説明

無線送信回路及び無線送信装置

【課題】短パルス信号における波高値を低下させることなく送信信号に含まれる周波数成分毎の電力密度を低下させることができる無線送信回路、及び無線送信装置を提供する。
【解決手段】基準周期信号CK0を生成する発振回路51と、CK0を遅延させて周期信号CK1を生成する第1遅延回路53と、CK0及びCK1のうち、いずれか一方を不規則に選択することによりジッタを生じさせたタイミング信号CLKを出力する選択部55と、タイミング信号CLKと同期して、送信データを変調して得られたパルスを出力する送信パルス生成部6とを備えた。また、第1遅延回路53は、CK0を選択部55へ導く配線531と、配線531とNMOSトランジスタTr13,Tr15を介してそれぞれ接続されるNMOSトランジスタTr14,Tr16のゲート容量と、Tr13,Tr15のオンオフ状態を制御するオンオフ制御部532とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信回路に関し、特に、消費電流を低減することができる無線送信回路に関する。そして、本発明は、これを用いた無線送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速無線伝送方式の一つとして、ウルトラワイドバンド(UWB:Ultra Wide Band)通信方式が注目されている。ウルトラワイドバンド通信とは、超広帯域無線を意味し、中心周波数の25%以上、又は1.5GHz以上の帯域幅を占有する無線伝送方式を指し、搬送波を用いず、例えばパルス幅が1nsec以下等の極めて細かい短パルス信号からなるパルス信号列を用いて通信を行うものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、このようなウルトラワイドバンド通信方式による送信電力は、例えば図16に示す米連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)等で規定されたスペクトラムマスクSPM以下にする必要がある。図16に示すスペクトラムマスクSPMは、横軸が送信周波数、縦軸が送信信号の電力密度を示し、送信信号に含まれる周波数成分毎に電力密度が規定されているので、送信周波数成分毎に規定された電力密度以下の電波を用いて送信を行う必要がある。
【特許文献1】特表2003−515974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ウルトラワイドバンド通信の送信電力は、送信する短パルス信号の波高値の増減に応じて増減するので、送信電力をスペクトラムマスクSPM以下にするために短パルス信号の波高値を低下させると、送信距離が短縮されてしまうという不都合があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、短パルス信号における波高値を低下させることなく送信信号に含まれる周波数成分毎の電力密度を低下させることができる無線送信回路、及びこれを用いた無線送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の手段に係る無線送信回路は、所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させて第1の周期信号を生成する第1の遅延部と、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号及び前記第1の遅延部により生成された第1の周期信号のうち、いずれか一方を不規則に選択することによりジッタを生じさせたタイミング信号を出力する選択部と、前記選択部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、前記第1の遅延部は、前記基準周期信号を前記選択部へ導く第1の信号経路と、前記第1の信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタと、当該スイッチング素子のオンオフ状態を制御するオンオフ制御部とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、上述の無線送信回路において、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号と同期して、前記送信データを変調して得られた変調信号を出力する変調回路をさらに備え、前記第1の遅延部及び前記選択部は、前記基準周期信号の代わりに前記変調回路により出力された変調信号を用いることを特徴としている。
【0008】
また、上述の無線送信回路において、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させて第2の周期信号を生成する第2の遅延部をさらに備え、前記選択部は、前記第1の遅延部により生成された第1の周期信号及び前記第2の遅延部により生成された第2の周期信号のうち、いずれか一方を不規則に選択することによりジッタを生じさせたタイミング信号を出力するものであり、前記第2の遅延部は、前記基準周期信号を前記選択部へ導く第2の信号経路と、前記第2の信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタとを備え、前記オンオフ制御部は、前記第2の信号経路における信号遅延時間を前記第1の信号経路における信号遅延時間と異ならせるべく前記第2の信号経路に接続された前記複数のスイッチング素子のオンオフ状態をさらに制御することを特徴としている。
【0009】
また、上述の無線送信回路において、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を変調した変調信号を出力する変調回路をさらに備え、前記第1及び第2の遅延部は、前記基準周期信号の代わりに前記変調回路により出力された変調信号を用いることを特徴としている。
【0010】
また、上述の無線送信回路において、前記複数のスイッチング素子におけるオンオフ状態の設定を受け付ける設定受付部をさらに備え、前記オンオフ制御部は、前記設定受付部により受け付けられた設定内容に応じて前記複数のスイッチング素子のオンオフ状態を設定することを特徴としている。
【0011】
また、上述の無線送信回路において、前記オンオフ制御部は、前記複数のスイッチング素子におけるオンオフ状態を、不規則に変化させることを特徴としている。
【0012】
また、上述の無線送信回路において、前記複数のスイッチング素子は、MOSトランジスタを用いて構成されており、前記オンオフ制御部は、前記MOSトランジスタをオンさせる際におけるゲート電圧を、前記設定受付部により受け付けられた設定内容に応じて設定することを特徴としている。
【0013】
また、上述の無線送信回路において、前記複数のスイッチング素子は、MOSトランジスタを用いて構成されており、前記オンオフ制御部は、前記MOSトランジスタをオンさせる際におけるゲート電圧を不規則に変化させることを特徴としている。
【0014】
また、上述の無線送信回路において、前記キャパシタは、MOSトランジスタにおけるゲート容量によって構成されていることを特徴としている。
【0015】
