説明

無線ネットワークシステム

【課題】無線ネットワークシステムの広域展開と情報密度の細密化を両立するため、細粒度の位置基準設置作業を省力化し、広域でも高精度化が可能な測位システムを提供する。
【解決手段】広域で粗粒度の測位手段を有する無線ノード(シンク)と、狭域で細粒度の測位手段を有する無線ノード(ピアノード)と、両者を併有する無線ノード(ハブ)により階層無線ネットワークを構成し、位置基準であるシンクからハブへ、ハブからピアノードへ階層的に位置を推測し、細粒度の測位結果をフィードバックして補正することにより、広域でも細粒度の位置精度で測位を行なうことを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広域に亘って細粒度の無線ネットワークにおいて高精度に無線ノードの測位を行なうシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
公衆環境、公共施設、オフィス、物流、流通、輸送、娯楽施設、医療施設、防災、警備などの多様な分野において、ユビキタス情報社会に向けた無線アドホックネットワークや無線センサネットワークの検討が進んでおり、移動端末へのコンテクストアウェアサービスやセンサ情報監視サービス等の高度化、細密化に向けて位置情報の重要性が高まっている。
【0003】
無線ネットワークにおける測位技術には、(1)無線の受信信号強度(RSS: Received Signal Strength)、無線や超音波の到達時間(ToA: Time of Arrival)または到達時間差(TDoA: Time Difference of Arrival)を利用した距離測定による三辺測量、(2)無線の到来角度(AoA: Angle of Arrival)による三角測量、(3)予め作成した受信信号強度マップとの照合からの距離測定による位置同定、などが知られている。
【0004】
屋外向け測位システムとしてはTDoAによるGPS(Global Positioning System)が普及しており、屋内外双方に使える測位システムとしては無線LANをベースとしたTDoAによる三辺測量システムやRSSによるマップ照合システム、超音波のToAによる三辺測量システムが実用化されている。
【0005】
【非特許文献1】A. Savvides, C. C. Han, M. B. Srivastava, "Dynamic Fine-Grained Localization in Ad-Hoc Wireless Sensor Networks", in the proceedings of the International Conference on Mobile Computing and Networking (MobiCom) 2001, Rome, Italy, July 2001
【0006】
【非特許文献2】北須賀輝明、中西恒夫、福田晃、「無線通信網を用いた屋内向け測位方式」、情報処理学会コンピュータシステム・シンポジウム論文集2002、パシフィコ横浜、2002年11月
【非特許文献3】荻野敦、恒原克彦、渡辺晃司、藤嶋堅三郎、山崎良太、鈴木秀哉、加藤猛、「無線LAN統合アクセスシステム−位置検出方式の検討−」、情報処理学会マルチメディア、分散、協調とモバイル シンポジウム論文集(DICOMO2003)、2003年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GPSは屋内や衛星の見通しが取れない環境では使用できない。地理測量向け高性能GPSでは位置精度がcmオーダまで出ているが、移動端末やセンサノードでは消費電力、コスト、サイズ等を考慮する必要があり、GPSの性能が限られるため位置精度は1mから10mのオーダでしかない。
【0008】
無線LANベースの測位システムは、屋外しか使えないGPSに対して屋内外の100mオーダの広域で使える利点があり、さらに測位だけでなく広帯域高速な無線通信を行なえる利点がある。TDoAによる三辺測量では、無線伝搬速度(光速)と周波数帯域から決まる測距分解能を信号処理により向上させているが、実際には反射波や障害物の影響がTDoA誤差となるため、三辺測量精度は1mオーダに留まる。RSSマップ照合による位置同定では、詳細な事前学習により位置精度を向上することができるが、実際には移動やレイアウト変更など無線環境の変化により信号強度が変動するため、同定精度は1mオーダにしかならない。
