説明

熱分解装置

【課題】
ロータリーキルン方式の熱分解装置の熱分解ガスまたは加熱空気を、大気に漏洩することを防止するための金属接触によるガスシールにおいて、シールに用いる材料の磨耗を低減できる材料を選定することである。
【解決手段】
固定リングと回転リングの金属接触によるガスシールにおいて、固定リングと回転リングに適用する材料の一方を、高硬度の材料となるように組み合わされた構成とすることにより、固定リング及び回転リングの金属接触による磨耗を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルン方式のガス化溶融炉の、特に熱分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルン方式のガス化溶融炉の熱分解装置においては、キルン内で生成する熱分解ガスや、キルンを加熱するための加熱空気を、熱分解装置外へ漏洩することを防止するため、ガスシールを有している。
【0003】
従来のガスシールは、回転するキルンの外周に沿って可動側にシールリングを設け、該可動側のシールリングと対向する位置に、固定側のシールリングを配置し、該固定側のシールリングを、前述した可動側のシールリングに、一定圧力で押付けるように構成したものであった。そしてガスシールのシール性を確保するため、固定側のシールリングを、可動側のシールリングに一定圧力で押付ける手段として、流体圧を供給できるようにした伸縮可能な袋体を使用した。これにより、回転するキルンの可動部と固定部との間のシール性が向上して回転するキルン内からのガスの漏洩がなくなるため、回転するキルンの操業を安定化することができた。しかしながら従来のガスシールにおいては、シールリングの磨耗を低減することが困難であるため、長期間にわたって信頼性を維持できるガスシールではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−269864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のガスシールにおいては、シールリングの磨耗を低減することが困難であるため、長期間にわたって信頼性を維持できるガスシールではなかった。
【0006】
本発明は、シール装置の摺動部の摩耗を低減できる熱分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、シール装置が、ロータリーキルンに設置されてロータリーキルンと共に回転する第1リング部材、及び第1リング部材に押し付けられて第1リング部材と接触し、ジャケット部材に設置される第2リング部材を有し、第1リング部材及び第2リング部材の一方が他方のリング部材よりも硬度が高い材料で構成されていることにある。これにより、第1リング部材と第2リング部材の接触による磨耗を低減することができる。
【0008】
上記した目的は、シール装置の第1リング部材及び第2リング部材をクロムモリブデン鋼で構成することによっても達成できる。これにより、第1リング部材と第2リング部材の接触による磨耗を低減することができる。
【0009】
また、上記した目的は、シール装置の第1リング部材及び第2リング部材のそれぞれの表面にクロムモリブデン鋼をコーティングすることによっても達成される。これにより、第1リング部材と第2リング部材の接触による磨耗を低減することができる
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロータリーキルン方式の熱分解装置におけるシール装置の摺動部の摩耗を低減できる。シール装置の寿命を延長でき、熱分解装置の稼働率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な一実施例である熱分解装置を図1及び図2を用いて説明する。
【0012】
ガス化溶融方式の廃棄物焼却は、ごみを熱分解ガスと熱分解カーボン(以降チャーと記載)に分離した後、熱分解ガスにより高温にした溶融炉に、チャーと灰分を投入することにより、灰分を溶融スラグ化するものである。この方式により、ごみを高温で処理できるためダイオキシンの発生を抑制でき、また最終生成物であるスラグは建築資材等に有効利用できるため、最終処分場への埋立量を大幅に低減できる。さらにこれらの処理を、ごみが持つエネルギーで賄っているため、ごみ処理に必要とされる外部エネルギーを大幅に低減することができる。
