説明

焼入れ深さ検査装置

【課題】測定コイルを移動させる必要がなく、かつ被検査材の焼入れ領域の局部的な深さを検出することができる。
【解決手段】略U字形に成形され、左右の脚部11,12の先端面が被検査材Wの表面に接触ないし近接対向させられた磁性体コア1と、励磁信号を出力するとともにその周波数を一定範囲で変更可能な交流電源と、磁性体コア1の一方の脚部11に巻回され、交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイル21と、磁性体コア1の他方の脚部12に巻回されて一次コイル21の磁力線Mが通過する二次コイル22と、交流電源の励磁信号の周波数を逐次変更し、二次コイル22の出力信号85aが最大ないし最小を示す周波数より被検査材Wの焼入れ深さを検出する検出回路とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検査材表面の局部的な焼入れ深さを判定できる焼入れ深さ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入れ深さを検出する装置として例えば特許文献1に記載のものが知られている。これは、リング状の測定コイル内に被検査材を位置させて、測定コイルを当該被検査材の側面に沿って移動させる。焼入れ領域と生地領域ではインピーダンスが異なるため、両領域の境界が測定コイル内を相対的に移動するとこれに応じて渦電流が変化する。これにより、焼入れ領域と生地領域の境界の位置、すなわち焼入れ深さを検出することができる。
【特許文献1】特開2006−337250
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の焼入れ深さ検査装置では、測定コイルを移動させる機構が必要であるとともに、測定コイルの移動方向へ形成された焼入れ領域全体の深さは検出できるものの、焼入れ領域の局部的な焼入れ深さを検出することができないという問題があった。
【0004】
そこで本発明はこのような課題を解決するもので、測定コイルを移動させる必要がなく、かつ被検査材の焼入れ領域の局部的な深さを検出することができる焼入れ深さ検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本第1発明では、略U字形に成形され、左右の脚部(11,12)の先端面が被検査材(W)の表面に接触ないし近接対向させられた磁性体コア(1)と、励磁信号(7a)を出力するとともにその周波数を一定範囲で変更可能な交流電源(7)と、磁性体コア(1)の一方の脚部(11)に巻回され、交流電源(7)に接続されて励磁信号(7a)が印加される一次コイル(21)と、磁性体コア(1)の他方の脚部(12)に巻回されて一次コイル(21)の磁力線が通過する二次コイル(22)と、交流電源(7)の励磁信号(7a)の周波数を逐次変更し、二次コイル(22)の出力信号(85a)が最大ないし最小を示す周波数より被検査材(W)の焼入れ深さを検出する検出手段(3)とを備える。
【0006】
本第1発明においては、被検査材の表面に磁性体コアの脚部先端面を接触ないし近接対向させた状態で焼入れ深さを検出できるから、被検査材の焼入れ領域の局部的な深さを検出することができる。また、励磁信号の周波数を逐次変更し、二次コイルの出力信号が最大ないし最小を示す周波数より被検査材の焼入れ深さを検出するから、従来のように測定コイルを移動させる必要がなく、移動機構が不要であるから装置構造が簡易化される。加えて、磁性体コアを略U字形に成形したから、1次コイルによって発生した磁力線は被検査材との間で閉磁気回路を形成する。この結果、磁力線の外部漏れが少なくなり、磁力線が効率的に2次コイルを通過させられるから、焼入れ深さの検出における外部ノイズの影響を最小限に抑えることができる。
【0007】
本第2発明では、磁性体コア(1)、一次コイル(21)および二次コイル(22)で構成される測定コイル(2)に加えて、当該測定コイル(2)と実質的に同一構造の基準コイル(6)を設けて、当該基準コイル(6)の磁性体コア(5)の、左右の脚部の先端面を基準検査材の表面に接触ないし近接対向させるとともに、基準コイル(6)の一次コイル(61)を交流電源(7)に接続して励磁信号(7a)を印加し、かつ検出手段(3)は、基準コイル(6)の二次コイル(62)から出力される基準出力信号(6a)と測定コイル(2)の二次コイル(22)から出力される測定出力信号(2a)の差出力信号(81a)を得る演算手段(81)と、基準出力信号(6a)が零レベルを横切った時点でタイミング信号(84a)を発するタイミング信号生成手段(82,83)とを備え、タイミング信号(84a)が発せられた時点から前記基準出力信号の四半周期後の時点での差出力信号(81a)を出力信号(85a)とするものである。
