説明

無線タグ通信装置

【課題】操作者が無線タグ通信装置を把持して広範囲に移動するような場合であっても、その移動距離に応じて効果的に無線タグと無線通信を行なうことができる無線タグ通信装置を提供する。
【解決手段】無線タグと通信を行うための信号を送受信可能なアンテナを備える無線タグ通信装置であって、前記無線タグ通信装置の移動開始の基準点を設定する基準点設定手段と、前記無線タグ通信装置の現在の位置座標を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段により検出された位置座標と前記基準点との位置座標の差分により、前記無線タグ通信装置が移動した移動距離を検出する移動距離検出手段と、前記移動距離検出手段により検出した前記移動距離が所定の移動距離を越えているか否かを判断する移動距離判断手段と、前記移動距離判断手段による判断結果に応じて、前記アンテナについて、通信指向性を変える制御を行う指向性制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグに対しアンテナを介して無線通信を行う無線タグ通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC回路部とこのIC回路部に接続されて情報の送受信を行うタグアンテナを備えた無線タグ回路部を有する無線タグと、無線タグ通信装置との間で非接触で情報の読み取りや書き込みを行うRadio Frequency Identification(以下、RFIDとする)システムが知られている。
【0003】
このRFIDシステムは様々な分野において実用化されており、販売・流通等の業種においては、製品の在庫を確かめるために定期的に行われる物品の棚卸作業などの物品管理に用いられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1において、操作者が携帯型の無線タグ情報読み取り装置を用いて無線タグの読取作業を行う場合に、同一の無線タグに対して繰り返して通信を行うのを防ぐために、無線タグ情報読み取り装置を振って往復動させるときの折り返し動作を検出して、その検出結果に基づいて、指向性や偏波面方向などを制御して通信を行っている。これにより、複数の無線タグと効率よく情報の送受信を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−53917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような棚卸作業を行う場合、工場や倉庫など複数の棚が設けられて、広範囲に渡って操作者が棚卸作業を行うことがある。このような場合、操作者の移動範囲が広くなると、どこを基点にして読取作業を行なったかわからず、読み取り漏れが生じることがあった。
【0007】
本発明は、例えば、棚卸作業などのために操作者が無線タグ通信装置を把持して広範囲に移動するような場合であっても、移動開始の基準点からの移動距離に応じて効果的に無線タグと無線通信を行なうことができる無線タグ通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1発明の無線タグ通信装置は、無線タグと通信を行うための信号を送受信可能なアンテナを備える無線タグ通信装置であって、前記無線タグ通信装置の移動開始の基準点を設定する基準点設定手段と、前記無線タグ通信装置の現在の位置を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段により検出された位置と前記基準点との差分により、前記無線タグ通信装置が移動した移動距離を検出する移動距離検出手段と、前記移動距離検出手段により検出した前記移動距離が所定の移動距離を越えているか否かを判断する移動距離判断手段と、前記移動距離判断手段による判断結果に応じて、前記アンテナについて、通信指向性を変える制御を行う指向性制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
第2発明の無線タグ通信装置は、上記第1発明の構成に加えて、前記移動距離判断手段により、前記移動距離が所定の移動距離を越えていると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも広い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする。
【0010】
第3発明の無線タグ通信装置は、上記第1発明に加えて、前記無線タグ通信装置の現在の位置までの所定の区間における移動速度を検出する移動速度検出手段と、前記移動速度検出手段により検出された前記移動速度が所定の移動速度以下であるか否かを判断する移動速度判断手段を備え、前記移動距離判断手段により、前記移動距離が所定の移動距離以下であると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記移動速度判断手段の判断結果に応じて、前記アンテナについて、通信指向性を変える制御を行うことを特徴とする。
