説明

炭素繊維配向シート製造方法

【課題】 繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維単体の場合はもとより、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物の場合も均質性、配向性ともに高く、しかも大面積の炭素繊維配向シートを経済性に製造する。
【解決手段】 単層又は多層のグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成体からなる繊維状炭素材料4を、ナノバブルが充満した噴流水3にて攪拌する。繊維状炭素材料4が水面上に分散して浮上する。水面上に分散して浮上した繊維状炭素材料4を捕捉用の第1櫛状治具によりすくい取る。第1櫛状治具により捕捉した繊維状炭素材料4を、捕捉用治具とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具へ移し替て整列密集させる。すくい取りと密集整列とを繰り返すことにより、繊維状炭素材料4が整列蓄積用の第2櫛状治具上に整列密集状態で順次蓄積して配向シートとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料やセラミックス材料からなる基材に気相成長炭素繊維(VGCF)などの繊維状炭素材料を混合することにより、基材が本来有する様々な特徴に加えて、優れた熱伝導性、電気伝導性、機械的特性等を付与された高機能の高熱伝導複合材料に使用される炭素繊維配向シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維状炭素材料としては、従来からよく知られているPitch系やPAN系の他に、最近ではカーボンナノチューブ(CNT)と気相成長炭素繊維(VGCF)が注目されている。カーボンナノチューブも気相成長炭素繊維も共にグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成物であり、以下に説明するごとく、積層構造及びこれに伴う繊維径の違いによって区別されている。
【0003】
グラフェンとは、6個の炭素原子が二次元的に規則的に配列して構成されたハニカム構造のネットであって、炭素六角網面とも呼ばれ、このグラフェンが規則性をもって積層したものはグラファイトと呼ばれる。このグラフェンにより構成された単層又は多層で且つ極細のチューブ状構成物が繊維状炭素材料であり、カーボンナノチューブも気相成長炭素繊維も含んでいる。
【0004】
すなわち、カーボンナノチューブは、グラフェンが円筒形状に丸まったシームレスのチューブであり、単層のものと同心円状に積層した複数層のものがある。単層のものは単層ナノチューブと呼ばれ、複数層のものは多層ナノチューブと呼ばれている。
【0005】
また、気相成長炭素繊維は、グラフェンが円筒形状に丸まった単層又は複数層のグラフェンチューブ、すなわちカーボンナノチューブを芯部に有しており、その芯部を多重に且つ多角形状に取り囲むようにグラファイトがグラフェンチューブの径方向に積層されたものであり、その構造から超多層カーボンナノチューブとも呼ばれる。
【0006】
換言すれば、気相成長炭素繊維の中心部に存在する単層又は多層のカーボンチューブがカーボンナノチューブである。
【0007】
このような繊維状炭素材料を金属やセラミックス、更にはこれらの混合物に含有させて金属やセラミックスの特徴を生かしつつ、繊維状炭素材料により熱伝導性、電気伝導性の向上を図った複合材料は多々提案されている。代表的な複合材料は、金属やセラミックス、これらの混合物からなる基材中に繊維状炭素材料を配合した複合材料である。そして、熱伝導性を高めるためには繊維状炭素材料を基材中で一方向に配向させることが必要になる。
【0008】
しかし、繊維状炭素材料は本質的に細く短いために、基材中で配向させることが非常に困難である。ちなみに、カーボンナノチューブの太さは通常、数nm〜数十nm、長さは最大でも2mm程度であり、気相成長炭素繊維の太さは通常、数μm〜数十μm、長さは長くても2〜5mmである。
【0009】
このような状況下で、本発明者らは、独立行政法人科学技術振興機構の開発委託に基づき、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料を基材中に配合した複合材料において、繊維状炭素材料の電気伝導特性、熱伝導特性並びに強度特性を有効利用できる構成について研究を続けており、その過程で、アルミニウム粉末の放電プラズマ焼結体中に繊維状炭素材料層を所定間隔で積層した、極めて熱伝導率の高い積層型の複合材料を先に開発した(特許文献1参照)。
【0010】
この積層型複合材料は、例えば円柱体であり、円柱体の場合は、その中心線方向にアルミニウム粉末の放電プラズマ焼結体層と、中心線に直角な特定方向に繊維状炭素材料が配向した炭素繊維シートとが交互に積層しており、炭素繊維シートにおける繊維状炭素材料の配向方向(円柱体の場合は中心線に直角な方向)の熱伝導性が特に優れる。
【0011】
