説明

炭化珪素単結晶の製造方法

【課題】 準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法において、炭化珪素単結晶の成長速度を制御し、炭化珪素単結晶を安定して製造できる方法を提供する。
【解決手段】
炭化珪素単結晶材料20の表面上に炭化珪素単結晶を成長させる準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法であって、配置工程S2では、炭化珪素単結晶材料20又は炭素珪素供給材料40の何れか一方の材料を珪素材料60の上側に配置し、一方の材料の位置を固定し、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40との間に珪素材料60を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素単結晶の製造方法として、準安定溶媒エピタキシー法(Metastable Solvent Epitaxy Method:MSE法)を用いた方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。MSE法を用いて炭化珪素単結晶を製造する場合、炭化珪素単結晶からなる単結晶基板と、炭化珪素多結晶からなる多結晶基板と、珪素からなる珪素基板とを準備する。耐熱性を有する容器の底部に、多結晶基板、珪素基板、単結晶基板を順に重ねて配置する。材料が配置された容器を珪素基板が溶融する温度以上の温度で加熱する。加熱により珪素基板が溶融して珪素溶融層へと変化する。この珪素溶融層に単結晶基板及び多結晶基板から炭素が溶解する。多結晶基板の方が単結晶基板よりも化学ポテンシャルが大きいため、珪素溶融層に炭素の濃度勾配が生じる。この濃度勾配を駆動力として、珪素溶融層に溶解した炭素は、多結晶基板側から単結晶基板側へ移動する。単結晶基板側へ移動した炭素は、単結晶基板上で珪素と結合する。これにより、単結晶基板の表面上に炭化珪素単結晶が析出し、炭化珪素単結晶が成長する。このようにして、炭化珪素単結晶が製造できる。
【0003】
MSE法によれば、炭化珪素単結晶の成長は、濃度勾配を駆動力とし、炭化珪素単結晶の成長が温度勾配に依存しない。従って、加熱温度を場所によって調整する必要がある昇華再結晶法に比べると、プロセス制御が容易になるとともに、品質の良好な炭化珪素単結晶が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―230946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の製造方法を用いて、炭化珪素単結晶を製造した場合、炭化珪素単結晶の成長速度が不安定であり、製造された炭化珪素単結晶の成長高さが、製造する度に異なることがあった。すなわち、炭化珪素単結晶の成長時間が一定であっても、炭化珪素単結晶の成長高さにばらつきが生じることがあった。成長高さにばらつきが生じる炭化珪素単結晶の製造方法は、実用上問題がある。このため、炭化珪素単結晶の成長速度を制御し、炭化珪素単結晶を安定的に製造できる方法が求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法において、炭化珪素単結晶の成長速度を制御し、炭化珪素単結晶を安定して製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意研究を行った結果、珪素溶融層の重力方向における上側に配置される材料の重量によって、珪素溶融層の厚みが変化し、成長速度が変化することが分かった。そこで、本発明者は、上述した課題を解決するため、以下の特徴を有する本発明を完成させた。
【0008】
本発明の特徴は、炭化珪素単結晶からなる炭化珪素単結晶材料(炭化珪素単結晶材料20)と、前記炭化珪素単結晶材料よりも化学ポテンシャルが大きく、炭化珪素からなる炭素珪素供給材料(炭素珪素供給材料40)と、珪素からなる珪素材料(珪素材料60)と、を準備する準備工程(準備工程S1)と、前記炭化珪素単結晶材料、前記炭素珪素供給材料及び前記珪素材料を容器に配置する配置工程(配置工程S2)と、前記珪素材料が溶融する温度以上かつ前記珪素材料が沸騰する温度未満の温度で前記容器を加熱する加熱工程(加熱工程S3)と、を備え、前記炭化珪素単結晶材料の表面上に炭化珪素単結晶を成長させる準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法であって、前記配置工程では、前記炭化珪素単結晶材料又は前記炭素珪素供給材料の何れか一方の材料を前記珪素材料の上側に配置し、前記一方の材料の位置を固定し、前記炭化珪素単結晶材料と前記炭素珪素供給材料との間に前記珪素材料を介在させることを要旨とする。