【0011】
第4発明の無線タグ通信装置は、上記第3発明に加えて、前記移動速度判断手段により、前記移動速度が所定の移動速度以下であると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも狭い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする。
【0012】
第5発明の無線タグ通信装置は、上記第3発明に加えて、前記無線タグ通信装置が無線タグと通信を行うための信号を送受信していることを示す操作情報を取得する操作情報取得手段と、前記操作情報取得手段により、前記操作情報が取得されたか否かを判断する操作情報判断手段とを備え、前記移動速度判断手段により、前記移動速度が所定の移動速度を越えていると判断された場合であって、かつ、前記操作情報判断手段により、前記操作情報が取得されたと判断された場合には、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも狭い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする。
【0013】
第6発明の無線タグ通信装置は、上記第2発明に加えて、前記指向性制御手段により、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも広い通信指向性に変える制御を行った場合に、前記基準点設定手段は、前記基準点の再設定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の無線タグ通信装置によれば、例えば、操作者が無線タグ通信装置を把持して移動するような場合に、移動開始の基準点から現在の無線タグ通信装置の移動距離が所定の移動距離を越えているか否かに応じて、アンテナの通信指向性を変える制御を行なう。そのため、無線タグ通信装置が移動した場合に、移動開始の基準点からの移動距離に応じて、無線タグと効率よく信号の送受信を行なうことができる。
【0015】
請求項2に係る発明の無線タグ通信装置によれば、請求項1に記載の効果に加え、移動開始の基準点から現在位置の無線タグ通信装置の移動距離が所定の移動距離を越えている場合には、アンテナの通信指向性を広くする制御を行なう。そのため、読取漏れを軽減して効率よく無線タグと信号の送受信を行なうことができる。
【0016】
請求項3に係る発明の無線タグ通信装置によれば、請求項1に記載の効果に加え、移動開始の基準点から現在位置の無線タグ通信装置の移動距離が所定の移動距離以下であるときに、現在の位置座標までの所定の区間における無線タグ通信装置の移動速度が所定の移動速度以下であるか否かに応じて、アンテナの通信指向性を変える制御を行う。これにより、無線タグ通信装置の移動状態に応じて、効果的に無線タグとの信号の送受信を行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明の無線タグ通信装置によれば、請求項3に記載の効果に加え、移動開始の基準点から現在位置の無線タグ通信装置の移動距離が所定の移動距離以下であるときに、現在の位置座標までの所定の区間において、無線タグ通信装置の移動速度が所定の移動速度以下である場合には、アンテナの通信指向性を狭くする制御を行う。このような無線タグ通信装置の移動の場合には、無線タグ通信装置がほとんど移動していないか、比較的狭い範囲での移動が想定される。そのため、アンテナの正面方向の感度を上げて、読み取り対象となる無線タグと効率よく信号の送受信を行うことができる。
【0018】
請求項5に係る発明の無線タグ通信装置によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、移動開始の基準点から現在位置の無線タグ通信装置の移動距離が所定の移動距離以下であるときに、現在の位置座標までの所定の区間において、無線タグ通信装置の移動速度が所定の移動速度を越えている場合であって、無線タグと信号の送受信を行っていることを示す操作情報を取得した際には、アンテナの通信指向性を狭くする。このような無線タグ通信装置の移動の場合には、無線タグ通信装置が読み取り動作を行いながら移動していることが想定される。そのため、アンテナの正面方向の感度を上げて、読み取り対象となる無線タグと効率よく信号の送受信を行うことができる。
【0019】
請求項6に係る発明の無線タグ通信装置によれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、アンテナの通信指向性を広くする制御を行った場合に、移動開始の基準点の再設定が行われる。そのため、その地点からの移動距離に応じてアンテナの通信指向性を制御できるので、無線タグと効果的に信号の送受信を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の無線タグ通信装置を用いて物品管理を行う例を表す概念図である。
