説明

炭化水素油の水素化改質方法

【課題】 アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質方法において、当該炭化水素油のコーク劣化し易さを事前に把握でき、かつ後段でコーク劣化を引き起こすコーク前駆体を生成すると考えられる前段の水素化脱金属処理工程におけるコーク劣化を抑制する方法及び当該工程において使用する水素化脱金属触媒を提供する。
【解決手段】 アスファルテンを含む炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、その後段で、水素化脱硫処理、水素化分解処理等の水素化改質処理をするに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の水素化改質方法に関し、より詳しくは、アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質方法において、後段の水素化脱硫触媒や水素化分解触媒のコーク劣化を抑制し、寿命を延長するために、前段の水素化脱金属工程に特徴を有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製工業においては、原料であるアスファルテンを含有する炭化水素油を水素化改質するためには、一般に前段で水素化脱金属処理して、後段の水素化脱硫触媒や水素化分解触媒のメタル劣化を抑制する方法が採られる。ところが、原料のアスファルテンを含む炭化水素油の種類によっては、水素化脱金属工程において、必要以上に脱金属処理が進むことによりアスファルテンからコーク前駆体を生成し、後段の触媒のコーク劣化を誘発し、触媒寿命が短くなる場合が多々あることが判ってきた。しかしながら、どのような炭化水素油がコーク劣化を起こしやすいか、また、コーク劣化を回避する方法や指標がこれまで不明であったために、アスファルテン含有炭化水素油の水素化改質においては、日々の劣化状況を監視しつつ、試行錯誤的な運転管理を強いられているのが実状である。
【0003】
アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質処理において、メタル劣化を抑制するために水素化脱金属触媒に第三成分を加えて脱金属活性を向上する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、水素化脱金属工程を並列に配して運転途中で切替える方法(特許文献3)などが提案されている。
いずれの方法も、触媒の脱金属活性を高める、あるいは高い活性を維持するという方法であって、メタル劣化を抑制するという観点から考案されたものであり、メタル劣化には有効であると考えられるが、これらの方法では、コーク劣化を誘発するという観点からは十分な方法であるとは言えず、触媒寿命はいまだ満足できるものではなかった。
また、改質する原料炭化水素油の性状によって、メタル劣化しやすいもの、コーク劣化を起こしやすいものがあり、その原料の特性に応じた水素化改質方法を見出すことは、石油精製工業者にとって極めて重要な課題であった。
【0004】
【特許文献1】特開平9−276712号公報
【特許文献2】特開平9−248460号公報
【特許文献3】特開平4−224891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下でなされたもので、原料油であるアスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質方法において、原料油のコーク劣化し易さを事前に把握でき、かつ後段でコーク劣化を引き起こすコーク前駆体を生成すると考えられる、前段の水素化脱金属工程におけるアスファルテンの過剰な分解を抑制する方法及び当該工程に使用する水素化脱金属触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために、各種原料炭化水素油中のアスファルテンの物性測定、分析、解析及び水素化改質処理における各種触媒の組合せ、反応条件等について鋭意研究を重ねた結果、以下の事項を見出し、本発明を完成するに到った。
(a)原料炭化水素油中のアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度が低いものは、コーク劣化を起こしやすい原料である。従って、この温度よりも低い温度で原料炭化水素油を水素化脱金属工程に供給することがコーク劣化の抑制に有効である。
(b)水素化脱金属工程において、水素化脱金属処理に使用される触媒として、活性金属である周期律表第8,9及び10族に属する金属の担持量が金属酸化物として特定の範囲にあり且つ助触媒金属である周期律表第6族に属する金属の担持量が金属酸化物として特定の範囲にある触媒、好ましくは、さらに周期律表第5族に属する金属を担持した触媒を、水素化脱金属工程中の全触媒に対し、ある割合以上使用することで、コーク劣化を抑制できる。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化脱硫処理して水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法、
