説明

炭化珪素ショットキダイオード

【課題】本発明の目的は耐圧変動が抑制された炭化珪素ショットキダイオードを提供する。
【解決手段】本発明の炭化珪素ショットキダイオードは、炭化珪素半導体基板1の表面に形成されるショットキ電極2と、その周囲を取囲むべく、炭化珪素半導体基板の表面に不純物が導入されて成るガードリング3と、該ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように前記炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜4と、を備え、ショットキ電極は炭化珪素半導体基板の表面上においてガードリングに接し、かつ絶縁膜上にも延在し、ガードリングの幅寸法比を10、ショットキ電極がガードリングに接する幅寸法比を1、絶縁膜上に延在するショットキ電極の先端からガードリングの外周端までの離間距離比をXとするとき、離間距離比Xは、3〜9内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素ショットキダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素ショットキダイオードが、特許文献1に半導体装置として開示されている。この炭化珪素ショットキダイオードは、特許文献1の図1に示すようにn型の炭化珪素半導体基板の裏面上および裏面上に電極を備えており、表面上の電極は従来から知られたショットキ電極である。
【0003】
ショットキ電極が形成される炭化珪素半導体基板には、当該ショットキ電極の周囲を取囲むように不純物が導入されており、この不純物の導入によってガードリング(P型不純物領域3)が形成されている。
【0004】
前記ショットキ電極は、端部が炭化珪素半導体基板の表面上においてガードリングに接するように形成され、耐圧向上が図られている。
【0005】
また炭化珪素半導体基板の表面上には、ショットキ電極の周囲に絶縁膜として酸化膜が形成されている。この酸化膜は、いわゆるパッシベーションであり、このパッシベーションによって空乏層の広がりを制御できるとともにpn接合面を保護することができ、もって外部から汚染物質の進入を防止して特性の劣化防止を図ることができる。
【0006】
ところでパッシベーションとショットキ電極との位置関係は、特許文献1に示す以外に例えば特許文献2に示す配置構造も考えられる(本願の図3参照)。
【0007】
特許文献2の炭化珪素ショットキダイオードは、図3に示すように特許文献1の炭化珪素ショットキダイオードと異なり、ショットキ電極の端が絶縁膜上にかかるように配置されており、換言すれば絶縁膜の端がショットキ電極およびガードリング間に挟持されている。
【0008】
このように、絶縁膜がガードリングとショットキ電極との間で挟持されるように配置することで、耐圧の向上が確認されている。
【特許文献1】特開2005−79339
【特許文献2】特開2006−324585
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記した図3に示す炭化珪素ショットキダイオードは、時に耐圧変動を招くことがある。しかし、この耐圧変動を引起こす原因は解明されていない。
そこで発明者は、耐圧変動を招き難い炭化珪素ショットキダイオードの条件を求めるべく、実験を繰り返した。
【0010】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐圧変動が抑制し得る炭化珪素ショットキダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、炭化珪素半導体基板の表面に形成されるショットキ電極と、該ショットキ電極の周囲を取囲むべく、炭化珪素半導体基板の表面に不純物が導入されて成るガードリングと、該ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように前記炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜と、を備え、前記ショットキ電極は前記炭化珪素半導体基板の表面上において前記ガードリングに接し、かつ前記絶縁膜上にも延在する炭化珪素ショットキダイオードにおいて、前記ガードリングの幅寸法比を10、前記ショットキ電極が前記ガードリングに接する幅寸法比を1、前記絶縁膜上に延在する前記ショットキ電極の先端から前記ガードリングの外周端までの離間距離比をXとするとき、前記離間距離比Xは、3〜9内に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の本発明の炭化珪素ショットキダイオードは、ガードリングの幅寸法比を10とし、ショットキ電極がガードリングに接する幅寸法比を1とし、絶縁膜上に延在するショットキ電極の先端からガードリングの外周端までの離間距離比をXとし、該離間距離比Xを3〜9内に設定する。これにより、絶縁膜の膜厚の違いによる耐圧変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明するが、以下の説明では、実施の形態に用いる図面について同一の構成要素は同一の符号を付し、かつ重複する説明は可能な限り省略する。
