説明

無機微粒子、これを用いた樹脂組成物及び樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤

【課題】 透明性に優れた、高屈折率化可能で、優れた光学特性をもつ透明組成物が得られる、分散性に優れた高屈折率の無機微粒子、これを用いた樹脂組成物及び樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤を提供する。
【解決手段】 無機微粒子(A)が、表面が有機物(B)で修飾され、透明高分子(C)に分散させると透明組成物(D)を与えることを特徴とする無機微粒子で、このうち(A)〜(C)が、(A)無機物がチタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムの中から選択される1種類以上を含有する酸化物であり、粒子径が1〜50nmである無機微粒子、
(B)有機物が、分子量1000未満である修飾分子(a)及び無機微粒子表面上に導入された開始剤(b)を起点としてリビングラジカル重合によって主骨格を形成する高分子(c)
及び(C)透明高分子が光学用透明高分子
である無機微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明高分子への分散性に優れ、透明性高分子中に分散する優れた透明性と光学特性をもつ透明組成物が得られる無機微粒子、これを用いた樹脂組成物及び樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
透明高分子の高屈折率化は従来、硫黄やハロゲン原子又はベンゼン環などの芳香族化合物を高分子中に導入することによって行われてきた。しかし、屈折率の向上には限界があり、
また、吸湿率、屈折率温度依存性、複屈折率などの光学特性が低下する場合があった。そこで種々の光学特性を付与しながら、より高屈折率化が可能な手法として、微粒子を透明高分子に分散させる試みが近年盛んに行われている。
【0003】
透明性を実現させるには微粒子と透明高分子の屈折率がそれぞれ近いものを混合することが最も容易であり、この場合、微粒子の大きさや分散性はあまり問題にならない。
しかし、高い屈折率の微粒子をそれより屈折率の低い透明高分子に分散させて高屈折率化を行う場合、微粒子の粒子径や分散性に十分配慮する必要がある。
【0004】
一般に、光の波長より十分に小さい微粒子が完全に独立して分散された場合のみ、優れた透明性が実現することが予想されている。しかし、実際には微粒子を高分子中に分散させると、その微粒子の大きさが小さく、特に100nm以下になると、容易に凝集を起こして組成物の透明性は低下する。
【0005】
また、高屈折率化が期待されるチタンなどの金属酸化物の微粒子に関しては、凝集力が大きいことから、光学用途の条件を満たすような透明性を維持しながら、透明分散中に高充填分散する技術は未だ開発されていない。
【0006】
微粒子を高分子中に分散させる方法として、特許文献1や非特許文献1には微粒子合成の際、微粒子表面に官能基を導入し、当該官能基と反応する官能基を有する高分子と複合することにより微粒子の分散を図る方法が挙げられている。
【0007】
しかし、これらの手法では微粒子合成の際、2種類以上の官能基をもつ分子が必要となり、また、微粒子を分散させる高分子にも当該官能基と反応する官能基を必ず導入しなければいけないなど制限が多い。
【特許文献1】特開平11−043556号公報
【非特許文献1】チャンリー・リュー(Changli.Lu)ら著、「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリー(J.Mater.Chem)」、(米国)、13巻、2003年、p.2189−2195
【0008】
これとは別に無機微粒子を有機溶剤に分散させるため、高分子カップリング剤を用いる方法が特許文献2で挙げられている。
しかし、高分子のみで粒子を修飾した場合、透明高分子に分散させて得られた透明組成物中での微粒子の重量が相対的に減少してしまう恐れがある。
【特許文献2】特開平05−269365号公報
【0009】
例えば、高屈折率化を達成するためには、微粒子の充填量を透明高分子に対して十分に増やすことが必要となる。非特許文献1では屈折率は1.645のポリウレタンメタクリレートマクロマーに屈折率2.36の硫化亜鉛を重量部で80%以上加えることで屈折率1.75以上の組成物が得られている。
【0010】
このように高屈折率化には単に微粒子を透明高分子中に分散させるだけでなく、高充填することが不可欠で、少ない修飾剤の量で透明性が得られるのに十分な分散性のある微粒子の修飾方法の開発が期待される。
