説明

炭素繊維強化複合材料、プリプレグ及び炭素繊維強化複合材料の製造方法

【課題】層間靭性及びZ軸方向の導電性に優れる炭素繊維強化複合材料を形成することが可能なプリプレグを提供すること。
【解決手段】マトリックス樹脂、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子及び該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子を含有する樹脂層と、樹脂層の両主面上にそれぞれ設けられた、炭素繊維を含有する炭素繊維層と、を備え、樹脂層の平均厚さと下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下である、炭素繊維強化複合材料。
【化1】


[式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化複合材料、プリプレグ及び炭素繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂とを含む炭素繊維強化複合材料(以下、場合により「CFRP」と称する。)は、強度、剛性及び導電性等に優れることから、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板、ICトレイやノートパソコンの筐体等の用途に広く展開されている。中でも航空機用部材、風車の羽根、自動車外板など軽量化のために構造部材に用いられるケースが増えている。
【0003】
ところで、構造部材にはこれまで求められてきた耐衝撃性や層間靭性に加えて、近年、落雷などの大電流への対策として、炭素繊維強化複合材料には導電性の向上が求められている。特に、複数の炭素繊維層と該炭素繊維層の間に存在する樹脂層とを備えることで耐衝撃性や層間靭性を得ている、インターレイヤー構造を有する炭素繊維強化複合材料では、この樹脂層が絶縁層となるため、炭素繊維層間の導電性(すなわち、炭素繊維強化複合材料の厚さ方向の導電性(以下、場合により「Z軸方向の導電性」と称する。))のさらなる向上が求められている。
【0004】
このような炭素繊維強化複合材料として、特許文献1には、インターリーフ構造を有する複合材料であって、2プライの導電性繊維強化材と、2プライ間に配置された特定厚さの高分子樹脂の層と、高分子樹脂中に分散した特定量の導電性粒子とを含む複合材料が開示されている。しかし、高分子樹脂層のみでは、十分な靭性が発現しないケースがある。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂の粒子または繊維と、導電性の樹脂または繊維と、を特定の配合比で含む炭素繊維強化複合材料に高いレベルで耐衝撃性と導電性が両立されることが開示されているが、さらなる軽量化のためには、これらに加えて高いレベルの層間靭性が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−508416号公報
【特許文献2】特開2008−231395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、層間靭性及びZ軸方向の導電性に優れる炭素繊維強化複合材料、該炭素繊維強化複合材料の製造方法、並びに、該炭素繊維強化複合材料を形成することが可能なプリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マトリックス樹脂、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子及び該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子を含有する樹脂層と、前記樹脂層の両主面上にそれぞれ設けられた、炭素繊維を含有する炭素繊維層と、を備え、前記樹脂層の平均厚さと下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下である、炭素繊維強化複合材料を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す]。
【0011】
本発明の炭素繊維強化複合材料においては、導電性粒子の平均粒径が樹脂粒子の平均粒径より大きく、上記樹脂層の平均厚さと上記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下であることから、導電性粒子により炭素繊維層間の導電パスが確実に形成される。そのため、本発明の炭素繊維強化複合材料は、Z軸方向の導電性に優れるものとなる。
【0012】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料において、樹脂粒子は上記特定のポリアミド樹脂を含むため耐熱性及び耐衝撃性に優れる。そして、2つの炭素繊維層の間に存在する樹脂層は、当該樹脂粒子によってその厚さが保持されている。そのため、本発明の炭素繊維強化複合材料によれば、成形条件による樹脂層の厚さの変化することを十分に抑制することができる。
【0013】
従来の炭素繊維強化複合材料では、樹脂粒子の変形によって樹脂層の厚さがばらつくことにより、耐衝撃性やGIIC(面内せん断モードの靭性)に代表される層間靭性が低下したり、導電性粒子による導電パスの形成が阻害されて導電性が低下する場合がある。これに対して本発明の炭素繊維強化複合材料は、樹脂層の厚さの変化が十分に抑制されるため、優れた層間靭性及び導電性が実現される。
【0014】
本発明の炭素繊維強化複合材料において、a及びbのうち少なくとも一方が0であることが好ましい。a及びbのうち少なくとも一方が0であると、樹脂粒子の耐熱性及び耐衝撃性が一層良好になる。
【0015】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料において、上記樹脂層における上記樹脂粒子の含有量は、上記樹脂層の全体積を基準として、20〜70体積%であることが好ましい。このような炭素繊維複合材料によれば、樹脂層の厚さの変化が一層抑制されるため、一層優れた層間靭性及び導電性が実現される。なお、下記するナイロン12から構成される粒子などの他の樹脂粒子をさらに含む場合は、それら含有量の合計が上記樹脂層の全体積を基準として、20〜70体積%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料において、上記導電性粒子は、炭素粒子、黒鉛粒子、金属コートしたガラス粒子及び金属コートした有機粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。このような炭素繊維強化複合材料は、層間靭性及び導電性に一層優れる。
【0017】
また、本発明の炭素繊維強化複合材料において、上記樹脂粒子及び上記導電性粒子の平均粒径は、5〜100μmであることが好ましい。このような炭素繊維複合材料は、樹脂層の厚さが安定するために、一層優れた層間靭性及び導電性が発現する。なお、下記するナイロン12から構成される粒子などの他の樹脂粒子をさらに含む場合は、それらいずれの平均粒径も、5〜100μmであることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、炭素繊維を含有する炭素繊維層と、上記炭素繊維層の少なくとも一方面上に設けられた熱硬化性樹脂層と、を備え、上記熱硬化性樹脂層が、熱硬化性樹脂組成物、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子及び該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子を含有し、上記熱硬化性樹脂層の平均厚さが上記樹脂粒子の平均粒径の3倍以下である、プリプレグを提供する。
【0019】
【化2】

【0020】
[式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す]。
【0021】
本発明のプリプレグによれば、上記本発明の炭素繊維強化複合材料を容易に作製することができる。
【0022】