【図2】無線タグ通信装置の構成を表す機能ブロック図である。
【図3】フラッシュROMに記憶される後方素子に対する前方素子への給電の位相遅延量の一例を示す表である。
【図4】本実施形態のアンテナの後方素子に対する前方素子への給電の位相遅延量と正面利得と電力半値幅の関係を示す表である。
【図5】フラッシュROMに記憶される記憶内容の一例を示す表である。
【図6】無線タグ通信装置の所定時間ごとの位置座標と基準点からの移動距離、所定区間の移動速度とアンテナの通信指向性の制御の関係の一例を示す表である。
【図7】無線タグ通信装置のCPUによって実行される制御手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1において、本実施形態の無線タグ通信装置100を用いて操作者Mが物品管理を行う例を説明する。複数の収納棚Sには書籍Bが収納されており、前記各書籍Bの背表紙にはその書籍Bを識別するための無線タグ200が貼り付けられている。
【0022】
収納棚Sの棚卸であれば、操作者Mが無線タグ通信装置100を把持して移動しながら、全ての収納棚Sにある書籍Bの無線タグ100に対して情報の送受信を行なうことにより行われる。なお、収納棚Sは適宜省略して図示しており、他にも多数の収納棚Sがあるものとする。以下、各構成について、順を追って説明する。
【0023】
図1及び図2を用いて、前記無線タグ通信装置100の構成を説明する。無線タグ通信装置100はアンテナ150を介して、無線タグ200との間で信号の送受信を行うものである。前記無線タグ通信装置100は、本体部110とアンテナ150を備えている。無線タグ通信装置100は、RAM112、フラッシュROM113、表示部114、CPU115、RFIDチップセット116、送受信分離部117、加速度センサ118、入力部119を備えている。これらは、電気的にバスで接続されている。
【0024】
また、前記アンテナ150は、本体部110に接続されて上記無線通信のための送受信アンテナとして機能するものであり、本実施形態では、いわゆるアレイダイポールアンテナである。
【0025】
加速度センサ118は、公知のもので足りるので詳細な説明は省略するが、本実施例では2軸型とし、無線タグ通信装置100の本体部110の幅方向(図1のx軸方向)、長手方向(図1のy軸方向)にそれぞれ対応する方向の移動加速度を個別に検出するものである。なお、さらに図1のz軸方向の移動加速度を検出したり、上記加速度センサ118に代えて、速度センサを用いるようにしてもよい。前記無線タグ通信装置100の移動の際には、本実施形態では、移動開始から所定時間ごとに、加速度センサ118からx軸、y軸方向に対応する符号付の加速度検出値が公知の手法により積算される。これにより、無線タグ通信装置100の位置座標と、移動速度が算出される。
【0026】
CPU115は、中央演算処理装置であって、前記無線タグ通信装置100による前記無線タグ200との間の通信制御をはじめとする各種制御を実行する。また、無線タグ通信装置100は、記憶手段としてのフラッシュROM113、及び随時書込読出メモリであるRAM112を有している。CPU115は前記RAM112の一時記憶機能を利用するのと並行して、前記フラッシュROM113にあらかじめ記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより無線タグ通信装置100全体の制御を行なう。
【0027】
また、CPU115は、RFIDチップセット116を介して無線タグ200へ向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応じて、無線タグ200から返信される返信信号を復調する等、前記無線タグ通信装置100による前記無線タグ200との間の通信制御を行う。
【0028】
また、上記CPU115は、後述する位相器152の制御、すなわち、分配器151より供給された送信信号を位相器152を介して前方素子156へ給電するときの位相遅延量を制御する。後方素子155に対する前方素子156の位相遅延量の制御により、アンテナ150の通信指向性を制御する。詳しい制御方法については、後述する。
【0029】
RFIDチップセット116は、CPU115からの指令に応じて前記送信信号を出力したり、前記無線タグ200からの返信信号を復調する等の信号処理を実行する。
【0030】
送受信分離部117は、RFIDチップセット116から出力される送信信号を分配器151に供給すると共に、分配器151を介して入力される受信信号を上記RFIDチップセット116へ供給する。なお、上記送受信分離部117としては、方向性結合器やサーキュレータ等が好適に用いられる。
【0031】
入力部119は、操作者からの指示や情報が入力されるテンキー、トリガスイッチなどである。操作者Mは入力部119を操作することで、無線タグ通信装置100の読取動作を開始する。そのため、後述のように、入力部119からの所定の操作情報を取得したか否かにより、CPU115は、無線タグ通信装置100が無線タグ200と信号の送受信を行なっているか否かを判断する。表示部114は例えば液晶ディスプレイなどからなり、各種情報やメッセージを表示する。
