説明

熱伝導性プラスチック材料のヒートシンク

本発明は、電気デバイスまたは電子デバイス用ヒートシンク、熱源とヒートシンクとを含むE&Eデバイス、ならびにヒートシンクの製造方法に関する。熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準にして少なくとも20重量%の量の膨張黒鉛を含む、および/または少なくとも7.5W/m・Kの面内熱伝導率Λ//を有する熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を含む。本発明のヒートシンクは、熱伝導性プラスチック材料を射出成形し、場合により次に、コーティング層を塗布することによって、熱伝導性プラスチック材料から製造することができる。E&Eデバイス中で、本発明のヒートシンクは、熱源と互いに熱伝導連通するように互いに組み合わされる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、電気デバイスまたは電子デバイス(本発明ではE&Eデバイスと記載)のためのヒートシンク、熱源とヒートシンクとを含むE&Eデバイス、ならびにヒートシンクの製造方法に関する。
【0002】
E&Eデバイス中の熱源からのヒートシンクによる放熱を効率的にするために、熱源とヒートシンクとは、一般に互いに熱伝導連通(heat conductive communication)するように組み合わされる。この連通は、直接接触することによって、または、介在する絶縁体を介して、たとえば材料自体が熱導体であり同時に電気絶縁体である材料層を介してのいずれであってもよい。
【0003】
現在、ヒートシンクは、多くの電気的用途または電子的用途(E&E用途)において使用されており、種々の材料から製造することができる。従来のヒートシンクは金属でできていたが、現在では熱伝導性プラスチック材料もE&E産業に進出しており、ヒートシンクの構成に使用されている。これらの材料の多くは、非導電性であり、別個の絶縁体が不要である。
【0004】
E&E産業では、小型化の傾向と、より強い熱源の使用の増加のために、様々な局面において実行できるよりよい解決法が引き続き必要とされている。放熱の効率、重量、大きさ、安全性、環境的側面、製造の再現性、自動化、および自由度のすべてがある役割を担っている。
【0005】
大電流高出力LED照明の導入に伴い、放熱効率がさらにより重要になってきている。さらに、LEDが開放されない場合には、電源の安定器が高い「ストライク」電圧が発生することがある。これらの用途においては、高熱伝導率を示す金属製ヒートシンクが使用される。これらは一般に、前述のような介在する絶縁体によってLED照明の熱源に取り付けられ、絶縁体には、典型的にはセラミックス、プラスチック、および高い絶縁耐力を有する他の材料が使用される。
【0006】
熱伝導性プラスチック材料は一般に熱伝導率および電気絶縁性との両方の性質を併せ持つが、これらは通常、それらの性質の少なくとも一方が問題となる。たとえば、窒化ホウ素を伝導性フィラーとして使用すると、非導電性材料を製造することができるが、熱伝導特性が限定されるため、非常に多い充填量が必要となり、一方たとえばアルミニウムフレークを熱伝導性フィラーとして使用すると、材料が導電性となり、同時に熱伝導特性も依然として限定される。さらに、使用される熱伝導性フィラーの種類によって他の性質にも影響が生じ、たとえば十分高い熱伝導率を実現するために熱伝導性電気絶縁性フィラーの充填量を高くすると、脆い製品が得られる。
【0007】
それとは別に、ヒートシンクは導線および電線の近くに配置されることが多いため、非常に高温にもなりうる。このため、ヒートシンクが製造される材料は、グローワイヤによる発火が防止されるような難燃性を有するべきである。金属を使用する場合にはこれは問題にならないが、プラスチック材料を使用する場合には問題となりうる。この問題を克服するために、難燃剤を加える必要が生じることがあり、一方、フィラー充填量が増加し、それによって機械的性質が低下する。他方、熱伝導性フィラーの一部が難燃剤で置き換えられるために、材料の熱伝導率が低下する。
【0008】
