説明

無機充填ポリエステルポリカーボネート組成物

【解決手段】 (a)芳香族ポリカーボネート約50〜約80重量%、(b)芳香族ポリエステル約15〜約35重量%、(c)充填材約5〜約15重量%、及び(d)約0.25重量%以上のゴム状共重合体と約0.25重量%以上のブロック共重合体が存在するゴム状共重合体とブロック共重合体の組合せ約3〜約10重量%を含んでなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機充填ポリエステルカーボネート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業界では長年にわたって金属その他の天然物に代えてプラスチックが用いられるようになっており、特に自動車部品の分野で当てはまる。デザイナー及びエンジニアがプラスチックを採用する重大な動機となるのはプラスチックの軽量性及び構造設計上の柔軟性である。ただし、代替が比較的容易になされてきたのは、例えばインストルメントパネル、バンパー、フェーシアなどである。その他の部品の代替も絶えず考慮されてきたが、これらの部品、特に大型の外装部品では化学的、機械的及び外観上の条件などが非常に厳しく、満足するのが難しい。部品のサイズが大きいこと及び構造が潜在的に複雑であることを考慮すると、比較的流動性の高い材料が必要とされる。
【0003】
大型パネルをアセンブリに正確に取り付けることができ、どのような寸法の製品であっても多大な温度変化の中で部品寸法を維持できるように、熱膨張係数(以下、「CTE」と略す。)が低いことが要求される。また、一般に100〜120℃で実施される外装部品の塗装のため、熱変形温度(「HDT」としても知られる。)が高いことも概して必要とされる。金属の代替物であるので、性能条件を満足するため、曲げ弾性率、耐衝撃性(延性及び破壊)などの特性を維持しなければならない。外装部品では、美的外観も非常に重要である。ウェルドライン、層間剥離、条痕(ストリーク)、さらに塗料(特にウレタン系表面塗料など)の場合には膨れのような外観上の欠陥の全く又は実質的にない滑らかな表面を有しているべきである。屋外用途としては、常用化学物質のような環境曝露に対する耐性に優れることも重要である。さらに、プラスチック面と塗料との良好な密着性が維持されることも重要である。
【0004】
こうしたプラスチック材料に必要とされる特性のリストは長すぎるだけでなく、これらの特性の多くは互いに相反する。ある特性が高いと、他の特性が低くなることがある。そこで、一連のバランスのとれた特性を得る必要がある。このような特性のバランスは、自動車外装ボディパネルに適用できるが、例えば事務機器ハウジング、電動工具及びエンジンカバーのような他の用途にも応用できる。こうした材料は、あらゆる用途に用いることができ、たとえ優れた美観が必要とされない用途であっても用いることができる。
【0005】
長期にわたる実験の結果、今回、これらの条件を満足することができる複雑なプラスチックブレンドを見いだすことに成功した。かかるブレンドは、耐衝撃性改質ポリカーボネートポリエステルブレンドであり、充填材も含んでいる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、以下の成分a〜dを含んでなる組成物を提供する。
a.芳香族ポリカーボネート約50〜約80重量%、
b.芳香族ポリエステル約15〜約35重量%、
c.充填材約5〜約15重量%、及び
d.約0.25重量%以上のゴム状共重合体と約0.25重量%以上のブロック共重合体が存在するゴム状共重合体とブロック共重合体の組合せ約3〜約10重量%。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ポリカーボネート樹脂は概して芳香族ポリカーボネート樹脂である。通例、これらは二価フェノールとカーボネート前駆体との反応で製造される。かかる芳香族カーボネートポリマーを得るのに使用できる二価フェノールは、2つのヒドロキシ基が官能基として各々芳香核の炭素原子に直接結合した単核又は多核芳香族化合物である。代表的な二価フェノールは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ヒドロキノン、レゾルシノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4′−(ジヒドロキシジフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、フルオレノンビスフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、5′−クロロ−2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジクロロジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−2,5−ジフェニルエーテルなどである。
【0008】
上述のポリカーボネートの製造に適したその他の二価フェノールは、米国特許第2999835号、同第3038365号、同第3334154号及び同第4131575号に開示されている。
【0009】
芳香族ポリカーボネートは公知の方法で製造することができ、例えば上述のように、上記引用文献及び米国特許第4123436号に記載の方法で二価フェノールをカーボネート前駆体(例えば、ホスゲン)と反応させること、或いは米国特許第3153008号に開示されているようなエステル交換法その他当業者に公知の方法によって製造できる。
【0010】
また、本発明のポリカーボネート混合物の製造に際してホモポリマーではなくカーボネートコポリマー又はインターポリマーの使用が望まれる場合には、2種以上の二価フェノール或いは二価フェノールとグリコール、ヒドロキシ−もしくは酸−末端ポリエステル又は二塩基酸とのコポリマーを使用することもできる。米国特許第4001184号に記載されているような、枝分れポリカーボネートも有用である。また、線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートのブレンドを利用することもできる。さらに、本発明の実施に際しては、上述の材料のブレンドを用いて芳香族ポリカーボネートを得ることもできる。
【0011】
芳香族ポリカーボネートは、ホモポリマー、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)とホスゲンから得られるホモポリマーであり、General Electric社からLEXAN(登録商標)という商品名で市販されている。
【0012】
