説明

無線通信装置

【課題】消費電力を低減した無線通信装置を提供する。
【解決手段】送信信号をデジタル形式からアナログ形式に変換するD/A変換器12と、D/A変換器12から出力される送信信号を増幅して出力する増幅器14と、増幅器14から出力される増幅後の送信信号をアナログ形式からデジタル形式に変換するA/D変換器19と、増幅後の送信信号を受け、歪み補償を行う歪補償部5と、増幅後の送信信号における歪補償すべき帯域を検出する歪帯域検出部7とを備え、歪帯域検出部7で検出された歪補償すべき帯域に基づいて、D/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信装置に関し、特に、送信信号の歪補償処理を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置においては、例えば特許文献1に開示されるように、電力増幅部で増幅された送信信号の歪みを補償するために、DPD(Digital Pre-Distortion)と呼称されるデジタル処理での歪み補償処理が提案されている。
【0003】
特許文献1においては、増幅器の入出力特性において、歪みが小さく線形性を示す領域では補償すべき歪補正量のサンプリング間隔は広く取り、歪みが大きく非線形性を示す領域では補償すべき歪補正量のサンプリング間隔を狭くすることで、記憶すべき歪補償量のデータを少なくするという構成を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−135349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歪みを補償するためには、通信帯域だけでなく歪補償すべき帯域(歪帯域)の信号も必要である。この歪帯域は、送信出力(送信パワー)が大きくなれば広くなり、送信パワーによっては通信帯域よりもかなり広くなる。そして、処理すべき帯域が広ければ広いほど、高速に動作するD/A変換器、A/D変換器が必要となり、さらに演算装置での計算量も多くなり、消費電力も高くなるという問題があった。
【0006】
上述した特許文献1では、歪補償のために記憶すべき歪補償量のデータを少なくすることで、メモリの容量を減らす技術については開示されているが、上述したような問題については解決できていない。
【0007】
本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、消費電力を低減した無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る無線通信装置は、送信信号をデジタル形式からアナログ形式に変換するD/A変換器と、前記D/A変換器から出力される送信信号を増幅して出力する増幅器と、前記増幅器から出力される増幅後の送信信号をアナログ形式からデジタル形式に変換するA/D変換器と、前記増幅後の送信信号を受け、歪み補償を行う歪補償部と、前記増幅後の送信信号における歪補償すべき帯域を検出する歪帯域検出部とを備え、前記歪帯域検出部で検出された前記歪補償すべき帯域に基づいて、前記D/A変換器および前記A/D変換器のサンプリング周波数を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る無線通信装置によれば、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】送信信号のスペクトラム波形を概念的に示す図である。
【図2】送信信号のスペクトラム波形を概念的に示す図である。
【図3】送信信号のスペクトラム波形を概念的に示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図5】D/A変換器およびA/D変換器のサンプリング周波数の変更動作を説明するフローチャートである。
【図6】送信パワーに対する歪補償に必要な帯域のテーブルについて説明する。
【図7】増幅器の入出力特性を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態の無線通信装置の変形例1の構成を示すブロック図である。
【図9】D/A変換器およびA/D変換器のサンプリング周波数の変更動作を説明するフローチャートである。
【図10】本発明に係る実施の形態の無線通信装置の変形例2の構成を示すブロック図である。
【図11】D/A変換器およびA/D変換器のサンプリング周波数の変更動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態>