【0032】
分配器151は、前記RFIDチップセット116から供給された送信信号を、後方素子155及び位相器152を介して前方素子156へ供給する。このとき、後方素子155から前方素子156に向かって高周波信号である送信信号を送信する。また、本実施形態では、前方素子156の長さLaは約2分の1波長であり、前方素子156と後方素子155の間を約16分の1波長の距離で接続させている。前記後方素子155の長さLbは、前記前方素子156の長さよりも図2の左右方向へ数%ほど長く形成されている。
【0033】
次に、図3を用いて、本実施形態のアンテナ150の通信指向性の制御について説明する。図3のテーブルは、アンテナ150の通信指向性を制御する場合に、通信指向性の程度と前方素子156と後方素子155の給電の位相遅延量が関連付けて記憶されている。本実施形態では、アンテナの通信指向性について「広い」、「中程度」、「狭い」の3段階の制御ができるようになっている。
【0034】
なお、アンテナ150の通信指向性は、前方素子156と後方素子155の位相遅延量が小さいほど通信指向性が広くなり、位相遅延量が大きくなると通信指向性が狭くなる。
【0035】
図3では、前方素子156と後方素子155の給電の位相遅延量が5degのときの通信指向性よりも、位相遅延量が90degのときの方が通信指向性が広くなる。また、位相遅延量が90degのときよりも位相遅延量が180degの方が通信指向性が広くなる。
【0036】
図4において、上記アンテナ150の後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量(deg)と正面利得(dBi)と電力半値幅(deg)の関係を説明する。なお、この数値は一例であり、絶対的な値を示すものではない。
【0037】
後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量が大きくなるほど、アンテナ150の正面利得が大きくなり、電力半値幅は狭くなっている。これは、後方素子155に対する前方素子156への給電位相遅延量が大きくなるほど、アンテナ150の通信指向性の幅は狭く、鋭くなり、特定の方向へ強く電波を放射することを示している。
【0038】
一方、後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量が小さくなるほど、アンテナ150の正面利得が小さくなり、電力半値幅は広くなっている。これは、後方素子155に対する前方素子156への給電位相遅延量が小さくなるほど、アンテナ150の通信指向性の幅が広くなり、電波の放射方向は広くなるが、電波の放射の度合いは比較的弱くなることを示している。
【0039】
次に、図5を用いて、無線タグ通信装置100のフラッシュROM113に記憶される記憶内容の一例を説明する。フラッシュROM113には、所定の移動距離と所定の移動速度が記憶されている。本実施形態では、図5のように、所定の移動距離として「5m」、所定の移動速度として「0.5m/s」が関連付けて記憶されている。
【0040】
この所定の移動距離は、例えば、無線タグ通信装置100の通信可能な範囲を考慮して定められる。これにより、移動開始の基準点から所定の移動距離を越えて移動した場合には、最初に通信を行っているかどうかにかかわらず、あらたに通信範囲に含まれるようになった無線タグが存在している可能性が高いことが想定されるため、なるべく効率よく無線タグとの通信を行い、読取漏れをなくすために、通信指向性の範囲を広くして読取を行う。
【0041】
また、所定の移動速度は、例えば、操作者が無線タグ通信装置100を把持して移動する際に想定される速度が設定される。現在の位置座標までの所定の区間における移動速度が、所定の移動速度以下である場合には、無線タグ通信装置を把持した操作者は、静止しているか、移動距離が比較的狭い範囲で留まっているようなときである。このような場合には、効果的に無線タグ200と通信を行うために、アンテナの通信指向性を狭くしてアンテナの正面方向の感度を上げる。
【0042】
ここで、所定の区間としては、本実施形態では後述のように現在の位置までの直前の0.5秒間の時間間隔を所定の区間とするが、その他に基準点から現在の位置までの移動距離を所定区間としてもよい。
【0043】
このように、無線タグ通信装置100が移動していないか、移動していても比較的狭い範囲である場合に、本実施形態ではアンテナの通信指向性を「狭い」に制御する。無線タグ通信装置100が移動していないか、移動していても比較的狭い範囲であるか否かの判断については、無線タグ通信装置100の現在位置までの所定区間における移動速度が所定の速度以下であるか否かによって判断する。
【0044】
