説明

無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品

【課題】放射導体やグランド導体の取付けを容易なものとし、導体間の接続信頼性の向上を図る。
【解決手段】誘電体ブロック21の第1主面に設けられた放射導体11a,21aと、第2主面に設けられたグランド導体11b,21bと、高周波信号を処理する無線IC素子50と放射導体11a及びグランド導体11bとを接続する給電導体11c,11dと、放射導体21aとグランド導体21bとを接続する短絡導体21cとを含んで構成される。誘電体ブロック21には、金属導体11,21がそれぞれ巻き付けられており、給電導体11c,11dは金属導体11によって構成され、短絡導体21cは金属導体21によって構成され、放射導体11a,21a及びグランド導体11b,21bは金属導体11及び金属導体21で構成されている。放射導体及びグランド導体は少なくとも金属導体11及び金属導体21のいずれか一方で構成されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信デバイス、特にRFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の情報管理システムとして、リーダライタと、物品に付されたRFIDタグ(無線通信デバイスとも称する)とを非接触方式で通信し、所定の情報を伝達するRFIDシステムが実用化されている。このRFIDシステムとしては、13MHz帯の高周波を用いたHF帯、900MHz帯の高周波を用いたUHF帯が一般的に使用されている。通常、HF帯に使用される無線ICタグではコイル状のアンテナが用いられており、UHF帯で使用される無線ICタグではダイポール型アンテナ、ループ型アンテナや逆F型アンテナなど各種のアンテナが用いられている。
【0003】
UHF帯にて使用されている逆F型アンテナとしては、例えば、特許文献1〜4に開示されているように、誘電体基板の表面に平板状の放射導体、裏面に平板状のグランド導体を設けた構造が一般的である。こうした逆F型アンテナは、基板の裏面にグランド導体が設けられているため、タグの取付け対象物品が金属物であっても動作可能であり、また、放射導体をグランド導体に対して所定のギャップを介して平行に設けることができるため、アンテナの小型化、薄型化を実現できる。
【0004】
ところで、特許文献1〜4に開示された逆F型アンテナでは、放射導体と給電回路とを接続するための給電導体や、放射導体とグランド導体とを接続するための短絡導体は、誘電体基板に形成されたスルーホール導体やビアホール導体によって構成されている。
【0005】
しかしながら、スルーホール導体やビアホール導体は、一般に、誘電体基板への貫通孔の形成、該貫通孔へのめっき膜の形成や導電性ペーストの充填といったプロセスが必要で、そのプロセスは煩雑である。また、スルーホール導体やビアホール導体と放射導体やグランド導体のような平面状の導体との電気的接続は信頼性を保持することが困難である。さらに、スルーホール導体やビアホール導体と平面状の導体とは材料が異なるため、接続部における抵抗が大きくなりやすい。しかも、タグが貼着される物品は様々な形状を有し、特に、ガスボンベなど湾曲面にタグを貼着する場合、タグに可撓性が求められるが、誘電体基板の曲げや撓みに追従できるスルーホール導体やビアホール導体を形成するのは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−133847号公報
【特許文献2】特開2006−319496号公報
【特許文献3】特開2008−084308号公報
【特許文献4】特開2009−065318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、放射導体やグランド導体の取付けが容易で導体間の接続信頼性に優れた無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態である無線通信デバイスは、
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイスであって、
前記誘電体ブロックには、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体がそれぞれ巻き付けられており、
前記給電導体は前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって構成され、前記短絡導体は前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって構成され、
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で構成されていること、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第2の形態である無線通信デバイスの製造方法は、
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイスの製造方法であって、