また、上述の無線送信回路において、前記第1の信号経路における信号遅延時間を調整するための第1の制御電圧を生成する第1の制御電圧生成部をさらに備え、前記第1の遅延部は、前記基準周期信号に応じて、前記第1の制御電圧生成部により生成された前記第1の制御電圧の前記第1の信号経路への供給をオンオフする第1の信号駆動用スイッチング素子をさらに備えたことを特徴としている。
【0016】
また、上述の無線送信回路において、前記第1の信号駆動用スイッチング素子はCMOSインバータであり、前記基準周期信号は、当該CMOSインバータのゲートに印加され、前記第1の制御電圧生成部は、前記第1の制御電圧を当該CMOSインバータにおけるPMOSトランジスタのソースに印加し、当該PMOSトランジスタのドレインは、前記第1の信号経路に接続されていることを特徴としている。
【0017】
また、上述の無線送信回路において、前記第2の信号経路における信号遅延時間を調整するための第2の制御電圧を生成する第2の制御電圧生成部をさらに備え、前記第2の遅延部は、前記基準周期信号に応じて、前記第2の制御電圧生成部により生成された前記第2の制御電圧の前記第2の信号経路への供給をオンオフする第2の信号駆動用スイッチング素子をさらに備えたことを特徴としている。
【0018】
また、上述の無線送信回路において、前記第2の信号駆動用スイッチング素子はCMOSインバータであり、前記基準周期信号は、当該CMOSインバータのゲートに印加され、前記第2の制御電圧生成部は、前記第2の制御電圧を当該CMOSインバータにおけるPMOSトランジスタのソースに印加し、当該PMOSトランジスタのドレインは、前記第2の信号経路に接続されていることを特徴としている。
【0019】
また、上述の無線送信回路において、所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させてタイミング信号を生成する遅延部と、前記遅延部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、前記遅延部は、前記基準周期信号を前記タイミング信号として前記送信パルス生成部へ導く信号経路と、前記信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタと、当該スイッチング素子のオンオフ状態を不規則に変化させるオンオフ制御部とを備えることを特徴としている。
【0020】
そして、本発明の第2の手段に係る無線送信回路は、所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、所定の遅延時間設定用電圧を不規則に変化させる制御電圧生成部と、前記制御電圧生成部から出力された遅延時間設定用電圧に応じて、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させてタイミング信号を生成する遅延部と、前記遅延部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、前記遅延部は、前記基準周期信号を前記送信パルス生成部へ導く信号経路と、前記信号経路に接続されるキャパシタと、前記基準周期信号に応じて、前記制御電圧生成部から出力された遅延時間設定用電圧の前記信号経路への供給をオンオフする信号駆動用スイッチング素子とを備えることを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明の第3の手段に係る無線送信装置は、周期的なタイミングと同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信装置において、前記送信データを生成するデータ生成部と、前記データ生成部により生成された送信データに基づいて、前記送信データを表すパルスを出力する無線送信回路と、前記無線送信回路により出力されたパルスを放射するアンテナとを備え、前記無線送信回路は、上述のいずれかに記載の無線送信回路であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
このような構成の無線送信回路及び無線送信装置は、第1の遅延部において、複数のスイッチング素子を介して複数のキャパシタがそれぞれ接続される第1の信号経路によって基準周期信号が選択部へ導かれ、オンオフ制御部によって当該スイッチング素子のオンオフ状態が制御されることにより第1の信号経路に所定数のキャパシタが接続されて第1の信号経路に所定の静電容量が接続され、第1の遅延部における第1の周期信号の遅延時間が調整される。そして、選択部によって基準周期信号及び第1の周期信号のうち、いずれか一方が不規則に選択されることによりジッタが生じたタイミング信号が出力される。さらに、送信パルス生成部によって、選択部から出力されたタイミング信号と同期して、送信データを示す短パルスが出力されるので、短パルスにジッタが生じて送信信号の周波数成分のスペクトラムが拡がる結果、電力密度のピーク値が低下する。従って、短パルス信号における波高値を低下させることなく送信信号に含まれる周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。
【0023】
また、このような構成の無線送信回路及び無線送信装置は、遅延部において、複数のスイッチング素子を介して複数のキャパシタがそれぞれ接続される信号経路によって基準周期信号がタイミング信号として送信パルス生成部へ導かれる。そして、オンオフ制御部によって当該スイッチング素子のオンオフ状態が不規則に変化されることにより信号経路に不規則にキャパシタが接続されて信号経路に接続される静電容量が不規則に変化し、遅延部における周期信号の遅延時間が不規則にされる結果、タイミング信号にジッタが生じる。さらに、送信パルス生成部によって、ジッタが生じたタイミング信号と同期して、送信データを示す短パルスが出力されるので、短パルスにジッタが生じて送信信号の周波数成分のスペクトラムが拡がる結果、電力密度のピーク値が低下する。従って、短パルス信号における波高値を低下させることなく送信信号に含まれる周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。
【0024】
また、このような構成の無線送信回路及び無線送信装置は、制御電圧生成部によって遅延時間設定用電圧が不規則に変化されて遅延部における信号駆動用スイッチング素子へ供給され、信号駆動用スイッチング素子によって遅延時間設定用電圧の、キャパシタが接続された信号経路への供給が基準周期信号に応じてオンオフされることにより、遅延時間が不規則にされたタイミング信号が生成される。そして、送信パルス生成部によって、遅延部から出力されたタイミング信号と同期して、送信データを示す短パルスが出力されるので、短パルスにジッタが生じて送信信号の周波数成分のスペクトラムが拡がる結果、電力密度のピーク値が低下する。従って、短パルス信号における波高値を低下させることなく送信信号に含まれる周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。図1は、本発明の一実施形態に係る無線送信装置及び無線送信回路の構成の一例を示すブロック図である。図1に示す無線送信装置1は、無線送信回路2と、データ生成部3と、アンテナ4とを備えている。無線送信回路2は、データ生成部3から出力された送信データSDを変調し、パルスを用いて無線通信を行う通信方式、例えばウルトラワイドバンド通信方式におけるパルスを用いた無線信号として送信する回路部で、タイミング信号生成部5と、送信パルス生成部6とを備えて構成されている。
【0026】