【実施例1】
【0014】
本発明の炭化珪素ショットキダイオード10は、図2に示すようにn型の炭化珪素半導体基板1の表面に形成されるアノードのためのショットキ電極2と、該ショットキ電極2の周囲を取囲むべく、炭化珪素半導体基板1の表面にp型のガードリング3と、該ガードリング3上に延在すると共に当該ガードリング3の周囲を取囲むように炭化珪素半導体基板1の表面上に延在する絶縁膜4と、炭化珪素半導体基板1の裏面に形成されるカソードのための裏面電極5と、ショットキ電極2上に形成される半田とを備えており、ショットキ電極2は炭化珪素半導体基板1の表面上においてガードリング3に接し、かつ絶縁膜4上にも延在するように形成されている。
【0015】
炭化珪素半導体基板1は、窒素濃度5E18cm−3で示される濃度のバルク基板11と、該バルク基板上に1E16cm−3で示される濃度でエピタキシャル成長させて成るエピタキシャル層12とを有しており、バルク基板11は例えば350μmの厚さ寸法を有し、エピタキシャル層12は例えば10μmの厚さ寸法を有している。
【0016】
炭化珪素半導体基板1のエピタキシャル層12の表面近傍には、ガードリング3が形成されている。このガードリング3は、エピタキシャル層12の表面に所定形状のマスクを施した後、p型の不純物として例えばAlを30−400keVの条件で多段にイオン注入することで、平面から見て矩形を基調とするリング状に形成される。尚、前記した注入条件により、ガードリング3は、2E17cm−3〜5E17cm−3の不純物濃度に設定される。
【0017】
ガードリング3は、そのリング内径が300μmを有するように形成されており、リングを成す線を断面で見ると、その形状は矩形状であり、例えば横幅寸法が100μmおよび表面からの深さ寸法が0.5μmとなるように形成されている。
【0018】
炭化珪素半導体基板1のエピタキシャル層12の表面には、ショットキ電極2が形成されている。詳細にはショットキ電極2はガードリング3によって規定されるリング形状の内側全面に亘って延在しており、その端部はガードリング3の内側において該ガードリング3の一部に接して更に絶縁膜4上に延在する。
【0019】
ところで、ショットキ電極2は、複数種類の金属を用いた積層構造であり、例えばチタンを0.5μmの厚さ寸法で蒸着させた後、その上に順にアルミを3μmの厚さ寸法で蒸着させて形成される。
【0020】
炭化珪素半導体基板1のエピタキシャル層12の表面上に形成される絶縁膜4は、積層構造であり、例えば下から順に熱酸化膜を0.06μmの厚さ寸法およびPSGを1μmの厚さ寸法で形成後、更にその上に窒化膜を0.1μmの厚さ寸法で形成する。
【0021】
熱酸化膜は、ドライ酸化膜(乾燥酸化膜)であり、当該乾燥酸化膜の形成後にNO又はNOを用いてアニールを施してもよい。
【0022】
また、熱酸化膜上に形成される窒化膜は、熱酸化膜の端から約4μm内側で終端するように形成されている(図4参照)。
【0023】
前記した構造の絶縁膜4は、図2に示すようにガードリング3の周囲を取囲むように延在しており、またガードリング3の外周側、すなわちガードリング3外側の当該ガードリング3が形成されないエピタキシャル層12の表面上にも延在するように形成されている。その延在する長さ寸法は、ガードリング3の外周から例えば50μmに設定されている。
【0024】
また、ガードリング3の内側表面の例えば10μmには絶縁膜4が延在しておらず、この部位にはショットキ電極2の端部が延在している。ガードリング3の内側表面に延在するショットキ電極2により、ガードリング3およびショットキ電極2が電気的に接続される。
【0025】
ショットキ電極2は、ガードリング3の内側表面から該ガードリング3の表面上に形成された絶縁膜4上にも延在しており、絶縁膜4上に延在するショットキ電極2の先端からガードリングの外周端までの離間距離比をX、ショットキ電極2がガードリング3の内側表面において接する幅寸法比を1、ガードリングの横幅寸法比(リングを成す線の横幅寸法比)を10とするとき、離間距離比は3〜9となるように設定されている。
