説明

無電解めっき装置

【課題】被処理物以外の表面へめっき用金属が析出することを防止した無電解めっき装置を提供する。
【解決手段】本発明の無電解めっき装置1は、無電解めっき液Qを液建するめっき槽10を備えた無電解めっき装置1であって、めっき槽10の、無電解めっき液と接触する接液部は、無電解めっき液Qと接した状態で、無電解めっき液Qと接する側に負電荷を帯びる負電荷帯電部12を有することを特徴とする。無電解めっき液Q中のめっき用金属の陽イオンは、周囲を負イオンで囲まれた錯体として存在している。負電荷を帯びた錯体は、電気的な反発力によって負電荷を帯びた負電荷帯電部12に接近することができず、負電荷帯電部12、すなわちめっき槽10内壁の接液部にめっき用金属が析出することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき法を用いた金属薄膜の形成は、装飾品から電子部品、医療機器、家電製品、自動車等の様々な分野で行われている。めっき法は、めっき液中に安定化している金属イオンを還元して被処理物の表面に析出させて、金属薄膜(めっき)を形成する方法であり、電気分解によって金属イオンを還元する電解めっき法と、還元剤によって金属イオンを還元する無電解めっき法と、に大別される。
【0003】
前記の無電解めっき法は、被処理物に通電させる必要がないので、絶縁性材料からなる被処理物等に電気分解用の配線を設けることなくめっき処理することができる。そのため、例えば半導体デバイスの非導電性の基板上に微細な配線等を形成する有力な方法として重要視されている。一方で無電解めっき法は、めっき用金属を析出させる位置の選択性が電解めっき法よりも低いため、被処理物の表面以外に、めっき槽内壁やめっき槽内配設機器(ヒーター等)の表面にめっき用金属が析出する異常析出が生じやすいという課題があった。
【0004】
以上のような異常析出が生じると、めっき槽内壁等のめっきを除去するメンテナンス費用が増加することや、異常析出しためっきがめっき槽内壁等から剥離して被処理物の表面に付着し、めっき品質が低下してしまうこと、めっき液の劣化が早まり短寿命化してしまうこと等の不都合が生じる。そのため、特許文献1に開示されている無電解めっき装置では、めっき槽の外部に液温調整手段を設け、めっき槽内にヒーター等を設けないことによってこれらにめっき用金属が異常析出することを防止している。
【特許文献1】特開2003−113477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、シアン系めっき液に替えてノーシアン系めっき液が使用されることが増えている。ノーシアン系めっき液は、シアン系めっき液に比べて毒性が極めて低いので扱いやすいという利点がある。また、特に貴金属のめっき液では、貴金属の陽イオンに陰イオンが配位した錯体の安定性がシアン系めっき液よりも低く、したがってめっき用金属が析出する速度が速いので、めっき処理時間を短縮できる利点もあり、前記の無電解めっき法に好適に用いられる。このように、ノーシアン系めっき液は多くの利点を有するが、安定性が低いことにより、前記の異常析出が生じやすいという課題もあり、異常析出へのさらなる対策が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の無電解めっき装置でも、めっき槽内壁にめっき用金属が異常析出する不都合への対策が十分になされているとは言い難い。つまり、特許文献1では、無電解めっき本槽がガラス製であるからその内壁面にめっき用金属が析出することを防止できると述べられているが、ガラス製のめっき槽を用いても、例えば1回のめっき処理後にはめっき槽内壁にめっきが付着してしまうことがある。このような付着部分では、めっき用金属が析出しやすくなり、付着部分が微小であっても急速に異常析出が進行してしまうので、これを除去する必要がある。このように、めっき処理を行うたびにめっき槽を洗浄してリンスし、乾燥処理等のメンテナンスを行って異常析出しためっきを除去する必要があり、メンテナンスコストを軽減することが困難であった。
【0007】
本発明は、前記の従来技術の課題に鑑み成されたものであって、被処理物以外の表面、すなわちめっき槽内壁等へめっき用金属が異常析出することが防止された無電解めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無電解めっき装置は、無電解めっき液を液建するめっき槽を備えた無電解めっき装置であって、
前記めっき槽の、無電解めっき液と接触する接液部は、無電解めっき液と接した状態で、無電解めっき液と接する側に負電荷を帯びる負電荷帯電部を有することを特徴とする。
