説明

熱可塑性プラスチックのプレス成形装置及びプレス成形方法

【課題】安価にして微細な凹凸パターンが高精度に転写されたプレス成形体を高能率に製造可能なプレス成形装置及びプレス成形方法を提供する。
【解決手段】下金型5の上面に素材シート8を載置する(手順S1)。上金型2を下降して素材シート8に所要の押圧力を負荷する(手順S2)。上ステージ3及び下ステージ6の背面に上ヒータ4及び下ヒータ7を密着し、ヒータ4,7の熱で素材シート8の表面を軟化する(手順S3)。上ヒータ4及び下ヒータ7を上ステージ3及び下ステージ6から離隔してプレス成形品を材料である可塑性プラスチックのガラス転移温度以下の所定温度まで放冷し(手順S4)。上金型2と下金型5とを型開きし(手順S5)、上金型2又は下金型5からプレス成形品を剥がし取る(手順S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性プラスチックのプレス成形装置及びプレス成形方法に係り、特に、熱可塑性プラスチックからなる素材シートの表面に微細な凹凸パターンを高精度に転写するに好適なプレス成形装置及びプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスク、回折格子、導光板及びマイクロレンズアレイなどの光学デバイスには、その小型化・薄形化及び高性能化を図るため、ナノスケールの微細な凹凸パターンを表面に形成することが求められている。
【0003】
従来より、プラスチック成形体の表面に微細な凹凸パターンを形成する方法としては、成形品の表面に形成使用とする凹凸パターンの雌形を有する金型キャビティ内に溶融プラスチック材料を注入する射出成形法が使われてきた。この方法は、成形品の形状や成形材料に関する制約が少ない優れた方法であるが、溶融プラスチック材料を冷えた金型キャビティ内に注入するので、溶融プラスチック材料が金型キャビティ内で流動不足になりやす
く、転写される凹凸パターンの微細化や高精度化に限界がある。また、光学デバイスのように薄形の成形品については、金型キャビティ内における溶融プラスチック材料の流動不足が顕著になり、かつ成形収縮も大きくなることから、成形品に大きな残留応力が発生しやすいという問題も生じる。
【0004】
この成形品に生じる残留応力は、樹脂材料としてポリカーボネートやポリスチレン等の高屈折率材料を用いた場合に特に大ききな問題となる。即ち、導光板やマイクロレンズアレイなどの光学デバイスにおいては、デバイス材料の屈折率が高いほど高特性が得られるので、本来的にはポリカーボネートやポリスチレン等の高屈折率材料を用いて製造することが好ましいが、この種の樹脂材料中には分子骨格中に外部場によって分極しやすい芳香
族環を有するため、成形体中に残留応力が生じると複屈折と呼ばれる屈折率異方性をもたらし、光学歪みを生じて却って特性を悪化させる。そのため、従来においては、残留応力の発生を避けるためにあえてポリメチルメタクリレートや非晶質ポリオレフィン等の低高屈折率材料を用いて光学デバイスを射出成形するという方法が取られている。
【0005】
かかる問題に対処するため、近年、射出成形法に代わる光学デバイスの成形方法として、図6に示すように、ヒータ101が一体に備えられた上金型102とヒータ103が一体に備えられた下金型104との間に熱可塑性プラスチックからなる素材シート105を挟み込み、素材シート105にヒータ101,103の熱を加えてその表面を軟化した後、素材シート105に押圧力を加えてその表面に上金型102及び下金型104の表面に
形成された所要の凹凸パターン106,107を転写するホットエンボス法と呼ばれるプレス成型法の一種を適用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このホットエンボス法によれば、ポリカーボネートやポリスチレン等の高屈折率材料を用いて薄形の光学デバイスを成形した場合にも、樹脂の流動不足や成形収縮をほとんど生じないので、成形体中に発生する残留応力を緩和することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−1705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、従来のホットエンボス法においては、ヒータ101が一体に備えられた上金型102とヒータ103が一体に備えられた下金型104とを有するプレス成形装置を用いるので、素材シート105の挟み込み後にヒータ101,103に通電して素材シート105を所定温度まで加熱し、所望のプレス成形体108が成形された後にヒータ101,103への通電を遮断してプレス成形体108を所定温度まで冷却しなくてはならない
