説明

熱処理装置

【課題】 シャッタの開閉時に炉体の内部に進入した外気がワークに届くことを簡易な構成にて防止することが可能な熱処理装置を提供する。
【解決手段】 熱処理装置10は、循環ファン32、ヒータ34、シャッタ14、流路形成部材20、および案内板38を備える。シャッタ14は、複数のシャッタ片141〜146から構成されており、炉体に設けられた炉口の一部を占める領域を選択的に開閉する。流路形成部材20は、シャッタ片142〜145にそれぞれ取り付けられる。流路形成部材20は、シャッタ片142〜145の炉体内部に対向する裏面に沿って水平方向に流れ、かつ、上方に開放した循環空気の経路を形成するように構成される。案内板38は、循環ファン32で発生した循環空気を流路形成部材20の一端部に案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉体の内部を循環させた熱風によって炉体内部に配置されたワークを加熱するように構成された熱風循環式の熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理装置の1つの種類として熱風循環式の熱処理装置がある。熱風循環式の熱処理装置は、通常、循環ファンによって循環空気を生成し、この循環空気をヒータによって加熱することによって循環熱風を発生させ、発生した循環熱風によって炉体の内部のワークを加熱するように構成される。そして、このような熱風循環式の熱処理装置では、ワークを均一に加熱するために熱風の循環経路の設計に様々な創意工夫がなされてきた。
【0003】
ところが、熱風の循環経路が適切に構築されている場合であっても、炉口側からの放熱が原因で炉体内部における炉口近傍の温度が他の領域よりも低くなり、炉体内部に温度差が発生するという問題が生じることがあった。
【0004】
そこで、従来技術の中には、熱処理室の両側端に設けられた吹き出し板および吸い込み板の炉口部近傍の開口比率を高くする一方で、炉口部近傍以外の開口比率を低くすることによって、熱風の量が炉口部近傍で多くなるようにする熱処置装置が存在する(例えば、特許文献1参照)。そして、この技術によれば、シャッタからの放熱に起因する炉口部近傍の温度低下の影響を軽減することができる、とされている。
【特許文献1】特開2004−251534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に係る技術において、シャッタ開閉時に炉体の内部に進入した外気がワークまで到達することを防止するためには、炉口部近傍での熱風の量を十分に増加させる必要がある。ところが、熱風の量を増加させるためには強力なヒータや強力な循環ファンが必要となるため、部品コストが高くなる上に消費電力が大きくなるといった不都合が生じ得る。
【0006】
この発明の目的は、シャッタの開閉時に炉体の内部に進入した外気がワークに届くことを簡易な構成にて防止し、外気の進入による炉内温度の低下を抑えることにより、炉内の温度差をなくして均一にすることが可能な熱処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明に係る熱処理装置は、炉体の内部を循環させた熱風によって炉体内部の熱処理部に上下に多段に支持された板状ワークを加熱するように構成された熱処理装置である。この熱処理装置は、循環ファン、ヒータ、シャッタ、流路形成部材、および案内部材を備える。
【0008】
循環ファンは、炉体の内部に循環空気を発生させるように構成される。ヒータは、炉体の内部の循環空気を加熱するように構成される。
【0009】
シャッタは、互いに離間または接触可能に構成された複数のシャッタ片を備える。シャッタは、隣り合う2つのシャッタ片を離間または接触させることにより、炉体の一側面に設けられ各段のワークの出し入れを可能にする炉口の一部を占める領域であって、出し入れされるワークの一以上の段に対応づけられる水平方向に長い形状の領域を選択的に開閉するように構成される。
【0010】
