説明

焦点調節装置および顕微鏡装置

【課題】好適な焦点調節が可能な焦点調節装置を提供する。
【解決手段】ラインセンサ22は、標本2からの反射光を、光路長が異なる領域22a乃至領域22cにおいて受光するとともに、スリットAF光によるスリット像の長手方向に対して直交させて配置される。シリンドリカルレンズ20は、標本2により反射された後入射するスリットAF光の長手方向がレンズ曲率を有する方向と一致するように領域22bの前に配置される。コントラスト信号増幅回路は、シリンドリカルレンズ20を介して領域22bに投影されたスリット像の横ずれ量に応じたゲインにより、標本2により反射されたコントラストAF光の領域22a,22cにおける像のコントラスト値を示すコントラスト信号を増幅する。上下駆動部は、増幅されたコントラスト信号に基づいて、第1対物レンズ3と標本2との間隔調節を行う。本発明は、例えば、顕微鏡に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置などに適用される焦点調節装置、及びそれを備えた顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズの焦点検出方式には、主に工業顕微鏡に搭載されるスリット投影方式と、主に生物顕微鏡に搭載されるコントラスト検出方式とがある。また、2種類の方式の間で焦点検出方式を切り替えることのできる光学系も既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、スリット投影方式において、投影パターンが被見物の影響を受けないように、受光素子の前にシリンドリカルレンズを配置したものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一般に、コントラスト検出方式の方が高精度な焦点検出が可能であることが知られている。しかし、コントラスト検出方式においては、対物レンズ等に起因する回折光が原因で、合焦位置から離れた位置(デフォーカス量が大きい位置)でも合焦状態と判断してしまう場合がある。そこで、回折光を除外するために所定の閾値を設け、その閾値を上回る信号のみを検出に用いる技術が考えられている。
【特許文献1】特開2002−277729号公報
【特許文献2】特開昭62−109013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、標本表面のパターンの多少や粗密、標本表面の反射率の違いにより、コントラスト検出方式における出力信号の大きさはかなり変動する。したがって、出力信号が全体的に小さい標本に関しては、出力信号と上述した閾値との差が小さくなり、高精度の焦点検出を行うことが困難な場合がある。また、出力信号と上述した閾値との差が小さくなると、結果として合焦可能範囲も狭くなるという問題もある。
【0006】
そこで本発明は、観察対象の標本にかかわらず、好適な焦点調節が可能な焦点調節装置を提供することを目的とする。また、高性能な顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面の焦点調節装置は、対物レンズを介して観察対象の物体に照射され反射された反射光の光路長が異なる位置における2つの像のコントラストの差、および、前記対物レンズを介して前記物体に照射され反射された所定のスリット光によるスリット像であって、前記対物レンズと前記物体との光軸方向の間隔に応じて長手方向と直交する方向に移動するスリット像の横ずれ量に基づいて、前記対物レンズと前記物体との間隔調節を行う焦点調節装置であって、前記物体からの反射光を、光路長が異なる第1乃至第3の位置における第1乃至第3の受光面において受光するとともに、前記スリット像の長手方向に対して直交させて配置される一次元の受光手段と、前記物体により反射された前記スリット光が入射し、入射する前記スリット光の長手方向がレンズ曲率を有する方向と一致するように、前記第2の受光面の前に配置されるシリンドリカルレンズと、前記シリンドリカルレンズを介して前記第2の受光面に投影された前記スリット像の前記横ずれ量に応じたゲインにより、前記物体からの反射光の前記第1の受光面における像のコントラスト値を示す第1のコントラスト信号および前記第3の受光面における像のコントラスト値を示す第2のコントラスト信号を増幅する増幅手段と、増幅された前記第1のコントラスト信号および前記第2のコントラスト信号に基づいて、前記対物レンズと前記物体との間隔調節を行う調節手段とを備える。
【0008】
本発明の第2の側面の顕微鏡装置は、対物レンズが捉えた像を観察するための顕微鏡光学系と、前記対物レンズの焦点調節を行う本発明の第1の側面の焦点調節装置とを備える。
【0009】
本発明の第1の側面または第2の側面においては、観察対象の物体からの反射光を、光路長が異なる第1乃至第3の位置における第1乃至第3の受光面において受光するとともに、前記物体に照射され反射された所定のスリット光によるスリット像の長手方向に対して傾斜させて配置される一次元の受光手段の前記第2の受光面の前に、前記物体により反射された前記スリット光が入射し、入射する前記スリット光の長手方向がレンズ曲率を有する方向と一致するようにシリンドリカルレンズが配置される。そして、前記シリンドリカルレンズを介して、前記第2の受光面に前記スリット像が投影され、前記スリット像の横ずれ量に応じたゲインにより、前記物体からの反射光の前記第1の受光面における像のコントラスト値を示す第1のコントラスト信号および前記第3の受光面における像のコントラスト値を示す第2のコントラスト信号が増幅され、増幅された前記第1のコントラスト信号および前記第2のコントラスト信号に基づいて、前記対物レンズと前記物体との間隔調節が行われる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、観察対象の標本にかかわらず、好適な焦点調節が可能な焦点調節装置を提供することができる。また、高性能な顕微鏡装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の焦点調節装置の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の焦点調節装置の構成図である。図1に示す焦点調節装置は、スリット投影方式の焦点検出光学系と、コントラスト検出方式の焦点検出光学系との双方が搭載されたハイブリット型の焦点調節装置である。
