説明

熱交換器用表面処理フィン材

【課題】臭気成分を分解することで、異臭の発生を抑制し、抗菌作用に優れ、また、プレス加工による塗膜の損傷を抑制することで塗膜の耐食性が向上し、多湿環境下における塗膜下腐食の発生の抑制効果に優れる熱交換器用表面処理フィン材を提供する。
【解決手段】アルミニウム板2またはアルミニウム合金板2と、このアルミニウム板2またはアルミニウム合金板2の少なくとも片面に形成された光触媒層3と、この光触媒層3の表面に形成された水溶性樹脂潤滑層4とを備える熱交換器用表面処理フィン材1であって、光触媒層3は、二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂とを有し、必要に応じて、アルミニウム板2またはアルミニウム合金板2と、光触媒層3との間に、無機酸化物皮膜5を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器用に用いられるフィン材に係り、特に、臭気成分の分解、殺菌作用および塗膜の耐食性に優れる熱交換器用表面処理フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度や湿度をコントロールするための熱交換器は、建物や自動車用の各種のエアコンディショナや種々のラジエータなどに広く用いられている。
そして、これら熱交換器の構成部品であるフィンの表面には、放熱、冷却、空気調和などのため、空気が出入りすることにより、臭気の原因となるペットや生活用品などの各種生活臭の原因物質や、一般的な室内環境に存在する揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)など、空気中に浮遊する様々な物質が付着する。
その結果、冷房運転時などにこれらの付着した物質がフィンの表面から脱離して、異臭が発生するという問題や室内に浮遊していたカビや雑菌がフィンの表面で繁殖して異臭やアレルギーの原因物質を放出するという問題があった。
また、VOCが付着することで、フィンの表面の親水性処理が損なわれ、フィンの表面が撥水化し、結露水の付着により通風抵抗を増大させてしまうという問題があった。
このような背景の中、フィンの表面に、バインダー等を用いて酸化チタン(二酸化チタン)やチタンアパタイトを担持させた塗膜を形成し、紫外線を当てることで、臭気成分の分解や、殺菌作用を向上させた光触媒技術を利用したフィン材が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
また、バインダーを用いずに、スパッタリング法、蒸着法、CVD法などにより、フィン材の表面に触媒膜(塗膜)を形成することで、臭気成分の分解や、殺菌作用を向上させた光触媒技術を利用したフィン材が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
また、非特許文献1には、エアコンディショナの表面処理について記載されている。
【特許文献1】特許第3093953号公報(段落0010)
【特許文献2】特開2005−214469号公報(段落0003、0016〜0021)
【特許文献3】特開2000−354761号公報(段落0007、0021)
【特許文献4】特開平10−216528号公報(段落0011〜0028、0061)
【特許文献5】特開2000−93807号公報(段落0012〜0022)
【非特許文献1】自動車技術会 学術講演会前刷集963 1996−5 153頁〜156頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の光触媒技術により、臭気成分の分解や、殺菌作用を向上させたフィン材においては、以下に示すような問題があった。
二酸化チタンを担持させるために、フィン材の表面に有機バインダーを用いるとバインダー自体が二酸化チタンによって酸化分解されてしまい、二酸化チタンの剥離や脱落を招くという問題があった。
また、シリカ、アルミナ、オルガノシラン、ジルコニア、ゼオライトなどの従来の一般的な無機バインダーを用いると(例えば、特許文献4)、特許文献2に示すように冷房運転時などの結露開始時において、無機物特有のほこり臭やセメント臭が発生するという問題がある(非特許文献1参照)。特許文献2に記載のカルシウムヒドロキシアパタイトを用いた場合でもこの臭気対策は十分では無い。また、前記無機バインダーや特許文献2の技術では、無機バインダーの表面には、室内に浮遊する臭気物質も吸着しやすいが、熱交換器の複雑な形状のために紫外線があたりにくい場所では、光触媒の作用が働きにくく、無機バインダーの表面における臭気成分の吸脱着が発生するという問題があった。
また、実際にフィン表面に二酸化チタンを担持させる手法としてはプレコート方式で実施することが望ましいが、プレス加工時によってフィンカラーやスリット形状を形成させる際において、特許文献1、2の技術では塗膜が硬質なため塗膜自体がひび割れを発生しやすくなる。塗膜にひび割れが発生した場合、エアコンディショナなどが使用される多湿環境下においては、そのひび割れにより耐食性が劣化し、塗膜下腐食が発生して塗膜の脱落が発生するという問題があった。また、同様に特許文献1、2の技術では塗膜が硬質なためにプレス加工時において工具を大幅に磨耗させてしまう。特許文献3の技術においては、潤滑層を設けることによってプレス加工自体は可能となるものの、塗膜のひび割れを抑制することはできないため、腐食を発生させてしまう。
