説明

炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置

【課題】 熱可塑性樹脂テープ製造時、毛羽蓄積に伴う樹脂含浸装置内部での炭素繊維の切断、テープの変形等のトラブルを防止する炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置を提供する。
【解決手段】 内部を走行する炭素繊維4が溶融熱可塑性樹脂で含浸される溶融樹脂含浸装置6と、溶融熱可塑性樹脂中を通過して溶融樹脂が含浸された炭素繊維4を引き抜く下流側スリットノズル12とを備え、前記樹脂含浸装置6の下流側端部にはノズル上部部材20及びノズル下部部材26が所定間隔離間して取り付けられると共に、前記ノズル上部部材20とノズル下部部材26との間隙を互いに縮める方向にノズル上部部材20とノズル下部部材26の少なくとも一方を付勢する手段36を設けた構成の製造装置にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置に関する。本装置は、熱可塑性樹脂テープ製造時、毛羽蓄積に伴う樹脂含浸装置(樹脂含浸クロスダイヘッド)内部での炭素繊維の切断、テープの変形等のトラブルを防止できる。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維及び炭素繊維複合材料は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、耐薬品性、疲労特性、耐摩耗性に優れる、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる、電磁波シールド性、X線透過性に富むなどの優れた特長を有していることから、スポーツ・レジャー、航空・宇宙、一般産業用途に幅広く適用されている。従来は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を複合材料のマトリックスとすることが多かったが、最近、リサイクル性・高速成型性の観点から熱可塑性樹脂が注目されている。
【0003】
熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化樹脂複合材料用中間素材の製造装置としては、内部に溶融熱可塑性樹脂が収納されると共に内部を走行中の強化用繊維が溶融熱可塑性樹脂で含浸される溶融樹脂含浸装置と、溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路と、炭素繊維供給用の上流側ノズルと、溶融熱可塑性樹脂中を通過する溶融樹脂が含浸された炭素繊維引抜用の下流側ノズルとを備えた繊維強化熱可塑性樹脂複合材料用中間素材(いわゆる長繊維ペレット)の製造装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、テープ形状等の広幅薄肉形状の複合材料製造用中間素材を製造する際には、例えば一般的な矩形状セラミックノズルを使用すると炭素繊維引抜用の下流側ノズルにおいて、炭素繊維に由来する毛羽が蓄積して炭素繊維の切断トラブルがしばしば発生することがあった。
【特許文献1】特開2003−305779号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、図6に示す炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープ製造装置を新たに製造し、この装置を用いて熱可塑性樹脂テープを製造することを試みた。
【0006】
図6(A)は上記製造装置の正面図であり、図6(B)は上記製造装置の右側面図である。
【0007】
図6において、92は炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置である。この製造装置92は、内部に溶融熱可塑性樹脂が収納されると共に内部を走行中の炭素繊維94が溶融熱可塑性樹脂で含浸される溶融樹脂含浸装置96と、溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路98と、炭素繊維供給用の上流側スリットノズル100と、溶融熱可塑性樹脂中を通過する溶融樹脂が含浸された炭素繊維引抜用の下流側スリットノズル102とが備えられてなる。
【0008】
溶融樹脂含浸装置96は、上型部104と空間部106と下型部108とからなる。樹脂含浸装置上型部104の下流側端部にはノズル上部部材110が、支持枠112に取り付けられ、差込みバー114によって支持枠112に固定されている。樹脂含浸装置下型部108の下流側端部にはノズル下部部材116が、支持枠112に取り付けられ、差込みバー118によって支持枠112に固定されている。下流側スリットノズル102はノズル上部部材110とノズル下部部材116との間隙で形成されてなる。なお、支持枠112は固定端120a、120bで固定されている。また、ノズル上部部材110及びノズル上部部材116は何れも加熱されている。
【0009】
この製造装置92において、炭素繊維94は通常1000〜48000本の単繊維が束ねられたストランドの形態で上流側スリットノズル100から樹脂含浸装置空間部106に供給される。樹脂含浸装置空間部106を走行中の炭素繊維ストランド94は、ノズル上部部材110とノズル下部部材116に取り付けられたしごきバー122に沿ってジグザグに搬送されると共にしごきバー122に押圧されて解繊されると共に溶融熱可塑性樹脂で含浸される。溶融熱可塑性樹脂で含浸された炭素繊維94は、下流側スリットノズル102を通り、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの形態で引き出される。
【0010】
しかし、この製造装置92を用いてテープを製造する場合は、炭素繊維維は繊維引抜用の下流側スリットノズル102の上流側において、溶融樹脂含浸装置96内を走行中に発生する毛羽が蓄積し、繊維の切断等のトラブルが発生することがある。このトラブルはスリットノズルの間隙が狭くなるほど多発する傾向にあり、450μmより狭い場合特に多くなる。
【0011】
