説明

炭素膜形成方法

【課題】簡便な方法で、微粉の発生を抑制し、基材との密着性、表面平滑性、低摩擦特性を備えた高品質の炭素膜を形成する炭素膜形成方法を提供する。
【解決手段】大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する工程と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする工程と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する工程とを有することを特徴とする炭素膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材との密着性、表面粗さ特性、摩擦特性及び平滑性に優れた炭素膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な基材に強度、耐摩耗性、摩擦抵抗の低減、化学的安定性、酸素や水分の遮蔽性を付与する目的で、基材表面に機能膜を付与する方法が開発されている。
【0003】
これらの特性を備えた機能膜の一つとして、炭素膜(硬質炭素膜)が注目されている。この炭素膜は、例えば、アモルファスカーボン膜、水素化アモルファスカーボン膜、四面体アモルファスカーボン膜、窒素含有アモルファスカーボン膜、金属含有アモルファスカーボン膜等が挙げられ、その代表的な例が、ダイアモンドライクカカーボン(DLC)膜である。このダイヤモンドライクカーボン膜は、i−カーボン膜、非晶質(アモルファス)カーボン膜あるいは硬質炭素膜とも称され、表面が非常に平滑で、機械的、電気的および化学的特性に優れており、しかも低温で成膜できるため、高機能性膜として注目されています。
【0004】
一方、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ等に適用されている画像形成装置において、第1のトナー画像担持体からトナー画像を一次転写され、転写されたトナー画像を担持し、更に記録紙等にトナー画像を二次転写する中間転写体を有する画像形成装置が知られている。
【0005】
このような中間転写体として、特開平9−212004号公報には中間転写体の表面にシリコン酸化物や酸化アルミニウム等を被覆させることにより、トナー画像の剥離性を向上させて、記録紙等への転写効率向上を図るものが提案されている。
【0006】
しかし、中間転写体を有する画像形成装置は二次転写時にトナー画像を100%転写することは現時点では不可能に近く、例えば、中間転写体に残留したトナーを中間転写体からブレードで掻き落とすクリーニング装置を必要としている。
【0007】
上記特許文献に記載された中間転写体は、二次転写時のトナー転写率が十分でなく、耐久性が十分でないという問題点、また、シリコン酸化物を蒸着により、酸化アルミニウム等をスパッタリングにより形成するため真空装置等の大がかりな設備を必要とするという問題点があった。
【0008】
上述の様な基材表面に炭素膜を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、プラズマCDV法等の公知の薄膜化方法が知られている。例えば、無定形炭素薄膜を、真空型の平行平板型高周波プラスマCVD装置を用いて形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、炭素膜の製膜速度が低く、また、真空装置等の特別で大がかりな装置を必要とするため、生産効率が極めて低いものである。これに対し、真空装置に代えて、大気圧条件下で炭素膜を形成する方法の検討がなされている。例えば、大気圧低温プラズマ方法を用いて、プラスチックボトルの外表面または内表面に、炭化水素化合物膜(DLC)を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、放電ガスとして高価なヘリウムガスを使用しており、また基材との密着性が十分であるとは言い難いのが現状である。また、大気圧条件下でトーチ方式により、シリコンウエハ上に硬質炭素膜を形成する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、非特許文献1に記載されている方法は、炭素膜形成時の基材温度が高いため、耐熱性に課題を抱えている樹脂フィルム等を用いた製膜に適用することが難しく、また製膜速度も低く、一度の製膜可能な面積が小さく、放電ガスとして高価なヘリウム等を使用しているため、生産効率が低い。
【0009】
また、大気圧条件下で、対向する電極間に印加し、大気雰囲気とは遮断した放電空間で放電ガスと原料ガスにより励起ガスを形成し、この励起ガスを放電空間外で基材に晒して、硬質炭素膜等を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この方法によれば、製膜時に大気の影響、特に、形成膜への酸素等の不純物の影響を排除することで、均質の薄膜が形成できるとされている。しかしながら、特許文献3に記載されている方法では、放電空間に薄膜形成化合物を含む原料ガスを供給するため、薄膜形成化合物が直接放電空間に晒されるため、気相成長を抑制することが困難になり、その結果、放電空間内で成長した微粉末等により、ピンホールを含む炭素膜が形成され、完全に気相成長を抑制することができなかった。
【0010】
また、大気圧条件下で、対向電極間に、硬質炭素膜形成材料を含む原料ガスを供給し、プラズマ放電により励起した原料ガスに、放電空間内に基材を搬入して薄膜を形成する中間転写体の製造装置が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この方法に従えば、確かに、転写性が高く、クリーニング性、耐久性に優れた中間転写体を得ることができるが、基材との密着性及び摩擦特性には、未だ課題を残しているのが現状である。
【特許文献1】特開平5−273425号公報
【特許文献2】特開2001−158415号公報
【特許文献3】特開平5−44041号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/129543号明細書
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol.44,No.52,2005,pp.L1573−L1575
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便な方法で、微粉の発生を抑制し、基材との密着性、表面平滑性、低摩擦特性を備えた高品質の炭素膜を形成する炭素膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0013】