本発明の目的は、これらの1つ以上の側面において改善された性質を有する、プラスチック材料でできたヒートシンクを提供することである。
【0009】
本発明の一実施形態においては、ヒートシンクは、少なくとも20重量%の膨張黒鉛を含む熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を含み、重量パーセント値(重量%)は、熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準としている。
【0010】
少なくとも20重量%の膨張黒鉛を含む熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を有するヒートシンクは、より高いグローワイヤ燃焼性指数(glow wire flammability index)(GWFI)を示すことで難燃性の実質的な改善を示した。
【0011】
このGWFIの改善は、難燃剤を加えなくても、またはその量を増加させる必要なしにすでに観察され、したがって、難燃性を増加させるための他の解決法と比較して、機械的性質の保持またはさらなる改善にも寄与する。
【0012】
ヒートシンクが製造されるプラスチック材料の面内熱伝導率Λ//が少なくとも7.5W/m・Kであれば、膨張黒鉛の量を減少させたり、または最終的には完全に使用しなかったりすることができる。このようなヒートシンクは、顕著に改善されたGWFIをすでに示している。したがって、本発明の第2の実施形態においては、ヒートシンクは、少なくとも7.5W/m・Kの面内熱伝導率Λ//を有する熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を含む。
【0013】
本発明の状況では、プラスチック組成物の熱伝導率は、方向依存性となる場合があり、組成物の加工履歴にも依存する材料特性であると理解されよう。プラスチック組成物の熱伝導率を測定するために、熱伝導率測定を行うのに適した形状に材料を成形する必要があることが分かるであろう。プラスチック組成物の組成、測定に使用される形状の種類、成形方法、および成形方法に使用される条件に依存して、プラスチック組成物は等方性または異方性の熱伝導率を示しうる。プラスチック組成物が平坦な長方形に成形される場合、方向依存性の熱伝導率は、Λ、Λ//、およびΛ±の3つのパラメーターで一般に記述することができる。ここで:
Λ=面貫通(through−plane)熱伝導率であり、
Λ//=最大面内熱伝導率の方向での面内熱伝導率であり、本明細書においては平行または長手方向の熱伝導率とも記載され、
Λ±=最小面内熱伝導率の方向での面内熱伝導率である。
【0014】
最大面内熱伝導率Λ//は、材料の流れの方向にほぼ並行である。本明細書において、方向平均熱伝導率(Λoa)は、3つのパラメーターによって:Λoa=1/3・(Λ+Λ//+Λ±)と定義される。
【0015】
本発明において言及される面内熱伝導率Λ//の値は、以下の実験の部で詳細に説明する方法を使用して流れ方向に対して平行に射出成形したプラークに対して測定されるΛ値を意味する。
【0016】
膨張黒鉛の量に依存し、最終的には他の熱伝導性成分の種類および量、本発明によるヒートシンクが製造される熱伝導性プラスチック材料は、導電性または非導電性のいずれであってもよい。
【0017】
特定の場合においては、個別のE&Eデバイスおよび用途に依存するが、電気的により十分に絶縁されたヒートシンクを有することが必要となる場合があり、一方その他の状況では、さらに向上した熱伝導率特性を有するヒートシンクを有することが特に好ましくなりうる。
【0018】
このことは、本発明の以下の実施形態によって実現することができる。これらの実施形態の第1のものにおいては、ヒートシンクは、熱伝導性プラスチック材料からなるプラスチック本体と、プラスチック本体の表面の少なくとも一部を覆う電気絶縁性プラスチック材料からなるコーティング層とを含む。前記コーティング層を有することで、ヒートシンクの電気絶縁性が改善される。
【0019】
好都合には、このようなコーティング層は、熱伝導性および導電性の両方であるプラスチック材料でできたヒートシンク上に塗布される。好ましくは電気絶縁性コーティング層は、プラスチック本体の外側部分に位置する表面領域上に塗布され、それによって、人および/または工具が外部接触する場合などの短絡が防止されることなどによって、ヒートシンクの安全性が得られる。
