説明

熱プレス成形用離型フィルム

【課題】離型性、非汚染性、寸法安定性に優れ、生産性においても良好な熱プレス成形用離型フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも一方の表面が離型層として構成されている熱プレス成形用離型フィルムであって、前記の離型層は、官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B−1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B−2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)と残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とを含む樹脂組成物から成り、濡れ張力が30mN/m以下である熱プレス成形用離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱プレス成形用離型フィルムに関する。詳しくは、熱プレス成形の際、金属、ポリイミド樹脂、接着剤などとの離型性や耐熱性に優れ、成形対象物を汚染し難く、廃棄も容易であるポリブチレンテレフタレート樹脂系の離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線板などの製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板または銅箔を熱プレスし、積層する際に離型フィルムが使用されている。また、フレキシブルプリント基板の製造工程において、電気回路を形成したフレキシブルプリント基板本体に、熱硬化型接着剤によってカバーレイフィルムを熱プレス接着する際に、カバーレイフィルムとプレス熱板とが接着するのを防止するために、離型フィルムを使用する方法が広く行われている。
【0003】
近時、熱プレス成形に耐える耐熱性、プリント配線基板や熱プレス板に対する離型性、銅回路に対する非汚染性およびプレス時の銅回路破損防止のための寸法安定性のような離型フィルム本来の特性以外に、環境保全という社会的要請も加わり、これに応えるため、結晶性芳香族ポリエステルから成る離型フィルム、更に、結晶成分として少なくともブチレンテレフタレートを含んだ離型フィルムが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−212453号公報
【0004】
ところで、上記の提案においては、フィルム表面の結晶化度を高めて寸法安定性を向上させるため、(1)樹脂組成物に結晶核剤を添加すること、(2)溶融成形時の冷却温度を70〜150℃に設定すること、(3)フィルムの製膜後に120〜200℃の熱処理することが必要である。
【0005】
しかしながら、上記の(1)は引張伸度の低下をもたらし、上記の(2)及び(3)は生産性の低下を起こすという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、離型性、非汚染性、寸法安定性に優れ、生産性においても良好な熱プレス成形用離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ブチレンテレフタレートを主成分とする樹脂に、特定の離型剤またはポリオレフィンを配合することにより、上記の目的を達成し得るとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、少なくとも一方の表面が離型層として構成されている熱プレス成形用離型フィルムであって、前記の離型層は、官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B−1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B−2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)と残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とを含む樹脂組成物から成り、濡れ張力が30mN/m以下であることを特徴とする熱プレス成形用離型フィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、離型性、非汚染性、寸法安定性に優れ、生産性においても良好な熱プレス成形用離型フィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱プレス成形用離型フィルムの離型層は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B−1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B−2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)とから構成される。なお、以下、熱プレス成形用離型フィルムを「離型フィルム」と略記する。
【0011】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
本発明で使用するポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂と略記することがある)の固有粘度は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値として、通常0.7〜2.0dl/g、好ましくは0.8〜1.8dl/g、更に好ましくは0.8〜1.5dl/gである。固有粘度が0.7dl/g未満の場合は、PBT含有樹脂組成物を使用したフィルムの機械的強度が不十分となるおそれがある。固有粘度が2.0dl/gを超える場合は、溶融粘度が高くなり、流動性が悪化し、特に多層共押出フィルム成形において、層間の厚み精度が低下する恐れがある。
【0012】
本発明で使用するPBT樹脂の特性は、残存テトラヒドロフラン量は300ppm(重量比)以下である点を除き、特に制限されないが、結晶化温度、末端カルボキシル基量については次の通りである。すなわち、結晶化温度は175℃以上、末端カルボキシル基量は50eq/t以下であることが好ましい。次の(1)及び(2)に記載のPBT樹脂は特に好ましい態様例である。