まず、送信信号のスペクトラム波形を概念的に示す図1〜図3を用いて、通信帯域と歪補償すべき帯域との関係について説明する。
【0012】
図1は、通信帯域が比較的広い場合の送信信号のスペクトラム波形を示し、横軸に周波数を、縦軸に送信パワーを示している。
【0013】
図1において、スペクトラム波形は、中央部において突出し、その頂上部が平坦となった山状の形状を示し、山裾の部分は傾斜している。このようなスペクトラム波形において、中央部の突出部分の幅Aが通信帯域に相当し、山裾の部分を含めたスペクトラム波形の全体の幅Bが歪補償に必要な帯域に相当する。そして、山裾の部分に相当する幅Cおよび幅Dに相当する帯域が歪補償すべき帯域(歪帯域)である。
【0014】
この幅Cおよび幅Dに相当する歪帯域は、通信帯域が広くなれば広くなり、また送信パワーが大きくなれば広くなる。
【0015】
図2は、通信帯域が比較的狭い場合の送信信号のスペクトラム波形を示しており、通信帯域が狭い場合には、歪帯域も狭くなる。
【0016】
図3は、送信パワーが比較的大きなスペクトラム波形SP1(実線表示)と、スペクトラム波形SP1よりも送信パワーが小さなスペクトラム波形SP2(破線表示)とを示している。なお、両スペクトラム波形においては通信帯域は同じである。
【0017】
図3より、通信帯域が同じであれば、送信パワーによって歪帯域が増減し、通信帯域を固定すれば、送信パワーに応じて歪帯域が決まることが判る。
【0018】
<装置構成>
図4は、実施の形態に係る無線通信装置100の構成を示すブロック図である。図4に示すように、無線通信装置100は、制御部1と、無線通信部RXと、デジタル処理部DPとを備え、無線通信部RXとデジタル処理部DPとの間では、D/A変換器12、A/D変換器19および21によってデジタルデータおよびアナログデータの授受を行う構成となっている。
【0019】
無線通信部RXは、アンテナATで受信された搬送帯域の受信信号を基底帯域の受信信号に変換し、当該基底帯域の受信信号を出力する。また、無線通信部RXは、D/A変換器12から出力される基底帯域の送信信号を搬送帯域の送信信号に変換し、当該搬送帯域の送信信号をアンテナATから無線送信する。
【0020】
D/A変換器12は、デジタル処理部DPから出力される送信信号をデジタル形式からアナログ形式に変換して出力する。A/D変換器19および21は、無線通信部RXから出力される受信信号をアナログ形式からデジタル形式に変換して出力する。
【0021】
デジタル処理部DPは、送信用の送信データを含むデジタル形式の送信信号を生成し、当該送信信号をD/A変換器12に入力する。また、デジタル処理部DPは、A/D変換器19から出力される受信信号に含まれる受信データを取得する。
【0022】
無線通信装置100の構成をより詳細に説明すると、無線通信部RXは、アンテナAT、D/A変換器12の出力を受けるミキサ13、ミキサ13の出力を受ける増幅器14、増幅器14の出力を受ける分岐カプラ15および分岐カプラ15の一方の出力を受ける選択スイッチ16を備えている。さらに、無線通信部RXは、選択スイッチ16の出力を受けるミキサ20、分岐カプラ15の他方の出力を受けるミキサ18を備えている。また、無線通信部RXは、ミキサ13、18および21に乗算するための出力信号を供給する局部発振器17を備えている。
【0023】
ミキサ13は、D/A変換器12から出力される送信信号と、局部発振器17の出力信号とを乗算する。増幅器14は、ミキサ13から出力される送信信号を増幅して出力する。
【0024】
ミキサ13から出力される搬送帯域の送信信号は、増幅器14によって増幅され、増幅器14で増幅された送信信号は分岐カプラ15によって2つに分岐して、一方の送信信号は選択スイッチ16に与えられ、他方の送信信号はミキサ18に与えられる。
【0025】
選択スイッチ16は、分岐カプラ15から出力される送信信号をアンテナATから送信するのか、アンテナATで受信された受信信号をミキサ20に入力するのかを選択するスイッチであり、分岐カプラ15から出力される送信信号は端子Aから入力され、アンテナATで受信された受信信号は端子Bを介して出力される。従って、選択スイッチ16は、分岐カプラ15から出力される送信信号をアンテナATから送信する場合には端子Aを選択するように切り替えられ、アンテナATで受信された受信信号を出力する場合には、端子Bを選択するように切り替えられる。なお、選択スイッチ16の切り替え動作は、制御部1によって制御される。
【0026】
A/D変換器19は、ミキサ18の出力信号をアナログ形式からデジタル形式に変換する。すなわち、分岐カプラ15から送信信号がミキサ18に与えられた場合、A/D変換器19には、送信系回路からフィードバックされる増幅器14の出力信号がダウンコンバートされて入力される。
