側に、また、暖機後であれば遅角側に設定することである。
【0021】
その場合には、例えばエンジン水温の上昇に応じて徐々にサイド点火プラグの点火時期を遅らせるように制御するのが好ましく、こうすれば、エンジンの暖機途中で温度状態が所定以上になれば、センター点火プラグをサイド点火プラグと同時に点火作動させることになる(請求項6)。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように本発明に係る火花点火式エンジンの点火制御装置によると、直噴エンジンに特有の気筒内壁面への燃料付着とスワール流との影響で、冷機時に燃焼室周縁の所定部位の混合気濃度が高くなることに着目し、この部位に対応付けてサイド点火プラグを配設するとともに、エンジンの冷機時にはセンター点火プラグよりも進角側でサイド点火プラグを点火作動させることによって、混合気の着火性及び燃焼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る火花点火式エンジンの概略構成図。
【図2】シリンダ内の燃焼室の構成を概略的に示す斜視図。
【図3】#1〜#4シリンダへの吸気通路の連通状態を示す模式図。
【図4】エンジンの点火制御マップの概要を示す説明図。
【図5】シリンダの吸気行程で生成されるスワール流と燃料噴霧とを示した図2相当図。
【図6】エンジン冷機時における(a)燃料噴霧の壁面付着と(b)それが気化して形成される濃混合気とを模式的に示すイメージ図。
【図7】点火制御の手順を示すフローチャート図。
【図8】エンジン判暖機時の図6相当図。
【図9】エンジン暖機後の図6相当図。
【図10】エンジン水温の上昇に応じて点火時期を制御するためのテーブルの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
−エンジンの概略構成−
図1は、本発明に係る火花点火式直噴エンジンEの概略図である。このエンジンEは、複数のシリンダC,C,…(気筒:図1には1つのみ示す)が形成されたシリンダブロック1と、その上に組み付けられたシリンダヘッド2とを備えている。個々のシリンダCには、その軸線c1(図2参照)に沿って上下に往復動するようにピストン3が収容されている。ピストン3はコネクティングロッドによって、シリンダブロック1の下部に回転自在に収容されているクランク軸4に連結されている。
【0026】
より詳しくは図2に示すように、各シリンダC毎に往復動するピストン3の上方に燃焼室5が形成されている。燃焼室5の天井部5aは、シリンダヘッド2の下面に各シリンダC毎に形成された窪みであり、図の例では、吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる浅い三角屋根形状とされている。つまり、この例ではエンジン1は、所謂ペントルーフ型の燃焼室5を備えている。
【0027】
その天井部5aの形状に対応するように、燃焼室5の床部であるピストン3の頂面は吸排気の中央部が隆起する台形状とされ、これによりシリンダCの幾何学的圧縮比が高めに設定されている。また、その隆起部において、後述するセンタープラグ16の電極に対応するように半球状のキャビティ3aが形成されており、該センタープラグ16の電極付近からの火炎面の伝播をできるだけ阻害しないようになっている。
【0028】
また、前記燃焼室天井部5aの吸気側の傾斜面、即ち図2において奥側の傾斜面には、第1、第2の2つの吸気ポート6a,6bが横並びに、即ちクランク軸方向に並んで開口している。一方、同図には手前側に開口部のみを示すが、排気側傾斜面にも同様に2つの排気ポート7,7が横並びに開口している。
【0029】
そうして燃焼室5に臨む吸気ポート6a,6bの開口部にはそれぞれ吸気弁8,8が配設されており、そこから斜め上向きに延びた吸気ポート6a,6bは、図1にも示すようにシリンダヘッド2の側面に開口して、吸気通路10に接続されている。図3には、複数のシリンダC,C,…(図の例では#1〜#4の4つのシリンダ)への吸気通路10の連通状態を模式的に示しており、サージタンク11とシリンダC,C,…との間は、各吸気ポート6a,6b毎の分岐通路10a,10bによって個別に連通されている。