前記誘電体ブロックに、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体をそれぞれ巻き付けることにより、前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって前記給電導体を構成し、前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって前記短絡導体を構成し、
前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で前記放射導体及び前記グランド導体を構成すること、
を特徴とする。
【0010】
本発明の第3の形態である無線通信デバイス付き金属物品は、
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイス付き金属物品であって、
前記誘電体ブロックには、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体がそれぞれ巻き付けられており、
前記給電導体は前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって構成され、前記短絡導体は前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって構成され、
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で構成されていること、
を特徴とする。
【0011】
前記無線通信デバイスにおいては、放射導体及びグランド導体は第1金属導体及び第2金属導体の少なくとも一方で構成されており、給電導体は第1金属導体又は第2金属導体によって構成され、短絡導体は第2金属導体又は第1金属導体によって構成され、誘電体ブロックには第1金属導体及び第2金属導体がそれぞれ巻き付けられているため、換言すれば、スルーホール導体やビアホール導体を形成する必要がないため、製造が容易であり、かつ、導体間の接続信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射導体やグランド導体の取付けが容易で導体間の接続信頼性に優れた無線通信デバイス及び無線通信デバイス付き金属物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例である無線通信デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【図2】第1実施例である無線通信デバイスの等価回路図である。
【図3】第1実施例である無線通信デバイスの製造工程を示す説明図である。
【図4】第1実施例である無線通信デバイスの使用状態を示す斜視図である。
【図5】第1実施例である無線通信デバイスの他の使用状態を示す垂直断面図である。
【図6】第2実施例である無線通信デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【図7】第2実施例である無線通信デバイスの等価回路図である。
【図8】第3実施例である無線通信デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【図9】第3実施例である無線通信デバイスの等価回路図である。
【図10】第4実施例である無線通信デバイスの製造工程を示す説明図である。
【図11】第5実施例である無線通信デバイスを示す水平断面図である。
【図12】第6実施例である無線通信デバイスを示す水平断面図である。
【図13】第7実施例である無線通信デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【図14】第7実施例である無線通信デバイスの製造工程を示す説明図である。
【図15】第8実施例である無線通信デバイスの概略構成を示す斜視図である。
【図16】第8実施例である無線通信デバイスの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
(無線通信デバイスの概略説明)
まず、本発明に係る無線通信デバイスについてその概略を説明する。この無線通信デバイスは、誘電体ブロックに取り付けた逆Fアンテナを備えている。逆Fアンテナは、モノポール型アンテナである放射導体を90°に折り曲げ、さらにその給電点の近傍に短絡導体を設けることによってインピーダンスの整合を図ったアンテナであり、モノポール型アンテナやループ型アンテナに比べて小型化、薄型化が可能である。
【0016】
前記逆F型アンテナは、主に放射素子として機能する放射導体と、該放射導体に対向配置されたグランド導体と、高周波信号を処理する無線通信素子と放射導体及びグランド導体とを接続する給電導体と、放射導体とグランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される。放射導体は誘電体ブロックの第1主面に設けられ、グランド導体は誘電体ブロックの第2主面に設けられている。
【0017】
