説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】変速に際してフィードフォワード制御量が適切な値となるように目標値を設定する無段変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】推定差圧算出手段156により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいて変速制御指令信号Sを基準Duty値としたときの入力側油圧シリンダ42cに流入出可能な最大流量Qmaxが最大流量算出手段166により算出され、最大流量Qmaxに基づいてガード値算出手段168により算出されたガード値ΔXgを用いてガード後目標シーブ位置設定手段170によりシーブ位置変化量ガード処理が実行されてガード後目標シーブ位置Xtgが設定されるので、変速に際して、その目標シーブ位置Xtgの変化が過度に大きくされず且つ過剰に小さくされないことから、目標シーブ位置Xtgの変化量に基づくフィードフォワード制御量が適切な値となるように目標値が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の変速制御装置に係り、特に、無段変速機の変速を実行する際の指令値を求めるための目標値を設定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速比を連続的に変化させるために作動油の流入出によって駆動される油圧アクチュエータを有する無段変速機の変速制御装置において、油圧アクチュエータに流入出する作動油量を調整する変速制御弁を駆動制御することにより無段変速機の変速を実行することが良く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された無段変速機の制御装置がそれである。この特許文献には、固定シーブおよび可動シーブを備えた有効径が可変のプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、それら両プーリに巻き掛けられたベルトとを有するベルト式無段変速機の変速制御において、目標入力軸回転速度と実際の入力軸回転速度との偏差に基づくフィードバック指令値と、プライマリプーリの可動シーブの目標値の変化速度に基づくフィードフォワード指令値とに基づいて変速制御弁を駆動制御するための駆動指令値を算出することが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−343709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載されるように、フィードフォワード指令値が目標値の変化速度に基づいて求められる場合に、変速応答性を向上することを目的としてステップ的(段階的に)に大きくされる目標値が設定されると、その目標値の変化速度によってはフィードフォワード指令値が出力可能な適正範囲を超えて過度に大きくなってしまう可能性があった。
【0006】
これに対して、上記のように目標値の変化が過度に大きくされないように、目標値の変化を制限することが考えられるが、制限し過ぎて目標値の変化が過剰に小さくされてしまうと、変速の応答性が不十分なものとなってしまうという問題が生じる可能性があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、無段変速機の変速に際してフィードフォワード制御量が適切な値となるように変速のための目標値を設定する無段変速機の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) 変速比を連続的に変化させるために作動油の流入出によって駆動される油圧アクチュエータを有する無段変速機が配設された車両において、前記油圧アクチュエータに流入出する作動油量を調整する変速制御弁を駆動制御するための駆動指令値を、前記無段変速機を変速制御するための目標値の変化量に基づくフィードフォワード制御量に基づいて求める無段変速機の変速制御装置であって、(b) 前記変速制御弁の上流側油圧と下流側油圧との差圧の推定値を算出する推定差圧算出手段と、(c) 前記差圧の推定値に基づいて前記駆動指令値を所定値としたときにおける前記油圧アクチュエータに流入出可能な最大流量を算出する最大流量算出手段と、(d) 前記最大流量に基づいて前記目標値の変化量のガード値を算出するガード値算出手段と、(e) 前記ガード値を用いて前記目標値の変化量を抑制するガード処理を実行してその目標値を設定する目標値設定手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、推定差圧算出手段により算出された変速制御弁の上流側油圧と下流側油圧との差圧の推定値に基づいて駆動指令値を所定値としたときにおけるアクチュエータに流入出可能な最大流量が最大流量算出手段により算出され、その最大流量に基づいて目標値の変化量のガード値がガード値算出手段により算出され、目標値設定手段によりそのガード値を用いて目標値の変化量を抑制するガード処理が実行されてその目標値が設定されるので、無段変速機の変速に際して目標値の変化が過度に大きくされず且つ目標値の変化が過剰に小さくされないことから、目標値の変化量に基づくフィードフォワード制御量が適切な値となるように変速のための目標値が設定される。
【0010】
ここで、請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の無段変速機の変速制御装置において、前記最大流量算出手段は、前記所定値として、前記駆動指令値の最大値よりも所定幅小さな値を用いるものである。このようにすれば、フィードバック制御を行う場合に、フィードバック制御量に基づいて求められる駆動指令値によるアクチュエータへの作動油の流量が確保されるので、フィードバック制御分の制御応答が維持される。
【0011】
また、請求項3にかかる発明は、請求項1または2に記載の無段変速機の変速制御装置において、前記推定差圧算出手段は、前記変速制御弁の上流側油圧と下流側油圧とに基づく前記差圧の演算値が所定の下限値以上であるときにはその演算値を差圧の推定値として算出する一方で、その演算値が所定の下限値よりも小さいときにはその下限値を差圧の推定値として算出するものである。このようにすれば、差圧の演算値が所定の下限値よりも小さいような極めて小さな値に誤って推定されたとしても、差圧の推定値に基づいて算出される最大流量が小さな値になり過ぎるのが防止される。これにより、前記目標値の変化量のガード値が小さな値になり過ぎるのが防止されて目標値の変化が過剰に小さくされない。
【0012】
また、請求項4にかかる発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の無段変速機の変速制御装置において、前記変速制御弁の上流側油圧はライン油圧であり、前記変速制御弁の下流側油圧は前記油圧アクチュエータに作用する油圧であり、前記推定差圧算出手段は、最大出力可能なライン油圧に基づいてそのライン油圧と前記油圧アクチュエータに作用する油圧との最大差圧の推定値を算出するものである。このようにすれば、前記油圧アクチュエータに流入出可能な最大流量が算出され、また流量が安定的に出力され得る。
【0013】
また、請求項5にかかる発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の無段変速機の変速制御装置において、前記無段変速機は、固定シーブおよび可動シーブを備えた有効径が可変のプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、その両プーリに巻き掛けられたベルトとを有するベルト式無段変速機であり、前記油圧アクチュエータは、前記プライマリプーリの可動シーブを駆動するものであり、前記可動シーブの位置が前記目標値として設定されるものである。このようにすれば、ベルト式無段変速機の変速が適切に実行される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0016】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路100(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0017】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0018】