ので、射出成形法に比べてショットサイクルが長く、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
また、残留応力が小さいプレス成形体108を得るためには、平坦性が良好で残留応力が小さい素材シート105を用意しなくてはならず、大量生産が可能で安価な押出成形品を素材シート105として用いることができないので、製品であるプレス成形体108が高価になるという問題もある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の不備を解決するためになされたものであり、その目的は、安価にして微細な凹凸パターンが高精度に転写されたプレス成形体を高能率に製造可能なプレス成形装置及びプレス成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の課題を解決するため、熱可塑性プラスチックのプレス成形装置については、所定の面に微細な凹凸パターンが形成された成形用金型と当該成形用金型を加熱するヒータとを備え、前記成形用金型に挟み込まれた熱可塑性プラスチックからなる素材シートに前記成形用金型による押圧力と前記ヒータによる熱とを加えて前記素材シートの表面に前記微細な凹凸パターンを転写する熱可塑性プラスチックのプレス成形装置において
、前記成形用金型と前記ヒータとをそれぞれ独立の別体に形成し、前記成形用金型に対する前記ヒータの密着と前記成形用金型からの前記ヒータの離隔とを可能にするという構成にした。
【0012】
このように、成形用金型とヒータとをそれぞれ独立の別体に形成し、成形用金型に対するヒータの密着と成形用金型からのヒータの離隔とを可能にすると、ヒータへの通電を断続することなく、所定温度に加熱されたヒータを成形用金型に密着させることによって素材シートの加熱を行うことができ、また、成形用金型からヒータを離隔させることによって素材シートの放冷を行うことができるので、ヒータの加熱放冷に要する時間を省略することができ、プレス成形のショットサイクルを高速化することができる。
【0013】
一方、熱可塑性プラスチックのプレス成形方法については、成形用金型に挟み込まれた熱可塑性プラスチックからなる素材シートに押圧力と熱とを加え、前記素材シートの表面に前記成形用金型に形成された微細な凹凸パターンを転写する熱可塑性プラスチックのプレス成形方法において、前記成形用金型に予め準備された素材シートを挟み込んだ後、前記成形用金型により前記素材シートに所定の押圧力をかけた状態で前記成形用金型の裏面
に前記熱可塑性プラスチックのガラス転移温度以上に加熱されたヒータを密着し、前記素材シートの表面を軟化させて組成流動により前記素材シートの表面に前記凹凸パターンの転写を行い、所要のプレス成形品の成形が完了した後、前記ヒータを前記成形用金型から離隔して前記成形用金型と前記プレス成形品とを前記可塑性プラスチックのガラス転移温度以下まで放冷し、しかる後に、前記成形用金型を型開きして、前記プレス成形品を前記
成形用金型から剥がし取るという構成にした。
【0014】
このように、素材シートの加熱工程においては成形用金型と所定温度まで予め加熱されたヒータとを密着させ、素材シートの放熱工程においては成形用金型からヒータを離隔させると、ヒータへの通電を断続することなく、成形用金型にヒータを密着させることによって素材シートの加熱を行うことができ、また、成形用金型からヒータを離隔させることによって素材シートの放冷を行うことができるので、ヒータの加熱放冷に要する時間を省
略することができ、プレス成形のショットサイクルを高速化することができる。
【0015】
また、本発明は、前記構成のプレス成形方法において、前記素材シートの表面を軟化させた後、前記成形用金型にて前記素材シートを5μm/s以下のプレス速度で厚さ方向に圧縮するという構成にした。
【0016】
このように、素材シートの表面を軟化させた状態で素材シートを厚さ方向に5μm/s以下というゆっくりとしたプレス速度で圧縮すると、素材シートとして例えば押出成形品などの残留応力が高いものを用いた場合にも、その圧縮過程で素材シート中の分子配向が低下させることができるので、残留応力が低いプレス成形品を作製することができる。よって、安価な素材シートの使用が可能になり、プレス成形品の低コスト化を図ることがで
きる。
【0017】
また、本発明は、前記構成のプレス成形方法において、前記素材シートとして、前記成形用金型による成形前に、ヒータを有しかつ表面に凹凸パターンが形成されていない予備圧縮用金型を用いて表面の軟化と5μm/s以下のプレス速度での予備圧縮とが行われたものを用いるという構成にした。
【0018】
