炭素ナノ構造体
【課題】電極材料及び触媒担体などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体を提供する。
【解決手段】金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドのワイヤー状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させ、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状空孔を有する炭素ナノ構造体を得る。
【解決手段】金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドのワイヤー状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させ、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状空孔を有する炭素ナノ構造体を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、低温型燃料電池、スーパーキャパシタやリチウムイオン2次電池の電極、あるいは液相触媒反応における触媒担持体として用いられ、その重要性と作製コストの廉価性の必要が益々高まっている。電極や触媒担体としての使用に対しては、空孔率が高く気体や液体の流動性の高さが重要となってくる。これに加えて、電極材料としては高い電気伝導特性と電流密度の高さが要求される。
【0003】
炭素材料を電極材料として使用する一例として、非特許文献1では、プロピレンガスの高温分解法で得られた顆粒状炭素の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって堆積付着させたシリコン・炭素複合物が、20時間放電速度(C/20)に於いて、1,270 mAh/cm-3という高い容量維持率を示し、炭素材の表面に固定しているにもかかわらず、98%以上の充放電効率を得ている。しかしながら、高い電流密度領域では、この容量維持率が著しく低下すること、また、比表面積が十分ではないため空洞内部の空間からの比表面積への寄与が大きく、上記特性を安定して得ることができないという問題があった。
【0004】
また、特許文献1には、活性炭のミクロ孔内に、リチウムと合金を形成できる金属、例えば錫、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウムなどの活物質を担持させることによって、リチウムイオン2次電池の負極を製造する技術が開示されている。しかしながら、上述した活物質の添加量は活性炭を構成する炭素の重量の30%が上限であり、十分な容量維持率を得ることができず、結果として十分な充放電効率を得ることができないという問題がある。
【0005】
炭素材料を触媒担体として使用する一例として、特許文献2では、金属を含まない有機材料から成るアモルファス炭素構造体に、イオンビーム励起化学気相堆積法を用いて、触媒金属(ガリウム)を導入し、触媒金属が導入されたアモルファス炭素構造体を500℃程度に加熱して、触媒金属をアモルファス炭素構造体から排出し、触媒金属を排出したアモルファス炭素構造体を冷却して、細孔を有するカーボン構造体を得、これを触媒担体として使用することが開示されている。しかしながら、このようにして得た触媒担体では細孔の密度が十分でないため、その後に触媒金属を担持させようとした場合において、その量を十分に保持することができないという問題があった。
【0006】
また、炭素材料を触媒担体に用いる例として、燃料電池の触媒がある。近年、燃料電池の劣化原因のひとつに、炭素材料の酸化消耗が寄与していることが判明しいている。耐酸化性向上のためには黒鉛化度を上げることが有効だが、通常の活性炭では、黒鉛結晶構造が成長する程度まで再熱処理を行うと、肝心の細孔が潰れてしまい、表面積が顕著に低下してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4069465号
【特許文献2】特開2009−203128号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】High-performance lithium-ion anodes using a hierarchical bottom-up approach, A. Magasinski, P. Dixon, B. Hertzberg, A. Kvit, J. Ayala, and G. Yushin, Nature Materials, 9(2010)353-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電極材料及び触媒担体などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させて得たことを特徴とする、炭素ナノ構造体に関する。
【0011】
なお、本発明における“ナノ構造体”とは、以下に詳述するように、この構造体を特徴づける構成要素が、nmオーダから数百nmオーダのスケールのものを含むことに由来して名付けられたものである。
【0012】