【0009】
超音波による三辺測量システムは、アドホックネットワークやセンサネットワーク等の近距離、小電力の無線ノードに使われることが多い。音速と周波数により決まる測距分解能は周波数が高い方が向上するが、逆に伝搬減衰が増す。一般的に40kHz近傍の周波数が使われることが多く、位置精度は1cmから10cmオーダ、測量範囲は高々5mから10mである。このため、この測量範囲内に位置基準となる無線ノードを設けておく必要があり、設置作業コストを考えると無線LANに比べて広域、広範囲なエリアへの展開が困難である。
【0010】
以上をまとめると、グローバルに使えるGPSには屋内で使えず1mから10mオーダの位置精度しか得られない問題があり、無線LAN測位システムには高速且つ広域で無線通信と測位の双方を行なえるが1mオーダの位置精度しか得られない問題があり、超音波測位システムには1cmから10cmオーダの位置精度を得られるが測位範囲が狭く広域化しにくい問題があった。
【0011】
本発明の課題は、コンテクストアウェアサービスやセンサ情報監視サービスをきめ細かく且つ屋内外問わず広域に展開するため、アドホックネットワークやセンサネットワーク等の近距離無線ネットワークの情報密度を活かしつつ、煩雑な位置基準設置作業を伴わずに広域化が可能な測位システムを提供することである。さらに、超音波に代表されるような狭域であるが高精度である測位システムと、無線LANに代表されるような広域であるが低精度である測位システムとの互いの長所を活かし、広域でも高精度な測位システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、広域で粗粒度の無線通信手段と測位手段(例えば無線LAN)を有する無線ノードと、狭域で細粒度の無線通信手段と測位手段(例えば近距離無線と超音波)を有する無線ノードにより、広域且つ細粒度の階層無線ネットワークシステムを構成する。
【0013】
位置基準である広域無線ノード(シンクノード)から広域測位手段により残る広域無線ノードの位置を推測し、広域無線ノードの全てまたは一部(ハブノード)に細粒度の無線通信手段と測位手段を併有させ、このハブノードを仮想位置基準として細粒度の測位手段により細粒無線ノード(ピアノード)の位置を推測する。
さらに、細粒度の測位手段による測位結果に基づいて、位置を推測したハブノードとピアノードの位置にフィードバックする。ハブノードとピアノードの位置が細粒度の測位手段に対して或る指標(例えば細粒度の最大測位誤差やシステムの所要精度)の範囲内で相互に整合するように補正する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置基準であるシンクノードを基準に広域に展開したハブノードへ、仮想位置基準であるハブノードを基準に細粒度のピアノードへ、階層的に位置を推測することができる。ハブノードが仮想位置基準となるので、ピアノードに対して予め位置基準を設けておく必要がなく、煩雑な基準設置作業を省くことができる効果がある。すなわち、階層無線ネットワークにより広範囲なエリアで位置情報サービスを提供することができる。
【0015】
シンクノードからハブノードの位置を推測した際の精度は広域測位手段に依存し、このハブノードの位置に基づいてピアノードの位置が求まるが、高い位置精度が必要な場合には細粒度の測位結果に基づいてハブノードとシンクノードの位置を補正することにより、細粒度の測位手段と同等レベルの位置精度を得ることができる効果がある。すなわち、広域でも高精度な測位システムにより、広域に亘って細粒度のサービスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1の無線ネットワークシステムのノード配置構成図、図2はそのネットワーク構成図である。図1及び図2において、無線ネットワークシステムは、無線ノード(ピアノード)30と比較して広域な無線通信手段15と測位手段100を有する無線ノード(シンクノード)10と、無線ノード(シンクノード)10と比較して狭域の無線通信手段25と測位手段200を有する無線ノード(ピアノード)30と、広域と狭域の無線通信手段15、25と測位手段100、200を併有する無線ノード(ハブノード)20から構成されている。