【0020】
電気絶縁性コーティング層は、広範囲にわたって変動する厚さを有することができる。好ましい厚さは、たとえば、ヒートシンクの機能、プラスチック本体に使用される材料、および用途に対する具体的な要求に関連して自由に選択することができる。最適な厚さは、標準的な試験によって当業者により決定することができる。好ましくはコーティング層は、コーティング層が塗布される位置においてヒートシンクが少なくとも1kV、より好ましくは少なくとも2kV、4kV、またはさらには6kV、さらにより好ましくは少なくとも9kVの絶縁破壊強度を有するような厚さを有する。
【0021】
第2の実施形態では、ヒートシンクは、熱伝導性プラスチック材料からなるプラスチック本体と、プラスチック本体の少なくとも一部を覆う金属からなるコーティング層とで構成される。金属コーティング層は、ヒートシンクの全体的な熱伝導率を向上させる。
【0022】
好ましくは金属コーティング層は、プラスチック本体の内側部分に位置する表面領域上に塗布され、それによって、人および/または工具が外部接触する場合などの短絡を誘発しないことなどによってヒートシンクの安全性を損なうことがない。
【0023】
本発明によるヒートシンクは、熱伝導性プラスチック成形材料を使用して射出成形などの標準的な成形方法を行い、場合により次にコーティング材料の層を塗布することによって製造することができる。成形材料は導電性または電気絶縁性のいずれであってもよく、一方、コーティング材料はそれぞれ、電気絶縁性プラスチック材料または金属からなることができる。このヒートシンクは、導電性プラスチック材料または金属の側で高い熱伝導率が得られ、それぞれコーティングまたはプラスチック本体のいずれかである電気絶縁性プラスチック材料の側で電気絶縁性が得られる。使用される材料が容易に加工できるとともに、製造の再現性、自動化、および自由度、ならびにさらなる小型化、軽量化、およびより強い熱源の使用が可能となる。一方、GWFIが増加するため、ハロゲン含有難燃剤などのさらなる難燃剤を使用する必要がなく、安全性および環境的側面の向上にも貢献する。
【0024】
コーティングは、従来のコーティング技術によって塗布することができる。電気絶縁性プラスチック材料を塗布する場合、たとえば溶剤系コーティングまたは粉末コーティングを使用することができ、一方、金属コーティングを塗布する場合には金属スパッタリング技術を使用することができる。好ましい一実施形態においては、ヒートシンクは、導電性プラスチック材料からなるプラスチック本体を含み、これに、静電粉末噴霧技術を使用して粉末コーティングがコーティングされる。
【0025】
特に、相当量の膨張黒鉛を含む熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を使用して製造されたヒートシンクは、粉末コーティングを塗布するのに非常に適していることが示された。少なくとも20重量%の膨張黒鉛を含む材料は、成形部品の前処理を行わずに粉体コーティングをコーティングすることができる。
【0026】
プラスチック本体の導電率が低すぎる場合は、たとえば粉末コーティングを塗布する場合には、ヒートシンクの反対側の面に金属コーティング層を塗布することによって導電率を高めることができる。
【0027】
プラスチック材料の導電率、プラスチック材料およびヒートシンクのそれぞれの電気絶縁性は、E&E産業において使用される標準技術によって測定することができる。
【0028】
本発明によるヒートシンク中のプラスチック材料は、面内熱伝導率Λ//が少なくとも7.5W/m・Kとなるのであれば広範囲で変動する熱伝導率を有することができる。
【0029】
好適には、膨張黒鉛の高充填量が実現できるという理由で、面内熱伝導率Λ//は25W/m・K以上である。より高い面内熱伝導率Λ//によって、熱源からの熱のより良い放熱、およびより高いGWFI値が得られる。好ましくは面内熱伝導率Λ//は10〜20W/m・Kの範囲内であり、より好ましくは12〜15W/m・Kの範囲内である。この好ましい範囲であれば、熱伝導性、成形特性、機械的性質、およびGWFI値の最適なバランスが得られる。