1.大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する工程と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする工程と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する工程とを有することを特徴とする炭素膜形成方法。
【0014】
2.前記炭素を含有する原料ガスは、炭化水素またはアルコールを含有するガスであることを特徴とする前記1に記載の炭素膜形成方法。
【0015】
3.前記放電空間は、対向する電極間に高周波電圧を印加することにより形成されたものであることを特徴とする前記1または2に記載の炭素膜形成方法。
【0016】
4.前記高周波電圧は、周波数が10kHz以上、10GHz以下であることを特徴とする前記3に記載の炭素膜形成方法。
【0017】
5.前記放電ガスは、1)窒素ガス、2)希ガス、3)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む窒素ガス、または4)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む希ガスであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【0018】
6.前記基材は、高分子フィルムまたは金属含有薄膜を最表層として有する高分子フィルムであることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【0019】
7.前記炭素を含有する原料ガスは、キャリアガスとして窒素ガスまたは希ガスを含有することを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【0020】
8.前記高周波電圧は、周波数が1GHz以上、10GHz以下であることを特徴とする前記3に記載の炭素膜形成方法。
【0021】
9.前記炭素膜は、水素原子含有量が30原子数%以上であることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、簡便な方法で、微粉の発生を抑制し、基材との密着性、表面平滑性、低摩擦特性を備えた高品質の炭素膜を形成する炭素膜形成方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する工程と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする工程と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する工程とを有することを特徴とする炭素膜形成方法とすることにより、簡便な方法で、微粉の発生を抑制し、基材との密着性、表面平滑性、低摩擦特性を備えた高品質の炭素膜を形成する炭素膜形成方法を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0025】
上記の様に、本発明の炭素膜形成方法においては、対向電極間で放電ガスを励起した後、この放電空間には、炭素を含有する原料ガスを導入せずに、励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを放電空間外で混合して二次励起ガスとし、この二次励起ガスに基材を晒すことにより、基材上に均質性に優れ、ピンホール等の発生のない硬質炭素膜を形成する方法である。すなわち、本発明では、基材近傍の領域(放電空間外)で、炭素を含有する原料ガスが、励起された放電ガスと混合して励起されるため、空間領域で微粒子等に成長する気相成長を起こす前に、二次励起ガスが基材表面に到達するため、微粒子の粉塵の発生を効果的に防止することができるのである。
【0026】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0027】
はじめに、本発明の炭素膜形成方法に適用する大気圧プラズマ処理装置について説明する。
【0028】
本発明の炭素膜形成方法に適用する大気圧プラズマ処理装置は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する手段と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする手段と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する手段とを有する。
【0029】
一般的に、基材上に機能性薄膜を形成する方法としては、大別して、物理気相成長法及び化学気相成長法が挙げられ、物理的気相成長法は、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質(例えば、炭素膜等)の薄膜を堆積する方法であり、これらの方法としては、蒸着(抵抗加熱法、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー)法、また、イオンプレーティング法、スパッタ法等がある。一方、化学気相成長法は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面或いは気相での化学反応により膜を堆積する方法であり、また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、例えば、プラズマCVD(化学的気相成長法)法、大気圧プラズマCVD法等が挙げられる。
【0030】
本発明では、その中でも、大気圧プラズマ処理法(以下、大気圧プラズマCVD法ともいう)を適用することを特徴とするものである。
【0031】
大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマ処理法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、更には通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
【0032】
例えば、本発明に係る炭素を主成分とする炭素膜は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で、高周波電界を発生させた放電空間に、炭素を含有する原料ガスを含有するガスを、励起した放電ガスと混合して二次励起ガスを形成し、基板をこの二次励起ガスに晒すことにより形成される。
【0033】
本発明でいう大気圧もしくはその近傍の圧力とは、20kPa〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
【0034】
また、本発明でいう励起したガスとは、エネルギーを得ることによって、ガス中の分子の少なくとも一部が、今ある状態からより高い状態へ移ることをいい、励起ガス分子、ラジカル化したガス分子、イオン化したガス分子を含むガスがこれに該当する。
【0035】