(2)アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化分解処理し、次いで水素化脱硫処理して水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法、
(3)アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化脱硫処理し、次いで水素化分解処理及び水素化脱硫処理を順次行い、前記炭化水素油を水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法、
(4)前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持してなる触媒である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法、
(5)前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法、
(6)前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にある触媒を、当該工程に用いられる全触媒中の含有量が、35体積%以上になるように用いることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法、
(7)前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる全触媒中に35体積%以上含有させる触媒が、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持すると共に、周期律表第5族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を担持した触媒である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法、
(8)担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあることを特徴とする炭化水素油の水素化脱金属触媒、及び
(9)担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあり、さらに周期律表第5族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を担持したことを特徴とする炭化水素油の水素化脱金属触媒、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質方法において、原料炭化水素油のコーク劣化し易さを事前に把握でき、かつ後段でコーク劣化を引き起こすコーク前駆体を生成すると考えられる前段の水素化脱金属工程におけるアスファルテンの過剰な分解を抑制する方法を提供することができる。また、アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質処理において、コーク劣化を最小化するための、原料炭化水素油の特性に応じた最適な触媒システムの設計と運転方法の設定が可能となる。このことは、水素化改質装置の稼働率向上、触媒費低減に繋がるため、石油精製工業の収益向上が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の炭化水素油に接触水素化改質方法には、以下に示す三つの方法がある。すなわち、アスファルテンを含む石油系炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、(1)水素化脱硫処理する、(2)水素化分解し、次いで水素化脱硫処理する、(3)水素化脱硫処理し、次いで水素化分解処理及び水素化脱硫処理を順次行う、ことにより、前記炭化水素油を水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、原料の炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給すること、及び担体に、周期律表第8,9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種の活性金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び助触媒金属として周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持してなる触媒を、当該工程に用いられる全触媒中の含有量が、35体積%以上になるように用いることを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法である。これら三つの方法の工程概略図を図1〜3に示す。
【0010】
項目別に順に説明する。
(1)原料炭化水素油