流路形成部材は、複数のシャッタ片の少なくとも一部にそれぞれ取り付けられる。流路形成部材は、複数のシャッタ片のすべてにそれぞれ取り付けられることが好ましいが、炉体の構造上の理由で一部に流路形成部材を取り付けられないシャッタ片が生じる場合であっても本発明を実施することは可能である。また、流路形成部材は、シャッタ片の炉体内部に対向する裏面に沿って水平方向に流れ、かつ、上方に開放した循環空気の経路を形成するように構成される。ここで、循環空気の経路を上方に開放させる理由は、外気は炉体の内部の空気に比較して温度が低いので炉に進入した後に降下することを考慮し、外気がワークに到達する前にそれを補足可能とするためである。
【0011】
案内部材は、循環ファンで発生した循環空気を前記流路形成部材によって形成される経路の一端側に案内する。案内部材の作用により、循環ファンからの熱風が流路形成部材によって形成される循環空気の経路に導かれる。
【0012】
この構成においては、シャッタ片の裏面に沿って水平に流れる熱風の流路が、各シャッタ片の裏面側にそれぞれ構築される。つまり、シャッタの裏面側にサイドフローの熱風カーテンが構築される。しかも、流路形成部材によって熱風の流路が画定されているため、流路形成部材内の熱風の流速を局所的に増加させることが可能となる。さらに、流路形成部材が上方に開放した循環空気の経路を形成するため、降下する冷気を流路形成部材内に捕捉し易い。そして、捕捉した冷気を経路内の循環空気の流れに乗せてすばやく熱処理部外に運び去ることができる。
【0013】
このため、ワークの出し入れ時に冷たい外気が炉内に進入した場合であっても、この外気が流路形成部材内を流れる熱風の中に吸収されるため、この外気がワークに到達することを防止することが可能になる。しかも、流路形成部材内の熱風の流速を局所的に増加させることが可能であるため、ヒータや循環ファンをより強力なものに置き換えなくても炉口部近傍での熱風の速度を十分に増加させることができる。
【0014】
その結果、外部の冷たい空気が炉内に吸い込まれ、昇温中および昇温完了後のワークの温度が一部下がることにより、ガラス基板全体の温度分布が乱れるといった不具合の発生を抑制することができる。
【0015】
さらに、流路形成部材は、循環空気の経路の底部に炉体の内側に向かって下がるような傾斜部が形成されるように構成されることが好ましい。その理由は、流路形成部材内に誘い込まれた冷気が流路形成部材から溢れてその外、即ち、熱処理部内に逃げにくくなるからである。この構成を採用することにより、流路形成部材によって形成される循環空気の経路がより深くなるため、一旦流路形成部材内に収まった冷気が溢れることを防止できる。
【0016】
流路形成部材に向かう循環空気の風速が、熱処理部に向かう循環空気の風速よりも大きくなるように風速調整を行うための風速調整部材をさらに備えることが好ましい。風速調整部材の例として、吹き出し側の風量を開口比率によって調整する吹き出し板や、吸い込み側の吸い込み量を開口比率によって調整する吸い込み板が挙げられる。このような構成を用いることにより、流路形成部材内の熱風の流速を局所的に増加させ易くなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャッタの開閉時に炉体の内部に進入した外気がワークに届くことを簡易な構成にて防止し、外気の進入による温度低下を抑えることにより、炉内の温度差をなくして均一にすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る熱風循環式の熱処理装置10の概略を示す図である。熱処理装置10は、ワークとしてのガラス基板16を互いに間隙を設けて積層して収容することが可能な熱処理部12を有する炉体11を備える。熱処理部12では、矢印60で示す方向に熱風を流しており、この熱風によってガラス基板16を加熱する。
【0019】
炉体11の下側には熱処理部12の動作を制御するように構成された制御部(図示せず)が配置される。熱処理装置10の炉体11の炉口には、熱処理部12に対してガラス基板16を出し入れする際に開閉するように構成されたシャッタ14が設けられる。
【0020】
図2に示すように、シャッタ14は、複数のシャッタ片141〜146から構成されている。複数のシャッタ片141〜146のそれぞれは、垂直方向に伸びる軸に上下方向に移動可能に支持されており、それぞれが互いに独立して昇降するように構成されている。
【0021】