【0009】
本発明の特徴によれば、炭化珪素単結晶材料又は炭素珪素供給材料の何れか一方の材料を珪素材料の上側に配置し、一方の材料の位置を固定する。例えば、炭素珪素供給材料が珪素材料の上側に配置された場合、炭素珪素供給材料の位置を固定する。このため、重力によって、珪素溶融層側(すなわち、下側)に向かう力が炭素珪素供給材料に働いても、炭素珪素供給材料は、珪素溶融層側に移動しない。従って、加熱工程によって珪素材料が溶融して珪素溶融層になっても、炭素珪素供給材料から珪素溶融層に加わる圧力が抑制される。さらに、炭素珪素供給材料が珪素溶融層に炭素と珪素とを供給することにより炭素珪素供給材料の重量が減少しても、珪素溶融層に加わる圧力の変化が抑制される。従って、炭素珪素供給材料の重量に起因した珪素溶融層の厚みの変化を抑制できる。珪素溶融層の厚みは成長速度に依存するため、珪素溶融層の厚みの変化を抑制することにより、炭化珪素単結晶の成長速度を制御できる。その結果、従来よりも炭化珪素単結晶を安定して製造することができる。
【0010】
炭化珪素単結晶材料を珪素材料の上側に配置した場合であっても同様に、炭化珪素単結晶材料から珪素溶融層に加わる圧力が抑制される。さらに、炭化珪素単結晶材料上に炭化珪素単結晶が成長することにより炭化珪素単結晶材料の重量が増加しても、珪素溶融層に加わる圧力の変化が抑制される。珪素溶融層に、炭化珪素単結晶材料の重量による圧力が加わることを抑制できる。従って、珪素溶融層の厚みの変化を抑制でき、炭化珪素単結晶の成長速度を制御できる。その結果、従来よりも炭化珪素単結晶を安定して製造することができる。
【0011】
前記配置工程では、前記一方の材料を前記容器に固定し、前記炭化珪素単結晶材料又は前記炭素珪素供給材料の前記一方の材料とは異なる他方の材料を前記一方の材料よりも前記容器の底部側に配置してもよい。
【0012】
前記炭素珪素供給材料は、炭化珪素多結晶からなってもよい。
【0013】
前記炭素珪素供給材料の炭素に対する珪素のモル比率は、1.00以上であってもよい。
【0014】
前記炭素珪素供給材料の相対密度は、95%より大きくてもよい。
【0015】
前記加熱工程において加熱した温度以上で前記容器を加熱し、前記珪素材料を蒸発させる珪素蒸発工程(珪素蒸発工程S4)を備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法において、珪素溶融層の厚みの減少を抑制し、炭化珪素単結晶を継続して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法に用いられる容器10の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る炭化珪素単結晶の製造装置及び炭化珪素単結晶の製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)炭化珪素単結晶の製造方法、(2)作用効果、(3)実施例、(4)その他実施形態、について説明する。
【0019】
以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【0020】
(1)炭化珪素単結晶の製造方法
本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。図2は、本実施形態に係る容器10の概略断面図である。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素単結晶の製造方法は、準備工程S1、配置工程S2、加熱工程S3及び珪素蒸発工程S4を備える。
【0022】
(1.1)準備工程S1
準備工程S1では、炭化珪素単結晶材料20、炭素珪素供給材料40及び珪素材料60を準備する。
【0023】
炭化珪素単結晶材料20は、平面20aを有する。炭化珪素単結晶材料20は、炭化珪素単結晶からなる。炭化珪素単結晶材料20として、例えば、6H型炭化珪素単結晶(6H−SiC単結晶)、4H型炭化珪素単結晶(4H−SiC単結晶)、3C型炭化珪素単結晶(3C−SiC単結晶)が挙げられる。炭化珪素単結晶材料20の形状は、例えば、円板形状又は円柱形状である。