炭素繊維シートにおける繊維状炭素材料の配向は、基材中における繊維状炭素材料の配向と比べて格段に容易である。また、ここにおける繊維状炭素材料としては、太くて長い気相成長炭素繊維が有利である。太くて長い気相成長炭素繊維は、配向性も高い。熱伝導度は、基材であるアルミニウム粉末焼結体の熱伝導度が約200W/mKであるのに対し、気相成長炭素繊維が30wt%の含有で300W/mK程度に上昇する。すなわち、気相成長炭素繊維が30wt%含有されることにより、熱伝導度は約1.5倍となる。また、気相成長炭素繊維が60wt%含有されることにより熱伝導度は500W/mKに達し、基材の約2.5倍となる。
【0012】
しかしながら、気相成長炭素繊維であっても、繊維状炭素材料は本質的に高価である。カーボンナノチューブは細く短いため配向性が低く、価格は更に高い。長く真直性の高いものも開発されているが、長いものは特に高価である。このような状況のなかで、本出願人は高い熱伝導性を維持しつつ、繊維状炭素材料の使用量を効果的に低減できる高性能で経済的な高熱伝導複合材料を開発し、特許文献2により提示した。
【0013】
この高熱伝導複合材料においては、金属粉体、又は金属とセラミックスの混合粉体、若しくはセラミックス粉体の放電プラズマ焼結体からなる基材中に、単層又は多層のグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成体からなる繊維状炭素材料が複数の層をなして存在すると共に、各層を構成する繊維状炭素材料が、気相成長炭素繊維に代表される平均直径が500nm〜100μmの大径繊維と、カーボンナノチューブに代表される平均直径が50nm以下の小径繊維との混合物から構成される。
【0014】
図5はこの高熱伝導複合材料の繊維状炭素材料層における大径繊維と小径繊維との関係を概念的に示した模式図であり、大径繊維である気相成長炭素繊維1に小径繊維であるカーボンナノチューブ2が若干量混合した場合をイメージしたものである。カーボンナノチューブ2は細くて短く、かつ綿のように絡まって存在する場合もあり、配向性、熱伝導性改善効果の点から、単体では不利である。ところが、気相成長炭素繊維1、特に特定方向に配向した気相成長炭素繊維1と共存した場合、その存在形態の不利さが逆に利点となり、気相成長炭素繊維1の配向方向及び配向方向に直角な方向で隣接する気相成長炭素繊維1同士を架橋する熱的バイパスの役目を果し、二次元的、三次元的に展開する高性能な熱的ネットワークを形成することができる。その結果、僅かの含有で、気相成長炭素繊維1による熱伝導性改善効果を飛躍的に高めことが可能となる。
【0015】
このような積層配向型高熱伝導複合材料を製造するためには、少なくとも気相成長炭素繊維1が一方向に配向し、これに若干量のカーボンナノチューブ2が均一な分布で分散混合した炭素繊維配向シートが必要となる。そのようなシートを製造する典型的な方法が、両者をキャリア液体中で均等な分布に分散させ、配向後にキャリア液体を除去する湿式法である。湿式分散法としては、表面張力が小さいアルコールなどの有機溶剤や、界面活性剤水溶液などのキャリア液体中で繊維状炭素材料を攪拌する方法、これに更に高周波を付加する方法、バブリングを併用する方法などが周知である(特許文献3)。
【0016】
しかしながら、いずれの分散方法もキャリア液として薬液を使用するので、分散後のいずれかの段階で薬液を除去する工程が必要になり、工数増加、それによるコスト増が問題になる。また、分散効果についても、気相成長炭素繊維1を均一に分散させるだけでも容易でない上に、カーボンナノチューブ2が加わると、両者のサイズの違いや密集形態の相違による見かけ上の嵩比重の違いのために、均一分散は一層困難になる。
【0017】
また、分散させた後の配向法についても、磁場を使用するといった大掛かりな方法は開発されているが、簡単で効率的な機械的方法は開発されていない。このため分散後の配向にもコストが嵩むという問題がある。これらの結果、繊維状炭素材料の配向シート、とりわけ気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブの混合物からなる炭素繊維配向シートは、材料コスト、加工コスト共に嵩むため、非常に高価なものとなり、面積を大きくすることも非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開WO2006/120803パンフレット
【特許文献2】特開2008−285745号公報
【特許文献3】特開2009−506973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維の場合はもとより、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物の場合も均質性、配向性ともに高く、しかも大面積のものを経済性に製造することができる炭素繊維配向シート製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明者らは湿式分散法は不可欠と考え、従来の湿式分散法における問題点及びその解決策を検討した。その結果、以下の事実が判明した。
【0021】
従来の湿式分散法では、キャリア液の全体に繊維状炭素材料を如何に均一に分散させるかということが最大の技術課題とされている。しかしながら、一度に大量の材料を処理しようとすると、キャリア液の液量も多くなり、そのなかに大量の繊維状炭素材料、とりわけサイズや密集形態の相違による見かけ上の嵩比重が異なる気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物を均一に分散させることは非常に困難となる。