【0013】
まず、図1においてLED7は、スリット投影方式の焦点検出用の赤外光を発する。以下、LED7から発せられる赤外光をスリットAF光と称する。LED7から発せられたスリットAF光は、スリット板8、コレクタレンズ9、瞳マスク10、ハーフミラー16、ダイクロイックミラー4、第1対物レンズ3を経由して、ステージ1上の標本2に照射される。そして、スリットAF光は、標本2の標本面2aにおいて反射され、第1対物レンズ3、ダイクロイックミラー4、ハーフミラー16、第2対物レンズ17を経由して、3分割プリズム18に入射し、3つの光La,Lb,Lcに分岐され、CCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により構成される一次元のラインセンサ22の互いに異なる領域22a,22b,22cに入射する。
【0014】
具体的には、3分割プリズム18は、半透過面18aにおいて、入射したスリットAF光を光Laとそれ以外の光に分岐し、光Laをラインセンサ22の方向に透過し、それ以外の光を半透過面18bの方向に反射する。半透過面18bに入射した光は、光Lbと光Lcに分岐され、光Lbは、ラインセンサ22の方向に反射され、光Lcは、反射面18cの方向に透過される。光Lcは、反射面18cにおいて、ラインセンサ22の方向に反射される。
【0015】
3分割プリズム18とラインセンサ22の間には、平行平面ガラス19、シリンドリカルレンズ20および平行平面ガラス21が挿入されている。そのうち、平行平面ガラス19は、ラインセンサ22の領域22aの前に配置され、シリンドリカルレンズ20は、ラインセンサ22の領域22bの前に配置され、平行平面ガラス21は、ラインセンサ22の領域22cの前に配置されている。従って、光Laは、平行平面ガラス19を透過して、ラインセンサ22の領域22a内の受光面に入射し、光Lbは、シリンドリカルレンズ20を透過して、領域22b内の受光面に入射し、光Lcは、平行平面ガラス21を透過して、領域22c内の受光面に入射する。
【0016】
したがって、ラインセンサ22へ入射するまでの3つの光La,Lb,Lcの間には、光路差が付与される。このうち光Laと光Lbとの間の光路差と、光Lbと光Lcとの間の光路差とは互いに等しい。
【0017】
ここで、上述したスリット板8の中央には、図1(a)に示すとおりスリット開口が形成されている。よって、スリットAF光は、物体面(ここでは、標本面2a)の近傍にスリット状の赤外像を形成する。また、このとき標本面2aで反射されたスリットAF光は、ラインセンサ22の領域22a,22b,22cの各々にスリット状の赤外像を形成する。この赤外像のスリット幅方向(長手方向と直交する短手方向)と、ラインセンサ22のライン方向(長手方向)とは、互いに直交する。すなわち、ラインセンサ22は、スリット状の赤外像の長手方向に対して直角に配置されている。
【0018】
また、瞳マスク10は、光軸を含む平面でスリットAF光を分割してできる2つの光の一方を透過し、かつ他方を遮光する。したがって、スリットAF光は第1対物レンズ3と標本2との間を往復する際、往路と復路で第1対物レンズ3の瞳上の互いに異なる位置を通過する。したがって、領域22a,22b,22cの各々に形成される赤外像は、第1対物レンズ3と標本2との光軸方向の間隔に応じて長手方向と直交する方向に移動し、第1対物レンズ3のデフォーカス量(第1対物レンズ3の焦点と標本面2aとの光軸方向のずれ)に応じて横ずれする。よって、このうち何れか1つの領域に形成される赤外像の横ずれ量から、スリット投影方式のデフォーカス信号を生成することができる。なお、第1対物レンズ3のデフォーカス量がゼロであるときに領域22bに形成される赤外像の重心位置は、予め予測されているものとする。以下では、スリット投影方式のデフォーカス信号を、領域22bに形成される赤外像の横ずれ量に基づいて求める場合を例に挙げて説明する。また、領域22bに形成される赤外像に対応する出力信号を、「スリット信号」と称する。このスリット信号は、上述したように、LED7から発せられた照明光の波長の光により生成される信号である。
【0019】
一方、LED14は、コントラスト検出方式の焦点検出用の赤外光を発する。以下、LED14から発せられる赤外光をコントラストAF光と称する。なお、以下、スリットAF光とコントラストAF光を特に区別する必要がない場合、単にAF光とも称する。
【0020】
LED14から発せられたコントラストAF光は、スリット板13、コレクタレンズ12、ダイクロイックミラー11、ハーフミラー16、ダイクロイックミラー4、第1対物レンズ3を経由して、ステージ1上の標本2に照射される。そして、コントラストAF光は、標本2の標本面2aにおいて反射され、第1対物レンズ3、ダイクロイックミラー4、ハーフミラー16、第2対物レンズ17を経由して、3分割プリズム18に入射し、スリットAF光の場合と同様に、3つの光La,Lb,Lcに分岐され、ラインセンサ22の互いに異なる領域22a,22b,22cに入射する。
【0021】
ここで、スリット板13の中央には、図1(b)に示すとおり複数本のスリット開口が形成されている。よって、コントラストAF光は、物体面(ここでは、標本面2a)の近傍に複数本のスリット状の赤外像を形成する。また、このとき標本面2aで反射されたコントラストAF光は、ラインセンサ22の領域22a,22b,22cの各々に複数本のスリット状の赤外像を形成する。この複数本の赤外像のスリット幅方向と、ラインセンサ22のライン方向とは、互いに交差する。
【0022】