【0024】
炭素珪素供給材料40は、平面40aを有する。炭素珪素供給材料40は、炭化珪素単結晶材料20よりも化学ポテンシャルが大きい。炭素珪素供給材料40は、炭化珪素からなる。炭素珪素供給材料40として、例えば、3C型炭化珪素多結晶(3C−SiC多結晶)又は4H型炭化珪素多結晶(4H−SiC多結晶)の炭化珪素多結晶、及び、3C型炭化珪素単結晶(3C−SiC単結晶)又は4H型炭化珪素単結晶(4H−SiC単結晶)の炭化珪素単結晶が挙げられる。なお、炭化珪素単結晶材料20よりも化学ポテンシャルが大きくなるように、炭素珪素供給材料40を選択する。炭化珪素単結晶材料20の形状は、例えば、円板形状、円柱形状である。
【0025】
炭素珪素供給材料40は、炭化珪素単結晶の製造時において、珪素材料60が溶融した珪素溶融層に炭素と珪素とを供給する。
【0026】
炭素珪素供給材料40は、炭化珪素多結晶からなることが好ましい。また、炭素珪素供給材料40の炭素に対する珪素のモル比率(Si/C)は、1.00以上であることが好ましい。また、炭素珪素供給材料40の相対密度は、95%より大きいことが好ましい。なお、相対密度とは、嵩密度の理論密度に対する比(嵩密度/理論密度)である。
【0027】
珪素材料60は、珪素からなる。珪素材料60として、例えば、珪素基板(シリコン基板)又は珪素粉末が挙げられる。珪素材料60が珪素基板である場合、珪素材料60の形状は、例えば、円板形状である。珪素材料60の厚さは、後述する平面距離dと同一であることが好ましい。
【0028】
図2に示されるように、炭化珪素単結晶が成長する方向を成長方向zとする。成長方向zは、平面20a及び平面40aに対して実質的に垂直な方向である。成長方向zに直交する方向を直交方向xとする。
【0029】
本実施形態において、炭化珪素単結晶材料20は、側面に突部が形成された円板形状である。突部は、成長方向zにおいて、平面20aとは反対側の端部に形成される。突部は、直交方向xに突出する。また、炭素珪素供給材料40は、側面に突部が形成された円柱形状である。突部は、成長方向zにおいて、平面40aとは反対側の端部に形成される。突部は、直交方向xに突出する。
【0030】
(1.2)配置工程S2
配置工程S2では、炭化珪素単結晶材料20、炭素珪素供給材料40及び珪素材料60を容器10に配置する。
【0031】
本実施形態において、容器10は、容器本体15と蓋体17とを有する。容器本体15は、開口部を有する。開口部を通じて、炭化珪素単結晶材料20、炭素珪素供給材料40及び珪素材料60が容器10の内部に配置される。容器本体15は、底部15aを有する。蓋体17は、底部15aに対向する対向部17aを有する。容器本体15の開口部に蓋体17が取り付けられる。容器10は、耐熱性を有する。容器10として、例えば、黒鉛製の坩堝が挙げられる。
【0032】
図2に示されるように、本実施形態では、蓋体17から容器本体15の方向へ重力gが働くように、容器10は、設置される。従って、蓋体17側が上側であり、容器本体の17の底部15a側が下側である。
【0033】
図2に示されるように、底部15aには、炭化珪素単結晶材料20の形状に対応した孔部が形成されている。平面20aが対向部17aに対向するように、炭化珪素単結晶材料20を孔部に挿入する。すなわち、突部が形成された方の炭化珪素単結晶材料20の端部を孔部に挿入する。炭化珪素単結晶材料20の中心を通り、成長方向zに平行な軸を中心軸として、挿入された炭化珪素単結晶材料20を回転させる。これにより、炭化珪素単結晶材料20が容器本体15に固定される。
【0034】
対向部17aには、炭素珪素供給材料40の形状に対応した孔部が形成されている。平面40aが底部15aに対向するように、炭素珪素供給材料40を孔部に挿入する。すなわち、突部が形成された方の炭素珪素供給材料40の端部を孔部に挿入する。炭素珪素供給材料40の中心を通り、成長方向zに平行な軸を中心軸として、挿入された炭素珪素供給材料40を回転させる。炭素珪素供給材料40が蓋体17に固定される。これにより、蓋体17を容器本体15に取り付けた場合に、炭素珪素供給材料40の位置が固定される。なお、本実施形態において、蓋体17が容器本体15から取り外された状態で、炭素珪素供給材料40が蓋体17に固定される。