すなわち、対向電極間(放電空間)を、大気圧もしくはその近傍の圧力とし、放電ガスを対向電極間に導入し、高周波電圧を対向電極間に印加して、放電ガスをプラズマ状態とし、続いてプラズマ状態になった放電ガスと原料ガスとを、放電空間外で混合させて、この混合ガス(二次励起ガス)に基材を晒して、基材上に炭素膜を形成する。
【0036】
以下、本発明に係る大気圧プラズマ処理装置について図を交えて説明する。なお、以下の説明には用語等に対する断定的な表現が含まれている場合があるが、本発明の好ましい例を示すものであって、本発明の用語の意義や技術的な範囲を限定するものではない。
【0037】
従来知られている大気圧プラズマ処理装置としては、大きく分けて、以下の2つの方式が挙げられる。
【0038】
1つの方法は、プラズマジェット型の大気圧プラズマ放電処理装置といわれる方法で、対向電極間に高周波電圧を印加し、その対向電極間に放電ガスを含むガスを供給して、該混合ガスをプラズマ化し、次いでプラズマ化した混合ガスと、原料ガスとを会合、混合した後、放電空間外で基板上に吹き付けて薄層を形成する方法である。
【0039】
他方の方法は、ダイレクト型の大気圧プラズマ放電処理装置といわれる方法で、放電ガスを含む混合ガスと原料ガスとを混合した後、対向電極間に、透明基材を担持した状態で、その放電空間に上記混合ガスを導入し、対向電極間に高周波電圧を印加して、放電空間内で基板上に薄層を形成する方法である。
【0040】
本発明に係る大気圧プラズマ処理装置は、基本的には前者のプラズマジェット型の大気圧プラズマ処理装置を用いる方法である。
【0041】
本発明に係る大気圧プラズマ処理装置を説明する前に、対向電極間の放電空間に原料ガス及び放電ガスの混合ガスを導入し、放電空間内で励起ガスを形成する従来型の大気圧プラズマ処理装置について説明する。
【0042】
図1は、放電空間に原料ガス及び放電ガスの混合ガスを導入し、放電空間内で励起ガスを形成する従来型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
【0043】
図1に示す2周波ジェット方式の大気圧プラズマ処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図1では図示してないが、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0044】
大気圧プラズマ放電処理装置210は、第1電極211と第2電極212から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極211には第1電源221からの周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極212には第2電源222からの周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源221は第2電源222より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加出来、また第1電源221の第1の周波数ω1は第2電源222の第2の周波数ω2より低い周波数を印加出来る。
【0045】
第1電極211と第1電源221との間には、第1フィルター223が設置されており、第1電源221から第1電極211への電流を通過しやすくし、第2電源222からの電流をアースして、第2電源222から第1電源221への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0046】
また、第2電極212と第2電源222との間には、第2フィルター224が設置されており、第2電源222から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源221からの電流をアースして、第1電源221から第2電源222への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0047】
第1電極211と第2電極212との対向電極間(放電空間)213に、ガス供給手段から、放電ガスと薄膜形成のための原料化合物を含む原料ガスとの混合ガスMGを導入し、第1電極211と第2電極212から高周波電界を印加して放電を発生させ、混合ガスMGをプラズマ状態にした励起混合ガスMG′を、対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで形成する処理空間をプラズマ状態のガスMG°で満たし、前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置214付近で薄膜を形成させる方法である。薄膜形成中、電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、温度調節の媒体として蒸留水、油等の絶縁性材料を用いて温度制御がなされる。また、図1には、高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度の測定に使用する測定器を示した。225及び226は高周波電圧プローブであり、227及び228はオシロスコープである。
【0048】
しかしながら、図1に記載の様な対向電極間(放電空間内)で、放電ガスと炭素膜形成用の炭素を含む原料化合物を含む原料ガスとを混合した混合ガスMGが、直接放電空間で印加を受けるため、原料ガスを含む混合ガスMGを励起してから、目的とする基材に到達するまでに、ある程度の時間を要することになる。この結果、放電空間で励起された混合ガスMG′内で、気相成長に伴う微粒子(粉塵)の発生を生じることになり、この粉塵が対向電極表面に付着して放電不良を起こしたり、あるいは基材表面に到達、沈着することで、ピンホール等の発生を誘発する要因となっている。
【0049】
本発明では、上記課題を解決すべく検討を行った結果、大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する工程と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする工程と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する工程とから構成される大気圧プラズマ処理装置を用いることを特徴とする。
【0050】
図2は、本発明に適用できる大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
【0051】
図2に記載の大気圧プラズマ処理装置は、対向電極間に形成した放電空間に放電ガスのみを供給して励起ガスとし、一方、炭素膜形成材料を含む原料ガスを基材に平行した供給路より供給し、放電空間外で励起した放電ガスと、水平に供給された原料ガスとを会合、混合して、二次励起ガスとし、この二次励起ガスを瞬時に基材を晒すことで炭素膜を形成する方法である。