誘電体ブロックとしては、セラミックや樹脂あるいは紙などを素材とすることができ、特に、ガスボンベのような湾曲面に貼着される無線通信デバイスの場合、可撓性を有することが好ましい。可撓性を有する誘電体ブロックとしては、例えば、シリコン系樹脂、ウレタン系樹脂のような弾性素材(エラストマ)を用いることができる。なお、平面に貼着される無線通信デバイスの場合、必ずしも可撓性を有する必要はなく、セラミックやエポキシ樹脂などの硬質素材を用いることができる。また、誘電体ブロックは第1主面及び第2主面を有する直方体形状であることが好ましいが、これに限定するものではない。平面視で楕円形状や円形状、もしくは中央部にくびれを有するような形状であってもよい。誘電体ブロックは全体が均一な材料で形成されている必要はなく、様々な誘電率を有する誘電体を組み合わせてもよく、内部に空洞を有していてもよい。
【0018】
前記逆F型アンテナにおいて、放射導体、グランド導体、給電導体及び短絡導体は、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体を誘電体ブロックにそれぞれ巻き付けることにより構成される。例えば、給電導体は第1金属導体によって構成され、短絡導体は第2金属導体によって構成され、放射導体及びグランド導体は第1金属導体及び第2金属導体の少なくとも一方で構成される。
【0019】
第1及び第2金属導体は、誘電体ブロックに巻き付けることができるように折り曲げ加工が可能な金属薄板を使用することが好ましい。金属薄板は、硬質なものであってもよいが、特に、ガスボンベのような湾曲面に貼着される無線通信デバイスの場合、可撓性を有することが好ましい。また、第1及び第2金属導体として、金属フープ材のような金属薄板を単独で用いてもよいが、PETなどの基材フィルムに金属箔(銅箔やアルミ箔)をラミネートしたもの、導電性薄膜を成膜したものを用いてもよい。金属材料としては銅や銀を主成分とする比抵抗の小さな材料を好適に用いることができる。
【0020】
前記無線通信デバイスによれば、逆F型アンテナを構成する放射導体、グランド導体、給電導体及び短絡導体を、第1金属導体及び第2金属導体を誘電体ブロックに巻き付けることによって構成しているため、即ち、これらの導体を金属導体の折り曲げ加工によって構成しているため、スルーホール導体やビアホール導体のように、誘電体ブロックに貫通孔を形成したり、該貫通孔へのめっき膜の形成や導電ペーストの充填といった複雑なプロセスを用いる必要がない。また、スルーホール導体やビアホール導体と平面状の金属導体との接続部は電気的抵抗値が大きくなってしまうが、これを解消し、平面状の放射導体やグランド導体の接続信頼性を容易に保つことができる。さらに、無線通信デバイスを貼着する対象物である物品には様々な形状を有しているが、湾曲面に貼着する場合であっても、それぞれの導体の接続信頼性が損なわれることはない。
【0021】
無線通信デバイスにあっては、無線IC素子が搭載されている。この無線IC素子は、信号処理回路やメモリ回路などを有しており、基本的には半導体集積回路チップとして構成されていることが好ましい。無線IC素子としては、ベアチップであってもよく、パッケージICとして構成されていてもよい。無線IC素子は、給電導体に接続され、給電導体に直接的に搭載(即ち、第1金属導体に搭載)されていてもよく、あるいは、高周波線路を介して給電導体に接続されていてもよい。即ち、無線IC素子は誘電体ブロックに取り付けられていてもよく、あるいは、他の基板に設けられていてもよい。また、無線IC素子は半導体集積回路チップを整合回路や共振回路を有する給電回路基板に搭載されたものであってもよい。
【0022】
前記放射導体及びグランド導体は第1金属導体と第2金属導体の両者で構成することができる。特に、放射導体を第1金属導体と第2金属導体の両者で構成する場合、第1金属導体によって構成されている放射導体と第2金属導体によって構成されている放射導体とは互いに容量を介して結合されていることが好ましい。両者が容量を介して結合していると、両者を湾曲させても特性が変化することはない。この結合容量は使用周波数において電気的に直結する容量であることが好ましい。同様に、グランド導体を第1金属導体と第2金属導体の両者で構成する場合、第1金属導体によって構成されているグランド導体と第2金属導体によって構成されているグランド導体とは互いに容量を介して結合されていることが好ましい。両者が容量を介して結合していると、両者を湾曲させても特性が変化することはない。この結合容量は使用周波数において電気的に直結する容量であることが好ましい。
【0023】
なお、第1金属導体と第2金属導体は、放射導体側で容量結合しており、グランド導体側で直流的に接続されていてもよく、放射導体側で直流的に接続されており、グランド導体側で容量結合していてもよい。あるいは、放射導体側及びグランド導体側の両方で直流的に接続されていても構わない。
【0024】
第1金属導体は無線IC素子が内側となるように誘電体ブロックに巻き付けられていることが好ましく、誘電体ブロックには無線IC素子を収容するためのキャビティが設けられていることが好ましい。これにより、誘電体ブロックが無線IC素子の保護材として機能する。
【0025】
誘電体ブロックは隣接して配置された第1ブロック及び第2ブロックから構成されていてもよい。この場合、第1金属導体は第1ブロックの第1主面とその側面とその第2主面とに巻き付けられており、第2金属導体は第1ブロックの第1主面と第2ブロックの第1主面とその側面とその第2主面と第1ブロックの第2主面とに巻き付けられている。