【0013】
(1)降温結晶化温度が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるPBT樹脂。
【0014】
(2)降温結晶化温度が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下、末端カルボキシル基量が50eq/t以下であるPBT樹脂。
【0015】
PBT樹脂の降温結晶化温度は、好ましくは175℃以上であるが、更に好ましくは177℃以上である。本発明において、降温結晶化温度は、示差走査熱量計を使用し、降温速度20℃/分で測定した値を意味する。この降温結晶化温度は、溶融状態のPBT樹脂を冷却したときに現れる結晶化による発熱ピークの温度を意味する。結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。PBT樹脂の降温結晶化温度が175℃以上の場合は、PBT含有樹脂組成物をフィルム成形する際に急冷しても十分な結晶化が進行し、170℃における寸法安定性が確保が容易になる。降温結晶化温度が175℃未満の場合は、フィルム成形に際して結晶化に時間が掛かり、離型フィルム中に非晶部分が多くなり、熱プレス工程により結晶化が進行し、寸法収縮が起こり、寸法変化率が1.5%以下を満足できなくなる。
【0016】
PBT樹脂中の残存テトラヒドロフラン量(テトラヒドロフランをTHFと略することがある)は、300ppm(重量比)以下であるが、好ましくは200ppm(重量比)以下である。残存THF量は、PBT樹脂ペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したTHF量をガスクロマトグラフィーで定量することにより求めることが出来る。PBT樹脂中の残存THF量を300ppm(重量比)以下とすることにより、PBT含有樹脂組成物から得られる成形品を高温で使用した場合の、有機ガスの発生が少なく、銅回路に対する非汚染性の点で離型フィルムとして好適に使用することが出来、熱プレス成形時の製品歩留まりが向上する。残存THF量が300ppm(重量比)を超える場合は、フィルムを高温に加熱した際の有機ガスの発生が多くなり、銅回路の汚染を引き起こすおそれがある。残存THF量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、30ppm(重量比)程度である。残存THF量が少ない方が、有機ガスの発生が少なくなる傾向はあるものの、残存量とガス発生量は必ずしも比例するものではなく、30ppm程度のTHFの存在は、通常の使用に問題とならない。
【0017】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、好ましくは50eq/t以下であるが、更に好ましくは30eq/t以下である。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、PBT樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることが出来る。PBT樹脂の末端カルボキシル基量を50eq/t以下とすることにより、PBT樹脂の耐加水分解性を高めることが出来、溶融コンパウンド時や、フィルム成形時や加熱プレス時の分子量低下によるフィルムの割れ、破断などの発生を低減することが出来る。PBT樹脂中のカルボキシル基は、PBT樹脂の加水分解に対して自己触媒として作用するため、50eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、更に、生成したカルボキシル基が自己触媒となって連鎖的に加水分解が進行し、PBT樹脂の重合度が急速に低下する。
【0018】
上述の特性を有するPBT樹脂は、例えば、テレフタル酸おび1,4−ブタンジオールを主原料とする重合により得ることが出来る。主原料とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占めることをいう。テレフタル酸は、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。なお、組成または固有粘度が異なるPBT樹脂を2種類以上混合してもよい。
【0019】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分については、特に制限されず、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1、3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0020】
1,4−ブタンジオール以外のジオール成分については、特に制限されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、更に、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することが出来る。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の製造方法には、回分式反応、連続式反応と固相重合法がある。灰分式反応は、エステル交換反応またはエステル化反応と重縮合反応を回分式で行う方法であり、連続式反応は、エステル化反応と重縮合反応を連続的に行う方法である。テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを連続的に重合する方法は、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加が発生することがなく、高品質の樹脂を容易に得ることが出来るので好ましい。また、連続重合法により、ゲルといわれる超高粘度による溶融不能異物の発生が少なく、異物よりの破断が少ないことにより、熱プレス時、離型時の破断が少なくなり、歩留まりの向上というメリットが期待できる。
【0023】
