説明

熱可塑性樹脂シート及び積層体

【課題】 低温域から高温域に渡り、優れた耐貫通性能を有する合わせガラスの中間膜として用い得る熱可塑性樹脂シートを提供する。
【解決手段】 第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されており、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が、炭素数4〜6のアルデヒドによるポリビニルアルコールのアセタール化物を主体とし、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が、炭素数1〜3のアルデヒドによるポリビニルアルコールの共アセタール化物を主体とし、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)のアセタール化度が55モル%以上である、熱可塑性樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のポリビニルアセタール系樹脂層を積層した構造を有する熱可塑性樹脂シート及び熱可塑性樹脂シートを用いた積層体に関し、例えば車両等に用いられる合わせガラスの中間膜に好適に用いられる熱可塑性樹脂シート及び該熱可塑性樹脂シートを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、航空機等の交通機関や、建築物において、窓などに取り付けられるガラスとして合わせガラスが広く用いられている。合わせガラスでは、透明な第1のガラス板もしくは樹脂板と、透明な第2のガラス板もしくは樹脂板との間に中間膜として熱可塑性樹脂シートが介在されている。熱可塑性樹脂シートを間に存在させることにより、合わせガラスは割れ難くされている。
【0003】
下記の特許文献1には、特に航空機用の窓ガラスとして、PVB(ポリビニルブチラール樹脂)からなる熱可塑性樹脂シートを介して2枚のガラス板が積層されている合わせガラスが開示されている。この熱可塑性樹脂シートは、PVBからなる内部層と、PVBからなり、内部層の両面に位置する表層とを積層した3層構造を有する。そして、表層における可塑剤含有量と、内部層における可塑剤含有量との比が1.2〜3とされている。
【0004】
特許文献1に記載の合わせガラスでは、表層の可塑剤含有量を内部層の可塑剤含有量よりも高くすることにより、表層の弾性率が相対的に低くされている。この窓ガラスでは、上記熱可塑性樹脂シートを用いているため、例えば低温でも耐衝撃性が優れているとされている。特に、上記ガラス板として化学的に強化されたガラス板を用いた場合、熱的に強化されたガラス板より厚さの圧縮量が小さいため、ガラスに割れ目が生じやすいという問題があったのに対し、上記熱可塑性樹脂シートを用いることにより、化学的に強化されたガラス板を用いた場合であってもガラス板の割れを抑制することができるとされている。
【0005】
他方、下記の特許文献2には、特許文献1と同様に、車両等に用いられる合わせガラスとして、PVBからなる複数の樹脂層を積層してなる熱可塑性樹脂シートを用いた合わせガラスが開示されている。この熱可塑性樹脂シートでは、Tgが35〜60℃の範囲にあり、かつ相対的に硬いPVBからなる内層の両側に、Tgが32〜35℃の範囲にあり、可塑剤により可塑化された相対的に軟らかいPVBからなる外層が積層されている。
【0006】
そして、特許文献2では、上記内層の両面に外層を積層することにより、機械的強度に優れ、かつ安定な合わせガラスを提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3300402号公報
【特許文献2】WO03/097347 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば自動車などの車両用安全ガラスとして合わせガラスが広く用いられているが、この種の合わせガラスでは、耐貫通性能が高いことが強く求められている。例えば、我が国では、自動車用安全ガラス試験方法が、JIS R 3212において規定されている。JIS R 3212においては、耐貫通性能については、質量2260±20g、直径約82mmの鋼球を23±2℃の室内で4時間以上保管された約300×300mmの面積の合わせガラスのサンプル上に、4mの高さから該サンプルの中心部分に落下させることにより行われる。この鋼球を落下させた場合に、合わせガラスを鋼球が貫通しないことが求められる。
【0009】
上記耐貫通性能は、車上荒らしなどによる金品の盗難を防止するためにも重要である。すなわち、車上荒らしは、ハンマーなどを用いて窓ガラスを叩き割り、内部の金品を盗むが、耐貫通性能が低いと、窓ガラスは容易に破壊され得る。他方、耐貫通性能が高いと、ハンマーなどを用いて窓ガラスをかなりの回数衝撃を加えたとしても、窓ガラスが割れ難い。そのため、車上荒らしによる窓ガラス破壊作業が、第3者により聞きつけられたり、第3者に目撃されたりする可能性が高くなる。従って、車上荒らしは、窓ガラスを簡単に割ることができない場合には諦める可能性が高い。よって、車上荒らしによる盗難を確実に防止するためには、窓ガラスの耐貫通性能が高いことが強く望まれている。
【0010】
他方、例えば車で走行中に、前方や上方から物体が飛散、落下などしてきて、車外側より窓ガラスに衝撃が付与されて、窓ガラスが破壊されることがある。また、衝突事故などにより、窓ガラスが破壊されることもある。このような場合に、車両内部に乗車している乗員が、衝撃により飛散したガラス片により重大な傷害を被る可能性があった。よって、車両などの乗員の安全性の確保のため、車内側のガラスは、衝撃が加えられ破壊されたときに、ガラスが剥離、散乱しないことが求められている。
【0011】
ところで、前述した試験方法では、23±2℃の温度で評価がなされているが、実際の車両用合わせガラスは、例えば氷点下の温度域から、30℃以上の比較的高い温度の環境にさらされることになる。従って、このような広い温度範囲に渡り、耐貫通性能が優れていることが強く求められる。
【0012】
また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アイオノマーなどの種類の異なる複数枚の樹脂膜を積層して合わせガラスを作成し、耐貫通性能を確保する方法もあるが、複数枚の樹脂膜をガラス上で重ね合わせるために作業が繁雑になるばかりでなく、重ね合わせた樹脂膜の界面が平滑でない場合には、生じた光学歪みによって合わせガラスを透過した像がひずむことがあったり、さらに、樹脂の種類によってはPVB樹脂と接着しないなどの問題点があった。
【0013】
また、中間膜の膜厚を厚くすることも耐貫通性向上には有効であるが、この方法では、構成体重量が大きくなるので、燃費向上のために必要な車両の軽量化には適当ではなく、また、厚くなるため合わせガラスを取り扱いにくくなるという欠点があった。
【0014】
また、耐貫通性能を向上させる他の方法としては、合わせガラスを構成するガラスの厚みを厚くする方法などもあるが、この方法においては、構成体重量が大きくなるので、車両の軽量化には適さない。このように、従来の方法では、耐貫通性能を低下させることなく、車両の軽量化を実現することは大変困難であった。
【0015】
上記特許文献1や特許文献2に記載の合わせガラスでは、PVBからなる内層と、PVBからなる外層とを積層した熱可塑性樹脂シートにおいて、外層側の可塑剤含有量を相対的に多くすることにより、内層の強度を高めており、それによって合わせガラスの機械的強度の向上が図られていた。
【0016】
しかしながら、一般的に熱可塑性樹脂シートには温度依存性が存在し、低温では、熱可塑性樹脂の最大応力は大きくなるが、伸びが小さく、脆くなる。逆に高温では、熱可塑性樹脂の伸びは大きくなるが、最大応力が小さく、柔らかくなりすぎる。いずれの場合においても、耐衝撃性としては小さくなる。特許文献1や特許文献2に記載の合わせガラス構成では、特に低温域における熱可塑性樹脂シートの耐衝撃性が十分ではないという欠点があった。
【0017】
また、特許文献1,2では、内層と外層とを構成する樹脂はいずれも同一のPVBであり、単に可塑剤含有量を異ならせることにより、内層の機械的強度を相対的に高めているにすぎなかった。
【0018】
他方、合わせガラス作製時には、外観が良好な合わせガラスを作製するには、高温・高圧下で処理が行われるオートクレーブ工程が通常用いられている。オートクレーブ工程で、特許文献1、2で述べられているように同一のPVBで構成された多層膜熱可塑性樹脂シートを用いると、内層と外層の樹脂組成が同一の場合には、高温・高圧処理により均一化し、単に可塑剤部数の少ない単層の熱可塑性樹脂シートとなる。すなわち、内層に、外層側の可塑剤が移行し、全体として可塑剤含有量の少ない単層の熱可塑性樹脂シートになる。可塑剤含有量が少ない単層のPVBシートからなる熱可塑性樹脂シートでは、高温下における耐貫通性能は高まるものの、低温下における耐貫通性能は極端に低下せざるを得ず、低温域から高温域までの全温度域において耐貫通性能を確保することができないという欠点があった。
【0019】
また、上記オートクレーブ工程における高温・高圧処理を緩やかにすれば、可塑剤の移行は生じ難いが、その場合には、内層と外層とを十分に密着させることが困難となるおそれがあった。
【0020】
また、特許文献1,2に記載の合わせガラスでは、上記熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂として、PVBのみが用いられていた。そのため、内層と外層との物性を異ならせるには、PVBのブチラール化度を異ならせたり、原料であるポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。)に存在するアセチル基の量が多いPVAを使用し、アセチル基量が多いPVB樹脂を使用したりする必要があった。
【0021】
ブチラール化度が低いPVBは、可塑剤含有量が同じである場合には、硬くなり、耐貫通性能を高めることは可能となる。しかしながら、PVBのブチラール化度を低下させると可塑剤の含有可能量が低下し、含有可能量以上の可塑剤を含有させようとしてもブリードアウトが発生し、接着性能、外観を著しく低下させる。また、ブチラール化度を低くするだけでは、耐貫通性能向上効果が小さいため、内層の機械的強度を高めるために、内層における可塑剤含有量を減少させたり、内層の厚み比率を高めたりする必要があった。ところが、内層における可塑剤含有量を少なくしたり、内層の厚み比率を高めたりすると、内層がさらに硬くなり、低温における耐貫通性能が著しく低下することとなる。
【0022】
従って、特許文献1,2に記載の合わせガラスでは、耐貫通衝撃性は実際にはさほど高くすることはできず、低温から高温までの広い温度域の全てで耐貫通衝撃性を確保することはできなかった。
【0023】
また、PVBにおいて、低温における耐貫通性能を改善するには、可塑剤をある程度含有させる必要があった。しかしながら、可塑剤含有量が多くなると、低温域における耐貫通性能は高められるものの、逆に高温域における耐貫通性能は低下するという問題があった。
【0024】