本発明者は、上記問題を解決するために検討を重ねているうちに、ノズル下部部材を所定間隔離間して取り付けると共に、前記ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙を互いに縮める方向にノズル上部部材とノズル下部部材の少なくとも一方を付勢する手段を設けることを考えた。これにより、ノズルの上流側において毛羽が蓄積してスリットノズルの間隙の一部が塞がると、毛羽を下流方向に引き取ろうとする力の法線成分が付勢手段の抑え圧以上になって、ノズル上部部材を持ち上げて及び/又はノズル下部部材を押し下げて自然に毛羽を下流に送り出すことを知得した。
【0012】
また、下流側スリットノズルの直ぐの下流に、冷却金属ローラー若しくはスリットブロワを設けることにより、テープ幅が狭まるテープ変形を防止できることを知得した。
【0013】
更に、樹脂含浸装置上型部と樹脂含浸装置下型部とを着脱自在に構成することにより、運転開始時や原料繊維交換時などの際、原料繊維の誘導、取付けが容易になって生産性を向上できることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0014】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0016】
[1] 溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路と炭素繊維供給用の上流側スリットノズルとを備えると共に、内部に溶融熱可塑性樹脂が収納されてその内部を走行する炭素繊維が溶融熱可塑性樹脂で含浸される溶融樹脂含浸装置と、溶融熱可塑性樹脂中を通過して溶融樹脂が含浸された炭素繊維を引き抜く下流側スリットノズルとを備えた炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置であって、前記樹脂含浸装置の下流側端部にはノズル上部部材及びノズル下部部材が所定間隔離間して取り付けられると共に、前記ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙を互いに縮める方向にノズル上部部材とノズル下部部材の少なくとも一方を付勢する手段を設けてなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【0017】
[2] ノズル上部部材及びノズル下部部材が100〜400℃の範囲で温度コントロールする手段を備えたローラーである[1]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【0018】
[3] 下流側スリットノズルの下流に冷却金属ローラーを有する[1]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【0019】
[4] 下流側スリットノズルの下流にスリットブロワを有する[1]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【0020】
[5] 樹脂含浸装置上型部と樹脂含浸装置下型部とが着脱自在に構成されてなる[1]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【0021】
[6] ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙が450μm以下である[1]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置は、下流側スリットノズルにおいて毛羽が蓄積して溶融樹脂接触面の面圧が上昇すると、その面圧に応じて圧力シリンダーの抑え圧が下降してノズル上部部材が持ち上がり、テープと共に毛羽を下流側スリットノズルから引き出され、毛羽の蓄積が解消される。
【0023】
また、下流側スリットノズルに近接してその下流に、冷却金属ローラー若しくはスリットブロワを設ける場合は、テープ幅が狭まるテープ変形を防止できる。
【0024】
更に、必要に応じ、樹脂含浸装置上型部と樹脂含浸装置下型部とを着脱自在に構成しているので、運転開始時や原料繊維交換時などの際、原料繊維の誘導、取付けが容易になって生産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の一例を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【0027】
図1において、2は炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置である。
【0028】
6は、ほぼ直方体の溶融樹脂含浸装置で、下面が開放された筺状の上型部14と上面が開放された筺状の下型部18とからなり、上型部14と下型部18とを互いに嵌合することにより、その内部に空間部16を形成している。樹脂含浸装置上型部14の下流側端部はほぼ1/4円の円弧状に面取りされた摺動材料からなる部材(摺動部材)Pで形成されている。前記摺動部材Pにはローラーからなるノズル上部部材20が、摺動部材Pに液密に押圧された状態でコ字状の上部支持枠22に取り付けられ、差込みバー24によって固定されている。樹脂含浸装置下型部18の下流側端部には、上型部14と同様にローラーからなるノズル下部部材26が、摺動部材Pに液密に押圧された状態で下部支持枠28a、28bに取り付けられ、差込みバー30によって固定されている。下流側スリットノズル12はノズル上部部材20とノズル下部部材26との間隙で形成されてなる。
【0029】
ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙は、使用する炭素繊維の繊度や炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの繊維の体積含有率にも依るが、450μm以下が好ましく、20〜300μmが更に好ましく、30〜100μmが特に好ましい。ノズル上部部材20及びノズル上部部材26は何れも加熱されている。加熱温度は溶融樹脂含浸装置6内の温度から樹脂の融点付近にあることが好ましい。この温度は通常100〜400℃、好ましくは150〜300℃の範囲でコントロールされている。
【0030】