【0022】
このような状況下で、本発明者らは従来とは異なる視点に立脚した新たな湿式分散法の開発に着手し、様々な湿式分散法における繊維状炭素材料の分散効果を調査した。その結果、水槽内の水を高速回転ポンプで汲み上げると共に、そのポンプ室内に高圧空気を噴出してナノバブルを発生させるナノバブル発生装置を使用して、ナノバブルの噴流水を槽内に吐出して循環させ、その槽内に繊維状炭素材料を投入して攪拌したところ、繊維状炭素材料が水中全体ではなく、水面上という限定的な領域に個々の繊維片ごとに分離し且つ均一な分布で分散して浮上すること、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブの混合物についても、同様に水面上に個々の繊維片ごとに分離し且つ均一な分布で分散して浮上することが判明した。
【0023】
そして、水面上に分散して浮上した繊維状炭素材料の場合、水中全体に分散した場合には困難であった機械的な回収が容易となり、特に織機に使用される糸整列用のリード〔(筬(おさ)〕の如き櫛状治具を使用すれば、水面上の繊維状炭素材料を簡単にすくい取ることが可能なこと、すくい取った繊維状炭素材料を、今一つの別のリードの如き櫛状治具に織物製造の要領で歯の長手方向に順次蓄積して行けば、その繊維状炭素材料がリードの歯の配列方向に簡単に規則正しく配向しながら歯の長手方向に集積され、その結果として繊維状炭素材料からなる大面積の配向シートも簡単に得られることが判明した。
【0024】
本発明の炭素繊維配向シート製造方法は、これらの知見を基礎として完成されたものであり、単層又は多層のグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成体からなる繊維状炭素材料を、ナノバブルが充満した流動液体にて攪拌することにより、前記繊維状炭素材料を前記流動液体の表面上に分散して浮上させる分散工程と、流動液体表面上に分散して浮上した繊維状炭素材料を捕捉用の第1櫛状治具によりすくい取る捕捉工程と、前記第1櫛状治具により捕捉した繊維状炭素材料を、前記第1櫛状治具とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具へ移し替て整列密集させる整列工程とを含んでおり、前記流動液体の表面上に分散して浮上する繊維状炭素材料に対して前記捕捉工程と前記整列工程とを繰り返すことにより、繊維状炭素材料を整列蓄積用の第2櫛状治具上に整列密集状態で順次蓄積して配向シートとなすものである。
【0025】
ナノバブルとはnmオーダーの気泡であり、マイナスの電荷を帯びているため汚れなどのプラス電荷のものに付着しやすい。このため、水中の様々な汚れの分離浮上や工業製品の洗浄などに使用されている。本発明の炭素繊維配向シート製造方法においては、ナノバブルが充満した流動液体、すなわちナノバブルの噴流液により繊維状炭素材料が攪拌されることにより、密集した繊維状炭素材料のなかにナノバブルが侵入し、個々の繊維片に多数個のナノバブルが付着する。その結果、個々の繊維片に浮力が発生すると共に、相互間の滑りがよくなって分散性が向上し、キャリア液が水の場合にも繊維状炭素材料が液面上に均一性の高い分布で分散浮上する。
【0026】
液面上に浮上した繊維状炭素材料については、液面に平行な方向へ軽度に2次元配向しており、リードの如き捕捉用の第1櫛状治具により簡単にすくい取ることができる。リードとは、前述したとおり、織機に使用される糸整列用の櫛型治具である。すくい取った繊維状炭素材料は、捕捉用の第1櫛状治具の歯の配列方向へ軽度に配向することになり、第1櫛状治具とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具へ織物製造時と同様の要領で押し付けつつ移し替えることにより、整列蓄積用の第2櫛状治具の歯の整列方向に強く配向する。そして、このすくい取りと移し替えとを繰り返すことにより、整列蓄積用の第2櫛状治具に繊維状炭素材料が歯の付け根側から歯先の方向へ向かって整列密集状態で順次蓄積されていき、その結果、繊維状炭素材料の配向シートが形成される。
【0027】
形成された配向シートにおいては、繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維単体の場合はもとより、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブの混合物の場合にも、繊維片がシート幅方向に強く配向する。繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブの混合物の場合、隣接する気相成長炭素繊維を熱伝導的に連結するカーボンナノチューブも、気相成長炭素繊維と同方向に配向している方が配向方向の熱伝導性が良好となる。
【0028】
製造される配向シートのサイズは、使用する櫛状治具のサイズにより決定される。具体的には、捕捉用の第1櫛状治具及び整列蓄積用の第2櫛状治具の横幅によりシートの横幅が決定され、整列蓄積用の第2櫛状治具における歯の長さによりシート長が決定される。したがって、大面積のシートの製造も可能となる。
【0029】
