説明

無機高分子を使用するスパッタリング用ターゲットの製造方法

本発明は、少なくとも1つの固体リチウム系電解質及び無機カーボンフリー高分子を含むカソード性スパッタリング用ターゲット組成物、及びそのような組成物を使用するカソード性固体スパッタリング用ターゲットの製造方法に関する。また、本発明は、そのような方法により得られた固体スパッタリング用ターゲット及びスパッタリング物理的気相堆積法による固体薄膜の製造、特に薄膜電池内部の固体電解質薄膜の製造のためのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも固体リチウム系電解質及び無機カーボンフリー高分子を含むカソード性スパッタリング用ターゲット組成物、及びそのような組成物を使用するカソード性固体スパッタリング用ターゲットの製造方法に関する。本発明は、また、そのような方法により得られた固体スパッタリング用ターゲット及びスパッタリング物理的気相堆積法による固体薄膜の製造用のそれらの使用、特に薄膜電池内部の固体電解質薄膜の製造用のそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固体状薄膜電池は、一般的に、膜が協同して電圧を発生するように、基板上に薄膜を積層することにより形成される。薄膜は、一般的に、集電体、ポジティブカソード、ネガティブアノード、固体電解質(膜)及び異なる保護層を含む。
薄膜電池形状において、カソード層は、固体電解質材料の電子的絶縁層によりアノード層から分離されている。この電解質層は、2つの機能を備えている。第1の機能は、カソードとアノードとの間に電気化学的活性イオンを伝達させることである。第2の機能は、カソードとアノードとの間で電子の直接変換を防ぐことであり、それにより電子電流が、電池の外部回路のみで利用できるようになる。
【0003】
固体電解質膜及び電極は、例えば、高周波数スパッタリング(RFS又はRFスパッタリング)及びRFマグネトロンスパッタリング(RFMS)のようなスパッタリング技術により、基板上に堆積できる。これら技術は、厳密には、ターゲットの表面にプラズマの帯電イオンが衝撃を与える物理的気相堆積(PVD)法である。粒子は、基板上のターゲット及び固体薄膜層から放出される。
本発明は、カソード性スパッタリング用ターゲットを使用するPVDによる固体電解質膜堆積の分野に属する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体状薄膜電池に含まれる一般の固体電解質は、電池の如何なる自己放電を避けるために、カソードとアノードとの間の電子の直接変換を避ける必要がある理由により、如何なる電子伝導成分が存在しない必要があり、特にそれらはカーボンフリー(カーボン非含有)である必要がある。それらは、リン、ケイ素、硫黄、酸素、ホウ素、バナジウム等のような1つ又はいくつかの他の元素とリチウムとの組み合わせから形成されている。80年代に使用されていたリチウム系電解質の例として、下記組成物:Li3.6Si0.6P0.4O4, 0.31 Li2SO4-0.31 Li2O-0.38 B2O3, 0.82 Li2O-0.08 V2O5-0.10 SiO2, 0.55 LiI-0.36 Li3PO4-0.99 P2S5を挙げることができる。90年代の初めから、現在一般に、マイクロバッテリー中で使用されている電解質は、LiPONに基づいており、窒素雰囲気中、Li3PO4のターゲットからスパッタリングを開始することにより製造される。例えば, John B. Bates等に交付された米国特許第5,569,520号(1996年4月30日発行)及び米国特許第5,597,660号(1997年1月28日発行)参照。LiPONの構造式は、Li3.3PO3.9N1.7であるが、イオン伝導性のわずかの変化で、その製造の条件をわずかに変化させ得る。
【0005】
薄膜固体電解質を形成するために用いられたスパッタリング法の間に使用されたターゲットは、溶融してガラスを得る前に、ターゲットの異なる成分類を混合し、かつ反応させることにより製造できる。しかし、このガラスは、そのままスパッタリング堆積法中で使用される物として十分耐性ではなく(ガラス破壊(breaks)又は割れ(crazes))、更に、スパッタリング法に使用可能にする前に、研磨され、型(例えば、ディスク形状)中で加圧され、かつ最後に、空気中、不活性ガス(窒素、アルゴン、…)中又は真空下、900℃以上に達しうる温度、一般に400〜600℃の範囲で焼成される必要がある。
【0006】
次に、このターゲット製造法は、工業的スケールでの実行が、長期間であり、かつ困難である。加えて、この方法に必要とされた高温が、混合物中に存在する大部分の揮発性化合物のいくらかの蒸発又は昇華を導き、それは、原料の最終組成を変化させ、かつ最終的に基板に堆積される薄膜固体電解質の最終組成を変化させるであろう。
