説明

炭化製品及びその製造方法

【課題】燃料としても有効に利用可能な炭化製品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有機物を含有した下水汚泥を乾留により炭化処理して成る炭化製品の組成を、質量%でH含有量が2%以上,O含有量が10%以下の組成とする。また炉体210内部に回転ドラム214を乾留容器として配設し、回転ドラム214の軸方向の一端側から含水率を落とした下水汚泥を原料として供給し、回転ドラム214を回転させつつその内部に沿って軸方向に移動させ、移動の過程で回転ドラム214周りの外熱室218からの熱で汚泥を乾留により炭化処理して、炭化製品を回転ドラム214の軸方向の他端側から排出する外熱式ロータリーキルンを炭化炉208として備えた炭化処理装置にて炭化製品を製造するに際し、外熱室218の温度を400〜600℃未満の温度に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は下水汚泥を炭化処理して成る炭化製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭等から排出される有機物含有の排水は一般に下水処理施設で活性汚泥法等により排水処理される。
この排水処理に伴って有機物を含有した下水汚泥が発生するが、排水処理量の増加とともに下水汚泥の発生量も年々増加し、その処理処分が大きな問題になっている。
【0003】
下水汚泥を処分するに際し、その下水汚泥には99%程度の水が含まれていてそのままでは処分できず、そこで減量化のために濃縮及び脱水処理したり、或いは更に焼却したり溶融したりするなど様々な処理が現在施されている。
しかしながら汚泥を焼却或いは溶融処理すると多量のエネルギーを消費し、処理コストが高いものとなる。
そこでエネルギー消費の少ない下水汚泥の減量化処理の1つの方法として、汚泥を乾留処理により炭化することが提案されている。
【0004】
この炭化処理は、汚泥が基質中に炭素分を45重量%程度含んでいることから、焼却,溶融処理のように汚泥中の炭素分を消費してしまうのではなく、汚泥を無酸素或いは低酸素状態で熱分解(炭化)することにより炭素分を残留させ、新しい組成を持つ炭化物(炭化製品)として生成させるものである。
【0005】
図8はそのための装置、即ち有機物を含有した下水汚泥の炭化処理装置の従来の一例を示したものである。
図中200は受入ホッパであり、含水率80%程度まで脱水された脱水汚泥がこの受入ホッパ200に先ず受け入れられる。
ここに受け入れられた脱水汚泥は、定量供給装置202にて乾燥炉204へと送られ、そこで所定の含水率、例えば40%程度の含水率まで乾燥処理される。
【0006】
この乾燥炉204は、回転ドラムを乾燥容器として備えており、その軸方向の一端側から内部に供給された汚泥を、回転ドラムを回転させつつ内部に沿って軸方向に移動させ、その移動の過程で熱風により汚泥を乾燥処理して、乾燥後の汚泥を軸方向の他端側から排出する。
尚この乾燥炉204では、汚泥の乾燥と併せてその粉砕が行われる。
【0007】
乾燥炉204で乾燥処理された汚泥は、続いてコンベヤ206により炭化炉208へと搬送され、そこで乾留処理により汚泥の炭化が行われる。
この炭化炉208は外熱式ロータリーキルン方式のもので、図9にも示しているように炉体210の内部に乾留容器としての円筒形状の回転ドラム(レトルト)214が設けられており、前段の乾燥炉204で乾燥処理された汚泥がコンベヤ206により、更には回転ドラム214の前端部(図中左端部)位置に設けられたスクリューフィーダ(図示せず)により回転ドラム214内部に投入される。
【0008】
回転ドラム214内部に投入された汚泥は、先ず炉体210内部に配設された助燃バーナ(外熱室用バーナ)216による外熱室218内部の雰囲気加熱によって加熱される。
すると汚泥中に含まれていた可燃ガスが、回転ドラム214に設けられた吹出パイプ220を通じて外熱室218の雰囲気中に抜け出し、そしてこの可燃ガスが着火して、以後はその可燃ガスの燃焼により回転ドラム214内部の汚泥の加熱が行われる。
この段階では助燃バーナ216は燃焼停止される。