【0035】
本実施形態において、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の両方とも容器10に固定される。
【0036】
固定された炭化珪素単結晶材料20の平面20a上に、珪素材料60を配置する。従って、炭化珪素単結晶材料20は、珪素材料60の下側に位置する。珪素材料60を配置した後、蓋体17を容器本体15に取り付ける。これにより、炭素珪素供給材料40を珪素材料60の上側に配置する。炭素珪素供給材料40は、蓋体17に固定されているため、蓋体17を容器本体15に取り付けることによって、炭素珪素供給材料40の位置を固定する。
【0037】
蓋体17を容器本体15に取り付けると、炭素珪素供給材料40の平面40aが炭素珪素供給材料40と接する。これにより、炭化珪素単結晶材料20の平面20aと炭素珪素供給材料40の平面40aとによって、珪素材料60が挟まれる。従って、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40との間に珪素材料60が介在する。
【0038】
蓋体17を容器本体15に取り付けることによって、炭素珪素供給材料40の位置を固定する。なお、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40とは、容器10に固定されるため、配置工程S2では、炭化珪素単結晶材料20の平面20aと炭素珪素供給材料40の平面40aとの距離である平面距離dは、固定される。
【0039】
炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40との成長方向zにおける高さを調整することにより、平面距離dを調整できる。また、本実施形態では、蓋体17は、容器本体15に螺合により取り付けられる。このため、容器本体15と蓋体17との位置を調整して、平面距離dを調整してもよい。平面距離dは、5μm以上、100μm以下の範囲にあることが好ましい。平面距離dが5μm以上であれば、炭化珪素単結晶の成長につれて、珪素溶融層の珪素が炭素と反応しても、珪素溶融層に含まれる珪素の量を十分に保つことができる。このため、炭化珪素単結晶を継続して成長させることができる。平面距離dが100μm以下であれば、炭素の濃度勾配が急になるため、炭素の拡散速度が速くなる。従って、炭化珪素単結晶の成長速度を速くすることができるため、所定時間内に、一定の成長高さを有する炭化珪素単結晶を安定して製造できる。
【0040】
(1.3)加熱工程S3
加熱工程S3では、珪素材料60が溶融する温度以上かつ珪素材料60が沸騰する温度未満の温度で容器10を加熱する。
【0041】
加熱部材を用いて、炭化珪素単結晶材料20、炭素珪素供給材料40及び珪素材料60が配置された容器10を加熱する。加熱部材としては、例えば、加熱ヒータ、誘導加熱コイルを用いることができる。
【0042】
加熱温度は、珪素材料60が溶融し、珪素溶融層が存在する温度であればよい。従って、例えば、1500度以上、2300度以下の温度で加熱することができる。炭化珪素単結晶をより安定して製造するために、1600度以上、2100度以下の温度で加熱することが好ましい。1700度以上、1900度以下の温度で加熱することがより好ましい。
【0043】
加熱時間は、求める成長高さによって、適宜設定することができる。加熱時間が長い方が、炭化珪素単結晶が成長するため、例えば、200時間以上加熱することが好ましい。
【0044】
加熱によって、珪素材料60が溶融する。このため、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の間に珪素溶融層が存在する。炭素珪素供給材料40は、炭化珪素単結晶材料20よりも化学ポテンシャルが大きいため、珪素溶融層に炭素珪素供給材料40に含まれる炭素が溶解する。珪素溶融層に溶解した炭素は、炭素濃度の低い炭化珪素単結晶材料20側へ拡散する。従って、炭素珪素供給材料40側にある炭素は、炭化珪素単結晶材料20側に移動するため、炭化珪素単結晶材料20側の炭素濃度が溶解度を超える。これにより、炭化珪素単結晶材料20側の炭素は、炭化珪素単結晶材料20上に炭化珪素単結晶として析出する。炭化珪素単結晶の析出が繰り返されることによって、炭化珪素単結晶が成長する。
【0045】