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0019】
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
【0020】
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体である入力側固定シーブ42aおよび出力側固定シーブ46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体である入力側可動シーブ42bおよび出力側可動シーブ46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42cおよび出力側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、出力側油圧シリンダ46cの油圧(ベルト挟圧Pd)が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、入力側油圧シリンダ42cの油圧(変速制御圧Pin)が生じるのである。
【0021】
図2は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0022】
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Nに対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)Nを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸36の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、車速センサ(出力軸回転速度センサ)58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUTすなわち出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管32(図1参照)に備えられた電子スロットル弁30のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温Tを表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧回路の油温TCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出されたアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、フットブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無BONを表すブレーキ操作信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置)PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
【0023】
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号S、例えば電子スロットル弁30の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ76を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号S例えば入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を駆動するための指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号S例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧Pを制御させる為のライン油圧制御指令信号SPL例えばライン油圧Pを調圧するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0024】
シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「L」(図3参照)のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
【0025】
「P」ポジション(レンジ)は車両用駆動装置10の動力伝達経路を解放しすなわち車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両用駆動装置10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジションおよび「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「L」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0026】
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバー74の操作に伴う前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ110、変速比γが連続的に変化させられるように入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁としての変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116、変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とする推力比コントロールバルブ118、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー74の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ120等を備えている。
【0027】
ライン油圧Pは、エンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)122によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0028】
より具体的には、プライマリレギュレータバルブ122は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート122iを開閉してオイルポンプ28から発生される作動油圧を出力ポート122tを経て吸入油路124へ排出するスプール弁子122aと、そのスプール弁子122aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング122bと、そのスプリング122bを収容し且つスプール弁子122aに閉弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLTを受け入れる油室122cと、スプール弁子122aに開弁方向の推力を付与するためにオイルポンプ28から発生される作動油圧を受け入れる油室122dとを備えている。
【0029】
このように構成されたプライマリレギュレータバルブ122において、スプリング122bの付勢力をF、油室122cにおける制御油圧PSLTの受圧面積をa、油室122dにおけるライン油圧Pの受圧面積差をbとすると、次式(1)で平衡状態となる。