加えて、PVB中のアセチル基量が多くなると、可塑剤含有量が同じである場合には、柔軟性が高くなる傾向がある。従って、アセチル基が多いPVBを用いると、低温域においても内層が硬くなり難く、耐貫通性能は良好であるものの、高温域において内層が柔らかくなりすぎ、高温における耐貫通性能が低下しがちであった。
【0025】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、ポリビニルアセタールを主体とする複数の樹脂層を積層してなる熱可塑性樹脂シートであって、低温域から高温域に渡り優れた耐貫通性能を有する自動車、鉄道車両、航空機用、建築物用合わせガラスの中間膜として用いることが可能である熱可塑性樹脂シート及び該熱可塑性樹脂シートを用いた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
第1の発明は、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂とを含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、前記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、前記第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜80モル%であることを特徴とする。
【0027】
なお、本明細書において、上記共アセタール化とは、ポリビニルアルコールを複数種のアルデヒド、特に炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(a)と、炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)とを用いて同時にアセタール化、あるいは逐次的にアセタール化する反応をいうものとする。そして、共アセタール化合物は、ポリビニルアルコールを上記アルデヒドにより共アセタール化することにより得られたポリビニルアセタールであって、該ポリビニルアセタールでは、アルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットと、アルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットとが存在する。ここで、上記のように、第1のアルデヒド(a)内のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)と定義している。なお、重合体ユニット(X)と、重合体(Y)とは、共重合体を構成している重合体部分をいうものではなく、重合体としてのポリビニルアセタールにおける一部分をいうものとする。すなわち、重合体ユニット(X)とは、ポリビニルアセタールにおいて、アルデヒド(a)によりアセタール化されている重合体部分をいうものとする。
【0028】
第2の発明は、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、前記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、前記第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が20〜80モル%であることを特徴としている。
【0029】
第3の発明は、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂を含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、前記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、前記第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜20モル%であることを特徴とする。
【0030】
第4の発明は、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)のアセタール化度が55モル%以上であることを特徴とする。
【0031】
第1,第2の発明における熱可塑性樹脂シートのある特定の局面では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成している共アセタール化物において、重合体ユニット(Y)と、重合体ユニット(X)とのモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)は3.5以下である。
【0032】
第1、第3の発明における熱可塑性樹脂シートのある特定の局面では、第3のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成している共アセタール化物において、重合体ユニット(Y)と、重合体ユニット(X)とのモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)は200以下である。
【0033】
第1〜第4の発明(以下、本発明と総称する。)に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、測定周波数10Hzにおいて測定されたポリビニルアセタール樹脂層(A)のみからなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(A)は20〜50℃の範囲にあり、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(B)は35〜70℃の範囲にあり、かつt(B)−t(A)は5℃以上、40℃以下の範囲にある。
【0034】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.3以上である温度範囲と、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.3以上である温度範囲とが重複している温度域が存在する。
【0035】
第1,第2の発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、より好ましくは、測定周波数10Hzにおいて測定されたポリビニルアセタール樹脂層(A)のみからなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(A)は20〜50℃の範囲にあり、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(B)は40〜65℃の範囲にあり、かつt(B)−t(A)は5℃以上、25℃以下の範囲にあることが好ましい。
【0036】
第1,第2の発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、より好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.5以上である温度範囲と、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.5以上である温度範囲において重複している温度範囲が存在することが好ましい。
【0037】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートの他の特定の局面では、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の23℃及び10Hzにおける剪断貯蔵弾性率をG’(A)、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の23℃及び10Hzにおける剪断貯蔵弾性率をG’(B)としたときに、G’(B)/G’(A)は1.0〜10の範囲にある。
【0038】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、JIS K 7128に準じて測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の引き裂き強度(B)と、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の引き裂き強度(A)との比である、引き裂き強度(B)/引き裂き強度(A)は1.1以上である。
【0039】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の引っ張り弾性率を引っ張り弾性率(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の引っ張り弾性率を引っ張り弾性率(A)としたときに、引っ張り弾性率(B)/引っ張り弾性率(A)は1.1以上である。
【0040】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の破断エネルギーを破断エネルギー(B)とし、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の破断エネルギーを破断エネルギー(A)としたときに、破断エネルギー(B)/破断エネルギー(A)は1.1以上である。
【0041】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の最大点応力を最大点応力(B)とし、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の最大点応力を最大点応力(A)としたときに、最大点応力(B)/最大点応力(A)は1.0以上である。
【0042】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(A)としたときに、PVA重合度(B)/PVA重合度(A)が0.5〜3.0の範囲にある。
【0043】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、PVA重合度(B)/PVA重合度(A)は1.0〜3.0の範囲にある。
【0044】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中におけるエステル基の含有割合が40モル%以下である。
【0045】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中におけるエステル基の含有割合は20モル%以下である。
【0046】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(A)とし、第2のポリビニルアセタール樹脂中の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(B)としたときに、可塑剤含有率(A)/可塑剤含有率(B)は1.0〜3.0の範囲にある。
【0047】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に機能性微粒子が含有されている。