本発明のプリプレグにおいて、上記炭素繊維層の平均厚さTと上記熱硬化性樹脂層の平均厚さTの比T/Tは、0.1〜1であることが好ましい。このようなプリプレグによれば、上記本発明の炭素繊維強化複合材料を一層容易に作製することができる。
【0023】
また、本発明のプリプレグにおいて、上記樹脂粒子及び上記導電性粒子の平均粒径は、5〜100μmであることが好ましい。なお、下記するナイロン12から構成される粒子などの他の樹脂粒子をさらに含む場合は、それらいずれの平均粒径も、5〜100μmであることが好ましい。
【0024】
また、本発明のプリプレグにおいて、上記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の累積10%粒径及び累積90%粒径と該樹脂粒子の平均粒径との差は、10μm以下であることが好ましい。このような粒径分布を有する樹脂粒子を用いることで、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0025】
本発明はさらに、上記本発明のプリプレグを複数積層して、上記熱硬化性樹脂層の両主面上にそれぞれ上記炭素繊維層が配置された構造を少なくとも一つ有する、プリプレグ積層体を得る積層工程と、上記プリプレグ積層体を成形して、上記熱硬化性樹脂層が硬化してなる樹脂層を備える炭素繊維強化複合材料を得る成形工程と、を備え、上記成形工程において、上記樹脂層の平均厚さと上記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下となるように上記プリプレグ積層体を成形する、炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供する。
【0026】
このような製造方法によれば、層間靭性及びZ軸方向の導電性に優れる炭素繊維強化複合材料を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、層間靭性及びZ軸方向の導電性に優れる炭素繊維強化複合材料、該炭素繊維強化複合材料の製造方法、並びに、該炭素繊維強化複合材料を形成することが可能なプリプレグが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る炭素繊維強化複合材料の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る炭素繊維強化複合材料の別の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の炭素繊維強化複合材料及びプリプレグの好適な実施形態について以下に説明する。
【0030】
(プリプレグ)
本実施形態に係るプリプレグは、炭素繊維を含有する炭素繊維層と、炭素繊維層の少なくとも一方面上に設けられた熱硬化性樹脂層と、を備える。ここで熱硬化性樹脂層は、熱硬化性樹脂組成物と、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子と、樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子と、を含有し、熱硬化性樹脂層の平均厚さは、樹脂粒子の平均粒径の3倍以下である。
【0031】
【化3】

【0032】
式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す。
【0033】
本実施形態に係るプリプレグによれば、後述する炭素繊維強化複合材料を容易に作製することができる。
【0034】
(熱硬化性樹脂層)
熱硬化性樹脂層は、(A)熱硬化性樹脂組成物と、(B)樹脂粒子と、(C)導電性粒子と、を含有する。熱硬化性樹脂層は、プリプレグから炭素繊維強化複合材料を作製する際の加熱によって硬化し、炭素繊維強化複合材料における樹脂層を形成する。
【0035】
熱硬化性樹脂層の平均厚さは、樹脂粒子の平均粒径の3倍以下であり、好ましくは1〜3倍であり、より好ましくは1〜2.5倍である。熱硬化性樹脂層の平均厚さを上記範囲内とすることで、樹脂層の平均厚さと式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下である炭素繊維強化複合材料を一層容易に作製することができる。
【0036】
なお、本明細書において熱硬化性樹脂層の平均厚さは、後述の通り、加熱成形後の炭素繊維強化複合材料の断面を観察する方法で求められる。
【0037】
(A)熱硬化性樹脂組成物
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含有し、熱により硬化して炭素繊維強化複合材料におけるマトリックス樹脂を形成する。
【0038】
熱硬化性樹脂としては、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成し得る樹脂が好ましい。なお、熱硬化性樹脂は、熱により自己硬化(自己架橋)するものであってもよく、硬化剤等と共に硬化(架橋)するものであってもよい。後者の樹脂を用いる場合、熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤をさらに含有することが好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、これらの樹脂の変性体、これらの樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂、等を用いることもできる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、耐熱性、力学特性及び炭素繊維との接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂が好適に用いられる。エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。また、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂;フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂;ジグリシジルレゾルシノール;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;イソシアネート変性エポキシ樹脂;等を用いることができる。
【0041】
熱硬化性樹脂は、これらの樹脂単独でもこれらの樹脂の混合物であってもよい。特に、耐熱性、機械特性のバランスがとれた炭素繊維強化複合材料を要する場合には、多官能エポキシ樹脂(3官能以上のエポキシ樹脂)と2官能エポキシ樹脂とを組み合わせて用いることが好ましい。例えば、多官能エポキシ樹脂としてテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、2官能エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、を組み合わせて用いることができる。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤を含有していてもよい。硬化剤の種類は、熱硬化性樹脂に応じて適宜選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤を用いることができる。
【0043】
アミン系硬化剤とは、硬化剤分子中に窒素原子を有する硬化剤をいう。かかる硬化剤としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン等の活性水素を有する芳香族ポリアミン化合物;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステル等の活性水素を有する脂肪族アミン;これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン;ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1置換イミダゾール等の活性水素を持たない第三アミン;ジシアンジアミド;テトラメチルグアニジン;アジピン酸ヒドラジド、ナフタレンジカルボン酸ヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド;三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等のルイス酸錯体;などを用いることができる。