【0008】
本第2発明においては、基準信号出力が零レベルを横切った時点から当該基準信号出力の四半周期後の時点での差出力信号の大きさは、その最大ないし最小ピーク付近の大きさになっているから、これに基づいて被検査材の焼入れ深さの検出を確実に行うことができる。
【0009】
本第3発明では、端部表面が被検査材の表面に接触ないし近接対向させられた磁性体コアと、励磁信号を出力するとともにその周波数を一定範囲で変更可能な交流電源と、前記磁性体コアに巻回され、前記交流電源に接続されて前記励磁信号が印加される一次コイルと、前記磁性体コアに巻回されて前記一次コイルの磁力線が通過する二次コイルと、前記交流電源の励磁信号の周波数を逐次変更し、前記二次コイルの出力信号が最大ないし最小を示す周波数より前記被検査材の焼入れ深さを検出する検出手段とを備える。本第3発明においては、被検査材の表面に磁性体コアの端部表面を接触ないし近接対向さた状態で焼入れ深さを検出できるから、被検査材の焼入れ領域の局部的な深さを検出することができる。また、励磁信号の周波数を逐次変更し、二次コイルの出力信号が最大ないし最小を示す周波数より被検査材の焼入れ深さを検出するから、従来のように測定コイルを移動させる必要がなく、移動機構が不要であるから装置構造が簡易化される。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の焼入れ深さ検査装置によれば、測定コイルを移動させる必要がないから移動機構が不要であるとともに、被検査材の焼入れ領域の局部的な深さを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には焼入れ深さ検査装置のセンサ部の断面図を示す。図1は被検査材Wの円形断面局部W1の焼入れ深さを検出する例を示している。センサ部にはフェライト製の磁性体コア1が設けられており、当該磁性体コア1は、下方に位置する被検査材Wの方向を向く所定厚のU字形に成形されている。磁性体コア1は左右の脚部11,12の先端面が被検査材局部W1の表面形状に沿うように傾斜させられて、局部W1表面とそれぞれ一定間隙S1,S2で対向している。なお、この間隙S1,S2は、焼入れ後の局部W1表面に生成される黒皮による凹凸を避けるためのもので、局部W1表面が滑らかであれば各脚部11,12の先端面を局部W1表面に接触させても良い。
【0013】
磁性体コア1の一方の脚部11には一次コイル21が巻回されており、他方の脚部12には二次コイル22が巻回されている。これら磁性体コア1、一次コイル21および二次コイル22は測定コイル2(図2参照)を構成して、詳細を後述する検出回路3に接続されている。磁性体コア1は樹脂製ホルダ41に基部が埋設されるとともに脚部11,12の先端外面がホルダ41に接合されてこれに保持されている。ホルダ41の左右の側面にはそれぞれ支持片42の上端部が接しており、これら支持片42の下端面は被検査材局部W1の表面に倣った形状で当該表面に接している。支持片42の上端部には上下方向へ延びる長穴421,422が形成されて、これを水平に貫通したボルト431,433の先端がホルダ41の側面内に捩じ込まれている。ボルト431,432を緩めることによって、長穴421,422の形成範囲内で上下方向へホルダ41を移動させることができ、これによって磁性体コア1の脚部11,12先端面と被検査材局部W1表面の間隙S1,S2を調整することができる。
【0014】
ホルダ41には下方へ開放する容器状の樹脂製カバー体44が覆着してあり、カバー体44の頂面中心には上下方向へ貫通させて雌コネクタが設けてある。雌コネクタ45には検出回路3(図2)から至るケーブル47先端の雄コネクタ46が結合されている。そして、一次コイル21および二次コイル22から延出した各一対のリード線221,222が、ホルダ41の上面に設けた端子台48の各端子481を経由して雌コネクタ45のピン451に導通接続されている。
【0015】
図2に検出回路3の構成を示す。図2において、検出回路3には基準コイル6が設けられており、基準コイル6は、巻き数、径、長さを上記測定コイル2の一次コイル21および二次コイル22とそれぞれ同一にした一次コイル61と二次コイル62、および磁性体コア5を備えている。そして、これら一次コイル61と二次コイル62は上記磁性体コア1と同形同質の磁性体コア5の各脚部に上記と同様に巻回され、かつ磁性体コア5の各脚部の先端面は、予め焼入れ度を測定し適正な焼入れをなされたことが確認されている、上記被検査材Wと同径同質の基準検査材の円形断面局部の表面に対し上記間隙S1,S2と同一間隙を保つように治具により固定支持されている。