【0048】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に架橋ポリビニルアセタール樹脂が含有されている、または、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)、及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂(B)が分子間架橋されたポリビニルアセタール樹脂である。
【0049】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の厚みを厚み(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の厚みを厚み(A)としたときに、厚み(B)/厚み(A)は0.5〜10の範囲である。
【0050】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートのさらに他の特定の局面では、少なくとも1層のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に異なる厚みのポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている。
【0051】
本発明に係る積層体は、本発明に従って構成された熱可塑性樹脂シートを少なくとも1つの層として備えている。
【0052】
本発明に係る積層体のある特定の局面では、前記熱可塑性樹脂シートは、ガラス板と透明樹脂板との間に狭着されている。
【0053】
本発明に係る積層体の他の特定の局面では、前記透明樹脂板は、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリル共重合体樹脂及びポリエステルからなる群から選択された1種により構成されている。
【0054】
本発明に係る積層体のさらに他の特定の局面では、前記透明樹脂板は透明エラストマーで被覆されている。
【0055】
本発明に係る積層体のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂シートは、一対のガラス板に狭着されている。
【0056】
本発明に係る積層体のさらに他の特定の局面では、前記ガラス板のうち、少なくとも1枚のガラスは、有色透明ガラスである。
【0057】
本発明に係る積層体のさらに他の特定の局面では、面密度は、12kg/m以下である。
【発明の効果】
【0058】
第1の発明に係る熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いた場合、広い温度範囲に渡り、耐貫通性能を高めることができる。これは、熱可塑性樹脂シートの内層が第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)で構成されており、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜80モル%の範囲とされていることによる。
【0059】
第2の発明に係る熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いた場合、広い温度範囲、特に低温域〜常温域に於ける耐貫通性能を高めることができる。これは、熱可塑性樹脂シートの内層が第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)で構成されており、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が20〜80モル%の範囲とされていることによる。
【0060】
第3の発明に係る熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いた場合、広い温度範囲、特に常温域〜高温域に於ける耐貫通性能を高めることができる。これは、熱可塑性樹脂シートの内層が第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)で構成されており、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜20モル%の範囲とされていることによる。
【0061】
第4の発明に係る熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いた場合、広い温度範囲、特に常温域〜高温域に於ける耐貫通性能を高めることができる。これは、熱可塑性樹脂シートの内層が第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)で構成されており、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットがアセタール化物全体の55モル%以上を占めていることによる。
【0062】
すなわち、上記のように、重合体ユニット(X)、(Y)の比率を調整することで、耐貫通性能を最大とする温度域を調整することができる。重合体ユニット(Y)と重合体ユニット(X)とのモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)の比率を大きくすることにより、より高温域で耐貫通性能を発現させることができるようになる。
【0063】
重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)の比率を大きくすると、含有させることのできる可塑剤量が低下し、さらに重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)の比率が小さいポリビニルアセタール樹脂と同量の可塑剤を含有させた場合において比較してみても、得られるポリビニルアセタール樹脂シート自体はより剛直となる。
【0064】
このように、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の比率を調整することで、得られるポリビニルアセタール樹脂シートの性能を調整することができる。
【0065】
また、積層体作成時においては、積層体を構成する種々の形状のガラス板や透明樹脂板の形状に追随できるようにするために、使用される熱可塑性樹脂シートがある程度の柔軟性を有していることが好ましい。そのため、上記ポリビニルアセタール樹脂シートの重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)の比率としては200以下が好ましく、さらに好ましくは3.5以下が好ましい。
【0066】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂シート及び積層体においては、内層に用いられる第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の強度が強いので、厚みの薄いガラスを用いて合わせガラスを作成しても、JIS R 3212における落球試験でのMBH4m以上を非常に広い温度域で達成できる。このことは、合わせガラスの面密度を小さくし、積層体重量を軽くしても、耐衝撃性能が十分な性能を有していることを意味している。すなわち、車両の軽量化と、耐衝撃性の確保の両立が達成出来ることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂シートの作用を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0069】
(第1のポリビニルアセタール樹脂層(A))
本発明の熱可塑性樹脂シートにおいて、上記第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)は、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂とを含む層である。
【0070】
上記炭素数4〜6のアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒドなどを挙げることができ、特にn−ブチルアルデヒドが好ましい。
【0071】
第1のポリビニルアセタール樹脂は、これらのアルデヒドから選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によりポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られる。
【0072】
上記ポリビニルアルコールについては好ましくは平均重合度が500〜4500の範囲のポリビニルアルコールが用いられ、より好ましくは1000〜2500のPVAが用いられる。PVAの平均重合度が500未満では、合わせガラスを構成した場合に耐貫通性能が低下することがあり、3000を超えると押出し成形が悪くなり、中間膜の強度が大きくなりすぎ、安全ガラスとして使用できなくなることがある。
【0073】
上記第1のポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール化度は、40〜70モル%が好ましい。アセタール化度が40モル%未満では、可塑剤との相溶性が悪くなり、可塑剤がブリードアウトする。従って、本発明の熱可塑性樹脂シートからなる中間膜と、ガラスとの接着力が低下するなどの悪影響が生じるおそれがある。アセタール化度が70モル%を超えると、中間膜が柔らかくなりすぎ、十分な耐貫通性能を発現しなくなることがある。
【0074】
上記可塑剤としては、従来より使用されているものすべてを用いることができ、例えば、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−カプリエート等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。また、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の少なくとも両面に積層される少なくとも2枚の第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の可塑剤としては、互いに種類の異なる可塑剤を用いても、同一の種類の可塑剤を用いてもよい。第1のポリビニルアセタール樹脂(A)における可塑剤含有量は、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対し、通常、10〜50重量部の範囲とすればよい。好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対し30〜45重量部、さらに好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対し35〜45重量部である。10重量部未満では、可塑剤の量が少なすぎるために中間膜の成形が困難であったり、柔軟性が低くなるので中間膜が硬く、取り扱い性が非常に悪くなったり、低温に於ける耐貫通性能が著しく低下する場合がある。50重量部を超えると、中間膜を構成した場合の耐貫通性能が低下する場合や、可塑剤のブリードアウトが発生して外観を著しく損なう場合がある。
【0075】