【0030】
導電率も広範囲にわたって変動することができる。特定の制限範囲を設ける必要はない。材料が比較的高い導電率を有する場合、これは、電気絶縁性コーティング層を使用することで補償することができる。ヒートシンクの電気絶縁特性は、プラスチック本体の絶縁特性とともにコーティング層の厚さを変動させることによって制御することができる
【0031】
本発明によるヒートシンクを製造する場合、熱伝導性プラスチック組成物が使用される。この組成物は、十分な熱伝導率を有しプラスチック部品の製造に適しているあらゆる組成物であってよい。典型的には、このような組成物は、ポリマー材料と、ポリマー中に分散した熱伝導性フィラーや熱伝導性繊維などの熱伝導性成分とを含む。これらの熱伝導性フィラーおよび繊維は、導電性であってもよく、それによって熱的プラスチック材料に導電性を付与することもできる。これらの次に、プラスチック組成物は、他の成分を含むことができ、これらの成分は、成形プラスチック部品の製造のために従来のプラスチック組成物中に使用されるあらゆる助剤を含むことができる。
【0032】
ポリマーは、熱伝導性プラスチック組成物の製造に好適な使用することが可能なあらゆるポリマーであってよく、熱可塑性ポリマーと熱硬化性ポリマーとの両方を含む両方を含む。好適には、ポリマーは、プラスチックの顕著な軟化および劣化を起こすことなく高温で使用することができ、ヒートシンクの個別の用途および設計に依存するヒートシンクの機械的および熱的な要求に適合させることができる。このような要求への適合は、系統的研究および日常的な試験によって、成形プラスチック部品の当業者によって決定することができる。
【0033】
好ましくは、ポリマーは熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマーは、非晶質、半結晶性ポリマーまたは液晶ポリマー、エラストマー、あるいはそれらの組み合わせであってよい。高い結晶性を有し、フィラー材料のよいマトリックスとなることができるという理由で、液晶ポリマーが好ましい。
【0034】
好ましくは、熱可塑性ポリマーは、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリフェニレンオキシド類、ポリスルホン類、ポリアリーレート類、ポリイミド類、ポリエーテルテルケトン(polyethertherketone)類、およびポリエーテルイミド類、ならびにそれらの混合物およびコポリマーからなる群から選択される。
【0035】
熱可塑性ポリマーは半結晶性ポリアミドを含むことができ、これは良好な熱的性質および金型充填特性を有するという利点を有する。
【0036】
より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、少なくとも200℃、より好ましくは少なくとも220℃、240℃、またはさらには260℃、最も好ましくは少なくとも280℃の融点を有する半結晶性ポリアミドを含む。より高い融点を有する半結晶性ポリアミド類は、熱的性質がさらに改善されるという利点を有する。本明細書において融点という用語は、5℃の加熱速度でDSCによって測定される、溶融範囲内に入り最高溶融速度を示す温度として理解される。
【0037】
好ましくは、本発明のプラスチック組成物は、ISO 75−2に準拠して測定され、公称0.45MPaの応力が加えられる(HDT−B)熱変形温度が少なくとも180℃、より好ましくは少なくとも200℃、220℃、240℃、260℃、またはさらには少なくとも280℃である。より高いHDTを有するプラスチック組成物の利点は、ヒートシンクの高温での機械的性質がより十分に維持され、ヒートシンクを、機械的性能および熱的性能の要求がより厳しい用途に使用することが可能なことである。
【0038】
ヒートシンクの熱伝導性プラスチック組成物中の熱伝導性成分としては、原則としては、ポリマー中に分散させることが可能であり、プラスチック組成物の熱伝導率を改善させるあらゆる材料を使用することができる。好適な熱伝導性成分としては、たとえば、アルミニウム、アルミナ、銅、マグネシウム、真鍮、炭素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、ガラス、マイカ、黒鉛、セラミック繊維などが挙げられる。このような熱伝導性成分の混合物、特に膨張黒鉛を含む混合物も非常に好適である。