【0011】
また、無機微粒子を高分子中に分散させた組成物は屈折率以外に、金属酸化物に特有の波長分散などの光学的特性も、従来の透明高分子と大きく異なることが期待できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は透明高分子に分散させて、透明性に優れた、高屈折率化可能で、優れた光学特性をもつ透明組成物が得られる、分散性に優れた高屈折率の無機微粒子、これを用いた樹脂組成物及び樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは無機微粒子を凝集させることなく透明高分子に分散させ、また、微粒子の透明高分子中で高充填化する技術を鋭意検討したところ、分子量の大きくない修飾分子と高分子量の修飾高分子の両方で微粒子を修飾すると、微粒子を透明高分子中に大きな凝集体を生じることなく高充填化させ、優れた透明性をもつ組成物が得られることを見出した。
【0014】
本発明は、無機微粒子(A)が、表面が有機物(B)で修飾され、透明高分子(C)に分散させると透明組成物(D)を与えることを特徴とする無機微粒子で、このうち(A)〜(C)が、(A)無機物がチタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムの中から選択される1種類以上を含有する酸化物であり、粒子径が1〜50nmである無機微粒子、
(B)有機物が、分子量1000未満である修飾分子(a)及び無機微粒子表面上に導入された開始剤(b)を起点としてリビングラジカル重合によって主骨格を形成する高分子(c)
及び(C)透明高分子が光学用透明高分子
である無機微粒子に関する。
【0015】
また、本発明は、透明組成物(D)が、シリコンウエハー上で膜厚100〜1000nmの薄膜を形成したとき、400〜800nmの波長でのエリプソメーターによる測定で屈折率が1.60以上3.0以下、アッベ数が40以下である前記の無機微粒子に関する。
【0016】
また、本発明は、有機物(B)の修飾分子(a)が塩類、ホスフィンオキシド、アシル化合物、エステル類、ホスフィン類、アミン化合物又はピリジン類から選ばれる一種以上である前記の無機微粒子に関する。
【0017】
また、本発明は、有機物(B)の開始剤(b)が有する無機微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基が、リン酸、カルボン酸、酸ハライド、酸無水物、イソシアナ−ト、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシラン基から選ばれる一種以上である前記の無機微粒子に関する。
【0018】
また、本発明は、有機物(B)の高分子(c)のリビングラジカル重合が、原子移動ラジカル重合である前記の無機微粒子に関する。
また、本発明は、有機物(B)の高分子(c)が、透明高分子(C)と相溶する高分子である前記の無機微粒子に関する。
また、本発明は、透明組成物(D)が窒素雰囲気下摂600度30分間熱分解して得られる残渣が熱分解前の重量の30〜95%である前記の無機微粒子に関する。
【0019】
また、本発明は、透明組成物(D)が、透明基板上に膜厚100〜1000nmの薄膜を形成したとき、ヘイズが濁度計による測定で1%以下である前記の無機微粒子に関する。
また、本発明は、前記の無機微粒子を透明高分子中に分散させて得られる樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、前記の樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の無機微粒子は透明高分子中に高充填しても透明性に優れた樹脂組成物を与え、その透明樹脂組成物の屈折率制御が可能で、波長分散が極めて大きいという利点を有し、この樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において、無機微粒子とは光学用の透明高分子より高屈折率であることが好ましく、具体的にはチタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムの中から選択される1種類以上を含有する酸化物であり、粒子の形状は問わない。また、この中から選択される1種類以上の成分による結晶構造を形成するもの又は1種類の無機微粒子に他の無機物を1種類以上の被覆したコア−シェル構造などが挙げられる。
【0022】