図2は、タイミング信号生成部5の構成の一例を示すブロック図である。図2に示すタイミング信号生成部5は、周期的なタイミングを表すタイミング信号CLKを出力する回路部で、発振回路51(基準周期信号生成部)、バッファ52、第1遅延回路53(第1の遅延部)、第2遅延回路54(第2の遅延部)、選択部55、選択信号生成部56、制御電圧生成部57(第1,第2の制御電圧生成部)、及び設定受付部58を備えている。
【0027】
発振回路51は、ウルトラワイドバンド方式の無線信号におけるパルス周期を有する周期信号である基準周期信号CK0を生成する。バッファ52は、基準周期信号CK0を波形整形して基準周期信号CK0’として第1遅延回路53及び第2遅延回路54へ出力する。
【0028】
第1遅延回路53及び第2遅延回路54は、発振回路51からバッファ52を介して出力された基準周期信号CK0’を遅延させて周期信号CK1(第1の周期信号)及び周期信号CK2(第2の周期信号)をそれぞれ生成する回路部である。
【0029】
第1遅延回路53は、PMOSトランジスタTr11のドレインとNMOSトランジスタTr12のドレインとが接続され、PMOSトランジスタTr11のゲートとNMOSトランジスタTr12のゲートとが接続されてCMOSインバータTr10(第1の信号駆動用スイッチング素子)が構成されている。また、PMOSトランジスタTr17のドレインとNMOSトランジスタTr18のドレインとが接続され、PMOSトランジスタTr17のゲートとNMOSトランジスタTr18のゲートとが接続されてCMOSインバータTr19が構成されている。また、PMOSトランジスタTr11,Tr17のソース電圧は、制御電圧生成部57から供給されている。
【0030】
そして、バッファ52から出力された基準周期信号CK0’がPMOSトランジスタTr11及びNMOSトランジスタTr12のゲートに印加され、PMOSトランジスタTr11及びNMOSトランジスタTr12のドレインが配線531(第1の信号経路)を介してPMOSトランジスタTr17及びNMOSトランジスタTr18のゲートに接続されている。
【0031】
さらに、配線531には、NMOSトランジスタTr13,Tr15(スイッチング素子)のドレインが接続され、NMOSトランジスタTr13,Tr15のソースがそれぞれNMOSトランジスタTr14,Tr16のゲートに接続され、NMOSトランジスタTr14,Tr16のドレイン及びソースがグラウンドに接続されている。すなわち、NMOSトランジスタTr14のゲート容量(キャパシタ)がNMOSトランジスタTr13を介して配線531に接続され、NMOSトランジスタTr16のゲート容量(キャパシタ)がNMOSトランジスタTr15を介して配線531に接続されている。
【0032】
また、第1遅延回路53は、オンオフ制御部532を備え、オンオフ制御部532は、NMOSトランジスタTr13,Tr15のオンオフ状態、すなわち配線531へのNMOSトランジスタTr14,Tr16におけるゲート容量の接続状態を切り替える。なお、オンオフ制御部532は、NMOSトランジスタTr13,Tr15をオンさせる際にNMOSトランジスタTr13,Tr15を完全にオンさせる例に限られず、例えば電源回路を備えてNMOSトランジスタTr13,Tr15のゲートに印加する電圧を調整するようにしてもよい。
【0033】
そして、PMOSトランジスタTr17及びNMOSトランジスタTr18のドレインに生じた電圧、すなわち、CMOSインバータTr19の出力電圧が周期信号CK1として選択部55へ出力される。
【0034】
第2遅延回路54は、PMOSトランジスタTr21のドレインとNMOSトランジスタTr22のドレインとが接続され、PMOSトランジスタTr21のゲートとNMOSトランジスタTr22のゲートとが接続されてCMOSインバータTr20(第2の信号駆動用スイッチング素子)が構成されている。また、PMOSトランジスタTr27のドレインとNMOSトランジスタTr28のドレインとが接続され、PMOSトランジスタTr27のゲートとNMOSトランジスタTr28のゲートとが接続されてCMOSインバータTr29が構成されている。また、PMOSトランジスタTr21,Tr27のソース電圧は、制御電圧生成部57から供給されている。
【0035】
そして、バッファ52から出力された基準周期信号CK0’がPMOSトランジスタTr21及びNMOSトランジスタTr22のゲートに印加され、PMOSトランジスタTr21及びNMOSトランジスタTr22のドレインが配線541(第2の信号経路)を介してPMOSトランジスタTr27及びNMOSトランジスタTr28のゲートに接続されている。
【0036】
さらに、配線541には、NMOSトランジスタTr23,Tr25(スイッチング素子)のドレインが接続され、NMOSトランジスタTr23,Tr25のソースがそれぞれNMOSトランジスタTr24,Tr26のゲートに接続され、NMOSトランジスタTr24,Tr26のドレイン及びソースがグラウンドに接続されている。すなわち、NMOSトランジスタTr24のゲート容量(キャパシタ)がNMOSトランジスタTr23を介して配線541に接続され、NMOSトランジスタTr26のゲート容量(キャパシタ)がNMOSトランジスタTr25を介して配線541に接続されている。
【0037】
また、オンオフ制御部532によって、NMOSトランジスタTr23,Tr25のオンオフ状態、すなわち配線541へのNMOSトランジスタTr24,Tr26におけるゲート容量の接続状態が切り替えられるようになっている。なお、オンオフ制御部532は、NMOSトランジスタTr23,Tr25をオンさせる際にNMOSトランジスタTr23,Tr25を完全にオンさせる例に限られず、例えば電源回路を備えてNMOSトランジスタTr23,Tr25のゲートに印加する電圧を調整するようにしてもよい。
【0038】
そして、オンオフ制御部532は、第1遅延回路53におけるNMOSトランジスタTr13,Tr15のオンオフ状態と、第2遅延回路54におけるNMOSトランジスタTr23,Tr25のオンオフ状態とを異ならせることにより、第1遅延回路53における信号遅延時間と第2遅延回路54における信号遅延時間とを異ならせるようになっている。
【0039】
さらに、PMOSトランジスタTr27及びNMOSトランジスタTr28のドレインに生じた電圧、すなわち、CMOSインバータTr29の出力電圧が周期信号CK2として選択部55へ出力される。
【0040】
選択部55は、ANDゲート551,552,553、インバータ554、及びバッファ555から構成されたセレクタで、選択信号生成部56から出力された選択信号SELがローレベルであれば周期信号CK1を選択してタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力し、選択信号生成部56から出力された選択信号SELがハイレベルであれば周期信号CK2を選択してタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力する。
【0041】
制御電圧生成部57は、配線531における信号遅延時間を調整するための制御電圧V1(第1の制御電圧)及び配線541における信号遅延時間を調整するための制御電圧V2(第2の制御電圧)を生成する電源回路である。
【0042】