×b=PSLT×a+F ・・・(1)
従って、ライン油圧Pは、次式(2)で表され、制御油圧PSLTに比例する。
=PSLT×(a/b)+F/b ・・・(2)
【0030】
このように、プライマリレギュレータバルブ122とリニアソレノイド弁SLTとは、油圧指令値としてのライン油圧制御指令信号SPLに基づいてオイルポンプ28から吐出される作動油をライン油圧Pに調圧する調圧装置として機能する。
【0031】
モジュレータ油圧Pは、制御油圧PSLTおよびリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの元圧となるものであると共に、電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PDS1およびソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、ライン油圧Pを元圧としてモジュレータバルブ126により一定圧に調圧されるようになっている。
【0032】
出力油圧PLM2は、ライン油圧Pを元圧としてライン圧モジュレータNO.2バルブ128により制御油圧PSLTに基づいて調圧されるようになっている。
【0033】
前記マニュアルバルブ120において、入力ポート120aには出力油圧PLM2が供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が前進走行用出力圧として前進用出力ポート120fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート120rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
【0034】
また、シフトレバー74が「R」ポジションに操作されると、出力油圧PLM2が後進走行用出力圧として後進用出力ポート120rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート120fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
【0035】
また、シフトレバー74が「P」ポジションおよび「N」ポジションに操作されると、入力ポート120aから前進用出力ポート120fへの油路および入力ポート120aから後進用出力ポート120rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ120からドレーンされるようにマニュアルバルブ120の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
【0036】
前記変速比コントロールバルブUP114は、軸方向へ移動可能に設けられることによりライン油圧Pを入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側可変プーリ42へ供給可能且つ入出力ポート114kを閉弁するアップシフト位置と入力側可変プーリ42が入出力ポート114jを介して入出力ポート114kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子114aと、そのスプール弁子114aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング114bと、そのスプリング114bを収容し且つスプール弁子114aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室114cと、スプール弁子114aにアップシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室114dとを備えている。
【0037】
また、変速比コントロールバルブDN116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116jが排出ポートEXと連通させられるダウンシフト位置と入出力ポート116jが入出力ポート116kと連通させられる原位置とに位置させられるスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを原位置側に向かって付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに原位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS1を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aにダウンシフト位置側に向かう推力を付与するために制御油圧PDS2を受け入れる油室116dとを備えている。
【0038】
このように構成された変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116において、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子114aがスプリング114bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート114jと入出力ポート114kとが連通させられ、入力側可変プーリ42(入力側油圧シリンダ42c)の作動油が入出力ポート116jへ流通することが許容される。また、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子116aがスプリング116bの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、入出力ポート116jと入出力ポート116kとが連通させられ、推力比コントロールバルブ118からの推力比制御油圧Pτが入出力ポート114kへ流通することが許容される。
【0039】
また、制御油圧PDS1が油室114dへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール弁子114aがその制御油圧PDS1に応じた推力によりスプリング114bの付勢力に抗してアップシフト位置側へ移動させられ、ライン油圧Pが制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート114iから入出力ポート114jを経て入力側油圧シリンダ42cへ供給されると共に、入出力ポート114kが遮断されて変速比コントロールバルブDN116側への作動油の流通が阻止される。これにより、入力側油圧シリンダ42c内の流量が増大させられ、入力側油圧シリンダ42cにより入力側可動シーブ42bのシーブ位置Xが入力側固定シーブ42a側へ移動させられ、入力側可変プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち無段変速機18がアップシフトされる。なお、このとき出力側可変プーリ46のV溝幅が広くされるが、後述するように挟圧力コントロールバルブ110により伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが調圧させられる。
【0040】
また、制御油圧PDS2が油室116dへ供給されると、中心線より左側半分に示すようにスプール弁子116aがその制御油圧PDS2に応じた推力によりスプリング116bの付勢力に抗してダウンシフト位置側へ移動させられ、入力側油圧シリンダ42cの作動油が制御油圧PDS2に対応する流量で入出力ポート114jから入出力ポート114kさらに入出力ポート116jを経て排出ポートEXから排出される。これにより、入力側油圧シリンダ42c内の流量が減少させられ、入力側油圧シリンダ42cにより入力側可動シーブ42bのシーブ位置Xが入力側固定シーブ42aとは反対側へ移動させられ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち無段変速機18がダウンシフトされる。なお、このとき出力側可変プーリ46のV溝幅が狭くされ、後述するように挟圧力コントロールバルブ110により伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdが調圧させられる。