捕捉用の第1櫛状治具及び整列蓄積用の第2櫛状治具の構造に関しては、捕捉用の第1櫛状治具における歯の形状及び配列方向が重要である。具体的には、第1櫛状治具における歯としては、板厚方向に並列し且つ縦に長い長方形状の薄板が好ましい。このような薄板状の並列歯をもつ第1櫛状治具を使用すると、歯の配列ピッチを小さくすることができ、且つ個々の歯においても繊維片のすり抜けが減り、繊維状炭素材料の捕捉効率が上がる。
【0030】
なお、キャリア液中の気泡については、ナノバブルのみに限定するものではなく、ナノバブルによる機能を阻害しない範囲内で、μmオーダーの気泡であるマイクロバブルやそれより更に大きいミリバブルが混入することは差し支えない。
【0031】
本発明の炭素繊維配向シート製造方法においては、ナノバブルを含んだ流動液体は水でよく、表面張力が小さいアルコールなどの有機溶媒や、界面活性剤水溶液である必要はない。ただし、ナノバブルを含んだ水中に僅かにアルコールなどの有機溶媒を添加することにより、バブルの大きさを制御することが可能となる。すなわち、有機溶媒を添加することにより、キャリア液の表面張力が小さくなり、バブルが微細化される。
【0032】
有機溶媒としては具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、キシレン、トルエン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、クロロホルムなどを挙げることができる。有機溶媒の含有量は重量%で10%以下が好ましく、3%前後、すなわち5〜1%が特に好ましい。有機溶媒の含有量が少ないとバブル微細化の効果が得られず、多すぎてもバブル微細化の効果が飽和するのみならず、後の除去処理に手間がかかるようになる。
【0033】
本発明の炭素繊維配向シート製造方法に適用される繊維状炭素材料としては、積層型高熱伝導複合材料における繊維層に有効である一方、従来の湿式法では分散、配向が困難であった気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物が好ましいが、気相成長炭素繊維のみでもよい。気相成長炭素繊維のみからなる炭素繊維配向シートに後からカーボンナノチューブを組み合わせることにより、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合シートを作製することができる。
【0034】
気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物における気相成長炭素繊維の含有量は、その比重を2とした場合の体積比で表して1〜75%の範囲内であり、カーボンナノチューブの含有量は、その比重を1.4としたときの体積比で表して0.01〜5%の範囲内が好ましい。このような混合比率の混合物からなる炭素繊維配向シートは、積層型高熱伝導複合材料の性能向上に特に有効である。
【0035】
すなわち、気相成長炭素繊維は、繊維状炭素材料の主体をなすものであり、熱伝導性を確保するために相応の含有量を確保する必要がある。ただし、含有量が多すぎると、基材が本来保有する優れた加工性、延性等の特徴が十分に得られなくなる。いずれの場合も複合材料としてのメリットが十分に得られなくなる。この観点から、気相成長炭素繊維の含有量は、その比重を2としたときの体積比で表して1〜75%が好ましく、5〜65%が特に好ましい。
【0036】
カーボンナノチューブの含有量は、気相成長炭素繊維の含有量より十分に少ないことが重要である。すなわち、カーボンナノチューブは基本的に無配向で気相成長炭素繊維に絡まり合って熱伝導的な架橋材として機能する。カーボンナノチューブが少ないと、この求めるべき機能が不足する。しかし、カーボンナノチューブは架橋材となって熱的ネットワークの構築に寄与する一方で、熱をランダムに分散させ、抵抗となって熱伝導性を低下させる原因にもなる。カーボンナノチューブの含有量が多くなると、後者の機能が顕著となり、求めるべき前者の機能を相殺して、熱伝導性を低下させる結果になる。このため、カーボンナノチューブの含有量は気相成長炭素繊維の含有量に比して僅かでよく、具体的にはその比重を1.4としたときの体積比で表して0.01〜5%が好ましく、0.2〜2%が特に好ましい。
【0037】
繊維状炭素材料は、シート状にして基材層と交互に重ね合わせて積層体を構成する。これにより、繊維状炭素材料が基材中に集中して存在することになり、基材の全体に繊維状炭素材料が均一に分散した分散型の場合と比較して、同一含有量の場合、繊維状炭素材料の特性をより効果的に発現させることができ、その結果として繊維状炭素材料の使用量を少なくすることが可能となる。また、繊維状炭素材料がシートとして基材中に存在する方が、繊維状炭素材料中のカーボンナノチューブも、より効果的に機能する。
【0038】
繊維状炭素材料の製造方法は特に問わない。アーク放電法、レーザー蒸発法、熱分解法、化学気相成長法等のいずれでもよいが、気相成長炭素繊維は化学気相成長法により製造される。気相成長炭素繊維を表すVGCFはVapor Growth Carbon Fiber の略である。
【0039】