【0013】
図1はロータリーキルン方式のガス化溶融炉の本実施例に係わる熱分解装置30の構成を示す概要図である。焼却場に持ち込まれたごみ1は、前処理工程を経た後、熱分解装置に投入され、スクリューフィーダー2により、横置きされたキルン3の入口からキルン内に送り込まれる。キルン内のごみは、出口に向かって移動する間に、空気を遮断した雰囲気中で加熱されることにより、熱分解ガス4とチャー5に分解されて、それぞれの処理系に送られる。この過程で、アルミや鉄等は融点以下で処理されるため、そのままの形態で不燃物6として回収される。一方、ゴミを加熱するための加熱空気7は、キルンとジャケット8で構成された経路に、ごみの移動方向に対して順方向または逆方向に循環させることによりキルンを加熱する。キルン内のごみには、加熱されたキルンから熱が供給される。この際ごみへの熱供給を均一かつ効率的に行うためキルンを回転させる。
【0014】
キルンに投入されたごみから生成する熱分解ガスは、一酸化炭素や水素,炭化水素等の燃焼ガスを含むものであるが、一酸化炭素等の有害ガスや臭気を帯びているため、大気に漏洩させることはできない。また熱分解ガスを熱分解ガスバーナで加熱した加熱空気も、同様に有毒ガスを含むものであるため、大気に漏洩させることはできない。そのため、熱分解ガスや加熱空気の経路である熱分解装置の固定部と、熱分解ガスを発生させる回転式のキルンにおいては、これらのガスが大気中に漏洩することを防止するためのシール構造が必要になる。これらのガスシールは、回転するキルンと固定部であるジャケットとの接面9、及び回転するキルンとごみ投入フード10との接面11に必要である。これらのガスシールは基本的には同一構造で良い。そこで、熱分解装置30に用いられるガスシールを、回転するキルンと固定部であるジャケットとの接面のガスシールを例として以下説明する。
【0015】
図2は、上述した位置のガスシールの構造例を示す。回転するキルン3の端部近傍の外周部につば12が取り付けられており、そのつばに挟まれるように回転リング13がボルト14とナット15によって固定されている。したがって回転リングはキルンの回転と同じ速度で回転する。なおキルン材料と回転リング材料は同一である必要はない。一方静止しているジャケット8にベロー16により固定リング17が取り付けられている。そのためジャケットと固定リングのすき間から加熱空気が漏洩することはない。
【0016】
ガスシールは回転リングと固定リングとの金属接触により維持されるが、キルンとジャケットとの熱膨張差により回転リングと固定リングに隙間が発生することがないように、上述した熱膨張差はベローにより吸収される。さらに回転リングと固定リングとのシール性を確保するため、スプリングボルト18により、固定リングを回転リングに一定圧力で押し付ける構造となっている。固定リングには、潤滑材を溜める溝19が設けられており、回転リングが回転することにより回転リングと固定リングの接触面に潤滑材が供給される。なお潤滑材を溜める溝は、回転リングに設けても良く、また回転リングと固定リングの両方に設けても良い。
【0017】
磨耗は様々な要因が複雑に影響し合う現象であるため、定量的な予測評価が極めて困難な現象である。その中でHolmの法則は比較的簡単な式により、磨耗特性を説明するものとして知られている。すなわち磨耗量Wは、真実接触面積(みかけの接触面積ではなく、材料同士が実際に接触している面積)Ar,磨耗距離L、及び接触により原子が剥ぎ取られる確率で材料の組合せにより決定される値zと関係付けられる。
【0018】
W=Z・Ar・L …(1)
また真実接触面積Arはみかけの接触面積に比べて非常に小さいため、真実接触面での圧力は非常に高くなり、弾性限界を越えて塑性流動圧力Pmとなっている。したがって磨耗面に負荷される荷重Pと真実接触面積とは、
P=Ar・Pm …(2)
と記載することができる。(2)式を用いて(1)式を書き換えると、
W=(z・P・L)/Pm …(3)
となる。すなわち磨耗量Wは、荷重及び磨耗距離に比例するが、塑性流動圧力Pmには反比例することがわかる。このことは塑性流動圧力が大きくなるほど磨耗量は低減することを示しており、荷重負荷により真実接触面積が増加しにくい材料、すなわち硬い材料ほど磨耗しにくいことを示している。またこの式に従えば、硬い材料と軟らかい材料を組み合わせた場合は、軟らかい材料が一方的に磨耗することになる。