なお、珪素溶融層には、炭素珪素供給材料40に含まれる炭素だけでなく、珪素も溶解する。これにより、炭素珪素供給材料40から珪素溶融層に珪素が供給される。
【0046】
容器10の内部の雰囲気は、炭化珪素単結晶の成長に影響を与えない雰囲気である。従って、容器10の内部の雰囲気は、例えば、10−4Pa以下の真空であってもよいし、希ガス等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0047】
(1.4)珪素蒸発工程S4
珪素蒸発工程S4では、加熱工程S3において加熱した温度以上で容器10を加熱し、珪素材料60を蒸発させる。
【0048】
蒸発は、沸点以上でなくても起こるため、加熱温度は、珪素の沸点以上でなくてもよい。従って、例えば、2000度以上、2300度以下の温度で加熱できる。加熱温度を珪素の沸点以上の温度にした場合、珪素材料60の蒸発時間を短くできる。
【0049】
炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40とは、容器10に固定されているため、珪素材料60の蒸発によって、炭化珪素単結晶材料20上に成長した炭化珪素単結晶と、炭素珪素供給材料40との間には、空間が形成される。
【0050】
珪素材料60を蒸発させた後、容器10の加熱を止める。これにより、容器10の温度が下がる。容器10の温度が下がった後に、容器10から炭化珪素単結晶を取り出す。以上により、炭化珪素単結晶が製造できる。
【0051】
(2)作用効果
本発明者が鋭意研究を行った結果、珪素溶融層の重力方向における上側に配置される材料の重量によって、珪素溶融層の厚みが変化し、成長速度が変化することが分かった。そこで、本発明者は、珪素溶融層の重力方向における上側に配置される材料の重力による珪素溶融層への影響を抑制すれば、成長速度を抑制できるという知見に基づき、本発明を完成させた。
【0052】
本実施形態によれば、配置工程S2では、炭素珪素供給材料40を珪素材料60の上側に配置し、炭素珪素供給材料40の位置を固定する。このため、重力によって、珪素溶融層側(すなわち、下側)に向かう力が炭素珪素供給材料40に働いても、炭素珪素供給材料40は、珪素溶融層側に移動しない。従って、加熱工程S3によって珪素材料60が溶融して珪素溶融層になっても、炭素珪素供給材料40から珪素溶融層に加わる圧力が抑制される。従って、炭素珪素供給材料40の重量に起因して珪素溶融層の厚みが減少することを抑制できる。
【0053】
炭素珪素供給材料40が珪素溶融層に炭素と珪素とを供給することにより炭素珪素供給材料40の重量が減少する。炭素珪素供給材料40の位置が固定されていない場合、炭素珪素供給材料40から珪素溶融層に加わる圧力は、減少する。本実施形態において、炭素珪素供給材料40の位置は固定されているため、炭素珪素供給材料の重量に起因した珪素溶融層の厚みの変化を抑制できる。
【0054】
珪素溶融層の厚みは、炭化珪素単結晶の成長速度に依存する。珪素溶融層の厚みの変化を抑制できるため、炭化珪素単結晶の成長速度の変化を抑制できる。その結果、従来よりも炭化珪素単結晶を安定して製造することができる。
【0055】
本実施形態において、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の両方とも容器10に固定する。このため、調整した平面距離dがずれることが抑制できる。これより、珪素溶融層の厚みをより制御することができる。
【0056】
炭素珪素供給材料40は、炭化珪素多結晶からなることが好ましい。炭化珪素多結晶は、炭化珪素単結晶に比べて、化学ポテンシャルが大きいため、炭素の濃度勾配が急になる。これにより、炭化珪素単結晶の成長速度を速くすることができるため、所定時間内に、一定の成長高さを有する炭化珪素単結晶を安定して製造できる。
【0057】
炭素珪素供給材料40の炭素に対する珪素のモル比率(Si/C)は、1.00以上であることが好ましい。炭素に対する珪素のモル比率(Si/C)が、1.00以上であれば、炭素珪素供給材料40中に含まれる珪素の量が炭素の量以上になる。このため、珪素溶融層に充分な珪素を供給することができる。従って、炭素が珪素溶融層の珪素と反応して、珪素溶融層の体積が少なくなることによる珪素溶融層の厚みの減少を抑制できるため、従来よりも炭化珪素単結晶をより安定して成長させることができる。
【0058】