【0009】
図9に示しているように、炉体210の内部には外熱室218と仕切られた排ガス処理室222が設けられており、外熱室218からの排ガスはここに導かれる。
この排ガス処理室222には排ガス処理室用バーナ224が設けられており、排ガス処理室222内に導かれた排ガス中の未燃ガスが、この排ガス処理室用バーナ224にて2次燃焼される。
【0010】
回転ドラム214内部の汚泥は、図中左端から回転ドラム214の回転とともに漸次図中右方向に移って行き(回転ドラム214には若干の勾配が設けてある)、そして最終的に乾留残渣(炭化製品)が回転ドラム214の図中右端の出口212、つまり炭化炉208から排出される。
【0011】
図8において、226は乾燥炉204に供給する熱風を発生させるための熱風炉で、ここでは供給された燃料が燃焼空気の供給の下で燃焼させられて熱風を発生する。
尚ここではパイロットバーナ用にLPGが用いられ、燃焼バーナ用に灯油が用いられている。
【0012】
熱風炉226で発生した熱風は乾燥炉204に供給され、更にこれを通過して、その後段の集塵機228を通ってそこで集塵され、再び熱風炉226に戻されるようになっている。
即ち熱風炉226で発生した熱風は、乾燥炉204,集塵機228を通る循環路230を、循環ファン232により循環流通させられるようになっている。
この循環系では、乾燥炉204においてリークエアが循環する熱風中に入り込む。
【0013】
一方で熱風炉226には燃焼空気が定量供給されており、そのためここでは熱風の一部を抜き取るべく、熱風炉226の下流部において分岐路234が設けられており、熱風炉226から出た熱風の一部がこの分岐路234を通じて外部に取り出されるようになっている。
【0014】
この分岐路234に取り出された熱風は高温状態(約700℃程度)にあり、そこで分岐路234に取り出された熱風が、循環路230上に設けられた熱風炉熱交換器236で熱交換され、更に空気取入口240から取り入れられた外気により希釈及び冷却された上で、排ガスファン238により排気路242,244を通じて煙突246から外部に放出される。
ここで分岐路234に取り出された熱風の、熱風炉熱交換器236で熱交換された後の温度は約400℃程度であり、そして空気取入口240からの外気の取入れによる希釈・冷却により、排ガスファン238の下流部で温度は約200〜250℃程度となる。
【0015】
尚、空気取入口240からの空気の取入量は調整弁248によって調整される。
また循環路230を循環流通する熱風は、熱風炉熱交換器236で熱交換されることによりそこで温度上昇させられた上、熱風炉226の入口に戻される。
【0016】
上記炭化炉208からは、その排ガスを排出するための排気路250が延び出している。
この排気路250に取り出された炭化炉208からの排ガスは、温度が800〜1000℃程度の高温度であり、そこで先ず空気取入口258からの外気の取入れによって希釈及び冷却された上で、循環路230上に設けられた炭化炉熱交換器252で熱交換され、そこで温度降下された後、更に炭化炉熱交換器252の下流部において、空気取入口260からの外気の取入れにより再び希釈・冷却された上で、排ガスファン254により排気路256,244を通じて煙突246から外部に放出される。
【0017】
尚炭化炉208から排出された排ガスは、空気取入口258からの外気の取入れによる希釈・冷却により、その温度は約700℃程度となり、そして炭化炉熱交換器252における熱交換、更に空気取入口260からの外気の取入れによる冷却によって200〜250℃程度の温度まで温度降下された上で、排ガスファン254により排気路256,244を通じ煙突246から外部に放出される。
この炭化炉208にはLPG,灯油等の燃料が燃焼空気とともに供給される。ここでLPGはパイロットバーナの燃焼用として用いられ、また灯油は燃焼バーナ用の燃料として用いられる。
この種の炭化処理装置は、例えば下記特許文献1,特許文献2に開示されている。
【0018】
以上のようにして得られた炭化製品は現在園芸用土壌,融雪剤等に利用されており、またその他にも様々な用途が検討されている。