スパッタリング用ターゲットを製造するためにいくつか使用しうる他の方法は、加圧下で、型内の異なる粉末状成分類の混合物を成形することを含む。しかし、得られた一様な高い密度のターゲットは、もろく、それらの機械的耐性を高めるために更に焼成することが必要とされる。この焼成工程は、多くの場合、十分な機械的耐性を有するターゲットを得るために2回繰り返す必要がある。
そのような高温を含む方法の使用は、固体電解質原料組成物中、低温で揮発性の化合物及び/又は高温に敏感な化合物の存在を許容しないため、限定要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、これら課題を解決するために本発明の主題を見い出した。発明者等は、特に固体電解質組成物の使用が、低温揮発性化合物及び/又は高温に敏感な化合物の存在を両立でき、かつ一方、スパッタリング法に十分な耐性を有しかつ高すぎる温度を必要としない方法で、より速やかにかつより容易に製造できるカーボンフリーのカソードスパッタリング用ターゲット(及びより一般的に、何らかの電子伝導材料なしのスパッタリング用ターゲット)を導く固体電解質組成物を提供する目的を設定した。
【0008】
発明者等は、ここに、スパッタリング用ターゲット製造の間、少なくとも1つの固体リチウム系電解質及び少なくとも1つの特定のカーボンフリー無機高分子を含むカソード性スパッタリング用ターゲット原料組成物の使用が、この技術的課題を解決し、かつ製造の間の高温の使用の必要性を下げることができるため、低温で揮発性の化合物及び/又は高温に敏感な化合物の存在を可能にすること、スパッタリング用ターゲットを早く及び容易に導くことを見い出した。
【0009】
それゆえ本発明の第1の主題は、:
-電子的に絶縁性である少なくとも1つの粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザン類からなる群から選択され、組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つのカーボンフリー無機重合性バインダー
を含むカソード性スパッタリング用ターゲットの原料組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スパッタリング組成物製の固体スパッタリング用ターゲットの、スパッタリング物理的気相堆積法で使用後の写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
ペルヒドロポリシラザン類(PHPS)は、Clariant Chemical Companyの支店であるKyon社により商品名Polysilazane(商標)NN 120-20として市販されている公知の化合物である。通常、この種の無機高分子は、例えば、国際出願WO 2005/085374に記載されているように、表面、特に金属及び高分子表面のコーティングとして使用されている。それらの使用は、薄い保護コート、例えば、ホイールリムへの、腐食、引っかき及びブレーキダストの食い込みに対する保護を与える。いくつかの場合において、この種の無機高分子は、また、触媒を含みうる。
しかし、電池中の固体薄膜電解質のスパッタリング堆積に有用であるスパッタリング用ターゲットの製造用の固体電解質の原料スパッタリング組成物中の成分としてのそれら使用は、決して考えられていなかった。
【0012】
発明者等は、固体リチウム系電解質の原料スパッタリング組成物中のバインダーとしてのPHPSの使用が、高濃度ターゲットを製造することを可能にし、かつ高温でターゲットの焼結を防ぐことを可能にすることを見い出している。これは、原料スパッタリング用ターゲット組成物中において、例えば、窒化リチウム(Li3N)のような窒素系電解質添加剤及び/又は窒化アルミニウム(AlN)又は窒化ケイ素(Si3N4)のような窒素系添加剤等の温度感応性材料を使用することを補助する。ターゲット中に含まれた材料は、ターゲットを高温で焼結させると、一般的に、蒸発又は酸化する。加えて、発明者等は、リチウム系電解質と組み合わせるPHPSの使用も、窒素リッチ薄膜固体電解質を製造するために窒素の十分な量を、ターゲット中において、含有させうるという意味で興味深いことを見い出している。膜構造中の窒素の含有は、薄膜マイクロ電池装置用の最も有望な材料である薄膜固体電解質のイオン伝導性を改善する。
【0013】
よって、PHPSを含むカソード性スパッタリング用ターゲットの原料組成物を使用することにより、非常に良好なイオン伝導性を有する高密度及び固体スパッタリング用ターゲットを、低温で、迅速及び容易に製造することが現下において可能となる。
【0014】