【0026】
また、誘電体ブロックは単一のブロック体から構成されていてもよい。この場合、該誘電体ブロックには第1主面と第2主面とを貫通する貫通穴が設けられており、第1金属導体は誘電体ブロックの第1主面と貫通穴とその第2主面とに巻き付けられており、第2金属導体は誘電体ブロックの第1主面とその側面とその第2主面とに巻き付けられている。
【0027】
一方、第1金属導体は誘電体ブロックの第1主面とその第1側面とその第2主面とに巻き付けられており、第2金属導体は誘電体ブロックの第1主面とその第2側面とその第2主面とに巻き付けられていてもよい。
【0028】
前記無線通信デバイスの製造方法は、第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と放射導体及びグランド導体とを接続する給電導体と、放射導体とグランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイスの製造方法であって、誘電体ブロックに、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体をそれぞれ巻き付けることにより、第1金属導体によって給電導体を構成し、第2金属導体によって短絡導体を構成し、第1金属導体及び第2金属導体の少なくとも一方で放射導体及びグランド導体を構成する。
【0029】
前記無線通信デバイスは、主としてUHF帯のRFIDシステムに用いられるが、サイズなどに応じてHF帯やそれ以下の周波数帯のRFIDシステムに用いることができ、あるいは、UHF帯よりも高周波側の帯域を利用したRFIDシステムに用いることも可能である。
【0030】
ところで、前記無線通信デバイスは、特に、金属物品に貼着することにより無線通信デバイス付き金属物品として構成することができる。無線通信デバイスをそのグランド導体を金属面に向けて接着剤などを介して貼着することにより、グランド導体と金属物品とが容量を介して結合する。この容量は使用周波数において電気的に直結する容量であればよい。なお、グランド導体と金属物品とは直接電気的に接続されていてもよい。
【0031】
(第1実施例、図1〜図5参照)
第1実施例である無線通信デバイス1Aは、図1に示すように、第1金属導体11と第2金属導体21と無線IC素子50とを備えている。第1金属導体11にて上段に水平に位置する放射導体11aと下段に水平に位置するグランド導体11bが構成され、さらに、放射導体11aの端部が折り曲げられて給電導体11cが構成され、グランド導体11bの端部が折り曲げられて給電導体11dが構成されている。第2金属導体21にて前記放射導体11aと平行に位置する放射導体21aと前記放射導体11bと平行に位置するグランド導体21bが構成され、さらに、放射導体21aとグランド導体21bの端部が折り曲げられて短絡導体21cが構成されている。
【0032】
無線IC素子50は、RF信号を処理するもので、給電導体11c,11dに接合されている。具体的には、図3(A)に拡大部分として示すように、給電導体11c,11dはクランク状のギャップ12によって分割されており、無線IC素子50の一対の入出力電極(図示せず)は給電導体11c,11dの対向する部分12a,12bに接合されている。この接合は、半田バンプなどによる電気的な直接結合(DC接続)であるが、電磁界結合であってもよい。
【0033】
ここで、無線通信デバイス1Aの構成をその製造方法とともに説明する。まず、図3(A)に示す誘電体ブロック31及び支持フィルム15の表面に設けた第1金属導体11、並びに、図3(D)に示すいま一つの誘電体ブロック35及び支持フィルム25の表面に設けた第2金属導体21を準備する。第1金属導体11の給電導体11c,11dには無線IC素子50が既に接合されている。これらの各部材の材料は前述のものが使用されている。
【0034】
第1の工程としては、図3(B)に示すように、誘電体ブロック31の上面から側面及び下面にわたって第1金属導体11を保持した支持フィルム15を巻き付けるようにして接着する。このとき、給電導体11c,11dは誘電体ブロック31の側面に位置する。次に、第2の工程として、図3(C),(D)に示すように、誘電体ブロック31の側面にいま一つの誘電体ブロック35を隣接させた状態で、第2金属導体21を保持した支持フィルム25を、誘電体ブロック31の上面と誘電体ブロック35の上面とその側面とその下面にわたって巻き付けるようにして接着する。このとき、短絡導体21cは誘電体ブロック35の側面に位置する。接着剤は支持フィルム15,25の裏面に塗布されているが、誘電体ブロック31,35の表面に塗布されていてもよく、あるいは両面接着テープを使用してもよい。なお、第1及び第2金属導体11,21がその折曲げ形状を保持できる材料で形成されていれば、接着剤は必ずしも必要ではない。また、誘電体ブロック31,35の間も接着するようにしてもよい。
【0035】