枝分れポリカーボネートは、重合時に枝分れ剤を添加することによって製造される。これらの枝分れ剤は周知であり、3以上の官能基を含有する多官能性有機化合物が挙げられ、官能基はヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル及びこれらの混合物でよい。具体例としては、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、トリメリト酸トリクロライド、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビス−フェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−エチル)α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸及びベンゾフェノンテトラカルボン酸がある。枝分れ剤は約0.05〜2.0重量%のレベルで添加し得る。枝分れ剤及び枝分れポリカーボネートの製造法は米国特許第3635895号、同第4001184号及び同第4204047号に記載されている。
【0013】
溶融流動性が比較的高いことが本ブレンドの重要な特性の一つであるので、比較的低〜中程度の固有粘度(IV)の芳香族ポリカーボネートが好ましく、25℃の塩化メチレン中で測定して約42〜約50ml/gのIVである。好ましいIVは約44〜約48ml/g、さらに好ましくは約46.5〜47.5ml/gである。
【0014】
組成物における芳香族ポリカーボネートの使用量は組成物の約50〜約80重量%、好ましくは約55〜約75重量%である。
【0015】
ポリエステル樹脂成分は通例次式の構造単位を含む。
【0016】
【化1】

式中、各Rは独立に二価の脂肪族、脂環式もしくは芳香族炭化水素又はポリオキシアルキレン基或いはそれらの混合物であり、各Aは独立に二価の脂肪族、脂環式又は芳香族基或いはそれらの混合物である。ポリエステル樹脂成分は典型的にはこれらの構造単位を含んでおり、各Aは独立に二価の脂肪族、脂環式又は芳香族基或いはそれらの組合せである。上記の式の構造を含む好適なポリエステルの具体例は、ポリ(アルキレンジカルボキシレート)、液晶ポリエステル及びポリエステル共重合体である。例えば3個以上のヒドロキシル基を有するグリコール又は三官能性もしくは多官能性カルボン酸などの枝分れ剤を組み込んだ枝分れポリエステルを使用することも可能である。さらに、組成物の最終用途に応じて、ポリエステルの酸及びヒドロキシル末端基の濃度を変えることが望ましいこともある。
【0017】
基は、例えばC2−12アルキレン基、C6−12脂環式基、C6−20芳香族基、又はアルキレン基の炭素原子数が約2〜6(大抵は炭素原子数2又は4)のポリオキシアルキレン基でよい。上記の式におけるA基はp−もしくはm−フェニレン、環式脂肪族又はそれらの混合物であることが最も多い。この種のポリエステルには、ポリ(アルキレンテレフタレート)及びポリアリーレートがある。かかるポリエステルは、米国特許第2465319号、同第2720502号、同第2727881号、同第2822348号、同第3047539号、同第3671487号、同第3953394号、同第4128526号に例示されているように当技術分野で公知である。
【0018】
ジカルボン酸化残基Aとして表される芳香族ジカルボン酸の具体例は、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2−ジ(p−カルボキシフェニル)エタン、4,4′−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4′−ビス安息香酸及びこれらの混合物である。1,4−又は1,5−、2,7−又は2,6−ナフタレンジカルボン酸のような縮合環を含む酸も存在し得る。好ましいジカルボン酸はテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸又はこれらの混合物である。
【0019】
ポリエステルとしては、ポリ(エチレンテレフタレート)(「PET」)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(「PBT」)、ポリ(エチレンナフタノエート)(「PEN」)、ポリ(ブチレンナフタノエート)(「PBN」)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(「PTT」)及びこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
また、ポリエステルとしては、テレフタル酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールとエチレングリコールからなる樹脂、例えばEastman Chemical社から市販のPCTG、PETG、PCTA、PCT樹脂も挙げられる。
【0021】
ポリエステルとしては、以下の式の繰返し単位を有するポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレン−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)もしくはポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−ジカルボキシレート)とも呼ばれるPCCD、さらにPCCDを各種のジオール又はポリテトラヒドロフランコモノマーで改質したものも挙げられる。
【0022】
【化2】

ポリエステルは、各種の脂肪族酸及び/又は脂肪族ポリオールから誘導される単位を少量(例えば約0.5〜約5重量%)導入してコポリエステルを形成したものでもよい。脂肪族ポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)やポリ(ブチレングリコール)のようなグリコール類がある。かかるポリエステルは、例えば米国特許第2465319号及び同第3047539号などの教示にしたがって製造できる。
【0023】
リサイクルポリエステル及びリサイクルポリエステルとバージンポリエステルとのブレンドも使用できる。
【0024】
ポリエチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステルは、23〜30℃の60:40フェノール/テトラクロロエタン混液又は同様の溶剤中で測定して、約0.52〜約0.62dl/gのIV、好ましくは0.54〜0.60dl/gのIVを有する。ポリカーボネート/ポリエステルの好ましい重量比は約65〜75:約35〜25である。
【0025】