本発明の好適な実施の形態によれば、PHPSは、以下の式(I):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、nは、ペルヒドロポリシラザンが150〜150000g/molの範囲の数平均分子量を有するような整数値である)
の化合物の中で選択される。
【0017】
PHPSの量は、スパッタリング組成物の全量に対して、5〜約30重量%の範囲が好ましく、約15〜25重量%の範囲がより好ましい。これらパーセンテージは、当然ながら、電解質用に使用される材料に依存するであろう。
本発明によるスパッタリング用ターゲット組成物中、PHPSは、溶媒中の溶液で使用されることが好ましい。PHPS用に適する溶媒は、特に、水及び反応基(水酸基又はアミン基等)もを含まず、かつスパッタリング法の間で全体的に蒸発するであろう有機溶媒である。これら溶媒は、例えば、脂肪族又は芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、酢酸エチル又は酢酸ブチルのようなエステル、アセトン又はメチルエチルケトンのようなケトン、テトラヒドロフラン又はジ-n-ブチルエーテルのようなエーテル、及びモノ-及びポリアルキルグリコールジアルキルエーテル(グライム)、及びそれらの混合物の中から選択される。
これら溶媒の中で、ジ-n-ブチルエーテルのようなエーテルの使用が、特に好適である。
PHPSが溶媒中の溶液である場合、得られるPHPS溶液は、溶媒75-85重量%対して、PHPSを15-25重量%含むことが好ましい。
【0018】
粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質は、ホウ酸リチウム(LiBO2、Li2B4O7、…);ケイ酸リチウム(Li4SiO4、…);ゲルマニウム酸リチウム(Li2GeO3、…);リン酸リチウム(Li3PO4);硫酸リチウム(Li2SO4、…),ヨウ化リチウム、塩化リチウム及びフッ化リチウムのようなリチウム塩;窒化リチウム(Li3N);及びそれらの混合物の中から選択することが好ましい。
【0019】
本発明の好適な実施の形態によれば、粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質は、少なくともホウ酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム及び窒化リチウムを含む混合物である。
本発明の他の好適な実施の形態によれば、粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質は、スパッタリング組成物全量に対して、70〜96重量%、より好ましくは77〜90重量%存在している。
他の実施の形態によれば、本発明のカソード性スパッタリング用ターゲット原料組成物は、また、他の粉末状イオン-伝導固体電解質、好ましくはリチウム-、アルミニウム-及びケイ素系電解質から選択される電解質を含んでいてもよい。
【0020】
窒素系添加剤は、また、改善されたイオン伝導性を有する薄膜を導く窒素の取り込みのために、本発明のカソード性スパッタリング用ターゲット原料組成物に含まれていてもよい。好ましくは、窒素系添加剤は、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si3N4)の中から選択される。
約1μmの厚さを有する固体電解質膜の堆積は、一般的に、約2〜10時間又はそれ以上続くスパッタリング法が含まれる。スパッタリング用ターゲットは、往々にして、スパッタリングパワー及び/又は長スパッタリング時間をサポートするには十分耐性ではなく、スパッタリング法の終点以前に、破壊又は割れることがある。
【0021】
よって、本発明の好適な実施の形態によれば、更なるスパッタリング用ターゲット組成物は、少なくとも1つの機械的強化材を含み、機械的強化材は、電子伝導材料ではない。
スパッタリング用ターゲット組成物中のそのような機械的強化材の存在は、必須ではないが、高スパッタリングパワー及び/又は長スパッタリング時間を付与されるスパッタリング法の間のターゲットの耐性を強化する。
好ましくは、機械的強化材は、組成物の(そのような強化材の密度に依存する)全量に対して、約0.5〜約0.8重量%で存在する。
【0022】
本発明によれば、機械的強化材の性質は、得られる固体電解質膜の電子伝導性を増加させないため、電子的伝導材料を含まない、特に、カーボンを含まない限り重要ではない。
機械的強化材は、ファイバー、粒子、フレーク及び/又はフィラーの中から選択できる。具体的な例として、ガラス(E-ガラス、S-ガラス、D-ガラス)、アルミニウムオキサイド、アルミニウムシリカ、石綿、石英(溶融シリカ)製のファイバー、粒子、フレーク及び/又はフィラー、又は他の電子的絶縁フィラー、及びそれらの混合物を言及できる。