この場合にも、予備圧縮の過程で素材シート中の分子配向が低下させることができるので、残留応力が低いプレス成形品を作製することができる。
【0019】
また、本発明は、前記構成のプレス成形方法において、前記熱可塑性プラスチック素材として、その構造中に芳香族をもつものを用いるという構成にした。
【0020】
構造中に芳香族をもつ熱可塑性プラスチック素材は、例えばポリカーボネートやポリスチレン等のように屈折率が高いので、これを用いることにより、高特性の導光板やマイクロレンズアレイなどの光学デバイスを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプレス成形装置は、成形用金型とヒータとをそれぞれ独立の別体に形成し、成形用金型に対するヒータの密着と成形用金型からのヒータの離隔とを可能にしたので、ヒータの加熱放冷に要する時間を省略することができてプレス成形のショットサイクルを高速化することができ、プレス成形体の生産性を高めることができる。
【0022】
本発明のプレス成形方法は、素材シートの加熱工程においては成形用金型と所定温度まで予め加熱されたヒータとを密着させ、素材シートの放熱工程においては成形用金型からヒータを離隔させるので、ヒータの加熱放冷に要する時間を省略することができてプレス成形のショットサイクルを高速化することができ、プレス成形体の生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る熱可塑性プラスチックのプレス成形装置及びこれを用いた熱可塑性プラスチックのプレス成形方法の実施形態例を図1乃至図5に基づいて説明する。図1は実施形態例に係るプレス成形装置の構成図、図2はプレス成形方法の第1例を示すフローチャート、図3はプレス成形方法の第2例を示すフローチャート、図4は第2例に係るプレス成形方法の効果を模式的に示す説明図、図5はプレス成形方法の第3例を示すフロー
チャートである。
【0024】
図1に示すように、実施形態例に係るプレス成形装置は、下面に微細な凹凸パターン1が形成された上金型2と、上金型2を保持する上ステージ3と、上ステージ3を介して上金型2を加熱する上ヒータ4と、上面が平滑な平面状に形成された下金型5と、下金型5を保持する下ステージ6と、下ステージ6を介して下金型5を加熱する下ヒータ7とを備えており、上金型2及び下金型5並びに上ステージ3及び下ステージ6をもって素材シー
ト8をプレス成形するための成形用金型が構成されている。なお、図1の例では、上金型2の下面にのみ微細な凹凸パターン1が形成されているが、下金型5の上面にのみ微細な凹凸パターン1を形成することもできるし、上金型2の下面と下金型5の上面の双方に微細な凹凸パターン1を形成することもできる。
【0025】
上金型2は、シリコンウエハにパターニングされた凹凸パターンをニッケルめっきに転写することにより作製できる。即ち、シリコンウエハ上に塗布されたレジストを所要の露光パターンで露光し、レジストの感光部分を除去した後に、シリコンウエハのレジスト形成面を異方性エッチングすることによって所要の凹凸パターンが形成されたシリコンウエハを得、次いで当該シリコンウエハの凹凸パターン形成面にニッケルの無電解めっきを施
し、シリコンウエハとニッケルめっきの界面を剥離することにより上金型2を作製できる。上金型2の下面に形成される凹凸パターン1は、作製しようとするプレス成形体の種類、例えばディスク基板、導光板、回折素子又はマイクロレンズアレイに応じて適宜のパターンに形成される。一方、下金型5は、厚さが均一なニッケル板の両面を鏡面研磨加工することにより作製できる。
【0026】
上ステージ3及び下ステージ6は、上金型2及び下金型5を保持して素材シート8に所要の押圧力を付与可能な適度の剛性を有すると共に、上ヒータ4及び下ヒータ7の熱を速やかに上金型2及び下金型5に伝達可能な適度の熱容量を有するように設計される。
【0027】
上ヒータ4及び下ヒータ7は、上ステージ3及び下ステージ6とはそれぞれ独立の別体に形成されており、所要のタイミングで上ステージ3及び下ステージ6と密着し、また所要のタイミングで上ステージ3及び下ステージ6から離隔するように構成されている。この上ヒータ4及び下ヒータ7のヒータ温度は、上ステージ3及び下ステージ6と密着したときに、素材シート8を構成する熱可塑性プラスチックのガラス転移温度以上溶融温度以
下に上金型2及び下金型5を加熱可能な温度に設定される。具体的には、成形用金型の熱伝導性によって変化するが、およそ熱可塑性プラスチックのガラス転移温度より30℃乃至150℃高い温度に設定される。
【0028】