さらに、シャッタ片142〜145の裏面には、シャッタ14の裏面に沿って水平に流れる熱風の流路を画定する流路形成部材20が取り付けられる。また、熱処理部12の上面および底面には、シャッタ14に平行でかつ水平方向に配置された遮風板18および19が設けられる。
【0022】
図3は、流路形成部材20の概略を示す図である。以下、シャッタ片142〜145を代表してシャッタ片145の裏面に取り付けられた流路形成部材20について説明し、シャッタ片142〜144の裏面に取り付けられた流路形成部材20については、その構成が同一であるため説明を省略する。
【0023】
流路形成部材20は、金属の板を変形させて所望の形状に加工してなる板金202と、板金202の上部をシャッタ片145に連結するとともに流路形成部材20を補強するための2本のブラケット22とを備える。板金202の素材としては、例えばステンレス板が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
図4(A)および図4(B)に示すように、板金202は、シャッタ片145に固着された固着部203、循環熱風の経路の底面を画定する底部204、および底部204から垂直に立ち上がって循環熱風の経路の側面を画定する側壁部206から構成される。
【0025】
固着部203は、シャッタ片145を構成するフレーム部材にビス留め等によって固定される。底部204には、炉体11の内側に向かって下がるように形成された傾斜部が設けられる。この傾斜部を設ける理由は、循環熱風の経路に深く窪んだ部分を設けることにより、外気が側壁部206を乗り越えて熱処理部12に入るという不都合が発生しにくくなるからである。側壁部206は、外気が熱処理部12に進入することを防止する遮風板としても機能する。
【0026】
上述のように、シャッタ片145に板金202を取り付けることにより、シャッタ片145の裏面、底部204、および側壁部206に囲まれる断面視U字状の上方に開放した風洞が形成される。
【0027】
図5(A)および図5(B)は、炉体11の内部における熱風の循環経路の一例を示すものである。図5(A)は、熱処理装置10の側面図であり、図5(B)は、熱処理装置10の平面図である。熱処理装置10は、炉体11の内部に循環空気を発生させるように構成された複数の循環ファン32、および炉体11の内部の循環空気を加熱するように構成された複数のヒータ35を備える。
【0028】
循環ファン32から吹き出された熱風は、フィルタ34(例えば、HEPAフィルタ)を通過して熱処理部12に導かれ、熱処理部12から上部および下部の循環経路を経由して循環ファン32の配置位置まで帰還する。さらに、図5(B)に示すように、循環ファン32から吹き出された熱風の一部は、フィルタ34を通過した後に、垂直方向に設置された案内板38によって流路形成部材20の一端部に案内される。また、流路形成部材20の吸い込み側の端部近傍には、上下方向に伸びる遮風板36が設けられる。遮風板36、遮風板18、および遮風板19によって、流路形成部材20と吸い込み口との隙間を塞ぎ、流路形成部材20にて画定される熱風の循環経路の吸い込み量の増加を図っている。
【0029】
さらに、図6に示すように、炉体11の内部には、吹き出し板42および吸い込み板40が設けられる。吹き出し板42は、炉口部近傍の開口比率が大きく(例えば、80〜100%)、炉口部近傍を除いた部分の開口比率が小さく(例えば、20〜60%)なるように構成される。同様に、吸い込み板40についても、炉口部近傍の開口比率が大きく(例えば、80〜100%)、炉口部近傍を除いた部分の開口比率が小さく(例えば、6〜18%)になるように構成される。開口比率は、吹き出し板42および吸い込み板40に形成される貫通孔の大きさや数を調整することにより調整される。本実施形態では、流路形成部材20にて画定される熱風の循環経路の上流および下流には、吹き出し板42および吸い込み板40を配置しないようにしている(開口比率100%)。ただし、ここで示した開口比率は単なる一例に過ぎず、これ以外の構成を採用することも可能である。
【0030】
さらに、吸い込み側の炉内中央部には遮風板44が配置されており、吹き出し板42の開口率が小さい領域の上下の吸い込み部を遮風板44によって塞ぐようにしている。遮風板44を設ける理由は、流路形成部材20近傍の吸い込み量を炉体11の他の箇所の吸い込み量より増加させるためである。
【0031】