また、本発明の炭素ナノ構造体は、これまでにない全く新規な製造方法によって製造されたものであるため、以下に詳述する構造体の特徴は、当該構造体が潜在的に含んでいる特徴の内、一部の顕在化した特徴である可能性が大きい。このような観点から、本発明では、発明の対象物が物の発明ではあるが、敢えて製造方法によって規定し、上記炭素ナノ構造体が潜在的に含んでいる総ての構造的特徴を保護するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、電極材料及び触媒担体などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】銅メチルアセチリドのワイヤー状結晶体のSEM写真である。
【図2】銅メチルアセチリドのワイヤー状結晶体のTEM写真である。
【図3】本発明の炭素ナノ構造体の一例を示す外観SEM写真である。
【図4】図1に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【図5】図1に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【図6】図1に示す炭素ナノ構造体の一部におけるTEM写真である。
【図7】実施例における炭素ナノ構造体のTGA(熱重量測定)の結果を示すグラフである。
【図8】実施例における炭素ナノ構造体のTEM写真である。
【図9】実施例における炭素ナノ構造体の電子エネルギー損失スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例における炭素ナノ構造体の小角X線散乱スペクトルから得られた空孔分布(体積)を示すグラフである。
【図11】実施例における炭素ナノ構造体の窒素の吸・脱着曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0016】
本発明の炭素ナノ構造体は、次のようにして得ることができる。
最初に、炭素ナノ構造体の前駆体に相当する金属内包炭素ナノ構造体を製造する。金属内包炭素ナノ構造体は、例えば以下の製造工程に基づいて製造することができる。
【0017】
塩化第一銅のアンモニア水溶液にメチルアセチレンガスまたはメチルアセチレンを含む混合ガスを吹き込む。この際、前記溶液の攪拌を激しく行う。これによって、前記溶液中に黄色の銅メチルアセチリドのワイヤー(図1及び図2参照)の沈殿物が生成する。
【0018】
次いで、前記沈殿物を大きめのステンレス製耐圧反応管に移し、電気炉に入れ、例えば90〜120℃の温度で例えば12時間以上脱溶媒処理を行う。これに、例えば水素ガスを0.01kPa以下、好ましくは0.001kPa以上となるようにして導入し、さらに210〜250℃に加熱(第1の加熱処理)すると、暫くしてガスが発生し、メタン及びエチレンの気体、炭素及び銅ナノ粒子の固体への偏析反応が起こる。
【0019】
また、上記加熱処理によって、偏析反応によって生成した炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体が得られるとともに、同じく偏析反応によって生成した銅ナノ粒子が炭素ナノ構造中間体中に内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を得る。
【0020】
なお、水素ガスの導入は反応直後に生じた炭素の末端の酸化を防ぐためである。また、上述のように水素ガス中で加熱処理を行うことによって、比較的低い温度で偏析反応を生ぜしめることができるとともに、金属内包炭素ナノ構造体を得ることができる。また、偏析反応に伴うガスの発生は、金属内包炭素ナノ構造体中に無数の空洞を形成する。したがって、金属内包炭素ナノ構造体は、図3に示すような、多数のミクロンオーダーの空隙がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となる。
【0021】
本例では、金属内包炭素ナノ構造体を製造するに際し、塩化第一銅のアンモニア水溶液を用い、金属内包炭素ナノ構造体に内包する金属を銅としているが、これは原料である塩化第一銅の準備及び調整を容易に行うことができることに由来するものである。
【0022】
なお、金属内包炭素ナノ構造体自体も金属体を内包しているので高い電気伝導性を呈する。したがって、高い気孔性と高い電気伝導性とを十分に満足した炭素構造体(炭素材料)として機能させることができる。したがって、電極や触媒担持電極等として好適に用いることができる。この場合、上述のように、内包させる金属を銅とすることにより、電気伝導性をより向上させることができる。
【0023】
次に、上述のようにして得た金属内包炭素ナノ構造物に対して硝酸を接触させる。これは、金属内包炭素ナノ構造体内に内包されている上記金属が、これを囲む炭素壁によって強固に保持されているため、上記硝酸によって上記金属を取り囲む炭素壁の一部を溶かし、以下に説明する第2の加熱処理によって上記金属の噴出を容易かつ完全に行うようにし、上記金属除去後の金属内包炭素ナノ構造体に形成される、後の炭素ナノ構造体の空孔に相当する空洞中に上記金属が残留するのを防止するためのものである。
【0024】
なお、金属内包炭素ナノ構造物を硝酸に接触させた際には、この金属内包炭素ナノ構造物中に内包された上記金属の少なくとも一部が溶出する。
【0025】
また、硝酸は、適宜水で薄めて硝酸水溶液として使用することができる。硝酸との接触時間は、用いる硝酸水溶液の濃度などにも依存するが、好ましくは数十時間である。
【0026】
次に、第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される金属を噴出(昇華脱離)させ、炭素ナノ構造体を得る。この場合、金属の噴出後の空洞が炭素ナノ構造体の空孔を形成する。第2の加熱処理は、例えば真空中、900℃〜1400℃の温度において数時間、具体的には5時間〜10時間行う。
【0027】