機械的強化材は、ファイバーの形状が好ましい。
ファイバーの長さは、ターゲットのサイズに適合する必要があり、それは当業者により容易に決定しうる。
【0023】
4〜10cmの範囲である径を有するターゲットにおいて、機械的強化材は、好ましくは約0.1〜5cmの長さ、より好ましくは約0.2〜0.3cmの長さを有するファイバーから選択する。この場合、ファイバーの径は、一般的に0.1〜0.5μmの範囲であり、より好ましくは0.1〜0.3μmの範囲である。
発明者等は、ファイバーのより大きな長さ又はより大きな径が、原料を加圧した後、スパッタリング用ターゲット中に分離層(へき開)の形成を生じることを、特定の場合において、見い出している。しかし、数メートルまでのサイズを有するより大きなターゲットにおいて、より長いファイバー、例えば、数メートルの長さを有するファイバーを使用することが可能である。ファイバーの長さ及び径を、当業者は、当然ながら、ターゲットの最終サイズに容易に適合させうるであろう。
【0024】
本発明の特に好適な実施の形態によれば、組成物が5及び8cmの間の範囲のサイズを有する最終ターゲットの製造用にデザインされている場合、機械的強化材は、最大長約0.3cm及び平均径約0.1μmのガラスファイバーからなる。
上記カソード性スパッタリング用ターゲット粉末状組成物は、一般的に、ペーストの形状であり、ペーストは、当業者に公知の古典的方法によりそこに含まれた異なる成分の単純な混合物により製造できる。
【0025】
本発明の他の目的は、少なくとも以下の工程:
-所望の最終ターゲットの形状に対応する形状への上記カソード性スパッタリング用ターゲット組成物のフォーマット化(formatting)工程、
-約150℃〜約300℃の範囲の温度で、約3〜約10分間での得られたフォーマット化組成物の加熱工程、及び
-本発明のカソード性スパッタリング用ターゲット組成物に含まれたペルヒドロポリシラザンの網状化(reticulation)工程
を含むカーボンフリー固体カソード性スパッタリング用ターゲットの製造方法である。
【0026】
その方法の第1の実施の形態によれば、フォーマット化工程は、前記カソード性スパッタリング用ターゲット組成物を、20〜100MPa、より好ましくは50〜80MPaの範囲の成形圧下で、ターゲットの組成物を次のようにして成形することにより行われる。この成形工程により、例えば、ディスクの形状、又は正方形、長方形、円筒状等のようなあらゆる他の形状を有する固体ターゲットを得ることが可能となる。例えば、ディスクの形状を有するラボスケールターゲット用として、径が一般的に5cm、及び厚さがおよそ3〜5mmとできる。ターゲットの厚さは、当然ながら、ターゲットのサイズに依存しうる。
【0027】
その方法の第2の実施の形態によれば、フォーマット化工程は、また、前記カソード性スパッタリング用ターゲット組成物の層を、固体支持体上又は周辺、例えば円柱状の固体支持体の周辺に塗布することにより行いうる。
加熱工程は、カソード性スパッタリング用ターゲット組成物に含まれた成分、固体電解質との架橋鎖を形成するバインダーの重合、十分な機械的耐性を得られる成形固体由来ターゲットに与える第1の-Si-N-Si-タイプ及び第2の-Si-O-Si-タイプの重合を導く。
加熱工程は、好ましくは約160及び220℃の間、より好ましくは約180及び200℃の間の温度で、約3〜5分間行われる。これら特定の条件は、当然ながら、ターゲットの寸法(例えば、径及び厚さ)及び組成物によって、少し変更してもよい。
【0028】
その方法により得られた固体カソード性スパッタリング用ターゲットは、本発明の他の主題を構成する。
よって、本発明は、また、上記方法により得られたカソード性スパッタリング固体ターゲットに関し、前記ターゲットは、いかなる電子的伝導材料ではなく、及び:
-少なくとも電子的に絶縁性である1つの粉末状イオン-伝導リチウム系固体電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザンからなる群から選択され、前記組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つの網目状のカーボンフリー無機重合性バインダー
からなる少なくとも1つの重合固体材料を含む。
【0029】
好ましくは、重合固体材料は、先に記載したカソード性スパッタリング用ターゲット原料組成物、即ち:
-少なくとも電子的に絶縁性である1つの粉末状イオン-伝導リチウム系固体電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザンからなる群から選択され、前記組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つの網目状のカーボンフリー無機重合性バインダー