素材シート8は、熱可塑性プラスチックをもって形成され、その平面形状、平面サイズ及び厚さは、作製しようとするプレス成形体の種類に応じて適宜形成される。なお、導光板やマイクロレンズアレイなどの光学デバイスを製造する場合には、光学デバイスの高性能化を図るため、構造中に芳香族をもつ熱可塑性プラスチック、例えばポリカーボネートやポリスチレン等のように屈折率が高い熱可塑性プラスチックよりなる素材シート8を用
いることが特に好ましい。この素材シート8は、押出成形法、射出成形法及びプレス成形法などの適宜の方法で作製することができる。
【0029】
次に、前記構成のプレス成形装置を用いたプレス成形方法の第1例を図2に基づいて説明する。
【0030】
プレス成形の開始前、上金型2と下金型5とは所定の間隔を隔てて型開きされており、また上ヒータ4及び下ヒータ7は、素材シート8を構成する熱可塑性プラスチックのガラス転移温度以上の所定の温度に加熱されている。この状態で、まず、下金型5の上面に素材シート8を位置決めして載置する(手順S1)。次に、上金型2を下降して上金型2と下金型5との間に素材シート8を挟み込み、素材シート8に所要の押圧力を負荷する(手
順S2)。次に、上ステージ3及び下ステージ6の背面に上ヒータ4及び下ヒータ7を密着し、ヒータ4,7の熱で素材シート8の表面を軟化する(手順S3)。これによって素材シート8の表面に組成流動が生じ、素材シート8の表面に上金型2の下面に形成された凹凸パターン1が転写されて、所要のプレス成形品が成形される。しかる後に、上ヒータ4及び下ヒータ7を上ステージ3及び下ステージ6から離隔してプレス成形品を材料である可塑性プラスチックのガラス転移温度以下の所定温度まで放冷し(手順S4)。次いで上金型2と下金型5とを型開きし(手順S5)、上金型2又は下金型5からプレス成形品を剥がし取る(手順S6)。
【0031】
本例のプレス成形方法は、成形用金型を構成する上ステージ3及び下ステージ6と上ヒータ4及び下ヒータ7とをそれぞれ独立の別体に形成し、上ステージ3及び下ステージ6に対する上ヒータ4及び下ヒータ7の密着と上ステージ3及び下ステージ6からの上ヒータ4及び下ヒータ7の離隔とを所要のタイミングで行うようにしたので、上ヒータ4及び下ヒータ7への通電を断続することなく、素材シート8の加熱と放冷とを行うことができ
る。よって、従来例に係るプレス成形装置のようにヒータへの通電を開始してからヒータが所定温度に加熱されるまでの時間とヒータへの通電を遮断してからヒータが所定温度に放冷されるまでの時間を省略することができ、プレス成形のショットサイクルを高速化することができる。
【0032】
上金型2としてDVD用スタンパを用いると共に素材シート8として厚さが0.6mmでガラス転移温度が130℃のポリカーボネートシートを用い、ヒータ温度を210℃、プレス圧力を10Kg/cmとして図2の手順でDVD用基板のプレス成形を行ったところ、製品であるプレス成形体にはスタンパに形成されたディスクパターンを正確に転写することができた。DVD用基板のプレス成形に要した時間は約10秒であり、従来法の
プレス成形時間(約300秒)に比べて大幅にショットサイクルを短縮することができた。
【0033】
次に、前記構成のプレス成形装置を用いたプレス成形方法の第2例を図3及び図4に基づいて説明する。
【0034】
前記第1例に係るプレス成形方法では、プレス成形の段階で素材シート8の残留応力を緩和することができないので、残留応力が低く光学的等方性に優れたプレス成形品を得るためには、残留応力が低く光学的等方性に優れた素材シート8を使用しなくてはならず、プレス成形品が高コスト化する。本例のプレス成形方法は、かかる不都合を解消するものであって、図3に示すように、上ステージ3及び下ステージ6の背面に上ヒータ4及び下
ヒータ7を密着して素材シート8の表面を軟化した後(手順S13)、上金型2と下金型5とで素材シート8を5μm/s以下のゆっくりしたプレス速度で厚さ方向に圧縮し、素材シート8の厚さを初期値の80%程度まで減少させる(手順S14)。その他については図2に示した前記第1例に係るプレス成形方法と同じであるので、説明を省略する。
【0035】
図4(a)に示すように、押出成形された素材シート8は、押出方向にプラスチックポリマー鎖が分子配向しており、大きな残留応力が残留して光学的異方体になっている。この素材シート8を軟化状態で厚さ方向に5μm/s以下というゆっくりとしたプレス速度で圧縮すると、図4(b)に示すように、プラスチックポリマー鎖の分子配向が低速プレスによる攪拌効果で断ち切られ、素材シート8中の分子配向が低下する。よって、押出成
形された高屈折率熱可塑性プラスチックからなる素材シート8を用いて複屈折が小さなプレス成形品を作製することができ、プレス成形品の低コスト化及び高性能化を図ることができる。