このようにすれば、めっき用金属が前記負電荷帯電部、すなわち無電解めっき液とめっき槽とが接触するめっき槽内壁等の接液部に析出することが防止される。詳しくは、無電解めっき液中でめっき用金属の陽イオンは、その周囲に陰イオンが配位することによって錯体を形成しており、錯体が無電解めっき液中で安定化することによって、安定に存在している。ここで、前記めっき槽の負電荷帯電部は無電解めっき液中で負電荷を帯びており、かつ前記錯体の表面は負に帯電しているので、錯体にはこれを負電荷帯電部から離間させる電気的な反発力が作用する。そのため、前記錯体は、負電荷帯電部に接近することができず、ここに錯体の陽イオン(めっき用金属)が異常析出することが防止される。
【0009】
以上のようにして、被処理物以外の表面、例えばめっき槽内壁等にめっき用金属が異常析出することが防止される。したがって、めっき処理後にめっき槽内壁に異常析出しためっきを除去する等のメンテナンスの頻度を低減することができ、メンテナンスコストを低減することができる。また、異常析出しためっきがめっき槽内壁から剥離して被処理物の表面に付着すると、この付着物の上にめっき用金属が析出してしまい被処理物の表面に凹凸等が生じたり、配線間のショートが発生してしまうが、前記のようにめっき用金属が異常析出することを防止しているので高品質なめっき処理が可能な無電解めっき装置となる。また、異常析出によって無電解めっき液中のめっき用金属が必要以上に減少することによる、無電解めっき液の短寿命化が防止され、めっきコストを低減することができる。
【0010】
また、前記負電荷帯電部は、カチオン交換膜からなる構成とすることもできる。
このようにすれば、カチオン交換膜は陽イオン(カチオン)を吸着させるために表面が負電荷を帯びるようになっているので、前記負電荷帯電部として確実に機能させることができる。また、カチオン交換膜は、市販されており入手が容易であり、例えばこれをめっき槽の接液部に貼設すること等によって、簡易に無電解めっき装置を構成することができる。また、例えばカチオン交換膜をめっき槽から着脱可能にしておくことで、カチオン交換膜が劣化した場合にこれを交換することが比較的容易になり、メンテナンスの手間を低減することができる。
【0011】
また、前記負電荷帯電部は、前記接液部の無電解めっき液と接する側が帯電処理されてなる構成とすることもできる。
このようにすれば、例えば無電解めっき液中で負電荷を帯びる官能基を前記接液部に付与することにより前記負電荷帯電部とすることができ、付与する官能基の種類を選択することやその量を調整することにより、無電解めっき液の種類に対応させて前記負電荷帯電部を設計することができる。
【0012】
また、前記負電荷帯電部は、その表面に少なくともスルホン基又はカルボキシル基を有することが好ましい。
このようにすれば、スルホン基やカルボキシル基はよく知られた官能基であり、一般的な材料や方法で形成できる負電荷帯電部とすることができる。
【0013】
また、前記無電解めっき液は、ノーシアン系Auめっき液からなることが好ましい。
前記のように、本発明の無電解めっき装置はめっき用金属が異常析出することを防止しているので、めっき用金属の錯体がシアン系めっき液よりも不安定なノーシアン系Auめっき液であっても、異常析出を生じることなく用いることができる。したがって、ノーシアン系Auめっき液はシアン系めっき液よりも毒性が極めて低いので、めっき液を容易に扱えるようになる。また、機能性が低下した無電解めっき液や被処理物の洗浄液、めっき槽の洗浄液等の廃液等の処理コストを低減することもできる。また、ノーシアン系Auめっき液は、不安定、すなわちめっき用金属を析出しやすいめっき液であり、めっき用金属の析出速度が高いので、めっき処理時間を短縮することもできる。
【0014】
また、Au等の自己触媒作用を有する金属でめっき処理する場合には、僅かな量のめっき用金属が異常析出しても、この異常析出しためっきが触媒として作用してしまうため、異常析出が急速に進行する。しかしながら、本発明の無電解めっき装置では、めっき用金属の異常析出を防止しているので、自己触媒作用を有するAuのめっき液であってもこれを用いて良好にめっき処理することができる。また、Auめっき液は非常に高価なめっき液であるが、めっき用金属の異常析出を防止してめっき液を長寿命化できるので、めっきコストを大幅に低減することができる。
【0015】
また、前記めっき槽に液建された無電解めっき液の温度を管理する温度管理手段を備えていることが好ましい。
このようにすれば、無電解めっき液の温度を管理することができ、めっきの析出速度を制御することができる。したがって、例えば無電解めっき液の温度を上昇させることによって、無電解めっき液を活性化してめっき用金属の析出速度を高めることができ、めっき処理時間を短縮することができる。また、めっきの厚さを精度よく制御することができるので、所望の厚さのめっきを形成できる無電解めっき装置となる。