本発明においては、アスファルテンを1質量%以上含む炭化水素油が用いられる。アスファルテンの含有量については、水素化改質効果の観点から2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。また、上限については特に制限はないが、装置運転上、15質量%が好ましい。この炭化水素油としては、さらにバナジウム、ニッケルを10質量ppm以上、硫黄分を0.1質量%以上含有するものが、水素化改質効果が有効に発揮される点から有利である。
この炭化水素油としては、常圧残渣油、減圧残油、原油、抜頭原油、脱歴油、脱歴残油、分解油、分解残油及びそれらの混合油等の石油系炭化水素油が挙げられる。また、該炭化水素油は、石油系以外の石炭液化油、タールサンド油、オイルサンド油、オイルシェール油、オリノコタール等から得られる合成原油を含んでいてもよい。
【0011】
(2)前処理
塩分が多い場合は、脱塩処理して、塩化ナトリウム分として10質量ppm以下にすることが望ましい。固形物が多い場合は、10μm程度のフィルターを通すことが望ましい。
(3)加熱工程
熱交換器、加熱炉を通して所望温度まで昇温する。この昇温において、後段の水素化脱硫触媒や水素化分解触媒でのコーク劣化を抑制するためには、原料炭化水素油中のアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度を超えないような温度に抑える必要がある。
具体的には、示差熱分析において、熱天秤測定によるアスファルテンの質量減少が始まる温度が、アスファルテンの熱分解開始温度と推察される。また、この質量減少開始温度は、アスファルテンが熱分解してコーク劣化の原因となるコーク前駆対体を生成し始める温度でもあると推察される。そこで、後述する水素化脱金属工程に原料炭化水素油を供給するための加熱工程においては、上記熱天秤測定によるアスファルテンの1%質量減少温度を超えないで、できるだけ高い温度まで昇温することが効果的である。より好ましくはアスファルテンの0.5%質量減少温度を超えないで、できるだけ高い温度まで昇温することである。
また、上記観点から、不対電子(ラジカル)が強い磁場中に置かれると特定の周波数のマイクロ波を吸収する性質を利用して、ESR(Electron Spin Resonance:電子スピン共鳴)測定によりアスファルテンの熱分解によるラジカル発生温度を測定し、当該ラジカル発生温度を超えない温度でできるだけ高い温度を水素化脱金属工程への原料炭化水素油の供給温度として調節することも有効である。
【0012】
(4)水素化脱金属工程
原料炭化水素油は、加圧昇温され水素と共に第1段の水素化脱金属工程にて水素化脱金属処理する。この工程は、一塔乃至複数塔の反応塔からなる。
この水素化脱金属工程に使用される触媒としては、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ又はセピオライト等の多孔質無機酸化物、天然鉱物等の担体に活性金属として、周期律表第8,9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種の活性金属を、触媒全量に基づき、金属酸化物として2質量%〜8質量%、好ましくは2質量%〜4質量%及び助触媒金属である周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%、好ましくは1質量%〜5質量%担持されたものが好ましい。具体的には、活性金属である周期律表第8,9及び10族に属する金属としては、ニッケル、コバルト及びロジウムがより好ましく、助触媒金属である周期律表第6族に属する金属としてはモリブデン及びタングステンがより好ましい。
また、助触媒金属担持による触媒表面積に対する被覆率を酸化物基準で5〜25%の範囲となるように担持したものが好ましい。
さらに、当該触媒を水素化脱金属工程中の全触媒の35体積%以上使用することが好ましい。その理由は、明らかではないが、活性金属の担持量が多い場合や助触媒金属の担持量が多い場合、触媒の水素化能を超えてアスファルテンを過度に分解するため、コーク前駆体の発生を促進するのではないかと考えられる。より好ましくは、60体積%以上使用することである。なお、この触媒と、残りの触媒は反応器に層状に充填してもよいし、混合して充填してもよい。この触媒は、平均細孔径10nm以上のものが好ましく、特に15〜20nmのものが好適である。なお、その残りの触媒は、一般の水素化脱金属触媒であればよく、前記担体に、前記活性金属を、酸化物として、3〜30質量%程度担持してなる平均細孔径10nm以上のものが好ましい。また、周期律表第5族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を前記の活性金属とともに触媒担体に酸化物として1〜4質量%担持してなる触媒を水素化脱金属工程の全触媒量に対し35体積%以上使用することがコーク劣化を抑制するためには好ましい。周期律表第5族に属する金属の中から選ばれる少なくとも1種の金属としては、バナジウム及びニオブが好ましい。バナジウム含有触媒がコーク劣化抑制に繋がる理由については、詳しいことは不明であるが、触媒に予め担持されたバナジウムは他の活性金属であるニッケル等と結合してバナジウム同士の結合力を強め、原料油中のバナジウムを低温で触媒細孔内に引寄せる効果があるのではないかと考えられている。これによって、原料油中のバナジウムを低温で吸着除去することと、触媒表面近傍に偏在して吸着する性質のあるバナジウムを細孔内部まで満遍なく吸着させることができる。このため、触媒細孔全体の水素化活性点が有効に機能してコーク前駆体の水素化改質が促進されるのではないと考察される。