【0039】
熱伝導性成分は、顆粒状粉末、粒子、ウィスカー、短繊維の形態、またはその他のあらゆる好適な形態であってよい。粒子は種々の構造を有することができる。たとえば、粒子は、フレーク、板、米粒型、ストランド、六角形、または球状形態であってよい。
【0040】
熱伝導性成分は好適には、熱伝導性フィラーまたは熱伝導性繊維材料、あるいはそれらの組み合わせである。本明細書においてフィラーは、10:1未満のアスペクト比を有する粒子からなる材料であると理解されたい。好適には、フィラー材料は約5:1以下のアスペクト比を有する。たとえば、約4:1のアスペクト比を有する窒化ホウ素顆粒状粒子を使用することができる。本明細書において繊維は、少なくとも10:1のアスペクト比を有する粒子からなる材料であると理解されたい。より好ましくは熱伝導性繊維は、少なくとも15:1、より好ましくは少なくとも25:1のアスペクト比を有する粒子からなる。
【0041】
好ましくは、McCulloughの米国特許第6,251,978号明細書および第6,048,919号明細書(これらの開示は参照により本明細書に援用される)に記載されるように低アスペクト比および高アスペクト比の両方の熱伝導性成分、すなわち熱伝導性フィラーおよび熱伝導性繊維の両方が、プラスチック組成物に含まれる。
【0042】
熱伝導性プラスチック組成物中の熱伝導性繊維の場合、プラスチック組成物の熱伝導率を改善するあらゆる繊維を使用することができる。好適には、熱伝導性繊維は、ガラス繊維、金属繊維、および/または炭素繊維を含む。黒鉛繊維とも呼ばれる好適な炭素繊維としては、PITCH系炭素繊維およびPAN系炭素繊維が挙げられる。たとえば、約50:1のアスペクト比を有するPITCH系炭素繊維を使用することができる。PITCH系炭素繊維は、熱伝導性に大きく寄与する。他方、PAN系炭素繊維は機械的強度に大きく寄与する。
【0043】
熱伝導性成分の選択は、ヒートシンクに対する要求と、熱伝導性成分の種類および必要な熱伝導性の程度に依存して使用する必要がある量とにさらに依存する。
【0044】
本発明によるヒートシンク中のプラスチック組成物は好適には、30〜80重量%の熱可塑性ポリマーおよび20〜70重量%の熱伝導性成分を含み、好ましくは40〜75重量%の熱可塑性ポリマーおよび25〜60重量%の熱伝導性成分を含み、これらの重量%はプラスチック組成物の全重量を基準としている。少なくとも7.5W/m・Kの面内熱伝導率に到達するためには、特殊なグレードの黒鉛の場合などのある種類の熱伝導性成分の場合には20重量%の量で十分となりうるが、ピッチ炭素繊維、窒化ホウ素、および特にガラス繊維などの他の種類の場合には、はるかに多い重量%が必要となることに留意されたい。必要なレベルに到達するために必要な量は、日常的な実験によって熱伝導性ポリマー組成物の製造の当業者によって求めることができる。
【0045】
本発明の好ましい一実施形態においては、熱伝導性成分は、黒鉛、特に膨張黒鉛を含む。多くの他の熱伝導性成分は、脆い、高価、硬い、摩耗性、および/または熱伝導率が低い、のいずれかであるという1つ以上の性質が問題となるが、黒鉛は、高い熱伝導率と、限定された脆さ、および硬度、存在する場合には摩耗性とを併せ持ち、比較的安価である。
【0046】
好ましくは、導電性プラスチック材料は、熱可塑性ポリマーと黒鉛フィラーとを含む熱可塑性材料であり、より好ましくはこの組成物は、熱伝導性成分の全重量を基準にして少なくとも50重量%の黒鉛、さらにより好ましくは少なくとも75重量%の黒鉛からなる熱伝導性成分を含む。
【0047】
ヒートシンクが製造されるプラスチック組成物中の熱伝導性成分としての膨張黒鉛の利点は、比較的低い重量パーセント値でさえ高い熱伝導率が得られ、同時にGWFI特性を顕著に改善することである。
【0048】