【0044】
アミン系硬化剤としては、上記のうち、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン化合物が好ましく用いられる。ジシアンジアミド又は芳香族ポリアミン化合物を用いると、弾性率及び耐熱性に一層優れるマトリックス樹脂が得られる。中でも、ジシアンジアミド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンは、耐熱性、特に耐湿耐熱性に優れるマトリックス樹脂が得られること、エポキシ樹脂中に混合し一液化した場合に優れた貯蔵安定性を有すること、等の理由から特に好ましい。
【0045】
熱硬化性樹脂組成物においては、上記硬化剤に、硬化活性を高めるための適当な硬化促進剤を組み合わせることができる。例えば、ジシアンジアミドに、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体やイミダゾール誘導体を、硬化促進剤として組み合わせて好適に用いることができる。特に、ジシアンジアミドと1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物との組み合わせが好ましい。1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物としては、1,1’−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3−ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)が挙げられる。これらを用いると、マトリックス樹脂の硬化時間が短縮されるので、高い生産性が求められる用途に好ましい。
【0046】
このほかには、芳香族アミンに三フッ化ホウ素エチルアミン錯体を硬化促進剤として組合せる例などがあげられる。
【0047】
熱硬化性樹脂組成物における硬化剤の含有量は、硬化剤の種類により適宜変更できるが、例えば活性水素を有するアミン系硬化剤の場合、熱硬化性樹脂の総量を100質量部として、1〜100質量部であることが好ましく、1〜70質量部であることがより好ましい。また、活性水素当量が、エポキシ基に対して0.6〜1.2当量となるように配合量を調整することで、好ましい耐熱性が得られる。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物は、上記以外の化合物を配合してもよく、例えば、粘弾性制御や靭性付与のために熱可塑性樹脂を配合することができる。また、難燃性を向上させるためにハロゲン化合物、リン系化合物、窒素系化合物、金属酸化物、金属水酸化物等を配合することもできる。
【0049】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾールが挙げられる。熱可塑性樹脂は、結晶性を有していても非晶性であってもよい。
【0050】
熱硬化性樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂の総量を100質量部として、5〜50質量部であることが好ましく、10〜40質量部であることがより好ましい。
【0051】
(B)樹脂粒子
樹脂粒子は、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む。
【0052】
【化4】

【0053】
式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す。
【0054】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられ、これらは直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0055】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0056】
アルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基、ヘプタンジイル基、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基、ウンデカンジイル基、ドデカンジイル基、トリデカンジイル基等が挙げられる。
【0057】
シクロアルカンジイル基としては、シクロプロパンジイル基、シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロヘプタンジイル基等が挙げられる。これらのうち、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロヘプタンジイル基等が挙げられる。
【0058】
アルケンジイル基としては、エテンジイル基、プロペンジイル基、ブテンジイル基、ペンテンジイル基、ヘキセンジイル基、ヘプテンジイル基、オクテンジイル基等が挙げられる。
【0059】
また、式中、a及びbの少なくとも一方が0であることが好ましい。
【0060】
また、R及びRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましい。
【0061】
としては、オクタンジイル基、ノナンジイル基、デカンジイル基、ウンデカンジイル基、ドデカンジイル基、トリデカンジイル基が好ましい。
【0062】
このようなポリアミド樹脂としては、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン又はその誘導体と、ジカルボン酸と、を単量体単位として有するポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0063】
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(又はその誘導体)の具体例としては、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジプロピルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジクロロジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジブロモジシクロヘキシルメタンなどが挙げられる。なかでも耐熱性の観点から、4, 4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンが好ましい。
【0064】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、レパルギル酸、セバシン酸、セバチン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸等の直鎖状飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の鎖状不飽和ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;が挙げられる。これらのうち、1,12−ドデカンジカルボン酸は、アルキル鎖が長く樹脂粒子の靱性を高くすることから特に好ましい。
【0065】
このようなポリアミド樹脂の市販品としては、例えば、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323(デグサ社製)が挙げられる。
【0066】
樹脂粒子は、ポリアミド樹脂以外の成分をさらに含有していてもよく、例えば、熱硬化性樹脂をさらに含有していてもよい。
【0067】
樹脂粒子は、さらに式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径のナイロン12から構成される粒子を含むことが好ましい。
【0068】
ナイロン12は、靭性が高いことから、ナイロン12から構成される粒子を炭素繊維強化複合材料の層間に含むことで炭素繊維強化複合材料の層間靭性が向上する。