【0018】
シンクノード10とハブノード20は広域に粗粒度で分散配置されており、ピアノード30は細粒度で密に配置されている。シンクノード10とハブノード20、またはハブノード20同士が広域無線通信手段15によりネットワーク接続され、ハブノード20とピアノード30、ピアノード30同士が狭域無線通信手段25によりネットワーク接続され、総体的に広域に亘って細粒度の階層ネットワークが構成されている。
【0019】
図8(a)(b)(c)にそれぞれシンクノード10、ハブノード20、ピアノード30の回路ブロック構成図を示す。図8(a)に示すシンクノード10は、プロセッサ部310と、広域無線通信手段15且つ広域測位手段100であるアンテナ311、高周波回路312、ベースバンド回路313から成り、場合によってはサーバ314に有線ネットワーク315を介して接続するための駆動回路316を有する。サーバ314では無線ネットワークシステムの情報管理やアプリケーションを行なう。シンクノード10のプロセッサ部310(及びメモリ)にはハブノード20やピアノード30に比べて高性能、大容量な集積回路を用いている。
【0020】
図8(b)に示すハブノード20は、プロセッサ部320と、広域無線通信手段15且つ広域測位手段100であるアンテナ321、高周波回路322、ベースバンド回路323と、狭域無線通信手段25であるアンテナ324、高周波回路325、ベースバンド回路326と、狭域測位手段200であるセンサ327(及びその他のセンサ群)、送信器328(及びその他の送信器群)、これらの駆動回路329とから成る。ここでは、広域無線通信手段15と狭域無線通信手段25のアンテナ321、324、高周波回路322、325、ベースバンド回路323、326を分けて構成しているが、マルチモード無線技術やソフトウェア無線技術により両者の回路を共通化して小型化と低消費電力化を図っても良い。
【0021】
ピアノード30は、プロセッサ部330と、狭域無線通信手段25であるアンテナ331、高周波回路332、ベースバンド回路333と、狭域測位手段200であるセンサ334(及びその他のセンサ群)、送信器335(及びその他の送信器群)、これらの駆動回路336とから成る。ピアノード30のプロセッサ部(及びメモリ)にはシンクノード10やハブノード20に比べて小型、低消費電力な集積回路を用いている。ピアノード30やハブノード20の狭域測位手段200であるセンサ334、327と送信器335、328以外のセンサ群や送信器群には、センサネットワークサービスやコンテクストアウェアサービスなどを行なうためのデバイス、例えば光、音、赤外線、温度、湿度、振動、加速度、磁気などの多種多様なデバイスが用途に応じて用いられる。
【0022】
実施例1では、広域のシンクノード10からハブノード20へ、ハブノード20から狭域のピアノード30へ階層的に測位を実行している。図1に示すように、先ず(a)位置が既知であるシンクノード10を基準として広域測位手段によりハブノード20の位置を推測し、(a')シンクノード10または位置を推測したハブノード20を基準として他のハブノードの位置推測を繰り返し、次に(b)位置を推測したハブノード20を基準として狭域測位手段によりピアノード30の位置を推測し、(b')ハブノード20または位置を推測したピアノード30を基準として他のピアノード30の位置推測を繰り返すことにより、ネットワークシステム全体の位置情報を取得している。
【0023】
なお、上記(a)(a)のハブノード20の位置計算には、図8(a)に示すサーバ314に広域測位手段で得られた情報を吸い上げて集中処理を行なう方法と、広域測位に関わったシンクノード10やハブノード20の何れかに情報を送ってプロセッサ部310、320で分散処理を行なう方法があり、これらの方法はノード数、計算頻度、各ノードのプロセッサ性能、ノード間の通信トラフィックなどに応じて選択すれば良い。同様に、上記(b)(b')のピアノード30の位置計算には、サーバ314において集中処理を行なう方法と、測位対象の近傍のシンクノード10や狭域測位に関わったハブノード20またはピアノード30における分散処理を行なう方法がある。
【0024】