(第2のポリビニルアセタール樹脂層(B))
第1〜第3の発明においては、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)は、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタールで得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む。
【0076】
第4の発明においては、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)は、炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られたアセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む。
【0077】
アルデヒド(a)については、前述した第1のポリビニルアセタール樹脂を得るのに用いたアルデヒド(a)と同様のアルデヒドを用いることができる。
【0078】
また、アルデヒド(b)としては、炭素数1〜3のアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドを用いることができる。アルデヒド(b)についても2種以上が併用されてもよい。
【0079】
上記、ポリビニルアルコールをアルデヒド(a)、および(b)で共アセタール化して得られる第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計は、少なくなると可塑剤との相溶性が悪くなり、ブリードアウトなどの問題が発生するので共アセタール化物全体の55モル%以上とされる。
【0080】
また、ポリビニルアルコールをアルデヒド(b)のみでアセタール化して得られる第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)においても、アセタール化度が低くなると可塑剤とポリビニルアセタール樹脂層(B)との相溶性が悪くなり、ブリードアウトなどの問題が発生するのでアセタール化度はアセタール化物全体の55モル%以上とされる。
【0081】
また、最終的に得られる構成体の耐貫通性能が、求められる温度域において最大の性能を発揮するように重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の割合は調整される。常温域〜高温域において十分な耐貫通性能が必要な場合には、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中の重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)のモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)を大きくしたり、重合体ユニット(Y)のみで第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成するのが好ましい。より好ましくは、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)より第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が構成される場合には、ポリビニルアセタール樹脂層(B)中の重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)の比率としては200以下である。
【0082】
さらに、低温域〜常温域において十分な耐貫通性能が必要な場合には、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中の重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)のモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)を小さくするのが好ましい。より好ましくは、3.5以下である。
【0083】
また、第2のポリビニルアセタール樹脂を得るためのポリビニルアルコールについても、第1のポリビニルアセタール樹脂を得るのに用いたポリビニルアルコールと同様の平均重合度のものを用いることができる。もっとも、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)は、熱可塑性樹脂シートを中間膜として用いた場合、内層を構成するため、平均重合度は1700〜2500の範囲のポリビニルアルコールを原料として用いることが望ましい。平均重合度が1700未満では、十分な耐貫通性能を発現しなくなることがあり、3000を超えると樹脂の粘度が上昇するので押し出し成形性が悪くなることがある。
【0084】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に含有される可塑剤としては、前述した第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)に含有される可塑剤として示したものを用いることができるが、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に同一の可塑剤を用いても良いし、種類の異なる可塑剤を用いても良い。
【0085】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)における可塑剤の含有量は、第2のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対し、通常、10〜40重量部の範囲とすればよい。好ましくは、第2のポリビニルアセタール樹脂(B)100重量部に対し20〜35重量部、さらに好ましくは、第2のポリビニルアセタール樹脂(B)100重量部に対し25〜35重量部である。10重量部未満では、可塑剤の量が少なすぎるために中間膜の成形が困難であったり、柔軟性が低くなるので中間膜が硬く、取り扱い性が非常に悪くなったり、低温に於ける耐貫通性能が著しく低下する場合がある。40重量部を超えると、中間膜を構成した場合の耐貫通性能が低下する場合や、可塑剤のブリードアウトが発生して外観を著しく損なう場合がある。
【0086】
(積層構成)
本発明に係る熱可塑性樹脂シートにおける積層構成は、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている限り特に限定されない。例えば、合わせガラス用中間膜として本発明の熱可塑性樹脂シートを用いる場合、好ましい積層構成としては、a)層(A)/層(B)/層(A)の3層積層膜、b)層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)の5層積層膜等が例示される。3層以上の積層膜の場合では、表層の少なくともいずれか一方が層(A)であれば、積層構成が非対称であってもよい。
【0087】
上記層(A)/層(B)/層(A)の3層積層膜が好ましい理由は、層(A)と層(B)の動的粘弾性の相対的関係の他に、得られる中間膜の合わせ加工法において、通常のPVB系中間膜と同様に良好な作業性が得られる点にある。
【0088】
本発明に係る積層体では、上述した熱可塑性樹脂シートが中間膜として第1,第2の透明板間に配置される。第1,第2の透明板は、ガラス板または透明樹脂からなる。
【0089】
(本発明の熱可塑性樹脂シートにより耐貫通性能が高められる理由)
図1は、本発明の熱可塑性樹脂シートの作用を説明するための模式図であり、横軸は、温度、縦軸は熱可塑性樹脂シートを用いて合わせガラスを構成した際の耐貫通性能を示す。
【0090】
図1において、実線Aは、ブチルアルデヒドのみを用いてポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られたPVB単層の熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いた場合の結果の一例を示す。また、破線Bは、上記単層のPVBシートのみからなる構造の内層部分のみを、特許文献1や特許文献2に記載のように、可塑剤含有量が少ない相対的に硬いPVB層に置き換えた場合の耐貫通性能の一例を示す。実線Aと破線Bを比較すれば明らかなように、内層を可塑剤含有量が少ないPVB層により構成した場合、耐貫通性能の最大値は高まるものの、耐貫通性能の温度依存性は高温側にシフトするので、高温における耐貫通性能は向上するが、低温における耐貫通性能は極端に低下する。
【0091】
これに対して、本発明の熱可塑性樹脂シートを用いた場合、実線Cで示すように、耐貫通性能の最大値が高くなるだけでなく、広い温度範囲に渡り優れた耐貫通性能が発現される。この理由は、内層が上記重合体ユニット(X),(Y)を特定の割合で含む共アセタール化物からなるポリビニルアセタール樹脂や重合体ユニット(Y)のみのアセタール化物を用いて構成されていることによる。つまり、アルデヒド(a)は分子構造が大きく、アセタール化された時の立体障害が大きいので、生成されたアセタール樹脂は柔軟になる。本発明においては、アルデヒド(a)よりも立体障害の小さいアルデヒド(b)を用いることで、分子間の距離を短くし、分子間力をより強固にし、アルデヒド(a)のみを用いて製造されたアセタール樹脂よりも樹脂の剛性が向上されていると考えられる。さらに、本発明のポリビニルアセタール樹脂(B)は前記の様な特徴を持っているので、ポリビニルアセタール樹脂(B)中において重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)のモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)が小さい場合には、ポリビニルブチラール樹脂層(B)は、より多くの可塑剤を含有しているにもかかわらず、ポリビニルアセタール樹脂層(A)よりも剛直にすることが可能である。さらに、剛直性を確保しつつ、可塑剤を多く含有することができるので、従来のPVB樹脂ではなしえなかった全温度域における耐衝撃性の確保が可能となり、特に低温域から常温域にかけて優れた耐衝撃性能を発現させることが可能となった。
【0092】
また、ポリビニルアセタール樹脂(B)中において重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)のモル比である重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)が大きい場合、又は、重合体ユニット(X)が含有されていない場合には、さらにポリビニルアセタール樹脂(B)は剛直になり、耐貫通性能を向上させることが可能である。この場合においても、ポリビニルアセタール樹脂層(A)とポリビニルアセタール樹脂層(B)が積層されることで構成される熱可塑性樹脂シートの耐貫通性能は従来のPVB樹脂ではなしえなかった全温度域における耐衝撃性の確保が可能であるが、比較的、常温域から高温域の耐衝撃性能が優れることとなる。
【0093】