【0030】
そして、シリンダC毎の分岐通路10a,10bのうちの一方(図2に示す#1、#3シリンダC,Cでは左側の第1吸気ポート6aに連通する分岐通路10a)には、後述のようにシリンダC内の流動を制御するための制御弁12(Tumble Swirl Control Valve:以下、TSCVと略称する)が配設されている。このTSCV12は、図の例ではバタフライバルブからなり、第1吸気ポート6aの流路面積(開度)を調整する。
【0031】
この実施形態ではTSCV12の開度は後述するECU20によって制御され、エンジンEの所定の運転状態で第1吸気ポート6aを全閉にすることにより、吸気を第2吸気ポート6bのみから燃焼室5に流入させて、スワール流を強化するものである。このTSCV12によって、第1吸気ポート6aの流路抵抗を第2吸気ポート6bに比べて大きくして、燃焼室5にスワール流を生成するスワール生成手段が構成されている。
【0032】
尚、図3に示すように、この実施形態の場合、#1、#3シリンダC,CではそれぞれTSCV12がエンジンEの長手方向後側(図の左側)の吸気ポート6aに配設される一方、#2、#4シリンダC,CではTSCV12はエンジンEの前側(図の右側)の吸気ポート6aに配設されている。
【0033】
前記のように独立に設けられた一対の吸気ポート6a,6bに対し、各シリンダC毎の排気ポート7,7は下流側で一つに合流して、図1に示すように、シリンダヘッド2の排気側の側面に開口している。この排気側の側面には各シリンダC毎に分岐して排気ポート7に連通するように排気マニホールド13が接続されていて、燃焼室5から既燃ガス(排気ガス)を排出するようになっている。
【0034】
また、各シリンダC毎の2つの吸気ポート6a,6bの下方には、それらの開口部の中間に噴口を臨ませて、そこから燃焼室5の中央付近に向かって燃料を噴射するようにインジェクタ14(燃料噴射弁)が配設されている。このインジェクタ14の基端部には4つのシリンダC,C,…に共通の燃料分配管15(図1にのみ示す)が接続されていて、図示しない高圧燃料ポンプや高圧レギュレータから供給される燃料が分配されるようになっている。
【0035】
さらに、各シリンダC毎にシリンダヘッド2には、シリンダ軸線c1に沿って延びるようにセンター点火プラグ16(以下、センタープラグと略称)が配設されている。その先端の電極は、4バルブエンジンの常として天井部5aの中央付近で燃焼室5に臨んでいる。一方、第1点火プラグ16の基端側には、図1にのみ示すが点火コイルユニット17が接続され、各シリンダC毎に所定のタイミングで通電するようになっている。
【0036】
そうしてセンタープラグ16によって燃焼室5の中央付近で混合気に点火することは、従来周知の如く熱損失を抑えるとともに、良好な火炎伝播のために好ましいものであり、特にこの実施形態では、上述の如くピストン3頂面に半球状のキャビティ3aが形成されていて、高圧縮比仕様であるにも拘わらず極力、火炎面の伝播を阻害しないようになっている。
【0037】
加えて、この実施形態の特徴として、図2の左側に位置する第1吸気ポート6aと、これに対向する排気ポート7(図示せず)との間、即ち、シリンダCの周方向に隣接する2つの吸排気ポート6a,7の開口部間から燃焼室5に臨むようにして、サイド点火プラグ18(以下、サイドプラグと略称)が配設されており、センタープラグ16と併せた2点点火制御によって、燃焼性をさらに高めるようにしている。
【0038】
そうして各シリンダC毎に、周方向に隣接する2つの吸排気ポート6a,7間に配設されているサイドプラグ18は、図3からも分かるようにエンジンEの長手方向に隣接するシリンダC,C間に2つずつ近接して配設されることになり、その2つのサイドプラグ18の基端側には、図示は省略するが、共通の点火コイルユニットが接続されている。
【0039】
−点火制御の概要−