さらに、バインダーを用いないで塗膜を形成する方法では、フィン材を成形加工する前に、予め金属板に触媒膜を形成するプレコート方式に、スパッタリング法、蒸着法、CVD法などを適用することは難しく、熱交換器を組み立てた後に触媒膜を形成するポストコート方式が適用される。しかし、ポストコート方式にスパッタリング法、蒸着法、CVD法などを適用すると、触媒膜を形成するための時間およびコストがかかり、また、十分な機能を有する膜厚を確保することが難しいという問題があった。
【0004】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、臭気成分を分解することで、異臭の発生を抑制し、抗菌作用に優れ、また、プレス加工による塗膜の損傷を抑制することで塗膜の耐食性が向上し、多湿環境下における塗膜下腐食の発生の抑制効果に優れる熱交換器用表面処理フィン材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1に係る熱交換器用表面処理フィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板と、このアルミニウム板またはアルミニウム合金板の少なくとも片面に形成された光触媒層と、この光触媒層の表面に形成された水溶性樹脂潤滑層とを備えるフィン材であって、前記光触媒層は、二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂とを有することを特徴とする。
【0006】
このような構成によれば、本発明のフィン材においては、光触媒層中の二酸化チタンにより臭気成分が吸着され、この臭気成分が酸化分解されることで、無臭な物質となって脱離される。
また、リン酸チタンは無機バインダーとして作用するとともに、ゼオライト、シリカ、アルミナなど従来の一般的な無機物特有の冷房運転開始時におけるほこり臭やセメント臭などの異臭を発生することが無い。
さらに、光触媒層に水溶性樹脂を添加することにより当該層に可撓性を付与することが可能となり、また、水溶性樹脂潤滑層を備えることによりフィン材表面の潤滑性が付与されることになり工具磨耗を抑制することが可能となる。その結果、フィン材の加工時における光触媒層のプレス加工時の塗膜の損傷を最小限に抑制することができ、塗膜の耐食性の劣化を抑制することができる。
【0007】
請求項2に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記光触媒層の1mあたりの質量は、5〜5000mgであり、前記水溶性樹脂潤滑層の1mあたりの質量は10〜5000mgであることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、光触媒層の質量を所定範囲にすることで、臭気成分の分解に必要な光触媒による活性反応を十分に得ることができるとともに、上限を5000mgとすることで経済性も向上する。
また、水溶性樹脂潤滑層の質量を所定範囲にすることで、フィン材の加工性を十分に向上させることができる。
【0009】
請求項3に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記光触媒層における二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂との比率は、二酸化チタン100質量部に対して、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物が無水物換算で20〜2000質量部、水溶性樹脂が0.01〜50質量部であることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、二酸化チタンに対し、バインダーとして作用するリン酸チタンの比率を制御することで、二酸化チタンが固定されやすく、二酸化チタンが表面に露出する割合が増加するため光触媒の性能が向上する。
また、二酸化チタンに対する水溶性樹脂の比率を制御することで、十分な可撓性を得ることができ、また、水溶性樹脂が結露水によって流出していく場合であっても、二酸化チタン自体もこれに取り込まれる形で流れ落ちにくくなる。
【0011】
請求項4に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記光触媒層に使用する水溶性樹脂および前記水溶性樹脂潤滑層に使用する樹脂は、エチレンオキサイド系水溶性樹脂、セルロース系水溶性樹脂、アクリル系水溶性樹脂およびポリビニルアルコール系水溶性樹脂からなる群から選択された少なくとも1種よりなることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、加工時における光触媒層の損傷を最小限に抑制することができ、耐食性の劣化を抑制することができる。
【0013】