すなわち、本願発明者は、上記第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を外層とし、中央の内層として、重合体ユニット(X)、重合体ユニット(Y)から構成される共アセタール化物からなる上記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)、又は重合体ユニット(Y)のみから構成される上記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を用い、さらに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)との割合を上記特定の割合とすることにより、広い温度範囲に渡り優れた耐貫通性能が高められることを実験的に見い出したものである。
【0094】
また、本発明者は、自動車の軽量化を図るため、従来の熱可塑性樹脂シートを中間膜として用いて、合わせガラスの面密度を12kg/m以下となるように合わせガラスに用いられるガラス板の厚さを薄くしたところ、合わせガラスの耐衝撃性能が低下し、JIS R 3212における落球試験におけるMBH4m以上を達成出来る温度範囲が狭くなることを実験的に確認した。
【0095】
他方、上述した本発明に係る熱可塑性樹脂シートを用いて面密度12kg/m以下の合わせガラスを作成した場合には、合わせガラスの面密度を低下させているにもかかわらず、耐衝撃性能が0℃〜40℃の範囲で全て4m以上となり、JIS R 3212における落球試験におけるMBH4m以上を非常に広い温度域で達成している。本発明に係る熱可塑性樹脂シートは、十分な剛性を有しているためである。このことは、合わせガラスの面密度を小さくし、積層体重量を軽くしても、熱可塑性樹脂シートが十分な耐衝撃性能を有していることを意味している。すなわち、車両の軽量化と、耐衝撃性の確保の両立が達成可能であることを示している。
【0096】
(好ましい態様)
本発明における熱可塑性樹脂シートにおいては、従来のPVB樹脂ではなしえなかった全温度域における耐衝撃性の確保が可能であるが、常温域〜高温域に於ける耐貫通性能を重視する場合には、上記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が共アセタール化物より構成されている場合には、重合体ユニット(Y)と、重合体ユニット(X)のモル比である重合体ユニット比、重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)を200以下とするか、上記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を重合体ユニット(Y)のみより構成するのが好ましい。
【0097】
また、本発明において、低温域〜常温域に於ける耐貫通性能を重視する場合には、上記第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が共アセタール化物より構成されている場合には、重合体ユニット(Y)と、重合体ユニット(X)のモル比である重合体ユニット比、重合体ユニット(Y)/重合体ユニット(X)を3.5以下とするのが好ましい。3.5以下とすることにより、より一層広い温度範囲に渡り優れた耐貫通性能を発現させることができる。好ましくは、1.0〜2.0である。
【0098】
さらに、測定周波数10Hzにおいて測定されたポリビニルアセタール樹脂層(A)のみからなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(A)が20〜50℃の範囲にあり、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(B)が35〜70℃の範囲にあり、かつt(B)−t(A)が5℃以上、40℃以下の範囲とされている場合にも、同様に広い温度に渡りより一層優れた耐貫通性能を得ることができる。より好ましくは、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートの損失正接tanδの最大値を示す温度t(B)が40〜65℃の範囲にあり、かつt(B)−t(A)が5℃以上、25℃以下の範囲である。
【0099】
すなわち、特許文献2に記載のように、表層の樹脂層のTgが32〜35℃、内層の樹脂層のTgが35〜60℃とされている場合には、両者のTgの差が小さい場合は、従って熱可塑性樹脂シート全体のDSCチャートにおける特性曲線は一山の形状となる。従って、落球試験において耐貫通性能を測定した場合、広い温度範囲に渡り優れた耐貫通性能を得ることはできない場合がある。また、Tgの差が大きすぎる場合は、熱可塑性樹脂シート全体のDSCチャートの特性曲線は2山の形状となるが、合わせガラスの実用温度域からはずれて、実用に値しない場合がある。
【0100】
これに対して、上記のように、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の損失正接の最大点温度と、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の損失正接の最大点温度との差を上記特定の範囲とすることにより、0〜40℃の実使用時の温度範囲の全てにおいて、優れた耐貫通性能を得ることができる。
【0101】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートでは、好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.3以上である温度範囲と、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.3以上である温度範囲とが重複している温度域が存在するように構成される。すなわち、損失正接が0.3以上である温度範囲が2種類のポリビニルアセタール樹脂層において重複するように配置されていることにより、実使用温度範囲である、例えば0〜40℃の温度範囲でエネルギーの消散に寄与する損失正接が0.3以上の範囲が重複することとなる。従って、耐貫通性能の温度依存性を緩和し、広い温度範囲に渡り優れた耐貫通性能を得ることが可能となる。損失正接はエネルギーの消散に寄与するので、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.5以上である温度範囲と、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートにおいて損失正接tanδが0.5以上である温度範囲とが重複している温度域が存在するように構成されるのがより好ましい。
【0102】
また、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の23℃及び10Hzにおける剪断貯蔵弾性率をG’(A)、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の23℃及び10Hzにおける剪断貯蔵弾性率をG’(B)としたときに、G’(B)/G’(A)が1.0〜10の範囲であることが好ましく、その場合においても、広い温度範囲に渡りより一層優れた耐貫通性能を得ることができる。
【0103】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートでは、好ましくは、JIS K 7128に準じて測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の引き裂き強度(B)と、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の引き裂き強度(A)との比である、引き裂き強度(B)/引き裂き強度(A)が1.1以上とされる。よって、内層を構成する第2のポリビニルアセタール樹脂層の引き裂き強度(B)が上記のように大きくされているので、それによって耐貫通性能自体が効果的に高められる。
【0104】
また、好ましくは、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の引っ張り弾性率を引っ張り弾性率(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の引っ張り弾性率を引っ張り弾性率(A)としたときに、引っ張り弾性率(B)/引っ張り弾性率(A)が1.1以上とされる。第2のポリビニルアセタール樹脂層の23℃における引っ張り弾性率が上記特定の割合で高められていると、常温における耐貫通性能をより一層高めることができる。引っ張り弾性率(B)/引っ張り弾性率(A)は、好ましくは10以上である。
【0105】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートでは、好ましくは、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の破断エネルギーを破断エネルギー(B)とし、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の破断エネルギーを破断エネルギー(A)としたときに、破断エネルギー(B)/破断エネルギー(A)が1.1以上とされる。
【0106】
また、好ましくは、23℃及び引っ張り歪み速度1250%/分で測定された第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の最大点応力を最大点応力(B)とし、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の最大点応力を最大点応力(A)としたときに、最大点応力(B)/最大点応力(A)が1.0以上とされる。
【0107】
上記のように、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)における破断エネルギーを、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の破断エネルギーの1.1倍以上、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)における最大点応力を、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)における最大点応力の1.0倍以上とすることにより、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)による耐貫通性能改善効果をより一層高めることができる。
【0108】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂シートでは、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(A)としたときに、PVA重合度(B)/PVA重合度(A)は、好ましくは0.5〜3.0の範囲内、より好ましくは1.0〜3.0の範囲内とされる。内層として用いられる第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に用いられるポリビニルアルコールの平均重合度を高くすることにより、常温における引っ張り特性が向上し、それによって耐貫通性能が効果的に高められる。従って、上記PVA重合度(B)/PVA重合度(A)は0.5以上であることが望ましい。もっとも、3.0を超えると、ポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度が大きすぎて、押し出し成形性が悪くなるおそれがある。