【0016】
また、前記めっき槽に液建された無電解めっき液をフィルタに通過させ、前記無電解めっき液中の不純物を除去する液浄化手段を備えていることが好ましい。
このようにすれば、無電解めっき液に混入した埃等の異物(不純物)や無電解めっき液が不安定になり液中に析出しためっきの微小粒子(不純物)を除去することができるので、これら不純物が被処理物に付着してめっき品質が低下することが防止される。また、液中を浮遊する不純物にめっき用金属が析出して沈殿することも防止され、沈殿物にめっき用金属が異常析出することによるめっき槽底面へめっき付着等が防止され、メンテナンスの手間やコストが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の無電解めっき装置の第1実施形態の構成を示す断面図である。なお、図1では、無電解めっき装置1のめっき槽10内に無電解めっき液Qを液建し、無電解めっき液Qに被めっき基材(被処理物)Wを浸漬したものを示している。例えば、被めっき基材Wは回路基板等であり、無電解めっき液QはAuの亜硫酸浴(ノーシアン系Auめっき液)等である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の無電解めっき装置1は、無電解めっき液Qを液建するめっき槽10と、前記めっき液Q中に浸漬された被めっき基材Wを支持する支持部材20と、前記無電解めっき液Qの温度を制御する温度制御手段30と、前記無電解めっき液Qを清浄化する液清浄化手段40と、を備えている。
【0020】
前記めっき槽10は、後述する熱媒体槽31内に図示しない断熱部材で固定されたもので、例えば板部材を組み立ててその接続部を接着し、さらにその内面にカチオン交換膜を貼設したものである。また、本実施形態では、前記板部材からなる液保持槽11と、その内面全体に貼設されたカチオン交換膜からなる負電荷帯電部12と、から構成されている。前記板部材は、十分な強度を有しかつカチオン交換膜を貼設可能な材料、例えば強化ガラス等からなるもので、めっき槽10の強度を確保するためのものである。
【0021】
前記負電荷帯電部12は、めっき槽10と無電解めっき液Qとが接触する接液部の無電解めっき液Q側に負電荷を帯びさせるものであり、めっき槽10の少なくとも接液部、すなわち無電解めっき液Qの液面よりも高い位置まで形成されている必要がある。本実施形態では、液保持槽11の内面全体、すなわち内壁及び底面を覆うように前記負電荷帯電部12を設けており、無電解めっき液Qの量変化や液はね等に対応できるようになっている。
【0022】
前記負電荷帯電部12の材料としては、フッ素系イオン交換膜やハイドロカーボン系イオン交換膜等のカチオン交換膜を用いることができ、これらは表面にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を有するものである。これら官能基は溶液中で水素イオンを電離して負に帯電するので、前記カチオン交換膜の表面、すなわち負電荷帯電部12は、溶液中で負電荷を帯びるようになっている。
【0023】
本実施形態では、負電荷帯電部12の材料としてフッ素系イオン交換膜、具体的にはデュポン社製のナフィオン(登録商標)を用いている。ナフィオン(登録商標)は、過フッ化スルホン酸とPTFE(poly tetra fluoro ethylene)とを共重合させたものであり、本実施形態では、厚さが127μmのものを用いている。
【0024】
前記支持部材20は、被めっき基材Wを着脱可能に保持することができ、まためっき槽10に対して前記被めっき基材Wを出し入れ可能に固定することができるようになっている。このような支持部材20に被めっき基材Wを取り付けて、支持部材20を無電解めっき液Qが液建されためっき槽10に固定することで、被めっき基材Wを、液建された無電解めっき液Q中に支持できるようになっている。また、支持部材20には、その表面に前記のカチオン交換膜(図示せず)が貼設されており、無電解めっき液Q中では表面が負に帯電するようになっている。
【0025】
また、本実施形態の温度管理手段30は、前記めっき槽10を収容する熱媒体槽31を備えており、めっき槽10と熱媒体槽31との間に、前記めっき槽10を加熱あるいは冷却する熱媒体(水)35を保持できるようになっている。また、温度管理手段30は、例えばヒーター等の加熱手段と冷却水循環機構等からなる温度調整器32と、この温度調整手段32と前記熱媒体槽31とを接続する熱媒体配管33と、を備えて構成されている。