無機微粒子の粒子径は平均粒子径1nm以上50nm以下であることが好ましい。特に透明組成物中の光路長が長くなった場合、より高い透明性を実現するためには1nm以上20nm以下であることが望ましい。平均粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で決定する。
【0023】
粒子の形状は球状、棒状、不定形等があるので、観察された粒子像の面積と同面積の円の直径をもって粒子径と定義する。この粒子径を用いて平均粒径を公知の統計処理により平均粒子径を算出するが、粒子は無作為に選ばれた少なくとも百個以上から粒子径を求め、統計処理に用いる。
【0024】
無機微粒子の製造法については特に制限はないが、高屈折率化を実現するためには結晶性のよい粒子が得られる方法が好ましい。具体的には粉砕法などの固相法、気相反応法などの気相法、コロイド法、均一沈殿法、水熱合成法、マイクロエマルジョン法、ホットソープ法等の液相法などがある。
【0025】
無機微粒子の製造後の状態は粉末固体状でも溶媒分散状態でもよいが、修飾後に無機微粒子が不可逆な凝集を起こさないようにする必要がある。そのため、もっとも効果的な手法は分子量1000以下の修飾分子によって無機微粒子を被覆し、微粒子表面同士を直接接触させない方法がよい。
【0026】
修飾分子を修飾させるために様々な方法がある。一つは、無機微粒子表面に存在する水酸基が、様々な官能基と化学反応を起こして結合を作ること利用するもので、この化学反応を利用して官能基を有する化合物を微粒子表面に修飾することが可能である。
【0027】
また、粒子表面の電荷や水素結合などと弱い引力性相互作用をする官能基を有する分子を用いると、微粒子表面をこの修飾分子で修飾することが可能である。これら二つが有力な修飾方法であり、それぞれ単独又は双方同時に用いることができる。
【0028】
これらの手法によって粒子自体の不可逆な凝集を防ぐことはできるが、この手法のみで修飾した無機微粒子を透明高分子中に分散させると、樹脂との相溶性に限界があるため、樹脂中で粒子の凝集体を形成する。そのため、特に微粒子を高充填化した場合、透明性が著しく低下してしまう。
【0029】
本発明では、凝集を防ぐための修飾分子と、樹脂との相溶性を高めるための高分子量の高分子修飾分子の両方を用いて修飾することで、無機微粒子の高充填かつ均一分散を達成し、透明な組成物が得られる。
【0030】
本発明の修飾分子(a)は、粒子表面と引力性相互作用する官能基であれば特に制限はないが、具体的には、スルホン酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩等の塩類;トリフェニルフォスフィンオキシド、トリオクチルフォスフィンオキサイド、トリブチルフォスフィンオキサイド等のホスフィンオキシド;アシル化合物;エステル類;トリフェニルフォスフィン、トリオクチルフォスフィン、トリブチルフォスフィン等のホスフィン類;トリオクチルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オクチルアニリン、デシルアニリン、ウンデシルアニリン、ドデシルアニリン、トリデシルアニリン、テトラデシルアニリン、ペンタデシルアニリン、ヘキサデシルアニリン、ヘプタデシルアニリン、オクタデシルアニリン等のアミン化合物又はピリジン類が挙げられる。これらの官能基は弱い相互作用のため、微粒子を有機溶剤中に分散したり、加熱したりすると微粒子から解離することがある。そのため、開始剤(b)を粒子表面に導入することが可能である。
【0031】
本発明の開始剤(b)が有する官能基は、微粒子表面の水酸基と反応させて結合を生成するものであれば特に制限はないが、具体的には、リン酸、カルボン酸、酸ハライド、酸無水物、イソシアナ−ト、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシラン基が挙げられる。これらの官能基は微粒子表面上で化学結合を形成するので、一旦修飾すると解離させることが困難である。
【0032】
本発明の修飾高分子(c)は無機微粒子表面に導入された開始点から原子移動ラジカル重合により、その高分子鎖を伸長させるものである。よって修飾高分子は無機微粒子表面と化学結合を介して強固に結合している。また原子移動ラジカル重合によって高分子の重合量の精密な制御が可能である。
【0033】
修飾高分子(c)は透明高分子(C)と相溶する高分子であれば特に制限はない。ここで相溶するとは両方の高分子を直接混合又は混錬する方法、一旦溶媒に溶解したのち混合して溶媒を留去する方法で混合した後の混合物が優れた透明性を有する場合であることである。
【0034】