水素化脱金属触媒は全工程で用いられる触媒全量に対して原料炭化水素油中のメタル濃度によって10〜50体積%使用するのがよい。
水素化脱金属工程の処理条件としては、水素分圧3〜20MPa・G、好ましくは10〜18MPa・G、水素/油比200〜2,000Nm3/kl、好ましくは400〜800Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10hr-1 、好ましくは0.3〜5hr-1 である。水素分圧、水素/油比は範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。 また、LHSVは逆に範囲を下回ると経済性が低下し、範囲を上回ると反応効率が低下する。
【0013】
(5)水素化脱硫工程
一括水素化脱金属処理された油は、又は、後述する一括水素化分解処理された油は、反応温度制御の必要がある場合には熱交換器により流体温度を低下させる。水素ガスクエンチや油クエンチにより反応温度制御が可能であれば、熱交換器は設置しないでそのまま水素化脱硫工程で一括水素化脱硫処理される。この工程は、一塔乃至複数塔の反応塔からなる。
この水素化脱硫工程に使用される触媒としては、通常の重質油用の水素化脱硫触媒でよい。即ち、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ゼオライトあるいはこれらの混合物の担体等に周期律表第5,6,8,9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも一種を、触媒全量に基づき、酸化物として3〜30質量%程度担持している平均細孔径8nm以上の触媒などであるが、特開平7−305077号公報、特開平5−98270号公報に開示されるようなアルミナ−リン担体、アルミナ−アルカリ土類金属化合物担体、アルミナ−チタニア担体、アルミナ−ジルコニア担体、アルミナ−ボリア担体等から選ばれる担体に周期律表第5,6,8,9及び10族に属する金属 の中から選ばれた少なくとも一種を担持してなる触媒であれば、灯軽油留分の改質効果が高いために好適である。
この工程における処理条件としては、反応温度300〜450℃、好ましくは300〜420℃、水素分圧3〜20MPa・G、好ましくは10〜18MPa・G、水素/油比200〜2,000Nm3/kl、好ましくは400〜800Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10 hr-1 、好ましくは0.2〜2hr-1である。
反応温度、水素分圧、水素/油比は範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に範囲を下回ると経済性が低下し、範囲を上回ると反応効率が低下する。また、水素化分解工程と水素化脱硫工程の順序については、下記(6)に示すような水素化機能の高い触媒を用いる場合には、その処理の順序を変えてもよい。さらに、水素化脱硫工程、水素化分解工程の後段に、再度水素化脱硫工程を配してもよい。
【0014】
(6)水素化分解工程
一括水素化脱金属処理された油は、又は前述の一括水素化脱硫処理された油は、次に水素化分解工程で一括水素化分解処理される。 この工程は、一塔乃至複数塔の反応塔からなる。
この水素化分解工程に使用される触媒としては、特許第3341011号公報に開示されている技術によって製造されたものを使用することができる。すなわち、メソポア内表面にチタン族金属酸化物超微粒子を複合化させたゼオライトからなり、該ゼオライト中に含まれるアルミニウムとケイ素の原子比[Al]/[Si]が0.01〜0.1、好ましくは0.03〜0.08の範囲にある修飾ゼオライトを担体として用い、原料炭化水素油が軽質な場合はこの修飾ゼオライトに10〜50質量%のアルミナ等を添加して活性を制御してもよい。この担体に水素化活性金属として、周期律表第6,8,9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種を担持したものであって、周期律表第6族に属する金属としてはタングステン、モリブデンが好ましく、周期律表第8〜10族の金属はそれぞれ1種を用いてもよく、複数種の金属を組み合わせてもよいが、特に水素化活性が高く、かつ劣化が少ない点からニッケル−モリブデン,コバルト−モリブデン,ニッケル−タングステン,ニッケル−コバルト−モリブデンの組合せが好適である。
この水素化分解工程における処理条件としては、反応温度300〜450℃、好ましくは360〜420℃、水素分圧3〜20MPa、好ましくは10〜18MPa、水素/油比200〜2,000Nm3/kl、好ましくは400〜800Nm3/kl、LHSV(液時空間速度)0.1〜10hr-1、好ましくは0.2〜2hr-1である。