GWFIをさらに増加させるこの効果は、熱伝導性成分の一部が膨張黒鉛からなる場合にすでに得られており、熱伝導率が7.5W/m・Kを超える値などのより高い値に達する場合により顕著になり、一方、この効果は、膨張黒鉛重量%の相対含有率(熱伝導性成分の全重量を基準にした重量%)、および絶対含有率(熱伝導性プラスチック組成物の全重量が基準)がより高くなる場合にさらに大きくなる。好ましくは、膨張黒鉛の相対含有率は、すなわち熱伝導性成分の全重量を基準にして、少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも50重量%、さらには少なくとも75重量%である。また、好ましくは、絶対含有率は、すなわち熱伝導性プラスチック組成物の全重量を基準にして、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%、さらに好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%である。
【0049】
本発明によるヒートシンクが製造されるプラスチック組成物は、熱可塑性ポリマーおよび熱伝導性成分の次に、本明細書において添加剤と記載される他の成分をさらに含むことができる。添加剤として、熱伝導性プラスチック材料は、ポリマー組成物中に従来使用されている当業者に周知のあらゆる助剤を含むことができる。好ましくは、これらの添加剤は、本発明を損なうべきではなく、または有意な程度で損なうべきではない。本発明によるヒートシンク中に使用するのに、ある添加剤が好適となるかどうかは、日常的な実験および単純な試験によって、ヒートシンク用ポリマー組成物の製造の当業者によって決定することができる。このような添加剤としては、特に、非伝導性フィラーおよび非伝導性補強剤、ならびに、顔料、分散助剤、加工助剤、たとえば潤滑剤および離型剤、衝撃改質剤、可塑剤、結晶化促進剤、核剤、UV安定剤、酸化防止剤および熱安定剤などの他の添加剤が挙げられる。特に、熱伝導性プラスチック組成物は、非伝導性無機フィラーおよび/または非伝導性補強剤を含有する。非伝導性の無機フィラーまたは補強剤としての使用に好適なものは、当業者に周知のあらゆるフィラーおよび補強剤であり、特に補助フィラーであり、熱伝導性フィラーは考慮されない。好適な非伝導性フィラーは、たとえばアスベスト、マイカ、クレー、焼成クレー、および滑石である。
【0050】
添加剤は、存在する場合には、プラスチック組成物の全重量を基準として好適には0〜50重量%、好ましくは0.5〜25重量%、より好ましくは1〜12.5重量%の総量で存在する。
【0051】
非伝導性のフィラーおよび繊維は、存在する場合には、プラスチック組成物の全重量を基準として、好ましくは0〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%の総量で存在し、一方、他の添加剤は、存在する場合には、プラスチック組成物の全重量を基準として、好ましくは0〜10重量%、好ましくは0.25〜5重量%、より好ましくは0.5〜2.5重量%の総量で存在する。
【0052】
好ましい一実施形態においては、ヒートシンクのプラスチック本体中の熱伝導性プラスチック材料は、30〜80重量%の熱可塑性ポリマー、20〜70重量%の熱伝導性成分、および0〜50重量%の添加剤からなり、これらの重量パーセント値(重量%)は熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準としている。
【0053】
より好ましくは、熱可塑性ポリマー、熱伝導性成分、および添加剤に関して、本明細書でさらに前述した好ましい成分および量が選択される。
【0054】
絶縁性コーティング層は、あらゆる電気絶縁性プラスチック材料から製造できており、好適には熱可塑性または熱硬化性のコーティング組成物から得られている。
【0055】
好ましくは、コーティング層は、熱硬化性粉末コーティング組成物から得られる硬化した粉末コーティングである。
【0056】
好適には、コーティング層は、可塑性ポリマーまたは熱硬化性ポリマーのいずれかであるポリマー系と、少なくとも1種類の添加剤とを含むプラスチック組成物からなる。添加剤は、コーティング系中に使用するのに好適なあらゆる添加剤であってよい。好ましくは添加剤の性質および量は、コーティング層が非導電性のままとなるような性質および量である。好ましくは、添加剤は顔料、より好ましくは黒色顔料を含む。暗色顔料、特に黒色顔料の利点は、ヒートシンクの放熱がさらに高まることである。