を含む組成物の約150℃〜約300℃の温度範囲で、約3〜約10分間の重合により得られた本発明のカソード性スパッタリング固体ターゲット中に存在する。
【0030】
本発明の好適な実施の形態によれば、これら固体ターゲットは、ディスク、正方形、長方形、円筒状を有するか、又はターゲットのサイズに依存し、数mm〜数cmの範囲の厚さを備えたあらゆる形状を有する。
これらターゲットは、一般的に、約1g/cm3〜約3g/cm3の範囲の密度を有する。
最後に、本発明は、また、固体基板の表面への固体薄膜のスパッタリング物理的気相堆積用、特に、薄膜電池内部の固体薄電解質膜用の上記カソード性スパッタリング固体ターゲットの使用に関する。
【0031】
本発明の固体カソード性スパッタリング用ターゲットから得られた固体薄膜は:
-少なくとも電子的に絶縁性である1つの粉末状イオン-伝導リチウム系固体電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザンからなる群から選択され、前記組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つの網目状のカーボンフリー無機重合性バインダー
を含む。
これらターゲットは、例えば、電気着色(エレクトロクロミック)装置での、低融点又は低蒸発温度化合物を備えたターゲットを必要とする他のいかなる固体薄膜堆積用にも使用できる。
【0032】
重合はおよそ200℃で生じるため、本発明は、低融点又は低蒸発温度での材料のターゲットの製造中に使用しうる。
上記処理に加えて、本発明は、本発明の方法により製造され、本発明によるスパッタリング用ターゲットの製造例及び2つのスパッタリング用ターゲットの耐性を示す比較例に示され、及び固体電解質、PHPS及びガラスファイバーを含むスパッタリング組成物製の固体スパッタリング用ターゲットの、スパッタリング物理的気相堆積法でのその使用後の写真を表す図1である添付の図に示され以下の記載から現れる他の処理も含む。
しかし、これら実施例は、本発明の主題の説明のためのみに挙げられており、それらが如何なる点においても限定を構成することがないことを明らかに理解すべきである。
【0033】
実施例
実施例1:本発明の方法による固体リチウム系スパッタリング用ターゲットの製造
ホウ酸リチウム(LiBO2)42mol%、硫酸リチウム(Li2SO4)28mol%及び窒化リチウム(Li3N)30mol%の混合物を、原料スパッタリング用ターゲット組成物を製造するために所望の化学組成物とした。
バッチ組成物13グラムを、カソードに十分適合させるために好適なスパッタリング用ターゲットを製造するために選択する。42mol%と等しいLiBO2粉末4.372グラム、28mol%と等しいLi2SO4粉末6.442グラム及び30mol%と等しいLi3N粉末2.187グラムが、原料用に測定した重量である。
【0034】
メタホウ酸リチウム及び窒化リチウムは、湿気と容易に反応する吸湿性化合物であるから、全ての粉末をその使用前に不活性乾燥アルゴンガス雰囲気に維持されたグローボックス内部に保持した。ターゲットの製造を開始する前に、原料中に存在する相の構成をチェックするために原料のX-線分析を行った。X-線回折パターンがデータベースに適合していることがわかった。
次に、リチウム系粉末混合物を、均一な混合物を得るまで混合しかつ乳鉢中で十分に粉にした。
【0035】
ガラスファイバー(参照名“ガラスファイバーティッシュ”としてSINTOFER社により販売されている)を長さ0.3cmの小片にカットした。原料に対して、0.7重量パーセントのガラスファイバー0.3cmの小片が、スパッタリング用ターゲット中にそれを使用するために所望されている。これらガラスファイバーを、リチウム粉末混合物に対して、0.7重量パーセント(ガラスファイバー0.091gの量に対応する)の量で添加した。次に、ガラスファイバーの小片を、密接な混合物が得られるまで、リチウム系粉末混合物を混合した。
次いで、ジ-n-ブチルエーテル中のPHPSの20%(w/w)溶液3.25gを、原料の均質な混合物が得られるまで、ステンレススチールスパチュラでの混合下、原料の混合物にゆっくり添加した。
PHPSは、原料スパッタリング用ターゲット組成物の全量に対して、25重量%とした。
【0036】
次に、原料の混合物をステンレススチールダイの使用により加圧した。薄膜堆積チャンバーのカソードに好適にフィットする5cm径のスパッタリング用ターゲットを、このダイを使用して製造した。そうするために、原料の混合物をステンレススチールダイ中に配置し、スパッタリング用ターゲットを75MPaでの加圧により製造した。100MPa以上の付与は、ダイ及び粉末化混合物から溶媒を広げることにつながる。