【0027】
また、A/D変換器21は、ミキサ21の出力信号をアナログ形式からデジタル形式に変換する。すなわち、選択スイッチ16がアンテナATで受信された受信信号を出力する場合には、A/D変換器21には、当該受信信号がダウンコンバートされて入力される。
【0028】
デジタル処理部DPは、CPUやメモリなどで構成されており、機能ブロックとして、送信信号生成部2、通信帯域決定部3、送信信号調整部4、DPD部5、クロック変更部6、通信帯域・送信パワー監視部7、クロック発振器8、変調部11、復調部22および23、受信処理部24を備えている。
【0029】
制御部1は、無線通信装置100内の各部を制御し、送信信号生成部2は、送信用の送信データを含む、デジタル形式の送信信号SSを生成して出力する。
【0030】
送信信号SSは、通信帯域決定部3および信号帯域変換部4を介してDPD部5に与えられる。
【0031】
DPD部5(歪補償部)は、増幅器14で増幅された送信信号の歪みを補償するための歪補償値が登録された歪補償値テーブルを記憶しており、この歪補償値テーブルに基づいて、送信信号SSの振幅および位相を調整することによって当該送信信号SSを補償する。
【0032】
DPD部5には、A/D変換器19、復調部22を介して増幅器14で増幅された送信信号がフィードバックされ、DPD部5では、増幅された送信信号と、増幅前の送信信号SSとに基づいて、増幅された送信信号の歪みを推定し、その推定結果に基づいて上記歪補償値テーブルを作成する。
【0033】
DPD部5で補償された送信信号は変調部11に与えられて変調され、D/A変換器12に与えられる。
【0034】
なお、本発明においてはDPD部5の構成に限定はなく、上述した構成は一例に過ぎず、DPDを実現できるのであればどのような構成を採用しても良い。
【0035】
また、復調部23にはA/D変換器21の出力が与えられ、復調部23で復調されて受信処理部24に与えられる。すなわち、選択スイッチ16がアンテナATで受信された受信信号を出力する場合には、A/D変換器21を介してダウンコンバートされた受信信号が復調部23に与えられ、受信処理部24において受信信号に含まれる受信データを取得する。
【0036】
通信帯域決定部3は、送信信号SSの通信帯域を決定するとともに、その情報を通信帯域・送信パワー監視部7に与えるように構成されている。
【0037】
通信帯域・送信パワー監視部7は、分岐カプラ15の一方の出力である増幅された送信信号の送信パワーおよび通信帯域決定部3で決定された通信帯域の情報を受けて、記憶部71に格納された、通信帯域ごとに送信パワーを変化させて得られた歪補償に必要な帯域のテーブルに基づいて、歪補償に必要な帯域を導出する。そして、得られた歪補償に必要な帯域に基づいて歪帯域を決定し、得られた歪帯域に適したサンプリング周波数となるように、D/A変換器12およびA/D変換器19にクロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更するように、クロック変更部6に対する制御を行う。なお、通信帯域・送信パワー監視部7は、最終的には歪帯域を決定するので歪帯域決定部と呼称することができる。また、図4においては、記憶部71は通信帯域・送信パワー監視部7とは別個の構成として示されているが、通信帯域・送信パワー監視部7内に含まれる構成であっても良い。
【0038】
ここで、クロック変更部6としては、例えば、クロック発振器8から与えられるクロック信号を受けて、所定の周波数の信号を出力するフリップフロップ回路で構成されるシフトレジスタで実現することが考えられる。出力する信号の周波数が異なる複数のシフトレジスタを準備しておき、通信帯域・送信パワー監視部7からの指示に基づいて、複数のシフトレジスタを切り替えて、所望の周波数の出力信号を得る構成とし、当該出力信号を周波数が変更されたクロック信号として使用すれば良い。なお、クロック変更部6をフリップフロップ回路で構成されるシフトレジスタで実現することは一例に過ぎず、他の構成を用いても良いことは言うまでもない。
【0039】
クロック変更部6により周波数が変更されたクロック信号は、送信信号調整部4、DPD部5、D/A変換器12およびA/D変換器19に与えられる。なお、通信帯域・送信パワー監視部7から、クロック周波数の変更指示が出されない場合は、クロック発振器8から出力されるクロック信号が送信信号調整部4、DPD部5、D/A変換器12およびA/D変換器19に与えられるように構成されている。
【0040】