実施例1によれば、ハブノード20を介して広域測位と狭域測位を階層的に行なうことにより、位置基準である少数のシンクノード10から細粒度のピアノード30までネットワーク全体の測位を行なうことができる。狭域でしか測位を行なえないピアノード30に対して多数の位置基準を設ける必要がなくなり、煩雑な設置作業のコストを削減することができる。
【0025】
また、測位だけでなく無線通信としても、ハブノード20を介して広域通信と狭域通信を階層的にネットワークで接続することにより、狭域無線通信手段だけの多段接続によって広域で通信する場合に比べて効率的に高いスループットで通信することができる。したがって、位置情報と連携した細粒度のピアノード30の情報により、高度且つ細密な情報サービスを提供することが可能になる。
【0026】
なお、実施例1に言う広域と狭域の階層関係は相対的であり、例えば無線通信手段として無線LANと近距離無線、移動通信と無線LAN、小電力無線と微弱無線、測位手段としてGPSと無線LAN測位、無線LAN測位と超音波のような階層を構成し、環境、用途、通信速度、要求精度などに応じて使い分ければ良い。また、実施例1では予めシンクノード10の位置だけが既知であるが、可能であればハブノード20の位置を予め定めても良く、シンクノード10にも狭域の無線通信手段と測位手段を持たせてピアノード30との通信と測位を行なっても良い。測位手段100及び200を用いた測位方法は、それぞれの無線通信手段を利用して実施できるものであればよく、TDoAの他、ToA、RSS、AoAによる方法などが可能である。
【実施例2】
【0027】
本発明の実施例2では、実施例1で述べた広域測位手段について詳細を説明する。図3は広域測位手段による測位方法の説明図である。図3において、位置が既知であるシンクノード101(位置ベクトルp1)、102(p2)、10i(pi)、10n(pn)を位置基準としてハブノード20o(po)の測位を行なっている。広域測位手段としては、無線LANに代表される無線測位技術を用いている。図8(a)に示すシンクノード10のプロセッサ部310、アンテナ311、高周波回路312、ベースバンド回路313と、図8(b)に示すハブノード20のプロセッサ部320、アンテナ321、高周波回路322、ベースバンド回路323とを協働させることにより、ToA(到達時間)、RSS(受信信号強度)、またはTDoA(到達時間差)を計測して測位を行なう。
【0028】
広域測位手段としてToAまたはRSSを利用する場合には、測距結果lioと相対距離|pi-po|との誤差δioに関して、数式1に示す連立方程式を立ててハブノード20oの位置ベクトルpoを求めている。測距結果lioは、数式2に示すようにシンクノード10iとハブノード20oの間のToA(到達時間)tioと光速cから求まる距離、または受信信号強度RSSioの関数l(RSSio)から求まる距離である。連立方程式の最尤解は、数式3に示すように誤差分散δio2の総和F(po)を極小にするpoを求める最小二乗法により計算することができる。係数wiは信号強度、信号波形などを考慮する重み付け係数であるが、簡単のためには定数としても良い。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
【数3】

【0032】
TDoAによりハブノード20oの測位を行なう場合には、到達時間差(tio-t1o)と相対距離|pi-po|、|p1-po|に関して数式4に示す連立方程式を立てて、数式5に示すように誤差分散δio'2の総和F'(po)を極小にする最尤解poを求める。
【0033】
【数4】

【0034】
【数5】

【0035】
RSSマップ照合によりハブノード20oの測位を行なう場合には、予め作成したRSSマップに基づいて各シンクノード101、102、10i、10nに対応するRSSの等高線を描き、これらの等高線とハブノード20oとの距離の二乗和が極小になるように最尤解poを求めれば良い。
実施例2によれば、広域測位手段によりシンクノード101、102、10i、10nを位置基準としてハブノード20oの測位を行なうことができる。さらに、実施例2と同様な方法により、測位を行なったハブノード20oを仮想位置基準として用い、未だ位置が求まっていないハブノードの測位を逐次進めることができる。
【実施例3】
【0036】