加えて、現在の位置までの所定の区間における移動速度が、所定の移動速度を越えていて、無線タグ200と無線通信を行うための操作情報を取得した場合には、無線タグ通信装置100を把持した操作者が、移動しながら、無線タグの読み取り作業を行っていることが想定される。この場合、無線タグ通信装置100の移動と共に通信範囲も移動しており(図1ではx軸方向)、必要以上に通信指向性を広げる必要はなく、アンテナの感度を上げるほうが好ましい。そのため、無線タグ通信装置100のアンテナの通信指向性を狭くする。本実施形態では、アンテナの通信指向性を「中程度」に制御する。
【0045】
なお、無線タグ通信装置100が読取動作を行っているか否かの判断については、後述のように、無線タグ200と信号を送受信するための操作情報を取得したか否かによって判断する。
【0046】
続いて、図6を用いて、無線タグ通信装置の所定時間ごとの位置座標と基準点からの移動距離、所定区間の移動速度とアンテナの通信指向性の制御の関係について説明する。
【0047】
まず、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点から、所定時間毎に加速度を検出し、公知の手法により算出された所定時間毎の前記無線タグ通信装置100の位置座標と移動距離、各座標間における移動速度がフラッシュROM113に記憶される。
【0048】
本実施形態では、無線タグ通信装置100の加速度を0.5秒ごとに検出して、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点からの移動距離(m)と、現在位置の直前の0.5秒間の移動速度(m/s)を算出する。前記基準点は、本実施形態では無線タグ通信装置100の電源がONされて、アプリケーションが起動したときに自動的に設定される。
【0049】
ここで、移動開始の基準点の再設定については、後述のように、アンテナ150の通信指向性について、現在の通信指向性よりも広くする制御を行った場合であって、無線タグ200と信号の送受信を行うための操作情報を取得したときに、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点を再設定してもよい。このようにすることで、再設定した基準点からの無線タグ通信装置100の移動距離に応じてアンテナ150の通信指向性を制御することができる。
【0050】
具体的に、図6を用いて、無線タグ通信装置100が移動開始の基準点から移動する場合のアンテナの通信指向性の制御の一例について説明する。ここでは、図1のように、操作者Mが無線タグ通信装置100を把持して、x軸の正方向に直線的に移動する場合を説明する。アンテナ150の通信指向性は初期設定として「広い」に設定されているものとする。
【0051】
移動開始の基準点となる座標(0,0)から、前記無線タグ通信装置100が移動を開始して、0.5秒後の無線タグ通信装置100の現在の位置座標が(0.6,0)とすると、基準点から0.5秒後の移動距離は0.6m、現在の位置から直前の0.5秒間の移動速度は1.2m/sとなる。
【0052】
同様に、0.5秒間隔で、無線タグ通信装置100の基準点からの移動距離と、現在位置の直前の0.5秒間の移動速度を算出する。移動開始から1.5秒後に、無線タグ通信装置100のアンテナ150を介して信号を送受信するための操作情報を取得したとする。このとき、移動速度は1.0m/sで、所定の移動速度0.5m/sを越えており、かつ、アンテナを介して信号を送受信するための操作情報を取得しているので、無線タグ通信装置100のアンテナ150の通信指向性を「中程度」に制御する。
【0053】
その後、無線タグ通信装置100が移動を開始してから4秒後まで、現在位置までの直前の0.5秒間の移動速度が0.5m/sを越えており、アンテナ150を介して信号を送受信するための操作情報を取得しているとして、アンテナの通信指向性は「中程度」で維持されている。
【0054】
次に、基準点から4.5秒後には、現在位置までの直前の0.5秒間の移動速度が0.4m/sとなり、所定の移動速度0.5m/s以下の値となるため、アンテナ150の通信指向性は「狭い」に制御される。5.5秒後まで継続的に、所定の移動速度である0.5m/s以下の移動速度であるので、アンテナ150の通信指向性は「狭い」が維持されている。
【0055】
そして、移動開始から6.0秒後には移動距離が5.3mになり、移動開始の基準点からの移動距離が所定の移動距離である5mを越えるので、アンテナ150の通信指向性が「広い」に制御される。
【0056】
次に、図7において、前記無線タグ通信装置100のCPU115が実行する処理を説明する。なお、前記無線タグ通信装置100の電源が投入されるとこのフローが開始され、電源がOFFになるまで所定の時間間隔で繰り返される。本実施形態では0.5秒間隔で繰り返される。
【0057】
ステップS110において、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点が設定される。本実施形態では電源がONされると自動的に基準点設定される。