設定受付部58は、例えば1又は複数のディップスイッチや多接点スイッチの一例であるロータリスイッチ等の操作スイッチであり、NMOSトランジスタTr13,Tr15,Tr23,Tr25のオンオフ状態をそれぞれ設定可能にされている。オンオフ制御部532は、設定受付部58により受け付けられた設定内容に応じてNMOSトランジスタTr13,Tr15,Tr23,Tr25をオンオフさせる。
【0043】
選択信号生成部56は、選択部55によって、第1遅延回路53により生成された周期信号CK1と遅延回路54により生成された周期信号CK2とのうちいずれか一方を不規則(ランダム)に選択することによりタイミング信号CLKにジッタを生じさせる制御回路である。図3は、選択信号生成部56の構成の一例を示すブロック図である。
【0044】
図3に示す選択信号生成部56は、2ビットカウンタ561と、4ビットカウンタ562と、ビットセレクタ563とを備え、周期信号CK1,CK2のうちいずれか一つを選択部55で選択させるための2ビットの選択信号SELを生成すると共に基準周期信号CK0’と同期して選択部55へ出力する。具体的には、2ビットカウンタ561と、4ビットカウンタ562とは、それぞれバッファ52から出力された基準周期信号CK0’をカウントし、ビットセレクタ563は、2ビットカウンタ561のカウント値CT2に応じて4ビットカウンタ562の4ビットのカウント値CT1のうち1ビットを選択して選択信号SELとして選択部55へ出力する。2ビットカウンタ561は、カウント周期が4ビットカウンタ562の約数となることを避けるため、00→01→10→00を繰り返すようにされている。
【0045】
選択部55は、選択信号生成部56から出力された選択信号SELに基づいて、周期信号CK1,CK2のうちいずれか一つを擬似的に不規則(ランダム)に選択し、タイミング信号CLKとしてデータ生成部3と変調回路61とへ出力する。
【0046】
データ生成部3は、送信しようとするデータを生成する回路部で、例えば人の在不在を検出する人感センサや温度センサ等の検出装置及び、例えば照明器具や空調装置等を制御するためのリモコン装置等の、情報や指示命令等を表すデータを生成するものであり、送信データSDとしてタイミング信号生成部5から出力されたタイミング信号CLKと同期して送信パルス生成部6へ出力する。なお、データ生成部3は、自ら送信しようとするデータを生成するものに限られず、例えば外部に接続された機器から送信しようとするデータを受信して、送信データSDとして送信パルス生成部6へ出力するものであってもよい。
【0047】
送信パルス生成部6は、送信データSDを変調して得られたパルスをタイミング信号生成部5により出力されたタイミング信号CLKと同期させたパルス信号S4を、アンテナ4へ出力し、アンテナ4から放射させる回路部で、変調回路61と、ドライバ部62と、ステップリカバリダイオード回路63と、バンドパスフィルタ64とを備えて構成されている。
【0048】
変調回路61は、ウルトラワイドバンド方式による変調を行う回路であり、例えばデータ生成部3から出力された送信データSDとPN(Pseudorandom Noise)符号とを乗積することにより、送信データSDを変調して変調信号S1を生成し、ドライバ部62へ出力する。ドライバ部62は、変調回路61から出力された変調信号S1における駆動電流を増大させて変調信号S2としてステップリカバリダイオード回路63へ出力する回路部で、例えばCMOSトランジスタを用いて構成されている。
【0049】
ステップリカバリダイオード回路63は、ドライバ部62から出力された変調信号S2に基づいて高周波の信号成分を生じさせた変調信号S3を生成する回路部である。図4は、ステップリカバリダイオード回路63の構成の一例を示す回路図である。図4に示すステップリカバリダイオード回路63は、ドライバ部62から出力された変調信号S2がハイパスフィルタ65に入力され、ハイパスフィルタ65の出力がステップリカバリダイオードSRDのアノードに接続され、ステップリカバリダイオードSRDのカソードがグラウンドに接続されている。また、所定のバイアス電圧Vbiasが、電圧−電流変換素子66を介してステップリカバリダイオードSRDのアノードに供給されている。
【0050】
ハイパスフィルタ65は、例えばコンデンサを用いて構成されたハイパスフィルタで、ドライバ部62から出力された変調信号S2の高周波成分を通過させる。電圧−電流変換素子66は、バイアス電圧Vbiasを電流に変換する素子で、例えば抵抗やインダクタ等が用いられる。そして、ステップリカバリダイオードSRDのアノードに生じた電圧が、変調信号S3としてバンドパスフィルタ64へ出力される。
【0051】
バンドパスフィルタ64は、ステップリカバリダイオード回路63から出力された変調信号S3から高周波の信号成分を抽出する帯域フィルタであり、抽出した高周波の信号成分をウルトラワイドバンド通信用のパルス信号S4としてアンテナ4へ出力する。アンテナ4は、パルス信号S4を無線信号として放射する。
【0052】
次に、上述のように構成された無線送信装置1の動作について説明する。図5は、タイミング信号生成部5の動作を説明するための説明図である。まず、図2に示す発振回路51が発振し、周期t0の基準周期信号CK0がバッファ52へ出力されて波形整形され、周期t0の基準周期信号CK0’としてPMOSトランジスタTr11,Tr21、NMOSトランジスタTr12,Tr22のベースに供給される。
【0053】
図6は、第1遅延回路53及び第2遅延回路54の動作の一例を示す信号波形図である。図6においては、制御電圧生成部57から出力される制御電圧V1と制御電圧V2とが等しい場合の例を示している。まず、設定受付部58によって、NMOSトランジスタTr13,Tr23,Tr25をオン、NMOSトランジスタTr15をオフする旨の設定指示が受け付けられ、オンオフ制御部532によって、NMOSトランジスタTr13,Tr23,Tr25がオン、NMOSトランジスタTr15がオフされる。
【0054】
そうすると、NMOSトランジスタTr13によってNMOSトランジスタTr14のゲート容量が配線531に接続され、NMOSトランジスタTr23,25によってNMOSトランジスタTr24,Tr26のゲート容量が配線541に接続される。
【0055】
そして、基準周期信号CK0’がハイレベルになると、PMOSトランジスタTr11,Tr21がオフ、NMOSトランジスタTr12,Tr22がオンし、NMOSトランジスタTr14のゲート容量に充電されている電荷が放電されて配線531の電圧V531が低下すると共にNMOSトランジスタTr24,26のゲート容量に充電されている電荷が放電されて配線541の電圧V541が低下する。
【0056】
そして、電圧V531がCMOSインバータTr19の閾値電圧Vth未満になるとCMOSインバータTr19がオン(PMOSトランジスタTr17がオン、NMOSトランジスタTr18がオフ)して周期信号CK1が立ち上がり、電圧V541がCMOSインバータTr29の閾値電圧Vth未満になるとCMOSインバータTr29がオン(PMOSトランジスタTr27がオン、NMOSトランジスタTr28がオフ)して周期信号CK2が立ち上がる。
【0057】
このとき、配線531に接続されている静電容量よりも配線541に接続されている静電容量の方が大きいため、図6に示すように、電圧V531よりも電圧V541の方が緩やかに低下し、閾値電圧Vth未満になるまでの時間が長いので、基準周期信号CK0’に対する周期信号CK1の遅延時間△t1よりも基準周期信号CK0’に対する周期信号CK2の遅延時間△t2の方が長くなる。従って、周期信号CK2は、周期信号CK1よりも遅延時間△t(=△t2−△t1)だけ遅延する。