請求項5に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記水溶性樹脂潤滑層に防カビ剤および/または抗菌剤を添加したことを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、水溶性樹脂潤滑層が流れ落ちるまでの間、カビや雑菌などの繁殖を抑制することができる。
【0015】
請求項6に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記アルミニウム板またはアルミニウム合金板と、前記光触媒層との間に、無機酸化物皮膜を備えたことを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板と光触媒層との密着性が向上し、フィン材の加工時に光触媒層が剥離しにくくなる。
【0017】
請求項7に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記無機酸化物皮膜の1mあたりの質量は、1〜1000mgであることを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板と光触媒層との密着性が向上し、加工時に光触媒層が剥離しにくくなるとともに、フィン材の加工時に、塗膜のひび割れが発生しにくい。
【0019】
請求項8に係る熱交換器用表面処理フィン材は、前記光触媒層において、二酸化チタン100質量部に対して、更に、ジルコニウムイオンを0.001〜10質量部の範囲で含有させたことを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、本発明のフィン材は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板と光触媒層との密着性がさらに向上し、フィン材の加工時に光触媒層が剥離しにくくなるとともに、フィン材の加工時に塗膜のひび割れが発生しにくい。また、結露水によって水溶性樹脂が除去された後もジルコニウム化合物として光触媒層に残存し、前記無機酸化物皮膜との恒久的な密着性を補助する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外的に付着する臭気物質、例えばペットや生活用品などの各種生活臭の原因物質による臭気成分を分解すること、およびシリカ、アルミナ、オルガノシラン、ゼオライトなどの一般的な無機バインダーに起因するほこり臭やセメント臭などの異臭の発生を抑制することができ、また、カビや雑菌などの繁殖を抑制し殺菌作用を向上させることができる。また、VOCが付着することによるフィンの表面の撥水化に伴う通風抵抗の増大をも抑制することが可能となる。さらに、プレス加工による塗膜の損傷を抑制することで従来のプレコート方式による光触媒塗膜の課題であった塗膜の耐食性を向上させることができ、多湿環境下における塗膜下腐食の発生を抑制したフィン材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
参照する図面において、図1は、本発明に係る熱交換器用表面処理フィン材の構成を模式的に示す拡大断面図、図2は、本発明に係る熱交換器用表面処理フィン材の他の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【0023】
図1に示すように、熱交換器用表面処理フィン材1(以下、適宜「フィン材1」と略称する)は、アルミニウム板またはアルミニウム合金板(以下、これらを総称して「アルミニウム板2」という)の少なくとも片面に、二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂とから構成された光触媒層3が形成され、この光触媒層3の表面に、水溶性樹脂潤滑層4が形成された構成となっている。
以下に、熱交換器用表面処理フィン材1を構成する各要素について説明する。
【0024】
≪アルミニウム板2≫
本発明において用いることのできるアルミニウム板2としては、JIS H4000に規定する合金種5000系のアルミニウム板2や、JIS H4000に規定する合金種1000系のアルミニウム板2を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではなく、必要に応じて各種の成分および調質を行ったアルミニウム板2を用いることができる。なお、アルミニウム板2に各塗膜を形成させる前には、予めアルカリ脱脂を実施しておくことが好ましい。
【0025】
≪光触媒層3≫
光触媒層3は、二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂とから構成されている。これらの混合物を水溶液の状態にて前記アルミニウム板2に塗布、乾燥または加熱焼付けさせることで光触媒層3が設けられる。
ここで、光触媒層3の1mあたりの質量は5〜5000mgであることが好ましい。
光触媒層3の1mあたりの質量が5mg未満であると、十分な光触媒による活性反応が得られにくいため、付着した物質の分解が困難となりやすい。
一方、光触媒層3の質量が多いほど、光触媒層3の厚さが厚くなるため、光触媒活性機能が向上するが、経済性の観点から5000mg以下とすることが好ましい。