下部支持枠28a、28bは固定端32a、32bで接続、固定されている。一方、上部支持枠22は、上下方向に揺動自在に、付勢手段である圧力シリンダー36に連結されている。このため、ノズル上部部材20は圧力シリンダー36により上下動が制御される構造になっている。
【0031】
上部支持枠22の一方の下端38aと下部支持枠28aの上端40aとの間隙、及び、上部支持枠22の他方の下端38bと下部支持枠28bの上端40bとの間隙は、何れも下流側スリットノズル12の間隙と同じにしてある。
【0032】
通常の運転においては下流側スリットノズル12の間隙が一定であるように、上部支持枠22の一方の下端38aと下部支持枠28aの上端40aとの間隙、及び、上部支持枠22の他方の下端38bと下部支持枠28bの上端40bとの間隙には、それぞれシムテープ等の間隙調節部材42a及び42bなどを挟んでおく。下流側スリットノズル12の間隙は、この間隙調節部材42a、42bの厚さを変更することにより調節できる。
【0033】
なお、44aは上型部14に取り付けた所定数(本図では5本)の上部しごきバー(固定)、44bは下型部18に取り付けた所定数(本図では5本)の下部しごきバー(固定)である。図1において、矢印Xは炭素繊維ストランド4の走行方向を示し、8は溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路である。
【0034】
図5は、図1の例の製造装置において、樹脂含浸装置上型部14を樹脂含浸装置下型部18から持ち上げた状態を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。図5では、装置の開閉以外の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付している。
【0035】
この製造装置2において、炭素繊維4は通常1000〜48000本の単繊維からなるストランドの形態で上流側スリットノズル10から樹脂含浸装置空間部16に供給される。樹脂含浸装置空間部16を走行中の炭素繊維ストランド4は、しごきバー44a、44bに押圧されてジグザグに走行しながら解繊されると共に溶融熱可塑性樹脂が含浸せしめられる。溶融熱可塑性樹脂で含浸された炭素繊維4は、下流側スリットノズル12に通され、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの形態で引き出される。
【0036】
この製造装置2を用いることにより、下流側スリットノズル12の上流側において毛羽が蓄積してスリットノズルの間隙の一部が塞がると、テープと、テープと絡んだ状態にある毛羽とを下流方向に引き取ろうとする力の法線成分が付勢手段36の抑え圧以上になり、ノズル上部部材20が持ち上げられ、毛羽が自然に排出される。付勢手段としては、圧力シリンダーやスプリング等が挙げられる。
【0037】
また、一度に大量の毛羽が上流から流れてくる場合に備えて、ノズル上部部材の溶融樹脂接触面に面圧を感知する感圧センサーを設け、感圧センサーの信号に基づいて付勢手段36を作動させることにより、ノズル上部部材20の上下動を行うことも可能である。
【0038】
運転中は、大量の毛羽が炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの一箇所に集中的に混入する欠点や、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープ中の樹脂目付異常を監視するため、ノズル上部部材とノズル下部部材の間隙をレーザーセンサなどで常時測定するのが望ましい。
【0039】
樹脂含浸装置下型部18は、ノズル上部部材20ともノズル下部部材26とも接触しており、樹脂含浸装置下型部18側の摺動部材は、ノズル上部部材20側の接触面ともノズル下部部材26側の接触面とも同じ形状である。しかも、樹脂含浸装置下型部18の摺動部材は、砲金等の強度、柔軟性が適度の材質のものが用いられている。そのため、樹脂含浸装置下型部18の、ノズル上部部材20及びノズル下部部材26との接触面は、溶融樹脂が漏れない構造になっている。
【0040】
更に、本例においてはノズル上部部材20が上下に揺動するように形成したが、ノズル下部部材26が上下に揺動するようにしても良い。
【0041】
図2は本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の他の例を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【0042】
図2の例の製造装置52においては、ノズル上部部材54及びノズル下部部材56はローラーに代えて、非回転性の部材が用いられている。この部材54、56は、互いに対向する面が円弧状に形成された、いわゆる蒲鉾型の半円柱で形成されている。
【0043】
この非回転性の部材にすることにより、毛羽の蓄積解消機能は図1の例の製造装置よりも多少低下するが、図6の例の製造装置よりも高い。なお、図1の例の製造装置と比較すると、簡単な構造の製造装置で炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープを製造できる特徴を図2の例の製造装置は有する。
【0044】
その他の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図3は本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の更に他の例を示す概略正面図である。
【0046】
図3の例の製造装置62では、下流側スリットノズル12の直ぐ下流に、20℃前後の温度にされた冷却金属ローラー64、66が設けられている。この製造装置62を用いてテープを製造する場合、下流側スリットノズル12から引き出されたテープは融点以上の温度であるので、外気中での自然冷却では表面張力等が作用してテープ厚みが増加し、テープ幅が減少する方向に変形しやすい。
【0047】
そこで、下流側スリットノズル12の直後に冷却金属ローラー64、66を設けてテープを急冷することによりテープ変形を防止できる。しかも、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの強度が高い。