【0019】
しかしながら、この説明は、潤滑材がない乾燥磨耗の場合に適用できても、潤滑材がある場合はこのような単純な関係にはならない。潤滑材がある場合は、材料接触部(真実接触部)の変形が潤滑材で緩和されるため(高圧による直接接触を緩和)磨耗量は低減する。特に変形し易い軟らかい材料の場合には、潤滑材の効果を強く受ける。したがってHolmの式に従えば、軟らかい材料ほど磨耗が加速されると予測されるが、潤滑材がある場合には必ずしもそのようにはならない。また一方を硬い材料とすれば、そこから発生する磨耗粉を低減できるため、他方の軟らかい材料の磨耗も低減されるのである。
【0020】
したがって、熱分解装置30のガスシールは、回転リングの材料と固定リングの材料の一方を高硬度の材料となるように組み合わされた材料同士の金属接触によりガスシールすることを特徴としたものである。
【0021】
図3は、本発明に係わるロータリーキルン方式の他の実施例である熱分解装置の構成を示す概要図である。図3ではキルン及びその外側のジャケットが回転する構造である。本実施例の熱分解装置30Aに用いられるガスシールは、回転するジャケットと固定部である加熱空気フード20との接面21、及び回転するキルンと加熱フードとの接面22を含んでいる。
【0022】
熱分解装置30Aのガスシールは、回転リングの金属接触部表面または固定リングの金属接触部表面、もしくは回転リングの金属接触部及び固定リングの金属接触部表面の両方を、結果的に一方の金属接触部が高硬度となるようにコーティングした材料同士の金属接触によりガスシールすることを特徴とするものである。
【0023】
熱分解装置のガスシールに適用する材料の選定のために用いる磨耗試験装置を、図4を用いて説明する。この磨耗試験装置は、炭素鋼,オーステナイトステンレス鋼及びクロムモリブデン鋼を対象とした磨耗試験装置の概要図である。磨耗試験装置は回転部23と固定部24を有しており、固定部に切られた溝25に潤滑材を溜めることにより、回転部の回転とともに、回転部と固定部の接触面に潤滑材が供給される。磨耗試験では、固定部を炭素鋼とし、回転部をオーステナイトステンレス鋼とした場合と、オーステナイトステンレス鋼よりも硬いクロムモリブデン鋼とした場合の2ケースについて実施した。その結果を図5に示す。
【0024】
炭素鋼の固定部に対し回転部をオーステナイトステンレス鋼とした場合は、それぞれの比磨耗量は、炭素鋼が約10-8(mm3/N/mm)であり、オーステナイトステンレス鋼が約2×10-9(mm3/N/mm)であった。一方、炭素鋼の固定部に対し、回転部をオーステナイトステンレス鋼よりも硬いクロムモリブデン鋼とした場合は、それぞれの比磨耗量は、炭素鋼及びクロムモリブデン鋼ともに約10-10(mm3/N/mm)であり、固定部材料も回転部材料も比磨耗量は低減した。
【0025】
以上のことから、熱分解装置の他の実施例であるガスシールは、クロムモリブデン鋼と他金属との金属接触,クロムモリブデン鋼をコーティングした材料と他金属との金属接触,クロムモリブデン鋼をコーティングした材料と他金属をコーティングした材料との金属接触によりガスシールすることを特徴とするものである。
【0026】
また、図5より、クロムモリブデン鋼同士の組合せが、回転リング及び固定リングの磨耗を最も低減できると考えられることから、本発明の請求項4は、請求項1及び2の熱分解装置において、クロムモリブデン鋼同士の金属接触、または金属表面がクロムモリブデン鋼である材料同士の金属接触により、ガスシールすることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好適な一実施例である熱分解装置の構成図である。
【図2】図1に示す熱分解装置のガスシールの構成図である。
【図3】本発明の他の実施例である熱分解装置の構成図である。
【図4】本発明の実施例である熱分解装置のガスシールに適用する材料を選定するために用いた磨耗試験装置の概要図である。