【0026】
<二酸化チタン>
二酸化チタンは、活性酸素を作ることにより、光触媒作用(光酸化)をもたらす物質で、二酸化チタンによる光触媒の特長は、光(紫外線)の照射により、強い分解力を発揮し、その表面を親水化するなどの優れた性質を持つことである。また、化学的に安定した物質で、人体にも無害である。
二酸化チタンによる光触媒の一般的機能としては、汚れの分解、消臭、脱臭、抗菌、殺菌、有害物質の除去などの他、ガラスや鏡の曇り防止、防汚などがある。
二酸化チタンは、その表面に臭気成分を吸着し、紫外線が照射されると、その臭気成分を常温下で、炭酸ガスおよび水という無臭な物質に酸化分解する。このため、二酸化チタンを含有する光触媒層3をフィン材1の表面に形成することにより、極めて優れた脱臭効果を得ることができる。
また、二酸化チタンは、その励起作用により空気中の水を分解することで、酸素および水酸基を生成し、その表面に多数の水酸基を存在させる。そして、これらの水酸基には、さらに空気中の水が吸着されるので、光触媒層3がフィン材1の表面に形成されていると、このフィン材1の表面に多くの吸着水が存在することになる。従って、このようなフィン材1には優れた親水性が発現する。
また、可塑剤およびパラフィンなどの親水性を阻害する汚染物質がフィン材1の表面に吸着された場合であっても、二酸化チタンの酸化分解作用により、汚染物質が分解されて除去されるので、優れた耐汚染性が得られるとともに、阻害された親水性を回復させることができる。
【0027】
<リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物>
リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物は、無機バインダーとして作用し、二酸化チタンを固定する。リン酸チタンはシリカやゼオライト系化合物などの無機バインダーと異なり、無機物特有の冷房運転開始時におけるほこり臭やセメント臭を発生することが無いことが発明者らの調査により判明している。
【0028】
<水溶性樹脂>
水溶性樹脂は、光触媒層3に可撓性を付与するものである。
光触媒層3は、そのままでは基材となるアルミニウム板2との密着性が弱いため、外的な応力には耐えられないが、水溶性樹脂を若干加えることにより可撓性を付与し、さらにその上に水溶性樹脂潤滑層4が形成されることにより、プレス加工などによる外的な応力に対する塗膜の追随が可能となり、塗膜の剥離、脱落などの発生を防ぐことができる。
また、光触媒層3の水溶性樹脂が無いと、フィン材1の加工(曲げ、穴あけ、しごき)時において、塗膜のひび割れ、およびフィン材1からの脱落を発生させてしまい、塗膜の耐食性が劣化する。
そこで、光触媒層3の水溶性樹脂、および水溶性樹脂潤滑層4の存在により、加工時における光触媒層3の損傷を最小限に抑制することができ、塗膜の耐食性の劣化を防ぐことができる。
ここで、水溶性樹脂は、結露水によって流れ落ちるものであり、かつ光触媒作用によって分解されるため、加工後においては除去されるものであり、熱交換器や人体などに悪影響を及ぼすことは無い。
なお、光触媒層3に適用する水溶性樹脂としては、例えばエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂のうち少なくとも1種以上の水溶性樹脂を含有するものであることが好ましい。
このようにすれば、プレス加工などによる外的な応力に対する塗膜の追随が良好となり、塗膜の剥離、脱落などの発生をさらに防ぐことができる。
【0029】
(二酸化チタンとリン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と水溶性樹脂の比率)
二酸化チタンとリン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と水溶性樹脂の比率は、二酸化チタン100質量部に対してリン酸チタンまたはリン酸チタン水和物が無水物換算で20〜2000質量部、水溶性樹脂が0.01〜50質量部であることが好ましい。
リン酸チタンはバインダーとして作用するので、二酸化チタン100質量部に対して20質量部未満だと二酸化チタンが固定されにくい。また、2000質量部を超えると、二酸化チタンが光触媒層3の表面に露出する割合が低下するため、光触媒性能が劣化しやすい。
水溶性樹脂は、光触媒層3に可撓性を付与するものであるが、この水溶性樹脂の比率が二酸化チタン100質量部に対して0.01質量部未満だと、十分な可撓性を得ることが困難となりやすく、また、50質量部を超えると、水溶性樹脂が結露水によって流出していく際に、二酸化チタン自体もこれに取り込まれる形で流れ落ちやすくなるため好ましくない。
【0030】
<ジルコニウムイオン>
必要に応じて、光触媒層3に、ジルコニウムイオンを添加してもよい。
光触媒層3にジルコニウムイオンを添加することで、無機酸化物皮膜5(図2参照)を備えた場合に、光触媒層3と下地の無機酸化物皮膜5との密着性がさらに向上する。この効果は、二酸化チタン100質量部に対して、ジルコニウムイオンを0.001質量部未満の添加では添加の効果は無く、逆に10質量部より多い添加となると塗布する水溶液の状態が維持できず、溶解している固形分が凝集しやすくなる。