高分子鎖は直鎖型、枝分かれ型等があるが、本発明に用いる高分子鎖については特に制限はない。高分子鎖の形成方法も同一のモノマーを重合したもの又は異なる2種類以上のモノマーを重合したもののどちらでもよい。ただし、微粒子を透明高分子中によく分散させるためには重量平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。
【0035】
本発明の無機微粒子に施す修飾高分子と修飾分子との割合は、微粒子が透明高分子に分散する限り特に制約はないが、無機微粒子を透明高分子中に高充填させるためには、修飾分子に対して修飾高分子がなるべく少ないことが好ましい。具体的にはモル比で1:0.1〜1:10000であることが望ましい。
【0036】
本発明の透明高分子(C)は光学用途に用いられ優れた透明性を有する限り制限はないが、具体的にはアクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリシクロオレフィン、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリ−1、2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1、3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1、3−ブタジエン、ポリ−1、3−ブタジエン等の(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテル等のポリエーテル類、ポリビニルアセテート 、ポリビニルプロピオネート等のポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、ポリスルフィド等が挙げられる。
【0037】
その他にも、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体変性物、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸塩共重合体、アクリル酸エステル系ゴム、ポリイソブチレン、アタクチックポリプロピレン、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、エチレンセルロース、ポリアミド、シリコーン系ゴム、ポリクロロプレン等の合成ゴム類、シリコーン、ポリビニルエーテル等が適用可能であり、単独又は2種以上併用して用いられる。
【0038】
さらに、これら高分子に官能基を導入しておいて、無機微粒子と複合化した後、高分子の官能基間の反応を起こして、高分子のネットーワーク化を図ることができる。また、透明とは光学用途に使用できることを差し、400〜800nmの波長で吸収がなくヘイズが1%以下であることである。
【0039】
透明組成物(D)の製造方法は特に制限はない。具体的には、溶融混練法や無機微粒子を溶剤に分散させ、一方で高分子を溶剤に溶解させ、両者を溶液混合した上で溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0040】
無機微粒子と透明樹脂との樹脂組成物に関しても、製造方法は特に制限するものではない。ただし具体的には、先に述べた二つの方法に加え、モノマー中に分散させて、熱や光などでモノマーを硬化させて樹脂を形成する方法が挙げられる。これらの方法から、成形品、フィルム、コーティング剤が得られる。
【0041】
光学特性を評価する簡便な方法としては、修飾された無機微粒子と透明高分子を溶媒中に分散又は溶解し、基板上にスピンキャストする方法がある。透明組成物の屈折率の評価は、基板にシリコンウエハーを用いて膜厚100〜1000nmの薄膜の評価用サンプルを作製し、エリプソメーターによる屈折率の値が400〜800nmの波長で1.6以上3.0以下であることが好ましい。またアッベ数が40以下であることが好ましい。
【0042】
無機微粒子の組成物中の含有量には特に制限はないが、透明高分子の高屈折率化を行うためには組成物に対する無機物の比率が30〜95%であることが好ましい。さらに高屈折率化をするためには40〜95%であることが好ましい。無機微粒子の組成物中の含有量は窒素雰囲気下摂氏600度30分間熱分解して得られる残渣で正確に測定できる。
【0043】
組成物の透明性を確認するためには基板にスライドガラスなどの透明材を用いて膜厚100〜1000nmの薄膜の評価用サンプルを作製し、ヘイズメーターによるヘイズ測定値が1%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限するものではない。
[酸化チタン微粒子の合成例1]