この実施形態のエンジンEでは、前記したTSCV12の開閉作動、インジェクタ14による燃料の噴射、センター及びサイドプラグ16,18による点火等がエンジン・コントロールユニット(ECU)20によって制御されることになる。ECU20には、エンジン水温センサ21、クランク角センサ22に加えて、エアフローセンサ23、アクセル開度センサ24、車速センサ25等からの信号が入力される。
【0040】
一例として図4に示すように、センタープラグ16及びサイドプラグ18による点火時期の制御がエンジンEの負荷や回転数に応じて行われる。これは、基本的にはセンタープラグ16を優先して混合気に点火し、補助的にサイドプラグ18によっても点火することによって、燃焼期間を短縮し出力の向上や燃費の低減を図るものであり、2回の点火に適切な位相差を設けることによってノッキングの抑制も図られる。
【0041】
また、図の例では、ハッチングを入れて示す相対的に低負荷かつ低回転側の運転領域(S:以下、スワール生成領域という)において各シリンダC毎のTSCV12を閉じ、図5に示すように吸気が第2吸気ポート6bのみから燃焼室5に流入するようにしている。こうして第2吸気ポート6bのみからの吸気流によって、図示のようにスワール流Swが生成され、燃料噴霧Fとの混合及びその気化霧化が促進される。
【0042】
但し、エンジン冷機時のように燃料の気化霧化が非常に悪い状態では、前記のようにスワール流Swによって燃料の気化霧化を促進していても、それだけでは十分とは言えない。これは、図6のようにシリンダ軸線c1に沿って見ると分かり易いが、冷機時には燃料噴霧Fが気化し難いため、同図(a)のように液滴のままインジェクタ14とは反対側のシリンダCの内壁面に到達し、付着する燃料Faが多くなるからである。
【0043】
そうしてシリンダCの内壁面に付着する燃料Faが多くなれば、同図(b)に示すように燃焼室5の中央部における混合気濃度は低くなってしまい、センタープラグ16によって点火しても良好な着火性は得られない。一方で、シリンダC内壁面に付着した燃料Faはその後、気化しつつスワール流SwによってシリンダCの内壁沿いに搬送されて、前記の付着部位よりもスワール流Swの下流側(以下、単にスワール下流側ともいう)に比較的濃い混合気Mを形成するようになる。
【0044】
そこで、この実施形態では、そうして混合気濃度の高くなるスワール下流側の燃焼室5周縁部にサイドプラグ18を設けておき、エンジン冷機時には該サイドプラグ18をセンタープラグ18よりも進角側で点火作動させることにより、混合気の着火性、燃焼性を安定的に確保するようにしている。尚、前記図6(b)には空燃比が所定値(例えば12)以上の濃混合気部分Mのみを網点で示しているが、実際には混合気は燃焼室5全体に層状に分布している。
【0045】
−具体的な制御手順−
以下に、この実施形態に係る具体的な点火制御の手順を図7のフローチャートに基づいて説明する。まず、スタート後のステップS1では、エンジン水温センサ21、クランク角センサ22、エアフローセンサ23、アクセル開度センサ24、車速センサ25等からの信号を入力し、続くステップS2ではエンジンEの運転領域を判定する。例えば、クランク角センサ22からの信号によりエンジン回転数を演算し、これとアクセル開度とに基づいてエンジン負荷を演算する。そうして求めたエンジンEの負荷及び回転数に基づき、図4の制御マップを参照してスワール生成領域(S)にあるか否か判定する。
【0046】
その判定がNOならば後述するステップS8に進む一方、判定がYESであればステップS3に進み、ここではエンジン水温が40°C未満か否か判定する。これはエンジンEの冷機時かどうかの判定であり、YESでエンジン冷機時であれば、図6を参照して上述したように、相対的に濃い混合気が燃焼室5のスワール下流側周縁部に形成されるから、これに点火するように所定タイミングでサイドプラグ18を点火作動させた後に、所定クランク角度(例えば5°CA)遅角側でセンタープラグ16を点火作動させて(ステップS4)、リターンする。
【0047】
一方、前記ステップS3においてNO、即ちエンジン水温が40°C以上であると判定すればステップS5に進み、今度はエンジン水温が60°C未満か否か判定する。これはエンジンEの暖機が完了したかどうかの判定であり、YESでエンジン半暖機時であればステップS6に進んで、エンジンEの負荷や回転数に対応する所定タイミングでセンタープラグ16及びサイドプラグ18を同時に点火作動させて、リターンする。