【0058】
ステップS120は、加速度センサ118から現在の位置座標を検出して、無線タグ通信装置100の基準点からの移動距離を算出する。また、現在位置までの所定区間の無線タグ通信装置100の移動速度を算出する。本実施形態では、現在位置までの所定区間とは、現在位置の位置座標を検出した直前の0.5秒間である。
【0059】
ステップS130は、フラッシュROM113に記憶されている所定の移動距離の値を参照して、無線タグ通信装置100の移動距離が所定の移動距離を越えているか否かが判断される。本実施形態では、所定の移動距離は前述の通り5mである。無線タグ通信装置100の移動距離が所定の移動距離を越えている場合には、ステップS140へ進む。一方、無線タグ通信装置100の移動距離が所定の移動距離以下である場合には、ステップS150へ進む。
【0060】
ステップS140では、アンテナ150の通信指向性を広くする。具体的には、後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量を5degにする制御を行う。
【0061】
ステップS145では、アンテナ150を介して無線タグ200と信号の送受信を行うための操作情報を取得したか否かを判断する。無線タグと信号の送受信を行うための操作情報を取得した場合には、ステップS146へ進む。一方、無線タグと信号の送受信を行うための操作情報を取得していない場合には、ステップS120へ進む。
【0062】
ステップS146では、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点を再設定する。
【0063】
ステップS150では、フラッシュROM113に記憶された所定の移動速度を参照して、無線タグ通信装置100の移動速度が所定の移動速度以下であるか否かが判断される。本実施形態では、所定の移動速度は前述の通り0.5m/sである。無線タグ通信装置100の移動速度が所定の移動速度を越えている場合には、ステップS160へ進む。一方、無線タグ通信装置100の移動速度が所定の移動速度以下である場合には、ステップS180へ進む。
【0064】
ステップS160では、アンテナ150を介して無線タグ200と信号の送受信を行うための操作情報を取得したか否かを判断する。無線タグと信号の送受信を行うための操作情報を取得した場合には、ステップS170へ進む。一方、無線タグと信号の送受信を行うための操作情報を取得していない場合には、ステップS120へ進む。
【0065】
ステップS170では、アンテナ150の通信指向性を「中程度」にする。具体的には、後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量を90degにする制御を行う。
【0066】
ステップS180では、アンテナ150の通信指向性を「狭い」にする。具体的には、後方素子155に対する前方素子156への給電の位相遅延量を180degにする制御を行う。
【0067】
上述の実施形態において、無線タグ通信装置100の移動開始の基準点を設定するステップS110とステップS146の処理が請求項に記載の基準点設定手段に相当する。加速度センサ118から現在の位置座標を検出して、無線タグ通信装置100の基準点からの移動距離と、現在の位置座標までの所定の区間の移動速度を算出する処理が請求項に記載の位置検出手段と、移動距離検出手段に相当する。
【0068】
無線タグ通信装置100の移動距離が所定の移動距離を越えているか否かを判断するステップS130の処理が移動距離判断手段に相当する。アンテナ150の通信指向性を変える制御を行うステップS140、ステップS170、ステップS180の処理が指向性制御手段に相当する。
【0069】
また、無線タグ通信装置100の前記移動速度が所定の移動速度以下であるか否かを判断するステップS150の処理が特許請求の範囲に記載の移動速度判断手段に相当する。アンテナ150を介して無線タグ200と信号の送受信を行うための操作情報を取得したか否かを判断するステップS160の処理が請求項に記載の操作情報取得手段と操作情報判断手段に該当する。
【0070】
上述した実施形態では、アンテナの通信指向性を3段階に変更する場合を示したが、アンテナの通信指向性の幅をさらに細かく多段階の制御を行えるようにしてもいよい。なお、本実施形態で説明したアンテナの通信指向性が「広い」、「中程度」、「狭い」という関係は、相対的なものを示しており、例えば、アンテナの通信指向性を制御可能な最大値と最小値があってその中間の値をとるようにしてもよい。
【0071】
また、本実施形態では、無線タグ通信装置100が移動していないか、移動していても比較的狭い範囲である場合に、アンテナの通信指向性を「狭い」に制御し、無線タグ通信装置100が移動しながら無線タグ200と信号の送受信を行っているようなときは、アンテナの通信指向性を「中程度」に制御するが、これに限られない。
【0072】