前記熱媒体槽31に貯留された熱媒体35は、熱媒体配管33を介して温度調整器32へ移送され、ここで所定の温度とされ、熱媒体配管33を介して前記熱媒体槽31内に移送される。このようにして所定の温度とされた熱媒体31によって、前記めっき槽10は所定の温度に調整され、めっき槽10内の無電解めっき液Qを所定の温度に管理することができるようになっている。
【0026】
また、本実施形態の液清浄化手段40は、液循環清浄器41と液配管42とを備えたものである。前記液循環清浄器41は、無電解めっき液Q中の埃や無電解めっき液Q中に析出した微小なめっき粒子等の不純物を除去するフィルタ(図示せず)や、無電解めっき液Qを吸入、排出して循環させるポンプ(図示せず)等を備えたものである。また、液配管42は、液循環清浄器41とめっき槽10とを接続するものである。
めっき槽10内の無電解めっき液Qは、液配管42を介してポンプにより液循環清浄器41に移送され、液循環清浄器41内のフィルタで埃や微小なめっき粒子等の不純物を除去され、再び液配管42を介してポンプによりめっき槽10へ移送される。このように、液清浄化手段40は、めっき処理前後に稼動して、無電解めっき液Qを清浄化するようになっている。
【0027】
次に、以上のような第1実施形態の無電解めっき装置1の使用方法について、無電解めっき液Qとしてノーシアン系Auめっき液を用い、回路基板(被めっき基材)WにAuをめっき処理する例を用いて説明する。
【0028】
めっき処理を開始する前に、回路基板Wのめっき処理する部分には、必要に応じて、例えばスパッタリング等でニッケル(Ni)やクロム(Cr)、金(Au)、あるいはこれらの合金、又は積層膜等をめっき下地として形成しておくことが好ましく。本例では、Ni−Cr合金とAuとからなる二層の下地を形成する。このようにすることで、後述するように良好にめっき処理することができる。また、支持部材20をめっき槽10から取り外して、これに前記回路基板Wを保持させておく。また、めっき槽10と熱媒体槽(水槽)31との間には熱媒体(水)35を貯留しておく。
【0029】
まず、めっき槽10内に所定量の無電解めっき液Qを液建する。一般に、Au等のイオン化傾向が小さい金属(貴金属)は、その陽イオンが不安定であるので容易に析出してしまい、良好なめっき処理が行えなくなる。そこで、陽イオンを含有した溶液に錯化剤を添加して、錯化剤の陰イオンを陽イオンに配位させて錯体を形成させることで、陽イオンを安定化している。Auのノーシアン系の錯化剤としては、亜硫酸やチオ硫酸等が一般的であり、例えば亜硫酸金(I)ナトリウム(Na[Au(SO])を金源とした無電解めっき液Qでは、Auの陽イオン(Au)に2つの亜硫酸イオン(SO2−)が配位することで、比較的安定な錯体([Au(SO-3)が形成される。また、錯体をさらに安定化させるために、無電解めっき液Qに亜硫酸を添加して亜硫酸イオンの濃度を高めることも行われる。本例でも、希釈した亜硫酸金(I)ナトリウム溶液に亜硫酸塩を添加して、無電解めっき液Q(ノーシアン系Auめっき液)を液建する。このようにノーシアン系の無電解めっき液Qを用いることにより、毒性が強いシアンを含むシアン系のめっき液を用いるよりも容易にめっき処理を行うことができる。また、ノーシアン系の無電解めっき液Qは、シアン系めっき液よりも安定性が低いので、めっき用金属の析出速度が速く、めっき処理時間を短縮することもできる。
【0030】
ここで、無電解めっき液Q中のAuは、錯体([Au(SO-3)として存在しており、この錯体は負に帯電しているが、めっき槽10と無電解めっき液Qとが接触する接液部は、前記のようにカチオン交換膜からなる負電荷帯電部12となっているので、その表面が負に帯電しており、錯体にはこれを負電荷帯電部(接液部)12から離間させる電気的な反発力が作用する。したがって、前記錯体は接液部に接近することができないので、接液部にAu(めっき用金属)が析出することが防止される。
【0031】
次に、液清浄化手段40によって無電解めっき液Qを清浄に保持する。そして、温度管理手段30によって、水(熱媒体)35を所定の温度に加熱して、間接的に無電解めっき液Qを加熱する。このようにして、無電解めっき液Qを所定の温度(例えば50℃)に加熱してこれを活性化する。無電解めっき液Qを活性化することにより、めっき用金属の析出速度を高めることができ、めっき処理時間を短縮することができる。
【0032】
以上のようにして、無電解めっき液Qを清浄化し、また所定の温度に加熱した状態で、回路基板Wを保持した支持部材20をめっき槽10に固定し、回路基板Wを無電解めっき液Q中に支持して、例えば1〜5時間程度めっき処理する。前記のように回路基板Wのめっき処理部分には、Ni−Cr、Auの二層からなる下地が形成されているので、下地のAu上にAu(めっき用金属)が良好に析出する。析出したAuは自己触媒作用を有しているので、この上にはAuが良好に析出し、密着性のよいめっき(Au)が形成される。