上述したように、光La,Lb,Lcの間には光路差が付与されているので、光Laによる赤外像と、光Lbによる赤外像と、光Lcによる赤外像の形成位置は、光軸方向にずれる。例えば、図1に示すとおり光Lbによる赤外合焦像がラインセンサ22上に存在するときには、光Laによる赤外合焦像はラインセンサ22の後ろ側に形成され、光Lcによる赤外合焦像はラインセンサ22の前側に形成される。従って、ラインセンサ22の領域22aに形成される赤外合焦像と、領域22bに形成される赤外合焦像と、領域22cに形成される赤外合焦像との間では、ボケの程度(つまりコントラスト)が互いに異なる。
【0023】
また、これら赤外像のコントラストの大小関係は、第1対物レンズ3のデフォーカス量に応じて変化する。よって、領域22a,22b,22cの各々に形成される赤外像のコントラストの差(大小関係)から、コントラスト検出方式のデフォーカス信号を生成することができる。以下では、コントラスト検出方式のデフォーカス信号を、領域22a及び22cに形成される赤外像のコントラストの大小関係に基づいて求める場合を例に挙げて説明する。ラインセンサ22の位置は、本焦点調節装置に組み込んだ光学装置(例えば、顕微鏡装置)の合焦状態においては、領域22a及び22cに形成される赤外像のコントラストが同じになるように予め調整されている。また、領域22a及び22cに形成される赤外像に対応する出力信号を、それぞれ、「前ピン像信号」、「後ピン像信号」と称する。
【0024】
また、領域22bに形成される赤外像が、本焦点調節装置を組み込んだ光学装置の合焦状態においてボケのない状態となるよう、領域22bと光学装置の観察位置とが共役になるように設置されている。
【0025】
なお、3分割プリズムの半透過面18aの反射率、半透過面18bの反射率、反射面18cの反射率の組み合わせは、3つの光La,Lb,Lcの光量が等しくなるよう予め最適化されている。また、第2対物レンズ17とラインセンサ22との位置関係は、第1対物レンズ3のデフォーカス量がゼロであるときに、光Lbによるスリット像がラインセンサ22上に形成されるように予め調整されている。
【0026】
以上の焦点調節装置において、ラインセンサ22の出力信号は、信号処理部23へ取り込まれる。信号処理部23は、取り込まれた信号を基に幾つかの信号を生成すると、それをCPUに与える。CPU24は、与えられた信号に基づきスリット投影方式またはコントラスト検出方式のデフォーカス信号を生成すると、そのデフォーカス信号に応じた駆動方向及び駆動速度を上下駆動部(モータなど)25へ指定する。上下駆動部25は、指定された駆動方向及び駆動速度で第1対物レンズ3を光軸方向へ駆動することにより、第1対物レンズ3の焦点調節を行う。なお、その上下駆動部25の駆動対象は、第1対物レンズ3の代わりにステージ1としても良いが、ここでは第1対物レンズ3であるという前提で説明する。
【0027】
また、CPU24は、LED制御部26を介して、LED7およびLED14の光量も調節することもでき、ラインセンサ22の電荷蓄積時間(操作時間)を必要に応じて切り替えることもできる。さらに、CPU24は、LED制御部26を介して、LED7およびLED14の点灯および消灯を制御し、スリット投影方式とコントラスト検出方式の切換を制御することも可能である。
【0028】
図2は、ラインセンサ22、信号処理部23、CPU24、上下駆動部25の詳細を示す機能ブロック図である。
【0029】
図2に示すように、信号処理部23は、AGC(Auto Gain Control)回路31、ピークホールド回路32、バンドパスフィルタ回路33、スリット位置検出回路34、絶対値変換回路35、コントラスト信号増幅回路36、切換スイッチ回路37、積分回路38の各部を備える(その他の構成については後述する)。
【0030】
AGC回路31には、ラインセンサ22からの出力信号が順次入力される。ラインセンサ22からは、上述したように、ラインセンサ22の領域22a及び22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号と、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号とが入力されるが、これらは、領域22aに対応する前ピン像信号、領域22bに対応するスリット像信号、領域22cに対応する後ピン像信号の順にAGC回路31に入力される。
【0031】
AGC回路31は、ピークホールド回路32によりラインセンサ22からの出力信号のピーク値をホールドし、そのピーク値が一定になるようにラインセンサ22からの出力信号を制御する。図3のA1は、第1対物レンズ3の焦点が標本面2aより前側(前ピン位置)にあるときの領域22a及び領域22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号の波形を示す。また、図3のB1は、第1対物レンズ3の焦点が標本面2a(合焦位置)にあるときの領域22aおよび領域22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号の波形を示す。また、図3のC1は、第1対物レンズ3の焦点が標本面2aより後側(後ピン位置)にあるときの領域22aおよび領域22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号の波形を示す。AGC回路31は、第1対物レンズ3の焦点位置にかかわらず、領域22a及び領域22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号のピーク値のうち大きい方のピーク値が一定電圧になるように前ピン像信号及び後ピン像信号を制御して、バンドパスフィルタ回路33及びスリット位置検出回路34に出力する。図3のA2からC2は、AGC回路31から出力される信号のうち、前ピン像信号及び後ピン像信号の波形を示す。なお、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号についても同様である。