上述のような回分法または連続法にて低い固有粘度のPBT樹脂を製造し、その後、フィルム成形に適した固有粘度まで高めるため、融点より僅かに低い温度で減圧下重合する、いわゆる固相重合による製造も一般的に行われている。この方法は、残存テトラヒドロフラン量が少ないというメリットがあるが、ゲルが多いという欠点がある。上述のようにフィルム成形に適した固有粘度まで連続重合法により製造したPBT樹脂が好ましいが、本発明は固相重合法を排除するものではない。
【0024】
連続重合法は、特に制限されないが、直列連続槽型反応器を使用して連続的に重合する方法が好ましい。例えば、1基または複数基のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下、攪拌下にジカルボン酸成分とジオール成分をエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、1基または複数基の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下、攪拌下に重縮合反応させることが出来る。エステル化反応の温度は、通常150〜280℃、好ましくは180〜265℃であり、圧力は、通常6.67〜133kPa、好ましくは9.33〜101kPaであり、反応時間は通常2〜5時間である。また、重縮合反応の温度は、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃であり、圧力は、通常26.7kPa以下、好ましくは20kPa以下であり、反応時間は通常2〜5時間である。重縮合反応により得られたPBT樹脂は、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷されたのちに、ペレタイザーで切断されてペレット状などの粒状体とされる。
【0025】
エステル化反応触媒としては、特に制限されず、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などが挙げられる。これらの中では、チタン化合物が好ましく、その具体例としては、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。チタン化合物触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、PBT樹脂の理論収量に対し、チタン原子として、通常30〜300ppm(重量比)、好ましくは50〜200ppm(重量比)である。
【0026】
重縮合反応触媒としては、新たな触媒の添加を行うことなく、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として使用することが出来、あるいは、重縮合反応時に、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ又は異なる触媒を更に添加することも出来る。例えば、テトラブチルチタネートを更に添加する場合、その使用量は、PBT樹脂の理論収量に対し、チタン原子として、通常300ppm(重量比)以下、好ましくは150ppm(重量比)以下である。エステル化反応触媒と異なる重縮合反応触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物などが挙げられる。
【0027】
エステル化反応及び/又は重縮合反応においては、前記の触媒の他に、反応助剤、抗酸化剤、離型剤などの他の添加剤を存在させることが出来る。反応助剤としては、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、又は、これらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物などが挙げられる。抗酸化剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチルテトラキス〔3−(3',5'−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などが挙げられる。離型剤としては、モンタン酸やモンタン酸エステルなどの長鎖脂肪酸又はそのエステル等が挙げられる。
【0028】
なお、PBT樹脂の製造方法には、テレフタル酸ジメチル等と、1,4−ブタンジオールとのエステル交換反応を経る方法と、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの直接エステル化反応を経る方法があるが、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応は、原料コスト面から有利である。また、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートを容易に得ることが出来る。
【0029】
なお、前述の結晶化温度が175℃以上、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下、末端カルボキシル基量が25eq/t以下のポリブチレンテレフタレート樹脂は、その製造方法を含め、本願出願人により、例えば、特開2004−75756号公報によって提案されている。
【0030】
[離型性付与剤(B)]
本発明における離型性付与剤(B)は次の機能を発揮する。すなわち、フレキシブルプリント基板の製造工程において、電気回路を形成したフレキシブルプリント基板本体に、熱硬化型接着剤によってカバーレイフィルムを熱プレス接着する際、カバーレイフィルムとプレス熱板とが接着するのを防止するため、離型フィルムを使用する。離型性付与剤(B)は、離型フィルムの離型層の樹脂に配合され、離型フィルムの接着の防止をより促進する機能を発揮する。本発明における離型性付与剤(B)は、融点が60℃以上の官能基を有する離型剤(B−1)及び融点が100℃以上のポリオレフィン樹脂(B−2)から成る群より選ばれる少なくとも一種である。
【0031】
[離型剤(B−1)]