用いる充填材は、ガラス線維、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、ウォラストナイトなど、どのような充填材でもよい。充填材を用いてCTEを達成する場合、好ましくは超微細無機充填材が用いられる。超微細充填材は、良好な輝きの表面という点でも好ましい。優れた特性バランスは約5〜約15重量%充填材を用いると得られる。充填材は好ましくはタルクのような無機充填材であって、好ましくは約10μm以下の微粒である。かかる粒度のガラス型充填材も使用できる。
【0026】
今回、流動性、耐衝撃性及び非相間剥離性のような特性の適切に調和させるには、特定のエラストマー系耐衝撃性改良剤樹脂の組合せを使用すべきであることが判明した。一つはゴム状共重合体であり、もう一方はブロック共重合体である。
【0027】
ゴム状共重合体は一般に、共役ジエン又はアクリレートエラストマーを単独で又はビニル芳香族化合物と共重合したものを含むアクリル又はメタクリルグラフト化ポリマーからなる。特に有用なのは、Rohm & Haas社から市販のコア−シェルポリマー、例えばParaloid(登録商標)という商品名で市販されているものである。一般に、これらの耐衝撃性改良剤は、ブタジエンもしくはイソプレンの単独又はビニル芳香族化合物との組合せ、或いはアクリル酸ブチルの単独又はビニル芳香族化合物との組合せから誘導された単位を含有する。上述の耐衝撃性改良剤はFromuthらの米国特許第4180494号、Owensの同第3808180号、Farnhamらの同第4096202号、及びCohenらの同第4260693号に開示されていると考えられる。最も好ましくは、耐衝撃性改良剤は、ブタジエン又はアクリル酸ブチル系ゴム状コアと、メチルメタクリレートの単独もしくはスチレンとの組合せの第2段重合で得られる二段階ポリマーからなる。第1段には架橋用及び/又はグラフト用モノマーも存在する。架橋用モノマーの例としては、1,3−ブチレンジアクリレート、ジビニルベンゼン及びブチレンジメタクリレートが挙げられる。グラフト用モノマーの例はアクリル酸アリル、メタクリル酸アリル及びマレイン酸ジアリルである。
【0028】
その他の好ましいゴム状共重合体耐衝撃性改良剤は米国特許第4292233号に開示された種類のものである。これらの耐衝撃性改良剤は一般に比較的高含有量のブタジエンポリマーとこれにグラフトしたアクリロニトリル及びスチレンを含む。
【0029】
好ましい耐衝撃性改良剤は、Rohm & Haas社からParaloid EXL2650Aとして市販されているメタクリルレート−ブタジエン(MB)、Rohm & Haas社からParaloid EXL2691又は2600として市販されているメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)、及びCrompton Chemicals社からBlendex 338として市販されているアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)である。
【0030】
ゴム状共重合体と併用されるブロック共重合体は、A−Bジブロック及び/又はA−B−Aトリブロック共重合体である。使用し得るA−B型及びA−B−A型ブロック共重合体ゴム添加剤は、典型的には、1又は2つのアルケニル芳香族ブロック(典型的にはスチレンブロック)と、1つのゴムブロック(例えばブタジエンブロックなどで、部分的又は完全に水添されたものでもよい。)とからなる熱可塑性ゴムである。本発明の組成物では、水添ゴムブロックを有するトリブロック共重合体又はジブロック共重合体、例えばKRATON Polymers社から市販のSEBS共重合体であるKraton G1650及びG1651が特に好ましい。これらのポリマーは無水マレイン酸、フマル酸その他の相溶性向上剤で改質することができる。
【0031】
好適なA−B型及びA−B−A型ブロック共重合体は、例えば米国特許第3078254号、同第3402159号、同第3297793号、同第3265765号及び同第3594452号並びに英国特許第1264741号に開示されている。A−B及びA−B−Aブロック共重合体の代表例としては、ポリスチレン−ポリブタジエン(SBR)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)、ポリスチレン−ポリイソプレン、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBR)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)、並びにこれらの選択的水添物が挙げられる。ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンとポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)共重合体の混合物を始めとする各種ポリマーの混合物も利用できる。
【0032】
かかるA−B及びA−B−Aブロックコポリマーは、Phillips Petroleum社からSOLPRENE(登録商標)という商品名で市販されているもの、Kraton Polymers社からKRATON(登録商標)という商品名で市販されているもの、Dexco社からVECTOR(登録商標)という商品名で市販されているもの、並びに(株)クラレからSEPTON(登録商標)という商品名で市販されているものを始めとして、数多くの供給元から市販されている。
【0033】
上記2種類の耐衝撃性改良剤の合計量は組成物の約3〜約10重量%である。各々最低限組成物の約0.25重量%以上で存在すべきであり、好ましくは約0.3又は0.4重量%で存在する。一般に、ブロック共重合体の含有量が高いほど、部材、特に重量が4乃至5ポンド以上となる大型部材又は幾何形状の複雑な部材での相間剥離の傾向が高まる。かかる大型部材又は幾何形状の複雑な部材では、ブロック共重合体の使用量の上限は約1.4〜1.5重量%、好ましくは約1.3重量%である。上記2種類の耐衝撃性改良剤の合計は好ましくは約9重量%未満である。
【0034】
上述のポリカーボネート、ポリエステル、充填材及び2種類の耐衝撃性改良剤の組合せは、CTE、HDT、流動性、良好な表面外観、耐薬品性、並びに延性、耐衝撃性、曲げ弾性率及び引張測定値のような健全な機械的性質のバランスに卓越した射出成形品をもたらす。上述の通り、これらの望ましい特性の多くは互いに対立して、単一組成物で達成するのは困難である。しかし、部材が風雨にさらされる場合、定期的に個人によって観察される場合、塗装される場合、或いはこれらの組合せに付される場合には、成形品の美観が特に重要となる。一般に、美観は様々な外観検査で測定される。かかる検査には、無条痕検査、無層間剥離検査及び無膨れ検査がある。