繊維状炭素材料における繊維径については次のとおりである。気相成長炭素繊維が細いと熱伝導性が十分に向上しない。熱伝導性の点から、気相成長炭素繊維の直径は大きい方が好ましいが、太すぎるとグラフェンの積層構造を維持することが困難となり、逆に熱伝導性が低下する。このような観点から、気相成長炭素繊維の直径は平均で500nm〜100μmが好ましく、1〜20μmが特に好ましい。カーボンナノチューブの直径については、太いと気相成長炭素繊維に対する絡み合いが不十分となって架橋材として十分に機能しなくなり、熱伝導性を改善する効果が不足するので、細いほうがよい。ただし、極端に細い場合は熱輸送において容量不足となる。これらのために、その直径は平均で3〜100nmが好ましく、5〜50nmが特に好ましい。
【0040】
これから分かるように、気相成長炭素繊維に比べて十分に細いカーボンナノチューブを気相成長炭素繊維に僅かに含有させることにより、2次元的、3次元的に展開する高性能な熱的ネットワークを構築することが可能になる。
【0041】
繊維状炭素材料は短く、現状ではカーボンナノチューブの長さは数100μm、最長でも2mm程度であり、気相成長炭素繊維でも2〜3mm程度である。これら繊維状炭素材料は、通常、繊維同士が連なり長鎖状を呈しており、これらが絡まったり、更には繭のような塊を形成しているもの、あるいは繊維状炭素材料のみを放電プラズマ処理して得られる繭や網のような形態を有するものであるが、最近は比較的長い真直なカーボンナノチューブや気相成長炭素繊維も開発されている。繊維状炭素材料の形状を特に限定するのもではないが、熱伝導性を高める観点から、大径繊維は真直で長いものがよく、小径繊維は特にその形状を問わない。
【発明の効果】
【0042】
本発明の炭素繊維配向シート製造方法は、単層又は多層のグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成体からなる繊維状炭素材料を、ナノバブルが充満した流動液体にて攪拌することにより、繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物の場合にも、その繊維状炭素材料を流動液体の表面上に分散して浮上させることができる。そして、流動液体表面上に分散して浮上した繊維状炭素材料は捕捉用の第1櫛状治具により簡単にすくい取ることができ、すくい取った繊維状炭素材料を、第1櫛状治具とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具へ順次移し替て整列密集状態で蓄積して配向シートとすることも容易である。したがって、流動液体の表面上に分散して浮上する繊維状炭素材料に対して、すくい取りと移し替えとを繰り返すことにより、繊維状炭素材料が気相成長炭素繊維の場合はもとより、気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブとの混合物の場合も、均質性、配向性ともに高く、しかも大面積の炭素繊維配向シートを経済性に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に使用される繊維分散装置のイメージ図である。
【図2A】同繊維分散装置における分散機能の説明図で、装置作動前を示す。
【図2B】同繊維分散装置における分散機能の説明図で、装置作動後を示す。
【図3A】繊維を捕捉回収する操作のイメージ図である。
【図3B】繊維を整列蓄積する操作のイメージ図である。
【図4A】繊維の捕捉回収に使用する第1櫛状治具の斜視図である。
【図4B】繊維の整列蓄積に使用する第2櫛状治具の斜視図である。
【図5】積層型高熱伝導複合材料の繊維状炭素材料層において、大径繊維である気相成長炭素繊維に小径繊維であるカーボンナノチューブを若干量混合させた場合の繊維の配向イメージを示す模式図である。
【図6】炭素繊維配向シートの性能比較試験のために製造した複合材料及び複合材料から採取する試験片の各形状を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、金属粉体又は金属とセラミックスの混合粉体もしくはセラミックス粉体の放電プラズマ焼結体中に繊維状炭素材料層が所定間隔で配列された積層型高熱伝導複合材料に使用される炭素繊維配向シート、特に気相成長炭素繊維を主体とし、これに若干量のカーボンナノチューブを加えた混合物からなる炭素繊維配向シートを製造する。
【0045】
本実施形態の製造方法は、ナノバブル発生装置を使用した繊維分散装置を使用して繊維状炭素材料を分散する分散工程と、繊維分散装置により分散された繊維状炭素材料を所定量ずつ捕捉回収しながら順次整列蓄積して配向シートとなすシート化工程とからなる。
【0046】
分散工程に使用される繊維分散装置は、図1に示すように、キャリア液としての水3を収容する水槽10と、水槽10内の水3を高速回転ポンプで汲み上げ、ポンプ室内に高圧空気を噴出してナノバブルを発生させるナノバブル発生装置20とからなる。ナノバブル発生装置20は、水槽10の外に配置される装置本体21と、水槽10内の水3を吸い込んで装置本体21へ導く吸引管22と、装置本体21で製造されたナノバブルが充満する噴流を水槽10内の水3中へ吹き出す吐出管23とを備えており、吸引管22及び吐出管23は前記噴流によって水槽10内に旋回水流が形成されるように配置されている。また、吸引管22の先端部には繊維状炭素材料の吸込みを防止するためにフィルタが取付けられている。
【0047】