【0048】
すなわち、エンジンEの暖機の進行に応じて燃料が気化しやすくなり、半暖機時には、図8(a)に模式的に示すようにシリンダC内壁面への付着量が少なくなるとともに、図(b)に示すように燃焼室5の中央部にも比較的濃い混合気Mが形成されるようになる。そこで、前記したようにシリンダC内壁面への付着燃料Faによって形成されるスワール下流側周縁部の濃混合気Mとともに、前記燃焼室5中央部の濃混合気Mにも点火することによって、着火性、燃焼性をより向上させることができる。
【0049】
さらにエンジンEの暖機が進行して、その水温が60°C以上になると(暖機完了)、前記ステップS5においてNOと判定してステップS7に進み、ここでは所定タイミングでセンタープラグ18を点火作動させた後に、所定クランク角度(例えば5°CA)遅角側でサイドプラグ16も点火作動させて、リターンする。
【0050】
すなわち、エンジンEの暖機後は燃料噴霧の気化が十分に図られ、図9(a)に破線Faで示すようにシリンダCの内壁面に付着する燃料が非常に少なくなるとともに、図(b)のように燃焼室5の中央付近に濃混合気Mが形成されるようになる。よって、この場合は、センタープラグ16による点火を優先し、その後の火炎伝播の途中でサイドプラグ18により補助的に点火することにより、燃焼期間を短縮し出力の向上や燃費の低減を図るものである。
【0051】
以上、要するにスワール生成領域(S)においては、エンジンEの冷機時からの暖機の進行に伴い、図6、8、9のように変化する燃焼室5の空燃比分布とスワール流との関係に着目して、エンジン水温の上昇に応じてセンター及びサイドプラグ16,18の点火時期を変更することにより、混合気への着火性及びその燃焼性を高めることができる。
【0052】
そうしてエンジン水温に応じて点火時期を変更するために、まず、センタープラグ16による点火時期をエンジンEの負荷及び回転数に応じて予めマップ(図示せず)に設定しておき、これを基準としてサイドプラグ18の点火時期は、図10(a)に一例を示すように、エンジン水温の低い(40°C未満の)ときには進角側に、また、暖機後(エンジン水温が60°C以上)は遅角側に制御するようにすればよい。
【0053】
尚、同図においては2つの点火プラグ16,18の位相差を5°CAに設定しているが、これは一例に過ぎない。位相差はエンジンEの運転状態に応じて変更することもできる。また、同図(b)に示すように、サイドプラグ18の点火時期をエンジン水温の上昇に応じて徐々に遅角させるように設定することもできる。反対に、エンジンEの冷気時にサイドプラグ18の点火時期を進角させ、暖機後は遅角させるだけの2段切替とすることも可能である。
【0054】
そのようなスワール生成領域(S)における点火制御に対して、それ以外の運転領域では基本的にはセンタープラグ16を優先して混合気に点火し、補助的にサイドプラグ18によっても点火する、という一般的な位相差制御を行う。すなわち、前記ステップS2においてNO、即ちスワール生成領域(S)にないと判定して進んだステップS8では、エンジン回転数が1500〜5500rpmにあるかどうか判定し、YESであれば前記ステップS7に進んでセンタープラグ16優先の点火制御を実行し、リターンする。
【0055】
一方、前記ステップS8においてNO、即ちエンジン回転数が1500rpm未満であるか、或いは5500rpm以上であると判定したときにはステップS9に進み、今度はエンジン負荷が所定値未満か否か判定して、YESであれば前記ステップS7に進む一方、判定がNO、即ちエンジンEが図4に示す高負荷低回転領域(P1)か高負荷高回転領域(P2)かのいずれかにあるときには、センタープラグ16のみの点火として(ステップS10)リターンする。
【0056】