【0035】
条痕性能は、プラスチックペレットを成形機のバレル内に270℃で20分間保った後で成形するという過酷な成形条件を用いて評価される。条痕自体は、射出金型ゲートに近い部分或いは成形プロセスで流れ方向が急激に変化する部分でみられる扇形の表面欠陥つまりマークである。
【0036】
成形部材における条痕のない外観の確率を最大とするため、1種以上の条痕防止有効量のリン含有ポリエステル反応奪活剤が存在する。奪活剤はポリカーボネートとポリエステルとを有するブレンドでのエステル交換を防ぐ添加剤である。かかる奪活剤の例としては、亜リン酸、リン酸などがある。好ましい奪活剤は亜リン酸である。一般に、この添加剤はごく少量で有効である。組成物の0.005重量%以上、さらに好ましくは約0.01重量%を使用できる。約0.08重量%のような少量でも用いることができ、概して約0.1重量%以上を使用する必要はない。
【0037】
本発明の別の態様では、条痕低減用添加剤も、好ましくは亜リン酸含有奪活剤と組合せて使用する。これはホスホナイトである。好ましいホスホナイトの具体例は、以下で定義するP−EPQである。ホスホナイトの下限は約0.1〜約0.2重量%である。概して約1.0重量%以下のホスホナイトを使用する。相間剥離もしくは表層剥離、スレート状表面層はほとんど射出金型ゲート近くで起こる。
【0038】
成形部材を塗装して湿性雰囲気にさらされると、「膨れ」が起こることがある。塗装綿に小さな泡が観察される。膨れを評価するため、塗装部材を40℃で240時間水中に浸漬した後観察する。
【0039】
かかるブレンドに残存する奪活剤が多すぎると、上述の膨れをもたらすことがある。今回、約0.1重量%未満の低レベルで有効な奪活添加剤がエステル交換を著しく阻害するだけでなく、膨れを実質的にすべて解消することが判明した。亜リン酸、リン酸又はそれらの混合物はその例である。かかる奪活剤の下限重量%は約0.005〜0.01重量%である。
【0040】
本発明のブレンドに通常さらに存在するのが、ポリカーボネート/ポリエステルブレンドに通例みられる一次及び二次酸化防止剤である。1種以上の一次酸化防止剤及び1種以上の二次酸化防止剤が存在する。一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤の好適な使用量は所望の安定性を与える量である。通常、酸化防止剤の合計量は組成物の1.0重量%未満であり、好ましくは約0.7重量%未満である。各群の酸化防止剤の最小量は約0.05重量%以上であり、好ましくは約0.1〜0.2重量%である。以下に様々な酸化防止剤の例を挙げる。
【0041】
本組成物に有用なフェノール系酸化防止剤には、多種多様な化合物が包含され、その例を以下に挙げる。
【0042】
単純な2,6−ジアルキルフェノール、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジ−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシメチルフェノール、2,6−ジオクタデシル−4−メチルフェノール及び2,6−ジ−t−ブチルフェノールなど。ビタミンE及びビタミンE誘導体もフェノール系酸化防止剤として有用である。
【0043】
アルキル化ヒドロキノン誘導体、例えば2,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキノン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−ヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−アニソール、3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシ−アニソール、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)ホスファイト、3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニルステアレート及びビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アジペートなど。
【0044】
ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、例えば2,2′−チオ−ビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2′−チオ−ビス−(4−オクチルフェノール)、4,4′−チオ−ビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4′−チオ−ビス−(3,6−ジ−sec−アミルフェノール)、4,4′−チオ−ビス−(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)及び4,4′−ビス−(2,6−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィドなど。
【0045】
アルキリデン−ビスフェノール、例えば2,2′−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、4,4′−メチレン−ビス−(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、4,4′−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェノール、2,2′−メチレン−ビス−[4−メチル−6−(α−メチルシクロヘキシル)−フェノール]、1,1−ビス(3,5−ジメチル−2−ヒドロキシフェニル)−ブタン、1,1−ビス−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−ブタン、2,2−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、1,1,3−トリス−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−ブタン、2,2−ビス−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−4−n−ドデシルメルカプトブタン、1,1,5,5−テトラ−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−ペンタン、及びエチレングリコールビス−[3,3−ビス−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−ブチルレートなど。