第2の加熱処理は、マイクロ波を用いて行うこともできる。この場合、上記のような真空加熱に比較して、コストを抑えることができる。
【0028】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、残存した前記金属を除去することができる。空孔内に噴出させるべき金属が残存していると、後に空孔内に金属を担持させて触媒あるいは電極とした場合に、これら金属同士が互いに反応してしまい、目的とする特性を有する触媒あるいは電極を得ることができない場合がある。
【0029】
しかしながら、上述のように、金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、空洞内、すなわち形成すべき空孔内に残存する金属を除去することによって、上述した不利益を除去することができる。
【0030】
上記溶解洗浄は、例えば金属内包炭素ナノ構造体を4〜8時間熱硝酸に浸漬させることによって行うことができる。
【0031】
また、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しては、金属内包炭素ナノ構造体に対して第3の加熱処理を施して行うこともできる。この場合、第3の加熱処理を例えば500℃〜1400℃の範囲で行うことによって、残留した金属を炭素から分離して除去することができる。
【0032】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しての溶解洗浄と第3の加熱処理とは、それぞれ単独で用いることもできるし、両者を併合させて用いることもできる。
【0033】
以上のような工程を経て得た炭素ナノ構造体は、例えば、図3に示すように、厚紙の束を燃やして炭化させた燃えかすのような形状をしており、多数のミクロンオーダーの孔がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となっている。また、図4及び図5に示すように、その表面は瘤状の隆起物で覆われている。なお、図3は、上述のようにして得た炭素ナノ構造体の外観SEM写真であり、図4及び図5は、図3に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【0034】
なお、炭素ナノ構造体を構成する棒状体の直径及び前記板状体の幅は約100nm以上10μm以下である。
【0035】
図6は、図3に示す炭素ナノ構造体の一部におけるTEM写真である。図6から明らかなように、上述にようにして得た炭素ナノ構造体は、その内部において3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに3次元的に連通してなる肺胞状の空孔を有することが分かる。また、肺胞状の空孔は、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、ある1つの空孔を画定する層がその空孔と隣接する空孔をも画定し、これによって隣接する空孔同士が互いに連通していることが分かる。
【0036】
また、図6からも明らかなように、上記空孔は、一般には表皮付近の比較的小さな、例えば空孔径が1nm以上20nm以下の空孔(第1の空孔)と、内部の比較的大きな、例えば空孔径が10nm以上80nm以下の空孔(第2の空孔)とを含む。
【0037】
なお、本発明における“肺胞状の空孔”とは、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、隣接する空孔同士が互いに連通しているような状態をいう。
【0038】
図6からも明らかなように、炭素ナノ構造体が肺胞状の空孔を有すると、炭素ナノ構造体中に占める空孔の割合が極めて高くなることが分かる。したがって、このようにして形成された空孔に対して触媒金属あるいは電極材料を担持させれば、その担持量を飛躍的に増大させることができるので、炭素ナノ構造体を含む触媒あるいは電極材料において、それぞれの特性を飛躍的に向上させることができる。
【0039】
また、グラフェン多層膜壁の形成には、上述した第2の加熱処理が寄与していると考えられる。すなわち、上述の金属を囲む炭素をグラフェン化して、寄与し、さらにはグラフェン多層膜壁の任意の層を枝分かれさせて、肺胞状の空孔の形成に寄与する。
【0040】
本例における炭素ナノ構造体は、例えば80m2/g以上のBET比表面積を有し、多くの場合300m2/g以上のBET比表面積を有する。BET比表面積の大小は、例えば炭素ナノ構造体を構成する棒状体及び板状体の直径や、炭素ナノ構造体中に含まれる空孔径に依存する。例えば、棒状体及び板状体の直径が小さいほど、さらには空孔径が小さいほど上記BET比表面積は増大する。
【0041】
炭素ナノ構造体の空孔および網状構造によって生じるメソ空間の分布は、例えば小角X線散乱スペクトルによって知ることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
最初に、第一塩化銅を0.1モル/L(リッター)の濃度で含むアンモニア水溶液(5.5%)をフラスコに用意し、これを激しく攪拌しながら窒素ガスで10%に希釈したメチルアセチレンガスを1L の溶液に対し200mL/min の流速で約120分間、回転する溶液の底部から吹き込んだ。これによって、溶液中に銅メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体が生じ沈殿を始めた。
【0043】
次いで、前記沈殿物をメンブレンフィルターで濾過し、ろ過の際に、前記棒状結晶体及び/又は板状結晶体の沈殿物をメタノールで洗浄した。反応時間を長くすると、数百ミクロンの長さにまですることができる。この操作を6回繰り返し、黄色のワイヤー結晶水和沈殿物約50gを得た。