本発明の実施例3では、実施例1で述べた狭域測位手段について詳細を説明する。図4は狭域測位手段による測位方法の説明図である。図4において、広域測位手段により位置を推測したハブノード201(位置ベクトルp1)、202(p2)、20i(pi)、20n(pn)を仮想位置基準として、ピアノード30o(po)の測位を行なっている。狭域測位手段としては超音波測位技術を用いている。図8(b)に示すハブノード20のプロセッサ部320、超音波センサ327、超音波送信器328と、図8(c)に示すピアノード30のプロセッサ部330、超音波センサ334、超音波送信器335とを協働させることにより、ToA(到達時間)を計測して測位を行なう。
【0037】
狭域測位手段ではToA(到達時間)tioと音速sから測距結果s・tioが得られ、測距結果s・tioと相対距離|pi-po|との誤差δioに関して、数式6に示す連立方程式を立ててピアノード30oの位置ベクトルpoを求めている。連立方程式の最尤解poの解法としては、数式7に示す誤差δioの二乗和F(po)を極小にする最小二乗法を用いている。係数wiは超音波の強度、波形などを考慮する重み付け係数であるが、簡単のためには定数でも良い。
【0038】
【数6】

【0039】
【数7】

【0040】
実施例3によれば、狭域測位手段によりハブノード201、202、20i、20nを仮想位置基準として、ピアノード30oの測位を行なうことができる。さらに、実施例3と同様な方法により、測位を行なったピアノード30oを仮想位置基準として、未だ位置が求まっていないピアノードの測位を逐次進めることができる。したがって、実施例2で述べた広域測位手段によりシンクノードからハブノードの位置を推測し、実施例3で述べた狭域測位手段によりハブノードからピアノードの位置を推測することができるので、広域から始めて細粒度の位置情報を階層的に取得することができる。
【0041】
なお、実施例2及び3において、ハブノードの位置精度は広域測位手段に依存しており、このハブノードを仮想位置基準として測位を行なったピアノードの位置精度も広域測位手段による影響を受ける。例えば、広域測位手段として無線LAN(精度1mオーダ)、狭域測位手段として超音波(精度1cmから10cmオーダ)を選択した場合、超音波により測位を行なったにも拘らずピアノードの絶対位置精度は無線LANと同レベルになる。
【0042】
無線ネットワークシステムとして無線LANと同様の精度で十分である場合には実施例2及び3の測位方法に準じれば良い。しかし、さらに高い精度を要求される場合には、ハブノードやピアノードの位置を超音波の測距結果を活用して補正することができる。その際には、測距結果s・tioと最尤解poに対する相対距離|pi-po|との測距誤差δioに基づいて、図4と数式8に示す測距誤差ベクトルΔioを一つの指標として用いることができる。
【0043】
【数8】

【実施例4】
【0044】
本発明の実施例4では、狭域測位手段による位置補正方法の一例について説明する。図5は、狭域測位手段による位置補正方法の説明図である。図5において、広域測位手段の測位結果に基づいてハブノード201、202、203、204、狭域測位手段の測位結果に基づいてピアノード301、302、303、304、305、306、307が配置されている。
【0045】
ハブノード201、202、203、204とピアノード301、302、303、304には、これらを仮想位置基準として他のピアノードの最尤位置の測位を行なった際に数式8から求めた測距誤差ベクトルΔが付与されている。すなわち、複数のノードから推測される最尤位置の確からしさを信じて、仮想位置基準としたノード側に誤差があると仮定している。付与される測距誤差ベクトルΔの数は、ハブノードやピアノードが仮想位置基準として用いられた回数となる。なお、これまでの実施例ではハブノードの位置は予め既知ではないが、もし既知である場合にはハブノードの位置を固定し、ベクトル-Δをピアノードの最尤位置側に与える。また、シンクノードが狭域測位手段を併有する場合にも同様である。
【0046】
ハブノード201、202、203、204とピアノード301、302、303、304の位置は、数式9に示すように各ノードiにおける測距誤差ベクトルΔijを平均した補正ベクトルεiにより、それぞれ201'、202'、203'、204'と301'、302'、303'、304'へ補正することができる。係数ωjは各Δijを求めた際の測位条件、測距精度などを考慮する重み付け係数であるが、簡単には定数とする。