【0031】
≪水溶性樹脂潤滑層4≫
水溶性樹脂潤滑層4は、光触媒層3の表面に形成されるものであり、加工後においては紫外線によって分解されながら結露水によって流れ落ちるものである。
水溶性樹脂潤滑層4を設けることで、フィン材1のプレス成形時におけるカラー内面の焼付き、およびカラー飛びが抑制されるだけでなく、硬質な二酸化チタンによる金型および工具の磨耗も抑制される。なお、フィン材1の表面における動摩擦係数が0.10を超えると、カラー内面の焼付きなどの抑制効果が十分に得られなくなるので、その動摩擦係数は0.20以下とするのが好ましい。
また、水溶性樹脂潤滑層4の1mあたりの質量は10〜5000mgであることが好ましい。
水溶性樹脂潤滑層4の質量が10mg未満となると十分な加工性向上効果が得られない。また、5000mgを超えると、水溶性樹脂潤滑層4自体の吸湿効果によりフィン材1の表面が粘着質となり、プレス成形時にフィン材1がピンチローラーに巻きつくなどの不具合が生じやすくなる。
なお、水溶性樹脂潤滑層4に使用する樹脂としては、例えば、エチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂のうち少なくとも1種以上の水溶性樹脂を含有するものであることが好ましい。
このようにすれば、プレス成形時におけるカラー内面の焼付き、およびカラー飛び、金型および工具の磨耗がさらに抑制される。
【0032】
<防カビ剤および/または抗菌剤>
必要に応じて、水溶性樹脂潤滑層4に、防カビ剤、抗菌剤を添加してもよい。
水溶性樹脂潤滑層4に防カビ剤、抗菌剤を添加することにより、水溶性樹脂潤滑層4が流れ落ちるまでの間、カビや雑菌などの繁殖を抑制することが可能となる。このため、紫外線があたりにくい箇所においても、冷房運転開始時においてカビや雑菌などによる極端な異臭が発生することを抑制することができる。
防カビ剤、抗菌剤としては、例えば、チアベンダゾール(TBZ)などのイミダゾール系、2−(チオシアノメチルチオ)−ベンゾチアゾール(TCMTB)などのチアゾール系、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(BIT)などのイソチアゾロン系の物質が、防カビ、抗菌の両面の作用を持つため、好適である。防カビ、抗菌剤の添加量については、多ければ多いほど優れた防カビ、抗菌機能が得られるが、紫外線の強さを十分強くすることにより、水溶性樹脂潤滑層4が速やかに分解されて光触媒層3を露出させることができ、二酸化チタンによる防カビ、抗菌機能を発現することができる。そのため、光触媒層3が露出するまでに必要な分だけ含まれていればよく、必ずしも添加量が規定されるものではない。
【0033】
≪無機酸化物皮膜5≫
図2に示すように、アルミニウム板2と光触媒層3との間に、無機酸化物皮膜5を形成してもよい。
アルミニウム板2と光触媒層3との間に無機酸化物皮膜5を設けることで、光触媒層3のアルミニウム板2に対する密着性が向上し、フィン材1の加工時に光触媒層3が剥離しにくくなる。この無機酸化物皮膜5としては、シリカアルコキシドなどによって設けられるシリカ皮膜、リン酸クロメートやクロム酸クロメートなどのクロメート皮膜、反応型のジルコニウム系皮膜などが挙げられる。
無機酸化物皮膜5の1mあたりの質量は、1〜1000mgであることが好ましい。
無機酸化物皮膜5の1mあたりの質量が1mg未満では、光触媒層3のアルミニウム板2に対する密着性が向上しにくく、1000mgを超えると加工時に皮膜がひび割れを発生させることがある。
【実施例】
【0034】
次に、本発明に係る熱交換器用表面処理フィン材について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
<フィン材の作製>
基板は、いずれもJIS H4000に規定する合金番号1200のアルミニウムよりなる板厚0.1mmのアルミニウム板を用いた。
このアルミニウム板の表面に、予め1%苛性ソーダ液にて脱脂処理を実施した後、無機酸化物皮膜を設ける際には、化成処理としてリン酸クロメート処理を行った。化成処理液としては、日本ペイント株式会社製アルサーフ(登録商標)401/45、リン酸4%、クロム酸0.4%を使用した。このとき、無機酸化物皮膜の膜厚は400Åとした(蛍光X線法で測定したCr換算値は20mg/mであった)。
フィン材に用いる光触媒層の水溶性樹脂としては、ポリエチレングリコール(分子量20000)およびポリアクリル酸の等量混合物を使用した。水溶性樹脂潤滑層としてはカルボキシメチルセルロースとポリエチレングリコール(分子量20000)の等量混合物を適用した。防カビ剤・抗菌剤としては、チアベンダゾール(TBZ)を使用した。
なお、比較例6のシリカは、日産化学工業株式会社製のスノーテックス-O(登録商標)を使用した。
各実施例および比較例におけるフィン材の構成を表1に示す。