【0069】
また、かかるナイロン12から構成される粒子は、(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径であることから、炭素繊維強化複合材料の層間厚さに大きく影響しないため、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子と組み合わせることで層間厚さを制御できる。
【0070】
ナイロン12の市販品としては、例えば、“アミラン”(登録商標)SP−500、SP−10(東レ社製)などが挙げられる。
【0071】
式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂から構成される粒子とナイロン12から構成される粒子の重量の混合比は、5:95〜95:5であることが好ましく、10:90〜10:90であることがより好ましく、30:70〜70:30であることがさらに好ましい。
【0072】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、尿素樹脂が挙げられる。
【0073】
また、樹脂粒子は、これらの熱硬化性樹脂とともに、硬化剤をさらに含有していてもよい。硬化剤の種類は熱硬化性樹脂に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂粒子が熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有するとき、硬化剤として上述のアミン系硬化剤を含有することが好ましい。
【0074】
熱硬化性樹脂の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.1〜25質量部であることが好ましく、0.1〜12質量部であることが好ましい。このような樹脂粒子においては、ポリアミド樹脂の靱性が十分に発揮されるとともに、熱硬化性樹脂との接着性が一層良好となる。
【0075】
樹脂粒子の平均粒径は、5〜100μmであることが好ましく、7〜50μmであることがより好ましい。なお、上記ナイロン12から構成される粒子などの他の樹脂粒子をさらに含む場合は、それらいずれの平均粒径も、5〜100μmであることが好ましく、7〜50μmであることがより好ましい。
【0076】
熱硬化性樹脂層における樹脂粒子の含有量は、熱硬化性樹脂層の全体積を基準として、1〜90体積%であることが好ましく、5〜70体積%であることがより好ましい。
【0077】
また、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の累積10%粒径及び累積90%粒径と該樹脂粒子の平均粒径との差は、10μm以下であることが好ましい。このような粒径分布を有する樹脂粒子を用いることで、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0078】
ここで、樹脂粒子の平均粒径、累積10%粒径及び累積90%粒径は、樹脂粒子を分散媒中に分散させた後、レーザー回折法により求めることができる。具体的には、以下の測定装置、分散媒、測定条件でレーザー回折法を行って、平均粒径、累積10%粒径及び累積90%粒径を求めることができる。
【0079】
測定装置:LA−950V2(堀場製作所製)
分散媒:“Triton X(登録商標)”100 0.5質量%水溶液
測定セル:フローセル
超音波照射時間:10秒
分散液:分散媒100mlに対して樹脂粒子1gを投入して撹拌した分散液。
【0080】
樹脂粒子は、例えば、下記の方法により製造することができる。
(1)ポリアミド樹脂を加熱溶融させ、冷却させることにより晶析させる。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と均一に混合し添加することもできる。
(2)ポリアミド樹脂を溶媒に溶解させ、溶媒を揮発させて除去し晶析させる。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と同溶媒に溶解させ添加することもできる。
(3)ポリアミド樹脂を溶媒に溶解させ、霧状に飛散させ乾燥させる(スプレードライ法)。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と同溶媒に溶解させ添加することもできる。
(4)ポリアミド樹脂を溶媒に溶解させ、ポリアミド樹脂を溶解しない溶媒中に霧状に投入し、沈殿させる(スプレー再沈法)。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と同溶媒に溶解させ添加することもできる。
(5)ポリアミド樹脂を溶媒に溶解して得られたポリアミド溶液を該ポリアミド樹脂の貧溶媒でかつ該ポリアミド樹脂の溶媒に非相溶性の溶媒中に添加混合し、強く攪拌させ乳化、分散状態とした後、該分散液中の溶媒を除去し、ポリアミド樹脂を取り出す。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と同溶媒に溶解させ添加することもできる。
(6)ポリアミド樹脂を溶媒に溶解させ、溶液を攪拌しながら該溶液に不溶あるいは難溶である分散媒を徐々に加えることにより該溶液を乳化させ、さらに加え転相乳化させる。その後、溶媒を除去したのちに樹脂粒子として捕収する。この際、熱硬化性樹脂もポリアミド樹脂と同溶媒に溶解させ添加することもできる。
(7)ボールミル、ジェットミル等を用いる機械的粉砕機を使用し粉砕する。
(8)乳化重合、非水系分散重合、シード乳化重合及び懸濁重合等の重合法を用いて重合
モノマーを粒子状に重合させる。
【0081】
これらの方法のうち、化学的粉砕法として分類でき、かつ樹脂粒子が比較的得られやすい方法としては(6)が挙げられる。(6)の方法で用いられる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエチレン、トリクロロエチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン等のケトン類;が挙げられ、これらは二種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
また、ポリアミド樹脂の上記溶媒への溶解性をより向上させる目的で、メタノール、エタノールなどの溶媒を少量用いることも可能である。使用する溶媒は、ポリアミド樹脂の種類によって適宜選択され、またその量は、乳化開始時におけるポリアミド溶液の粘度が0.1〜800ミリパスカル秒となる量であることが好ましく、10〜500ミリパスカル秒となる量であることがより好ましく、50〜300ミリパスカル秒となる量であることがさらに好ましい。
【0083】
(6)の方法で用いられる溶液に不溶あるいは難溶である分散媒としては、例えば水が挙げられ、溶媒と溶解度パラメーターが離れている分散媒を選択するのが好ましい。例えば溶媒としてクロロホルム、分散媒として水の組み合わせ、溶媒としてクロロホルムとメタノールの混合物、分散媒として水の組み合わせや、溶媒としてクロロホルム、分散媒として水とメタノールの混合物等が挙げられる。
【0084】
転相前のポリアミド溶液の粘度が0.1ミリパスカル秒未満になると、ポリアミド溶液の溶媒量が相対的に多くなり、その結果、溶媒の留去時間が長くなる可能性が高い。さらには、乳化操作時あるいは溶媒揮散操作中に粒子間の合着等が発生し、球状でない粒子が生成したり、餅状となったりして乳化液が得られない可能性がある。一方、乳化時におけるポリアミド溶液の粘度が800ミリパスカル秒を越えると、ポリアミド溶液が非常に粘稠となって、攪拌装置に多大な負荷がかかるとともに、円滑な乳化が行われないおそれがある。
【0085】
乳化時の温度は、分散媒の沸点以下ならば特に問題ないが、好ましくは溶媒の沸点以下がよい。乳化時の圧力は、常圧又は加圧してもよい。常圧がより好ましい。このような圧力の反応系はそれを構築する部材が安価であるという利点がある。
【0086】