【0048】
冷却金属ローラー64、66は、下流側スリットノズル12の下流のできるだけ近い位置に取り付けることが好ましい。但し、装置の構造上、最も近づけられる位置は、ノズル金属ローラー20、26と冷却金属ローラー64、66との軸心距離で各ローラーの半径の和のところまでである。
【0049】
これに対し、後述するスリットブロワでの空気吹付けによりテープを冷却する場合には、下流側スリットノズル12の極く近傍で冷却できる。
【0050】
冷却金属ローラー64は、支持枠68に取り付けられ、差込みバー(回転軸)70によって固定されている。冷却金属ローラー64は、支持枠72a、72b(不図示)に取り付けられ、差込みバー(回転軸)74によって固定されている。
【0051】
支持枠72a、72b(不図示)は固定端76a、76b(不図示)で接続、固定されている。一方、支持枠68は、支持枠72a、72b(不図示)から切り離され、しかも固定端には接続されていない。冷却金属ローラー64には差込みバー74及び支持枠68を介して圧力シリンダー78が設けられている。
【0052】
その他の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0053】
図4は本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の更に他の例を示す概略正面図である。
【0054】
図4の例の製造装置82では、下流側スリットノズル12の直ぐ下流に、スリットブロワ84が設けられている。これにより、上記と同様にしてテープ変形を防止できる。しかも、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの強度が高い。
【0055】
その他の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0056】
前述の図1の例の製造装置2は、樹脂含浸装置上型部14と樹脂含浸装置下型部18とが着脱自在に構成されているので、運転開始時や原料繊維交換時などの際、原料繊維の誘導、取付けが容易になって生産性を向上できる。
【0057】
また、図1の例の製造装置2において、ノズル上部ローラー20及びノズル下部ローラー26は、それぞれ差込みバー24及び30をボールベアリング軸受等の自由回転方式で構成している。この自由回転方式において、ローラーの周速がストランド4の走行速度と等しくなる場合は、ストランド4から発生する単糸毛羽がローラーに巻き付く場合がまれにある。
【0058】
このような場合には、ノズル上部ローラー20及びノズル下部ローラー26は、滑り軸受等の回転抵抗が大きい回転方式で構成するか、ローラーの周速を制御する方式の駆動式で構成することにより、毛羽巻付きを抑制できる。
【0059】
なお、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープ製造装置の形態は図1〜5の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0060】
以下の実施例及び比較例に記載した条件により炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープを作製した。
【0061】
[実施例1〜8及び比較例1〜3]
図1、2又は6に示す製造装置において、下流側スリットノズル間隙、上下ノズル部材間の応力を表1に示す値に調整した後、樹脂含浸装置空間部内の溶融樹脂[ポリプロピレン樹脂(ホモポリプロピレン汎用射出成型グレード、メルトフローレート20g/10分)]の温度及び上下ノズル部材の温度を230℃に調整した。
【0062】
この溶融樹脂含浸装置において、原料炭素繊維ストランド[東邦テナックス社製ベスファイトSTS−24K F301(直径7μm×24000フィラメント、繊度1.6g/m)]、又は、[東邦テナックス社製ベスファイトHTA−12K F202(直径7μm×12000フィラメント、繊度0.8g/m)]を2m/分で走行させ、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープを作製した。その結果を表1に示す。
【0063】
[実施例1〜4]
図3に示す製造装置において、下流側スリットノズル間隙、上下ノズル部材間の応力を表1に示す値に調整した後、樹脂含浸装置空間部内の溶融樹脂[ポリプロピレン樹脂(ホモポリプロピレン汎用射出成型グレード、メルトフローレート20g/10分)]の温度及び上下ノズル部材の温度を230℃に調整した。
【0064】
この製造装置においては、冷却金属ローラーを、下流側スリットノズルの下流でノズル金属ローラーと冷却金属ローラーとの軸心距離で200mmの箇所に設置し、冷却金属ローラーの温度を20℃に調整した。
【0065】
この溶融樹脂含浸装置において、原料炭素繊維ストランド[東邦テナックス社製ベスファイトSTS−24K F301(直径7μm×24000フィラメント、繊度1.6g/m)]、又は、[東邦テナックス社製ベスファイトHTA−12K F202(直径7μm×12000フィラメント、繊度0.8g/m)]を2m/分で走行させ、炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープを作製した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1〜4は樹脂含浸装置内部に細かな毛羽を溜めないため、ローラー間隙を著しく狭くしても、安定した運転ができた。一方、ローラーを非回転ノズル(固定ノズル)部材とし、更に加圧シリンダーの付いていない比較例1〜3は、スリット間隙を狭くして運転すると、例えば仮撚りが流れてきただけで毛羽立ち、まともに運転できなかった。ローラーを非回転ノズル(固定ノズル)部材としたが、加圧シリンダーを付けている実施例5〜8も実施例1〜4と同様に樹脂含浸装置内部に細かな毛羽を溜めないか、溜めても僅かであるため、ローラー間隙を著しく狭くしても、安定した運転ができた。
【0068】