【0046】
O−、N−及びS−ベンジル化合物、例えば3,5,3′,5′−テトラ−t−ブチル−4,4′−ジヒドロキシジベンジルエーテル、オクタデシル4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジル)−メルカプトアセテート、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−アミン及びビス−(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)ジチオテレフタレートなど。
【0047】
ヒドロキシベンジル化マロネート、例えばジオクタデシル2,2−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンジル)−マロネート、ジオクタデシル2−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−マロネート、ジ−ドデシルメルカプト−エチル2,2−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシベンジル)−マロネート及びジ−[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニル]2,2−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−マロネートなど。
【0048】
ヒドロキシベンジル−芳香族化合物、例えば1,3,5−トリ−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,4−ジ−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,3,5,6−テトラメチルベンゼン及び2,4,6−トリ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−フェノールなど。
【0049】
S−トリアジン化合物、例えば2,4−ビスオクチルメルカプト−6−(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシル−アニリノ)−s−トリアジン、2−オクチルメルカプト4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニリノ)−s−トリアジン、2−オクチルメルカプト−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルエチル)−s−トリアジン、1,3,5−トリス−(2,6−ジ−メチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチルベンジル)イソシアヌレート及び1,3−5−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートなど。
【0050】
β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸のアミド、例えば1,3,5−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオニル)−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、及びN,N′−ジ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオニル)−ヘキサメチレンジアミンなど。N,N′−ビスβ−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオニルヒドラジン。
【0051】
β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸と一価又は多価アルコール、例えばメタノール、エタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトール、3−チア−ウンデカノール、3−チア−ペンタデカノール、トリメチルヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレート及び4−ヒドロキシメチル−l−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ−[2.2.2]オクタンなどとのエステル。
【0052】
β−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシル−3−メチルフェニル)−プロピオン酸と一価又は多価アルコール、例えばメタノール、エタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトール、3−チア−ウンデカノール、3−チア−ペンタデカノール、トリメチルヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレート及び4−ヒドロキシメチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2.2.2]−オクタンなどとのエステル。
【0053】
3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル酢酸と一価又は多価アルコール、例えばメタノール、エタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、エチレングリコール、1,2−プロパエンジオール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリトール、3−チア−ウンデカノール、3−チア−ペンタデカノール、トリメチルヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレート及び4−ヒドロキシメチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2.2.2]−オクタンなどとのエステル。特にペンタエリトリトールのテトラキスエステル。
【0054】