次いで、得られる加圧混合物を、180℃で、溶媒を蒸発させるために必要な最小時間である3〜5分間焼成した。焼成したスパッタリング用ターゲットは、厚さ(t)0.51cm、径(d)5.0cm及び重量(w)12.784gを有していた。そのスパッタリング用ターゲットの真密度は、1.58g/cm3であることが分かった。
原料混合物の理論密度を計算し、2.14g/cm3であることが分かった。
【0037】
スパッタリング用ターゲットの見掛密度は、スパッタリング用ターゲットの理論密度に対する真密度の比より計算した。見掛密度のパーセンテージは、74.0%であることが分かった。
この方法により製造された固体スパッタリング用ターゲットは、固体基板の表面上に薄固体電解質膜を堆積させるためのスパッタリング物理的気相堆積法に使用ために、十分硬くかつ適していた。
【0038】
実施例2:基板上への固体薄電解質膜の堆積用の本発明による固体スパッタリング用ターゲットの使用
この上の実施例1で製造されたスパッタリング用ターゲットを、固体基板の表面への固体薄電解質膜の堆積のために使用した。
堆積に使用したスパッタリングパラメータは、下記:
-スパッタリングチャンバーのベース圧=1x10-6mbar、
-操作圧=6x10-3mbar、
-スパッタリング用ターゲットに付与したパワー=35ワット
とした。
【0039】
薄膜堆積の間、良好な熱接触を保つために、薄いスズディスクをスパッタリング用ターゲット及びカソード間に使用した。ターゲットを15時間までスパッタする。スパッタリング15時間後であっても、ターゲットの状態は良好であり、スパッタリング用ターゲットにクラックはなかった。まず、アルゴンプラズマ下、次いで、窒素反応プラズマ下で、ターゲットをスパッタした。スパッタリング法の終わりにスパッタされたターゲットを添付の図1に示している。
この方法で製造されたスパッタリング用ターゲットは、スパッタリング堆積法による薄膜固体電解質の堆積用に耐久性がある。
【0040】
また、ガラスファイバーを除いて、実施例1で製造された固体スパッタリング用ターゲットと同じ原料から形成され、本発明の一部をも形成する台替スパッタリング用ターゲットを実施例1に記載された方法により製造した。
次に、このスパッタリング用ターゲットを固体基板の表面への固体薄電解質膜の堆積に使用した。
実施例1により製造されたスパッタリング用ターゲットに備えられた膜の堆積に使用した同じスパッタリングパラメータ及び条件を何らかの機械的強化材を含まないこの代替スパッタリング用ターゲットでも使用した。
また、堆積法を15時間行った。
このターゲットは、堆積法の終わりに破壊される前の法の間に付与された条件に少なくとも11時間耐え、方法は、緩和な条件でのみ使用される製造方法により製造されたターゲットを全体的に許容しかつ十分満足しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
-電子的に絶縁性である少なくとも1つの粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザン類からなる群から選択され、組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つのカーボンフリー無機重合性バインダー
を含むカソード性スパッタリング用ターゲットの原料組成物。
【請求項2】
ペルヒドロポリシラザン類が、以下の式(I):
【化1】

(式中、nは、ペルヒドロポリシラザン類が150〜150000g/molの範囲の数平均分子量を有するような整数値である)
の化合物の中で選択される請求項1の組成物。
【請求項3】
ペルヒドロポリシラザンの量が、前記組成物の全量に対して、5〜30重量%の範囲である請求項1又は2の組成物。
【請求項4】
ペルヒドロポリシラザンの量が、前記組成物の全量に対して、15〜25重量%の範囲である請求項3の組成物。
【請求項5】
ペルヒドロポリシラザン類が、溶媒中での溶液である請求項1〜4のいずれか1つによる組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、脂肪族又は芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、及びモノ-及びポリアルキルグリコールジアルキルエーテル、及びそれらの混合物の中から選択される請求項5の組成物。
【請求項7】
前記溶媒が、ジ-n-ブチルエーテルである請求項6の組成物。
【請求項8】
更に、前記組成物が、他の粉末状イオン-伝導固体電解質、好ましくはリチウム-、アルミニウム-及びケイ素系電解質から選択される電解質を含む請求項1〜7のいずれか1つによる組成物。
【請求項9】
イオン-伝導固体電解質が、ホウ酸リチウム;ケイ酸リチウム;ゲルマニウム酸リチウム;リン酸リチウム;リチウム塩;及びそれらの混合物の中から選択される請求項1〜8のいずれか1つによる組成物。