ただし、表1において、各(−)欄は、該当する成分を含有していないことを示している。なお、リン酸チタン、水溶性樹脂、ジルコニウムイオンの数値は、二酸化チタン100質量部に対する質量部である。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、光触媒層の1mあたりの質量、光触媒層における各物質の比率、無機酸化物皮膜の1mあたりの質量について検討した実施例を表2に示す。
ただし、表1において、各(−)欄は、該当する成分を含有していないことを示している。なお、リン酸チタン、水溶性樹脂、ジルコニウムイオンの数値は、二酸化チタン100質量部に対する質量部である。
また、フィン材の作製については、前記と同様の方法で行った。
【0037】
【表2】

【0038】
得られたフィン材について、以下の各試験を行った。
≪評価方法≫
(加工性、耐食性)
フィン材を、日高精機株式会社製のしごき方式のドローレス金型を用いてプレスを行うことでフィンとした。プレスを行うにあたり、出光興産株式会社製のプレス油AF2Cを使用した。加工速度250spm、しごき率50%のプレス条件下でポンチ加工を行うことで、内径φ9.80mmの円筒形状のカラーを2列×10段配設したフィンを作製した。このときにカラー内面の焼付きやカラー形状不良の発生有無を確認した。評価基準は、カラー内面に全く剥離が生じなかったものを「◎(非常に良好)」、カラー内面に殆ど剥離が生じなかったものを「○(良好)」、若干カラー内部に剥離が生じたものを「△(適用可能)」、カラー内面に焼付きが生じたものを「×(適用不可)」とした。またその他の加工不具合として、ピンチローラーにフィン材が巻きついた場合なども「×(適用不可)」とした。
このようにして形成されたフィンを、多湿環境下における耐久性調査のため、JISH4001耐湿性試験を960hr実施し、腐食の発生状況を調査した。加工時に塗膜のひび割れが発生すると、当該耐湿性試験によって腐食となって顕れるため、評価基準としては耐湿性試験後に表面の外観変化が全く生じなかったものを「◎(非常に良好)」、表面の外観変化が殆ど生じなかったものを「○(良好)」、腐食により一部外観変化が生じたものを「△(適用可能)」、腐食により全面に外観変化が生じたものを「×(適用不可)」とした。
【0039】
(親水性、臭気)
予め、前処理としてフィン材(5cm×10cm)を240hr水道水(流量:1l/分)に浸漬して水溶成分を除去後、これを6lの容量を有するデシケータ−中に入れ、撥水化を促進させ、かつ外的に付着しうる臭気成分でもある物質として吉草酸:1gを同時に封入し、100℃の電気炉に当該デシケータ−を入れて24hr保温することで、VOCを促進的に付着させた。その後、ブラックライトを用いて紫外線強度が0.7mW/cmとなる条件下で24hrフィン材を暴露した。
当該フィン材に、純水を1μl滴下し、それによって生じた水滴の接触角θをゴニオメーター(協和界面科学株式会社製 CA−X250型)により測定し、10°以下であれば「◎(非常に良好)」、10〜20°であれば「○(良好)」、20〜40°であれば「△(適用可能)」とし、40°以上であれば「×(適用不可)」とした。また、(社)におい・かおり環境協会が定める嗅覚検査に合格したパネラーによるフィン材の官能評価を実施し、臭気存在の有無を確認した。このとき、臭いの種類として無機バインダー特有のセメント臭と吉草酸特有の臭気を同時に評価した。いずれの臭いも全く認められなければ「◎」、何らかの臭気が認められたが吉草酸やセメント臭ではない場合には「○」、吉草酸やセメント臭が認められたが問題無いレベルの場合には「△」、明瞭な吉草酸やセメント臭が認められた場合には「×(適用不可)」とした。
【0040】
(防カビ性)
予め、前処理としてフィン材(5cm×10cm)を240hr水道水(流量:1l/分)に浸漬して水溶成分を除去した場合、および、当該前処理を実施しなかった場合の2条件のサンプルを準備した。その後、ブラックライトを用いて紫外線強度が0.7mW/cmとなる条件下で当該フィン材を暴露しながら、「山田貞子ら:固体材料表面の迅速な抗カビ活性試験方法、防菌防黴、Vol.31,No.11,711〜717頁(2003年)」に記載されているガラスリング法による試験によって評価した。なお、使用するカビとしては、黒カビ(Aspegillus niger)、青カビ(Penicillium chrysogenum)、クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)の3種類のカビを混合したものとした。評価結果は、下表3に示した6段階によって評価したが、簡便のため「◎(6)、○(4〜5)、△(3〜2)、×(1)」とした。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
前記の各試験結果を表4に示す。
表4に示すように、本発明に基づく実施例1〜4のような適用例では、各評価において一定以上の特性を示しており、光触媒層自体からのほこり臭の問題も無く、適用可能であった。
比較例5は、リン酸チタンを加えていないため、光触媒層の密着性が弱く、加工性および耐食性に難点があった。
比較例6は、リン酸チタンの代わりに、シリカを使用しているため、セメント臭が発生した。
比較例7は、光触媒層中に水溶性樹脂を加えていないため、プレス加工時に塗膜にひび割れが入ることで耐食性が劣化した。