こうしてセンタープラグ16のみの点火とするのは、サイドプラグ18の過熱による弊害を防止するためである。上述したようにサイドプラグ18は隣接するシリンダC,C間に2つずつ配設されていて(図3を参照)、構造上、冷却水が流れ難いことから、過熱しやすい。そして、例えば前記高負荷高回転領域(P2)では燃焼室5の温度が非常に高くなるので、過熱したサイドプラグ18が混合気の自着火(プレイグニッション)を誘発する虞れがある。
【0057】
また、前記高負荷低回転領域(P1)においても発熱量が多くなるとともに、圧縮行程においてシリンダC内壁面からの熱伝導時間が長くなることから、筒内温度が上昇しやすく、このときにもサイドプラグ18が自着火(プレイグニッション)を誘発する虞れがある。そこで、それらの領域(P1,P2)においてはセンタープラグ16のみを点火作動させるようにして、サイドプラグ18の過熱を未然に防止することにより、プレイグニッションを阻止することができる。
【0058】
前記図7の制御フローには、エンジンEの冷機時のスワール生成領域(S)において、サイドプラグ18をセンタープラグ16寄りも進角側で点火作動させる一方、暖機後はセンタープラグ16をサイドプラグ18と同時に、或いはこれよりも進角側で点火作動させる、という点火時期制御の手順が示されており、これを実行するECU20によって、特許請求の範囲に記載の点火時期制御手段が構成される。
【0059】
この実施形態の点火時期制御手段は、エンジンEの半暖機状態ではセンタープラグ16及びサイドプラグ18を同時に点火作動させるようにしている。また、暖機後の高負荷低回転及び高負荷高回転領域(P1,P2)においては、センタープラグ16のみを点火作動させるようにしており、換言すれば、エンジン回転数が1500〜5500rpmの範囲では、エンジンEの負荷状態によらずセンタープラグ16をサイドプラグ18よりも進角側で点火作動させるようにしている。
【0060】
したがって、この実施形態に係る火花点火式エンジンの点火制御装置によると、まず、エンジン暖機後においては、基本的にセンタープラグ16により混合気へ点火するとともに、補助的にサイドプラグ18によっても点火することで、燃焼期間を短縮し出力の向上や燃費の低減を図ることができる。この際、燃焼室5の中央から周縁に向かう火炎伝播の途中、適切なタイミングでサイドプラグ18による点火が行われ、ノッキングの抑制も図られる。
【0061】
一方、エンジン冷機時においてはサイドプラグ18による点火が先に行われ、その後にセンタープラグ16による点火が行われる。サイドプラグ18は、直噴エンジンに特有のシリンダC内壁面への燃料の付着を考慮し、この付着燃料Faが気化しつつスワール流により搬送されて濃混合気Mを形成するような(図6を参照)、スワール流下流側の周縁部に配設されているから、このサイドプラグ18を優先的に点火作動させることによって、エンジン冷機時の着火性及び燃焼性を確保することができる。
【0062】
また、その冷機時からエンジンEの暖機が進行するのに連れて、徐々にセンター及びサイドプラグ16,18の点火時期を変更することにより、暖機の進行に伴い変化する燃焼室5の空燃比分布に対し最適な点火制御を行って、混合気への着火性及びその燃焼性を最大限に高めることができる。
【0063】
さらに、隣接するシリンダC,C間に配置されたサイドプラグ18の冷却が難しいことを考慮して、エンジン暖機後の高負荷低回転、及び高負荷高回転領域(P1,P2)においてはセンタープラグ16のみの点火とし、サイドプラグ18の過熱を防止するようにしており、このことによってプレイグニッションも未然に防止することができる。
【0064】
−その他の実施形態−
尚、本発明の構成は前記実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば前記実施形態においてTSCV12は、分岐通路10aではなく、これに連通する吸気ポート6aに設けることもできる。また、スワール流を生成、強化するためにTSCV12を閉じる必要はなく、これを閉じ気味にして流路抵抗を大きくするだけでもよい。
【0065】
さらに、スワール生成手段としてTSCV12は必須のものではなく、例えばいずれか一方の吸気弁8のリフトを停止したり、そのリフト量を小さくすることによってもスワール流を生成、強化することができる。そのような可変機構を用いずに所謂スワールポートやタンジェンシャルポートのように、スワール流の生成を助けるようなポート形状とすることも可能である。