(6)の方法で用いられる乳化剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等が挙げられる。上記の乳化剤とともに、必要に応じてノニオン系、アニオン系及びカチオン系の界面活性剤を併用してもよい。これらの乳化剤は、ポリアミド溶液あるいは、該溶液に相溶しにくい分散媒に添加することができる。また、両溶液に添加してもよい。
【0087】
かかる乳化剤は、転相前の乳化液中に0.01〜20質量%配合することが好ましく、0.1〜15質量%配合することがより好ましい。これにより乳化液の安定性が一層高くなる。攪拌されているポリアミド溶液に連続的あるいは間欠的に該溶液に不溶あるいは難溶である分散媒を徐々に加え転相乳化させることによって0.1〜150μmの粒径を有する溶媒含有ポリアミド溶液が得られる。その際の攪拌速度は、10〜1500rpmの速度が好ましく、粒径が均一になるという点から50〜1000rpmがより好ましい。
【0088】
得られた乳化液の有機溶媒は、使用した有機溶媒が揮発する温度で加熱し、必要に応じて減圧しながら揮散除去する。この際の好ましい温度は、100℃未満である。有機溶媒を除去したスラリーは、濾過や、遠心分離法によって固液分離し、得られた含液固形分を洗浄、乾燥することによって樹脂粒子が得られる。
【0089】
このような方法によれば、平均粒径が上記の好ましい範囲である樹脂粒子を、容易に得ることができる。
【0090】
なお、上記(2)〜(6)の方法では、ポリアミド溶液にさらに、シリカ、アルミナ、マイカ等の無機物、熱可塑性樹脂、ゴム、顔料、染料、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤などを分散・溶解させてもよい。また、乳化液状態又は乾燥状態の樹脂微粒子の表面に、シリカやアルミナ等の超微粒子を吸着あるいはまぶして、分散性や流動性を向上させることもできる。
【0091】
(C)導電性粒子
熱硬化性樹脂層が含有する導電性粒子は、樹脂粒子より平均粒径大きいものであり、電気的に良好な導体として振る舞う粒子であれば良く、導体のみからなるものに限定されない。導電性粒子としては、体積固有抵抗が10〜10−9Ωcmである粒子が好ましく、1〜10−9Ωcmである粒子がより好ましい。
【0092】
導電性粒子の平均粒径は、5〜100μmであることが好ましく、7〜50μmであることがより好ましい。ここで、導電性粒子の平均粒径は、上述した樹脂粒子の平均粒径の測定と同様にして、レーザー回折法により求めることができる。
【0093】
熱硬化性樹脂層における導電性粒子の含有量は、熱硬化性樹脂層の全体積を基準として、0.1〜35体積%であることが好ましく、0.2〜20体積%であることがより好ましい。
【0094】
導電性粒子としては、金属粒子;ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子、ポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子;炭素粒子;黒鉛粒子;導電性物質で被覆した無機粒子;導電性物質で被覆した有機粒子;等を使用することができる。
【0095】
無機粒子としては、例えば、無機酸化物、無機有機複合物、炭素等からなる粒子が挙げられる。
【0096】
無機酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物;シリカ・アルミナ、シリカ・ジルコニア等の複合無機酸化物;が挙げられる。
【0097】
また、無機有機複合物としては、例えば、金属アルコキシド及び/又は金属アルキルアルコキシドを加水分解して得られるポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0098】
また、炭素としては、結晶質炭素、非晶質炭素が好ましく用いられる。非晶質炭素としては、例えば、“ベルパール”(登録商標)C−600、C−800、C−2000(エア・ウォーター(株)製)、“NICABEADS”(登録商標)ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)が挙げられる。
【0099】
有機粒子としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂等の熱可塑性樹脂からなる粒子が挙げられる。当該粒子は、これらの熱可塑性樹脂の2種以上を含有していても良い。これらの熱可塑性樹脂のうち、優れた耐熱性を有するアクリル樹脂やジビニルベンゼン樹脂、及び優れた耐衝撃性を有するポリアミド樹脂が、好ましく用いられる。
【0100】
無機粒子又は有機粒子を被覆する導電性物質は、電気的に良好な導体として振る舞う物質であれば良く、導電性物質としては、炭素、金属等が挙げられる。導電性物質として、炭素を用いる場合、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、中空カーボンファイバー等が好ましく用いられる。
【0101】
また、導電性物質として金属を用いる場合、何れの金属でも良いが、好ましくは標準電極電位が−2.0〜2.0Vの金属、より好ましくは−1.8〜1.8Vの金属である。標準電極電位が低すぎても、不安定であり安全上好ましくない場合があり、高すぎても加工性、生産性が低下する場合がある。ここで、標準電極電位とは、金属をその金属イオンを含む溶液中に浸した際の電極電位と、標準水素電極(1気圧で水素ガスと接触している1規定のHCl溶液に浸した白金よりなる電極)電位との差で表される。例えばTi:−1.74V、Ni:−0.26V、Cu:0.34V、Ag:0.80V、Au:1.52Vである。
【0102】
導電性粒子としては、炭素粒子、黒鉛粒子、金属コートしたガラス粒子及び金属コートした有機粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。このような導電性粒子によれば、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0103】
(炭素繊維層)
炭素繊維層は、(D)炭素繊維を含有する。また炭素繊維層は、例えば、炭素繊維と、該炭素繊維に含浸した熱硬化性樹脂組成物と、を含有するものであってもよい。
【0104】
炭素繊維層の平均厚さTと熱硬化性樹脂層の平均厚さTの比T/Tは、0.1〜1であることが好ましい。このようなプリプレグによれば、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料を一層容易に作製することができる。
【0105】
なお、本明細書において、プリプレグの炭素繊維層の平均厚さは、プリプレグを硬化させた後、断面観察し、20点以上厚さを計測し、平均することで求められる。
【0106】
(D)炭素繊維
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を炭素化して得られるPAN系炭素繊維、ピッチ繊維を炭素化して得られるピッチ系炭素繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、高い引張、圧縮強度が得やすいため、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0107】
炭素繊維の引張弾性率は、230GPa以上であることが好ましく、260GPa以上であることがより好ましい。このような炭素繊維を含有するプリプレグによれば、導電性に一層優れる炭素繊維強化複合材料が得られる。また、炭素繊維の引張弾性率は、440GPa以下であることが好ましく、400GPa以下であることがより好ましい。このような炭素繊維を含有するプリプレグによれば、耐衝撃性に一層優れる炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0108】
すなわち、炭素繊維の引張弾性率は、好ましくは230〜440GPaであり、より好ましくは260〜440GPaである。このような炭素繊維を含有するプリプレグによれば、導電性と耐衝撃性とを一層高い次元で両立した炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0109】