炭素珪素供給材料40の相対密度は、95%より大きいことが好ましい。炭素珪素供給材料40の相対密度が成長させた炭化珪素単結晶の相対密度より小さすぎると成長中の珪素溶融層の厚みが増加しやすくなり、成長速度が遅くなってしまう。成長させた炭化珪素単結晶の相対密度は高い程、望ましく、一般的には、成長させた炭化珪素単結晶の相対密度は、99%以上が望まれる。このため、成長させた炭化珪素単結晶の相対密度が99%以上の場合、炭素珪素供給材料40の相対密度は95%より小さいと、成長速度が遅くなりやすい。炭素珪素供給材料40の相対密度が95%より大きいことにより、成長速度が遅くなることを抑制できる。さらに、炭素珪素供給材料40の相対密度が95%より大きければ、炭素珪素供給材料40の空隙が少なくなる。このため、炭素珪素供給材料40から珪素溶融層へ炭素及び珪素を安定して供給することができるため、炭化珪素単結晶の成長速度の変化が抑えられる。従って、炭化珪素単結晶を安定して製造することができる。
【0059】
珪素溶融層が存在したまま、容器10の温度を下げた場合、液体の珪素溶融層は、固体の珪素固体層へと相変化する。珪素の熱膨張係数と炭化珪素単結晶の熱膨張係数とは異なるため、成長した炭化珪素単結晶と珪素固体層との界面に応力が発生する。その結果、炭化珪素単結晶に割れが生じるおそれがある。
【0060】
本実施形態において、加熱工程S3において加熱した温度以上で容器10を加熱し、珪素材料60である珪素溶融層を蒸発させる。珪素溶融層を蒸発させることによって、成長した炭化珪素単結晶上には、珪素固体層が存在しないため、炭化珪素単結晶に割れが生じるおそれがなくなる。その結果、品質の良好な炭化珪素単結晶を製造できる。
【0061】
さらに、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40とは、容器10に固定されているため、珪素材料60の蒸発によって、炭化珪素単結晶材料20上に成長した炭化珪素単結晶と、炭素珪素供給材料40との間には、空間が形成される。このため、製造した炭化珪素単結晶を取り外す際に、炭化珪素単結晶を傷つけるおそれもなくなる。
【0062】
(3)実施例
炭化珪素単結晶材料として、6H型炭化珪素単結晶(6H−SiC単結晶)を準備した。炭素珪素供給材料として、モル比率(Si/C)が1.20であり、相対密度が98%である3C型炭化珪素多結晶(3C−SiC多結晶)を準備した。珪素材料として、シリコン基板を準備した。容器には、等方性黒鉛が用いられた坩堝を用いた。
【0063】
上述した実施形態と同様に、6H−SiC単結晶、3C−SiC多結晶及びシリコン基板を坩堝に配置した(図2参照)。具体的には、6H−SiC単結晶を坩堝の底部に固定した。6H−SiC単結晶上にシリコン基板を配置した。3C−SiC多結晶を坩堝の蓋体に固定した。坩堝の蓋体を坩堝に取り付けることにより、3C−SiC多結晶は、シリコン基板の上側に配置するとともに、3C−SiC多結晶の位置を固定した。6H−SiC単結晶と3C−SiC多結晶との間にシリコン基板を介在させた。6H−SiC単結晶の平面と3C−SiC多結晶の平面との平面距離を調整して、平面距離を20μmにした。シリコン基板は、6H−SiC単結晶と3C−SiC多結晶とに接していた。
【0064】
アルゴン雰囲気下において、1800度で、1000時間、坩堝を加熱した。次に、2000度で、1時間、坩堝を加熱した。その後、坩堝の温度を室温まで冷却した。坩堝から炭化珪素単結晶を取り出した。
【0065】
次に、同一の材料及び同一の条件の下、新たに炭化珪素単結晶を製造した。具体的には、平面距離を20μmにして、炭化珪素単結晶を製造した。
【0066】
得られた炭化珪素単結晶の成長高さは、両方とも30mmであった。目視観察にて、両方の炭化珪素単結晶に割れがないことが確認した。珪素材料の上側に配置された3C−SiC多結晶の位置を固定することにより、成長高さを一定にすることができた。すなわち、炭化珪素単結晶の成長速度の変化を抑制し、炭化珪素単結晶を安定して製造できることが確認できた。
【0067】
(4)その他実施形態
本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。
【0068】