なお、送信信号SSは、送信信号生成部2において所定の周波数のクロック信号(クロック発振器8から供給される)に基づいて作成されているので、クロック変更部6によりクロック信号の周波数が変更された場合には、その周波数に合わせて送信信号調整部4において送信信号SSの調整を行う。
【0041】
<動作>
次に、図5に示すフローチャートを用いて、無線通信装置100におけるD/A変換器12およびA/D変換器19でのサンプリング周波数の変更動作について説明する。
【0042】
送信動作を開始すると、送信信号生成部2から出力された送信信号SSに対して、通信帯域決定部3において通信帯域が決定され、その情報は通信帯域・送信パワー監視部7に与えられ、通信帯域・送信パワー監視部7において通信帯域を検出する(ステップS1)。
【0043】
その後、送信信号SSは、送信信号調整部4、DPD部5、変調部11およびD/A変換器12を介して無線通信部RXに与えられ、増幅器14で増幅されて分岐カプラ15から出力される。この増幅された送信信号が通信帯域・送信パワー監視部7に与えられ、その送信パワーが検出される(ステップS2)。
【0044】
通信帯域・送信パワー監視部7では、記憶部71に格納された、通信帯域ごとに送信パワーを変化させて得られた歪補償に必要な帯域のテーブルに基づいて、歪補償に必要な帯域を導出する。
【0045】
ここで、図6を用いて、送信パワーに対する歪補償に必要な帯域のテーブルについて説明する。図6は、通信帯域が10MHzの場合と、20MHzの場合において、送信パワーを−6dBm〜−25dBmの範囲で変化させた場合の歪補償に必要な帯域を示すテーブルであり、実測により求めたテーブルである。
【0046】
図6は、送信パワーが大きくなればなるほど歪補償に必要な帯域が広くなり、また、信号帯域が広くなれば、歪補償に必要な帯域も広くなることを示している。従って、通信帯域を固定すれば、送信パワーに応じて歪補償に必要な帯域が決まるので、このようなテーブルを用いることで、通信帯域と送信パワーが判れば、歪補償に必要な帯域を導出することが容易にできる。
【0047】
なお、上記においては、通信帯域が10MHzの場合と、20MHzの場合を示したが、これは一例であり、PHS(Personal Handyphone System)であれば、5MHz、15MHzなどの通信帯域も使用するので、それらについても同様のテーブルを作成し、また、他の通信方式を採用する場合には、その通信方式に適応した通信帯域について同様のテーブルを作成しておけば良い。
【0048】
また、上記テーブルは、予め準備したものを固定的に使用しても良いが、適宜、更新したものを使用しても良い。
【0049】
通信帯域・送信パワー監視部7では、歪補償に必要な帯域を導出した後、それに基づいて歪補償すべき帯域(歪帯域)を決定する(ステップS3)。この決定は、最も単純には、歪補償に必要な帯域値から通信帯域値を差し引くことで行う。すなわち、例えば、通信帯域10MHzで、送信パワーが−6dBmであれば、歪補償に必要な帯域値は図6のテーブルから54.4MHzであることが判る。これから通信帯域値10MHzを差し引けば歪帯域は44.4MHzとなる。なお、歪帯域を決定した場合はステップS4に進み、歪帯域を決定するまでステップS1〜S3の動作を繰り返す。
【0050】
次に、通信帯域・送信パワー監視部7では、得られた歪帯域に基づいて、D/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定する(ステップS4)。具体的には、クロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更することで、所望のサンプリング周波数を得る。
【0051】
ここで、サンプリング周波数は、増幅器14の入出力特性に基づいて決定される。図7に、増幅器14の入出力特性を示す。図7において、横軸に入力信号レベルを、縦軸に出力信号レベルを示し、実線の特性C1が実際の入出力特性を示し、破線の特性C2が理想的な入出力特性を示している。図7より、入力が比較的小さい場合は特性C1と特性C2とは線形性を示し、両者は良く一致しているが、入力が大きくなると特性C2からのずれが大きくなることが判る。この特性C2からのずれが歪みの原因となるので、DPD部5では、特性C1を相殺するように、特性C2に対して線対称な補償信号を与えることで歪補償を行い、特性C1に近い特性を得るようにしている。
【0052】