炭素繊維の引張強度は、4.4〜6.5GPaであることが好ましい。また、炭素繊維の引張伸度は、1.7〜2.3%であることが好ましい。このような炭素繊維を含有するプリプレグによれば、耐衝撃性に一層優れるとともに、高い剛性及び機械強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られる。
【0110】
なお、上記の引張弾性率、引張強度及び引張伸度は、JIS R7601−1986に記載のストランド引張試験により測定することができる。
【0111】
(プリプレグの製造)
本実施形態に係るプリプレグは、例えば、特開平1−26651号公報、特開昭63−170427号公報、特開昭63−170428号公報に開示されているような公知の方法を適用して製造することができる。具体的には、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0112】
すなわち、熱硬化性樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングして形成した樹脂フィルムを、シート状に引き揃えた炭素繊維の両面又は片面に当てて圧力を加えることにより、熱硬化性樹脂組成物を炭素繊維に含浸させて一次プリプレグ(炭素繊維層)を作製する。次いで、樹脂粒子及び導電性粒子を熱硬化性樹脂組成物中に分散させ、離型紙などの上にコーティングすることにより、粒子含有樹脂フィルム(熱硬化性樹脂層)を作製する。そして、一次プリプレグの両面又は片面に、粒子含有樹脂フィルムを貼着することで、プリプレグを作製ことができる。
【0113】
(炭素繊維強化複合材料)
本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料は、樹脂層と、図1の通り、樹脂層2の両主面7上にそれぞれ設けられた炭素繊維を含有する炭素繊維層1と、を備える。樹脂層2は、マトリックス樹脂6と、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子3と、該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子4と、を含有し、樹脂層2の平均厚さと式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子3の平均粒径との差は12μm以下、好ましくは10μm以下である。
【0114】
本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料では、導電性粒子の平均粒径が式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径より大きく、上記樹脂層の平均厚さと上記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下であることから、導電性粒子により炭素繊維層間の導電パスが確実に形成される。そのため、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料は、Z軸方向の導電性に優れるものとなる。
【0115】
また、別の本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料は、樹脂層と、図2の通り、樹脂層2の両主面7上にそれぞれ設けられた炭素繊維を含有する炭素繊維層1と、を備える。樹脂層2は、マトリックス樹脂6と、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子3と、該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子4と、さらに式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径のナイロン12から構成される粒子8、を含有し、樹脂層2の平均厚さと式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子3の平均粒径との差は12μm以下、好ましくは10μm以下である。
【0116】
本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料でも、導電性粒子の平均粒径が式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径より大きく、式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径がナイロン12から構成される粒子の平均粒径と同じかまたは大きく、かつ、上記樹脂層の平均厚さと上記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下であることから、導電性粒子により炭素繊維層間の導電パスが確実に形成される。そのため、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料は、Z軸方向の導電性に優れるものとなる。
【0117】
また、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料において、樹脂粒子は上記特定のポリアミド樹脂を含むため耐熱性及び層間靭性に優れる。そして、2つの炭素繊維層の間に存在する樹脂層は、当該樹脂粒子によってその厚さが保持されている。そのため、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料によれば、成形中の樹脂層の厚さが変化することを十分に抑制することができる。
【0118】
従来の炭素繊維強化複合材料では、成形中の樹脂粒子の変形によって樹脂層の厚さがばらつくことにより、耐衝撃性やGIICに代表される層間靭性が低下したり、導電性粒子による導電パスの形成が阻害されて導電性が低下したりする場合がある。これに対して本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料は、樹脂層の厚さの変化が十分に抑制されるため、優れた層間靭性及び導電性が実現される。
【0119】
(樹脂層)
樹脂層は、マトリックス樹脂と、樹脂粒子と、導電性粒子と、を含有する。マトリックス樹脂は、好ましくは熱硬化性樹脂組成物の硬化物である。また、樹脂粒子及び導電性粒子としては、上記と同様のものを例示することができる。
【0120】
樹脂層の平均厚さと式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差は12μm以下であり、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、樹脂層の平均厚さは、後述の方法で求められる。
【0121】
樹脂層における樹脂粒子の含有量は、樹脂層の全体積を基準として、20〜70体積%であることが好ましく、20〜65体積%であることがより好ましい。このような炭素繊維複合材料によれば、樹脂層の厚さの変化が一層抑制されるため、一層優れた層間靭性及び導電性が実現される。なお、上記ナイロン12から構成される粒子などの他の樹脂粒子をさらに含む場合は、同様に理由で、それら含有量の合計が上記樹脂層の全体積を基準として、20〜70体積%であることが好ましく、20〜65体積%であることがより好ましい。
【0122】
樹脂層における導電性粒子の含有量は、樹脂層の全体積を基準として、0.1〜35体積%であることが好ましく、0.2〜20体積%であることがより好ましい。このような炭素繊維複合材料によれば、導電パスがより確実に形成されるため、一層優れた導電性が得られる。
【0123】
(炭素繊維層)
炭素繊維層は、炭素繊維を含有し、好ましく熱硬化性樹脂組成物の硬化物であるマトリックス樹脂をさらに含有する。
【0124】
炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維層の平均厚さTと樹脂層の平均厚さTの比T/Tは、1〜15であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。なお、本明細書において、炭素繊維強化複合材料の炭素繊維層の平均厚さは、後述の方法で求められる。
【0125】
(炭素繊維強化複合材料の製造方法)