具体的には、上述した実施形態では、炭化珪素単結晶材料20を容器本体15の底部15a側に配置し、炭素珪素供給材料40を蓋体17の対向部17a側に配置したが、これに限られない。炭素珪素供給材料40を容器本体15の底部15a側に配置し、炭化珪素単結晶材料20を蓋体17の対向部17a側に配置してもよい。この場合、炭化珪素単結晶は、底部15a側に向かって成長する。少なくとも炭化珪素単結晶材料20の位置は、固定されている。炭素珪素供給材料40の位置も固定することが好ましい。
【0069】
炭化珪素単結晶材料20の位置は、固定されているため、加熱工程S3によって珪素材料60が溶融して珪素溶融層になっても、炭化珪素単結晶材料20から珪素溶融層に加わる圧力が抑制される。従って、炭化珪素単結晶材料20の重量に起因して珪素溶融層の厚みが減少することを抑制できる。
【0070】
炭化珪素単結晶材料20上に炭化珪素単結晶が成長することにより炭化珪素単結晶材料20の重量が増加する。炭化珪素単結晶材料20の位置が固定されていない場合、炭化珪素単結晶材料20から珪素溶融層に加わる圧力は、増加する。本実施形態において、少なくとも炭化珪素単結晶材料20の位置は固定されているため、炭化珪素単結晶材料20の重量に起因した珪素溶融層の厚みの変化を抑制できる。従って、炭化珪素単結晶の成長速度の変化を抑制できる。その結果、従来よりも炭化珪素単結晶を安定して製造することができる。
【0071】
また、上述した実施形態では、容器本体15に炭化珪素単結晶材料20を配置し、珪素材料60を配置した後に、炭素珪素供給材料40を配置したが、これに限られない。例えば、炭化珪素単結晶材料20と珪素材料60とを同時に配置しても良い。他の順番であってもよい。
【0072】
また、上述した実施形態では、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の両方とも容器10に固定していたが、必ずしもこれに限られない。炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の一方を容器10に固定し、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40の他方を容器10の底部15a側に固定せずに配置してもよい。具体的には、例えば、円板形状の炭化珪素単結晶材料20を容器10の底部15aに配置する。このとき、炭化珪素単結晶材料20の一方の主面が底部15aに接し、他方の主面である平面20aが対向部17aに対向するように、炭化珪素単結晶材料20を容器本体15に配置する。この場合、炭化珪素単結晶材料20は、容器10に固定しなくても安定している。炭素珪素供給材料40及び珪素材料60の配置は、上述した実施形態と同様にする。底部15a側に位置する炭化珪素単結晶材料20は、容器10に固定しなくても安定しているため、配置工程S2において、炭化珪素単結晶材料20の平面20aと炭素珪素供給材料40の平面40aとの平面距離dを固定できる。
【0073】
また、上述した実施形態では、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40を容器10に形成された孔部に挿入して固定していたが、これに限られない。
【0074】
例えば、固定部材を容器10に取り付けて、炭化珪素単結晶材料20及び炭素珪素供給材料40を容器10に固定してもよい。固定部材は、容器本体15の底部15a、側面、又は/及び蓋体17の対向部17aに取り付ける。この固定部材により炭化珪素単結晶材料20等を保持することによって、炭化珪素単結晶材料20等を容器10に固定してもよい。固定部材としては、例えば、クランプが挙げられる。他にも、炭化珪素単結晶材料20等をボルトによって炭化珪素単結晶材料20等を容器10に固定してもよい。なお、ボルトを挿入する孔は、炭化珪素単結晶の成長に影響しない位置に形成することが好ましい。
【0075】
上述した方法は、機械的に固定する方法であったが、化学的に固定する方法を用いてもよい。具体的には、炭化珪素単結晶材料20等を接着剤により、容器10に固定してもよい。例えば、フェノール樹脂性の接着剤を用いて、円柱形状の炭素珪素供給材料40を蓋体17の対向部17aに固定してもよい。平面40aと反対側の面に接着剤を塗布し、平面40aと反対側の面を蓋体17の対向部17aに接着する。これにより、炭化珪素単結晶材料20等を容器10に固定する。
【0076】