【0044】
次いで、前記沈殿物50gを300mLの肉厚ビーカーに入れ、これを更に3Lの肉厚ビーカーに入れてこれにテフロン(登録商標)の板を置いて蓋とした。テフロン(登録商標)の板は4枚で、それぞれ厚さ10mmで空気抜けの小さな穴が重ならないように開けてある。これを内径155mm、長さ300mmの肉厚5mmのステンレス製真空容器に入れ、一度、100Pa以下に減圧する。この状態で水素ガスを1L導入し、0.3気圧程度の圧力で、反応容器の温度を250℃に30分かけて昇温させた。
【0045】
この際、圧力は徐々に上がって来るが、2〜3時間後に急に圧力が1気圧強まで上昇した。これを冷却することによって真空容器内部に約20gの金属内包炭素ナノ構造体を得た。
【0046】
次いで、1Lの三角フラスコに、得られた金属内包炭素ナノ構造体の20gを入れ、30〜40重量%の硝酸水溶液400mLを加えると、炭素ナノ構造体は萎むと同時に赤褐色の二酸化窒素ガスを発生し、さらに炭素ナノ構造体中に残留した銅が溶解した。60℃程度に約30〜48時間加熱し、銅の溶解と不安定な炭素を酸化させた。
【0047】
これを濾過し、十分に洗浄乾燥させ、石英管に入れて1100℃で12時間程度真空加熱を行った。すると石英管の末端の低温部の壁にまず有機物薄膜が、次いで銅が昇華沈着した。炭素部分のみを取り出し、再度、熱硝酸で残留銅を溶解し、これを乾燥の後、アルミナ製タンマン管に入れて1400℃で10時間加熱した。
【0048】
この段階で得られた炭素ナノ構造体にTGA(熱重量測定)を実施した結果、図7に示すようなグラフが得られた。これは、燃焼温度が680℃とグラファイトに近く、残留金属も2重量%以下であった。このもののTEM像を図8に、電子エネルギー損失スペクトルを図9に、小角X線散乱スペクトルから得られた空孔分布(体積)を図10に、窒素の吸・脱着曲線を図11に示した。図11のデータから得られたBET(Brunauer,Emmett,Teller)比表面積は、300m2/gであった。また、図10に示すグラフから、炭素ナノ構造体の表面近傍では約6nmの小さい空孔が多く(Comp. 1 and 3)、炭素ナノ構造体の内部では約40nmの大きな空孔が多い(Comp. 2)ことがわかる。
【0049】
(実施例2)
実施例1においては、銅ナノ粒子を内包した炭素ナノ構造体を硝酸処理によって銅の除去と空孔どうしの空間結合部の拡大を図っている。本実施例では、1100℃の真空加熱の代わりに、マイクロ波による加熱を実施した。なお、加熱時間は2時間弱で十分であった。硝酸処理では、空孔同士が結合して、平均径が40nmという大きな空孔が生じた。
【0050】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、低温型燃料電池、スーパーキャパシタやリチウムイオン2次電池の電極、あるいは液相触媒反応における触媒担持体として用いられ、その重要性と作製コストの廉価性の必要が益々高まっている。電極や触媒担体としての使用に対しては、空孔率が高く気体や液体の流動性の高さが重要となってくる。これに加えて、電極材料としては高い電気伝導特性と電流密度の高さが要求される。
【0003】
炭素材料を電極材料として使用する一例として、非特許文献1では、プロピレンガスの高温分解法で得られた顆粒状炭素の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって堆積付着させたシリコン・炭素複合物が、20時間放電速度(C/20)に於いて、1,270 mAh/cm-3という高い容量維持率を示し、炭素材の表面に固定しているにもかかわらず、98%以上の充放電効率を得ている。しかしながら、高い電流密度領域では、この容量維持率が著しく低下すること、また、比表面積が十分ではないため空洞内部の空間からの比表面積への寄与が大きく、上記特性を安定して得ることができないという問題があった。
【0004】
また、特許文献1には、活性炭のミクロ孔内に、リチウムと合金を形成できる金属、例えば錫、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウムなどの活物質を担持させることによって、リチウムイオン2次電池の負極を製造する技術が開示されている。しかしながら、上述した活物質の添加量は活性炭を構成する炭素の重量の30%が上限であり、十分な容量維持率を得ることができず、結果として十分な充放電効率を得ることができないという問題がある。
【0005】
炭素材料を触媒担体として使用する一例として、特許文献2では、金属を含まない有機材料から成るアモルファス炭素構造体に、イオンビーム励起化学気相堆積法を用いて、触媒金属(ガリウム)を導入し、触媒金属が導入されたアモルファス炭素構造体を500℃程度に加熱して、触媒金属をアモルファス炭素構造体から排出し、触媒金属を排出したアモルファス炭素構造体を冷却して、細孔を有するカーボン構造体を得、これを触媒担体として使用することが開示されている。しかしながら、このようにして得た触媒担体では細孔の密度が十分でないため、その後に触媒金属を担持させようとした場合において、その量を十分に保持することができないという問題があった。
【0006】
また、炭素材料を触媒担体に用いる例として、燃料電池の触媒がある。近年、燃料電池の劣化原因のひとつに、炭素材料の酸化消耗が寄与していることが判明しいている。耐酸化性向上のためには黒鉛化度を上げることが有効だが、通常の活性炭では、黒鉛結晶構造が成長する程度まで再熱処理を行うと、肝心の細孔が潰れてしまい、表面積が顕著に低下してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4069465号