【0052】
図2に示す大気圧プラズマ処理装置2は、対向した位置に電源4に接続した第1電極3aと第2電極3bとを配置されている。この電極は少なくとも一方は誘電体で被覆されており、その電極間に形成された放電空間6に、電源4より高周波電圧を印加してプラズマ放電が発生する。
【0053】
この対向電極間(放電空間)6に、放電ガス供給手段5より放電ガスGを供給することにより、放電ガスGが励起されて励起放電ガスG′となり、放電空間外の原料ガスとの混合領域9に送られる。
【0054】
一方、炭素膜を形成する原料化合物を含む原料ガスMは、原料ガス供給手段7より、原料ガス供給路8に供給され、基材Fと平行な状態で混合領域9に送られ、上記励起放電ガスG′と放電空間外との混合されて、二次励起ガス10を形成する。この二次励起ガス10に基材Fを晒すことで、基材F上に炭素膜11を形成するものである。上記炭素膜の形成に用いられた廃ガス12は、排ガス路13を経由して系外に排出される。
【0055】
図2に示す様に、図面の上部より下部に垂直方向に供給される励起放電ガスG′に対し、基材Fに対し平行方向より原料ガスを供給することで、両ガスの短時間で均一な混合が可能となり、基材F上に気相成長による炭素微粒子の発生を起こすことなく、均質な硬質炭素膜を形成することができる。
【0056】
図3は、本発明に適用できる大気圧プラズマ処理装置の他の一例を示す概略図である。
【0057】
図3に記載の大気圧プラズマ処理装置は、上記図2に記載の構成に、図1で説明したのと同様の2周波ジェット方式の大気圧プラズマ処理装置である。
【0058】
図3に示す大気圧プラズマ処理装置は、図2と同様に、対向した位置に第1電源21に接続した第1電極3aと、第2電源22に接続した第2電極3bとを配置されている。この電極は少なくとも一方は誘電体で被覆されており、その電極間に形成された放電空間6に、電源21、22より高周波電圧を印加してプラズマ放電が発生する。
【0059】
この対向電極間(放電空間)6に、放電ガス供給手段5より放電ガスGを供給することにより、放電ガスGが励起されて励起放電ガスG′となり、放電空間外の原料ガスとの混合領域9に送られる。
【0060】
一方、炭素膜を形成する原料化合物を含む原料ガスMは、原料ガス供給手段7より、原料ガス供給路8に供給され、基材Fと平行な状態で混合領域9に送られ、上記励起放電ガスG′と放電空間外との混合されて、二次励起ガス10を形成する。この二次励起ガス10に基材Fを晒すことで、基材F上に炭素膜11を形成するものである。上記炭素膜の形成に用いられたガス12は、排ガス路13を経由して系外に排出される。
【0061】
該対向電極間に設けた第1電極3aには第1電源21からの周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極3bには第2電源22からの周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加出来、また第1電源21の第1の周波数ω1は第2電源22の第2の周波数ω2より低い周波数を印加出来る。
【0062】
第1電極3aと第1電源21との間には、第1フィルター23が設置されており、第1電源21から第1電極3aへの電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0063】
また、第2電極3bと第2電源22との間には、第2フィルター24が設置されており、第2電源22から第2電極3bへの電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源22への電流を通過しにくくするように設計されている。図3には、高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度の測定に使用する測定器を示した。25及び26は高周波電圧プローブであり、27及び28はオシロスコープである。
【0064】
図4は、本発明の炭素膜形成方法を、電子写真用中間転写体の作製に適用した一例を示す概略図である。
【0065】
図4は、中間転写体を製造する中間転写体製造装置の一例を示す概略図である。
【0066】
中間転写体の製造装置102(放電空間と炭素膜堆積領域が異なり、プラズマを基材に噴射するプラズマジェット方式)は、基材175上に硬質炭素膜を形成するもので、エンドレスベルト状の中間転写体の基材175を巻架して矢印方向に回転するロール120と従動ローラ201、及び、基材表面に硬質炭素膜を形成する成膜装置である大気圧プラズマCVD装置103より構成されている。
【0067】
大気圧プラズマ処理装置103は、ロール120の外周に沿って配列された少なくとも1対の固定電極121と、固定電極121の一方の固定電極121aと他方の固定電極121bとの対向領域で且つ放電が行われる放電空間123と、放電ガスを放電空間123に供給する放電ガス供給装置124と、一方の固定電極121bのサイド位置に設置された原料ガスを原料ガス供給装置(不図示)より、励起した放電ガスと会合する位置に供給する原料ガス供給路113が設けられている。また、放電空間123等に空気の流入することを軽減する放電容器129と、一方の固定電極121aに接続された第1の電源125と、他方の固定電極121bに接続された第2の電源126と、使用済みの廃ガスG′を排気する排気部128とを有している。
【0068】
原料ガス供給装置(不図示)には、炭素膜、例えば、アモルファスカーボン膜、水素化アモルファスカーボン膜、四面体アモルファスカーボン膜、窒素含有アモルファスカーボン膜、金属含有アモルファスカーボン膜等を形成する原料ガスを、励起放電ガスとの混合位置に供給する。
【0069】
また、従動ローラ201は張力付勢手段202により矢印方向に付勢され、基材175に所定の張力を掛けている。張力付勢手段202は基材175の掛け替え時等は張力の付勢を解除し、容易に基材175の掛け替え等を可能としている。
【0070】
第1の電源125は周波数ω1の電圧を出力し、第2の電源126は周波数ω2の電圧を出力し、これらの電圧により放電空間123に周波数ω1とω2とが重畳された電界Vを発生する。そして、電界Vにより原料ガスGをプラズマ化し、励起原料ガスと、原料ガス供給路13より供給される原料ガスとを、放電空間123下部の放電空間外領域で混合させて、二次励起ガスとし。この二次励起ガスに基材175を晒して炭素膜を形成する。
【0071】
また、炭素膜と基材との接着性を向上させるために、炭素膜を形成する固定電極と混合ガス供給装置の上流に、アルゴンや酸素などのガスを供給するガス供給装置と固定電極を設けてプラズマ処理を行い、基材の表面を活性化させるようにしても良い。
【0072】
図5は、図4で示した中間転写体製造装置の破線部(大気圧プラズマ処理装置103)を抜き出した概略図である。
【0073】