その1つとして、かかる炭化製品を燃料として利用することが考えられている。
例えば下記特許文献3にはかかる炭化製品を燃料として用いる点が開示されている。
【0019】
ところで炭化製品を燃料として用いる場合、その発熱量が高いほど燃料としての利用価値は高くなる。
しかしながら、現状ではこの炭化製品は炭化処理前の汚泥、例えば下水汚泥を80%程度まで脱水した後の脱水汚泥或いはこれを更に40%まで乾燥処理した後の乾燥汚泥に比べて発熱量が低く(例えば炭化製品の発熱量は炭化処理する前の汚泥に比べて発熱量が50〜90%程度と低い)、従ってこのままでは燃料として有効に活用することが難しいというのが実情である。
【0020】
そこで炭化処理する前の含水率を落とした汚泥、例えば脱水汚泥や乾燥汚泥をそのまま燃料として用いるといったことも検討されているが、このものは臭気が強く、取扱いその他において種々問題点を内包している。
この点で炭化製品は炭化処理によって臭気が消失しており、また燃料以外にも他の様々な用途に利用できることから、かかる炭化製品を他の様々な用途とともに燃料としても利用できるものとなすことが望ましい。
【0021】
【特許文献1】特開平11−37644号公報
【特許文献2】特開平11−37656号公報
【特許文献3】特開2000−80386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は以上のような事情を背景とし、燃料としても有効に利用可能な炭化製品及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
而して請求項1は炭化製品に関するもので、有機物を含有した下水汚泥を乾留により炭化処理して成る炭化製品であって、質量%でH含有量が2%以上,O含有量が10%以下の組成を有していることを特徴とする。
【0024】
請求項2のものは、請求項1において、質量%でC含有量が40%以上の組成を有していることを特徴とする。
【0025】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、固形分の単位重量当りの発熱量が4000kcal/kg以上であることを特徴とする。
【0026】
請求項4は炭化製品の製造方法に関するもので、炉体内部に回転ドラムを乾留容器として配設し、該回転ドラムの軸方向の一端側から含水率を落とした下水汚泥を原料として供給し、該回転ドラムを回転させつつその内部に沿って軸方向に移動させ、該移動の過程で該回転ドラム周りの外熱室からの熱で該汚泥を乾留により炭化処理して、炭化製品を該回転ドラムの軸方向の他端側から排出する外熱式ロータリーキルンを炭化炉として備えた炭化処理装置にて炭化製品を製造するに際し、前記外熱室の温度を400〜600℃未満の温度に制御することを特徴とする。
【0027】
請求項5の製造方法は、請求項4において、前記炭化炉への投入前の前記汚泥の含水率を質量%で50〜60%に調整することを特徴とする。
【0028】
請求項6の製造方法は、請求項4,5の何れかにおいて、前記炭化炉内の前記汚泥の滞留時間を5〜30分とすることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0029】
本発明者等は、炭化製品の製造条件等によって炭化製品の組成を特定の組成に制御することにより、従来、炭化処理する前の汚泥に比べて低かった炭化製品の発熱量を寧ろそれよりも高くし得ることを見出した。
具体的には、炭化製品の組成を質量%でH含有量が2%以上,O含有量が10%以下の組成となすことで、炭化処理による無臭化と併せて発熱量を炭化処理する前の汚泥に比べて高くし得るとの知見を得た。
例えば従来の炭化製品の発熱量(低位発熱量=真発熱量)が3500kcal/kg以下、また乾燥処理後の乾燥汚泥にあっても、その発熱量が4000kcal/kg程度であったのを、炭化製品の組成を上記組成とすることで4000kcal/kg超となし得る知見を得た。
このことは次の点からも裏付けられる。
【0030】
炭化製品の成分は、SiOを含む砂や重金属等強熱により残る灰分と、600℃以上の強熱により失われる可燃分、厳密には強熱減量成分とに大別され、この内発熱量に関与するのは強熱減量成分である。