本発明で使用する離型剤(B−1)は、射出成形などにおける金型と溶融樹脂との密着性を低下させるための、分子量が通常300〜8000のプラスチック用離型剤が使用可能であるが、融点が60℃以上で官能基を有している必要がある。ここで官能基とは、ポリブチレンテレフタレートと親和性を向上させる有機残基であり、例えば、カルボキシル基、エステル基、水酸基、カルボン酸金属塩基、アルコキシ基、エーテル基、ケトン基、エポキシ基、アミノ基、アミド基などであり、一分子中に少なくとも一つ以上の官能基を有している必要がある。融点が60℃以上で、同時に官能基を有していることにより、フレキシブルプリント基板などの製造における熱プレス中に離型層のポリブチレンテレフタレート樹脂からの飛散やブリードアウトが抑制され、基板の汚染トラブルが減少する。なお、融点は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度20℃/分で測定した融解の吸熱ピーク温度を意味する。
【0032】
離型剤(B−1)の具体例としては、ステアリン酸(融点70℃)、モンタン酸などの炭素数18以上の脂肪酸;グリセリンモノステアレート(67℃)、グリセリンモノパルミテート(65℃)、グリセリンモノベヘネート(80℃)、グリセリンモノ−12−ヒドロキシステアレート(75℃)、ソルビタンステアレート(60℃)、ソルビタントリベヘネート(69℃)、ペンタエリスリトールステアレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩;ステアリン酸アマイド(100℃)、エチレンビスステアリン酸アマイド等の脂肪酸アミド(145℃);分子量6000以上のポリエチレングリコール;酸化パラフィンワックス、酸化マイクロクリスタリンワックス、マレイン酸変性炭化水素などの変性タイプポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0033】
[ポリオレフィン樹脂(B−2)]
本発明で使用するポリオレフィン樹脂とは、α−オレフィンを主体とする分子量10000以上の重合体である。主成分のα−オレフィンとしては、炭素数2〜10の範囲のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられ、α−オレフィン以外の共重合成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸エステル、メチルメタクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(無水)マレイン酸などが挙げられる。
【0034】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン等の単独重合体が挙げられる。また、他種類のα−オレフィンとの共重合体、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−ヘキセン共重合体、プロピレン−オクテン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリル酸エステル共重合体、エチレン−グリシジルアクリル酸エステル共重合、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニルケン化物、エチレン−g−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。ここで「g−」はグラフト共重合を意味する。
【0035】
本発明で使用するポリオレフィン樹脂の融点は100℃であるが、好ましくは130℃以上、更に好ましくは150〜250℃である。なお、融点は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度20℃/分で測定した融解の吸熱ピーク温度を意味する。
【0036】
本発明においては、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ−4−メチルペンテン重合体などが好適に使用される。柔軟性、耐熱性、コストの観点から、ポリプロピレン樹脂が特に好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体の他、プロピレンと炭素数2〜10のプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、例えば、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、または、これらの無水マレイン酸グラフト共重合体などが挙げられる。
【0037】
本発明で使用するポリオレフィン樹脂は適度の流動性があることが好ましい。具体的な流動性は、ISO1183に準拠し、250℃、荷重2.16kgで測定したメルトマスフローレイト(MFR)として、通常0.5〜100g/10分、好ましくは1〜30g/10分である。MFRが0.5g/10分未満の場合は、フィルムに均一に分散せず、表面剥離を起こしたり、引張伸度が低下する。また、MFRが100g/10分より大きい場合は、ガスの発生などがあり、プリント基盤の銅回路を汚染することがある。
【0038】
[離型層(樹脂組成物)]
本発明において、離型層中のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対する離型剤(B−1)の割合は、通常0.05〜5重量部、好ましくは0.07〜3重量部である。0.05重量部未満の場合は離型性改善効果が認められず、10重量部を超える場合は、銅回路などの汚染を引き起こし、歩留まりが低下することがある。一方、離型層中のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対する離型剤(B−2)の割合は、通常5〜100重量部、好ましくは10〜70重量部である。5重量部未満の場合は離型性改善効果が認められず、100重量部を超える場合は、銅回路などの汚染や耐熱性の低下を引き起こし、歩留まりが低下することがある。そして、本発明における離型層の濡れ張力は、離型性付与剤の種類や配合量を適切に選択することにより、30mN/m以下に調節される。
【0039】