以上のごとく製造された無線通信デバイス1Aは図3(E)に示す外観をなしている。無線IC素子50は第1金属導体11の外側に接合されており、かつ、第1金属導体11を誘電体ブロック31に巻き付けた際、該ブロック31の側面に配置される。一方、誘電体ブロック35にはキャビティ36が形成されており、無線IC素子50はこのキャビティ36に収容されることになる。
【0036】
本無線通信デバイス1Aにあっては、図2(A)に示すように、上段で重ねられている放射導体11a,21aは互いに容量C1を介して結合されており、下段で重ねられているグランド導体11b,21bは互いに容量C2を介して結合されている。これらの容量C1,C2は使用周波数において電気的に直結する容量であるため、図2(B)の等価回路に示す逆F型アンテナとして機能する。ここで、給電導体11c,11dと短絡導体21cと第2金属導体21で構成される放射導体21aの一部とグランド導体21bとの一部とでループ電流経路iが形成される。また、逆F型アンテナとしての有効長さはLである。
【0037】
前記ループ電流経路iは、無線IC素子50と放射導体11a,21aとのインピーダンスの整合に寄与する。そして、放射導体11a,21aの幅寸法や長さ、給電導体11c,11d及び短絡導体21cの接続位置、給電導体11c,11d及び短絡導体21cの幅寸法や長さ、放射導体11a,21aとグランド導体11b,21bとの間隔などで、共振周波数や共振抵抗、動作帯域などのアンテナ特性が規定される。
【0038】
本無線通信デバイス1Aは、図4に示すように、金属物品61の表面に貼着されて使用される(無線通信デバイス付き金属物品とも称することができる)。この場合、第2金属導体21で構成されるグランド導体21bが金属物品61に直接電気的に接続されることになり、放射特性としては金属物品61の法線方向に指向性が生じ、RFIDシステムのリーダライタとの通信が可能である。
【0039】
また、無線通信デバイス1Aは、図5に示すように、樹脂製の保護ケース60に収容した状態で金属物品61の表面に接着剤62を介して貼着されてもよい(無線通信デバイス付き金属物品とも称することができる)。この場合、グランド導体11b,21bは金属物品61に対して保護ケース60の底部60a及び接着剤62を介して容量結合することになる。この容量は使用周波数において電気的に直結する容量であることが好ましい。
【0040】
この無線通信デバイス付き金属物品にあっては、保護ケース60を使用することで、無線通信デバイス1Aの耐環境性が良好なものとなる。なお、図4及び図5では、金属物品61を本無線通信デバイス1Aの補助的な放射素子として使用する形態を示しているが、本無線通信デバイス1Aは金属と結合させることなく、単独でもリーダライタと比較的短い距離ではあるが通信が可能である。
【0041】
(第2実施例、図6及び図7参照)
第2実施例である無線通信デバイス1Bは、図6に示すように、給電導体と短絡導体との配置を入れ替えたものである。即ち、第1金属導体11にて構成されている放射導体11aとグランド導体11bの端部が折り曲げられて短絡導体11eが構成されている。第2金属導体21にて構成される放射導体21aの端部が折り曲げられて給電導体21dが構成され、グランド導体21bの端部が折り曲げられて給電導体21eが構成されている。他の構成は、前記第1実施例と同様である。
【0042】
本無線通信デバイス1Bにあっても、図7(A)に示すように、上段で重ねられている放射導体11a,21aは互いに容量C1を介して結合されており、下段で重ねられているグランド導体11b,21bは互いに容量C2を介して結合されている。これらの容量C1,C2は使用周波数において電気的に直結する容量であるため、図7(B)の等価回路に示す逆F型アンテナとして機能する。ここで、給電導体21d,21eと短絡導体11eと第2金属導体21で構成される放射導体21aの一部とグランド導体21bの一部とでループ電流経路iが形成される。また、逆F型アンテナとしての有効長さはLである。
【0043】
(第3実施例、図8及び図9参照)
第3実施例である無線通信デバイス1Cは、図8に示すように、第2金属導体21で構成される放射導体21a及びグランド導体21bの長さを短くし、該放射導体21a及びグランド導体21bの端部を第1金属導体11で構成される放射導体11a及びグランド導体11bに接合(DC接続)したもので、他の構成は前記第1実施例と同様である。本第3実施例の等価回路は図9に示すとおりであり、図2に示した第1実施例の等価回路を同様である。
【0044】
(第4実施例、図10参照)
第4実施例である無線通信デバイス1Dは、図10に示すように、単一の誘電体ブロック40を用い、該誘電体ブロック40には上下の面に貫通する貫通穴41が形成されている。この無線通信デバイス1Dは、図10(A)に示す誘電体ブロック40及び支持フィルム15の表面に設けた第1金属導体11、並びに、図10(D)に示す支持フィルム25の表面に設けた第2金属導体21を準備する。第1金属導体11の給電導体11c,11dには無線IC素子50が既に接合されている。
【0045】