本実施形態において炭素繊維強化複合材料は、下記の積層工程及び成形工程を備える製造方法により、製造することができる。
【0126】
(積層工程)
積層工程では、上記プリプレグを複数積層して、熱硬化性樹脂層の両主面上にそれぞれ上記炭素繊維層が配置された構造を少なくとも一つ有する、プリプレグ積層体を得る。プリプレグ積層体は、好適には、炭素繊維層と熱硬化性樹脂層とが交互に積層された構造を有する。
【0127】
(成形工程)
成形工程では、上記プリプレグ積層体を加熱及び加圧して、樹脂層の平均厚さと式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下、好ましくは10μm以下である炭素繊維強化複合材料を成形する。ここで、加熱・加圧の方法としては、熱硬化性樹脂層中の熱硬化性樹脂組成物が硬化して、マトリックス樹脂を形成するような方法が選択される。
【0128】
加熱・加圧の方法としては、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられ、これらのうちオートクレーブ成形法が好ましく用いられる。
【0129】
このような製造方法によれば、層間靭性及びZ軸方向の導電性に優れる炭素繊維強化複合材料を容易に得ることができる。
【0130】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0132】
各実施例及び比較例のプリプレグを得るために、下記の原料を用いた。
【0133】
(A)熱硬化性樹脂組成物
・“アラルダイト(登録商標)”MY721:N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン (ハンツマン・アドヴァンスドマテリアル製、以下「(A1)」で表す。)
・“アラルダイト(登録商標)”MY0600:N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール(ハンツマン・アドヴァンスドマテリアル製、以下「(A2)」で表す。)
・“アラルダイト(登録商標)”GY282:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ハンツマン・アドヴァンスドマテリアル製、以下「(A3)」で表す。)
・“スミカエクセル(登録商標)”5003P:ポリエーテルスルホン(住友化学製、以下「(A4)」で表す。)
・“Aradur(登録商標)”976−1:4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(ハンツマン・アドヴァンスドマテリアル製、以下「(A5)」で表す)。
【0134】
(B)樹脂粒子
・“TROGAMID(登録商標)”CX7323を原料として作製した、平均粒径19.5μm、累積10%粒径10.5μm、累積90%粒径27.5μmの粒子(以下「(B1)」で表す。)
・“TROGAMID(登録商標)”CX7323を原料として作製した、粒径15.2μm、累積10%粒径7.5μm、累積90%粒径19.5の粒子(以下「(B2)」で表す)。
【0135】
<(B1)の作製>
1000mlの4口フラスコの中に、ポリマーAとしてポリアミド(重量平均分子量17,000、デグサ(株)社製“TROGAMID(登録商標)”CX7323)20g、有機溶媒としてギ酸500g、ポリマーBとしてポリビニルアルコール20g(和光純薬工業(株)社製 PVA 1000)を加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を55℃に下げた後に、900rpmで攪拌をしながら、貧溶媒としてイオン交換水500gを、送液ポンプを経由して滴下した。滴下は、0.5g/分のスピードで開始し、徐々に滴下速度を上げて、全量を90分かけて滴下した。なお、100gのイオン交換水を入れた時に系が白色に変化した。また滴下に際しては、半分量のイオン交換水を滴下した時点で系の温度を60℃まで昇温させ、引き続き、残りのイオン交換水を入れ、全量滴下した後に、引き続き30分間攪拌した。室温に戻した懸濁液を、ろ過し、イオン交換水500gで洗浄し、80℃、10時間真空乾燥を行い、粉状の白色固体11gを得た。得られた粉体についてレーザー回折法により粒径を測定したところ、平均粒径19.5μmのポリアミド微粒子であった。また、累積10%粒径は10.5μm、累積90%粒径は27.5μmであった。
【0136】
<(B2)の作製>
攪拌速度を1000rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉状の白色固体10gを得た。得られた粉体についてレーザー回折法により粒径を測定したところ、平均粒径12.5μmのポリアミド微粒子であった。また、累積10%粒径は7.5μm、累積90%粒径は19.5であった。
・“アミラン(登録商標)” SP−500:ナイロン12粒子(平均粒径5μm、東レ(株)製、形状:真球)(以下「(B3)」で表す)。
・“アミラン(登録商標)” SP−10:ナイロン12粒子(平均粒径10μm、東レ(株)製、形状:真球)(以下「(B4)」で表す)。
【0137】
(C)導電性粒子
・“ミクロパール(登録商標)”AU225:金コート導電性粒子(平均粒径25μm、積水化学、以下「(C1)」で表す。)
・“ベルパール(登録商標)”C−2000:アモルファス炭素粒子(平均粒径18μm、エア・ウォーター株式会社、以下「C2」で表す)。
【0138】
(D)炭素繊維
・“トレカ”(登録商標)T800G−24K−10E(繊維数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、総繊度1.03g/m、東レ(株)製、以下「(D1)」で表す)。
【0139】
(E)その他の粒子
・Orgasol(登録商標)”2002D:ナイロン12粒子(平均粒径20μm、アルケマ(株)製、以下「(E1)」で表す)。
【0140】
(実施例1)
表1に示す組成の熱硬化性樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、25g/mの樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に配列させた炭素繊維(D1)に、樹脂フィルム2枚を炭素繊維(D1)の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を含浸させ、炭素繊維の目付が190g/m2の一方向予備含浸プリプレグを作製した。
【0141】
次いで、表1に示す組成の熱硬化性樹脂組成物を用いて39g/mの樹脂フィルムを離型紙上に作成し、該樹脂フィルム上に、1mあたり樹脂粒子(B1)9.2g及び導電性粒子(C1)1.8gを均一に散布した後、離型紙をかぶせて100℃で1分加熱し粒子を樹脂フィルム中に沈降させた。この粒子含有樹脂フィルムを、一方向予備含浸プリプレグの片面に貼り付け、100℃1分間加熱することで転写し、プリプレグを得た。
【0142】
得られたプリプレグについて、以下の方法で熱硬化性樹脂層及び炭素繊維層の平均厚さを測定した。また、以下の方法で、炭素繊維強化複合材料を作製してGIIc(ENF)試験及び体積固有抵抗の測定を行った。さらに、以下の方法で、炭素繊維強化複合材料の樹脂層の平均厚さ(層間厚さ)及び樹脂層中の導電性粒子の存在比率を測定した。結果を表1に示す。
【0143】
(プリプレグの熱硬化性樹脂層及び炭素繊維層の平均厚さの測定)
プリプレグ1枚をオーブン中で昇温速度0.05℃/分で室温から100℃まで昇温し1時間ホールド後、0.05℃/分で180℃まで昇温し180℃2時間で樹脂を硬化させた。炭素繊維の繊維方向に対して直向方向にプリプレグの硬化物を切断し、切断面を観察した。硬化した熱硬化性樹脂層の表面から炭素繊維層に接する面までの距離を20点測定して平均し、プリプレグの熱硬化性樹脂層の平均厚さとした。また、炭素繊維層の厚さを20点測定して平均し、プリプレグの炭素繊維層の平均厚さとした。得られた平均厚さから、下記式により、厚さ比を求めた。
【0144】
厚さ比=(熱硬化性樹脂層の平均厚さ)/(炭素繊維層の平均厚さ)。
【0145】
(GIIc(ENF)試験)