【0058】
同様に、基準周期信号CK0’がローレベルになると、PMOSトランジスタTr11,Tr21がオン、NMOSトランジスタTr12,Tr22がオフし、NMOSトランジスタTr14のゲート容量が制御電圧V1で充電されて配線531の電圧V531が増大すると共にNMOSトランジスタTr24,26のゲート容量が制御電圧V2で充電されて配線541の電圧V541が増大する。
【0059】
そして、電圧V531がCMOSインバータTr19の閾値電圧Vthを超えるとCMOSインバータTr19がオフ(PMOSトランジスタTr17がオフ、NMOSトランジスタTr18がオン)して周期信号CK1が立ち下がり、電圧V541がCMOSインバータTr29の閾値電圧Vthを超えるとCMOSインバータTr29がオン(PMOSトランジスタTr27がオフ、NMOSトランジスタTr28がオン)して周期信号CK2が立ち下がる。
【0060】
このとき、配線531に接続されている静電容量よりも配線541に接続されている静電容量の方が大きいため、図6に示すように、電圧V531よりも電圧V541の方が緩やかに増大し、閾値電圧Vthを超えるまでの時間が長いので、基準周期信号CK0’に対する周期信号CK1の遅延時間△t1よりも基準周期信号CK0’に対する周期信号CK2の遅延時間△t2の方が、例えば150psec長くなる。従って、周期信号CK2は、周期信号CK1よりも遅延時間△t(=△t2−△t1)だけ遅延する。
【0061】
図5に戻って、周期信号CK1,CK2は、選択部55に入力される。そして、選択信号生成部56によって、擬似的に不規則(ランダム)に変化するようにされた選択信号SELが生成されて選択部55へ出力される。さらに、選択部55によって、選択信号SELがハイレベルになると、周期信号CK1がタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力され、選択信号SELがローレベルになると、周期信号CK2がタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力される。
【0062】
そうすると、選択信号SELが立ち下がったタイミングでは、タイミング信号CLKの周期が周期t0より遅延時間△tだけ短い周期t1にされ、選択信号SELが立ち上がったタイミングでは、タイミング信号CLKの周期が周期t0より遅延時間△tだけ長い周期t2にされる。これにより、タイミング信号CLKの周期は、不規則(ランダム)に周期t0,t1,t2に変化する結果、タイミング信号CLKに△tの時間幅でジッタが生じる。
【0063】
この場合、NMOSトランジスタTr13,Tr15のうちオンされるトランジスタの数が多いほど第1遅延回路53における周期信号CK1の遅延時間△t1が増大し、NMOSトランジスタTr23,Tr25のうちオンされるトランジスタの数が多いほど第2遅延回路54における周期信号CK2の遅延時間△t2が増大するので、設定受付部58の設定に応じてジッタの時間幅(△t)を変化させることができ、設定受付部58の設定を変えることによって遅延時間△t(ジッタの時間幅)を、UWB送信信号のピーク電圧を低下させるのに適した値、例えば150psecに設定することができる。
【0064】
なお、NMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26をキャパシタとして用いる例に限られず、NMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26の代わりにキャパシタを用いてもよい。
【0065】
また、第1遅延回路53及び第2遅延回路54は、キャパシタとして機能するMOSトランジスタとスイッチング素子として機能するMOSトランジスタとの対を二つずつ備える例を示したが、このような回路対を三対以上備えていてもよい。また、第1遅延回路53が備える複数の回路対におけるキャパシタの容量をそれぞれ異なる値にしてもよく、第2遅延回路54が備える複数の回路対におけるキャパシタの容量をそれぞれ異なる値にしてもよい。これにより、遅延時間△t1,△t2の設定の自由度を増大させ、すなわちジッタの時間幅(△t)の設定自由度を増大させることができる。
【0066】
また、オンオフ制御部532は、設定受付部58の設定内容に応じてNMOSトランジスタTr13,Tr15,Tr23,Tr25のオンオフを設定する例を示したが、オンオフ制御部532は、NMOSトランジスタTr13,Tr15,Tr23,Tr25をオンさせる際におけるゲート電圧V13,V15,V23,V25を、設定受付部58の設定内容に応じて設定するようにしてもよい。
【0067】
図7(a)は、制御電圧V1,V2が一定でゲート電圧VG(=V13,V15,V23,V25)を変化させた場合における遅延時間△t1,△t2の変化を示すグラフである。また、図7(b)は、制御電圧V1,V2が一定でゲート電圧VG(=V13,V15,V23,V25)を変化させた場合におけるジッタの値△t2−△t1の変化を示すグラフである。
【0068】
図7(a)に示すように、ゲート電圧VGを増大させると、NMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26の充放電時間が短縮されるため遅延時間△t1,△t2が減少する。一方、ゲート電圧VGを減少させると、NMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26の充放電時間が増大されるため遅延時間△t1,△t2が増大する。従って、オンオフ制御部532は、ゲート電圧V13,V15,V23,V25をそれぞれ適宜変化させることにより、遅延時間△t1,△t2を変化させることができる。
【0069】
そして、図7(b)に示すように、遅延時間△t1,△t2の差、すなわち△t2−△t1によってジッタの値が設定されるので、オンオフ制御部532は、ゲート電圧V13,V15,V23,V25をそれぞれ適宜設定することにより、ジッタの値を設定することができる。
【0070】
また、オンオフ制御部532は、例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いてNMOSトランジスタTr13,Tr15,Tr23,Tr25のオンオフ状態を不規則に変化させてもよい。この場合、遅延時間△t1,△t2が擬似的に不規則に変化され、このように遅延時間△t1,△t2が不規則にされてジッタが生じた周期信号CK1,CK2のうちいずれかが選択部55によって擬似的に不規則に選択されてタイミング信号CLKが生成されるので、タイミング信号CLKのジッタの不規則性(乱雑さ)を増大させることができる。
【0071】
同様に、オンオフ制御部532は、例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いてゲート電圧V13,V15,V23,V25を不規則に変化させてもよい。この場合、遅延時間△t1,△t2が擬似的に不規則に変化され、このように遅延時間△t1,△t2が不規則にされてジッタが生じた周期信号CK1,CK2のうちいずれかが選択部55によって擬似的に不規則に選択されてタイミング信号CLKが生成されるので、タイミング信号CLKのジッタの不規則性(乱雑さ)を増大させることができる。