【特許文献2】特開2009−203128号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】High-performance lithium-ion anodes using a hierarchical bottom-up approach, A. Magasinski, P. Dixon, B. Hertzberg, A. Kvit, J. Ayala, and G. Yushin, Nature Materials, 9(2010)353-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電極材料及び触媒担体などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させて得たことを特徴とする、炭素ナノ構造体に関する。
【0011】
なお、本発明における“ナノ構造体”とは、以下に詳述するように、この構造体を特徴づける構成要素が、nmオーダから数百nmオーダのスケールのものを含むことに由来して名付けられたものである。
【0012】
また、本発明の炭素ナノ構造体は、これまでにない全く新規な製造方法によって製造されたものであるため、以下に詳述する構造体の特徴は、当該構造体が潜在的に含んでいる特徴の内、一部の顕在化した特徴である可能性が大きい。このような観点から、本発明では、発明の対象物が物の発明ではあるが、敢えて製造方法によって規定し、上記炭素ナノ構造体が潜在的に含んでいる総ての構造的特徴を保護するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、電極材料及び触媒担体などとして使用することのできる、新規な構造の炭素ナノ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】銅メチルアセチリドのワイヤー状結晶体のSEM写真である。
【図2】銅メチルアセチリドのワイヤー状結晶体のTEM写真である。
【図3】本発明の炭素ナノ構造体の一例を示す外観SEM写真である。
【図4】図1に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【図5】図1に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【図6】図1に示す炭素ナノ構造体の一部におけるTEM写真である。
【図7】実施例における炭素ナノ構造体のTGA(熱重量測定)の結果を示すグラフである。
【図8】実施例における炭素ナノ構造体のTEM写真である。
【図9】実施例における炭素ナノ構造体の電子エネルギー損失スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例における炭素ナノ構造体の小角X線散乱スペクトルから得られた空孔分布(体積)を示すグラフである。
【図11】実施例における炭素ナノ構造体の窒素の吸・脱着曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0016】
本発明の炭素ナノ構造体は、次のようにして得ることができる。
最初に、炭素ナノ構造体の前駆体に相当する金属内包炭素ナノ構造体を製造する。金属内包炭素ナノ構造体は、例えば以下の製造工程に基づいて製造することができる。
【0017】
塩化第一銅のアンモニア水溶液にメチルアセチレンガスまたはメチルアセチレンを含む混合ガスを吹き込む。この際、前記溶液の攪拌を激しく行う。これによって、前記溶液中に黄色の銅メチルアセチリドのワイヤー(図1及び図2参照)の沈殿物が生成する。
【0018】
次いで、前記沈殿物を大きめのステンレス製耐圧反応管に移し、電気炉に入れ、例えば90〜120℃の温度で例えば12時間以上脱溶媒処理を行う。これに、例えば水素ガスを0.01kPa以下、好ましくは0.001kPa以上となるようにして導入し、さらに210〜250℃に加熱(第1の加熱処理)すると、暫くしてガスが発生し、メタン及びエチレンの気体、炭素及び銅ナノ粒子の固体への偏析反応が起こる。
【0019】
また、上記加熱処理によって、偏析反応によって生成した炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体が得られるとともに、同じく偏析反応によって生成した銅ナノ粒子が炭素ナノ構造中間体中に内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を得る。
【0020】
なお、水素ガスの導入は反応直後に生じた炭素の末端の酸化を防ぐためである。また、上述のように水素ガス中で加熱処理を行うことによって、比較的低い温度で偏析反応を生ぜしめることができるとともに、金属内包炭素ナノ構造体を得ることができる。また、偏析反応に伴うガスの発生は、金属内包炭素ナノ構造体中に無数の空洞を形成する。したがって、金属内包炭素ナノ構造体は、図3に示すような、多数のミクロンオーダーの空隙がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となる。
【0021】
本例では、金属内包炭素ナノ構造体を製造するに際し、塩化第一銅のアンモニア水溶液を用い、金属内包炭素ナノ構造体に内包する金属を銅としているが、これは原料である塩化第一銅の準備及び調整を容易に行うことができることに由来するものである。
【0022】