【0041】
このように、ライン油圧Pは変速制御圧Pinの元圧となるものであって、制御油圧PDS1が出力されると変速比コントロールバルブUP114に入力されたライン油圧Pが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて変速制御圧Pinが高められて連続的にアップシフトされ、制御油圧PS2が出力されると入力側油圧シリンダ42cの作動油が排出ポートEXから排出されて変速制御圧Pinが低められて連続的にダウンシフトされる。
【0042】
前記シーブ位置Xは、変速比γが1であるときの入力側可動シーブ42bの位置を基準位置すなわちシーブ位置X=0として、軸と平行方向におけるその基準位置からの入力側可動シーブ42bの絶対位置を表すものである。例えば、入力側固定シーブ42a側を正(+)とし、入力側固定シーブ42aとは反対側を負(−)とする(図1参照)。
【0043】
また、制御油圧PDS1は変速比コントロールバルブDN116の油室116cに供給され、制御油圧PDS2に拘らずその変速比コントロールバルブDN116を閉じ状態としてダウンシフトを制限する一方、制御油圧PDS2は変速比コントロールバルブUP114の油室114cに供給され、制御油圧PDS1に拘らずその変速比コントロールバルブUP114を閉じ状態としてアップシフトを禁止するようになっている。つまり、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないときはもちろんであるが、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されるときにも、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116は何れも原位置に保持されている閉じ状態とされる。これにより、電気系統の故障などでソレノイド弁DS1、DS2の一方が機能しなくなり、制御油圧PDS1または制御油圧PDS2が最大圧で出力され続けるオンフェール時となった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
【0044】
前記挟圧力コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧Pを入力ポート110iから出力ポート110tを経て出力側可変プーリ46および推力比コントロールバルブ118へベルト挟圧Pdを供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pを受け入れる油室110eとを備えている。
【0045】
このように構成された挟圧力コントロールバルブ110において、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧Pが連続的に調圧制御されることにより、出力ポート110tからベルト挟圧Pdが出力される。このように、ライン油圧Pはベルト挟圧Pdの元圧となるものである。なお、出力ポート110tと出力側油圧シリンダ46cとの間の油路には油圧センサ130が設けられており、この油圧センサ130によりベルト挟圧Pdが検出される。
【0046】
前記推力比コントロールバルブ118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート118iを開閉してライン油圧Pを入力ポート118iから出力ポート118tを経て変速比コントロールバルブDN116へ推力比制御油圧Pτを供給可能にするスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するためにベルト挟圧Pdを受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート118tから出力された推力比制御油圧Pτを受け入れるフィードバック油室118dとを備えている。
【0047】
このように構成された推力比コントロールバルブ118において、油室118cにおけるベルト挟圧Pdの受圧面積をa、フィードバック油室118dにおける推力比制御油圧Pτの受圧面積をb、スプリング118bの付勢力をFとすると、次式(3)で平衡状態となる。
τ×b=Pd×a+F ・・・(3)
従って、推力比制御油圧Pτは、次式(4)で表され、ベルト挟圧Pdに比例する。
τ=Pd×(a/b)+F/b ・・・(4)
【0048】
そして、制御油圧PDS1および制御油圧PDS2が共に供給されないか、或いは所定圧以上の制御油圧PDS1および所定圧以上の制御油圧PDS2がともに供給されて、変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116が何れも原位置に保持されている閉じ状態とされたときには、推力比制御油圧Pτが入力側油圧シリンダ42cに供給されることから、変速制御圧Pinが推力比制御油圧Pτと一致させられる。つまり、推力比コントロールバルブ118により変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係に保つ推力比制御油圧Pτすなわち変速制御圧Pinが出力される。
【0049】
例えば、入力軸回転速度センサ56や車速センサ58の精度上所定車速V’以下の低車速状態では入力軸回転速度NINや車速Vの検出精度が劣ることから、このような低車速走行時や発進時には、例えば制御油圧PDS1および制御油圧PDS2を共に供給せず変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116を何れも閉じ状態とする所謂閉じ込み制御を実行する。これにより、低車速走行時や発進時には変速制御圧Pinとベルト挟圧Pdとの比率を予め定められた関係とするようにベルト挟圧Pdに比例する変速制御圧Pinが入力側油圧シリンダ42cへ供給されて、車両停車時から極低車速時における伝動ベルト48のベルト滑りが防止されると共に、このとき例えば最大変速比γmaxに対応する推力比τ(=出力側油圧シリンダ推力WOUT/入力側油圧シリンダ推力WIN;WOUTはベルト挟圧Pd×出力側油圧シリンダ46cの受圧面積SOUT、WINは変速制御圧Pin×入力側油圧シリンダ42cの受圧面積SIN)より大きな推力比τが可能なように上記式(4)の右辺第1項の(a/b)やF/bが設定されていると、最大変速比γmax又はその近傍の変速比γmax’にて良好な発進が行われる。また、上記所定車速V’は、所定回転部材の回転速度例えば入力軸回転速度NINが検出不可能な回転速度となる車速Vとして予め定められた下限の車速であって、例えば2km/h程度に設定されている。
【0050】
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0051】
図4において、基本目標シーブ位置設定手段150は、無段変速機18を変速制御するための目標値として基本目標シーブ位置Xtを設定する。具体的には、基本目標シーブ位置設定手段150は、入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NINを設定する目標入力回転設定手段152と、目標入力軸回転速度NINを目標変速比γに変換する目標変速比算出手段154とを備え、目標変速比γをシーブ位置Xに変換して基本目標シーブ位置Xtを設定する。
【0052】
例えば、前記目標入力回転設定手段152は、図5に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして車速Vと無段変速機18の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度NINとの予め定められて記憶された関係(変速マップ)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NINを設定する。