本実施の形態では、ステップS3で算出した歪帯域が、図7に示すような入出力特性のどの部分に相当するかによってサンプリング周波数を決定する。例えば、算出した歪帯域が、特性C2からのずれが比較的小さく、線形性を有する部分の近傍に相当するのであれば、サンプリング周波数は比較的低くしてサンプリングデータを少なくする。一方、算出した歪帯域が、特性C2からのずれが比較的大きい場合には、サンプリング周波数は比較的高く設定してサンプリングデータを多くする。
【0053】
ここで、歪帯域と入出力特性との関係、入出力特性とサンプリング周波数との関係、サンプリング周波数とクロック信号の周波数との関係を予め求めておけば、歪帯域を得ることで、サンプリング周波数を一義的に決定することができる。
【0054】
ステップS4でサンプリング周波数を決定した後は、当該サンプリング周波数でD/A変換およびA/D変換を行うものとし、送信データの送信が完了した場合には送信動作を終了し、未送信の送信データがある場合にはステップS1以下の動作を繰り返す。
【0055】
以上説明したように、送信パワーに対する歪補償に必要な帯域のテーブルに基づいて、歪補償すべき帯域(歪帯域)を算出し、当該歪帯域に合わせてD/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定することで、D/A変換器12およびA/D変換器19で処理すべきデータ数を制限することができ、D/A変換器12およびA/D変換器19に高速動作を要求せずに済む。このため、D/A変換器12およびA/D変換器19をスペックダウンすることが可能となり、無線通信装置100の製造コストを下げることができる。また、サンプリングデータが少なくなれば、演算装置での計算量が少なくなり、消費電力を低減することができる。
【0056】
<変形例1>
以上説明した実施の形態の無線通信装置100においては、送信パワーに対する歪補償に必要な帯域のテーブルから、歪補償すべき帯域(歪帯域)を算出する構成を採ったが、増幅器14の特性のうち非線形領域の特性を表す近似式を用いて歪帯域を算出する構成を採っても良い。図8は、当該構成を採用した無線通信装置100Aの構成を示すブロック図である。なお、図4に示した無線通信装置100と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0057】
図8に示す無線通信装置100Aにおいては、DPD部5の出力が、変調部11に与えられると共に、近似式演算部9に与えられ、近似式演算部9での演算結果がFFT部10に与えられ、FFT処理を行うことで周波数軸成分の送信信号に変換されて、歪帯域検出部7Aに与えられる構成となっている。
【0058】
歪帯域検出部7Aでは、周波数軸成分の送信信号から歪補償に必要な帯域を検出し、通信帯域決定部3から与えられる通信帯域の情報を用いて歪帯域を算出する。そして、得られた歪帯域に適したサンプリング周波数となるように、D/A変換器12およびA/D変換器19にクロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更する構成となっている。
【0059】
以上説明した無線通信装置100AにおけるD/A変換器12およびA/D変換器19でのサンプリング周波数の変更動作について、図9に示すフローチャートを用いて説明する。
【0060】
送信動作を開始すると、送信信号生成部2から出力された送信信号SSに対して、通信帯域決定部3において通信帯域が決定され、その情報は歪帯域検出部7Aに与えられ、歪帯域検出部7Aにおいて通信帯域を検出する(ステップS11)。
【0061】
その後、送信信号SSは、送信信号調整部4、DPD部5、変調部11およびD/A変換器12を介して無線通信部RXに与えられ、増幅器14で増幅されて分岐カプラ15から出力されるが、DPD部5の出力が近似式演算部9に与えられ、予め準備された増幅器14の特性を表す近似式に基づいて演算が実行され、増幅器14での歪みを含んだ送信信号(近似値)を得る(ステップS12)。増幅器14の非線形領域の入出力特性を表す近似式を以下の数式(1)に示す。
【0062】
【数1】

【0063】
上記数式(1)は、増幅器14の出力をy(t)とし、入力をx(t)とし、入出力特性の非線形領域をn次多項式で表している。多項式の係数aiがDPDにおける歪補償係数となる。
【0064】
上記数式(1)での演算結果に対して、FFT部10でFFT処理を行うことで周波数軸成分の送信信号が得られる(ステップS13)。
【0065】
FFT処理によって得られる周波数軸成分の送信信号は、図1〜図3に示したようなスペクトラム波形となり、歪帯域検出部7Aでは、当該スペクトラム波形に基づいて歪補償に必要な帯域を検出する。そして、通信帯域決定部3から与えられる通信帯域の情報を用いて、歪帯域を決定する(ステップS14)。
【0066】