なお、金属内包炭素ナノ構造体自体も金属体を内包しているので高い電気伝導性を呈する。したがって、高い気孔性と高い電気伝導性とを十分に満足した炭素構造体(炭素材料)として機能させることができる。したがって、電極や触媒担持電極等として好適に用いることができる。この場合、上述のように、内包させる金属を銅とすることにより、電気伝導性をより向上させることができる。
【0023】
次に、上述のようにして得た金属内包炭素ナノ構造物に対して硝酸を接触させる。これは、金属内包炭素ナノ構造体内に内包されている上記金属が、これを囲む炭素壁によって強固に保持されているため、上記硝酸によって上記金属を取り囲む炭素壁の一部を溶かし、以下に説明する第2の加熱処理によって上記金属の噴出を容易かつ完全に行うようにし、上記金属除去後の金属内包炭素ナノ構造体に形成される、後の炭素ナノ構造体の空孔に相当する空洞中に上記金属が残留するのを防止するためのものである。
【0024】
なお、金属内包炭素ナノ構造物を硝酸に接触させた際には、この金属内包炭素ナノ構造物中に内包された上記金属の少なくとも一部が溶出する。
【0025】
また、硝酸は、適宜水で薄めて硝酸水溶液として使用することができる。硝酸との接触時間は、用いる硝酸水溶液の濃度などにも依存するが、好ましくは数十時間である。
【0026】
次に、第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される金属を噴出(昇華脱離)させ、炭素ナノ構造体を得る。この場合、金属の噴出後の空洞が炭素ナノ構造体の空孔を形成する。第2の加熱処理は、例えば真空中、900℃〜1400℃の温度において数時間、具体的には5時間〜10時間行う。
【0027】
第2の加熱処理は、マイクロ波を用いて行うこともできる。この場合、上記のような真空加熱に比較して、コストを抑えることができる。
【0028】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、残存した前記金属を除去することができる。空孔内に噴出させるべき金属が残存していると、後に空孔内に金属を担持させて触媒あるいは電極とした場合に、これら金属同士が互いに反応してしまい、目的とする特性を有する触媒あるいは電極を得ることができない場合がある。
【0029】
しかしながら、上述のように、金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、空洞内、すなわち形成すべき空孔内に残存する金属を除去することによって、上述した不利益を除去することができる。
【0030】
上記溶解洗浄は、例えば金属内包炭素ナノ構造体を4〜8時間熱硝酸に浸漬させることによって行うことができる。
【0031】
また、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しては、金属内包炭素ナノ構造体に対して第3の加熱処理を施して行うこともできる。この場合、第3の加熱処理を例えば500℃〜1400℃の範囲で行うことによって、残留した金属を炭素から分離して除去することができる。
【0032】
なお、金属内包炭素ナノ構造体に残存する金属を除去するに際しての溶解洗浄と第3の加熱処理とは、それぞれ単独で用いることもできるし、両者を併合させて用いることもできる。
【0033】
以上のような工程を経て得た炭素ナノ構造体は、例えば、図3に示すように、厚紙の束を燃やして炭化させた燃えかすのような形状をしており、多数のミクロンオーダーの孔がランダムに形成され、棒状体及び/又は板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造物(モノリス)となっている。また、図4及び図5に示すように、その表面は瘤状の隆起物で覆われている。なお、図3は、上述のようにして得た炭素ナノ構造体の外観SEM写真であり、図4及び図5は、図3に示す炭素ナノ構造体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【0034】
なお、炭素ナノ構造体を構成する棒状体の直径及び前記板状体の幅は約100nm以上10μm以下である。
【0035】
図6は、図3に示す炭素ナノ構造体の一部におけるTEM写真である。図6から明らかなように、上述にようにして得た炭素ナノ構造体は、その内部において3層から10層分のグラフェン多層膜壁で画定され、互いに3次元的に連通してなる肺胞状の空孔を有することが分かる。また、肺胞状の空孔は、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、ある1つの空孔を画定する層がその空孔と隣接する空孔をも画定し、これによって隣接する空孔同士が互いに連通していることが分かる。
【0036】
また、図6からも明らかなように、上記空孔は、一般には表皮付近の比較的小さな、例えば空孔径が1nm以上20nm以下の空孔(第1の空孔)と、内部の比較的大きな、例えば空孔径が10nm以上80nm以下の空孔(第2の空孔)とを含む。
【0037】
なお、本発明における“肺胞状の空孔”とは、空孔を画定するグラフェン多層膜壁の、任意の層が枝分かれを繰り返し、隣接する空孔同士が互いに連通しているような状態をいう。
【0038】
図6からも明らかなように、炭素ナノ構造体が肺胞状の空孔を有すると、炭素ナノ構造体中に占める空孔の割合が極めて高くなることが分かる。したがって、このようにして形成された空孔に対して触媒金属あるいは電極材料を担持させれば、その担持量を飛躍的に増大させることができるので、炭素ナノ構造体を含む触媒あるいは電極材料において、それぞれの特性を飛躍的に向上させることができる。