【0016】
基準コイル6と測定コイル2の各一次コイル21,61は共通の交流電源7に接続されて励磁信号7a(図3(1))が印加されている。交流電源7は一定範囲(本実施形態では10〜100Hz)で励磁信号7aの周波数を変更することができるようになっている。測定コイル2の一次コイル21に励磁信号7aが印加されると、磁性体コア1、間隙S1,S2、および被検査材Wの間を循環して二次コイル22内を通過する磁力線M(図1参照)が生じる。これは基準コイル6の場合も同様である。これにより、測定コイル2と基準コイル6の各二次コイル22,62からはそれぞれ、被検査材あるいは基準検査材の焼入れ度に応じた電圧値を有する測定出力信号2a(図2(3))と基準出力信号6a(図2(2))が出力される。この場合、磁力線Mは被検査材Wとの間で閉磁気回路を形成しており、この結果、磁力線Mの外部漏れが少ないから、磁力線Mは効率的に二次コイル22,62を通過させられる。これにより、測定出力信号2aおよび基準出力信号6aに対する外部ノイズの影響は最小限に抑えられる。上記出力信号2a,6aは被検査材および基準検査材の焼入れ度に応じて振幅が変化すると同時に、その位相も変化している。すなわち例えば図3に示すように、出力信号2a,6aはいずれも励磁信号7aに対し、振幅が変化するとともに、略同一のθ程度の位相遅れを生じている。
【0017】
上記基準出力信号6aと測定出力信号2aは差動増幅回路81(図2)に入力しており、両出力信号6a,2aの差出力信号81a(図3(7))が差動増幅回路81から出力される。この差出力信号81aは、適正な焼入れ度で焼入れされた基準検査材に対する、被検査材Wの焼入れ度のズレを示している。したがって、差出力信号81aの振幅の大きさから被検査材Wの焼入れ度の良否を判定することができる。ここで、差出力信号81aは図3に示すように上記位相遅れθを有しつつその大きさ(電圧)が周期的に変化する正弦波となっているから、焼入れ度の良否を確実に判定するには、差出力信号81aのピークSp付近の電圧値を検出する必要がある。
【0018】
そこで、図2に示すように、差動増幅回路81の後段にサンプルホールド回路85が設けてあり、これに差出力信号81aが入力している。一方、上記基準出力信号6aはスライサー回路82にも入力し、スライサー回路82は基準出力信号6aの電圧が零を超えてから再び零へ戻るまでの間「H」レベルとなる矩形波信号82a(図3(4))を出力する。矩形波信号82aはエッジ検出回路83に入力し、エッジ検出回路83は上記矩形波信号82aの立ち上がりに同期したタイミング信号たるパルス信号83a(図3(5))を出力する。パルス信号83aは遅延回路84に入力し、遅延回路84ではパルス信号83aを、基準出力信号6aの位相のπ/2に相当する時間だけ遅延させてトリガパルス信号84a(図3(6))として出力する。トリガパルス信号84aは上記サンプルホールド回路85に入力し、この入力タイミングで差出力信号81aのピークSp付近の電圧値がサンプルされて、比較出力信号85a(図3(8))としてホールドされ、後段のパソコン等で実現される判定回路86へ出力される。
【0019】
ところで、比較出力信号85aが最大(ないし最小)を示す励磁信号7aの周波数は焼入れ深さによって異なる。これを、焼入れ深さに対する磁束密度変化を示す図4〜図6で説明する。なお、以下の各図中、線x、線y、線zはそれぞれ、励磁信号7aの周波数を100Hz、60Hz、20Hzとした時の磁束密度変化曲線である。
【0020】
図4は焼入れ深さが0.5mmの場合の磁束密度変化を示し、この場合には、励磁信号7aの周波数を100Hzとした時に、被検査材Wの焼入れ領域と生地領域の境界での磁束密度変化(図中線x)が最も大きく現れる。これに伴い、励磁信号7aの周波数を100Hzとした時に比較出力信号85aが最大(ないし最小)となる。
【0021】
これに対して、焼入れ深さが1.6mmの場合には、励磁信号7aの周波数を60Hzとした時に、被検査材Wの焼入れ領域と生地領域の境界での磁束密度変化(図中線y)が最も大きく現れる。これに伴い、励磁信号7aの周波数を60Hzとした時に比較出力信号85aが最大(ないし最小)となる。
【0022】
さらに、焼入れ深さが2.5mmの場合には、励磁信号7aの周波数を20Hzとした時に、被検査材Wの焼入れ領域と生地領域の境界での磁束密度変化(図中線z)が最も大きく現れる。これに伴い、励磁信号7aの周波数を20Hzとした時に比較出力信号85aが最大(ないし最小)となる。