【0033】
ここで、支持部材20の表面にはカチオン交換膜が貼設されているので、支持部材20の表面にめっき用金属が析出することが防止されている。また、めっき処理中にも、前記のようにめっき槽10の内面全体においてめっき用金属が析出することが防止されている。このように、回路基板Wのめっき処理部分以外にめっき用金属が析出する異常析出を防止しているので、例えば異常析出しためっきがめっき槽10内壁等から剥離して回路基板Wに付着することが防止され、付着物による表面の凹凸やショート等を生じることなく、高品質なめっき処理を行うことができる。
【0034】
そして、支持部材20をめっき槽10から取り外し、支持部材20からめっきが形成された回路基板Wを取り外す。そして、回路基板Wを適宜洗浄してめっき処理を完了する。ここで、回路基板Wを洗浄した際の廃液は、無電解めっき液Qとしてノーシアン系Auめっき液を用いているので、毒性が極めて強いシアン系のめっき液を用いた場合に比べ、格段に毒性が弱く、廃液処理のコストを低減できる。また、環境負荷を低減することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態の無電解めっき装置1によれば、めっき槽10内壁や、支持部材20の表面等にめっき用金属(Au)が析出すること(異常析出)を防止しているので、異常析出しためっきが剥離して無電解めっき液Q中を浮遊して回路基板(被めっき基材)Wに付着することが防止されている。また、埃や微小なめっきの粒子等の不純物が無電解めっき液Qに混入している場合でも、これを液清浄化手段40によって除去できるようになっているので、これらが回路基板Wに付着することも防止されている。したがって、異常析出しためっきや不純物、不純物に析出しためっき等が回路基板Wに付着することによる被処理面の凹凸等が防止され、めっき品質の低下が防止されている。
【0036】
また、異常析出を防止しているので、必要以上のめっき用金属(Au)が析出することが防止され、無電解めっき液Qが短寿命となることが防止されている。したがって、ノーシアン系Auめっき液等の非常に高価なめっき液を用いる場合には、めっきコストを大幅に低減することができる。また、ノーシアン系Auめっき液等の毒性が弱いめっき液を用いる場合には、めっき処理に係る廃液の処理コストを低減することができ、また環境負荷を低減することもできる。
【0037】
また、異常析出を防止しているので、めっき槽10の内壁等に異常析出しためっきを除去するメンテナンスの頻度を低減することができる。例えば、従来の無電解めっき装置では、1回のめっき処理を行うごとにめっき槽内を洗浄する必要があるが、本実施形態の無電解めっき装置1では、10回程度のめっき処理を行ってもめっき槽内を洗浄する必要がなく、メンテナンスコストを大幅に低減することができる。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明の無電解めっき装置の第2実施形態について説明する。本実施形態が前記第1実施形態と異なる点は、カチオン交換膜からなる負電荷帯電部12に替えて、液保持槽の内壁に帯電処理してなる負電荷帯電部を備えている点である。帯電処理の方法については、ガラス表面にスルホン基を付与する方法を例として説明する。
【0039】
まず、液保持槽のガラス内面(表面)上に、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを配し、これを100℃程度の温度で熱処理して成膜する。次に、これを例えば30重量%の過酸化水素水に浸漬する。このようにすれば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランのSiがガラスと結合するとともに、メルカプト基(―SH)が酸化されてスルホン基(―SOH)となる。表面にスルホン基を有するガラス板は、無電解めっき液中でスルホン基が水素イオンを電離して負に帯電するので、前記第1実施形態のカチオン交換膜と同様に機能する。したがって、帯電処理された側が内側となるように構成された液保持槽を備えた無電解めっき装置も、前記第1実施形態と同様にめっき用金属の異常析出が防止されており、めっき品質の低下や無電解めっき液Qの短寿命化が防止されている。
【0040】
本発明の無電解めっき装置にあっては、めっき用金属の異常析出を防止しているので、異常析出によるめっき品質の低下が防止され、高品質なめっき処理が可能な無電解めっき装置となっている。また、異常析出を防止しているので、必要以上のめっき用金属が析出することによる無電解めっき液の短寿命化が防止され、めっきコストが低減された無電解めっき装置となっている。また、異常析出を防止しているので、メンテナンスの頻度を低減することができ、メンテナンスのコストが低減された無電解めっき装置となっている。