このような繊維分散装置を使用する分散工程では、図2A及び図2Bに示すように、気相成長炭素繊維を主体とし、これに若干量のカーボンナノチューブを加えた混合物からなる繊維状炭素材料4を水槽10内の水3中に投入する。繊維状炭素材料4の比重は水3の比重より大きい。このため、水槽10に組み合わされたナノバブル発生装置20を作動させない状態では、図2Aに示すように、繊維状炭素材料4は絡まりあった幾つかの塊となって水槽10の底面上に沈降した状態となる。
【0048】
この状態でナノバブル発生装置20を作動させると、ナノバブル発生装置20の吐出管23からナノバブルが充満した噴流が吐出され、水槽10内にナノバブルが充満した水3の旋回流が形成される。その結果、図2Bに示すように、ナノバブルが繊維状炭素材料4の繊維片間に侵入し、個々の繊維片に付着することにより、繊維状炭素材料4が個々の繊維片に分離し、水槽10内の水面上に浮上する。また、水面上に浮上した個々の繊維片は、気相成長炭素繊維もこれに若干混合されたカーボンナノチューブも含め、大きな集合も形成せず均一性の高い分布で分散した状態となる。これらの理由が、個々の繊維片に付着した多数のナノバブルが浮力を発生させると共に、繊維片間の滑りをよくする点にあると推察されることは前述したとおりである。
【0049】
分散工程に続くシート化工程は、図3A及び図3Bに示すように、水槽10内の水面上に分散して浮上した繊維状炭素材料4を捕捉用の第1櫛状治具30によりすくい取る捕捉工程と、第1櫛状治具30により捕捉した繊維状炭素材料4を、第1櫛状治具30とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具40へ移し替て整列密集させる整列工程との繰り返しである。
【0050】
捕捉工程で使用される捕捉用の第1櫛状治具30は、図4Aに示すように、織機に使用される糸整列用のリードであり、横材からなるグリップ31と、グリップ31から延出した多数枚の歯32とを組み合わせた櫛形をしている。歯32は縦に長い長方形状の金属製薄板からなり、板厚方向を並列方向としてグリップ31の横幅方向に所定間隔で並列している。隣接する歯32の離間距離は気相成長炭素繊維の長さより小さく設定されている。
【0051】
整列工程で使用される整列蓄積用の第2櫛状治具40も、図4Bに示すとおり、捕捉用の第1櫛状治具30と同様の、織機に使用される糸整列用のリードであり、横材からなるグリップ41と、グリップ41から延出した多数枚の歯42とを組み合わせた櫛形をしている。歯42は縦に長い長方形状の金属製薄板からなり、板厚方向を並列方向としてグリップ41の横幅方向に所定間隔で並列している。捕捉用の第1櫛状治具30との違いは、歯42の長さが歯32の長さより長いことであり、歯42,32の奥行き、枚数及び並列間隔、並びにグリップ41,31の横幅等は同じである。
【0052】
捕捉工程では、図3Aに示すように、ナノバブル発生装置20を作動させた状態のまま、水槽10内の水面上に分散浮上する繊維状炭素材料4を捕捉用の第1櫛状治具30によりすくい取る。隣接する歯32の離間距離が気相成長炭素繊維の長さより小さく設定されているため、このすくい取り操作により、捕捉用の第1櫛状治具30における歯32の集合体の前面側の中間部に全幅にわたって繊維状炭素材料4が付着する。水面上に浮上する繊維状炭素材料4は、水面に平行な方向へ軽度に配向している。したがって、歯32の集合体上に付着する繊維状炭素材料4も捕捉用の第1櫛状治具30の横幅方向へ軽度に配向する。
【0053】
捕捉用の第1櫛状治具30によるすくい取りが終わると、整列工程に移行する。整列工程では、図3Bに示すように、捕捉用の第1櫛状治具30に付着した繊維状炭素材料4を整列蓄積用の第2櫛状治具40へ移し替る。具体的には、捕捉用の第1櫛状治具30に付着した繊維状炭素材料4を、整列蓄積用の第2櫛状治具40における歯42の集合体ですくい取るようにして、それぞれの歯32,42を交差させる。このとき、整列蓄積用の第2櫛状治具40に移し替られた繊維状炭素材料4を、捕捉用の第1櫛状治具30における歯31の集合体で歯42の付け根の方へ軽く押す。かくして、捕捉用の第1櫛状治具30によってすくい取られた繊維状炭素材料4が、整列蓄積用の第2櫛状治具40における歯42の集合体上に、第2櫛状治具40の横幅方向に強く配向した状態で整列密集する。整列蓄積用の第2櫛状治具40に既に繊維状炭素材料4が存在する場合は、その先端側に続けて繊維状炭素材料4の移し替えを行う。
【0054】
そして、前述した捕捉工程と整列工程とを交互に繰り返すことにより、整列蓄積用の第2櫛状治具40における歯42の集合体上に、繊維状炭素材料4が歯42の付け根側から先端側へ順次隙間なく蓄積されていく。これにより、歯42の集合体上に繊維状炭素材料4のシートが形成される。歯42の集合体上に形成されたシートにおいては、繊維状炭素材料4が横幅方向に強く配向している。特に、繊維状炭素材料4の主体をなす太くて長い気相成長炭素繊維の配向度が高い。細くて短いカーボンナノチューブも横幅方向に配向するが、その配向度は気相成長炭素繊維より弱い。このため、カーボンナノチューブが周囲の気相成長炭素繊維と絡み合い、気相成長炭素繊維を相互に連結する機能を発揮し続ける。
【0055】
形成されるシートのサイズは、整列蓄積用の第2櫛状治具40における歯42の集合体のサイズにより決定される。すなわち、シートの横幅は歯42の集合体の横幅であり、シートの長さは最大で歯42の集合体の長さとなる。また、シートの厚さは、捕捉用の第1櫛状治具30による1回当たりのすくい取り量や整列蓄積用の第2櫛状治具40へ移し替るときの押し付け力の加減等により広範囲に調整することができる。シートの密度も繊維状炭素材料4を整列蓄積用の第2櫛状治具40へ移し替るときの押し付け力の加減により調整可能である。