【0053】
また、前記目標変速比算出手段154は、前記目標入力回転設定手段152により設定された目標入力軸回転速度NINに基づいて目標変速比γ(=NIN/NOUT)を算出する。
【0054】
また、前記基本目標シーブ位置設定手段150は、変速比γとその変速比γに対して一義的に定まるシーブ位置Xとの予め定められて記憶された図示しない関係(シーブ位置マップ)から前記目標変速比算出手段154により算出された目標変速比γに基づいて基本目標シーブ位置Xtを設定する。
【0055】
上記基本目標シーブ位置Xtは、基本的には無段変速機18を変速制御するための目標値として設定されるものである。しかしながら、本実施例の変速制御においては、目標値と実際値との偏差に基づくフィードバック制御に加え、目標値の変化量に基づくフィードフォワード制御が実行されることから、フィードバック制御用の目標値の設定として良く知られているように変速応答性の向上等を目的としてステップ的に大きくされる目標値が設定されると、その目標値の変化量によってはフィードフォワード制御における指令値が出力可能な適正範囲を超えて過度に大きくなってしまう可能性がある。これに対して、目標値の変化が過度に大きくされないように目標値の変化を制限すると、その制限量によっては変速の応答性が不十分なものとなる可能性がある。また、目標値がステップ的に大きくされると、その大きくされた時点のみフィードフォワード制御における指令値が出力されるが、目標値が略一定となる範囲ではフィードフォワード制御のための出力が略零とされて変速が停滞する可能性がある。なお、本明細書においては、変化量は、単位時間当たりの変化量を示すものであり、また繰り返し実行される制御作動にて用いられることから実質的に変化速度と同義である。後述される移動量についても移動速度と同義である。
【0056】
そこで、本実施例では、基本目標シーブ位置Xtの変化量(以下、目標シーブ位置変化量という)ΔXtを抑制するガード処理を実行して目標値としてガード後目標シーブ位置Xtgを設定する。以下、そのガード後目標シーブ位置Xtgの設定について詳細に説明する。
【0057】
推定差圧算出手段156は、変速制御弁(変速比コントロールバルブUP114および変速比コントロールバルブDN116)の上流側油圧であるライン油圧Pと下流側油圧である変速制御圧Pinとのバルブ差圧の推定値(以下、推定バルブ差圧という)ΔPを算出する。具体的には、推定差圧算出手段156は、変速制御圧Pinの推定値(以下、推定Pin圧という)を算出する推定Pin算出手段158と、現在出力可能な最大ライン油圧の推定値(以下、推定ライン油圧)を算出する推定P算出手段160と、その推定Pin圧と推定ライン油圧とに基づいて推定バルブ差圧ΔP(=推定ライン油圧−推定Pin圧)を演算するΔP演算手段162と、演算された推定バルブ差圧ΔPの値を下限を制限する下限ガード処理を行う下限ガード処理手段164とを備え、下限ガード処理された値を最終的な推定バルブ差圧ΔPとして算出する。この推定バルブ差圧ΔPは、現在流入出可能な入力側油圧シリンダ42cへの作動油の流量Q(=入力側可動シーブ42bの移動量ΔX×SIN)を求める際に用いられるものである。
【0058】
例えば、前記推定Pin算出手段158は、次式(5)〜(7)に従って推定Pin圧を算出する。
推定Pin圧=(WIN−kIN×NIN)/SIN ・・・(5)
IN=WOUT/(a+b×log10γ+c×TIN+d×NIN) ・・・(6)
OUT=Pd×SOUT+kOUT×NOUT ・・・(7)
【0059】
尚、kINは入力側油圧シリンダ42cの遠心油圧係数、a、b、c、dは実験的に求められた係数、TINは無段変速機18への入力トルク、Pdは油圧センサ130により検出されたベルト挟圧、kOUTは出力側油圧シリンダ46cの遠心油圧係数である。
【0060】
また、上記入力トルクTINは、エンジントルク推定値TE0、トルクコンバータ14のトルク比t、および入力慣性トルク等から算出される。このエンジントルク推定値TE0はスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度Nとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求めて記憶された図示しない関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度Nおよびスロットル弁開度θTHに基づいて算出され、トルク比tは(NIN/N)の関数であり、入力慣性トルクは入力軸回転速度NINの時間変化量から算出される。
【0061】
また、前記推定P算出手段160は、オイルポンプ28の回転速度すなわちエンジン回転速度Nとエンジン回転速度Nに比例して発生可能なオイルポンプ28の最大発生油圧に基づいてプライマリレギュレータバルブ122により調圧可能なライン油圧Pの最大油圧との予め実験的に求められて記憶された関係(ライン油圧マップ)から実際のエンジン回転速度Nに基づいて現在出力可能な推定ライン油圧を算出する。
【0062】
また、前記ΔP演算手段162は、前記推定P算出手段160により算出された推定ライン油圧と前記推定Pin算出手段158により算出された推定Pin圧とに基づいて最大となる推定バルブ差圧ΔPの演算値を算出する。
【0063】
また、前記下限ガード処理手段164は、前記ΔP演算手段162により算出された推定バルブ差圧ΔPの演算値が所定の下限値としての差圧下限値Pminより小さいか否かを判断し、推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pmin以上であるときにはその演算値をそのまま推定バルブ差圧ΔPとする一方で、推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pminよりも小さいときにはその差圧下限値Pminを推定バルブ差圧ΔPとする。この差圧下限値Pminは、推定ライン油圧と推定Pin圧とが共に推定値であるが為に推定バルブ差圧ΔPの演算値が小さくなり過ぎて変速制御弁を介して出力可能な流量Qが小さくなり過ぎることを防止するように、その演算値の下限を制限する下限ガード処理する為の予め実験的に求められて定められた判定値である。
【0064】
また、前記推定差圧算出手段156は、前記下限ガード処理手段164により下限ガード処理された後の推定バルブ差圧ΔPを最終的な推定バルブ差圧ΔPとして算出する。
【0065】
最大流量算出手段166は、前記推定差圧算出手段156により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいて、変速制御弁をデューティ制御するための駆動指令値としての変速制御指令信号Sを所定値としたときにおける入力側油圧シリンダ42cに流入出可能な最大流量Qmaxを算出する。また、最大流量算出手段166は、上記所定値として、変速制御指令信号SとしてのDuty値の最大値よりも所定幅小さな固定値である基準Duty値を用いる。この所定幅は、フィードフォワード制御分のフィードフォワード流量QFFが制限され且つフィードバック制御分のフィードバック流量QFBが確保されるように、予め実験的に求められた値である。
【0066】
例えば、最大流量算出手段166は、図6に示すようなDuty値をパラメータとして推定バルブ差圧ΔPと流量Qとの予め定められて記憶された関係(流量マップ)から上記基準Duty値および前記推定差圧算出手段156により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいて最大流量Qmaxを算出する。
【0067】