特に興味深いフェノール系酸化防止剤は、例えばn−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、ネオペンタンテトライルテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、ジ−n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、チオジエチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,6−ジオキサオクタメチレンビス(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス[2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ)エチル]イソシアヌレート、3,5−ジ−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)メシトール、ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、1−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシアニリノ)−3,5−ジ(オクチルチオ)−s−トリアジン、N,N′−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド)、カルシウムビス(エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート)、エチレンビス[3,3−ジ(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブチレート]、オクチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプトアセテート、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジド、及びN,N′−ビス−[2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ)エチル]−オキサミドからなる群から選択される。
【0055】
ヒンダードアミン系安定剤には、例えば4−ベンゾイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、又は3−n−オクチル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザ−スピロ[4.5]デカン−2,4−ジオンがある。ヒンダードアミン系安定剤のアミンオキシドも、本発明で配合できる。
【0056】
最も好ましい一次酸化防止剤はヒンダードフェノールであり、例えば実施例で使用したもの、並びにステアリル−3−(3′,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロシンナメート)であるIRGANOX 1076などである。
【0057】
二次酸化防止剤の例は、特に限定されないが、ホスファイト、条痕防止剤として上述したホスホナイト、及びチオ化合物である。かかるチオ化合物には、例えばジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオート又はネオペンタンテトライルテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)がある。ジステアリルチオジプロピオート、ジラウリルチオジプロピオネート及びペンタエリトリトールβ−ラウリルチオプロピオネートが特に好ましい。ホスファイト及びホスホナイトの例は数多くの米国特許及び科学文献にみられる。これらの幾つかは本発明の実施例で用いる。
【0058】
通常、酸化防止剤の合計量は組成物の約1.0重量%未満であり、好ましくは約0.7重量%未満である。各群の酸化防止剤群の各々の最小値は約0.05重量%以上であり、好ましくは約0.1〜0.2重量%である。
【実施例】
【0059】
以下の組成物に用いた原料はすべて、(株)カワタのSMB1000スーパーミキサーで一緒にブレンドした。亜リン酸のような液体が粉体に適切に混合されるように配慮すべきである。二軸押出機は直径44mmであり、バレル温度260℃、スクリュー速度250rpm、押出量毎時100kgに設定した。押出ペレットを120℃で5時間乾燥させてから射出成形した。
【0060】
上述のブレンディング及びコンパウンディング装置に加えて、以下の試験法を用いて測定値を得た。
kgf・cm/cm単位でのノッチ付アイゾット衝撃強さ: ASTM D256、厚さ3.2mmのアイゾット試験片を使用。
kgf/cm単位での降伏点引張強さ(T/S): ASTM D638、ただし10mm/minの引張速度を使用。
%単位での破断点引張伸び(T/S): ASTM D638、ただし10mm/minの引張速度を使用。
kgf/cm単位での曲げ強さ(F/S): ASTM D790、ただし2.5mm/minの変形速度を使用。
kgf/cm単位での曲げ弾性率(F/M): ASTM D790、ただし2.5mm/minの変形速度を使用。
℃単位でのHDT: ASTM D648、0.455MPaの荷重下で厚さ6.4mmの試験片を使用。
g/10min単位でのMFI: ASTM D1238、荷重2.16kg、266℃。
mm/mm/℃単位でのCTE: ASTM E831、温度範囲−20〜80℃。
【0061】
各処方に用いた成分の略号は以下の通りである。
PC: GE社製ポリカーボネート(CAS番号25971−63−5)。
PET: 三菱化学(株)からMA−580というグレード名で購入したポリエチレンテレフタレート(CAS番号25038−59−9)。
タルク: イタリアのIMIFABI社からHTPultra5というグレード名で購入した一般式Mg(OH)Si10のタルク(CAS番号14807−96−6)。
G1650及びG1651: KRATON Polymers社から市販の2種類のSEBS。G1650は低分子量型であり、G1651は高分子量型である(CAS番号65997−17−3)。
EXL2650A: Rohm & Haas社から商用グレードとして市販のメタクリレートブタジエン(CAS番号25053−09−2)。
AO168: CIBA社からIRGAFOS 168として購入したホスファイト系酸化防止剤トリス(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスファイト(CAS番号31570−04−4)。
P−EPQ: Clariant社からSandostab P−EPQとして購入した酸化防止加工安定剤(1,1′−ビフェニル)−4,4′−ジイルビス亜リン酸テトラキス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)フェニル)エステル(CAS番号119345−01−6)。