【0039】
また、グラフェン多層膜壁の形成には、上述した第2の加熱処理が寄与していると考えられる。すなわち、上述の金属を囲む炭素をグラフェン化して、寄与し、さらにはグラフェン多層膜壁の任意の層を枝分かれさせて、肺胞状の空孔の形成に寄与する。
【0040】
本例における炭素ナノ構造体は、例えば80m2/g以上のBET比表面積を有し、多くの場合300m2/g以上のBET比表面積を有する。BET比表面積の大小は、例えば炭素ナノ構造体を構成する棒状体及び板状体の直径や、炭素ナノ構造体中に含まれる空孔径に依存する。例えば、棒状体及び板状体の直径が小さいほど、さらには空孔径が小さいほど上記BET比表面積は増大する。
【0041】
炭素ナノ構造体の空孔および網状構造によって生じるメソ空間の分布は、例えば小角X線散乱スペクトルによって知ることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
最初に、第一塩化銅を0.1モル/L(リッター)の濃度で含むアンモニア水溶液(5.5%)をフラスコに用意し、これを激しく攪拌しながら窒素ガスで10%に希釈したメチルアセチレンガスを1L の溶液に対し200mL/min の流速で約120分間、回転する溶液の底部から吹き込んだ。これによって、溶液中に銅メチルアセチリドの棒状結晶体及び/又は板状結晶体が生じ沈殿を始めた。
【0043】
次いで、前記沈殿物をメンブレンフィルターで濾過し、ろ過の際に、前記棒状結晶体及び/又は板状結晶体の沈殿物をメタノールで洗浄した。反応時間を長くすると、数百ミクロンの長さにまですることができる。この操作を6回繰り返し、黄色のワイヤー結晶水和沈殿物約50gを得た。
【0044】
次いで、前記沈殿物50gを300mLの肉厚ビーカーに入れ、これを更に3Lの肉厚ビーカーに入れてこれにテフロン(登録商標)の板を置いて蓋とした。テフロン(登録商標)の板は4枚で、それぞれ厚さ10mmで空気抜けの小さな穴が重ならないように開けてある。これを内径155mm、長さ300mmの肉厚5mmのステンレス製真空容器に入れ、一度、100Pa以下に減圧する。この状態で水素ガスを1L導入し、0.3気圧程度の圧力で、反応容器の温度を250℃に30分かけて昇温させた。
【0045】
この際、圧力は徐々に上がって来るが、2〜3時間後に急に圧力が1気圧強まで上昇した。これを冷却することによって真空容器内部に約20gの金属内包炭素ナノ構造体を得た。
【0046】
次いで、1Lの三角フラスコに、得られた金属内包炭素ナノ構造体の20gを入れ、30〜40重量%の硝酸水溶液400mLを加えると、炭素ナノ構造体は萎むと同時に赤褐色の二酸化窒素ガスを発生し、さらに炭素ナノ構造体中に残留した銅が溶解した。60℃程度に約30〜48時間加熱し、銅の溶解と不安定な炭素を酸化させた。
【0047】
これを濾過し、十分に洗浄乾燥させ、石英管に入れて1100℃で12時間程度真空加熱を行った。すると石英管の末端の低温部の壁にまず有機物薄膜が、次いで銅が昇華沈着した。炭素部分のみを取り出し、再度、熱硝酸で残留銅を溶解し、これを乾燥の後、アルミナ製タンマン管に入れて1400℃で10時間加熱した。
【0048】
この段階で得られた炭素ナノ構造体にTGA(熱重量測定)を実施した結果、図7に示すようなグラフが得られた。これは、燃焼温度が680℃とグラファイトに近く、残留金属も2重量%以下であった。このもののTEM像を図8に、電子エネルギー損失スペクトルを図9に、小角X線散乱スペクトルから得られた空孔分布(体積)を図10に、窒素の吸・脱着曲線を図11に示した。図11のデータから得られたBET(Brunauer,Emmett,Teller)比表面積は、300m2/gであった。また、図10に示すグラフから、炭素ナノ構造体の表面近傍では約6nmの小さい空孔が多く(Comp. 1 and 3)、炭素ナノ構造体の内部では約40nmの大きな空孔が多い(Comp. 2)ことがわかる。
【0049】
(実施例2)
実施例1においては、銅ナノ粒子を内包した炭素ナノ構造体を硝酸処理によって銅の除去と空孔どうしの空間結合部の拡大を図っている。本実施例では、1100℃の真空加熱の代わりに、マイクロ波による加熱を実施した。なお、加熱時間は2時間弱で十分であった。硝酸処理では、空孔同士が結合して、平均径が40nmという大きな空孔が生じた。
【0050】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドのワイヤー状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させて得たことを特徴とする、炭素ナノ構造体。
【請求項2】
前記第1の加熱処理は、減圧下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項3】
前記第1の加熱処理は、水素雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項4】
前記金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、残存した前記金属を除去して得たことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項5】
前記金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に第3の加熱処理を施し、残存した前記金属を除去して得たことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項6】