【0036】
押出成形された厚さ1.0mmのポリカーボネートシートを、表面が平滑に形成された上金型と下金型の間に挟み込み、ヒータ温度が170℃、プレス圧力が2Kg/cm、プレス速度が3μm/sという条件でプレスしたところ、プレスの前後で複屈折が250nmから40nmに大幅に減少した。
【0037】
次に、前記構成のプレス成形装置を用いたプレス成形方法の第3例を図5に基づいて説明する。
【0038】
前記第2例に係るプレス成形方法は、素材シート8を5μm/s以下というゆっくりしたプレス速度で厚さ方向に圧縮する工程を含むので、プレス成形品のショットサイクルを十分に高めることが困難になる。本例のプレス成形方法は、かかる不都合を解消するものであって、図5に示すように、下金型5の上面に素材シート8を位置決めして載置する工程(手順S23)に先立ち、押出成形などによって作製された高屈折率熱可塑性プラスチ
ックシートを表面が平滑に形成された上金型と下金型の間に挟み込み、加圧加温下で5μm/s以下のゆっくりしたプレス速度で厚さ方向に圧縮して素材シート8を製造する(手順S21)。次いで、製造された素材シート8の外径寸法を整えたり、その後の工程に必要な位置決め孔を開口するなどの整形処理を行う(手順S22)。その他については図2に示した前記第1例に係るプレス成形方法と同じであるので、説明を省略する。
【0039】
本例のプレス成形方法は、高屈折率熱可塑性プラスチックシートの残留応力を低減する工程及び素材シート8を整形処理する工程と素材シート8の表面に所要の凹凸パターン1を転写する工程とを別工程にしたので、凹凸パターン1の転写工程及びその後の工程を高能率に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態例に係るプレス成形装置の構成図である。
【図2】プレス成形方法の第1例を示すフローチャートである。
【図3】プレス成形方法の第2例を示すフローチャートである。
【図4】第2例に係るプレス成形方法の効果を模式的に示す説明図である。
【図5】プレス成形方法の第3例を示すフローチャートである。
【図6】従来例に係るプレス成形装置の構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1 凹凸パターン
2 上金型
3 上ステージ
4 上ヒータ
5 下金型
6 下ステージ
7 下ヒータ
8 素材シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の面に微細な凹凸パターンが形成された成形用金型と当該成形用金型を加熱するヒ
ータ収納体とを備え、前記成形用金型に挟み込まれた熱可塑性プラスチックからなるシート
に前記成形用金型による圧力と前記ヒータ収納体による熱とを加えて前記シートの表面に
前記微細な凹凸パターンを転写するプレス成形装置において、
前記成形用金型と前記ヒータ収納体とをそれぞれ独立の別体に形成し、
前記成形用金型に対し前記ヒータ収納体を用いて加圧し、
前記成形用金型からの前記ヒータ収納体の離隔とを可能にしたことを特徴とするプレス成形装置。
【請求項2】
成形用金型に挟み込まれた熱可塑性プラスチックからなるシートに、ヒータ収納体を用いて圧力と熱とを加え、前記シートの表面に前記成形用金型に形成された微細な凹凸パターンを転写する前記シートのプレス成形方法において、
前記成形用金型に予め準備された前記シートを挟み込んだ後、
前記ヒータ収納体を用いて前記成形用金型の裏面に前記熱可塑性プラスチックのガラス転移温度以上に加熱し、また前記シートの表面に前記凹凸パターンの転写を行う程度に加圧した後に、
前記ヒータ収納体を前記成形用金型から離隔して前記成形用金型と前記シートとを冷却し、
しかる後に、前記成形用金型から前記シートを剥がし取ることを特徴とするシートのプレス成形方法。
【請求項3】
前記成形用金型による成形前に、ヒータ収納体を有しかつ表面に凹凸パターンが形成されていない金型を用いて、予備加熱および予備圧縮した前記シートであることを特徴とする請求項2に記載のプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−260295(P2008−260295A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107431(P2008−107431)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【分割の表示】特願2004−204733(P2004−204733)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】