ガード値算出手段168は、前記最大流量算出手段166により算出された最大流量Qmaxに基づいて、目標シーブ位置変化量ΔXtのガード値ΔXg(=Qmax/SIN)を算出する。このガード値ΔXgは、実際のシーブ位置Xが相対的に変化可能な最大変化可能量すなわち入力側可動シーブ42bが相対的に移動可能な最大移動量であって、目標シーブ位置変化量ΔXtを抑制するガード処理(以下、シーブ位置変化量ガード処理という)を実行するためのその目標シーブ位置変化量ΔXtの上限を制限するシーブ移動量ガード値である。
【0068】
目標値設定手段としてのガード後目標シーブ位置設定手段170は、前記ガード値算出手段168により算出されたガード値ΔXgを用いてシーブ位置変化量ガード処理を実行してガード後目標シーブ位置Xtgを設定する。具体的には、ガード後目標シーブ位置設定手段170は、目標シーブ位置変化量ΔXtを算出する目標シーブ位置変化量算出手段172と、上記ガード値ΔXgを用いてシーブ位置変化量ガード処理を実行してガード処理後の目標シーブ位置変化量(以下、ガード後目標シーブ位置変化量という)ΔXtgを算出する目標シーブ位置ガード処理手段174とを備え、そのガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgに基づいてガード後目標シーブ位置Xtgを設定する。
【0069】
例えば、前記目標シーブ位置変化量算出手段172は、次式(8)に従って目標シーブ位置変化量ΔXtを算出する。
ΔXt=Xt(i)−Xtg(i−1) ・・・(8)
【0070】
尚、Xt(i)は繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目の基本目標シーブ位置Xtであり、Xtg(i−1)は(i−1)回目のガード後目標シーブ位置Xtgである。また、初回の制御作動時には、このXtg(i−1)は算出されていないので零とされ、目標シーブ位置変化量ΔXtはXt(i)とされる。
【0071】
また、前記目標シーブ位置ガード処理手段174は、前記目標シーブ位置変化量算出手段172により算出された目標シーブ位置変化量ΔXtの絶対値が前記ガード値算出手段168により算出されたガード値ΔXgの絶対値より大きいか否かを判断し、目標シーブ位置変化量ΔXtの絶対値がガード値ΔXgの絶対値より大きいときにはガード値ΔXgをガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgとする一方で、目標シーブ位置変化量ΔXtの絶対値がガード値ΔXgの絶対値以下であるときには目標シーブ位置変化量ΔXtをガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgとする。
【0072】
また、ガード後目標シーブ位置設定手段170は、次式(9)に従ってガード後目標シーブ位置Xtgを算出する。
Xtg=Xtg(i−1)+ΔXtg(i) ・・・(9)
【0073】
尚、ΔXtg(i)は繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目のガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgである。また、初回の制御作動時には、このXtg(i−1)は零とされてガード後目標シーブ位置XtgはΔXtg(i)とされる。
【0074】
出力流量算出手段176は、フィードフォワード制御の実行に必要なフィードフォワード制御量としてのフィードフォワード流量QFFとフィードバック制御の実行に必要なフィードバック制御量としてのフィードバック流量QFBとをそれぞれ算出して、無段変速機18の変速に必要な変速制御量としての変速流量QFFFB(=QFF+QFB)を算出する。
【0075】
例えば、出力流量算出手段176は、次式(10)に従ってフィードフォワード流量QFFを算出し、次式(11)に従ってフィードバック流量QFBを算出して、変速流量QFFFBを算出する。
FF=(Xtg(i)−Xtg(i−1))×SIN ・・・(10)
FB=C×(Xtg(i)−X(i))+C×∫d(Xtg(i)−X(i))dt ・・・(11)
【0076】
尚、Xtg(i)は繰り返し実行される制御作動(図9参照)におけるi回目のガード後目標シーブ位置Xtgであり、X(i)はi回目の実際のシーブ位置Xであり、Cはフィードバックゲインである。上記実際のシーブ位置Xは例えば前記シーブ位置マップから実際の変速比γに基づいて算出される。
【0077】
変速制御手段178は、前記出力流量算出手段176により算出された変速流量QFFFBが得られる為の変速制御指令信号Sを油圧制御回路100へ出力して無段変速機18の変速を実行する。例えば、変速制御手段178は、図7に示すような流量Qをパラメータとして推定バルブ差圧ΔPと変速制御指令信号SとしてのDuty値との予め定められて記憶された関係(逆変換流量マップ)から上記変速流量QFFFBおよび前記推定差圧算出手段156により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいてDuty値を設定し、そのDuty値(油圧指令)を油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。
【0078】
ベルト挟圧力設定手段180は、例えば図8に示すような伝達トルクに対応するアクセル開度Accをパラメータとして変速比γとベルト挟圧力Pdとのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から実際の変速比γおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいてベルト挟圧力Pdを設定する。つまり、ベルト挟圧力設定手段180は、ベルト挟圧力Pdが得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを設定する。
【0079】
ベルト挟圧力制御手段182は、前記ベルト挟圧力設定手段180により設定されたベルト挟圧力Pdが得られる為の出力側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdに調圧する挟圧力制御指令信号Sを油圧制御回路100へ出力してベルト挟圧力Pdすなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を増減させる。
【0080】
油圧制御回路100は、上記変速制御指令信号Sに従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1およびソレノイド弁DS2を作動させて入力側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号Sに従ってベルト挟圧力Pdが増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを調圧する。
【0081】
エンジン出力制御手段184は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号S、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ76や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段184は、アクセル開度Accに応じたスロットル開度θTHとなるように電子スロットル弁30を開閉するスロットル信号をスロットルアクチュエータ76へ出力してエンジントルクTを制御する。
【0082】
図9は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち目標シーブ位置Xtを適切に設定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図10は、図9のフローチャート中において作動する目標シーブ位置変化量ΔXtのガード値ΔXgを算出する為の制御作動を説明するガード値算出サブルーチンである。
【0083】