【0047】
【数9】

【0048】
実施例4によれば、広域測位手段の位置精度に依存するハブノードとピアノードの位置を、高精度な狭域測位手段の測距結果に基づいて、より確からしい位置へ補正し、位置精度を向上することができる。さらに精度を向上させたい場合には、補正したハブノードを仮想位置基準として再びピアノードの測位を行なって良く、測位に要する処理時間やノードの処理能力を考慮して繰り返し計算を行なっても良い。
【0049】
図6は、実施例4による位置補正効果を説明する図である。図6において、広域測位手段として無線LAN、狭域測位手段として超音波を用いた場合のハブノードとピアノードの測距誤差|Δ|の一例を示している。初めに広域測位手段と狭域測位手段により測位を行なった際の測距誤差|Δ|は数mの範囲に分布しているが、ハブノードの位置補正を行なってピアノードの位置の測位を繰り返すと、測距誤差|Δ|の平均値と分布が次第に減少していくのが分かる。さらに繰り返すと、測距誤差|Δ|は超音波の位置精度と同レベルにまで収束していく。無線ネットワークシステムの用途や使用環境に対して測位処理時間や能力に余裕があれば収束するまで繰返し計算を行なって良いが、所要精度の範囲に入れば計算を打ち切っても良い。なお、ハブノードの補正位置はシンクノードに対する広域測位手段の誤差範囲に入っている。もし誤差範囲から外れている場合には、ハブノードとピアノードの全体の相対位置関係は保持したまま、シンクノードに対して全体の位置を補正すれば良い。
【実施例5】
【0050】
本発明の実施例5では、狭域測位手段による位置補正方法の他の例について説明する。図6は、狭域測位手段による位置補正方法の説明図である。図6において、図5と同様に、広域測位手段の測位結果に基づいてハブノード201、202、203、204、狭域測位手段の測位結果に基づいてピアノード301、302、303、304、305、306、307が配置されている。
【0051】
ハブノード201、202、203、204とピアノード301、302、303、304、305、306、307では、それぞれの周囲のノードとの間で狭域測位手段により測距を行なっている。ノードi(位置ベクトルpi)とノードj(pj)には、数式10に示すように互いの距離|pi- pj|と測距結果s・tijとの誤差δijに基づいて、それぞれに数式11に示す測距誤差ベクトルΔj⇒i/2と数式12に示すΔi⇒j/2が付与されている。Δj⇒i/2とΔi⇒j/2は大きさが等しく向きが逆である。測距結果s・tijの方が|pi- pj|より大きい場合はノードiとノードjに互いに離れる方向(斥力)に測距誤差ベクトルΔj⇒i/2、Δi⇒j/2を付与し、小さい場合にはノードiとノードjが互いに近付く方向(引力)にベクトルを付与する。
【0052】
【数10】

【0053】
【数11】

【0054】
【数12】

【0055】
このようにして、ノードiに対してその周囲のノードj全ての測距誤差ベクトルΔj⇒i/2が得られたら、数式13に示すように測距誤差ベクトルΔj⇒i/2を平均することによりノードiに対する補正ベクトルεi'を求め、ハブノード201、202、203、204とピアノード301、302、303、304、305、306、307の位置をそれぞれ201'、202'、203'、204'と301'、302'、303'、304'、305'、306'、307'へ補正することができる。係数ωj'は各Δj⇒i/2を求めた際の測位条件による重み付け係数であるが、計算の簡略化のために定数としても良い。
【0056】
【数13】

【0057】
実施例5によれば、ハブノードとピアノードの位置を狭域測位手段の測距結果に基づいて補正し、高精度化することができる。さらに精度を向上させたい場合には、補正したハブノードとピアノードの位置で、再び狭域測位手段により相互の測距誤差ベクトルを求め、狭域測位手段の位置精度範囲内に収束するまで補正を繰り返すことができる。但し、繰返し回数は処理時間や所要精度に応じて設定して良い。
【0058】