この決定は、最も単純には、検出した歪補償に必要な帯域値から通信帯域値を差し引くことで行う。すなわち、例えば、通信帯域10MHzで、検出した歪補償に必要な帯域値が54.4MHzである場合には、これから通信帯域値10MHzを差し引くことで歪帯域を44.4MHzとすることができる。なお、歪帯域を決定した場合はステップS15に進み、歪帯域を決定するまでステップS11〜S14の動作を繰り返す。
【0067】
次に、歪帯域検出部7Aでは、得られた歪帯域に基づいて、D/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定する(ステップS15)。具体的には、クロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更することで、所望のサンプリング周波数を得る。なお、サンプリング周波数の決定方法は先に説明した方法と同じである。
【0068】
ステップS15でサンプリング周波数を決定した後は、当該サンプリング周波数でD/A変換およびA/D変換を行うものとし、送信データの送信が完了した場合には送信動作を終了し、未送信の送信データがある場合にはステップS11以下の動作を繰り返す。
【0069】
以上説明したように、無線通信装置100Aにおいては、増幅器14の特性を表す近似式を用いて歪帯域を算出し、当該歪帯域に合わせてD/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定することで、D/A変換器12およびA/D変換器19で処理すべきデータ数を制限することができ、D/A変換器12およびA/D変換器19に高速動作を要求せずに済む。このため、D/A変換器12およびA/D変換器19をスペックダウンすることが可能となり、無線通信装置100の製造コストを下げることができる。また、サンプリングデータが少なくなれば、演算装置での計算量が少なくなり、消費電力を低減することができる。
【0070】
<変形例2>
実施の形態の無線通信装置100においては、送信パワーに対する歪補償に必要な帯域のテーブルから、歪補償すべき帯域(歪帯域)を算出する構成を採ったが、D/A変換器12の出力にFFT処理を行って歪帯域を算出する構成を採っても良い。図10は、当該構成を採用した無線通信装置100Bの構成を示すブロック図である。なお、図4に示した無線通信装置100と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0071】
図10に示す無線通信装置100Bにおいては、D/A変換器12の出力が、ミキサ13に与えられると共に、FFT部10にも与えられ、FFT処理を行うことで周波数軸成分の送信信号に変換されて、歪帯域検出部7Aに与えられる構成となっている。
【0072】
歪帯域検出部7Aでは、周波数軸成分の送信信号から歪補償に必要な帯域を検出し、通信帯域決定部3から与えられる通信帯域の情報を用いて歪帯域を算出する。そして、得られた歪帯域に適したサンプリング周波数となるように、D/A変換器12およびA/D変換器19にクロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更する構成となっている。
【0073】
以上説明した無線通信装置100AにおけるD/A変換器12およびA/D変換器19でのサンプリング周波数の変更動作について、図11に示すフローチャートを用いて説明する。
【0074】
送信動作を開始すると、送信信号生成部2から出力された送信信号SSに対して、通信帯域決定部3において通信帯域が決定され、その情報は歪帯域検出部7Aに与えられ、歪帯域検出部7Aにおいて通信帯域を検出する(ステップS21)。
【0075】
その後、D/A変換器12の出力に対してFFT部10でFFT処理を行うことで周波数軸成分の送信信号が得られる(ステップS22)。
【0076】
FFT処理によって得られる信号は、図1〜図3に示したようなスペクトラム波形となり、歪帯域検出部7Aでは、当該スペクトラム波形に基づいて歪補償に必要な帯域を検出する。そして、通信帯域決定部3から与えられる通信帯域の情報を用いて、歪帯域を決定する(ステップS23)。
【0077】
この決定は、先に説明したように、最も単純には、検出した歪補償に必要な帯域値から通信帯域値を差し引くことで行う。なお、歪帯域を決定した場合はステップS25に進み、歪帯域を決定するまでステップS21〜S23の動作を繰り返す。
【0078】