図9において、先ず、前記基本目標シーブ位置設定手段150に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、例えば図5に示すような予め記憶された変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて目標入力軸回転速度NINが設定され、その目標入力軸回転速度NINに基づいて目標変速比γ(=NIN/NOUT)が算出され、変速比γとシーブ位置Xとの予め定められて記憶されたシーブ位置マップから上記目標変速比γに基づいて基本目標シーブ位置Xtが設定される。
【0084】
次いで、前記目標シーブ位置変化量算出手段172に対応するS2において、 ΔXt=Xt(i)−Xtg(i−1) に従って目標シーブ位置変化量ΔXtが算出される。
【0085】
次いで、図10に示すガード値算出サブルーチンに対応するS3において、目標シーブ位置変化量ΔXtのガード値ΔXgが算出される。
【0086】
より具体的には、図10において、先ず、前記推定Pin算出手段158に対応するSS1において、 推定Pin圧=(WIN−kIN×NIN)/SIN に従って推定Pin圧が算出される。
【0087】
次いで、前記推定P算出手段160に対応するSS2において、予め記憶されたライン油圧マップから実際のエンジン回転速度Nに基づいて現在出力可能な推定ライン油圧が算出される。
【0088】
次いで、前記ΔP演算手段162に対応するSS3において、前記SS1にて算出された推定Pin圧と前記SS2にて算出された推定ライン油圧とに基づいて推定バルブ差圧ΔPの演算値が算出される。
【0089】
次いで、前記下限ガード処理手段164に対応するSS4において、前記SS3にて算出された推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pminより小さいか否かが判断される。
【0090】
前記SS4の判断が肯定される場合は前記下限ガード処理手段164および前記推定差圧算出手段156に対応するSS5において、差圧下限値Pminが推定バルブ差圧ΔPとされ、この下限ガード処理された後の推定バルブ差圧ΔPが最終的な推定バルブ差圧ΔPとして算出される。
【0091】
前記SS4の判断が否定される場合は前記下限ガード処理手段164および前記推定差圧算出手段156に対応するSS6において、前記SS3にて算出された推定バルブ差圧ΔPの演算値がそのまま推定バルブ差圧ΔPとされ、この演算値が最終的な推定バルブ差圧ΔPとして算出される。
【0092】
前記SS5或いはSS6に続いて前記最大流量算出手段166に対応するSS7において、後述するSS8における最大流量Qmaxの算出に用いられる変速制御指令信号Sの所定値として固定値である基準Duty値が設定される。
【0093】
次いで、前記最大流量算出手段166に対応するSS8において、例えば図6に示すような予め記憶された流量マップから前記SS7にて設定された基準Duty値および前記SS5或いはSS6にて算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいて最大流量Qmaxが算出される。
【0094】
次いで、前記ガード値算出手段168に対応するSS9において、前記SS8にて算出された最大流量Qmaxに基づいてガード値ΔXg(=Qmax/SIN)が算出される。
【0095】
図9に戻り、前記S3に続いて前記目標シーブ位置ガード処理手段174に対応するS4において、前記S2にて算出された目標シーブ位置変化量ΔXtの絶対値が前記S3にて算出されたガード値ΔXgの絶対値より大きいか否かが判断される。
【0096】
前記S4の判断が肯定される場合は前記目標シーブ位置ガード処理手段174に対応するS5において、前記S3にて算出されたガード値ΔXgがガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgとされる。
【0097】
前記S4の判断が否定される場合は前記目標シーブ位置ガード処理手段174に対応するS6において、前記S2にて算出された目標シーブ位置変化量ΔXtがガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgとされる。
【0098】
前記S5或いはS6に続いて前記ガード後目標シーブ位置設定手段170に対応するS7において、 Xtg=Xtg(i−1)+ΔXtg(i) に従ってガード後目標シーブ位置Xtgが算出される。
【0099】
上述のように、本実施例によれば、推定差圧算出手段156により算出された推定バルブ差圧ΔPに基づいて変速制御指令信号Sを所定値としたときにおける入力側油圧シリンダ42cに流入出可能な最大流量Qmaxが最大流量算出手段166により算出され、その最大流量Qmaxに基づいてガード値ΔXgがガード値算出手段168により算出され、ガード後目標シーブ位置設定手段170によりガード値ΔXgを用いてシーブ位置変化量ガード処理が実行されてガード後目標シーブ位置Xtgが設定されるので、無段変速機18の変速に際してガード後目標シーブ位置Xtgの変化が過度に大きくされず且つ過剰に小さくされないことから、ガード後目標シーブ位置変化量ΔXtgに基づくフィードフォワード制御量が適切な値となるように変速のための目標値が設定される。
【0100】
また、本実施例によれば、前記所定値として、最大流量算出手段166により変速制御指令信号SとしてのDuty値の最大値よりも所定幅小さな固定値である基準Duty値が用いられるので、フィードフォワード制御に必要なフィードフォワード流量QFFが制限され且つフィードバック制御に必要なフィードバック流量QFBが確保されて、フィードバック制御分の制御応答が維持される。
【0101】
また、本実施例によれば、推定差圧算出手段156により、推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pmin以上であるときにはその演算値がそのまま推定バルブ差圧ΔPとして算出される一方で、推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pminよりも小さいときにはその差圧下限値Pminが推定バルブ差圧ΔPとして算出されるので、推定バルブ差圧ΔPの演算値が差圧下限値Pminよりも小さいような極めて小さな値に誤って推定されたとしても、推定バルブ差圧ΔPに基づいて算出される最大流量Qmaxが小さくなり過ぎるのが防止される。これにより、ガード値ΔXgが小さくなり過ぎるのが防止されてガード後目標シーブ位置Xtgの変化が過剰に小さくされない。
【0102】
また、本実施例によれば、推定バルブ差圧ΔPの算出の際には現在出力可能な最大ライン油圧の推定値(推定ライン油圧)が用いられるので、入力側油圧シリンダ42cに流入出可能な最大流量Qmaxが適切に算出され、また流量Qが安定的に出力され得る。
【0103】
また、本実施例によれば、無段変速機18はベルト式無段変速機であり、入力側油圧シリンダ42cおよび出力側油圧シリンダ46cはそれぞれ入力側可動シーブ42bおよび出力側可動シーブ46bを駆動するものであり、入力側可動シーブ42bのシーブ位置Xに対して目標値(ガード後目標シーブ位置Xtg)が設定されるので、無段変速機18の変速が適切に実行される。
【0104】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0105】
例えば、前述の実施例では、無段変速機としてベルト式無段変速機を用いたが、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーン部材とその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーン部材の間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が連続的に変化させられる形式のトロイダル型無段変速機を用いても、本発明は適用され得る。