【0072】
図8(a)は、ゲート電圧V13,V15,V23,V25を一定にして制御電圧Vs(=V1,V2)を変化させた場合における遅延時間△t1,△t2の変化を示すグラフである。説明の簡単のため、オンオフ制御部532によって、例えばNMOSトランジスタTr13,Tr24のみがオンされる場合、すなわちNMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26の容量に起因して生じる遅延時間が、周期信号CK1と周期信号CK2とで等しい場合について説明する。
【0073】
図8(a)に示すように、制御電圧Vsの上昇に伴い、遅延時間△t1,△t2が減少する。従って、制御電圧生成部57は、制御電圧V1を調整することにより遅延時間△t1を調整し、制御電圧V2を調整することにより遅延時間△t2を調整することができる。また、図8(b)に示すように、ジッタの値は遅延時間△t1,△t2の差、すなわち△t2−△t1によってジッタの値が設定されるので、制御電圧生成部57は、制御電圧V1,V2をそれぞれ適宜設定することにより、ジッタの値を設定することができる。
【0074】
従って、例えば制御電圧生成部57は、設定受付部58の設定に応じて制御電圧V1,V2を設定するようにすれば、設定受付部58の設定を変えることによって遅延時間△t(ジッタの時間幅)を、UWB送信信号のピーク電圧を低下させるのに適した値、例えば150psecに設定することができる。
【0075】
なお、制御電圧生成部57は、例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いて制御電圧V1,V2を不規則に変化させてもよい。この場合、遅延時間△t1,△t2が擬似的に不規則に変化されるので、このように遅延時間△t1,△t2が不規則にされてジッタが生じた周期信号CK1,CK2のうちいずれかが選択部55によって擬似的に不規則に選択されてタイミング信号CLKが生成され、タイミング信号CLKのジッタの不規則性(乱雑さ)を増大させることができる。
【0076】
次に、データ生成部3から、タイミング信号CLKと同期して送信データSDが変調回路61へ出力される。図9は、送信パルス生成部6の動作を説明するための信号波形図である。まず、変調回路61によって、例えばデータ生成部3から出力された送信データSDとタイミング信号CLKとが乗積されてウルトラワイドバンド方式による変調が施された変調信号S1が生成され、ドライバ部62へ出力される。この場合、タイミング信号CLKに含まれるジッタが、変調信号S1にも含まれる。
【0077】
そして、ドライバ部62によって変調信号S1における駆動電流を増大させた信号が変調信号S2としてステップリカバリダイオード回路63へ出力される。この場合、変調信号S1に含まれるジッタが、変調信号S2にも含まれる。
【0078】
次に、ステップリカバリダイオード回路63に変調信号S2が入力されると、ステップリカバリダイオード回路63によって、変調信号S2の信号立ち下がり部に高周波の信号成分を生じさせることにより、立ち下がりが急峻にされると共にアンダーシュートが生じた変調信号S3が生成される。この場合、変調信号S2に含まれるジッタが、変調信号S3にも含まれる。
【0079】
次に、ステップリカバリダイオード回路63から出力された変調信号S3から、バンドパスフィルタ64によって高周波の信号成分が抽出され、抽出された高周波の信号成分がウルトラワイドバンド通信用のパルス信号S4としてアンテナ4へ出力され、アンテナ4によってパルス信号S4が無線信号として放射される。この場合、パルス信号S4の時間幅は、ウルトラワイドバンド通信に用いられる1ns程度の時間幅が得られると共に、変調信号S3に含まれるジッタが、パルス信号S4にも含まれる。
【0080】
図10は、パルス信号S4にジッタが含まれていない場合におけるパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を示す説明図である。図10において、パルス信号S4における電力密度のピーク値は、パルス信号S4の周波数と、その整数倍の周波数において現れる。送信電力のスペクトラムには、各パルスにおける周波数成分と、各パルスが出力されるタイミングに依存する周波数成分とが含まれている。
【0081】
そして、図10におけるパルス信号S4について、波高値は同一のままジッタを生じさせ、パルスが出力される周期を例えば1〜9%程度変動させると、図11に示すように、各パルスが出力されるタイミングに依存する周波数成分のスペクトラムが拡がる結果、電力密度のピーク値が低下する。従って、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。そして、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができるので、送信距離を維持しつつ周波数成分毎の送信電力を米連邦通信委員会で規定されたスペクトラムマスクSPM以下にすることが容易となる。
【0082】
また、パルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることにより、図11における符号Aで示すように、スペクトラムマスクSPMで規定される電力密度上限値とパルス信号S4の電力密度ピーク値との間における余裕が大きくなれば、図12に示すように、スペクトラムマスクSPMで規定される電力密度上限値を超えない範囲内でパルス信号S4の波高値を増大させて、通信距離を増大させることが可能となる。
【0083】
また、例えばタイミング信号生成部5の製造ばらつき等により、NMOSトランジスタTr14,Tr16,Tr24,Tr26のベースの静電容量にばらつきが生じ、遅延時間△t(ジッタの時間幅)がパルス信号S4のピーク電圧を低下させるのに適した値、例えば150psecと異なる値になった場合であっても、設定受付部58の設定に応じて遅延時間△tを変化させることができるので、設定受付部58の設定を変えることによって遅延時間△t(ジッタの時間幅)をパルス信号S4のピーク電圧を低下させるのに適した値、例えば150psecに設定することができる。
【0084】
なお、第1遅延回路53及び第2遅延回路54を備える例を示したが、例えば図13に示すタイミング信号生成部5aのように、第2遅延回路54を備えず、バッファ52から出力された基準周期信号CK0’と周期信号CK1とのうちいずれか一方を選択してタイミング信号CLKとするようにしてもよい。
【0085】
また、例えば、図14に示すタイミング信号生成部5bのように、第2遅延回路54、選択部55、及び選択信号生成部56を備えず、オンオフ制御部532は、上述したように例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いてNMOSトランジスタTr13,Tr15のオンオフ状態を不規則に変化させることにより、第1遅延回路53における遅延時間△t1を擬似的に不規則に変化させ、ジッタを生じさせた周期信号CK1をタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力するようにしても良い。
【0086】