次に、歪帯域検出部7Aでは、得られた歪帯域に基づいて、D/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定する(ステップS25)。具体的には、クロック発振器8から与えられるクロック信号の周波数をクロック変更部6を用いて変更することで、所望のサンプリング周波数を得る。なお、サンプリング周波数の決定方法は先に説明した方法と同じである。
【0079】
ステップS25でサンプリング周波数を決定した後は、当該サンプリング周波数でD/A変換およびA/D変換を行うものとし、送信データの送信が完了した場合には送信動作を終了し、未送信の送信データがある場合にはステップS21以下の動作を繰り返す。
【0080】
以上説明したように、無線通信装置100Bにおいては、D/A変換器12の出力にFFT処理を行って歪帯域を算出し、当該歪帯域に合わせてD/A変換器12およびA/D変換器19のサンプリング周波数を決定することで、D/A変換器12およびA/D変換器19で処理すべきデータ数を制限することができ、D/A変換器12およびA/D変換器19に高速動作を要求せずに済む。このため、D/A変換器12およびA/D変換器19をスペックダウンすることが可能となり、無線通信装置100の製造コストを下げることができる。また、サンプリングデータが少なくなれば、演算装置での計算量が少なくなり、消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0081】
5 DPD部
7 通信帯域・送信パワー監視部
7A 歪帯域検出部
9 近似式演算部
10 FFT部
12 D/A変換器
14 増幅器
19 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号をデジタル形式からアナログ形式に変換するD/A変換器と、
前記D/A変換器から出力される送信信号を増幅して出力する増幅器と、
前記増幅器から出力される増幅後の送信信号をアナログ形式からデジタル形式に変換するA/D変換器と、
前記増幅後の送信信号を受け、歪み補償を行う歪補償部と、
前記増幅後の送信信号における歪補償すべき帯域を検出する歪帯域検出部と、を備え、
前記歪帯域検出部で検出された前記歪補償すべき帯域に基づいて、前記D/A変換器および前記A/D変換器のサンプリング周波数を制御することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記歪帯域検出部は、
前記送信信号の通信帯域および前記増幅後の送信信号の送信パワーを監視し、通信帯域ごとに送信パワーを変化させて得られた歪補償に必要な帯域の情報に基づいて、前記増幅後の送信信号の送信パワーに対応する前記歪補償に必要な帯域を導出し、導出した前記歪補償に必要な帯域に基づいて前記歪補償すべき帯域を決定する、請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記歪補償部の出力を受け、該出力に前記増幅器の特性のうち非線形領域の特性を表す近似式を適用することで前記増幅器での歪みを含んだ送信信号を算出する近似式演算部と、
前記近似式演算部で算出された前記増幅器での歪みを含んだ送信信号にFFT処理を行って、周波数軸成分の送信信号として出力するFFT部と、をさらに備え、
前記歪帯域検出部は、前記FFT部から出力される前記周波数軸成分の送信信号から歪補償に必要な帯域を検出し、検出した前記歪補償に必要な帯域に基づいて前記歪補償すべき帯域を決定する、請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記D/A変換器の出力を受け、該出力にFFT処理を行って周波数軸成分の送信信号として出力するFFT部をさらに備え、
前記歪帯域検出部は、前記FFT部から出力される前記周波数軸成分の送信信号から歪補償に必要な帯域を検出し、検出した前記歪補償に必要な帯域に基づいて前記歪補償すべき帯域を決定する、請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記D/A変換器および前記A/D変換器の前記サンプリング周波数は、クロック信号に基づいて設定され、
前記歪帯域検出部で検出された前記歪補償すべき帯域に基づいて、前記クロック信号の周波数を変更することで、前記サンプリング周波数を変更する、請求項1記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−95071(P2012−95071A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240374(P2010−240374)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】