【0026】
ここで前記した構成の炭化珪素ショットキダイオード10の動作を説明する。
先ず、裏面電極5を接地し、ショットキ電極2に正電圧を印加すると、順バイアスとなり、ショットキ電極2から裏面電極5方向へ電流が流れる。
【0027】
一方、ショットキ電極2を接地し、裏面電極5に正電圧を印加した場合、ショットキ電極2から印加される電圧により、ガードリング3電圧を印加すると、逆バイアスとなり遮断特性を示す。この遮断特性が当該炭化珪素ショットキダイオード10の耐圧であり、炭化珪素ショットキダイオード10の性能指標の一つとして用いられている。
【0028】
ところで、前記した耐圧の変動幅は一定であることが指標として好ましい。つまり、炭化珪素ショットキダイオード10を複数作成すると、炭化珪素および絶縁膜の界面の固定電荷に差を招き易く、このような場合であっても炭化珪素ショットキダイオード10の耐圧の乖離幅(乖離値)が狭いことが一定の品質を確保する上で重要となる。そこで発明者は実験を重ね各炭化珪素ショットキダイオード10における耐圧の乖離幅が小さくなる好適条件を見出した。
【0029】
次に、好適条件について図を用いて説明する。
図1(a)には、条件の異なる複数の半導体装置の耐圧特性がグラフに纏められており、図1(b)には、好適条件を説明するためのガードリング3周辺の拡大図が示されている。
【0030】
先ず、条件内容を説明する。
図1(b)に示すように、ガードリング3の幅寸法比を10とし、ショットキ電極2がガードリング3に接する幅寸法比を1とし、絶縁膜4上に延在するショットキ電極2の先端からガードリング3の外周端までの離間距離比をXとするとき、離間距離比Xが3〜9内に設定されている。この設定は、図1(a)に示す耐圧特性がグラフに基づいている。
【0031】
図1(a)に示すグラフは、絶縁膜4上に延在するショットキ電極2の先端からガードリングの外周端までの離間距離比と耐圧との関係を示すグラフであり、離間距離比を−4〜9まで1ずつ遷移させたときの耐圧の変動状態を纏めたものである。
【0032】
このグラフには、各離間距離比における複数の炭化珪素ショットキダイオード10の耐圧が示されており、各離間距離比における耐圧の最大値および最小値が棒グラフ(バー)によって示されており、各離間距離比における平均値が丸印で示されている。
【0033】
ところでグラフにおける離間距離比のマイナス表記は、ショットキ電極2がガードリング3の外周端よりも、外側に延在していることを示している。
【0034】
例えば本実施例においては、離間距離比が−1ときとき、ショットキ電極2がガードリング3の外周端より10μm外側まで延在しており、離間距離比が−4のとき、ショットキ電極2がガードリング3の外周端より40μm外側まで延在していることを示している。
【0035】
尚、図1(a)に示すグラフにおいて、いずれの炭化珪素ショットキダイオード10も絶縁膜4がガードリング3の外周端より50μm外側まで延在している。
【0036】
図1(a)のグラフで明らかなように、離間距離比を3〜9に設定すると、耐圧変動の乖離幅が小さく、それ以下に離間距離比を設定すると耐圧変動の乖離幅が大きくなる。
【0037】
尚、図1(a)のグラフに示されていないが、離間距離比が10のとき、すなわちショットキ電極2の端部がガードリング3上に延在しないとき、耐圧は300V程度しか得ることができず、これについては別途行った実験で確認されている。
【0038】
ところで発明者は、離間距離比を3〜9に設定すると、耐圧変動の乖離幅が小さくなることについて、以下のように考えている。
【0039】
ショットキ電極2端部が外側になるにつれて絶縁膜4に加わる電界が強くなるが、絶縁膜4自体の耐圧に起因しているのではないかと考えた。これは、別途行った絶縁膜4自体の耐圧を求めた実験に基づいている。
【0040】
この実験結果は図5に示すグラフに纏められており、当該グラフから明らかなように絶縁膜4自体に450V〜650Vと耐圧にバラツキがある。
【0041】
そこで、ショットキ電極2端部が外側になるにつれ、すなわち離間距離比が3未満になるに従い、ショットキ電極2が絶縁膜4の影響を受け易く、もって耐圧がバラツキ易いのではないかと発明者は考えている。
【0042】