【0056】
捕捉工程の間もナノバブル発生装置20を作動させ続けるのは、ナノバブル発生装置20を停止させると水槽10内の水3中に充満する気泡が順次はじけて消滅し、繊維状炭素材料4が沈降し始めるからである。水槽10内の水面上に繊維状炭素材料4を浮上させ続けるには、水槽10内の水3中にナノバブルを供給し続ける必要がある。
【実施例】
【0057】
図1に示す繊維分散装置、並びに図4Aに示す捕捉用の第1櫛状治具30及び図4Bに示す整列蓄積用の第2櫛状治具40を使用して、図2及び図3に示した前述の手順により実際に繊維状炭素材料の配向シートを製造した。水槽10については縦102cm、横66cm、深さ23cmのサイズのものを使用し、これに120Lの水を注入した。ナノバブル発生装置20は株式会社アスプ製のAS−K3であり、水の循環量(吸引排出量)が20L/分の条件で作動させた。ナノバブル発生装置20の作動開始と共に、水槽10内にナノバブルが充満した噴流水が吐出すると共に、噴流水の旋回流が形成された。
【0058】
そして、水槽10内に繊維状炭素材料4を10g投入し、ナノバブル発生装置20を作動させた。繊維状炭素材料4は気相成長炭素繊維を主体とし、これに少量のカーボンナノチューブを添加した混合物であり、混合物における気相成長炭素繊維の体積比は約99%(比重2で計算)、カーボンナノチューブの体積比は約1%(比重1.4で計算)とした。
【0059】
ナノバブル発生装置20の作動開始後、5分経過した時点で、繊維状炭素材料4のほぼ全量が水槽10内の水面上に分散して浮上した。繊維状炭素材料4における気相成長炭素繊維とカーボンナノチューブの分散性も良好であった。水面上に分散した繊維状炭素材料4の各繊維片は水面に平行な方向に2次元配向する。ただし、ここにおける配向度は軽度である。
【0060】
この状態で捕捉用の第1櫛状治具30を用いて水面上の繊維状炭素材料4を約50mg(乾燥状態での重量)ずつ、すくい取り、整列蓄積用の第2櫛状治具40に移し替ていった。捕捉用の第1櫛状治具30の横幅は30cm、個々の歯32の長さは5cm、厚みは0.2〜0.3mm、奥行きは4mmであり、歯32の集合体における歯31の並列ピッチは1mmである。整列蓄積用の第2櫛状治具40は、歯42の長さが15cmであることを除き、捕捉用の第1櫛状治具30と同じ構成である。
【0061】
水槽10内の繊維状炭素材料4をほぼ全量すくい取って整列蓄積用の第2櫛状治具40に移し替ていった結果、第2櫛状治具40の歯42の集合体上に、乾燥後の寸法で横幅約30cm、長さ約15cm、厚さ(圧縮されていない状態での厚さ)約1mmの炭素繊維配向シートが形成された。繊維状炭素材料4中の気相成長炭素繊維はシート横幅方向に強く配向していた。カーボンナノチューブはシート全体に均一に分布し、シート横幅方向に弱く配向することにより周囲の気相成長炭素繊維と絡まり合っていた。
【0062】
製造された炭素繊維配向シートを使用して、特許文献2に記載された積層型の高熱伝導複合材料を製造した。具体的には、平均粒径が30μmのアルミニウム粉末をバインダーと混合してペースト化したものを炭素繊維配向シートの両面に付着させ、加圧して炭素繊維配向シート中に含浸させ、乾燥させることにより、両面にアルミニウム粉末が付着したアルミニウム含有炭素繊維シートを作製した。そして、その両面にアルミニウム粉末が付着したアルミニウム含有炭素繊維シートから、直径が10mmの円形シートを多数打ち抜いた後、それらの円形シートを50枚積層することにより、アルミニウム粉末層が50層、アルミニウム含有炭素繊維シート層が50層である直径10mm×高さ20mmの円柱状積層体を作製し、放電プラズマ焼結を実施した。アルミニウム含有炭素繊維シートにおける繊維配向方向は同じ方向とした。円柱状積層体におけるアルミニウム粉末の含有量は約40体積%、繊維状炭素材料の含有量は約60体積%である。また、アルミニウム粉末層の厚さ及びアルミ含有炭素繊維シートの厚さは、放電プラズマ焼結後の測定値から推定して、いずれも約0.2mmである。
【0063】
作製された円柱状積層体を放電プラズマ焼結装置のダイ内に装填し、高さ方向に加圧した。これによりダイ内の円柱状積層体は高さ約15mmまで圧縮された。この状態で、ダイ内の円柱状積層体を575℃×60分間の条件で放電プラズマ焼結した。その際、昇温速度は100℃/minとし、30MPaの圧力を付加し続けた。その結果、図6に示すように、円柱状の高熱伝導複合材料50が製造された。製造された高熱伝導複合材料50は、円板状のアルミニウム粉末焼結層51と、同じく円板状のアルミニウム含有炭素繊維層52とが交互に積層した積層体である。全てのアルミニウム含有炭素繊維層52において、繊維状炭素材料は中心線に直角な同方向(図6中に矢示した方向)に配向している。製造された高熱伝導複合材料50の直径は10mm、高さは加圧焼結過程での収縮により約11〜12mmになっていた。
【0064】
製造された高熱伝導複合材料における繊維配向方向の熱伝導率を測定するために、円柱形状の高熱伝導複合材料50の繊維配向方向中央部から、高熱伝導複合材料50の中心線に直角な方向の円盤状の試験片53を採取した。試験片53の直径は10mm、厚みは2〜3mmであり、試験片53の中心線は高熱伝導複合材料50の中心線に直角で、且つアルミニウム含有炭素繊維層52における繊維状炭素材料の配向方向に一致している。