温度計、還流コンデンサを備えた100ml三口フラスコにトリオクチルホスフィン12.0g(アルドリッチ製)、四塩化チタン2.8g(和光純薬工業製)を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら摂氏2500度まで加熱した。250℃に到達後、テトライソプロポキシチタン4.3g(和光純薬工業製)を加えた。そのまま20分間攪拌した後、放冷したところ沈殿が析出した。傾斜して上澄み液を除き沈殿をアセトンで2回洗浄して3.13gの酸化チタン微粒子を得た。
【0045】
[酸化チタン微粒子表面への開始剤の導入合成例1]
酸化チタン微粒子合成例1の酸化チタン微粒子2.55gを還流コンデンサーを備えた50ml二口フラスコに秤量し、キシレン16ml(和光純薬工業製)、2−ブロモプロピオン酸2.44g(和光純薬工業製)を加えた。窒素雰囲気下で加熱し1時間還流した。加熱後放冷して室温に戻し、内容物をアセトン40mlに滴下したところ、沈殿が生成した。沈殿をアセトンで洗浄し、開始剤導入酸化チタン微粒子2.42gを得た。
【0046】
[高分子修飾処理例1]
酸化チタン微粒子表面への開始剤の導入合成例1の開始剤導入酸化チタン450mg、臭化銅(I)45mg(アルドリッチ社製)を50ml二口ナスフラスコに秤量し、スチレンモノマー3ml(和光純薬工業製)を加え、アルゴンバブリングして溶存酸素を除去した。攪拌しながらアルゴン雰囲気下110度で1時間攪拌した後、放冷して室温に戻し内容物をメタノール10ml中に滴下したところ沈殿が析出した。沈殿をメタノールで洗浄しPS修飾酸化チタン微粒子の固体を得た。
【0047】
[高分子修飾処理例2]
酸化チタン微粒子表面への開始剤の導入合成例1の開始剤導入酸化チタン450mg、臭化銅(I)45mg(アルドリッチ社製)を50ml二口ナスフラスコに秤量し、スチレンモノマー3ml(和光純薬工業製)を加え、アルゴンバブリングして溶存酸素を除去した。攪拌しながらアルゴン雰囲気下110度で3時間攪拌した後、放冷して室温に戻し内容物をメタノール10ml中に滴下したところ沈殿が析出した。沈殿をメタノールで洗浄しPS修飾酸化チタン微粒子の固体を得た。
【0048】
[高分子修飾処理例3]
酸化チタン微粒子表面への開始剤の導入合成例1の開始剤導入酸化チタン450mg、臭化銅(I)45mg(アルドリッチ社製)を50ml二口ナスフラスコに秤量し、スチレンモノマー3ml(和光純薬工業製)を加え、アルゴンバブリングして溶存酸素を除去した。攪拌しながらアルゴン雰囲気下110度で5時間攪拌した後、放冷して室温に戻し内容物をメタノール10ml中に滴下したところ沈殿が析出した。沈殿をメタノールで洗浄しPS修飾酸化チタン微粒子の固体を得た。
【0049】
比較例1
[透明組成物作製例1]
酸化チタン微粒子合成例1の酸化チタン微粒子にトルエンを加えて分散させ、ナノ粒子のトルエン分散液を調整した。さらにポリスチレン(PS、アルファアエザー製、分子量=100000)をトルエンに溶解させPSトルエン溶液を調整した。両者を所定量混合した液をつくり、その液をスライドガラス上又はシリコンウエハー上にスピンコートして透明組成物を作製した。
【0050】
実施例1
[透明組成物作成例2]
高分子修飾処理例1のPS修飾酸化チタン微粒子をトルエンに分散させ、PS修飾酸化チタン微粒子のトルエン分散液を調整した。さらにポリスチレンをトルエンに溶解させPSトルエン溶液を調整した。両者を所定量混合した液をつくり、その液をスライドガラス上又はシリコンウエハー上にスピンコートして透明組成物を作製した。
【0051】
実施例2
[透明組成物作成例3]
高分子修飾処理例2のPS修飾酸化チタン微粒子をトルエンに分散させ、PS修飾酸化チタン微粒子のトルエン分散液を調整した。さらにポリスチレンをトルエンに溶解させPSトルエン溶液を調整した。両者を所定量混合した液をつくり、その液をスライドガラス上又はシリコンウエハー上にスピンコートして透明組成物を作製した。
【0052】
実施例3
[透明組成物作成例4]
高分子修飾処理例3のPS修飾酸化チタン微粒子をトルエンに分散させ、PS修飾酸化チタン微粒子のトルエン分散液を調整した。さらにポリスチレンをトルエンに溶解させPSトルエン溶液を調整した。両者を所定量混合した液をつくり、その液をスライドガラス上あるいはシリコンウエハー上にスピンコートして透明組成物を作製した。
【0053】
透明組成物の評価は以下の通りに行った。
[1]重量比分析
実施例1〜3で作製した透明組成物についてTG/DTA6300(エスエスアイ・ナノテクノロジー製)で透明組成物中の無機物の重量比を評価した。その結果を図1、2に示す。
【0054】
[2]ヘイズ
比較例1、実施例1〜3の透明組成物についてヘイズメーターNDH2000(日本電色工業製)でヘイズを調べた。その結果を図1に示す。