以上述べたように、本発明の炭化珪素ショットキダイオード10は、ガードリング3の幅寸法比を10とし、ショットキ電極2がガードリング3に接する幅寸法比を1とし、絶縁膜4上に延在するショットキ電極2の先端からガードリングの外周端までの離間距離比をXとし、該離間距離比Xを3〜9内に設定することにより、耐圧変動を抑制することができ、もって耐圧特性の安定した炭化珪素ショットキダイオードを提供することができる。
【実施例2】
【0043】
次に、前記した実施例1の条件下において、絶縁膜4を構成するPSGの膜厚によって耐圧変動があるのではないかと考え、PSGの膜厚を遷移させたときの耐圧を求め、これを図6に示すグラフに纏めた。
【0044】
図6のグラフには、絶縁膜4を構成するPSGの膜厚を1μmのときの耐圧(白丸印の折れ線グラフ)と、2μmのときの耐圧(黒丸印の折れ線グラフ)とが示されており、それぞれの膜厚において前記した実施例1と同様に絶縁膜4上に延在するショットキ電極2の先端からガードリングの外周端までの離間距離比と耐圧との関係を示すグラフであり、離間距離比を−4〜9まで1ずつ遷移させたときの耐圧の変動状態を纏めたものである。
【0045】
当該グラフから明らかなように、PSGが1μmのときより2μmのとき乖離幅が狭く、更に離間距離比Xが4〜9において特に乖離幅が狭く耐圧が高いことが確認されている。尚、この乖離幅と耐圧との傾向について、発明者はPSGの膜厚が薄いと、当該PSGを含む絶縁膜4において耐圧バラツキを誘引し易いのではないかと考えている。また、発明者は、少なくともPSGの膜厚が1μmより厚く、2μm以下の厚さ寸法までの範囲において同様な特性を得ることを確認している。
【0046】
以上述べたいように、PSGの膜厚を1μmより厚く2μm以下にすると共に、離間距離比Xを4〜9に設定することで、耐圧の乖離幅が狭く耐圧が高い炭化珪素ショットキダイオードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)は本発明の離間距離比の変動と耐圧の関係を示すグラフであり、(b)は離間距離比を示す断面図である。
【図2】本発明の炭化珪素ショットキダイオードの構造を示す断面図である。
【図3】従来の炭化珪素ショットキダイオードの構造を示す断面図である。
【図4】絶縁膜の詳細構造を示す断面図である。
【図5】絶縁膜における耐圧のバラツキを示すグラフである(実施例1)。
【図6】絶縁膜を構成するPSGの膜厚が1μmおよび2μmのときの離間距離比の変動と耐圧の関係を示すグラフである(実施例2)。
【符号の説明】
【0048】
1 炭化珪素半導体基板
2 ショットキ電極
3 ガードリング
4 絶縁膜
5 裏面電極
6 半田
10 炭化珪素ショットキダイオード
11 バルク基板
12 エピタキシャル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素半導体基板の表面に形成されるショットキ電極と、該ショットキ電極の周囲を取囲むべく、炭化珪素半導体基板の表面に不純物が導入されて成るガードリングと、該ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように前記炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜と、を備え、前記ショットキ電極は前記炭化珪素半導体基板の表面上において前記ガードリングに接し、かつ前記絶縁膜上にも延在する炭化珪素ショットキダイオードにおいて、
前記ガードリングの幅寸法比を10、前記ショットキ電極が前記ガードリングに接する幅寸法比を1、前記絶縁膜上に延在する前記ショットキ電極の先端から前記ガードリングの外周端までの離間距離比をXとするとき、
前記離間距離比Xは、3〜9内に設定されていることを特徴とする炭化珪素ショットキダイオード。
【請求項2】
前記絶縁膜は、下から熱酸化膜、PSGおよび窒化膜の順に積層された構造であることを特徴とする請求項1記載の炭化珪素ショットキダイオード。
【請求項3】
前記熱酸化膜は乾燥酸素で形成されていることを特徴とする請求項2記載の炭化珪素ショットキダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−235171(P2012−235171A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193629(P2012−193629)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2008−69218(P2008−69218)の分割
【原出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】