この強熱減量成分にはC,H,S,O,N等が含まれており、それら各成分の発熱量に対する寄与の度合いは下記式1のようになる。
(低位)発熱量=8100[C]+28600[H]+2500[S]−4250[O](kcal/kg)・・・式1
【0031】
式1に示されているように、発熱量に対する寄与の度合いはHが最も高く、Hが多いほど発熱量は高くなる。
一方Oは発熱量として負に働き、Oが多いほど発熱量は低くなる。
【0032】
本発明は炭化製品の組成を上記組成としたことによって高発熱量を実現し得たもので、本発明によれば、炭化製品を従来実際にはその利用が困難であった燃料としても有効に利用できるようになる。
例えば本発明の炭化製品は、火力発電所で石炭に置換する形で燃料として利用するといったことも可能である。
また本発明の炭化製品は脱臭された無臭のものであるため、その取扱いにおいて問題を生じず、また燃料以外にも農業用の用途その他様々な用途にも用いることが可能である。
【0033】
本発明においては、炭化製品の組成を質量%でC含有量が40%以上の組成となしておくことが望ましい(請求項2)。
炭化製品の組成をこのような組成とすることで効果的に高発熱量を実現することができる。
【0034】
また本発明においては、特に炭化製品の発熱量(固形分の単位重量当りの発熱量)を4000kcal/kg以上となしておくことが望ましい(請求項3)。
炭化製品をこのような高い発熱量を有するものとしておくことで、かかる炭化製品を火力発電所用の燃料として有効に活用することが可能となり、炭化製品としての用途が新たに拡大する効果が得られる。
【0035】
次に請求項4は炭化製品の製造方法に関するもので、この製造方法は、外熱式ロータリーキルン方式の炉を炭化炉として備えた炭化処理装置にて炭化製品を製造するに際し、炭化炉の外熱室の温度を400〜600℃未満の温度に制御するものである。
【0036】
この外熱式ロータリーキルン方式の炭化炉を備えた炭化処理装置にて炭化製品を製造するに際し、従来にあっては炭化炉における外熱室の温度を600℃以上、例えば600℃,700℃,800℃の高温度として炭化処理を行っており、この場合得られる炭化製品はH含有量が2%未満であり、そしてこのことが炭化製品の発熱量を低くする原因となっていた。
これに対して本発明に従い外熱室の温度を400〜600℃未満となした場合、即ち回転ドラムを加熱する回転ドラム周りの雰囲気温度を400〜600℃未満の低温度となし、かかる低温度で汚泥を炭化処理した場合、H含有量が2%以上の上記組成を有する炭化製品を良好に得ることが可能となる。
【0037】
本発明者等は、外熱室温度を種々異ならせて得られる炭化製品の組成を調べたところ、600℃以上の高温度で汚泥の炭化処理を行った場合、汚泥中に含まれているH分が揮発して飛んでしまい、乾留残渣即ち炭化製品中に残るH分が少なくなること、一方で炭化処理の温度を600℃未満の低い温度に制御すれば、発熱量に大きく寄与するH分が多く炭化製品中に残り、即ち請求項1に規定する組成を満たすものとなり、これにより炭化製品の発熱量が効果的に高められる事実を知得した。
本発明はこのような知見の下になされたものである。
【0038】
尚、汚泥を400〜600℃未満の低い温度で炭化処理した場合、汚泥中の強熱減量成分におけるO,S,Nの多くは乾留残渣中に残らずに揮発により飛んで失われてしまう。そしてこのこともまた炭化製品の発熱量を高める要因となる。
前述したようにOは発熱量に対して負に働き、従ってOが少ない方が発熱量は高くなる。
一方Sは発熱量を幾分高める働きを有するが、発熱量に対するSの寄与度は小さく、従ってSが多ければ多いほど固形分の単位重量当りのC,Hの比率が少なくなることとなって、Sが多くなると相対的に単位重量当りの炭化製品の発熱量は低下する。
【0039】
本発明に従って製造した炭化製品の発熱量が、炭化処理する前の脱水汚泥や乾燥汚泥に比べても尚高い発熱量を実現し得るのは、低温での炭化処理により発熱量に対して寄与が少ないか又は負に働く成分が除去されることによって、相対的に固形分の単位重量当りのC,Hの比率が高くなることによるものである。
【0040】