【0032】
バンドパスフィルタ回路33は、AGC回路31から出力された前ピン像信号及び後ピン像信号から高周波成分だけを抽出してコントラスト信号を抽出し、絶対値変換回路35に出力する。図3のA3からC3は、バンドパスフィルタ回路33から出力されるコントラスト信号の波形を示す。なお、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号については、バンドパスフィルタ回路33及び後述する絶対値変換回路35をバイパスする。
【0033】
スリット位置検出回路34は、ラインセンサ22と同期して、AGC回路31から出力された出力信号のうち、領域22bに対応するスリット信号のみを入力する。すなわち、領域22a及び領域22cに対応する前ピン像信号及び後ピン像信号は入力しない。そして、後述する方法でスリット位置を検出し、コントラスト信号増幅回路36に出力する。
【0034】
絶対値変換回路35は、バンドパスフィルタ回路33から出力された出力信号に対して絶対値変換を行い、コントラスト信号増幅回路36に出力する。
【0035】
コントラスト信号増幅回路36は、絶対値変換回路35から出力されたコントラスト信号を後述する方法で増幅して、積分回路38に出力する。図3のA4からC4は、コントラスト信号増幅回路36から出力されるコントラスト信号の波形を示す。なお、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号については、そのまま切換スイッチ回路37に出力する。
【0036】
切換スイッチ回路37は、ラインセンサ22の領域22a及び領域22cに対応するコントラスト信号については、後述する方法で積分回路38に出力するか否かを切り替える。また、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号については、切換スイッチ回路37のスイッチ部を経由せず、不図示のバイパスを通じて、そのまま積分回路38に出力する。
【0037】
積分回路38は、切換スイッチ回路37を介してコントラスト信号増幅回路36から出力された出力信号を積分して、CPU24に出力する。図3のA5からC5は、積分回路38から出力されるコントラスト信号の積分波形を示す。なお、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号についても同様である。
【0038】
CPU24は、演算回路50を備える。演算回路50は、スリット投影方式の焦点検出を行う際には、ラインセンサ22と同期して、AGC回路31から出力された出力信号のうち、領域22bに対応するスリット信号のみを入力する。すなわち、領域22a及び領域22cに対応するコントラスト信号は入力しない。そして、領域22bに対応するスリット信号に基づいて駆動方向及び駆動速度を決定し、上下駆動部25に出力する。駆動方向及び駆動速度量決定の詳細は公知技術と同様である。なお、スリット信号とともに領域22a及び領域22cに対応するコントラスト信号も入力し、コントラスト信号をスリット投影方式の焦点検出に加味する構成としても良い。例えば、コントラスト信号を適宜メモリに記憶しておき、差分信号を生成して焦点検出に加味しても良い。
【0039】
一方、コントラスト検出方式の焦点検出を行う際には、演算回路50は、ラインセンサ22と同期して、AGC回路31から出力された出力信号のうち、ラインセンサ22の領域22a及び領域22cに対応するコントラスト信号のみを入力する。すなわち、領域22bに対応するスリット信号は入力しない。そして、領域22a及び領域22cに対応するコントラスト信号の差分信号を求めて駆動方向及び駆動速度を決定し、上下駆動部25に出力する。駆動方向及び駆動速度決定の詳細は公知技術と同様である。なお、コントラスト信号とともに領域22bに対応するスリット信号も入力し、スリット信号をコントラスト検出方式の焦点検出に加味するようにしてもよい。
【0040】
また、スリット投影方式の焦点検出とコントラスト検出方式の焦点検出とは、適宜切り換える構成とするのが好ましい。例えば、コントラスト検出方式による焦点検出の良否を示す評価値を監視し、その評価値が所定レベルを下回るときには、スリット投影方式の焦点検出を行い、評価値が所定レベルを上回るときには、コントラスト検出方式の焦点検出を行うと良い。また、ユーザ操作に応じて、スリット投影方式の焦点検出とコントラスト検出方式の焦点検出とを適宜切り換える構成としても良い。
【0041】
上下駆動部25は、ドライバ51とモータ52とを備える。ドライバ51は、演算回路50により決定された駆動方向及び駆動速度でモータ52を駆動して、第1対物レンズ3と標本面2aとの相対位置を光軸方向へ駆動することにより、第1対物レンズ3の焦点調節を行う。
【0042】
ここで、コントラスト検出方式の焦点検出について図4を参照して説明する。図4A及び図4Bの横軸はデフォーカス方向を示す。また、図4Aの縦軸はコントラスト信号のピーク値を示し、図4Bの縦軸は、ラインセンサ22の領域22aに対応するコントラスト信号をVaとし、領域22cに対応するコントラスト信号をVcとしたときに、VaとVcとの差分を正規化した(Va−Vc)/(Va+Vc)を示す。図4Aの実線で示すように、コントラスト信号Va及びVcは、対物レンズの性質上、ある程度デフォーカスした位置において、回折光(図4AのE1及びE2)が発生して再び大きくなる。この回折光の大きさは対物レンズの種類によって異なる。また、図4Bは、実際の駆動方向及び駆動速度の決定に用いられるいわゆるS字カーブである。このS字カーブの信号がゼロになるように駆動方向及び駆動速度の決定を行うと、合焦位置でない回折光の発生位置に制御するように駆動方向及び駆動速度が決定されてしまうおそれがある。この場合、ピンぼけの状態で合焦状態に到達したと判定されてしまう。
【0043】