AO1010: CIBA社からIRGANOX 1010として購入したヒンダードフェノール系酸化防止剤テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)メタン(CAS番号6683−19−8)。
PELTP: Crompton Specialties社からSeenox 412Sグレートとして市販の酸化防止剤ペンタエリトリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(CAS番号29598−76−3)。
PO: 米山化学(株)から購入した50%亜リン酸水溶液(CAS番号13598−36−2)。したがって、実施例で実際に使用した亜リン酸の量は各例に示す数値の半分である。
SAPP: 米山化学(株)から購入した酸性ピロリン酸ナトリウム(Na)(CAS番号7758−16−9)。
PETS: Lonza社から購入した離型剤ペンタエリトリチルテトラステアレート(CAS番号115−83−3)。
【0062】
実験1
ラン1〜9
【0063】
【表1】

ポリカーボネート/ポリエステル比、充填材配合量及び耐衝撃性改良剤の種類に関して、耐衝撃性、流動性、引張伸び及び曲げ弾性率のような機械的性質に対する成分組成の影響を検討するために試験を行った。
【0064】
ラン1及び2は望ましい機械的性質の値に近い。ラン1とラン2との対比から、高分子量SEBS(G1651)が低分子量SEBS(G1650)よりも優れた衝撃性能を有するが、流動性が低いことが分かる。ラン2とラン3との差から、充填材(タルク)の配合量が12重量%のときの、8重量%のときと対比した効果が分かり、曲げ弾性率は増大するが、耐衝撃性及び引張伸び性能は低下する。耐衝撃性改良剤を半減したときのパターンから(ラン1、ラン3及びラン4参照)、妥当なアイゾット値(本発明では約10kgf・cm/cm)を保つには、耐衝撃性改良剤の組合せを3重量%以上とするのが好ましいことが分かる。ラン5とラン1から、5重量%のEXL2650Aのみでは衝撃性能が十分でないことが分かる。ラン6〜8で設定した比較例から分かるように、PC/PET比が低いと、耐衝撃性低下の原因となる。ラン6〜8で3種類の耐衝撃性改良剤の効果を対比すると、G1651>G1650とEXL2650Aの組合せ>G1650の順序で有効であることが分かるが、いずれも相対的に低い。ラン9は、耐衝撃性改良剤を全く添加していないが、PC/PET比が最も高い場合を示す。この例から、妥当な衝撃性能を得るには処方に耐衝撃性改良剤を添加する必要があることが明瞭に認められる。
【0065】
実験2−1
ラン10〜18
【0066】
【表2】

ラン10〜18は、成形表面での条痕を特定して、これを最小限に抑制するように設計した。上述の通り、過酷な条件下で成形した成形部品を条痕の有無について目視検査した。評価の欄に二重丸の記号◎を付したものは条痕が全くないことを意味する。一重丸○は一目では判然としないごくわずかな条痕で、一般に許容範囲内にあるものを意味する。三角△は約10%の条痕面を有する。バツ×は約15〜25%の成形表面が条痕を有することを意味する。二重バツ××は約50%の表面に条痕があることを意味する。三重バツ×××は表面の約75%以上に条痕があることを意味する。
【0067】
ラン11〜13から、奪活剤(SAPP)の増加が条痕の低減に好ましい効果をもつことが明瞭に認められる。この所見はラン15〜17でも認められる。条痕についてのP−EPQの効果は明らかである。0.1重量%のP−EPQを0.3重量%のSAPPと共に用いると(ラン14)、0.5重量%のSAPP単独の場合(ラン11)と同じ二重丸の効果に達することができる。P−EPQの効果はラン18とラン17の結果の対比からも明らかである。
【0068】
実験2−2
ラン19〜24
【0069】
【表3】

低い安定剤レベル(0.05重量%のAO168と0.1重量%のP−EPQ)及び高い安定剤レベル(0.1重量%のAO168と0.2重量%のP−EPQ)での条痕性能に関して、個々の耐衝撃性改良剤を評価した。差は小さいものの、傾向は分かる。低安定化度のラン19〜21及び高安定化度のラン22〜24のいずれにおいても、条痕がひどくなる耐衝撃性改良剤の序列はEXL2650A>G1651>G1650である。良好な衝撃性能に関する耐衝撃性改良剤の序列はG1651>G1650>EXL2650Aである。
【0070】
なお、亜リン酸のような強力な奪活剤が存在しないと、亜リン酸を用いた次表に比べ、条痕性能が非常に劣り、極めて変動しやすい。
【0071】
実験2−3
ラン25〜30
【0072】
【表4】

ラン25〜30は、条痕を低減及び/又は最小限に抑制するには、二次熱安定剤(P−EPQ)と奪活剤(亜リン酸HPO)が必要とされることを明瞭に示している。これらのランでは、P−EPQに比べて奪活剤が主な効果をもつ。
【0073】
実験3
ラン31〜36
【0074】
【表5】

膨れの問題は、成形部材をウレタン塗料で塗装するときに発生に伴って表面化する。膨れの評価法については既に上述した。膨れの程度を区別するのに用いた評点は5〜1であって、5が最悪(ほぼ100%の表面に膨れ)、1が最も軽微(わずか約5%の表面に膨れ)であり、ISO 4628又はASTM D714の写真比較と同様である。この試験では、2つの銘柄のウレタン塗料を使用し、膨れA及び膨れBとして示す。
【0075】
ラン33〜35から、奪活剤の亜リン酸(HPO)が少ないほど膨れの解消に有利であり、SAPPを使用した場合に膨れの問題が最も深刻となることが明瞭に認められる。ラン31、32及び33では、耐衝撃性改良剤系を変更しても、同様の結果が得られた。
【0076】
触媒奪活剤の亜リン酸(HPO)の方がSAPPよりも有効であり、同レベルの無条痕性を保ちながら、膨れを最小限に抑制できる。
【0077】
実験4
ラン37〜43
【0078】
【表6】

層間剥離は、ポリカーボネートとポリエステルと耐衝撃性改良剤ポリマーの三元系での非相溶性に起因する。層間剥離の評価には、極薄成形型(厚さ約1mm)でUL試験片の成形するのに高い射出速度(100mm/s)を用いる。層間剥離性能は、薄肉成形試験片のゲート近傍の部位を目視検査することによって評価する。丸○は相間剥離が全く認められなかったのに対して、バツ×は層間剥離を意味する。あるレベルのSEBSが層間剥離を生じかねないことが判明した。SEBS含量を4重量%のG1651から始めて、閾値がみつかるまで(約1重量%(ラン41))徐々に減らした。本発明において、大型部材(4〜5lb)又は複雑な部材の相間剥離のない処方のためのSEBS G1651配合量の閾値は組成物の約1.5重量%未満とすべきことが判明した。SEBSの上限から、約10kgf・cm/cmという所要の衝撃性能を維持するためにゴム状共重合体を用いることが要求される。EXL2650Aは条痕を生じる可能性があるので、HPOの配合量を比較的高く(0.03重量%対0.02重量%)するという対策が用いられる。ラン42から、5重量%のEXL2650では十分な衝撃性能を得るには低すぎることが分かる。ラン43から、8重量%のEXL2650Aでは目標の衝撃性能を得ることができるが、条痕試験に不合格であったことが分かる。ラン41及び42から、2種類の異なる耐衝撃性改良剤の存在の重要性が強調される。