本発明の製造方法では、炭化炉に投入する前の汚泥の含水率を50〜60%に調整しておくことが望ましい(請求項5)。
即ち、従来にあっては乾燥炉による乾燥によって含水率を40%程度まで落とした上で炭化炉に投入していたのを、ここでは汚泥の含水率を50〜60%に高めた状態で炭化炉に投入する。
この場合、乾燥炉における乾燥を含水率50〜60%となるように行っても良いし、或いはまたこれよりも低い含水率まで一旦乾燥した上で、その後に水分添加により含水率を50〜60%にするようにしても良い。
【0041】
この請求項5において、汚泥の含水率を50〜60%とする理由は以下の点にある。
即ち含水率をこのような高含水率とすることで、汚泥を炭化炉に投入して炭化処理する際、炭化処理温度、具体的には炭化炉における外熱室の温度を水分の蒸発による潜熱によって400〜600℃未満の低温度に制御することが容易となる。
【0042】
但し含水率が50%未満であると水分の蒸発による低温保持が困難となり、汚泥から揮発する可燃分の燃焼によって外熱室温度が高くなり過ぎてしまう。
一方含水率が60%を超えると、乾燥処理後の汚泥(乾燥汚泥)を炭化炉で炭化処理しても炭化が十分に進行しなくなる。即ち炭化製品の粒子の内部に未炭化の汚泥が含まれるようになってしまう。
詳しくは、乾燥汚泥における含水率と粒子の大きさには相関があり、含水率が60%を超えるような高い含水率であると粒子の大きさが大きくなり過ぎてしまい、従ってこれをその後において炭化炉で炭化処理したとき、粒子が過剰に大きくなることによって中心部での炭化の進行が不十分となり、上記の問題を生じてしまう。
本発明において、炭化炉への投入前の状態で汚泥の含水率を50〜60%とするのは上記の理由による。
【0043】
本発明の製造方法においてはまた、炭化炉内の汚泥の滞留時間を5〜30分に制御することが望ましい(請求項6)。
滞留時間が5分よりも短い場合、水分が蒸発し切れずに炭化炉から排出される汚泥即ち炭化製品が乾燥汚泥に近いものとなってしまう。
一方滞留時間が30分を超えると、含水率の高い乾燥汚泥を炭化炉に投入しても、その水分の蒸発潜熱よりも汚泥から発生する乾留ガス(メタン,エタン等)の燃焼熱が上回り、その結果炭化炉の外熱室の温度が600℃よりも高くなり易く、その分得られる炭化製品の発熱量は下がってしまう。
【0044】
更に本発明の製造方法においては、外熱室の温度を400〜600℃未満に制御する一方で、排ガス処理室の温度を850℃以上となしておくことが望ましい。
このような条件の下で排ガス中の未燃分を完全燃焼させ得て、排ガス中に悪臭を伴う未燃ガスが含有されてしまうのを良好に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1に示す試験装置を用いて各種炭化温度で炭化処理を行い、炭化温度と炭化製品の組成,発熱量その他との関係を求めた。
図において10は炭化炉を模した小型電気炉で、側壁内面に加熱用ヒータが取り付けてあり、内部には外熱室を模した加熱室12が形成されている。
尚ここでは汚泥試料から発生した分解ガスが炉内で燃焼するように電気炉10が密閉構造とされている。
【0046】
14は試料容器で、16は加熱室12内に設けられた温度検出器、18は温度記録計である。
また20は電子はかりで、22は試料の減量を記録するためのレコーダである。
ここで電子はかり20は炭化による減量の測定用である。
尚17は分解ガス取出口である。
【0047】
本試験では、電気炉10を予め400℃,500℃,600℃,700℃,800℃の各温度に昇温しておき、含水率40%の乾燥汚泥の入った試料容器14を炉内に入れて炭化処理を行い、そして処理開始から一定時間経過した後に試料容器14を電気炉10から取り出して炭化製品の各種測定を行った。
尚試料容器14には乾燥汚泥の試料5〜6gを入れて処理を行った。
また炭化処理では試料容器14の内部を還元雰囲気状態とした。
【0048】
図2はこのようにして各種炭化温度で得られた炭化製品の組成を、また図3は炭化製品の発熱量をそれぞれ乾燥汚泥の組成及び発熱量とともに表している。
また図4に炭化製品におけるH含有量と発熱量との関係を、更にまた図5に炭化製品におけるC含有量と発熱量との関係を表している。