実施例4と実施例5の位置補正方法を比較すると、実施例4では初めに狭域測位手段によりピアノードの測位を行なった際に補正ベクトルを求めることができ、実施例5では一旦狭域測位手段により全てのピアノードの位置が定まった後に周囲のハブノードやピアノードについて補正ベクトルを求める必要がある。一方、実施例4では仮想位置基準としたハブノードとピアノードに対して補正を行なうが、実施例5では全てのノードに対して補正を行ない最適解すなわち真の位置により近付くことができる。実施例4と実施例5に示す位置補正方法は、ノードの数量や密度、位置が既知であるノードの数量や配置、広域測位手段と狭域測位手段の位置精度やバランス、無線ネットワークシステムの所要精度、測位に要求される処理時間やノードの処理能力などを考慮して、場合に応じて選択すれば良い。一概には言えないが、実施例4は比較的所要精度が緩く処理時間を短くしたい場合、実施例5は所要精度が厳しく処理時間を長くしても良い場合に適している。
【0059】
以上、実施例1、2、3、4、5により本発明の実施形態について説明したように、無線ネットワークシステムにおいて広域測位手段と狭域測位手段を階層的に構成することにより、少数の位置基準から細粒度のノードの測位を行なうことが可能になり、広域に亘って細密な位置情報連携サービスを提供することができる。また、広域測位手段に基づいたノードの位置を高精度な狭域測位手段で補正することにより位置精度を向上し、高確度の位置情報を提供することができる。
【0060】
なお、本発明の効果は広域且つ狭域、粗粒度と細粒度、低精度と高精度の階層システム構成を採ることにより生まれるものであり、特定の無線通信手段、測位手段に依拠するものでなく、階層関係も相対的なものである。無線通信手段としては、移動体通信、IEEE802.11b、11a、11g、11n等の無線LAN、IEEE802.16等の固定無線アクセス、WAN(Wide Area Network)、MAN(Metropolitan Area Network)、IEEE802.15等のBluetooth、ZigBee、近距離無線、小電力無線、超広帯域無線(UWB)、他に微弱無線、準ミリ波、ミリ波、光LANなどもシステム用途に応じて本発明の対象と成り得る。測位手段としては無線測位の他、GPS、超音波、音波、光なども対象である。また、本発明の無線ネットワークシステムは、二次元平面だけでなく、一次元の直線、曲線、二次元の曲面、三次元空間にも展開することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明による無線ネットワークシステムは、無線アドホックネットワークや無線センサネットワークに加えて移動通信ネットワーク、広域ネットワーク(WAN)、都市エリアネットワーク(MAN)、オフィスネットワーク、ホームネットワーク等にも適用することができ、広域且つ高精度な位置情報に基づいて公衆、公共、流通、企業、防災など広範な分野において高度できめ細かなサービスを提供することができる。移動端末へのコンテクストアウェアサービス、センサ情報監視サービスの他、鉄道、高速道路、山林、河川等における大域計測型事業、ビル、橋脚、トンネル等における構造物モニタリング事業にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態の無線ネットワークシステムのノード配置構成図である。
【図2】本発明の実施形態の無線ネットワークシステムのネットワーク構成図である。
【図3】本発明の実施形態の広域の測位手段による測位方法の説明図である。
【図4】本発明の実施形態の細粒度の測位手段による測位方法の説明図である。
【図5】本発明の実施形態の細粒度の測位手段に基づく位置補正方法の説明図である。
【図6】本発明の実施形態の細粒度の測位手段に基づく位置補正効果の説明図である。
【図7】本発明の実施形態の細粒度の測位手段に基づく他の位置補正方法の説明図である。
【図8】本発明の実施形態の各ノードの構成図である。
【符号の説明】
【0063】
10 広域無線ノード(シンクノード)、20 広域細粒無線ノード(ハブノード)、30 細粒無線ノード(ピアノード)、15 広域無線通信手段、25 狭域無線通信手段、100 広域測位手段、200 細粒度測位手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の測位手段を有する第1の無線ノードと、第1の測位手段に比べて測位範囲が狭い第2の測位手段を有する第2の無線ノードとを備え、