あるいは、オンオフ制御部532は、例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いてNMOSトランジスタTr13,Tr15のゲート電圧V13,V15を不規則に変化させてもよい。この場合、遅延時間△t1が擬似的に不規則に変化されるので、このように遅延時間△t1が不規則にされてジッタが生じた周期信号CK1がタイミング信号CLKとして用いられ、タイミング信号CLKのジッタの不規則性(乱雑さ)を増大させることができる。
【0087】
これにより、パルス信号S4の出力タイミングにジッタを生じさせ、各パルスが出力されるタイミングに依存する周波数成分のスペクトラムを拡げることにより、電力密度のピーク値を低下させることができるので、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。そして、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができるので、送信距離を維持しつつ周波数成分毎の送信電力を米連邦通信委員会等で規定されたスペクトラムマスクSPM以下にすることが容易となる。
【0088】
また、例えば図15に示すタイミング信号生成部5cのように、第2遅延回路54、選択部55、及び選択信号生成部56を備えず、遅延回路53aは、オンオフ制御部532、NMOSトランジスタTr13,Tr14,Tr15,Tr16を備えず、制御電圧生成部57aは、例えば選択信号生成部56と同様の回路を用いて制御電圧V1を不規則に変化させ、CMOSインバータTr10による配線531に接続された静電容量Cの充放電電流を不規則に変化させることにより、遅延回路53aにおける遅延時間△t1を擬似的に不規則に変化させ、ジッタを生じさせた周期信号CK1をタイミング信号CLKとしてデータ生成部3及び変調回路61へ出力するようにしても良い。
【0089】
これにより、パルス信号S4の出力タイミングにジッタを生じさせ、各パルスが出力されるタイミングに依存する周波数成分のスペクトラムを拡げることにより、電力密度のピーク値を低下させることができるので、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができる。そして、パルス信号S4の波高値を低下させることなくパルス信号S4の周波数成分毎の電力密度を低下させることができるので、送信距離を維持しつつ周波数成分毎の送信電力を米連邦通信委員会等で規定されたスペクトラムマスクSPM以下にすることが容易となる。
【0090】
また、タイミング信号生成部5において、発振回路51で得られた基準周期信号CK0にジッタを生じさせたタイミング信号CLKを、データ生成部3及び送信パルス生成部6へ供給する例を示したが、データ生成部3及び送信パルス生成部6へは、ジッタを含まない基準周期信号CK0を供給し、変調回路61で得られた変調信号S1をタイミング信号生成部5,5a,5b,5cにおける基準周期信号CK0の代わりに用いてジッタを生じさせた信号を、ドライバ部62へ供給する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る無線送信装置及び無線送信回路の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示すタイミング信号発生部の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】図2に示す選択信号生成部の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図1に示すステップリカバリダイオード回路の構成の一例を示す回路図である。
【図5】図2に示すタイミング信号生成部の動作を説明するための説明図である。
【図6】図2に示す第1遅延回路及び第2遅延回路の動作の一例を示す信号波形図である。
【図7】(a)は、図2に示すスイッチング素子のゲート電圧と遅延時間との関係を示すグラフであり、(b)は、図2に示すスイッチング素子のゲート電圧とジッタの値との関係を示すグラフである。
【図8】(a)は、図2に示す信号駆動用スイッチング素子のソース電圧(制御電圧)と遅延時間との関係を示すグラフであり、(b)は、図2に示す信号駆動用スイッチング素子のソース電圧(制御電圧)とジッタとの関係を示すグラフである。
【図9】図1に示す送信パルス生成部の動作を説明するための信号波形図である。
【図10】パルス信号にジッタが含まれていない場合におけるパルス信号の周波数成分毎の電力密度を示す説明図である。
【図11】パルス信号にジッタを生じさせた場合におけるパルス信号の周波数成分毎の電力密度を示す説明図である。
【図12】パルス信号の波高値を増大させた場合におけるパルス信号の周波数成分毎の電力密度を示す説明図である。
【図13】図2に示すタイミング信号発生部の他の一例を示すブロック図である。
【図14】図2に示すタイミング信号発生部の他の一例を示すブロック図である。
【図15】図2に示すタイミング信号発生部の他の一例を示すブロック図である。
【図16】米連邦通信委員会で規定されたスペクトラムマスクを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 無線送信装置
2 無線送信回路
3 データ生成部
4 アンテナ
5,5a,5b,5c タイミング信号生成部
6 送信パルス生成部
51 発振回路
53 第1遅延回路
53a 遅延回路
54 第2遅延回路
55 選択部
56 選択信号生成部
57 制御電圧生成部
57a 制御電圧生成部
58 設定受付部
531,541 配線
532 オンオフ制御部
CK0 基準周期信号
CK1,CK2 周期信号
CLK タイミング信号
S4 パルス信号
SD 送信データ
SEL 選択信号
Tr10,Tr19,Tr20,Tr29 CMOSインバータ
Tr11,Tr17,Tr21,Tr27 PMOSトランジスタ
Tr12〜Tr16,Tr18,Tr22〜Tr26,Tr28 NMOSトランジスタ
V1,V2 制御電圧
t0 周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、
前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させて第1の周期信号を生成する第1の遅延部と、
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号及び前記第1の遅延部により生成された第1の周期信号のうち、いずれか一方を不規則に選択することによりジッタを生じさせたタイミング信号を出力する選択部と、
前記選択部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、
前記第1の遅延部は、
前記基準周期信号を前記選択部へ導く第1の信号経路と、
前記第1の信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタと、
当該スイッチング素子のオンオフ状態を制御するオンオフ制御部とを備えること
を特徴とする無線送信回路。
【請求項2】
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号と同期して、前記送信データを変調して得られた変調信号を出力する変調回路をさらに備え、
前記第1の遅延部及び前記選択部は、前記基準周期信号の代わりに前記変調回路により出力された変調信号を用いること
を特徴とする請求項1記載の無線送信回路。
【請求項3】