更に図6は炭化製品における強熱減量成分と発熱量との関係を表している。
【0049】
図3から明らかなように、600℃以上の高温度で炭化処理した従来の炭化製品は発熱量が3500kcalに達しない低い発熱量であるのに対し、400〜600℃未満の低温で炭化処理した本発明例の炭化製品の場合発熱量が従来の炭化製品よりも高くなり、500℃以下では4000kcalを超えており、更にはまた炭化処理を行っていない乾燥汚泥の発熱量よりも高い値を示している。
【0050】
ここで図4を見てみると、600℃以上の高温度で炭化処理して成る従来の炭化製品の場合、炭化製品中のH含有量が2%未満と低いのに対して、400〜600℃未満の低い温度で炭化処理して成る本発明例の炭化製品の場合、炭化製品中のH含有量が2%以上と高く、500℃以下ではH含有量が3%以上と更に高くなり、このことが本発明例の炭化製品の発熱量を高めていることが理解できる。尚、乾燥汚泥と同等以上の高発熱量を得る上では、本発明の炭化製品中のH含有量は3%以上であることが好ましい。
【0051】
更にまた、図5から明らかなように600℃以上の高温度で炭化処理して成る従来の炭化製品のC含有量は40%以下であるが、本発明例ではこのC含有量が高くなり、500℃以下で炭化処理した場合には、この値が43%以上と高くなっている。これもまた本発明例の炭化製品の発熱量を高めている要因であることが理解できる。
【0052】
但し炭化処理を施していない乾燥汚泥もまた、図4に示してあるように高いH含有量を示している。
更にまた、図5に示しているようにC含有量においても乾燥汚泥は40%以上の高い含有量を示している。
にも拘らず400〜600℃未満の低温度で炭化処理を施して成る本発明例の炭化製品の場合、かかる乾燥汚泥よりも高い発熱量を示しているのは次の理由に拠るものである。
【0053】
即ち、図6に示しているように本発明例の炭化製品は乾燥汚泥に比べて強熱減量成分が少なくなっている。
このように本発明例の炭化製品の強熱減量成分が乾燥汚泥に比べて少ないのは、低温度であっても炭化処理によって揮発し易いO,S,Nが揮発して失われたことに拠るものであり、その結果本発明例の炭化製品は、強熱減量成分中の可燃分であるC,Hの比率が乾燥汚泥のそれに比べて相対的に高まっている。
その結果として本発明例の炭化製品が高い発熱量を有するに到ったものである。
【0054】
因みに図2において本発明例の炭化製品の強熱減量成分と乾燥汚泥の強熱減量成分とを比較してみると、乾燥汚泥ではO含有量が30%弱含まれているのに対し、本発明例の炭化製品の場合O含有量が10%以下の少ない量であり、強熱減量成分のうち特に発熱量に対して負に働くOの含有量が大幅に減少していることが、本発明例の炭化製品の発熱量増大に対し大きく寄与しているものと考えられる。
【0055】
以上の基礎試験での結果に基づいて実際の炭化処理装置を用いて下水汚泥の炭化処理を行った。その結果が図7に示してある。
この図7には、炭化温度600〜800℃の高温度で炭化処理を行った場合の結果も併せて示してある。
尚図7において、横軸は炭化処理を施していない脱水汚泥の発熱量を、縦軸は炭化処理後の炭化製品の発熱量を示している。
【0056】
同図に示しているように600〜800℃の高温度で炭化処理をして得られた従来の炭化製品の場合、その発熱量が炭化処理前の脱水汚泥の発熱量に比べて低く、その値は脱水汚泥の発熱量に対し70〜80%の低い値を示している。
これに対して外熱室の温度、即ち炭化温度を400〜600℃未満とした本発明例の炭化製品の場合、乾燥汚泥の発熱量よりも炭化製品の発熱量の方が高い値を示している。
【0057】
以上の結果は、基礎試験の結果と実際の炭化処理装置を用いた試験とで結果が良く一致することを示している。
但し外熱式ロータリーキルン方式の炭化炉を用いた実際の炭化処理装置の場合、炭化炉に投入する前の汚泥の含水率が50%未満であると、汚泥からの乾留ガスの燃焼熱により外熱室を400〜600℃未満の低温に保持することが困難化するので、含水率は50%以上としておくことが望ましい。