【0057】
金属コーティング層は、プラスチック上に塗布するのに好適なあらゆる金属からなることができる。好適には、金属はカッパー(cupper)またはアルミニウムである。
【0058】
本発明によるE&Eデバイスは、熱源とヒートシンクとを含むあらゆるE&Eデバイスであってよく、たとえばE&Eデバイスは、ヒートシンクに接続された半導体を含む半導体デバイス、またはヒートスプレッダーに接続された金属コアPCB上の複数のLEDを含むLEDデバイスである。
【0059】
好ましくは、ヒートシンクは、LEDデバイスの電子部品の保護ハウジングとして機能するヒートスプレッダーである。ヒートシンクがLEDデバイスの電子部品を覆う保護ハウジングとなるこのようなE&Eデバイスの利点は、電子部品が、外部接触から適切に遮断され、このような接触によって生じる短絡から保護され、LEDの加熱から保護されることである。同時に、LEDデバイスは、本発明によるE&Eデバイスおよびその中のヒートシンクの他のすべての利点を有する。
【0060】
[実験の部]
[材料]
標準的な溶融混合プロセスを使用して押出機中で、成形組成物を、ポリアミド−46と、それぞれ炭素ピッチ繊維(CPF)、窒化ホウ素(BN)、および膨張黒鉛(EG)とから調製した。適切な寸法の正方形の金型と、その正方形の一辺に位置する幅80mmおよび高さ1mmのフィルムゲートとを取り付けた射出成形機を使用して射出成形することによって、これらの組成物から80×80×1mmの寸法の試験サンプルを作製した。
【0061】
厚さ1mmの射出成形プラークについて、面貫通(Λ)熱伝導率および面内(Λ//)熱伝導率およびGWFIを測定した。
【0062】
[GWFIの測定]
IEC 60695−2−12に準拠してGWFI(グローワイヤー燃焼性指数)を測定した
【0063】
[面貫通(Λ)熱伝導率および面内(Λ//)熱伝導率の測定]
面貫通(Λ)熱伝導率および面内(Λ//)熱伝導率は、熱拡散率D、密度(ρ)、および熱容量(Cp)を求めることによって測定した。
【0064】
熱拡散率は、Netzsch LFA 447レーザーフラッシュ装置を使用してASTM E1461−01に準拠して、金型充填時のポリマーの流れの方向に対して、面内で平行方向(D//)、および面内で垂直方向(D±)、ならびに面貫通(D^)で測定した。面内熱拡散率D//およびD±は、プラークから幅約1mmの同じ幅を有する小さなストリップまたは棒を最初に切断することによって求めた。これらの棒の長さ方向は、金型充填時のポリマーの流れに対してそれぞれ垂直の方向であった。数本のこれらの棒を、切断面が外側に向かうように積み重ね、互いを非常にきつく締め付けた。熱拡散率は、配列した切断面によって形成されたスタックの一方の側から、切断面を有するスタックの他方の側までスタックを貫通するように測定した。
【0065】
同じNetzsch LFA 447レーザーフラッシュ装置を使用し、W.Nunes dos Santos、P.Mummery、およびA.Wallwork、Polymer Testing 14(2005)、628−634に記載の手順を使用して、熱容量が既知の基準サンプル(Pyroceram 9606)と比較することによって、板の熱容量(Cp)を測定した。
【0066】
熱拡散率(D)、密度(ρ)、および熱容量(Cp)から、金型充填時のポリマーの流れの方向に対して平行方向(Λ//)および垂直方向(Λ±)、ならびにプラークの面に対して垂直方向(Λ)における成形プラークの熱伝導率を、式(V):
Λ=DρCp (V)
(式中、x=それぞれ//、±、および^である)
に従って求めた。
【0067】
[試験結果]
種々の材料および試験の組成および試験結果を以下の表Iにまとめている。
【0068】
【表1】



【0069】
[ヒートシンクの作製]