【請求項10】
粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質が、少なくともホウ酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム及び窒化リチウムを含む混合物である請求項9による組成物。
【請求項11】
粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質が、前記組成物全量に対して、70〜96重量%存在している請求項1〜10のいずれか1つによる組成物。
【請求項12】
粉末状イオン-伝導固体リチウム系電解質が、前記組成物全量に対して、77〜90重量%存在している請求項11による組成物。
【請求項13】
更に、前記組成物が、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si3N4)の中から選択される窒素系添加剤を含む請求項1〜12のいずれか1つによる組成物。
【請求項14】
更に、前記組成物が、少なくとも1つの機械的強化材を含み、前記強化材が、電子伝導材料ではない請求項1〜13のいずれか1つによる組成物。
【請求項15】
機械的強化材が、組成物の全量に対して、0.5〜0.8重量%で存在する請求項14による組成物。
【請求項16】
機械的強化材が、ガラス、酸化アルミニウム、ケイ化アルミニウム、石綿、石英又は他の電子的絶縁フィラー、及びそれらの混合物製の、ファイバー、粒子、フレーク及び/又はフィラーの中から選択される請求項14又は15による組成物。
【請求項17】
機械的強化材が、ファイバーの形状である請求項16による組成物。
【請求項18】
機械的強化材が、約0.1〜5cmの長さを有するファイバーから選択される請求項14〜17のいずれか1つの組成物。
【請求項19】
機械的強化材が、最大長約0.3cm及び平均径約0.1μmのガラスファイバーからなる請求項14〜17による組成物。
【請求項20】
少なくとも以下の工程:
-所望の最終ターゲットの形状に対応する形状への上記請求項1〜19のいずれか1つに記載されたカソード性スパッタリング用ターゲット組成物のフォーマット化工程、
-150℃〜300℃の範囲の温度で、約3〜10分間の得られたフォーマット化組成物の加熱工程、及び
-本発明のカソード性スパッタリング用ターゲット組成物に含まれたペルヒドロポリシラザンの網状化工程
を含むカーボンフリー固体カソード性スパッタリング用ターゲットの製造方法。
【請求項21】
フォーマット化工程が、前記カソード性スパッタリング用ターゲット組成物を、20〜100MPaの範囲の成形圧下で、成形することにより行われる請求項20の方法。
【請求項22】
成形圧が、50〜80MPaの範囲である請求項21の方法。
【請求項23】
フォーマット化工程が、前記カソード性スパッタリング用ターゲット組成物の層を、固体支持体上又は周辺に塗布することにより行われる請求項20の方法。
【請求項24】
加熱工程が、約160及び220℃の間の温度で、約3〜5分間行われる請求項20〜23の方法。
【請求項25】
前記ターゲットが、電子的伝導材料ではなく、及び:
-電子的に絶縁性である少なくとも1つの粉末状イオン-伝導リチウム系固体電解質、及び
-ペルヒドロポリシラザンからなる群から選択され、前記組成物の全量に対して少なくとも5重量%の量での少なくとも1つの網目状のカーボンフリー無機重合性バインダー
からなる少なくとも1つの重合固体材料を含む請求項20〜24のいずれか1つに規定された方法により得られた固体カソード性スパッタリング用ターゲット。
【請求項26】
前記ターゲットが、1g/cm3〜3g/cm3の範囲の密度を有する請求項25の固体ターゲット。
【請求項27】
固体基板の表面への固体薄膜のスパッタリング物理的気相堆積用の請求項25又は26に記載された固体カソード性スパッタリング用ターゲットの使用。
【請求項28】
薄膜電池内部の固体薄電解質膜の堆積用の請求項27の使用。
【請求項29】
電気着色装置の固体薄電解質膜の堆積用の請求項27の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−524947(P2011−524947A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514145(P2011−514145)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006324
【国際公開番号】WO2009/153664
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】