一方で含水率が60%を超えると、外熱室の温度は低く保持できるものの、汚泥の粒子が大きくなり過ぎて炭化製品中に未炭化物が含まれてしまうようになる。
この意味において炭化炉に投入する前の汚泥の含水率は60%以下としておくことが望ましい。
【0058】
同様に炭化炉内における汚泥の滞留時間が5分未満であると、水分が蒸発し切れずに炭化製品中に未炭化の汚泥が多く含まれるようになってしまう。
一方滞留時間が30分を超えると、汚泥から発生する乾留ガス(メタン,エタン等)の燃焼熱によって炭化炉の外熱室の温度を600℃未満に保持することが困難化する。
従って炭化炉内における滞留時間は5〜30分とすることが望ましい。
【0059】
尚本発明においては、外熱室の温度を400〜600℃未満の低温度に保持した場合であっても、排ガス処理室の温度は850℃以上に保持することが可能であることが確認されている。
而して排ガス処理室の温度をこのような高温度に保持することにより、排ガス中の未燃ガスを完全燃焼させ得て、排ガスを十分に浄化することができる。
【0060】
以上本発明の実施形態について詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態において用いた試験装置の説明図である。
【図2】本発明の実施形態において得られた炭化製品の成分組成を表した図である。
【図3】本発明の実施形態において得られた炭化製品の発熱量を表した図である。
【図4】本発明の実施形態において得られた炭化製品のH含有量と発熱量との関係を表した図である。
【図5】本発明の実施形態において得られた炭化製品のC含有量と発熱量との関係を表した図である。
【図6】本発明の実施形態において得られた炭化製品の強熱減量成分と発熱量との関係を表した図である。
【図7】本発明の実施形態において得られた炭化製品の発熱量と脱水汚泥の発熱量との関係を表した図である。
【図8】従来の炭化処理装置を示す図である。
【図9】図8の炭化炉を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 小型電気炉
12 加熱室
14 試料容器
16 温度検出器
18 温度記録計
20 電子はかり
22 レコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有した下水汚泥を乾留により炭化処理して成る炭化製品であって、質量%でH含有量が2%以上,O含有量が10%以下の組成を有していることを特徴とする炭化製品。
【請求項2】
請求項1において、質量%でC含有量が40%以上の組成を有していることを特徴とする炭化製品。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、固形分の単位重量当りの発熱量が4000kcal/kg以上であることを特徴とする炭化製品。
【請求項4】
炉体内部に回転ドラムを乾留容器として配設し、該回転ドラムの軸方向の一端側から含水率を落とした下水汚泥を原料として供給し、該回転ドラムを回転させつつその内部に沿って軸方向に移動させ、該移動の過程で該回転ドラム周りの外熱室からの熱で該汚泥を乾留により炭化処理して、炭化製品を該回転ドラムの軸方向の他端側から排出する外熱式ロータリーキルンを炭化炉として備えた炭化処理装置にて炭化製品を製造するに際し、
前記外熱室の温度を400〜600℃未満の温度に制御することを特徴とする炭化製品の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記炭化炉への投入前の前記汚泥の含水率を質量%で50〜60%に調整することを特徴とする炭化製品の製造方法。
【請求項6】
請求項4,5の何れかにおいて、前記炭化炉内の前記汚泥の滞留時間を5〜30分とすることを特徴とする炭化製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−193622(P2006−193622A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6842(P2005−6842)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】