前記金属は、銅であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項7】
炭素を含む前記棒状体及び/又は前記板状体は3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中には、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状の空孔が形成されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項8】
前記炭素ナノ構造体は、3次元網状構造の一体型構造物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項9】
前記棒状体の直径及び前記板状体の幅が100nm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項10】
前記空孔は、空孔径が1nm以上20nm以下の第1の空孔と、空孔径が10nm以上80nm以下の第2の空孔とを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項11】
前記炭素ナノ構造体は、BET比表面積が80m2/g以上であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項12】
前記炭素ナノ構造体は、BET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする、請求項11に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項1】
金属塩を含む溶液に対してメチルアセチレンガスを吹き込み、金属メチルアセチリドのワイヤー状結晶体を作製し、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体に第1の加熱処理を施して、前記金属メチルアセチリド中の金属を偏析させるとともに、前記棒状結晶体及び/又は前記板状結晶体中の炭素を偏析させ、炭素を含む棒状体及び/又は板状体が3次元的に結合してなる炭素ナノ構造中間体を得るとともに、この炭素ナノ構造中間体中に前記金属が内包されてなる金属内包炭素ナノ構造体を作製し、前記金属内包炭素ナノ構造体を硝酸と接触させ、前記金属内包炭素ナノ構造物に対して第2の加熱処理を施して、前記金属内包炭素ナノ構造物に内包される前記金属を噴出させて得たことを特徴とする、炭素ナノ構造体。
【請求項2】
前記第1の加熱処理は、減圧下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項3】
前記第1の加熱処理は、水素雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項4】
前記金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に溶解洗浄を施し、残存した前記金属を除去して得たことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項5】
前記金属内包炭素ナノ構造体に内包される前記金属を噴出させた後、前記金属内包炭素ナノ構造体に第3の加熱処理を施し、残存した前記金属を除去して得たことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項6】
前記金属は、銅であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項7】
炭素を含む前記棒状体及び/又は前記板状体は3次元的に結合してなり、前記棒状体及び/又は前記板状体中には、グラフェン多層膜壁で画定される肺胞状の空孔が形成されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項8】
前記炭素ナノ構造体は、3次元網状構造の一体型構造物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項9】
前記棒状体の直径及び前記板状体の幅が100nm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項10】
前記空孔は、空孔径が1nm以上20nm以下の第1の空孔と、空孔径が10nm以上80nm以下の第2の空孔とを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項11】
前記炭素ナノ構造体は、BET比表面積が80m2/g以上であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一に記載の炭素ナノ構造体。
【請求項12】
前記炭素ナノ構造体は、BET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする、請求項11に記載の炭素ナノ構造体。
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【公開番号】特開2012−62222(P2012−62222A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207936(P2010−207936)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】
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