位置が既知である第1の無線ノードを基準として、第1の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第1の無線ノードの測位を行ない、
位置が既知または測位結果であり第2の測位手段を併有する第1の無線ノードを基準として、第2の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第2の無線ノードの測位を行なうことを特徴とする無線ネットワークシステム。
【請求項2】
第1の無線通信手段及び第1の測位手段を有する第1の無線ノードと、第1の無線通信手段に比べて通信範囲が狭い第2の無線通信手段及び第1の測位手段に比べて測位範囲が狭い第2の測位手段を有する第2の無線ノードとを備え、
位置が既知である第1の無線ノードを基準として、第1の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第1の無線ノードの測位を行ない、
位置が既知または測位結果であり第2の測位手段を併有する第1の無線ノードを基準として、第2の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第2の無線ノードの測位を行なうことを特徴とする無線ネットワークシステム。
【請求項3】
請求項1または2記載の無線ネットワークシステムにおいて、
位置が既知または測位結果である第1の無線ノードを基準として、第1の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第1の無線ノードの測位を繰り返す、
または、位置が既知または測位結果である第2の無線ノードを基準として、第2の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第2の無線ノードの測位を繰り返すことを特徴とする。
【請求項4】
請求項1、2、または3記載の無線ネットワークシステムにおいて、
位置が既知または測位結果である第1または第2の無線ノードを基準として、第2の測位手段による測距結果に基づいて、位置が未知である第2の無線ノードの最尤位置の測位を行ない、
最尤位置と測距結果との誤差を指標として、基準とした第1または第2の無線ノードの位置を補正することを特徴とする。
【請求項5】
請求項4記載の無線ネットワークシステムにおいて、
位置が既知または補正結果である第1の無線ノードを基準として、
誤差が第2の測位手段の最大測距誤差または所定値の範囲に入るまで、第2の測位手段により第2の無線ノードの測位を繰り返すことを特徴とする無線ネットワークシステム。
【請求項6】
請求項1、2、または3記載の無線ネットワークシステムにおいて、
第2の測位手段を有する第1または第2の無線ノードと、その周囲の第2の測位手段を有する第1または第2の無線ノードとに対して、
第2の測位手段による測位結果と測距結果との誤差を指標として、相互の無線ノードの位置を補正することを特徴とする。
【請求項7】
請求項6記載の無線ネットワークシステムにおいて、
第2の測位手段を有する第1または第2の無線ノードと、その周囲の第2の測位手段を有する第1または第2の無線ノードとに対して、
誤差が第2の測位手段の最大測距誤差または所定値の範囲に入るまで、相互の無線ノードの位置を補正することを特徴とする。
【請求項8】
請求項1または2記載の無線ネットワークシステムにおいて、
第1または第2の測位手段が無線信号の受信信号強度、到達時間、到達時間差、または到来角度によることを特徴とする。
【請求項9】
請求項1または2記載の無線ネットワークシステムにおいて、
第1の測位手段が無線信号の受信信号強度、到達時間、到達時間差、または到来角度により、
第2の測位手段が超音波の到達時間または到達時間差によることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−3187(P2006−3187A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179141(P2004−179141)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】