そこで、回折光の発生位置を除外するために、所定の合焦可能閾値Thcを設け、この合焦可能閾値Thcを上回る信号が検出された場合のみコントラスト検出方式の焦点検出を行う。合焦可能閾値Thcは、できるだけ反射率が大きく、かつ、パターンの粗い(またはパターンの反射率が大きい)標本、すなわち、できるだけコントラストの大きい標本において、回折光で合焦しない閾値であり、図2の合焦可能範囲判定回路39に予め定められる。上述したように、回折光の大きさは対物レンズの種類によって異なるので、合焦可能閾値Thcも対物レンズの種類によって異なる。合焦可能範囲判定回路39は、コントラスト信号増幅回路36の出力信号と合焦可能閾値Thcとを比較し、その大小関係を
示す情報を切換スイッチ回路37及び演算回路50に出力する。切換スイッチ回路37は、コントラスト信号増幅回路36の出力信号が合焦可能閾値Thcよりも大きい場合のみコントラスト信号増幅回路36の出力信号をCPU24の演算回路50に出力する。このような構成とすることにより、回折光の発生位置を除外することができる。
【0044】
また、演算回路50は、コントラスト信号のみを入力し、コントラスト検出方式の焦点検出を行う。一方、コントラスト信号増幅回路36の出力信号が合焦可能閾値Thcより小さい場合には、演算回路50は、スリット信号のみを入力するように信号取り込みタイミングを制御し、スリット投影方式の焦点検出を行う。
【0045】
しかし、標本表面のパターンの多少や粗密、標本表面の反射率の違いにより、コントラスト信号の大きさはかなり変動する。図4Aの粗い点線は、図4Aの実線の標本よりもパターンが細かい(またはパターンの反射率が小さい)、あるいは、反射率が小さい標本に関するコントラスト信号Va及びVcを示す。また、図4Aの細かい点線は、図4Aの粗い点線の標本よりもパターンがさらに細かい(またはパターンの反射率が小さい)、あるいは、反射率がさらに小さい標本に関するコントラスト信号Vb及びVcを示す。図4Aに示すように、標本のパターンが細かくなる(またはパターンの反射率が小さくなる)ほど、あるいは、反射率が低下するほど、コントラスト信号は小さくなることが分かる。この結果、コントラスト信号と上述した合焦可能閾値Thcとの差が小さくなり、高精度な焦点検出を行うことが困難になる。さらに、合焦可能範囲も狭くなる。合焦可能範囲が非常に狭くなると、合焦位置自体が合焦可能範囲外になるおそれもある。
【0046】
そこで、コントラスト信号増幅回路36により、コントラスト信号を適宜増幅する。ただし、上述した影響を鑑み、回折光の発生位置を除外しつつ、コントラスト信号を増幅する。具体的には、コントラスト信号増幅回路36は、スリット位置検出回路34により検出されたスリット位置に応じて、2種類のゲイン(ゲインL及びゲインH)を使い分けてコントラスト信号を増幅する。
【0047】
まず、スリット位置検出回路34によるスリット位置の検出について図5を参照して説明する。図5Aは、ラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号を示す図である。横軸は時刻(t)を示し、縦軸はスリット信号の大きさを示す。スリット位置検出回路34は、スリット信号を順次位置検出閾値Thsと比較する。位置検出閾値Thsは第1対物レンズ3の焦点位置を認識するための閾値であり、実験などにより予め定められる。スリット位置検出回路34は、スリット信号が位置検出閾値Thsと交わる最も前ピン側の時刻PXSと、スリット信号が位置検出閾値Thsと交わる最も後ピン側の時刻PXLと求め、以下の式によりスリット位置PXCを算出する。
【0048】
スリット位置PXC=(PXS+PXL)/2・・・(式1)
【0049】
このようにして求めた、スリット位置PXCは、現在の対物レンズの焦点位置を示す。
【0050】
なお、スリット位置として、ピーク値PXPを用いても良い。また、上述したスリット位置PXCとピーク値PXPと適宜重み付けをして加算したものをスリット位置として用いても良い。
【0051】
次に、コントラスト信号増幅回路36における2種類のゲイン(ゲインL及びゲインH)の使い分けについて図6を参照して説明する。図6Aは、図4Aと同様の図である。また、図6Bの横軸は、時刻(t)を示し、図6Bの縦軸は、図6Aのコントラスト信号に対応するとともに、第1対物レンズ3と標本面2aとを連続的に光軸方向に移動させたときのラインセンサ22の領域22bに対応するスリット信号の大きさを示す。なお、この時刻(t)は、第1対物レンズ3と標本面2aとの光軸方向における相対位置と相関がある。また、図6B中の矢印AからIは、上述した方法により求めたスリット位置PXCを示す。
【0052】
例えば、図6A及び図6B中のある位置Dでは、スリット信号の中心位置は図6Bの矢印Dの位置である。したがって、合焦位置におけるスリット信号の中心位置(図6Bの矢印A)とのずれ量は、Tdとなる。同様に、他の位置においても、スリット位置検出回路34により検出したスリット位置xに応じて、合焦位置におけるスリット信号の位置とのずれ量Txを求めることができる。
【0053】
コントラスト信号増幅回路36は、スリット位置検出回路34から取得したスリット位置に応じてずれ量Txを求め、このずれ量Txとゲイン切換閾値Thgとを比較する。ゲイン切換閾値Thgは上述した2種類のゲイン(ゲインL及びゲインH)を使い分けるための閾値であり、図6Aにおいて回折光の影響が小さく、かつ、コントラスト信号を好適に生成可能な範囲を示す閾値であり、実験などにより予め定められる。なお、図6Bの例では、ラインセンサ22の領域22aに対応するコントラスト信号Vaと領域22cに対応するコントラスト信号Vcとの大小関係が反転しない最大の値をゲイン切換閾値Thgとする例を示したが、実際には設計上のマージンなどにより、小さめにゲイン切換閾値Thgを設定すると良い。
【0054】
コントラスト信号増幅回路36は、ずれ量Tx>ゲイン切換閾値Thgの場合にはゲインLにしたがってコントラスト信号を増幅し、ずれ量Tx≦ゲイン切換閾値Thgの場合にはゲインHにしたがってコントラスト信号を増幅する。
【0055】
ピークホールド回路40は、コントラスト信号増幅回路36の出力信号のピーク値を検出し、ゲイン算出回路41に出力する。