上述のような2つの場合のアンテナ150の通信指向性の「中程度」、「狭い」という関係ではなく、同程度に制御したり、通信指向性の幅の相対的な関係を逆にしてもよい。
【0073】
また、本実施形態の無線タグ通信装置100の移動に関して、図1のx軸方向について一方向の移動を説明したが、逆方向の移動やy軸方向、z軸方向(図示せず)の移動であってもよい。例えば、移動方向は無線タグ通信装置100の本体部110の幅方向に対して、いずれの向きに移動しているかを区別できる符号や記号などを記憶する。移動する方向に対するそれぞれの移動距離と移動速度を算出し、所定の移動距離と所定の移動速度との関係を比較すればよい。
【0074】
加えて、本実施形態では、現在の位置座標までの所定の区間における移動速度として、0.5秒前の位置座標から現在の位置座標の移動速度を算出したが、この所定の区間として2秒、3秒など他の時間間隔を用いてもよい。
【0075】
その他、例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0076】
100 無線タグ通信装置
118 加速度センサ
150 アンテナ
155 後方素子
156 前方素子
200 無線タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線タグと通信を行うための信号を送受信可能なアンテナを備える無線タグ通信装置であって、
前記無線タグ通信装置の移動開始の基準点を設定する基準点設定手段と、
前記無線タグ通信装置の現在の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段により検出された位置と前記基準点との差分により、前記無線タグ通信装置が移動した移動距離を検出する移動距離検出手段と、
前記移動距離検出手段により検出した前記移動距離が所定の移動距離を越えているか否かを判断する移動距離判断手段と、
前記移動距離判断手段による判断結果に応じて、前記アンテナについて、通信指向性を変える制御を行う指向性制御手段とを有することを特徴とする無線タグ通信装置。
【請求項2】
前記移動距離判断手段により、前記移動距離が所定の移動距離を越えていると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも広い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の無線タグ通信装置。
【請求項3】
前記無線タグ通信装置の現在の位置までの所定の区間における移動速度を検出する移動速度検出手段と、
前記移動速度検出手段により検出された前記移動速度が所定の移動速度以下であるか否かを判断する移動速度判断手段を備え、
前記移動距離判断手段により、前記移動距離が所定の移動距離以下であると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記移動速度判断手段の判断結果に応じて、前記アンテナについて、通信指向性を変える制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の無線タグ通信装置。
【請求項4】
前記移動速度判断手段により、前記移動速度が所定の移動速度以下であると判断された場合に、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも狭い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の無線タグ通信装置。
【請求項5】
前記無線タグ通信装置が無線タグと通信を行うための信号を送受信していることを示す操作情報を取得する操作情報取得手段と、
前記操作情報取得手段により、前記操作情報が取得されたか否かを判断する操作情報判断手段とを備え、
前記移動速度判断手段により、前記移動速度が所定の移動速度を越えていると判断された場合であって、かつ、前記操作情報判断手段により、前記操作情報が取得されたと判断された場合には、前記指向性制御手段は、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも狭い通信指向性に変える制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の無線タグ通信装置。
【請求項6】
前記指向性制御手段により、前記アンテナについて、現在の通信指向性よりも広い通信指向性に変える制御を行った場合に、前記基準点設定手段は、前記基準点の再設定を行うことを特徴とする請求項2に記載の無線タグ通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−133943(P2011−133943A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290237(P2009−290237)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】