【0109】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成する共アセタール化物中のエステル基の含有割合は、好ましくは40モル%以下、より好ましくは20モル%以下とされる。20モル%以下とすることにより、親油性が高められ、それによって可塑剤をより多く含有させることができ、従って、耐貫通性能をより一層改善することができる。エステル基の含有割合が、40モル%を越えると、中間膜が柔らかくなりすぎて、耐貫通性能を確保できなくなる。エステル基の含有割合は、好ましくは15モル%以下である。
【0110】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートでは、好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)中の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(A)とし、第2のポリビニルアセタール樹脂(B)中の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(B)としたときに、可塑剤含有率(A)/可塑剤含有率(B)が1.0〜3の範囲内とされる。可塑剤含有率(A)/可塑剤含有率(B)を1.0〜3の範囲とすることにより、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を相対的に硬くし、耐貫通性能をより一層高めることができる。好ましくは1.0〜2.0である。この可塑剤含有比率が1.0未満では、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が相対的に柔らかくなり、耐貫通性能を高めることができないことがあり、3を超えると第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が柔らかくなりすぎ成形が困難となったり、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が硬くなりすぎ、柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0111】
好ましくは、本発明においては、ポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または(B)に機能性微粒子が含有される。このような機能性微粒子としては特に限定されないが、ITO、LaBなどの中赤外線吸収作用や近赤外線吸収作用を有する微粒子が好適に用いられる。このような微粒子の含有により、遮熱機能を熱可塑性樹脂シートに持たせることができる。また、冬場などのように周囲温度が低い場合においても、近赤外線、中赤外線領域の波長を吸収することができるので、熱可塑性樹脂シートが用いられている合わせガラスの温度を0℃以上に維持することが容易となる。従って、低温における耐貫通性能の低下をそれによっても抑制することができる。
【0112】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートでは、好ましくは、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に架橋ポリビニルブチラール樹脂が含有される。また、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)、及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂(B)が分子間架橋されたポリビニルアセタール樹脂であり、それらが積層されたものでも良い。架橋ポリビニルブチラール樹脂の含有、架橋されたポリビニルアセタール樹脂の積層により、耐貫通性能をより一層高めることができる。ポリビニルアセタール樹脂を架橋する場合、ポリビニルアセタール樹脂を架橋する方法としては、例えば、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドなどのアルデヒドによりアセタール化する際に、グルタルアルデヒドのようなジアルデヒドを用いて、分子間をジアセタール結合により軽度に架橋させる方法;ポリビニルアルコールのアセタール化反応において目的のアセタール化度の少なくとも90%に達した後、これに酸触媒を追加して、60〜95℃で反応させることにより、ポリビニルアセタール分子間をモノブチラール結合によって架橋する方法;得られたポリビニルアセタール樹脂に残存する水酸基と反応する架橋剤を添加し、水酸基を架橋する方法などが挙げられる。水酸基と反応する架橋剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホウ酸化合物などが挙げられる。
【0113】
(ポリビニルアセタール樹脂層(A)または(B)に含有させ得る他の成分)
中間膜のガラスとの接着力を調節する目的で、上記ポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または(B)には、カルボン酸金属塩、変性シリコーンオイル等の他の成分を添加することができる。
【0114】
本発明に係る積層体のさらに他の特定の局面では、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされている。
【0115】
上記接着力を調整する方法としては、ポリビニルアセタール樹脂(A)中の水酸基量を減少させる方法、カルボン酸金属塩、変性シリコーンオイルなどの添加剤種類を変更する方法、カルボン酸金属塩、変性シリコーンオイルなどの添加剤の添加量を変更する方法、ガラスの表面をシランカップリング剤などで処理することにより接着力を改善する方法などが挙げられる。このうち、カルボン酸金属塩、変性シリコーンオイルなどの添加剤の添加量を変更する方法が最も、容易に実施出来る方法である。
【0116】
上記カルボン酸金属塩としては、炭素数12以下の脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が好ましく、金属成分としてはMg、Na、K等、カルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸等がそれぞれ挙げられる。上記好ましいカルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム等が挙げられ、中でも酢酸カリウム、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0117】
上記変性シリコーンオイルとしては、例えば、エーテル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エステル変性シリコーンオイル、アミン変性シリコーンオイル、アルカリ変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、一般にポリシロキサンに変性すべき化合物を反応せしめて得られる粘稠な液体である。
【0118】
また、熱可塑性樹脂シートを構成する成分として、必要に応じて、従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、染料等が添加されてもよい。
【0119】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートの厚みは特に限定されないが、該熱可塑性樹脂シートを合わせガラスの中間膜として用いる場合、熱可塑性樹脂シートの厚みは0.3〜1.6mmが好ましい。厚さは厚い方がより耐貫通性能が優れるが、合わせガラスとして最低限必要な耐貫通性能を考慮すると、上記範囲が好ましい。
【0120】
上記層(A)は単層であって複数層であってもよく、その厚さは薄くなると耐貫通性能が著しく低下することがあるので、0.1mm以上が好ましい。また、層(B)の厚さは、中間膜全体の厚さの10%以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂シート全体の厚さの10%未満になると、十分な耐貫通性能が得られにくくなる。
【0121】
(好ましい実施の形態)
第1の発明により提供される積層体のある好ましい実施の形態は、熱可塑性樹脂シートが中間膜として第1,第2の透明板間に配置されている積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜80モル%であり、同一の透明板と接着された場合において、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされていることを特徴とする。
【0122】
第2の発明に係る積層体の他の好ましい実施の形態は、熱可塑性樹脂シートが中間膜として第1,第2の透明板間に配置されている積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が20〜80モル%であり、同一の透明板と接着された場合において、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされていることを特徴とする。
【0123】
第3の発明に係る積層体のさらに他の好ましい実施の形態は、熱可塑性樹脂シートが中間膜として第1,第2の透明板間に配置されている積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)及び炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールの共アセタール化で得られた共アセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、第1のアルデヒド(a)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット(X)、第2のアルデヒド(b)由来のアセタール化ユニットを重合体ユニット (Y)としたときに、重合体ユニット(X)と重合体ユニット(Y)の合計が、該共アセタール化物全体の55モル%以上を占め、かつ第1の重合体ユニット(X)の割合が0.5〜20モル%であり、同一の透明板と接着された場合において、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされていることを特徴とする。
【0124】