【0023】
以上のように、比較出力信号85aが最大(ないし最小)を示す励磁信号7aの周波数と焼入れ深さは一対一に対応するから、判定回路86では、予めこの対応関係のテーブルを記憶しておき、交流電源7に周波数変更信号86aを出力して、一次コイル21,61に印加する励磁信号7aの周波数を逐次変化させ、このとき入力する比較出力信号85aが最大(ないし最小)を示す周波数を知ることにより、焼入れ深さを判定する。
【0024】
上記実施形態ではU字形の磁性体コアを使用したが、両脚部を備えるものであれば正確なU字形である必要はない。また、磁性体コアとして例えば棒状のものを使用し、これに一次コイルと二次コイルを巻回するような構造としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】焼入れ深さ検査装置のセンサ部の断面図である。
【図2】焼入れ深さ検査装置の検出回路のブロック構成図である。
【図3】焼入れ深さ検査装置の検出回路の信号波形図である。
【図4】周波数の異なる各励磁信号の、焼入れをした被検査材表面からの深さに対する磁束密度変化を示す図である。
【図5】周波数の異なる各励磁信号の、焼入れをした被検査材表面からの深さに対する磁束密度変化を示す図である。
【図6】周波数の異なる各励磁信号の、焼入れをした被検査材表面からの深さに対する磁束密度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1…磁性体コア、11,12…脚部、2…測定コイル、2a…測定出力信号、21…一次コイル、22…二次コイル、3…検出回路、5…磁性体コア、6…基準コイル、6a…基準出力信号、61…一次コイル、62…二次コイル、7…交流電源、7a…励磁信号、81…差動増幅回路(演算手段)、82…スライサー回路(タイミング信号生成手段)、83…エッジ検出回路(タイミング信号生成手段)、W…被検査材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略U字形に成形され、左右の脚部の先端面が被検査材の表面に接触ないし近接対向させられた磁性体コアと、励磁信号を出力するとともにその周波数を一定範囲で変更可能な交流電源と、前記磁性体コアの一方の脚部に巻回され、前記交流電源に接続されて前記励磁信号が印加される一次コイルと、前記磁性体コアの他方の脚部に巻回されて前記一次コイルの磁力線が通過する二次コイルと、前記交流電源の励磁信号の周波数を逐次変更し、前記二次コイルの出力信号が最大ないし最小を示す周波数より前記被検査材の焼入れ深さを検出する検出手段とを備える焼入れ深さ検査装置。
【請求項2】
前記磁性体コア、一次コイルおよび二次コイルで構成される測定コイルに加えて、当該測定コイルと実質的に同一構造の基準コイルを設けて、当該基準コイルの磁性体コアの、左右の脚部の先端面を基準検査材の表面に接触ないし近接対向させるとともに、前記基準コイルの一次コイルを前記交流電源に接続して前記励磁信号を印加し、かつ前記検出手段は、前記基準コイルの二次コイルから出力される基準出力信号と前記測定コイルの二次コイルから出力される測定出力信号の差出力信号を得る演算手段と、前記基準出力信号が零レベルを横切った時点でタイミング信号を発するタイミング信号生成手段とを備え、前記タイミング信号が発せられた時点から前記基準出力信号の四半周期後の時点での前記差出力信号を前記出力信号とするものである請求項1に記載の焼入れ深さ検査装置。
【請求項3】
端部表面が被検査材の表面に接触ないし近接対向させられた磁性体コアと、励磁信号を出力するとともにその周波数を一定範囲で変更可能な交流電源と、前記磁性体コアに巻回され、前記交流電源に接続されて前記励磁信号が印加される一次コイルと、前記磁性体コアに巻回されて前記一次コイルの磁力線が通過する二次コイルと、前記交流電源の励磁信号の周波数を逐次変更し、前記二次コイルの出力信号が最大ないし最小を示す周波数より前記被検査材の焼入れ深さを検出する検出手段とを備える焼入れ深さ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−78326(P2010−78326A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243495(P2008−243495)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(591172054)株式会社明和eテック (24)
【Fターム(参考)】