離型層用の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と離型性付与剤(B)と必要に応じて使用される各種の添加成分とを配合し、溶融混練することによって得られる。配合には、例えば、リボンブレンダー、ヘンセルミキサー、ドラムブレンダー等が使用される。溶融混練には、各種押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサー等が使われるが、二軸押出機が好適である。二軸押出機による溶融混練の際の加熱温度は通常220〜270℃である。混練時の分解を抑制するため、フェノール系、リン系の熱安定剤を使用してもよい。また、溶融混練時に発生したガス等の低揮発分を除去するため、押出機のベント口を減圧にすることが好ましい。また、高濃度の離型性付与剤(B)を配合したマスターペレットを調製し、これとポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とを混合してもよい。
【0040】
[離型フィルム]
本発明の離型フィルムは、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。離型フィルムが単相構造であるときは、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と離型性付与剤(B)とを含む樹脂組成物の溶融成形法により作製することができる。上記の溶融成形法としては特に限定されず、例えば、空冷又は水冷インフレーション押出法、Tダイ押出法などの従来公知の熱可塑性樹脂フィルムの成膜方法が挙げられる。また、本発明の離型フィルムが多層構造を有する場合には、例えば、共押出Tダイ法などの既知の方法により製造することが出来る。更に、上述のように、溶融成形法により得られたフィルムに熱処理を施すことにより、特に高い離型性を実現した離型層を得ることが出来る。
【0041】
離型層の厚さは、通常5〜200μm、好ましくは10〜100μmである。5μm未満の場合は強度が不足することがあり、200μmを超える場合は熱プレス成型時の熱伝導率が悪くなることがある。
【0042】
本発明の離型フィルムは、上記の離型層の他に、柔軟樹脂フィルム層を有していていることが好ましい。上記の離型層が柔軟樹脂フィルム層の少なくとも片面に積層された本発明の離型フィルムは、熱プレス成形の際に圧力を均一に掛けるためのクッション性や強度を有する。
【0043】
柔軟樹脂フィルム層を構成する樹脂は、特に限定されないが、使用後の廃棄の容易さから、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのオレフィン系樹脂が好ましい。これらは2種類以上が併用されてもよい。また、これらは、離型層との接着性を向上させるために、酸変性ポリオレフィン、グリシジル変性ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンや、離型層を構成する樹脂などを含有してもよい。また、上記の樹脂フィルム層を構成する樹脂の融点は、プリプレグや熱硬化性接着剤のスルーホールへの染み出しを抑制し、回路パターンへの均一な密着性を得るため、70〜150℃であることが好ましい。
【0044】
上記の柔軟樹脂フィルム層を有する本発明の離型フィルムの製造る方法は、特に限定されず、例えば、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法;共押出Tダイ法で製膜する方法;予め作製した上記離型層上に樹脂フィルム層を構成する樹脂組成物を押出ラミネーション法にて積層する方法;予め別々に作製した上記離型層と樹脂フィルム層等とをドライラミネーションする方法などが挙げられる。これらの中では、共押出Tダイ法で製膜する方法は、各層の厚み制御に優れる点から好ましい。なお、離型フィルムとしての厚みは、通常30〜300μmである。
【0045】
本発明の離型フィルムは、高温での柔軟性、凹凸への追従性、耐熱性、非汚染性に優れ、ハロゲン元素を含有してないので使用後の廃棄が容易にできることから、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板または多層プリント配線板の製造工程において使用される離型フィルムとして極めて好適である。すなわち、本発明の離型フィルムは、例えば、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板または多層プリント配線板の製造工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレス成形する際に使用することが出来る。また、本発明の離型フィルムは、例えば、フレキシブルプリント基板の製造工程において、熱プレス成形によりカバーレイフィルム又は補強板を熱硬化性接着剤または熱硬化性接着シートで接着する際に使用することが出来る。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。使用した樹脂組成物用成分は次の通りである。
【0047】
[PBT樹脂]
【0048】
(A−1):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン5026」(固有粘度1.26dl/g、残存THF量220ppm、末端カルボキシル基濃度20eq/T、結晶化温度178℃)
【0049】
(A−2):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン5505S」(固有粘度1.15dl/g、残存THF量50ppm、末端カルボキシル基濃度15eq/T、結晶化温度160℃)
【0050】
(A−3):回分法にて製造したhomo−PBT樹脂(固有粘度 、残存THF量700ppm、末端カルボキシル基濃度50eq/T、結晶化温度165℃)
【0051】
[離型性付与剤]
【0052】
(B−1):グリセリンステアレート(融点65℃)(理研ビタミン社製「リケマールS100A」)
【0053】
(B−2):無水マレイン酸変性ワックス(融点77℃)(東洋ペトロライト社製{セラマー1608」)
【0054】
(B−3):酸化合成炭化水素(融点116℃)(東洋ペトロライト社製「ペトロライトE−2020」)
【0055】
(B−4):パラフィンワックス(融点69℃、官能基存在せず)(日本精鑞社製「パラフィンワックス155」)