第4の発明に係る積層体の他の好ましい実施の形態は、熱可塑性樹脂シートが中間膜として第1,第2の透明板間に配置されている積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られたアセタール化物である第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)において、アセタール化度が55モル%以上であり、同一の透明板と接着された場合において、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされていることを特徴とする。
【0125】
上記積層体では、第1の透明板および第2の透明板の少なくとも一方がガラス板から構成され得る。
【0126】
上記積層体の他の特定の局面では、第1の透明板および第2の透明板の少なくとも一方が透明樹脂板からなる。
【0127】
上記積層体のさらに他の特定の局面では、透明樹脂板は、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリル共重合体樹脂及びポリエステルからなる群から選択された1種により構成されている。
【0128】
上記積層体のさらに他の特定の局面では、透明樹脂板は透明エラストマーで被覆されている。
【0129】
上記積層体のさらに他の特定の局面では、第1,第2の透明板はガラス板からなる。
【0130】
上記積層体のさらに他の特定の局面では、ガラス板のうち、少なくとも1枚のガラスは、有色透明ガラスである。
【0131】
上記積層体のさらに他の特定の局面では、面密度は、12kg/m以下である。
【0132】
上記積層体は、建築物または車両の開口部を閉成するのに用いられたときに、好ましくは、接着力Pと接着力Qとの接着力が高い側の面が、建築物内側方面または車両内側方面に位置するように配置される。
【0133】
上述した好ましい実施の形態の項で述べた各積層体では、上記第1〜4の発明における熱可塑性樹脂シートで第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)が構成されているため、広い温度範囲に渡り耐貫通性能が高められている。さらに、同一の透明板と接着された場合において、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qとが異ならされているため、接着力が低い側の透明板と熱可塑性樹脂シートとの間で衝撃エネルギーを十分に吸収することができ、接着力が低い側からの衝撃に対する透明板積層体の耐貫通性に優れている。加えて、透明板積層体が破壊された際に、接着力が高い側の第1の透明板または第2の透明板の破断片が、熱可塑性樹脂シートから剥離し難い。
【0134】
例えば熱可塑性樹脂シートがガラスなどで挟着されている透明板積層体において、ガラスが破壊された際のガラス片の飛散を少なくするには、ガラスと熱可塑性樹脂シートとの接着力を高めればよい。しかしながら、単に中間膜として用いられている熱可塑性樹脂シートとガラスとの接着力を高めただけでは、合わせガラスとして必要な耐貫通性能が不足し、必要な性能を満足出来ない。よって、第2の発明の積層体では、重合体ユニット(X),(Y)を上記特定の割合で含むように第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成し、十分な耐貫通性能を確保するとともに、上述したように接着力Pと接着力Qとを異ならせて、接着力が低い側では衝撃エネルギーに対して十分な吸収性を維持し、接着力が高い側では、破損時のガラス片の飛散を少なくしている。
【0135】
透明板積層体が建築物または車両の開口部を閉成するのに用いられるときに、接着力Pと接着力Qとの接着力が高い側の面が、建築物内側方面または車両内側方面に位置するように配置されると、建築物内の人間もしくは車両内の乗員の安全性を確保し得る。さらに、建築物外側方面または車両外側方面において、透明板積層体がより多くの衝撃エネルギーを吸収し得るので、建築物外側ないしは車両外側からの衝撃に対する透明板積層体の耐貫通性を高めることができる。また、接着力Pと接着力Qとの接着力が高い側の面が、建築物内側方面または車両内側方面に位置するように配置されると、建築物内側ないしは車両内側において、破損時の第1,第2の透明板の破断片の飛散を効果的に防ぐことができる。よって、建築物内の人間もしくは車両内の乗員が飛散したガラス片等により重大な傷害を被り難い。
【0136】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートの製造方法としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂層(A)とポリビニルアセタール樹脂層(B)を形成する膜をそれぞれ別々に成膜する方法;ポリビニルアセタール樹脂層(A)とポリビニルアセタール樹脂層(B)を多層成形機を用いて一体成形する方法等、従来公知の種々の方法が採用される。また、合わせガラス作製時にポリビニルアセタール樹脂層(A),(B)を積層させる方法では、複数枚を合わせたガラスを積層することによる作業性の低下や、ポリビニルアセタール樹脂層(A),(B)同士の界面の平滑性の悪さに起因する光学歪みによって、合わせガラスを透かして見た像が歪む等の問題点があるので、多層成形機を用いて一体成形させる方法が好ましい。
【0137】
また、本発明の熱可塑性樹脂シートを使用して合わせガラスを製造するには、通常の合わせガラスの製造に用いられる方法が採用され、例えば、両側からガラス板で中間膜を挟み込み、熱圧プレスにより合わせガラスを製造する方法が挙げられる。
【0138】
また、本発明の積層体が合わせガラスである場合は、合わせガラスを構成しているガラス板のうち、少なくとも1枚のガラス板が、有色透明ガラスであることが好ましい。有色透明ガラスとしてはグリーン色ソーダライムシリカガラスなどが一般的に用いられる。有色透明ガラスとすることで、可視光線中の特定の波長光を吸収することができるため、車両内部の乗員が、太陽光により皮膚が刺激されて不快感を覚えるのを低減することができる。
【0139】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂シートが中間膜として用いられる用途は、必ずしも合わせガラスに限定されるものではない。すなわち、本発明によれば、上記熱可塑性樹脂シートを少なくとも1つの層として備える積層体が適宜の用途に応じて提供され得る。この場合においても、熱可塑性樹脂シートが十分な耐貫通性能を積層体に与える。
【0140】
本発明に係る積層体としては、上記熱可塑性樹脂シートが、ガラス板と透明樹脂板との間に狭着されている構造、一対の透明樹脂板に熱可塑性樹脂シートが狭着されている構造、一対のガラス板に熱可塑性樹脂シートが狭着されている構造などを例示することができる。
【0141】
本発明に係る積層体の面密度は、特に限定されないが、合わせガラス重量の軽減による車両重量の軽減、燃費向上といった点を考慮すると、小さいほうがよい。好ましくは12kg/m以下である。
【0142】
上記透明樹脂板としては、特に限定されないが、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリル共重合体樹脂、及びポリエステルからなる群から選択された1種を好適に用いることができる。また、透明樹脂板は、透明エラストマーで被覆されていてもよい。
【0143】
本発明では、積層体が建築物または車両の開口部を閉成するのに用いられるときに、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第1の透明板との接着力Pと、ポリビニルアセタール樹脂層(A)と第2の透明板との接着力Qが高い側の面が、好ましくは建築物内側方面または車両内側方面に位置するように配置される。このように設置することで、建築物外側ないしは車両外側からの衝撃に対する透明板積層体の耐貫通性を高めることができる。また、建築物外側方面または車両外側方面において、より多くの衝撃エネルギーを吸収することができ、建築物内の人間もしくは車両内の乗員の安全性を確保し得る。さらに、積層体が破壊された際に、熱可塑性樹脂シートから剥離した第1,第2の透明板の破断片が、建築物内側ないしは車両内側に飛散するのを防ぐこともできる。
【0144】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0145】
(実施例1)
重合度1700のポリビニルアルコールをブチルアルデヒドでアセタール化してなるPVB(平均重合度1700、ブチラール化度68.5モル%、残存アセチル基0.7モル%)100重量部に、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)40重量部、接着力調整剤として酢酸マグネシウム/2−エチル酪酸マグネシウム混合物を樹脂組成物全量に対してマグネシウム量が50ppmになるように添加・混合し、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を形成するための第1の樹脂を調製した。
【0146】
別途、重合度2000のポリビニルアルコールをアセトアルデヒド及びブチルアルデヒドを用いて共アセタール化することにより得られた共アセタール化ポリビニルアセタール樹脂(平均重合度2000、全アセタール化度69.5モル%、残存アセチル基1.3モル%、アセトアルデヒドによるアセタール化度37.8モル%、ブチルアルデヒドによるアセタール化度31.8モル%)100重量部に対し、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)25重量部を混合し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)用の樹脂を調製した。
【0147】
多層押出し成形機に、上記第1,第2の樹脂を供給し、一体成形することにより、第1の外層(第1のポリビニルアセタール樹脂層(A))/内層(第2のポリビニルアセタール樹脂層(B))/第2の外層:第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の3層構造の厚さ0.75mmの熱可塑性樹脂シートを得た。
【0148】
得られた3層構造の熱可塑性樹脂シートを、2.5mmフロートガラスで挟み込み、ニッパーロールにて予備圧着を実施した後、オートクレーブに該合わせガラス構成体を入れ、140℃、13気圧条件下で処理して合わせガラス構成体を完成した。完成された合わせガラスの面密度は13.3kg/mであった。
【0149】
また、上記第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)用の0.93mmの厚みのシートを成形し、該シートの23℃における剪断貯蔵弾性率G’、23℃における損失正接、損失正接の最大値、損失正接のピーク温度、損失正接が0.5以上の温度域、損失正接が0.3以上の温度域を評価した。同様に、該シートの引き裂き強度(A)、破断エネルギー(A)、最大点応力(A)及び引っ張り弾性率(A)を下記の要領で評価した。
【0150】
同様に、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の1.02mmシートを別途用意し、同様に、23℃における剪断貯蔵弾性率G’、23℃における損失正接、損失正接最大値、損失正接のピーク温度、損失正接が0.5以上の温度域、損失正接が0.3以上の温度域を測定し、かつ引き裂き強度(B)、破断エネルギー(B)、最大点応力(B)及び引っ張り弾性率(B)を求めた。