以上の構成を採用することにより、流路形成部材20にて画定される熱風の循環経路の風速を局所的に増加させることが可能となる。そして、シャッタ14が開放した時に外気が進入しても、進入した外気をガラス基板16に届く前に流路形成部材20にて捕捉し易くなる。
【0032】
図7(A)および図7(B)は、シャッタ14を開放した状態を示している。図7(A)に示すように、シャッタ片145および146を降下させてシャッタ14の一部を開放すると、外気が炉体11の内部に進入しようとする。この外気は炉体11の内部の空気に比較して温度が低いため、炉体11に進入する際には降下しながら進入することになる。その結果、炉体11に進入した外気は、流路形成部材20の側壁部206にてブロックされ、流路形成部材20にて画定される熱風の循環経路内に捕捉される。そして、図7(B)に示すように、熱風とともに吸い込み側に吸い込まれて循環空気の一部として回収される。
【0033】
以上のように、シャッタ14の裏面に熱風が通る熱風循環経路を形成し、その熱風循環経路の風速を局所的に上げることにより、外気が炉体11の内部に進入した場合であっても、炉体11の内部に進入したほぼすべての外気が熱風経路に捕捉される。このため、炉体11の内部に進入した冷たい外気がガラス基板16まで届くという不都合はほとんど発生しなくなる。この結果、ガラス基板16の温度分布のバラツキを減少させることが可能になる。
【0034】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の概略を示す図である。
【図2】熱処理装置のシャッタの概略構成を示す図である。
【図3】流路形成部材の概略構成を示す図である。
【図4】流路形成部材の概略構成を示す図である。
【図5】熱処理装置における熱風の循環状態を示す図である。
【図6】熱処理装置における熱風の循環状態を示す図である。
【図7】外気が流路形成部材内に捕捉される状態を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10−熱処理装置
11−炉体
12−熱処理部
14−シャッタ
16−ガラス基板
20−流路形成部材
22−ブラケット
34−フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体の内部を循環させた熱風によって炉体内部の熱処理部に上下に多段に支持された板状ワークを加熱するように構成された熱処理装置であって、
前記炉体の内部に循環空気を発生させるように構成された循環ファンと、
前記炉体の内部の循環空気を加熱するように構成されたヒータと、
複数のシャッタ片を備え、隣り合う2つのシャッタ片を離間または接触させることにより、前記炉体の一側面に設けられ各段のワークの出し入れを可能にする炉口の一部を占める領域であって、出し入れされるワークの一以上の段に対応づけられる水平方向に長い形状の領域を選択的に開閉するように構成されたシャッタと、
前記複数のシャッタ片の少なくとも一部にそれぞれ取り付けられた流路形成部材であって、前記シャッタ片の炉体内部に対向する裏面に沿って水平方向に流れる循環空気の経路を形成するための流路形成部材と、
前記循環ファンで発生した循環空気を前記流路形成部材によって形成される前記経路の一端側に案内するように構成された案内部材と、
を備え、
前記流路形成部材が、上方に開放した循環空気の経路を形成するように構成された
熱処理装置。
【請求項2】
前記流路形成部材は、前記循環空気の経路の底部に炉体の内側に向かって下がる傾斜部が形成されるように構成された
請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記流路形成部材に向かう循環空気の風速が、前記熱処理部に向かう循環空気の風速よりも大きくなるように風速調整を行うための風速調整部材をさらに備えた請求項1または2に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−107137(P2010−107137A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281054(P2008−281054)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】