実施例Iで使用した材料を使用して、LEDデバイスの電子部品の保護ハウジングとして機能する円筒形カップの形状を有するLEDデバイス用ヒートシンクを成形した。カップの外面に熱硬化性ポリエステル粉末コーティングを静電コーティングし、標準的な硬化条件を使用してオーブン中で硬化させた。このカップは、非常に良好な熱遮蔽および放熱特性、ならびに電気絶縁性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準にして少なくとも20重量%の量の膨張黒鉛を含む熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を含む、電気デバイスまたは電子デバイス用ヒートシンク。
【請求項2】
少なくとも7.5W/m・Kの面内熱伝導率Λ//を有する熱伝導性プラスチック材料でできたプラスチック本体を含む、電気デバイスまたは電子デバイス用ヒートシンク。
【請求項3】
前記プラスチック本体の表面の少なくとも一部を覆う金属コーティング層を含む、請求項1または2に記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記プラスチック本体の表面の少なくとも一部を覆う、電気絶縁性プラスチック材料からなるコーティング層を含む、請求項1または2に記載のヒートシンク。
【請求項5】
前記熱伝導性プラスチック材料が導電性であり、前記コーティング層が塗布される場所において前記ヒートシンクが少なくとも1kVの絶縁破壊強度を有する、請求項4に記載のヒートシンク。
【請求項6】
熱伝導性成分の総量を基準にして好ましくは少なくとも25重量%の量で膨張黒鉛を含む熱伝導性成分の混合物を、前記熱伝導性プラスチック材料が含む、請求項2に記載のヒートシンク。
【請求項7】
前記熱伝導性プラスチック材料が、30〜80重量%の熱可塑性ポリマー、20〜70重量%の熱伝導性成分、および0〜50重量%の添加剤からなり、重量パーセント値(重量%)は、前記熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準としている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒートシンク。
【請求項8】
電気デバイスまたは電子デバイス用ヒートシンクの製造方法であって、熱伝導性プラスチック材料を射出成形することによって、熱伝導性プラスチック本体を形成するステップと、続いて、前記プラスチック本体の少なくとも一部の上にコーティング層を塗布するステップとを含み、前記熱伝導性プラスチック材料が、前記熱伝導性プラスチック材料の全重量を基準にして少なくとも20重量%の量の膨張黒鉛を含む、および/または少なくとも7.5W/m・Kの面内熱伝導率Λ//を有する、方法。
【請求項9】
前記プラスチック材料が導電性であり、前記コーティング層が電気絶縁性材料からなるか、または、前記プラスチック材料が非導電性であり、前記コーティング層が金属層であるかである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のヒートシンク、あるいは請求項8または9に記載の方法によって得ることができるヒートシンクを、発熱するデバイスと熱伝導連通するように組み合わせるステップを含む、E&Eデバイスの製造方法。
【請求項11】
熱源と、請求項1〜7のいずれか1項に記載のヒートシンクとを互いに熱伝導連通した状態で含む、電気デバイスまたは電子デバイス(E&Eデバイス)。
【請求項12】
前記ヒートシンクに接続された半導体を含む半導体デバイスであるか、またはヒートスプレッダーに接続された金属コアPCB上に複数のLEDを含むLEDデバイスである、請求項11に記載のE&Eデバイス。
【請求項13】
ヒートシンクが、LEDデバイスの電子部品を覆う保護ハウジングである、請求項11に記載のE&Eデバイス。

【公表番号】特表2011−516633(P2011−516633A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500190(P2011−500190)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053129
【国際公開番号】WO2009/115512
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】