図5は、大気圧プラズマ放電方式により中間転写体を製造する大気圧プラズマ処理装置の概略図である。
【0074】
図5に示す大気圧プラズマ処理装置は、先に説明した図3に記載の装置と、基材の搬送方向が反対ではあるが、ほぼ同様の構成である。
【0075】
大気圧プラズマCVD装置104は、基材Fを着脱可能に巻架して回転駆動させる少なくとも1対のローラと、プラズマ放電を行う少なくとも1対の電極とを有し、前記1対の電極の内、一方の電極は前記1対のローラの内の一方のローラで、他方の電極は前記一方のローラに前記基材を介して対向する固定電極であり、前記一方のローラと前記固定電極との対向領域において発生するプラズマに、前記基材が晒されて前記硬質炭素含有層を堆積・形成される中間転写体の製造装置であり、例えば放電ガスとして窒素を用いる場合に一方の電源により高電圧を掛け、他方の電源により高周波を掛けることにより安定して放電を開始し且つ放電を継続するため好適に用いられる。
【0076】
大気圧プラズマCVD装置104は、前述したように放電ガス供給装置124、固定電極121a、第1の電源125、第1のフィルタ125a、ロール電極120、ロール電極を矢印方向に駆動回転させる駆動手段120a、第2の電源121b、第2のフィルタ126aとを有しており、放電空間111でプラズマ放電を行わせて放電ガスGを励起させて、励起放電ガスG2とする。
【0077】
一方、炭素膜を形成する原料化合物を含む原料ガスMは、原料ガス供給手段127より、原料ガス供給路113に供給され、基材Fと平行な状態で混合領域9に送られ、上記励起放電ガスG2と放電空間外との混合されて、二次励起ガス112を形成する。この二次励起ガス112に基材Fを晒すことで、基材F上に炭素膜130を形成するものである。
【0078】
該対向電極間に設けた第1電極121aには第1電源125からの周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極121bには第2電源126からの周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源125は第2電源126より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加出来、また第1電源125の第1の周波数ω1は第2電源126の第2の周波数ω2より低い周波数を印加出来る。
【0079】
第1電極121aと第1電源125との間には、第1フィルター125aが設置されており、第1電源125から第1電極121aへの電流を通過しやすくし、第2電源126からの電流をアースして、第2電源126から第1電源125への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0080】
また、第2電極121bと第2電源126との間には、第2フィルター126aが設置されており、第2電源126から第2電極121bへの電流を通過しやすくし、第1電源125からの電流をアースして、第1電源125から第2電源126への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0081】
各図にて説明した大気圧プラズマ処理装置に使用可能な高周波電源としては、例えば、神鋼電機製高周波電源(3kHz)、神鋼電機製高周波電源(5kHz)、神鋼電機製高周波電源(15kHz)、神鋼電機製高周波電源(50kHz)、ハイデン研究所製高周波電源(連続モード使用、100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、パール工業製高周波電源(2MHz)、日本電子製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(27MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等を使用できる。また、433MHz、800MHz、1.3GHz、1.5GHz、1.9GHz、2.45GHz、5.2GHz、10GHzを発振する電源を用いてもよい。その中でも、本発明において適用する高周波電源としては、周波数が10kHz以上、10GHz以下である高周波電源を用いることが好ましく、更には周波数が1GHz以上、10GHz以下である高周波電源を用いることが好ましい。
【0082】
本発明において、例えば、2周波方式の場合、第1及び第2の電源から対向する電極間に供給する電力は、固定電極21に1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、励起放電ガスとする。固定電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm2である。下限値は、好ましくは1.2W/cm2である。なお、放電面積(cm2)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0083】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、供給する高周波は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0084】
電極には前述したような強い電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことが出来る電極を採用することが好ましく、固定電極には強い電界による放電に耐えるため少なくとも一方の電極表面には下記の誘電体が被覆されている。
【0085】
図6は、固定電極の一例を示す斜視図である。
【0086】
図6の(a)において、角筒柱型の固定電極221は金属等の導電性母材210cに対しセラミックスを溶射後、無機材料を用いて封孔処理したセラミック被覆処理誘電体210dを被覆した組み合わせで構成されている。また、図6の(b)に示す様に、角筒柱型の固定電極221′は金属等の導電性母材210Aへライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体210Bを被覆した組み合わせで構成してもよい。
【0087】
次いで、大気圧プラズマ処理装置を用いた本発明の炭素膜形成方法で用いる各材料について説明する。
【0088】
(原料ガス)
本発明の炭素膜形成方法において、炭素膜を形成するための原料ガスとしては、常温で気体又は液体の有機化合物ガス、特に炭化水素ガスが用いられる。これら原料における相状態は常温常圧において必ずしも気相である必要はなく、原料ガスガス供給装置で加熱或いは減圧等により溶融、蒸発、昇華等を経て気化し得るものであれば、液相でも固相でも使用可能である。原料ガスとしての炭化水素ガスについては、例えば、CH4、C26、C38、C410等のパラフィン系炭化水素、C22、C24等のアセチレン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ジオレフィン系炭化水素、さらには芳香族炭化水素等全ての炭化水素を少なくとも含むガスが使用可能である。さらに炭化水素以外でも、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、CO、CO2等少なくとも炭素元素を含む化合物であれば使用可能であり、本発明においては、特に炭化水素またはアルコール類を含有することが好ましい。また、原料ガスには、キャリアガスとして、窒素ガスまたは希ガスを含むことが好ましい。