反応温度、水素分圧、水素/油比は範囲を下回ると反応効率が低下し、範囲を上回ると経済性が低下するためである。また、LHSVは逆に範囲を下回ると経済性が低下し、範囲を上回ると反応効率が低下する。
【0015】
(7)分離工程
このように、一括水素化脱金属処理、一括水素化分解処理、一括水素化脱硫処理された油は、常法に従って分離工程に導入され、複数の分離槽で処理することによって気体部分と液体部分に分離される。このうち、気体部分は、硫化水素、アンモニア等を除去してから水素純度向上の処理等を行なった後に、新しい供給ガスと一緒になった後に、反応工程に再循環される。
分離工程で得られた液体部分は、ストリッパーと呼ばれる常圧分離塔に導入され、脱硫処理に付随する硫化水素を取り除く他、生成油中から軽質な留分を分離する。
(8)反応塔の形式
本発明における、一括水素化脱金属処理、一括水素化分解処理、一括水素化脱硫処理における反応装置の型式は特に制限がなく、例えば、固定床、移動床、流動床、沸騰床、スラリー床等を採用できる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0017】
原料炭化水素油として、アラビアンヘビー常圧残油及びラタウィ常圧残油を用いた。第1表にその性状を示す。なお、残油中に含まれるアスファルテン濃度は、国際規格IP143に規定する方法により測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
アラビアンヘビー常圧残油及びラタウィ常圧残油に含有されているそれぞれのアスファルテン3mgを島津製示差熱分析装置(TG−DTA)にて、窒素ガス気流(500ml毎分)下で10℃毎分の速度で昇温しつつ、質量変化を測定した。第2表に、測定結果を示す。
【0020】
【表2】

【0021】
示差熱分析において、アスファルテンの質量減少が始まる温度が、アスファルテンの熱分解開始温度と推察される。また、この質量減少開始温度は、アスファルテンが熱分解してコーク劣化の原因となるコーク前駆対体を生成し始める温度でもあると推察される。第2表より、ラタウィ常圧残油は、アラビアンヘビー常圧残油よりも、約40℃低い温度でアスファルテンが熱分解して、コーク前駆体を生成することが予想される。
反応に使用した触媒の性状を第3表に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
なお、水素化分解触媒Dは、特許第3341011号公報の実施例1〜5に記載された方法で調製した担体に、コバルト(Co)及びモリブデン(Mo)を担持した。
【0024】
〔比較例1〕
第3表に示す水素化脱金属触媒C28体積%,水素化分解触媒D33体積%および水素化脱硫触媒E39体積%をこの順序で100mlの反応管に充填して、この順序で3本直列に連結して反応を行った。原料炭化水素油としては、第1表に示すアラビアンヘビー常圧残油とラタウィ常圧残油を供給し、水素分圧13.2MPa・G、水素/油比800Nm3/kl、反応温度は水素化脱金属触媒Cが380℃、水素化分解触媒Dが400℃、水素化脱硫触媒Eは、生成油の硫黄分が0.7質量%になるように調整した。LHSVは、0.18毎時でそれぞれ5,000時間通油した。図4に、アラビアンヘビー常圧残油とラタウィ常圧残油の、生成油硫黄分0.7質量%を得るために必要な水素化脱硫触媒Eの温度の変化を、触媒上の蓄積金属分(Metal On Catalyst: 以下MOCという。)に対してプロットした図を示す。熱天秤測定によるアスファルテンの1質量%減少温度より高い温度で水素化脱金属処理工程にラタウィ常圧残油を供給した結果は、熱天秤測定によるアスファルテンの1質量%減少温度より低い温度で水素化脱金属処理工程にアラビアンヘビー常圧残油を供給した結果に比べて、著しいコーク劣化が起っていることが図4より明らかである。このことから、原料炭化水素油中のアスファルテンの熱天秤で測定した1重量%減少温度が低いものは、コーク劣化しやすい原料であることが明らかである。
【0025】
〔実施例1〜5及び比較例2,3〕
コーク劣化を起こし易い原料炭化水素油のコーク劣化を抑制する方法の例を以下に示す。
第3表に示す水素化脱金属触媒A,B,C又はその混合物と水素化脱硫触媒Eを第4表に示す割合で、触媒量300mlの反応管に充填し、原料炭化水素油としては、第1表に示すラタウィ常圧残油を供給し、水素分圧13.2MPa・G、水素/油比800Nm3/kl、反応温度は水素化脱金属触媒が340℃、水素化脱硫触媒Eは380℃に維持して、LHSVは、0.15毎時でそれぞれ720時間通油した。
【0026】
【表4】

【0027】
図5に生成油中の硫黄濃度の変化を示す。図5より、比較例2,3では、初期の劣化が見られるのに対し、実施例1〜5では、コークに起因すると考えられる初期劣化が抑制されている。
これらのことから、以下の点が明らかとなった。
(a)水素化脱金属処理工程において、原料炭化水素油中のアスファルテンの熱分解開始温度よりも低い温度で原料炭化水素油を供給することはコーク劣化の抑制に有効である。