【図5】本発明である熱分解装置のガスシールに適用する材料を選定するために実施した磨耗試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1…ごみ、2…スクリューフィーダー、3…キルン、4…熱分解ガス、5…チャー、6…不燃物、7…加熱空気、8…ジャケット、9…回転するキルンと固定部であるジャケットとの接面、10…ごみ投入フード、11…回転するキルンと固定部であるごみ投入フードとの接面、12…つば、13…回転リング、14…ボルト、15…ナット、16…ベロー、17…固定リング、18…スプリングボルト、19…潤滑材を溜める溝、20…加熱空気フード、21…回転するジャケットと固定部である加熱空気フードとの接面、22…回転するキルンと固定部である加熱空気フードとの接面、23…磨耗試験装置の回転部、24…磨耗試験装置の固定部、25…固定部に切られた潤滑剤を溜める溝。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解する廃棄物が供給されるロータリーキルンと、前記ロータリーキルンの外側を取り囲み、内部に前記ロータリーキルンを加熱する熱媒体が供給されるジャケット部材と、前記ロータリーキルンと前記ジャケット部材との間に設けられたシール装置とを備え、
前記シール装置は、前記ロータリーキルンに設置されて前記ロータリーキルンと共に回転する第1リング部材、及び前記第1リング部材に押し付けられて前記第1リング部材と接触し、前記ジャケット部材に設置される第2リング部材を有し、前記第1リング部材及び前記第2リング部材の一方が他方のリング部材よりも硬度が高い材料で構成されていることを特徴とする熱分解装置。
【請求項2】
請求項1の熱分解装置において、前記第1リング部材の金属接触部表面及び前記第2リング部材の金属接触部表面の両方に金属をコーティングする場合には、一方の前記金属を他方の前記金属よりも硬度を高くすることを特徴とする熱分解装置。
【請求項3】
請求項1の熱分解装置において、前記第1リング部材の金属接触部表面及び前記第2リング部材の金属接触部表面の一方に金属をコーティングする場合には、コーティングする前記金属の硬度が、コーティングがなされない前記金属接触部の硬度よりも高いことを特徴とする熱分解装置。
【請求項4】
請求項1に記載の熱分解装置において、硬度の高い前記一方のリングがクロムモリブデン鋼で構成されていることを特徴とする熱分解装置。
【請求項5】
請求項2に記載の熱分解装置において、硬度の高い一方の前記金属がクロムモリブデン鋼であることを特徴とする熱分解装置。
【請求項6】
請求項3に記載の熱分解装置において、前記コーティングされた前記金属がクロムモリブデン鋼であることを特徴とする熱分解装置。
【請求項7】
熱分解する廃棄物が供給されるロータリーキルンと、前記ロータリーキルンの外側を取り囲み、内部に前記ロータリーキルンを加熱する熱媒体が供給されるジャケット部材と、前記ロータリーキルンと前記ジャケット部材との間に設けられたシール装置とを備え、
前記シール装置は、前記ロータリーキルンに設置されて前記ロータリーキルンと共に回転する第1リング部材、及び前記第1リング部材に押し付けられて前記第1リング部材と接触し、前記ジャケット部材に設置される第2リング部材を有し、前記第1リング部材及び前記第2リング部材がクロムモリブデン鋼で構成されていることを特徴とする熱分解装置。
【請求項8】
熱分解する廃棄物が供給されるロータリーキルンと、前記ロータリーキルンの外側を取り囲み、内部に前記ロータリーキルンを加熱する熱媒体が供給されるジャケット部材と、前記ロータリーキルンと前記ジャケット部材との間に設けられたシール装置とを備え、
前記シール装置は、前記ロータリーキルンに設置されて前記ロータリーキルンと共に回転する第1リング部材、及び前記第1リング部材に押し付けられて前記第1リング部材と接触し、前記ジャケット部材に設置される第2リング部材を有し、前記第1リング部材及び前記第2リング部材のそれぞれの表面にクロムモリブデン鋼がコーティングされていることを特徴とする熱分解装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−38307(P2006−38307A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216700(P2004−216700)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】