【0056】
ゲイン算出回路41は、対物レンズの種類に応じて、コントラスト信号増幅回路36の出力信号のピーク値が、飽和しない範囲でなるべく大きな値になるようにゲインHを設定し、コントラスト信号の回折光が最大になる位置(極大値となる位置)において、コントラスト信号増幅回路36の出力信号が、合焦可能閾値Thc未満となり、合焦可能閾値Thcになるべく近い値になるようにゲインLを設定する。ゲイン算出回路41は、設定したゲインの値を示すデータをコントラスト信号増幅回路36に供給する。また、ゲイン算出回路41は、コントラスト信号増幅回路36の出力信号のピーク値を参照しながら、ゲインHおよびLの値を最適化するよう学習処理を行う。
【0057】
以上説明した2種類のゲイン(ゲインL及びゲインH)を用いてコントラスト信号を増幅した結果を図7を参照して説明する。図7Aは、2種類のゲイン(ゲインL及びゲインH)を用いてコントラスト信号を増幅した結果を示し、図7Bは、従来技術のように単一のゲインを用いてコントラスト信号を増幅した結果を示す。図7A及び図7Bは、図4Aの実線で示した、パターンが比較的粗い、あるいは、反射率が比較的大きい標本に関するコントラスト信号をコントラスト信号増幅回路36により増幅した場合と、図4Aの細かい点線で示した、パターンが比較的細かい、あるいは、反射率が比較的小さい標本に関するコントラスト信号をコントラスト信号増幅回路36により増幅した場合との結果を示す。
【0058】
2種類のゲインを用いた場合には、図7Aに示すように、どのような標本であっても略一定の増幅結果が得られる。すなわち、ずれ量Tx>ゲイン切換閾値Thgの範囲においては、回折光の影響を受けない程度にコントラスト信号が増幅され、ずれ量Tx≦ゲイン切換閾値Thgの範囲においては、飽和しない程度に大幅にコントラスト信号が増幅される。したがって、コントラスト信号が飽和しない程度に十分大きいコントラスト信号が得られるとともに、回折光の発生位置においても、コントラスト信号が合焦可能閾値Thcを上回ることはない。したがって、回折光の影響を受けることなく、高精度な焦点検出を行うことができるとともに、十分な合焦可能範囲を得ることができる。
【0059】
一方、従来技術のように単一のゲインを用いた場合には、図7Bに示すように、実線で示した、パターンが比較的粗い(またはパターンの反射率が比較的大きい)、あるいは、反射率が比較的大きい標本に関しては、回折光の発生位置において、コントラスト信号が合焦可能閾値Thcを上回り、回折光の影響を受けてしまう。したがって、高精度な焦点検出を行うことができない。また、細かい点線で示した、パターンが比較的細かい(またはパターンの反射率が比較的小さい)、あるいは、反射率が比較的小さい標本に関しては、合焦可能範囲が狭いままである。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、観察対象の標本のパターンの多少や粗密、反射率の違い、濃淡の違いなどにかかわらず、好適な焦点調節が可能である。
【0061】
また、本実施形態によれば、コントラスト信号を増幅する際のゲインを標本ごとに変えたり、これらのゲインを標本の種類ごとにレシピ化する等の手間を必要としない。
【0062】
次に、図8乃至図13を参照して、平行平面ガラス19、シリンドリカルレンズ20、および、平行平面ガラス21の作用および効果について説明する。
【0063】
標本面2aの反射率は、通常、反射率が高い部分と低い部分が混在し、ばらついている。例えば、ICの回路パターンは、反射率の変化が大きく、特に、メモリセルの部分では、反射率が複雑に変化する。そして、標本面2aの反射率のムラが大きい場合、スリット位置検出回路34によるスリット位置の誤検出が発生する可能性が高くなる。これについて、図8を参照して説明する。
【0064】
図8Aは、第1対物レンズ3の視野101内の標本面2aにおける反射率の分布の例を示している。なお、図8Aの標本面2aにおいて、斜線で示される部分は低反射率の部分を示し、斜線が付けられていない部分は高反射率の部分を示している。また、面103は、標本面2aにおいて、ラインセンサ22の受光面と共役な面(以下、共役面と称する)を示している。さらに、スリットAF光により投影されるスリット投影像102が共役面103と交わる部分において、共役面103の長手方向の左半分の反射率が高く、右半分の反射率が低くなっている。
【0065】
図8Bは、図5と同様のグラフであり、波形S1は、標本面2aの反射率が図8Aに示される状態である場合のスリット信号の波形を示し、波形S1’は、標本面2aが鏡面のように反射ムラがない場合のスリット信号の波形を示している。この場合、波形S1’が位置検出閾値Thsと交わる最も前ピン側の時刻PXS’と最も後ピン側の時刻PXL’との間の中点PXC’が、正確なスリット位置である。しかし、実際のスリット信号の波形S1は、反射率が高い部分においてのみ位置検出閾値Thsを超え、反射率が低い部分において位置検出閾値Thsを超えていない。そのため、波形S1が位置検出閾値Thsと交わる最も前ピン側の時刻PXS1は、時刻PXS’とほぼ同様になるが、位置検出閾値Thsと交わる最も後ピン側の時刻PXL1は、時刻PXL’から遠くなる。そのため、スリット位置PXC1は、実際のスリット位置PXC’より図内で左寄りに検出されてしまう。
【0066】
また、ステージ1を水平方向に動かし、標本面2aにおけるスリット投影像102の位置が変化し、スリット投影像102と共役面103が交わる部分の反射率の分布が変化すると、スリット位置の検出結果も変動する。従って、スリット投影方式により焦点調節を行う場合、合焦位置が定まらず不安定になってしまうおそれがある。また、コントラスト方式により焦点検出を行う場合も、コントラスト信号を増幅するゲインが変動し、その結果、合焦位置が定まらず不安定になってしまうおそれがある。
【0067】