実施例8は、光触媒層が薄いため、光触媒による機能である親水性、臭気、防カビ性が得られにくい。
実施例9は、光触媒層中の水溶性樹脂が少ないため、プレス加工時に塗膜にひび割れが入ることで耐食性が若干劣化する。
実施例10は、逆に光触媒層中の水溶性樹脂が多すぎるため、流水に浸漬した際に酸化チタンが水溶性樹脂とともに流れ落ちてしまうので比較例8と同様に光触媒の機能が若干得られにくい。
実施例11は、リン酸チタンの量が少なすぎるため、光触媒層の密着性が弱く、加工性および耐食性が若干劣化する。
実施例12は、逆にリン酸チタンの量が多すぎるため、酸化チタンの露出量が少なくなり、実施例8、10と同様に光触媒の機能が若干得られにくい。
実施例13は、水溶性樹脂潤滑層の質量が多すぎるため、加工時におけるフィン材のピンチロール巻きつき不具合が発生したものである。また、光触媒層が露出しにくいため、防カビ性も若干劣化しやすい。
実施例14は、逆に水溶性樹脂潤滑層の質量が少なすぎるため、フィン材のプレス加工時におけるカラー内面の焼付きが若干発生する。
実施例15は、無機酸化物皮膜の質量が多すぎるため、フィン材のプレス加工時において塗膜の割れが発生しやすく、耐食性も若干劣化する。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく本発明の範囲を逸脱しない範囲で変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る熱交換器用表面処理フィン材の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【図2】本発明に係る熱交換器用表面処理フィン材の他の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 熱交換器用表面処理フィン材
2 アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)
3 光触媒層
4 水溶性樹脂潤滑層
5 無機酸化物皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板と、このアルミニウム板またはアルミニウム合金板の少なくとも片面に形成された光触媒層と、この光触媒層の表面に形成された水溶性樹脂潤滑層とを備えるフィン材であって、
前記光触媒層は、二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂とを有することを特徴とする熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項2】
前記光触媒層の1mあたりの質量は、5〜5000mgであり、前記水溶性樹脂潤滑層の1mあたりの質量は10〜5000mgであることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項3】
前記光触媒層における二酸化チタンと、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物と、水溶性樹脂との比率は、二酸化チタン100質量部に対して、リン酸チタンまたはリン酸チタン水和物が無水物換算で20〜2000質量部、水溶性樹脂が0.01〜50質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項4】
前記光触媒層に使用する水溶性樹脂および前記水溶性樹脂潤滑層に使用する樹脂は、エチレンオキサイド系水溶性樹脂、セルロース系水溶性樹脂、アクリル系水溶性樹脂およびポリビニルアルコール系水溶性樹脂からなる群から選択された少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項5】
前記水溶性樹脂潤滑層に防カビ剤および/または抗菌剤を添加したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項6】
前記アルミニウム板またはアルミニウム合金板と、前記光触媒層との間に、無機酸化物皮膜を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項7】
前記無機酸化物皮膜の1mあたりの質量は、1〜1000mgであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱交換器用表面処理フィン材。
【請求項8】
前記光触媒層において、二酸化チタン100質量部に対して、更に、ジルコニウムイオンを0.001〜10質量部の範囲で含有させたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱交換器用表面処理フィン材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−268387(P2007−268387A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95925(P2006−95925)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】