【0055】
[3]屈折率
実施例1〜3で作製した透明組成物について自動エリプソメーターDVA−36LA(溝尻光学工業所製)で波長633nmにおける屈折率を測定した。測定した値を図2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の無機微粒子は修飾分子、修飾高分子で修飾を施した高屈折率を有する無機微粒子であり、透明高分子に分散させると、優れた透明性を持ちながら任意に屈折率の調節ができ、また大きな波長分散性をもたせることができる。そのため光学材料分野、例えばカメラや眼鏡用のレンズ、光記録・再生用機器のピックアップレンズ、フィルムレンズのハードコート材として使用できる。また、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、CRTディスプレイの反射防止層やELディスプレイの輝度向上層にも使用できる。
特に酸化チタンを分散させた透明組成物は波長分散が大きいという特徴をもつため、現在光学用の透明高分子では適用できなかった用途に適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ヘイズと無機物重量比の関係を示すグラフである。
【図2】屈折率と無機物重量比の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子(A)が、表面が有機物(B)で修飾され、透明高分子(C)に分散させると透明組成物(D)を与えることを特徴とする無機微粒子で、このうち(A)〜(C)が、(A)無機物がチタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムの中から選択される1種類以上を含有する酸化物であり、粒子径が1〜50nmである無機微粒子、
(B)有機物が、分子量1000未満である修飾分子(a)及び無機微粒子表面上に導入された開始剤(b)を起点としてリビングラジカル重合によって主骨格を形成する高分子(c)
及び(C)透明高分子が光学用透明高分子
である無機微粒子。
【請求項2】
透明組成物(D)が、シリコンウエハー上で膜厚100〜1000nmの薄膜を形成したとき、400〜800nmの波長でのエリプソメーターによる測定で屈折率が1.60以上3.0以下、アッベ数が40以下である請求項1記載の無機微粒子。
【請求項3】
有機物(B)の修飾分子(a)が塩類、ホスフィンオキシド、アシル化合物、エステル類、ホスフィン類、アミン化合物又はピリジン類から選ばれる一種以上である請求項1又は2記載の無機微粒子。
【請求項4】
有機物(B)の開始剤(b)が有する無機微粒子表面に存在する水酸基と反応して結合する官能基が、リン酸、カルボン酸、酸ハライド、酸無水物、イソシアナ−ト、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシラン基から選ばれる一種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の無機微粒子。
【請求項5】
有機物(B)の高分子(c)のリビングラジカル重合が、原子移動ラジカル重合である請求項1〜4のいずれかに記載の無機微粒子。
【請求項6】
有機物(B)の高分子(c)が、透明高分子(C)と相溶する高分子である請求項1〜5のいずれかに記載の無機微粒子。
【請求項7】
透明組成物(D)が窒素雰囲気下摂600度30分間熱分解して得られる残渣が熱分解前の重量の30〜95%である請求項1〜6のいずれかに記載の無機微粒子。
【請求項8】
透明組成物(D)が、透明基板上に膜厚100〜1000nmの薄膜を形成したとき、ヘイズが濁度計による測定で1%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の無機微粒子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の無機微粒子を透明高分子中に分散させて得られる樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9記載の樹脂組成物からなる成形品、フィルム又はコーティング剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106129(P2008−106129A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289868(P2006−289868)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】