【0041】
なお、第1実施形態では、カチオン交換膜としてフッ素系イオン交換膜を用いたが、ハイドロカーボン系イオン交換膜やその他のカチオン交換膜を用いてもよい。また、液保持槽11の内壁全面に貼設しなくともよく、少なくともめっき槽10と無電解めっき液Qとの接液部となる部分に設けてあればよい。また、液保持槽11の内壁に直接貼設するのではなく、強化ガラス等で内槽を作製し、この内槽内にカチオン交換膜等の負電荷帯電部12を形成し、この内槽を液保持槽11の内側に着脱可能に設置するようにしてもよい。このようにすれば、劣化した負電荷帯電部12を交換する手間が低減される。
【0042】
また、温度管理手段30は、めっき槽10の外壁にヒーター等を直接設けるようにしてもよいし、析出速度が早いめっき処理を行う場合等には、温度管理手段30を設けなくてもよい。また、液清浄化手段40を設けることなく、1回のめっき処理後、あるいは連続した数回のめっき処理後に、無電解めっき液Qをめっき槽10から汲み出して、これを外部の液清浄化手段によって清浄化するようにしてもよい。
【0043】
また、第2実施形態では、ガラス板上にスルホン基を付与する帯電処理してなる負電荷帯電部としたが、付与する官能基はカルボキシル基や、その他にも無電解めっき液中で負電荷を帯びる官能基でもよく、これを付与する液保持槽の材料もガラス板の他に前記官能基を付与する試薬や帯電処理方法によって適宜選択して用いてよい。
【0044】
また、無電解めっき液としては、Auめっき液以外にも、めっき処理の用途に応じて、Agめっき液やCuめっき液等の様々なものを用いることができる。特に、Ni、Co、Fe、Cu、Ag、Au、Rh、Pd、Pt等の自己触媒作用を有する金属をめっき処理する際には、従来の装置では前記異常析出が急速に進行しやすいので、本発明の無電解めっき装置を用いることで異常析出を効果的に防止することができる。また、必要に応じてシアン系めっき液を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の無電解めっき装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・無電解めっき装置、10・・・めっき槽、12・・・カチオン交換膜(負電荷帯電部)、30・・・温度管理手段、40・・・液清浄化手段、Q・・・無電解めっき液(ノーシアン系Auめっき液)、W・・・被めっき基材(回路基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき液を液建するめっき槽を備えた無電解めっき装置であって、
前記めっき槽の、無電解めっき液と接触する接液部は、無電解めっき液と接した状態で、無電解めっき液と接する側に負電荷を帯びる負電荷帯電部を有することを特徴とする無電解めっき装置。
【請求項2】
前記負電荷帯電部は、カチオン交換膜からなることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき装置。
【請求項3】
前記負電荷帯電部は、前記接液部の無電解めっき液と接する側が帯電処理されてなることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき装置。
【請求項4】
前記負電荷帯電部は、その表面に少なくともスルホン基又はカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項5】
前記無電解めっき液は、ノーシアン系Auめっき液からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項6】
前記めっき槽に液建された無電解めっき液の温度を管理する温度管理手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の無電解めっき装置。
【請求項7】
前記めっき槽に液建された無電解めっき液をフィルタに通過させ、前記無電解めっき液中の不純物を除去する液浄化手段を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の無電解めっき装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274384(P2008−274384A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122204(P2007−122204)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】