【0089】
本発明においては、上記原料ガスを用いて、アモルファスカーボン膜、水素化アモルファスカーボン膜、四面体アモルファスカーボン膜、窒素含有アモルファスカーボン膜、金属含有アモルファスカーボン膜等の硬質炭素膜を形成する。また、本発明に係る炭素膜においては、水素原子含有量が30原子数%以上であることが好ましい。
【0090】
(放電ガス)
放電ガスとは、対向電極間に印加した条件においてプラズマ励起される気体をいい、本発明において好ましく適用しうる放電ガスとしては、1)窒素ガス、2)アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、あるいは3)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む窒素ガス、4)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む希ガスなどが挙げられる。これらの中でも窒素、アルゴンが好ましく用いられる。
【0091】
(基材)
本発明の炭素膜形成方法において、本発明に係る炭素膜を形成する基材としては、特に制限はないが、高分子フィルムあるいは金属含有薄膜を最表層として有する高分子フィルムであることが好ましい。
【0092】
本発明に適用しする高分子フィルムとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVAC)、エチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、スチレン−アクリロニトリル樹脂(SAN)、トリアセチルセルロース(TAC)、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル等の高分子フィルムや、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリアミド及びポリフェニレンサルファイド等のいわゆるエンジニアリングプラスチック材料を用いることができる。これらの高分子フィルムは、必要に応じて、導電剤等を添加することができる。導電剤としては、カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックとしては、特に制限なく使用することができ、中性カーボンブラックを使用しても構わない。
【0093】
また、上述した高分子フィルム上に金属含有薄膜を有する形態であっても良い。これらの金属含有薄膜は、金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物から構成される薄膜を挙げることができ、例えば、有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等により形成される薄膜であり、酸化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等を挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0095】
実施例1
《炭素膜形成試料の作製》
〔試料1の作製〕
基材として、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)上に、図2に記載の原料ガスを電極に対し水平に供給する方式の単周波のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置を用いて、下記のガス条件、放電条件で、厚さ200nmの炭素膜を形成して、試料1を得た。
【0096】
〈電源条件〉
電源:高周波側 27.12MHz 6W/cm2
〈電極条件〉
第1電極3a、第2電極3bの角形電極は、30mm角状の中空のチタンパイプに対し、誘電体としてセラミック溶射加工を行い製作した。
【0097】
誘電体厚み:1mm
電極巾:300mm
印加電極温度:90℃
電極間スリットギャップ:1.0mm
〈ガス条件〉
放電ガス:Ar、100slm
原料ガス:C22、200sccm
図2に記載のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置2を用いて、放電ガスG(Arガス)を放電ガス供給手段5より、対向電極間(放電空間)6に供給し、対向電極間に電源4より高周波電圧を印加して、励起放電ガスG′とした。原料ガス(C22ガス)は、原料ガス供給手段7より、原料ガス供給路8に供給し、基材(PEN)Fと平行な状態で混合領域9に送り、励起放電ガスG′と放電空間外で混合して、二次励起ガス10を形成し、この二次励起ガス10に基材Fを晒して、炭素膜11を形成した。
【0098】
〔試料2の作製〕
上記試料1の作製において、放電ガスに更に反応ガスとして水素ガスを10sccm添加した以外は同様にして、試料2を作製した。
【0099】
〔試料3の作製〕
上記試料1の作製において、原料ガスとしてC22に代えてCH4を用いた以外は同様にして、試料3を作製した。
【0100】
〔試料4の作製〕
基材として、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム)上に、図3に記載の原料ガスを電極に対し水平に供給する方式の2周波のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置を用いて、下記のガス条件、放電条件で、厚さ200nmの炭素膜を形成して、試料4を得た。
【0101】
〈電源条件〉
第1電源:高周波側 27.12MHz 6W/cm2
第2電源:低周波側 100kHz 5w/cm2
〈電極条件〉
第1電極3a、第2電極3bの角形電極は、30mm角状の中空のチタンパイプに対し、誘電体としてセラミック溶射加工を行い製作した。
【0102】
誘電体厚み:1mm
電極巾:300mm
印加電極温度:90℃
〈ガス条件〉
放電ガス:N2、100slm
原料ガス:C22、200sccm
図3に記載のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置2を用いて、放電ガスG(N2ガス)を放電ガス供給手段5より、対向電極間(放電空間)6に供給し、対向電極間に高周波電圧を印加して、励起放電ガスG′とした。原料ガス(C22ガス)は、原料ガス供給手段7より、原料ガス供給路8に供給し、基材(PEN)Fと平行な状態で混合領域9に送り、励起放電ガスG′と放電空間外で混合して、二次励起ガス10を形成し、この二次励起ガス10に基材Fを晒して、炭素膜11を形成した。