【0056】
(B−5):シリコンオイル(常温にて液体)(信越シリコーン社製「KF54」)
【0057】
(B−6):PP樹脂(融点165℃、MFR12g/10分)(日本ポリプロ社製「ノバテックPP BC3L」)
【0058】
(B−7):EVA樹脂(融点88℃)(日本ポリエチレン社製「ノバテックEVA LV430」)
【0059】
実施例1〜5及び比較例1〜6:
表1に示される組成比でブレンド後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30HTCT」)を使用し、250℃のシリンダー温度で、また、ベント孔を70Torrに減圧にし、揮発分を除去しながら、溶融混練し、ペレット化した。
【0060】
次いで、上記のPBT含有樹脂組成物ペレットと低密度ポリエチレン樹脂(日本ポリケム製「ノバテックLDLE425」)を使用し、65mm押出機2台による3層Tダイ製膜機にて、樹脂温度260℃、チルロール温度30℃、チルロールとリップ間隔70mmの条件下、50/50/50μmの三層構造のフィルムを得た。これを離型フィルムとした。なお、両表層はPBT含有樹脂組成物から成る離型層であり、中間層は低密度ポリエチレン樹脂から成るクッション層である。
【0061】
なお、離型性の評価の基準とするため、PBT含有樹脂組成物の代わりにTPX樹脂(三井化学社製「MX002」)を使用し、製膜時の樹脂温度を300℃とした以外は、上記と同様にしてTPXが表層の離型フィルムを作成した。
【0062】
次いで、離型フィルムの離型性および汚染性を評価するため、次の要領でプリント配線基板を作成した。すなわち、銅張積層板(三菱ガス化学社製「CCL−EL190」)をエポキシプリプレグ(三菱ガス化学社製「GEPL−190」)を介して3枚重ね合わせ、離型フィルムで挟み、更に、これを鏡板で挟み込み、プレス成形を行った。プレスは次のように行った。すなわち、3MPaの圧力で130℃、30分間の予備加熱を行った後、更に、3MPaの圧力を維持したまま180℃で90分間の加熱行った。プレス成形が終了した後、冷却、プレス圧を解放し、離型フィルムを引き剥がし、プリント配線基板を得た。
【0063】
上記の離型フィルムに対し、以下の方法に従って、濡れ張力の測定、離型性評価、非汚染性評価、寸法変化率の測定を行った。表1に結果を示す。
【0064】
(1)濡れ張力の測定:
JIS K6768−1999に従って濡れ張力を測定した。
【0065】
(2)離型性評価:
上記のプリント配線基板から離型フィルムを引き剥がすときの離型の容易さから、次の指標にて評価した。
【0066】
4:TPXの離型フィルム以上に離型が容易である。
3:TPXの離型フィルムと同等の離型性である。
2:TPXの離型フィルムより離型が困難である。
1:TPXの離型フィルムよりかなり離型が困難てあり、実用レベルでない。
【0067】
(3)非汚染性評価:
上記プリント配線基板から離型フィルムを引き剥がした後のプリント配線基板表面の転写物の有無を目視観察し、次の指標にて評価した。
【0068】
4:転写物なし
3:僅かな転写物による曇りがあるが、実用上問題ない。
2:転写物によるやけ・曇りがあり、洗浄しても落ちず、実用レベルでない。
1:樹脂上の付着物があり、全く実用レベルでない。
【0069】
(4)寸法変化率の測定:
離型フィルムの表面に、押出成形の方向(MD方向)及びそれに対して直角方向(TD方向)に100mm間隔の標線をそれぞれ記入した。離型フィルムを鏡板に挟み、170℃、荷重3MPaで60分間プレスを行った後、標線間距離の測定を行い、MDとTDの寸法変化率を算出し、その平均値を求めた。1.5%以下であれば、熱プレス成形用離型フィルムとして実用上好ましい。
【0070】
【表1】

【0071】
表1により、本発明の離型フィルムは、熱処理を行わなくても、離型性、非汚染性、寸法変化率が良好であり、優れた特性を示す。特にPP樹脂を配合した実施例5は優秀であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面が離型層として構成されている熱プレス成形用離型フィルムであって、前記の離型層は、官能基を有する融点60℃以上の離型剤(B−1)及び融点100℃以上のポリオレフィン樹脂(B−2)からなる群より選ばれた少なくとも一種の離型性付与剤(B)と残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とを含む樹脂組成物から成り、濡れ張力が30mN/m以下であることを特徴とする熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の示差熱分析による降温速度20℃/分での結晶化温度が175℃以上である請求項1に記載の熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量が50eq/t以下である請求項1又は2に記載の熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項4】
離型性付与剤(B)がポリプロピレン樹脂である請求項1〜3の何れかに記載の熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項5】
離型層中のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対する離型剤(B−1)の割合が0.05〜5重量部であり、ポリオレフィン樹脂(B−2)の割合が5〜100重量部である請求項1〜4の何れかに記載の熱プレス成形用離型フィルム。
【請求項6】
プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板または多層プリント配線板の熱プレス成形用離型フィルムである請求項1〜5の何れかに記載の熱プレス成形用離型フィルム。

【公開番号】特開2009−66984(P2009−66984A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239610(P2007−239610)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】