他にも、例えば、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40とを連結する連結部材によって、炭化珪素単結晶材料20と炭素珪素供給材料40とを固定してもよい。例えば、連結部材として、長手方向を有し、長手方向の両端部が曲げられた形状のものが挙げられる。具体的には、連結部材として、いわゆる鎹形状又はコの字形状であるものが挙げられる。炭化珪素単結晶材料20の側面に連結部材の一方の端部を固定し、炭素珪素供給材料40の側面に連結部材の他方の端部を固定する。これにより、珪素材料60の上側に配置される炭化珪素単結晶材料20又は炭素珪素供給材料40の位置を固定できる。なお、連結部材の端部を固定する位置は、炭化珪素単結晶の成長に影響しない位置に形成することが好ましい。
【0077】
また、上述した実施形態では、蓋体17から容器本体15の方向へ重力gが働くように、容器10は設置されていたが、これに限られない。例えば、容器本体15から蓋体17の方向へ重力gが働くように、容器10が設置されていてもよい。この場合、炭化珪素単結晶材料20又は炭素珪素供給材料40のうち、少なくとも珪素材料60上に配置される方は、容器10に固定されることが好ましい。すなわち、珪素材料60よりも、容器本体15側に配置される材料は、容器10に固定されることが好ましい。
【0078】
なお、上述した実施形態及びその他実施形態は、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜組み合わせることができる。
【0079】
上述の通り、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0080】
10…容器、 15…容器本体、 15a…底部、 17…蓋体、 17a…対向部、 20…炭化珪素単結晶材料、 20a…(炭化珪素単結晶材料の)平面、 40…炭素珪素供給材料、 40a…(炭素珪素供給材料)の平面、 60…珪素材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶からなる炭化珪素単結晶材料と、
前記炭化珪素単結晶材料よりも化学ポテンシャルが大きく、炭化珪素からなる炭素珪素供給材料と、
珪素からなる珪素材料と、を準備する準備工程と、
前記炭化珪素単結晶材料、前記炭素珪素供給材料及び前記珪素材料を容器に配置する配置工程と、
前記珪素材料が溶融する温度以上かつ前記珪素材料が沸騰する温度未満の温度で前記容器を加熱する加熱工程と、を備え、
前記炭化珪素単結晶材料の表面上に炭化珪素単結晶を成長させる準安定溶媒エピタキシー法を用いた炭化珪素単結晶の製造方法であって、
前記配置工程では、
前記炭化珪素単結晶材料又は前記炭素珪素供給材料の何れか一方の材料を前記珪素材料の上側に配置し、
前記一方の材料の位置を固定し、
前記炭化珪素単結晶材料と前記炭素珪素供給材料との間に前記珪素材料を介在させる炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程では、
前記一方の材料を前記容器に固定し、
前記炭化珪素単結晶材料又は前記炭素珪素供給材料の前記一方の材料とは異なる他方の材料を前記一方の材料よりも前記容器の底部側に配置する請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記炭素珪素供給材料は、炭化珪素多結晶からなる請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記炭素珪素供給材料の炭素に対する珪素のモル比率は、1.00以上である請求項1から3の何れか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記炭素珪素供給材料の相対密度は、95%より大きい請求項1から4の何れか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において加熱した温度以上で前記容器を加熱し、前記珪素材料を蒸発させる珪素蒸発工程を備える請求項1から5の何れか1項に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107786(P2013−107786A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252741(P2011−252741)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】