実施例9〜12も、実施例1〜8と同様に樹脂含浸装置内部に細かな毛羽を溜めないため、ローラー間隙を著しく狭くしても、安定した運転ができた。また、実施例9〜12特に実施例9〜10の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープは、樹脂含浸装置内部のしごきバー、及び、加熱金属ローラーで広げた炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープを直ちに冷却固化させているため、広幅扁平形状のものを作製でき、これを材料に用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)成型物は高い曲げ強度を示した。一方、冷却ローラーを配さない実施例1〜8は、一旦広がったストランドプリプレグが自然冷却中に細くなり、これを材料に用いたCFRTP成型物はあまり高い曲げ強度を示さなかった。
【0069】
なお、実施例1〜12及び比較例1〜3で用いた図1〜3の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置は何れも、樹脂含浸装置上型部14と樹脂含浸装置下型部18とが着脱自在に構成されているので、運転開始時や原料繊維交換時などの際、原料繊維の誘導、取付けが容易であった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の一例を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【図2】本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の他の例を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【図3】本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の更に他の例を示す概略正面図である。
【図4】本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置の更に他の例を示す概略正面図である。
【図5】図1の例の製造装置において、樹脂含浸装置上型部と樹脂含浸装置下型部との間隙が開けられた状態を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【図6】比較例1〜3で用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープ製造装置を示す概略図であり、(A)は上記製造装置の正面図であり、(B)は上記製造装置の右側面図である。
【符号の説明】
【0071】
2、52、62、82、92 炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置
4、94 炭素繊維
6、96 溶融樹脂含浸装置
8、98 溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路
10、100 上流側スリットノズル
12、102 下流側スリットノズル
14、104 溶融樹脂含浸装置上型部
16、106 溶融樹脂含浸装置空間部
18、108 溶融樹脂含浸装置下型部
20、54、110 ノズル上部部材
22、28a、28b、68、72a、112 支持枠
24、30、70、74、114、118 差込みバー
26、56、116 ノズル下部部材
32a、32b、76a、120a、120b 固定端
36、78 付勢手段
38a、38b 支持枠の下端
40a、40b 支持枠の上端
42a、42b 間隙調節手段
44a、44b、122 しごきバー
64、66 冷却金属ローラー
84 スリットブロワ
P 摺動部材
X 炭素繊維ストランドの走行方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融熱可塑性樹脂供給用の樹脂供給経路と炭素繊維供給用の上流側スリットノズルとを備えると共に、内部に溶融熱可塑性樹脂が収納されてその内部を走行する炭素繊維が溶融熱可塑性樹脂で含浸される溶融樹脂含浸装置と、溶融熱可塑性樹脂中を通過して溶融樹脂が含浸された炭素繊維を引き抜く下流側スリットノズルとを備えた炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置であって、前記樹脂含浸装置の下流側端部にはノズル上部部材及びノズル下部部材が所定間隔離間して取り付けられると共に、前記ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙を互いに縮める方向にノズル上部部材とノズル下部部材の少なくとも一方を付勢する手段を設けてなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【請求項2】
ノズル上部部材及びノズル下部部材が100〜400℃の範囲で温度コントロールする手段を備えたローラーである請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【請求項3】
下流側スリットノズルの下流に冷却金属ローラーを有する請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【請求項4】
下流側スリットノズルの下流にスリットブロワを有する請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【請求項5】
樹脂含浸装置上型部と樹脂含浸装置下型部とが着脱自在に構成されてなる請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。
【請求項6】
ノズル上部部材とノズル下部部材との間隙が450μm以下である請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂テープの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−76224(P2007−76224A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268315(P2005−268315)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】