このように、スリット投影像102と共役面103が交わるごく狭い範囲の像だけに基づいて、スリット位置の検出を行う場合、範囲内の標本面2aの反射率の分布の変化が、直接スリット位置の検出結果に反映される。よって、スリット位置の検出誤差が発生しやすくなる。
【0068】
これに対して、例えば、ラインセンサ22の代わりに2次元センサを用いて、スリット投影像102の長手方向にスリット信号を積算し、スリット位置の検出に用いる像の範囲を広げることにより、スリット位置の検出誤差を小さくすることが考えられる。しかしながら、2次元センサを用いると、画素の走査に時間がかかるため、焦点調節に要する時間が長くなってしまう。また、2次元センサの駆動回路および信号処理回路は、一次元のラインセンサの駆動回路および信号処理回路と比較して、構成が複雑になり、コストアップが発生する。
【0069】
そこで、上述した本発明の実施の形態においては、2次元センサを用いる代わりに、シリンドリカルレンズ20を用いることにより、スリット位置の検出誤差を小さくしている。
【0070】
具体的には、図9は、焦点調節装置の第2対物レンズ17、3分割プリズム18、平行平面ガラス19、シリンドリカルレンズ20、平行平面ガラス21、および、ラインセンサ22の部分を抽出して示した図である。シリンドリカルレンズ20は、矢印Aの方向から見た断面がかまぼこ型になり、レンズ曲率を有するように配置されている。従って、スリットAF光は、長手方向がシリンドリカルレンズ20のレンズ曲率を有する方向と一致するようにシリンドリカルレンズ20に入射し、矢印Bにより示されるラインセンサ22の長手方向(スリットAF光が横ずれする方向)と垂直な方向についてのみ集光され、ラインセンサ22の長手方向については集光されない。
【0071】
この点について、図10乃至図12を参照して説明する。図10および図11は、ステージ1、標本2および対物レンズ3を横から見た図であり、スリットAF光の光路の例を示している。そのうち、図10は、スリットAF光の短手方向を正面から見た図であり、図11は、図10の矢印Cの方向から、スリットAF光の長手方向を正面から見た図である。なお、標本面2a上の点P1乃至P3は、図8Aのスリット投影像102内に一直線に並ぶように位置し、うち点P2は、スリット投影像102と共役面103が交わる範囲内に位置するものとする。
【0072】
図12A乃至図12Dは、光Lbのうち標本面2aの点P1乃至P3において反射された光の結像位置を、図9の矢印Aの方向から見た図である。そのうち、図12Aは、シリンドリカルレンズ20を設けない場合の結像位置を示し、図12Bは、シリンドリカルレンズ20を設けた場合の点P1からの反射光(以下、反射光P1と称する)の結像位置を示し、図12Cは、シリンドリカルレンズ20を設けた場合の点P2からの反射光(以下、反射光P2と称する)の結像位置を示し、図12Dは、シリンドリカルレンズ20を設けた場合の点P3からの反射光(以下、反射光P3と称する)の結像位置を示している。また、位置L1は、シリンドリカルレンズ20を設けない場合のラインセンサ22の設置位置を示し、位置L2は、シリンドリカルレンズ20を設ける場合のラインセンサ22の設置位置を示している。
【0073】
図12Aに示されるように、シリンドリカルレンズ20を設けない場合、反射光P1乃至P3は、それぞれ異なる位置P1a乃至P3aにおいて結像する。そのうち、反射光P2のみが、位置L1において結像する。
【0074】
一方、シリンドリカルレンズ20を設けた場合、図12B乃至図12Dに示されるように、反射光P1乃至P3は、ラインセンサ22の受光面の手前のほぼ同じ位置P1b乃至P3bにおいて結像し、そのほとんどがラインセンサ22に入射する。
【0075】
これにより、図13Aの点線により囲まれる、標本面2a上のスリット投影像102を含む領域Rにおいて反射された光が、ラインセンサ22の長手方向と垂直な方向(スリット投影像102の長手方向)に集光され、ラインセンサ22に入射する。すなわち、領域Rにおいて反射された光が、領域Rの長手方向に足し合わされてラインセンサ22に入射する。これにより、スリットAF光は、標本面2aの反射率のムラによる光量の分布のムラが平均化され緩和されるとともに、光量が増加されて、ラインセンサ22に入射する。
【0076】
従って、図13Bに示されるように、シリンドリカルレンズ20を設けた場合のスリット信号の波形S11の時刻(t)軸方向の広がりは、波形S1’とほぼ同様になる。これにより、波形S11が位置検出閾値Thsと交わる最も前ピン側の時刻PXS11が、時刻PXS’に近くなり、最も後ピン側の時刻PXL11が、時刻PXL’に近くなる。従って、スリット位置PXC11は、スリット位置PXC’とほぼ同じ位置に検出される。
【0077】
このように、シリンドリカルレンズ20を設けることにより、スリット位置の検出精度を向上させることができ、その結果、より正確に焦点調節を行うことができる。
【0078】
なお、光Lbは、シリンドリカルレンズ20の作用により、シリンドリカルレンズ20がレンズ曲率を有するラインセンサ22の短手方向については集光されるが、レンズ曲率を有する方向と直交するラインセンサ22の長手方向については光路が延長され、結像位置が一致しない。そこで、ラインセンサ22を設置する位置L2(図12C)は、例えば、ラインセンサ22の長手方向において光Lbが結像する位置に設定される。この場合、ラインセンサ22においてスリット像に多少のボケが発生する。しかし、シリンドリカルレンズ20を設置する目的が、スリットAF光の光量の分布のムラを平均化することなので、特に問題にはならない。
【0079】
また、上述したように、光Lbは、シリンドリカルレンズ20がレンズ曲率を有する方向と直交する方向について光路が延長される。従って、平行平面ガラス19および平行平面ガラス21を設け、シリンドリカルレンズ20によりレンズ曲率を有する方向と直交する方向において光Lbの光路長が延長されるのと同じ長さだけ、光Laと光Lcの光路長を延長する。これにより、光Laと光Lbとの間の光路差と、光Lbと光Lcとの間の光路差とが互いに等しい状態に保たれる。