第1の工程としては、図10(B),(C)に示すように、第1金属導体11の放射導体11aを誘電体ブロック40の上面に重ね合わせるとともに、給電導体11c,11dを貫通穴41に挿入し、グランド導体11bを誘電体ブロック40に下面に重ね合わせ、誘電体ブロック40に巻き付けるようにして接着する。次に、第2の工程として、図10(D),(E)に示すように、第2金属導体21を誘電体ブロック40の上面とその側面とその下面にわたって巻き付けるようにして接着する。本第4実施例は貫通穴41を形成した単一の誘電体ブロック40を用いる点で前記第1実施例と異なっており、それ以外の構成は第1実施例と同様である。
【0046】
(第5実施例、図11参照)
第5実施例である無線通信デバイス1Eは、水平断面図である図11に示すように、無線IC素子50が第1金属導体11の内側に接合されており、第1金属導体11を誘電体ブロック31に巻き付けた状態で無線IC素子50は誘電体ブロック31の側面に形成したキャビティ32に収容されている。その他の構成は前記第1実施例と同様である。
【0047】
(第6実施例、図12参照)
第6実施例である無線通信デバイス1Fは、水平断面図である図12に示すように、無線IC素子50が第2金属導体21の内側に接合されており、第2金属導体21を誘電体ブロック35に巻き付けた状態で無線IC素子50は誘電体ブロック35の側面に形成したキャビティ37に収容されている。その他の構成は前記第2実施例と同様である。
【0048】
(第7実施例、図13及び図14参照)
第7実施例である無線通信デバイス1Gは、図13に示すように、第1金属導体11の側部に給電導体11f,11gを構成し、該給電導体11f,11gに無線IC素子50を接合したものである。
【0049】
詳しくは、図14(A)に示す単一の誘電体ブロック40及び支持フィルム15の表面に設けた第1金属導体11、並びに、図14(C)に示す支持フィルム25の表面に設けた第2金属導体21を準備する。第1金属導体11の給電導体11f,11gには無線IC素子50が既に接合されている。
【0050】
第1の工程としては、図14(B)に示すように、第1金属導体11の放射導体11aを誘電体ブロック40の上面に重ね合わせるとともに、給電導体11f,11gを誘電体ブロック40の手前側側面に重ね合わせ、グランド導体11bを誘電体ブロック40に下面に重ね合わせ、誘電体ブロック40に巻き付けるようにして接着する。次に、第2の工程として、図14(C),(D)に示すように、第2金属導体21を誘電体ブロック40の上面とその側面とその下面にわたって巻き付けるようにして接着する。
【0051】
(第8実施例、図15及び図16参照)
第8実施例である無線通信デバイス1Hは、図15に示すように、第2金属導体21の外側に第1金属導体11を配置したものである。即ち、第1の工程としては、図16(A)に示すように、第2金属導体21を単一の誘電体ブロック40に巻き付けるようにして接着する。次に、図16(B),(C)に示すように、第2の工程として、第1金属導体11の放射導体11aを第2金属導体21の放射導体21aの上に重ね合わせ、給電導体11f,11gを誘電体ブロック40の手前側側面に重ね合わせ、グランド導体11bを第2金属導体21のグランド導体21bの上に重ね合わせ、誘電体ブロック40に巻き付けるようにして接着する。
【0052】
(他の実施例)
なお、本発明に係る無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明は、無線通信デバイス、その製造方法及び無線通信デバイス付き金属物品に有用であり、特に、放射導体やグランド導体の取付けが容易で導体間の接続信頼性が向上する点で優れている。
【符号の説明】
【0054】
1A〜1H…無線通信デバイス
11…第1金属導体
11a…放射導体
11b…グランド導体
11c,11d…給電導体
11e…短絡導体
11f,11g…給電導体
21…第2金属導体
21a…放射導体
21b…グランド導体
21c…短絡導体
21d,21e…給電導体
31,35,40…誘電体ブロック
32,36,37…キャビティ
41…貫通穴
50…無線IC素子
60…保護ケース
61…金属物品
62…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイスであって、
前記誘電体ブロックには、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体がそれぞれ巻き付けられており、
前記給電導体は前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって構成され、前記短絡導体は前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって構成され、
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で構成されていること、
を特徴とする無線通信デバイス。
【請求項2】
前記第1金属導体には前記無線IC素子が搭載されており、
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第2金属導体にて構成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の無線通信デバイス。
【請求項3】
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第1金属導体によっても構成されていること、を特徴とする請求項2に記載の無線通信デバイス。