【0106】
また、前述の実施例では、目標シーブ位置Xtが無段変速機18を変速制御するための目標値として設定されたが、目標シーブ位置Xtと一対一に対応する目標変速比γや出力軸回転速度NOUT(車速V)を考慮した目標入力軸回転速度NIN等が目標値として設定されても良い。
【0107】
また、前述の実施例では、目標シーブ位置Xtを目標値としてフィードバック制御およびフィードフォワード制御が実行されたが、フィードバック制御とフィードフォワード制御とは必ずしも同一の目標値を用いて実行する必要はなく、それぞれ別に設定された相互に関連する目標値を用いて実行するようにしても良い。例えば、目標シーブ位置Xtを目標値として目標シーブ位置変化量ΔXtに基づいてフィードフォワード制御を実行し、目標シーブ位置Xtと一対一に対応する目標入力軸回転速度NINを目標値としてその目標入力軸回転速度NINと実際の入力軸回転速度NINとの偏差に基づいてフィードバック制御を実行しても良い。
【0108】
また、前述の実施例では、推定Pin算出手段158による推定Pin圧の算出に際して、ベルト挟圧Pdとして、油圧センサ130により検出されるベルト挟圧Pdを用いたが、ベルト挟圧力設定手段180により設定されたベルト挟圧Pdを用いてもよい。なお、ベルト挟圧Pdとして、油圧センサ130により検出されるベルト挟圧Pdを用いない場合には、この油圧センサ130は必ずしも備えられなくとも良い。
【0109】
また、前述の実施例では、最大流量算出手段166は最大流量Qmaxを算出する際に所定値として固定値である基準Duty値を用いたが、必ずしも固定値を用いなくとも良い。例えば、変速初期のようにガード後目標シーブ位置Xtgと実際のシーブ位置Xとの偏差(=Xtg−X)が大きい場合にはフィードバック流量QFBをより多く確保する為に比較的小さなDuty値を設定し、変速が進行してその偏差が小さくなる程Duty値の最大値に向かって大きくなるDuty値を設定するようにしても良い。
【0110】
また、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標入力軸回転速度NINなどは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度Nやそれに関連する目標エンジン回転速度Nなど、或いはタービン回転速度Nやそれに関連する目標タービン回転速度Nなどであっても良い。
【0111】
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
【0112】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】油圧制御回路のうち無段変速機のベルト挟圧力制御、変速比制御、およびシフトレバーの操作に伴う前進用クラッチ或いは後進用ブレーキの係合油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】図2の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】無段変速機の変速制御において目標入力回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図6】推定バルブ差圧に基づいて入力側油圧シリンダに流入出可能な最大流量を算出する際に用いられる流量マップの一例を示す図である。
【図7】変速流量に基づいて変速制御弁を駆動するためのDuty値を設定する際に用いられる逆変換流量マップの一例を示す図である。
【図8】無段変速機の挟圧力制御において変速比等に応じてベルト挟圧力を求めるベルト挟圧力マップの一例を示す図である。
【図9】図2の電子制御装置の制御作動の要部すなわち目標シーブ位置を適切に設定する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図10】図9のフローチャート中において作動する目標シーブ位置変化量のガード値を算出する為の制御作動を説明するガード値算出サブルーチンである。
【符号の説明】
【0114】
18:無段変速機
42:入力側可変プーリ(プライマリプーリ)
42a:入力側固定シーブ(固定シーブ)
42b:入力側可動シーブ(可動シーブ)
42c:入力側油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
46:出力側可変プーリ(セカンダリプーリ)
46a:出力側固定シーブ(固定シーブ)
46b:出力側可動シーブ(可動シーブ)
48:伝動ベルト(ベルト)
50:電子制御装置(変速制御装置)
114:変速比コントロールバルブUP(変速制御弁)
116:変速比コントロールバルブDN(変速制御弁)
156:推定差圧算出手段
166:最大流量算出手段
168:ガード値算出手段
170:ガード後目標シーブ位置設定手段(目標値設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速比を連続的に変化させるために作動油の流入出によって駆動される油圧アクチュエータを有する無段変速機が配設された車両において、前記油圧アクチュエータに流入出する作動油量を調整する変速制御弁を駆動制御するための駆動指令値を、前記無段変速機を変速制御するための目標値の変化量に基づくフィードフォワード制御量に基づいて求める無段変速機の変速制御装置であって、
前記変速制御弁の上流側油圧と下流側油圧との差圧の推定値を算出する推定差圧算出手段と、
前記差圧の推定値に基づいて前記駆動指令値を所定値としたときにおける前記油圧アクチュエータに流入出可能な最大流量を算出する最大流量算出手段と、
前記最大流量に基づいて前記目標値の変化量のガード値を算出するガード値算出手段と、
前記ガード値を用いて前記目標値の変化量を抑制するガード処理を実行して該目標値を設定する目標値設定手段と
を、含むことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記最大流量算出手段は、前記所定値として、前記駆動指令値の最大値よりも所定幅小さな値を用いるものである請求項1の無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記推定差圧算出手段は、前記変速制御弁の上流側油圧と下流側油圧とに基づく前記差圧の演算値が所定の下限値以上であるときには該演算値を差圧の推定値として算出する一方で、該演算値が所定の下限値よりも小さいときには該下限値を差圧の推定値として算出するものである請求項1または2の無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記変速制御弁の上流側油圧はライン油圧であり、
前記変速制御弁の下流側油圧は前記油圧アクチュエータに作用する油圧であり、
前記推定差圧算出手段は、最大出力可能なライン油圧に基づいて該ライン油圧と前記油圧アクチュエータに作用する油圧との最大差圧の推定値を算出するものである請求項1乃至3のいずれかの無段変速機の変速制御装置。
【請求項5】
前記無段変速機は、固定シーブおよび可動シーブを備えた有効径が可変のプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、該両プーリに巻き掛けられたベルトとを有するベルト式無段変速機であり、
前記油圧アクチュエータは、前記プライマリプーリの可動シーブを駆動するものであり、
前記可動シーブの位置が前記目標値として設定されるものである請求項1乃至4のいずれかの無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−38917(P2008−38917A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201217(P2006−201217)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】