【0079】
実験5
ラン44〜49
【0080】
【表7】

ラン44〜49は、条痕、膨れ及び層間剥離を包括的に解消すると同時に良好な機械的性質を与える変数の組合せを示す。1.5重量%のSEBSを用いたラン45では層間剥離を示した。残りの試料はすべて、自動車産業の顧客が定める望ましい性能要件を満たす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分a〜cを含んでなる組成物。
a.芳香族ポリカーボネート約50〜約80重量%、
b.芳香族ポリエステル約15〜約35重量%、
c.充填材約5〜約15重量%、及び
d.約0.25重量%以上のゴム状共重合体と約0.25重量%以上のブロック共重合体が存在するゴム状共重合体とブロック共重合体の組合せ約3〜約10重量%。
【請求項2】
約55〜約75重量%のポリカーボネートが存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
約18〜約30重量%のポリエステルが存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記充填材が無機充填材である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記無機充填材がタルク、マイカ、ウォラストナイト又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記ブロック共重合体がポリ(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)であって約0.25以上約1.5重量%未満である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
約55〜75重量%のポリカーボネート及び約18〜30重量%のポリエチレンテレフタレートが存在する、請求項6記載の組成物。
【請求項9】
条痕防止有効量のリン含有ポリエステル反応奪活剤が存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記奪活剤が亜リン酸、リン酸、酸性ピロリン酸ナトリウム及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記奪活剤が亜リン酸である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
条痕防止有効量のホスホナイトが存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記ホスホナイトがP−EPQである、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
条痕防止有効量のホスホナイトも存在する、請求項9記載の組成物。
【請求項15】
1種以上の一次酸化防止剤が存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
1種以上の二次酸化防止剤が存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
1種以上の二次酸化防止剤も存在する、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
条痕防止有効量の奪活剤及び条痕防止有効量のホスホナイトが存在する、請求項15記載の組成物。
【請求項19】
条痕防止有効量の奪活剤及び条痕防止有効量のホスホナイトが存在する、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
条痕防止有効量の奪活剤及び条痕防止有効量のホスホナイトが存在する、請求項16記載の組成物。
【請求項21】
酸化防止剤の組合せが当該組成物の約0.7重量%未満である、請求項15記載の組成物。
【請求項22】
請求項1記載の組成物から成形した塗装部品での膨れを防止するのに十分な量の奪活剤が存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項23】
前記奪活剤が亜リン酸である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
請求項1記載の組成物から成形した成形品。
【請求項25】
車両用テールゲートである、請求項24記載の成形品。
【請求項26】
請求項16記載の組成物から成形した成形品。
【請求項27】
車両用テールゲートである、請求項26記載の成形品。
【請求項28】
請求項17記載の組成物から成形した成形品。
【請求項29】
車両用テールゲートである、請求項28記載の成形品。
【請求項30】
請求項19記載の組成物から成形した成形品。
【請求項31】
車両用テールゲートである、請求項30記載の成形品。
【請求項32】
請求項22記載の組成物から成形した成形品。
【請求項33】
車両用テールゲートである、請求項32記載の成形品。
【請求項34】
以下の成分a〜dを含んでなる、請求項1記載の組成物。
a.芳香族ポリカーボネート約55〜約75重量%、
b.芳香族ポリエステル約18〜約30重量%、
c.充填材約8〜約12重量%、及び
d.約0.25重量%以上のゴム状共重合体と約0.25重量%以上のブロック共重合体が存在するゴム状共重合体とブロック共重合体の組合せ約3〜約9重量%。
【請求項35】
前記無機充填材がタルクである、請求項6記載の組成物。

【公表番号】特表2008−542471(P2008−542471A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513511(P2008−513511)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/017615
【国際公開番号】WO2006/127246
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】