プリプレグを200×250mmのサイズで30枚切り出し、これを繊維方向が同じ方向になるように積層した。また、積層時に、初期亀裂導入のために、離型処理したポリイミドフィルム(厚さ0.3mm)を積層中央面に縁が繊維方向と直角になるよう挿入した。ポリイミドフィルムは、先端が積層体の縁から40mmに位置するように配置した。この積層体をオートクレーブ中で180℃、内圧0.59MPaで2時間加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。かかる一方向炭素繊維強化複合材料を、20×195mmに切断し、試験片とした。この試験片について、JIS K7086(1993)付属書2に従って、ENF試験を行った。
【0146】
(体積固有抵抗の測定)
プリプレグを、それぞれ[−45°/0°/+45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の積層体を作製した。これらの各積層体から、縦50mm×横50mm(厚さ3mm)のサンプルを切り出し、両表面の樹脂層を研磨により除去後、両面に導電性ペースト“ドータイト”(登録商標)D−550(藤倉化成(株)製)を塗布したサンプルを作製した。これらのサンプルを、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて、四端子法で積層方向の抵抗を測定し、体積固有抵抗を求めた。
【0147】
(層間厚さ及び導電性粒子の存在比率の測定)
上記の体積固有抵抗の測定で作製した積層体を、0度方向及び90度方向に切断し、2つの断面を得た。この断面に対して、切断方向に配列した炭素繊維層(0度方向で切断した場合は0度層、90度方向に切断した場合は90度層である)を含む2つの炭素繊維層の間は除外して、2つの炭素繊維層の間の樹脂層の厚さを1つの層間あたり20点測定し、2段面分平均したものを層間厚さ(樹脂層の平均厚さ)とした。測定した層間を写真にとり、層間に存在する樹脂(マトリックス樹脂及び樹脂粒子)と導電性粒子を色分けした後、樹脂と導電性粒子の存在面積比を計算した。この比を層間の(樹脂層の)導電性粒子の存在比率とした。
【0148】
(実施例2〜12、比較例1〜3)
表1〜4に示す組成の熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、一方向予備含浸プリプレグを作製し、表1〜4に示す配合比となるよう粒子含有樹脂フィルムを作製した。そして、一方向予備含浸プリプレグと粒子含有樹脂フィルムとを用いて、実施例1と同様にして、プリプレグを得た。
【0149】
得られたプリプレグについて、上記の方法で熱硬化性樹脂層及び炭素繊維層の平均厚さを測定した。また、上記の方法で、炭素繊維強化複合材料を作製してGIIc(ENF)試験及び体積固有抵抗の測定を行った。さらに、上記の方法で、炭素繊維強化複合材料の樹脂層の平均厚さ(層間厚さ)と、樹脂層中の導電性粒子の存在比率と、を測定した。結果を表1〜4に示す。
【0150】
【表1】

【0151】
【表2】

【0152】
【表3】

【0153】
【表4】

【符号の説明】
【0154】
1:炭素繊維層
2:樹脂層
3:式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子
4:導電性粒子
5:炭素繊維
6:マトリックス樹脂
7:樹脂層の主面
8:ナイロン12から構成される粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子及び該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子を含有する樹脂層と、
前記樹脂層の両主面上にそれぞれ設けられた、炭素繊維を含有する炭素繊維層と、
を備え、
前記樹脂層の平均厚さと下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下である、炭素繊維強化複合材料。
【化1】

[式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す。]
【請求項2】
a及びbのうち少なくとも一方が0である、請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記樹脂粒子が、前記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径のナイロン12から構成される粒子をさらに含む、請求項1又は2に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記樹脂層における前記樹脂粒子の含有量が、前記樹脂層の全体積を基準として、20〜70体積%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項5】
前記導電性粒子が、炭素粒子、黒鉛粒子、金属コートしたガラス粒子及び金属コートした有機粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項6】
前記樹脂粒子及び前記導電性粒子の平均粒径が、5〜100μmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項7】
炭素繊維を含有する炭素繊維層と、
前記炭素繊維層の少なくとも一方面上に設けられた熱硬化性樹脂層と、
を備え、
前記熱硬化性樹脂層が、熱硬化性樹脂組成物、下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子及び該樹脂粒子より平均粒径が大きい導電性粒子を含有し、
前記熱硬化性樹脂層の平均厚さが下記式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径の3倍以下である、プリプレグ。
【化2】

[式中、a及びbは0〜4の整数を示し、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はハロゲン原子を示し、Rはアルカンジイル基、シクロアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示す。]
【請求項8】
前記樹脂粒子が、前記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径のナイロン12から構成される粒子をさらに含む、請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記炭素繊維層の平均厚さTと前記熱硬化性樹脂層の平均厚さTの比T/Tが、0.1〜1である、請求項7又は8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記樹脂粒子及び前記導電性粒子の平均粒径が、5〜100μmである、請求項7〜9のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の累積10%粒径及び累積90%粒径と該樹脂粒子の平均粒径との差が、10μm以下である、請求項7〜10のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか一項に記載のプリプレグを複数積層して、前記熱硬化性樹脂層の両主面上にそれぞれ前記炭素繊維層が配置された構造を少なくとも一つ有する、プリプレグ積層体を得る積層工程と、
前記プリプレグ積層体を成形して、前記熱硬化性樹脂層が硬化してなる樹脂層を備える炭素繊維強化複合材料を得る成形工程と、
を備え、
前記成形工程において、前記樹脂層の平均厚さと前記の式(1)で表される構造を有するポリアミド樹脂を含む樹脂粒子の平均粒径との差が12μm以下となるように前記プリプレグ積層体を成形する、炭素繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−211310(P2012−211310A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58399(P2012−58399)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】