【請求項4】
前記第1金属導体によって構成されている前記放射導体と前記第2金属導体によって構成されている前記放射導体とは互いに容量を介して結合されていること、を特徴とする請求項3に記載の無線通信デバイス。
【請求項5】
前記第1金属導体によって構成されている前記グランド導体と前記第2金属導体によって構成されている前記グランド導体とは互いに容量を介して結合されていること、を特徴とする請求項3又は請求項4に記載の無線通信デバイス。
【請求項6】
前記誘電体ブロックは可撓性を有する材料にて形成されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線通信デバイス。
【請求項7】
前記第1金属導体は前記無線IC素子が内側となるように前記誘電体ブロックに巻き付けられており、
前記誘電体ブロックには前記無線IC素子を収容するためのキャビティが設けられていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の無線通信デバイス。
【請求項8】
前記誘電体ブロックは隣接して配置された第1ブロック及び第2ブロックからなり、
前記第1金属導体は前記第1ブロックの第1主面とその側面とその第2主面とに巻き付けられており、
前記第2金属導体は前記第1ブロックの第1主面と前記第2ブロックの第1主面とその側面とその第2主面と前記第1ブロックの第2主面とに巻き付けられていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線通信デバイス。
【請求項9】
前記誘電体ブロックは単一のブロック体からなり、該誘電体ブロックには第1主面と第2主面とを貫通する貫通穴が設けられており、
前記第1金属導体は前記誘電体ブロックの第1主面と前記貫通穴とその第2主面とに巻き付けられており、
前記第2金属導体は前記誘電体ブロックの第1主面とその側面とその第2主面とに巻き付けられていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線通信デバイス。
【請求項10】
前記第1金属導体は前記誘電体ブロックの第1主面とその第1側面とその第2主面とに巻き付けられており、
前記第2金属導体は前記誘電体ブロックの第1主面とその第2側面とその第2主面とに巻き付けられていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の無線通信デバイス。
【請求項11】
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイスの製造方法であって、
前記誘電体ブロックに、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体をそれぞれ巻き付けることにより、前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって前記給電導体を構成し、前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって前記短絡導体を構成し、
前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で前記放射導体及び前記グランド導体を構成すること、
を特徴とする無線通信デバイスの製造方法。
【請求項12】
第1主面及び該第1主面と対向する第2主面を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの第1主面に設けられた放射導体と、前記誘電体ブロックの第2主面に設けられたグランド導体と、高周波信号を処理する無線IC素子と前記放射導体及び前記グランド導体とを接続する給電導体と、前記放射導体と前記グランド導体とを接続する短絡導体とを含んで構成される逆F型アンテナを備えた無線通信デバイス付き金属物品であって、
前記誘電体ブロックには、互いに別体に形成された第1金属導体及び第2金属導体がそれぞれ巻き付けられており、
前記給電導体は前記第1金属導体又は前記第2金属導体によって構成され、前記短絡導体は前記第2金属導体又は前記第1金属導体によって構成され、
前記放射導体及び前記グランド導体は前記第1金属導体及び前記第2金属導体の少なくとも一方で構成されていること、
を特徴とする無線通信デバイス付き金属物品。
【請求項13】
前記金属物品と前記グランド導体とは直接電気的に接続していること、を特徴とする請求項12に記載の無線通信デバイス付き金属物品。
【請求項14】
前記金属物品と前記グランド導体とは容量を介して結合していること、を特徴とする請求項12に記載の無線通信デバイス付き金属物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−253699(P2012−253699A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126852(P2011−126852)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】