【0066】
また、本発明を適用するエンジンはツインプラグのものに限らず、センタープラグ16の他に2本のサイドプラグを備えたものであってもよい。また、エンジンは4バルブのものに限らず、例えば排気ポートが1つの3バルブエンジンであってもよい。この場合、サイドプラグ18の配置は前記実施形態のものとは異なるものとなり、冷却水によって十分に冷却可能な位置であれば、図4の領域(P1,P2)のいずれかにおいてセンター及びサイドプラグ16,18による2点点火とすることも可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上、説明したように本発明に係る点火制御装置は、火花点火式エンジンの冷機時における着火性及び燃焼性を確保することができるので、特に自動車用エンジンに適用して有用である。
【符号の説明】
【0068】
E 火花点火式エンジン
C シリンダ(気筒)
c1 シリンダ軸線(気筒軸線)
5 燃焼室
5a 天井部
12 TSCV(スワール生成手段)
14 インジェクタ(燃料噴射弁)
16 センター点火プラグ
18 サイド点火プラグ
20 ECU(点火時期制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内の燃焼室にその周縁部の燃料噴射弁から燃料を噴射して、少なくとも、該燃焼室の天井部中央付近のセンター点火プラグによって点火するようにした火花点火式エンジンの点火制御装置であって、
前記燃焼室にスワール流を生成させるスワール生成手段が設けられ、
前記燃焼室の天井部において、気筒軸線に沿って見たときに前記燃料噴射弁とは反対側の燃焼室周縁部よりも前記スワール流の下流側に、サイド点火プラグが配設され、
エンジン冷機時の前記スワール流の生成される運転状態において、前記サイド点火プラグをセンター点火プラグよりも所定クランク角度進角側で点火作動させる点火時期制御手段を備えている、ことを特徴とする火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項2】
前記点火時期制御手段は、エンジンの暖機後は前記センター点火プラグを、前記サイド点火プラグと同時に、或いはこれよりも所定クランク角度進角側で点火作動させる、請求項1に記載の火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項3】
前記点火時期制御手段は、エンジンの暖機後は前記センター点火プラグのみを点火作動させる、請求項1に記載の火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項4】
前記点火時期制御手段は、エンジン暖機後の少なくとも高回転域を除いた所定回転数域において、前記センター点火プラグをサイド点火プラグよりも所定クランク角度進角側で点火作動させる、請求項2に記載の火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項5】
前記点火時期制御手段は、エンジン暖機後の高負荷高回転領域においては前記センター点火プラグのみを点火作動させる、請求項2又は4のいずれかに記載の火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項6】
前記点火時期制御手段は、エンジンの暖機途中で温度状態が所定以上になれば、前記センター点火プラグをサイド点火プラグと同時に点火作動させる、請求項1〜5のいずれか1つに記載の火花点火式エンジンの点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−255532(P2010−255532A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107012(P2009−107012)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】