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させて第2の周期信号を生成する第2の遅延部をさらに備え、
前記選択部は、前記第1の遅延部により生成された第1の周期信号及び前記第2の遅延部により生成された第2の周期信号のうち、いずれか一方を不規則に選択することによりジッタを生じさせたタイミング信号を出力するものであり、
前記第2の遅延部は、
前記基準周期信号を前記選択部へ導く第2の信号経路と、
前記第2の信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタとを備え、
前記オンオフ制御部は、前記第2の信号経路における信号遅延時間を前記第1の信号経路における信号遅延時間と異ならせるべく前記第2の信号経路に接続された前記複数のスイッチング素子のオンオフ状態をさらに制御すること
を特徴とする請求項1記載の無線送信回路。
【請求項4】
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を変調した変調信号を出力する変調回路をさらに備え、
前記第1及び第2の遅延部は、前記基準周期信号の代わりに前記変調回路により出力された変調信号を用いること
を特徴とする請求項3記載の無線送信回路。
【請求項5】
前記複数のスイッチング素子におけるオンオフ状態の設定を受け付ける設定受付部をさらに備え、
前記オンオフ制御部は、前記設定受付部により受け付けられた設定内容に応じて前記複数のスイッチング素子のオンオフ状態を設定すること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無線送信回路。
【請求項6】
前記オンオフ制御部は、前記複数のスイッチング素子におけるオンオフ状態を、不規則に変化させること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無線送信回路。
【請求項7】
前記複数のスイッチング素子は、MOSトランジスタを用いて構成されており、
前記オンオフ制御部は、前記MOSトランジスタをオンさせる際におけるゲート電圧を、前記設定受付部により受け付けられた設定内容に応じて設定すること
を特徴とする請求項5記載の無線送信回路。
【請求項8】
前記複数のスイッチング素子は、MOSトランジスタを用いて構成されており、
前記オンオフ制御部は、前記MOSトランジスタをオンさせる際におけるゲート電圧を不規則に変化させること
を特徴とする請求項6記載の無線送信回路。
【請求項9】
前記キャパシタは、MOSトランジスタにおけるゲート容量によって構成されていること
を特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無線送信回路。
【請求項10】
前記第1の信号経路における信号遅延時間を調整するための第1の制御電圧を生成する第1の制御電圧生成部をさらに備え、
前記第1の遅延部は、前記基準周期信号に応じて、前記第1の制御電圧生成部により生成された前記第1の制御電圧の前記第1の信号経路への供給をオンオフする第1の信号駆動用スイッチング素子をさらに備えたこと
を特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無線送信回路。
【請求項11】
前記第1の信号駆動用スイッチング素子はCMOSインバータであり、
前記基準周期信号は、当該CMOSインバータのゲートに印加され、
前記第1の制御電圧生成部は、前記第1の制御電圧を当該CMOSインバータにおけるPMOSトランジスタのソースに印加し、
当該PMOSトランジスタのドレインは、前記第1の信号経路に接続されていること
を特徴とする請求項10記載の無線送信回路。
【請求項12】
前記第2の信号経路における信号遅延時間を調整するための第2の制御電圧を生成する第2の制御電圧生成部をさらに備え、
前記第2の遅延部は、前記基準周期信号に応じて、前記第2の制御電圧生成部により生成された前記第2の制御電圧の前記第2の信号経路への供給をオンオフする第2の信号駆動用スイッチング素子をさらに備えたこと
を特徴とする請求項3〜11のいずれかに記載の無線送信回路。
【請求項13】
前記第2の信号駆動用スイッチング素子はCMOSインバータであり、
前記基準周期信号は、当該CMOSインバータのゲートに印加され、
前記第2の制御電圧生成部は、前記第2の制御電圧を当該CMOSインバータにおけるPMOSトランジスタのソースに印加し、
当該PMOSトランジスタのドレインは、前記第2の信号経路に接続されていること
を特徴とする請求項12記載の無線送信回路。
【請求項14】
所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、
前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、
前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させてタイミング信号を生成する遅延部と、
前記遅延部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、
前記遅延部は、
前記基準周期信号を前記タイミング信号として前記送信パルス生成部へ導く信号経路と、
前記信号経路と複数のスイッチング素子を介してそれぞれ接続される複数のキャパシタと、
当該スイッチング素子のオンオフ状態を不規則に変化させるオンオフ制御部とを備えること
を特徴とする無線送信回路。
【請求項15】
所定の周期と同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信回路において、
前記周期を有する周期信号である基準周期信号を生成する基準周期信号生成部と、
所定の遅延時間設定用電圧を不規則に変化させる制御電圧生成部と、
前記制御電圧生成部から出力された遅延時間設定用電圧に応じて、前記基準周期信号生成部から出力された基準周期信号を遅延させてタイミング信号を生成する遅延部と、
前記遅延部から出力されたタイミング信号と同期して、前記送信データを示す前記パルスを出力する送信パルス生成部とを備え、
前記遅延部は、
前記基準周期信号を前記送信パルス生成部へ導く信号経路と、
前記信号経路に接続されるキャパシタと、
前記基準周期信号に応じて、前記制御電圧生成部から出力された遅延時間設定用電圧の前記信号経路への供給をオンオフする信号駆動用スイッチング素子とを備えること
を特徴とする無線送信回路。
【請求項16】
周期的なタイミングと同期したパルスを用いた無線信号により送信データを送信する無線送信装置において、
前記送信データを生成するデータ生成部と、
前記データ生成部により生成された送信データに基づいて、前記送信データを表すパルスを出力する無線送信回路と、
前記無線送信回路により出力されたパルスを放射するアンテナと
を備え、
前記無線送信回路は、請求項1〜15のいずれかに記載の無線送信回路であることを特徴とする無線送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−150565(P2007−150565A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340540(P2005−340540)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】