【0065】
採取された試験片53の中心線方向、すなわち繊維状炭素材料における繊維配向方向の熱伝導率を測定した。測定した熱伝導率は775W/mKであった。参考のために作製したアルミニウム単体のサンプルの熱伝導率は約200W/mKである。
【0066】
また、別の参考例として、特許文献2に記載の乾式製法により作製したアルミニウム含有炭素繊維シートを使用した高熱伝導複合材料についても、繊維状炭素材料における繊維配向方向の熱伝導率を測定した。その高熱伝導複合材料に使用したアルミニウム含有炭素繊維シートは、気相成長炭素繊維からなる配向ベースシートに、カーボンナノチューブを有機溶媒であるIPA(イソプロピルアルコール)中に分散させたカーボンナノチューブ分散液を均一に滴下し、更にペースト状のアルミニウム粉末を含浸させることにより作製した。気相成長炭素繊維からなる配向ベースシートは、気相成過程で自然に製造されたものを使用した。カーボンナノチューブは、基板表面の多数点から垂直に成長したものを刈り取るようにして採取したものを使用した。
【0067】
前述の湿式分散工程−捕捉工程−整列工程を経て製造した湿式製法によるアルミニウム含有炭素繊維シートと比較して、アルミニウム粉末の種類及び量、並びに気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブのサイズ及び配合率ともに同一であり、更には高熱伝導複合材料の製造条件なども同一であるが、高熱伝導複合材料中のアルミニウム含有炭素繊維層におけるカーボンナノチューブが無配向であるため、その高熱伝導複合材料の繊維配向方向における熱伝導率は、湿式製法によるアルミニウム含有炭素繊維シートを使用した高熱伝導複合材料より小さい500W/mKであった。
【符号の説明】
【0068】
1 気相成長炭素繊維
2 カーボンナノチューブ
3 水
4 繊維状炭素材料
10 水槽
20 ナノバブル発生装置
21 装置本体
22 吸引管
23 吐出管
30 捕捉用の第1櫛状治具
31 グリップ
32 歯
40 整列蓄積用の第2櫛状治具
41 グリップ
42 歯
50 高熱伝導複合材料
51 アルミニウム粉末焼結層
52 アルミニウム含有炭素繊維層
53 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は多層のグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成体からなる繊維状炭素材料を、ナノバブルが充満した流動液体にて攪拌することにより、前記繊維状炭素材料を前記流動液体の表面上に分散して浮上させる分散工程と、
流動液体表面上に分散して浮上した繊維状炭素材料を捕捉用の第1櫛状治具によりすくい取る捕捉工程と、
前記第1櫛状治具により捕捉した繊維状炭素材料を、前記第1櫛状治具とは別な整列蓄積用の第2櫛状治具へ移し替て整列密集させる整列工程とを含んでおり、
前記流動液体の表面上に分散して浮上する繊維状炭素材料に対して前記捕捉工程と前記整列工程とを繰り返すことにより、繊維状炭素材料を第2櫛状治具上に整列密集状態で順次蓄積して配向シートとなす炭素繊維配向シート製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素繊維配向シート製造方法において、前記流動液体は水、又は重量%で10%以下の有機溶媒を含む水溶液である炭素繊維配向シート製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素繊維配向シート製造方法において、第1櫛状治具及び第2櫛状治具における歯が、板厚方向に並列し且つ縦に長い長方形状の薄板である炭素繊維配向シート製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の炭素繊維配向シート製造方法において、前記繊維状炭素材料は、グラフェンシートが円筒形状に丸まった単層又は複数層のグラフェンチューブを芯部に有しており、その芯部を多重に取り囲むようにグラフェンシートがグラフェンチューブの径方向に積層された気相成長炭素繊維である炭素繊維配向シート製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の炭素繊維配向シート製造方法において、前記繊維状炭素材料は、グラフェンシートが円筒形状に丸まった単層又は複数層のグラフェンチューブを芯部に有しており、その芯部を多重に取り囲むようにグラフェンシートがグラフェンチューブの径方向に積層された気相成長炭素繊維と、グラフェンシートが円筒形状に丸まった単層又は複数層のグラフェンチューブにより構成されたカーボンナノチューブとの混合物である炭素繊維配向シート製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−241501(P2011−241501A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114140(P2010−114140)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】