【0103】
〔試料5の作製〕
上記試料4の作製において、放電ガスに更に反応ガスとして酸素ガスを10sccm添加した以外は同様にして、試料5を作製した。
【0104】
〔試料6の作製〕
上記試料1の作製において、図2に記載の単周波のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置を用いて、放電ガス(Ar)、原料ガス(C22)とを混合して調製した混合ガスMGを、混合ガス供給手段(放電ガス供給手段5を用いた)より、対向電極間(放電空間)6に供給し、対向電極間に電源4より高周波電圧を印加して励起混合ガスとし、この励起混合ガスG′に基材を晒して、炭素膜を形成した以外は同様にして、試料6を作製した。
【0105】
〔試料7の作製〕
上記試料6の作製において、混合ガスに更に反応ガスとして水素ガスを10sccm添加した以外は同様にして、試料7を作製した。
【0106】
〔試料8の作製〕
上記試料6の作製において、原料ガスとしてC22に代えてCH4を用いた以外は同様にして、試料8を作製した。
【0107】
〔試料9の作製〕
上記試料4の作製において、図3に記載のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置に代えて、図1に記載のプラズマジェット型大気圧プラズマ処理装置を用い、放電ガス(Ar)、原料ガス(C22)とを混合して調製した混合ガスMGを、混合ガス供給手段より、対向電極間(放電空間)213に供給し、対向電極間に2周波電源227、228より高周波電圧を印加して励起混合ガスMG′とし、この励起混合ガスMG′に基材を晒して、炭素膜を形成した以外は同様にして、試料9を作製した。この時、高周波側の第1電源として、13.56MHz 6W/cm2の高周波電源を用いた。
【0108】
〔試料10の作製〕
上記試料9の作製において、混合ガスに更に反応ガスとして酸素ガスを10sccm添加した以外は同様にして、試料10を作製した。
【0109】
《各試料の評価》
上記作製した炭素膜を有する各試料について、下記の各評価を行った。
【0110】
〔スベリ性の評価:摩擦係数の測定〕
各試料の炭素膜表面の動摩擦係数を、JIS−K−7125−ISO8295に記載の方法に準じて測定した。各試料の炭素膜表面に、重さ200gのステンレス製の検体を載せ、検体の移動速度100mm/分、接触面積80mm×200mmの条件で検体を水平に引っ張り、検体が移動中の平均荷重(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
【0111】
動摩擦係数=F(N)/重りの重さ(N)
上記方法で測定した動摩擦係数が、0.4未満であれば○、0.4以上であれば×と判定した。
【0112】
〔表面平滑性の評価:表面粗さRaの測定〕
各試料の炭素膜表面の表面粗さRa(nm)を、下記の方法に従って測定した。
【0113】
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)として、セイコーインスツル社/エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニットを測定装置として使用し、カンチレバーは、同社製シリコンカンチレバーSI−DF20を使用した。DFMモード(Dynamic Force Mode)で、測定領域10μm角を測定し、得られた三次元データより、平均粗さRa(nm)を算出した。
【0114】
〔密着性の評価〕
JIS K5400に準拠した碁盤目試験を行った。各試料の炭素膜膜の表面に片刃のカミソリの刃を面に対して90度の切り込みを1mm間隔で縦横に11本ずつ入れ、1mm角の碁盤目を100個作製した。この上に市販のセロファンテープを貼り付け、その一端を手でもって垂直にはがし、切り込み線からの貼られたテープ面積に対する炭素膜の剥がされた面積の割合を測定し、下記の基準に従って密着性の評価を行った。
【0115】
○:剥離した碁盤目の面積比率が、1%以下
△:剥離した碁盤目の面積比率が、2%以上、10%未満
×:剥離した碁盤目の面積比率が、10%以上
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に記載の結果より明らかな様に、本発明に係るガス供給方式で炭素膜を形成した本発明の試料は、比較例に対し、形成した炭素膜は、低摩擦係数で、表面平滑性に優れ、かつ基材との密着性が良好であることが分かる。
【0118】
実施例2
上記実施例1に記載の試料1、2、4、5、6、7、9、10の作製において、原料ガスとしてC22に代えてエチルアルコールを用いた以外は同様にして、炭素膜を形成し、実施例1と同様の方法でスベリ性、表面平滑性及び密着性の評価を行った結果、表1に記載の結果と同様の結果を得ることができた。
【0119】
実施例3
上記実施例1に記載の試料1〜10の作製において、基材をPENに代えて、PEN上に酸化珪素膜を有する基材を用いた以外は同様にして、炭素膜を形成し、実施例1と同様の方法でスベリ性、表面平滑性及び密着性の評価を行った結果、表1に記載の結果と同様の結果を得ることができた。
【0120】
実施例4
上記実施例1に記載の試料1〜5の作製において、原料ガスにキャリアガスとして窒素ガス、アルゴンガスをそれぞれ5体積%含有させて炭素膜を形成した以外は同様にして、炭素膜を形成し、実施例1と同様の方法でスベリ性、表面平滑性及び密着性の評価を行った結果、表1に記載の結果に対し更に良好な結果を得ることができた。
【0121】
実施例5
《中間転写体の作製》
〔基材の作製〕
下記の方法に従って、中間転写体用の基材を作製した。
【0122】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(E2180、東レ社製) 100質量部
導電フィラー(ファーネス#3030B、三菱化学社製) 16質量部
グラフト共重合体(モディパーA4400、日本油脂社製) 1質量部
滑材(モンタン酸カルシウム) 0.2質量部
上記各原材料を単軸押出機に投入し、溶融混練させて樹脂混合物とした。次いで、単軸押出機の先端にスリット状でシームレスベルト形状の吐出口を有する環状ダイスを取り付け、混練された上記樹脂混合物を、シームレスベルト形状に押し出した。押し出されたシームレスベルト形状の樹脂混合物を、吐出先に設けた円筒状の冷却筒に外挿させて冷却して固化することにより、厚さ120μmでシームレス円筒状の中間転写体用の基材を作製した。
【0123】
〔中間転写体1の作製〕
上記作製した円筒状の基材175を、図4、5に記載の大気圧放電部103と基材搬送ユニットから構成される大気圧プラズマ処理装置102aを用いて、原料ガスを対向電極に平行して供給しながら、実施例1に記載の試料4の作製と同様にして、下記の形成条件で厚さ200nmの炭素膜を形成した。