【0080】
また、図14Aに示されるように、標本面2aの反射率の分布が、スリット投影像の長手方向の中心線を境にして、ほぼ均等に分かれている場合、シリンドリカルレンズ20を設けたとしても、スリット信号の波形は、図8Bの波形S1と同様の波形になり、スリット位置が誤検出されてしまう。この場合、例えば、図14Bに示されるように、スリットAF光およびラインセンサ22の向きを反時計回りに45度回転させるか、あるいは、標本2を時計回りに45度回転させて、領域Rの長手方向の中心線の両側において領域R内の標本面2aの反射率の分布が平均化するようにすることにより、スリット位置を正確に検出することができるようになる。
【0081】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明を適用した焦点調節装置の一実施の形態を示す図である。
【図2】ラインセンサ、信号処理部、CPU、上下駆動部の詳細を示すブロック図である。
【図3】コントラスト信号について説明する図である。
【図4】コントラスト検出方式の焦点検出について説明する図である。
【図5】スリット位置の検出について説明する図である。
【図6】2種類のゲインの使い分けについて説明する図である。
【図7】2種類のゲインを用いてコントラスト信号を増幅した結果について説明する図である。
【図8】シリンドリカルレンズを設けない場合のスリット位置の検出結果の例を説明する図である。
【図9】焦点調節装置の第2対物レンズ、3分割プリズム、平行平面ガラス、シリンドリカルレンズ、平行平面ガラスおよびラインセンサの部分を抽出して示した図である。
【図10】スリットAF光の光路の例を示す図である。
【図11】スリットAF光の光路の例を示す図である。
【図12】シリンドリカルレンズの有無による結像位置の違いを説明するための図である。
【図13】シリンドリカルレンズを設けた場合のスリット位置の検出結果の例を説明する図である。
【図14】標本面の反射率の分布に応じて、スリット位置を正確に検出できるようにする方法の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0083】
1 ステージ, 2 標本, 3 第1対物レンズ, 7 LED, 8 スリット板, 9 コレクタレンズ, 10 瞳マスク, 12 コレクタレンズ, 13 スリット板, 14 LED, 17 第2対物レンズ, 18 3分割プリズム, 19 平行平面ガラス, 20 シリンドリカルレンズ, 21 平行平面ガラス, 22 ラインセンサ, 23 信号処理回路, 24 CPU, 25 上下駆動部, 34 スリット位置検出回路, 36 コントラスト信号増幅回路, 37 切換スイッチ回路, 39 合焦可能範囲判定回路, 41 ゲイン算出回路, 50 演算回路, 51 ドライバ, 52 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを介して観察対象の物体に照射され反射された反射光の光路長が異なる位置における2つの像のコントラストの差、および、前記対物レンズを介して前記物体に照射され反射された所定のスリット光によるスリット像であって、前記対物レンズと前記物体との光軸方向の間隔に応じて長手方向と直交する方向に移動するスリット像の横ずれ量に基づいて、前記対物レンズと前記物体との間隔調節を行う焦点調節装置において、
前記物体からの反射光を、光路長が異なる第1乃至第3の位置における第1乃至第3の受光面において受光するとともに、前記スリット像の長手方向に対して直交させて配置される一次元の受光手段と、
前記物体により反射された前記スリット光が入射し、入射する前記スリット光の長手方向がレンズ曲率を有する方向と一致するように、前記第2の受光面の前に配置されるシリンドリカルレンズと、
前記シリンドリカルレンズを介して前記第2の受光面に投影された前記スリット像の前記横ずれ量に応じたゲインにより、前記物体からの反射光の前記第1の受光面における像のコントラスト値を示す第1のコントラスト信号および前記第3の受光面における像のコントラスト値を示す第2のコントラスト信号を増幅する増幅手段と、
増幅された前記第1のコントラスト信号および前記第2のコントラスト信号に基づいて、前記対物レンズと前記物体との間隔調節を行う調節手段と
を備えることを特徴とする焦点調節装置。
【請求項2】
前記第1の受光面および前記第3の受光面の前に配置され、前記シリンドリカルレンズによりレンズ曲率を有する方向と直交する方向において前記第2の受光面に入射する光の光路長が延長されるのと同じ長さだけ、前記第1の受光面および前記第3の受光面に入射する光の光路長を延長する平行平面ガラスを
さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の焦点調節装置。
【請求項3】
前記増幅手段は、前記対物レンズの焦点が前記物体に合っている場合の前記スリット像の位置からの前記横ずれ量が所定の範囲内である場合、第1のゲインにより前記第1のコントラスト信号および前記第2のコントラスト信号を増幅し、前記横ずれ量が前記範囲外である場合、前記第1のゲインより小さい第2のゲインにより前記第1のコントラスト信号および前記第2のコントラスト信号を増幅する
ことを特徴とする請求項1に記載の焦点調節装置。
【請求項4】
対物レンズが捉えた像を観察するための顕微鏡光学系と、
前記対物レンズの焦点調節を行う請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の焦点調節装置と
を備えることを特徴とする顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−8630(P2010−8630A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166870(P2008−166870)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】