(b)水素化脱金属処理工程において、水素化脱金属処理に使用される触媒として活性金属の担持量が金属酸化物として2質量%〜8質量%であり,助触媒金属の担持量が金属酸化物として0.5質量%〜5質量%未満であって、さらにバナジウムを担持した触媒を水素化脱金属処理工程中の全触媒の35体積%以上使用することで、コーク劣化を抑制することができる。
これまで、アスファルテンを含有する炭化水素油の水素化改質反応においては、コーク劣化は反応初期において特に顕著に現れると考えられていたが、実施例に見られるように、反応初期においてコーク劣化が抑制されていることは、驚くべき結果である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を実施するための工程概略図の一つである(第一発明)。
【図2】本発明を実施するための工程概略図の一つである(第二発明)。
【図3】本発明を実施するための工程概略図の一つである(第三発明)。
【図4】比較例1におけるアラビアンヘビー常圧残油とラタウィ常圧残油の劣化挙動比較図である。
【図5】実施例1〜5、比較例2,3におけるラタウィ常圧残油水素化改質処理時の生成油の硫黄分の経時変化図である。
【符号の説明】
【0029】
1:水素化脱金属処理工程
2:水素化脱硫処理工程
3:水素化分解処理工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化脱硫処理して水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項2】
アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化分解処理し、次いで水素化脱硫処理して水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項3】
アスファルテンを含む炭化水素油の水素化改質方法であって、前記炭化水素油を水素化脱金属処理したのち、水素化脱硫処理し、次いで水素化分解処理及び水素化脱硫処理を順次行い、前記炭化水素油を水素化改質するに際し、前記水素化脱金属処理工程において、前記炭化水素油を、その中に含まれるアスファルテンの熱天秤測定による1質量%減少温度よりも低い温度で、当該工程に供給することを特徴とする、炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項4】
前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持してなる触媒である請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項5】
前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項6】
前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる触媒が、担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にある触媒を、当該工程に用いられる全触媒中の含有量が、35体積%以上になるように用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項7】
前記水素化脱金属処理工程において、当該工程に用いられる全触媒中に35体積%以上含有させる触媒が、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持すると共に、さらに周期律表第5族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を担持した触媒である請求項1〜6のいずれかに記載の炭化水素油の水素化改質方法。
【請求項8】
担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあることを特徴とする炭化水素油の水素化脱金属触媒。
【請求項9】
担体に、周期律表第8、9及び10族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として2質量%〜8質量%及び周期律表第6族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属が金属酸化物として0.5質量%〜5質量%担持され、かつ触媒表面積に対する周期律表第6族に属する金属の被覆率が酸化物基準で5〜25%の範囲にあり、さらに周期律表第5族に属する金属の中から選ばれた少なくとも1種の金属を担持したことを特徴とする炭化水素油の水素化脱金属触媒。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−143917(P2008−143917A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197940(P2004−197940)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】