【0124】
〈電源条件〉
第1電源121a:高周波側 27.12MHz 6W/cm2
第2電源121b:低周波側 100kHz 5w/cm2
〈電極条件〉
第1電極121a、第2電極121bの角形電極は、30mm角状の中空のチタンパイプに対し、誘電体としてセラミック溶射加工を行い製作した。
【0125】
誘電体厚み:1mm
電極巾:300mm
印加電極温度:90℃
〈ガス条件〉
放電ガス:N2、100slm(放電ガス供給手段124より、ガス供給路123を経て供給)
原料ガス:C22、200sccm(原料ガス供給手段127より、ガス供給路113を経て供給)
〔中間転写体2の作製〕
上記中間転写体1の作製において、放電ガス及び原料ガスを混合して混合ガスとし、この混合ガスをガス供給手段124より、ガス供給路123を経て供給して励起混合ガスとし、この励起混合ガスに円筒状の基材175を晒して炭素膜を形成した以外は同様にして、中間転写体2の作製した。
【0126】
《中間転写体の評価》
〔スベリ性、表面平滑性、密着性の評価〕
実施例1に記載の方法に準じて、各中間転写体のスベリ性、表面平滑性、密着性の評価を行った結果、中間転写体1は中間転写体2に比較し、いずれの特性においても優れた結果を備えていることを確認することができた。
【0127】
〔電子複写機による画質評価〕
電子複写機として、コニカミノルタビジネステクノロジー社製のmagicolor5440DLを用い、内部の中間転写ベルトを外し、上記作製した中間転写ベルト1、2をそれぞれ装着した。モノクロトナーとして、平均粒径6.5μmの重合トナーを使用し、コニカミノルタコピーペーパーNR−A80(コニカミノルタビジネステクノロジー社製)に、黒ベタ画像の濃度を低〜高の5段階に変化させた原稿を使用して、プリントを行い、出力した画像のムラやトナー濃度を目視観察した結果、中間転写体1は中間転写体2に比較し、優れた画質形成性を備えていることを確認することができた。
【0128】
〔クリーニング適性の評価〕
上記電子複写機を用いて、各中間転写体表面をクリーニングブレードでクリーニングした後、各中間転写体の表面状態を目視観察してトナーの付着状態を確認し、クリーニング適性の評価を行った結果、中間転写体1は中間転写体2に比較し、優れたクリーニング特性を備えていることを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】放電空間に原料ガス及び放電ガスの混合ガスを導入し、放電空間内で励起ガスを形成する従来型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に適用できる大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に適用できる大気圧プラズマ処理装置の他の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の炭素膜形成方法を、電子写真用中間転写体の作製に適用した一例を示す概略図である。
【図5】図4で示した中間転写体製造装置の破線部(大気圧プラズマ処理装置103)を抜き出した概略図である。
【図6】固定電極の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0130】
2、210 大気圧プラズマ処理装置
3a、211 第1電極
3b、212 第2電極
4、21、22 電源
5 放電ガス供給手段
6、123 放電空間
7 原料ガス供給手段
8、113 原料ガス供給路
9 混合領域
10 二次励起ガス
11 炭素膜
12 廃ガス
13 排ガス路
21、221 第1電源
22、222 第2電源
102 中間転写体の製造装置
103 大気圧プラズマCVD装置
120 ロール
121、221 固定電極
201 従動ローラ
223 第1フィルター
224 第4フィルター
225、226 高周波電圧プローブ
227、228 オシロスコープ
F、175 基材
G 放電ガス
G′ 励起放電ガス
M 原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧または大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起する工程と、該励起した放電ガスと、基材に対し水平に導入された炭素を含有する原料ガスとを、放電空間外の基材近傍で混合させて二次励起ガスとする工程と、該二次励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に炭素膜を形成する工程とを有することを特徴とする炭素膜形成方法。
【請求項2】
前記炭素を含有する原料ガスは、炭化水素またはアルコールを含有するガスであることを特徴とする請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項3】
前記放電空間は、対向する電極間に高周波電圧を印加することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素膜形成方法。
【請求項4】
前記高周波電圧は、周波数が10kHz以上、10GHz以下であることを特徴とする請求項3に記載の炭素膜形成方法。
【請求項5】
前記放電ガスは、1)窒素ガス、2)希ガス、3)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む窒素ガス、または4)酸素ガス、二酸化炭素ガス、塩素ガス、水素ガス及び金属含有ガスから選ばれる少なくとも1種のガスを含む希ガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【請求項6】
前記基材は、高分子フィルムまたは金属含有薄膜を最表層として有する高分子フィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【請求項7】
前記炭素を含有する原料ガスは、キャリアガスとして窒素ガスまたは希ガスを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。
【請求項8】
前記高周波電圧は、周波数が1GHz以上、10GHz以下であることを特徴とする請求項3に記載の炭素膜形成方法。
【請求項9】
前記炭素膜は、水素原子含有量が30原子数%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−24224(P2009−24224A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189245(P2007−189245)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】