【0151】
(a)23℃における剪断貯蔵弾性率G’の測定
(b)23℃における損失正接、損失正接ピーク温度及び損失正接0.5以上の温度域、損失正接が0.3以上の温度域の測定
動的粘弾性試験機で設定歪み量0.08%、測定周波数10Hzにて剪断歪みを与え、−50℃から3℃/分で150℃まで昇温しながら各温度における剪断貯蔵弾性率を測定し、23℃における数値を、23℃における剪断貯蔵弾性率G’とした。また、同時に得られた各温度における損失正接の測定値より、損失正接のピーク温度並びに、損失正接0.5以上の温度域、損失正接0.3以上の温度域をもとめた。
【0152】
(c)引き裂き強度
JIS K 7128に指定された方法に準拠し、引っ張り速度500mm/分で測定を行った。
【0153】
(d)破断エネルギー
(e)最大点応力
(f)引っ張り弾性率
熱可塑性樹脂シートを幅10mm、長さ8cmの試験片に切断し、引っ張り試験機にチャック間距離40mmで試験片を取り付け、引っ張り速度500mm/分(引っ張り歪み速度1250%/分)で引っ張り試験を行った。得られた応力−歪み曲線より、破断エネルギー、最大点応力、引っ張り弾性率をもとめた。
【0154】
また、上記のようにして得られた厚み0.75mmの本実施例の構成、並びに上記と同様にして測定された23℃における剪断貯蔵弾性率G’、損失正接ピーク温度差、引き裂き強度比、破断エネルギー比、最大点応力比、引っ張り弾性率比を併せて下記の表2及び表5に示す。なお、損失正接ピーク温度差とは、損失正接ピーク温度(B)−損失正接ピーク温度(A)であり、引き裂き強度比、破断エネルギー比、最大点応力比、引っ張り弾性率比は、いずれも第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)からなるシートにおける値の第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)における値に対する比すなわちB/Aである。
【0155】
上記のようにして得られた熱可塑性樹脂シートについて、以下の要領で耐貫通性能を評価するため落球試験、熱可塑性樹脂シートとガラスとの接着力を評価するためパンメル試験を行った。
【0156】
(g)落球試験
JIS R 3212に準拠して測定した。すなわち、質量2260±20g、直径約82mmの鋼球を所定の温度において4時間以上保管された約300×300mmの面積の合わせガラスのサンプル上に、種々の高さから該サンプルの中心部分に落下させることにより行われる。この鋼球を落下させた場合に、鉄球が50%貫通しない高さを合格とし、その高さを耐貫通性能(MBH)とした。
【0157】
(h)パンメル試験
合わせガラス積層体を−18℃に冷却し、金属基体上に置き、そして500gの重さのハンマーで粉砕する。この時に、熱可塑性樹脂シートから剥離するガラスの量に相応して、0(接着力無し)と10(完全な接着力)との間のパンメル値で積層体を評価する。下記表1にパンメル値と膜の露出度(%)との関係を示す。試験の詳細は、英国特許第1,093,864号に説明されている。なお、パンメル値が大きいほど、熱可塑性樹脂シートとガラスとの接着力が大きく、パンメル値が小さいほど、熱可塑性樹脂シートとガラスとの接着力が小さい。すなわち、膜の露出度が低い方が、合わせガラスへの衝撃が付与された時に危険なガラス片の剥離・飛散量が少なく、車両などの乗員に対してより安全であることを示している。
【0158】
なお、本明細書においては、パンメル値が異なるとき接着力は異なり、パンメル値が同じであるとき接着力は同一であるとする。
【0159】
【表1】

【0160】
(i)耐衝撃性試験
ガラスの剥離量を評価するために、JIS R 3211、3212に準拠して耐衝撃性試験を行った。すなわち、所定の温度において4時間以上保管された約300×300mmの面積の合わせガラスのサンプル上に、40±2℃においては11m、−20±2℃においては9.5mの高さより該サンプル中心部分に質量227±2g、直径約38mmの鋼球を落下させ、衝撃面の反対側から剥離破片の総質量を測定することにより評価した。すなわち、剥離量が少ない方が、合わせガラスへの衝撃が付与された時に危険なガラス片の剥離・飛散量が少なく、車両などの乗員に対してより安全であることを示している。JIS R 3211、3212においては、合わせガラスの厚みに対してそれぞれ、試験合格のための剥離許容量が規定されているが、本発明においては、相対的な剥離量の大小で評価し、安全性の代用評価とした。
【0161】
結果を下記の表2〜10に示す。
【0162】
(実施例2〜7)
下記の表2〜10に示すように、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の構成を変更したこと、及び必要に応じて第2のポリビニルアセタール樹脂層の厚み比を変化させたこと(実施例3)を除いては、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂シートを得、積層体を構成し、評価した。結果を表2〜10に示す。
【0163】
(実施例8〜9)
ガラスの厚みを変更し、積層体の面密度を9.8kg/mとした点を除いては、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂シートを得、積層体を構成し、評価した。結果を表2〜10に示す。
【0164】
(実施例10)
含有させるマグネシウム量を変更した厚さ0.125mmの第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を別々に製造した。得られた3種類の層を積層して(A)/(B)/(A)構成とし、プレス機にて加熱圧着を行い0.75mmの3層構成の熱可塑性樹脂シートを得た。さらに、実施例1と同様に積層体を構成した。
【0165】
落球試験では、熱可塑性樹脂シートとガラスとの接着力が高い側および低い側の両側の面からそれぞれ鋼球を当て、試験を実施したこと以外は実施例1と同様に評価した。結果を表2〜10に示す。
【0166】
(実施例11〜18)
下記の表2〜10に示すように、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の構成を変更したことを除いては、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂シートを得、積層体を構成し、評価した。結果を表2〜10に示す。
【0167】
(比較例1〜3)
下記の表2〜10に示すように、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)のみからなる厚み0.75mmの熱可塑性樹脂シートを得、実施例1と同様に積層体を構成し、落球試験により評価を行った。
【0168】
(比較例4〜7)
下記の表2〜10に示すように、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成し、熱可塑性樹脂シートを得た。そして、各熱可塑性樹脂シートを用いて、実施例1と同様に積層体を構成し、実施例1と同様にして評価した。結果を下記の表2〜10に示す。
【0169】
(比較例8)
ガラスの厚みを変更し、積層体の面密度を9.8kg/mとしたこと以外は、比較例1と同様の熱可塑性樹脂シートを用い、積層体を構成し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2〜10に示す。
【0170】
【表2】

【0171】
【表3】

【0172】
【表4】

【0173】
【表5】

【0174】
【表6】

【0175】
【表7】

【0176】
【表8】

【0177】
【表9】

【0178】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤と、炭素数4〜6のアルデヒドからなる群から選択された少なくとも1種のアルデヒド(a)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第1のポリビニルアセタール樹脂を含む第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)と、可塑剤と、炭素数1〜3のアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルデヒド(b)によるポリビニルアルコールのアセタール化で得られた第2のポリビニルアセタール樹脂とを含む第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)とが積層された熱可塑性樹脂シートであって、
少なくとも1層の第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されている構造を有し、第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)のアセタール化度が55モル%以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂シート。
【請求項2】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)を構成するための前記ポリビニルアルコールの重合度をPVA重合度(A)としたときに、PVA重合度(B)/PVA重合度(A)が0.5〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項3】
PVA重合度(B)/PVA重合度(A)が1.0〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項4】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中におけるエステル基の含有割合が40モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項5】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)中におけるエステル基の含有割合が20モル%以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項6】
第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(A)とし、第2のポリビニルアセタール樹脂中の可塑剤含有割合を可塑剤含有率(B)としたときに、可塑剤含有率(A)/可塑剤含有率(B)が1.0〜3の範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項7】
第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に機能性微粒子が含有されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項8】
第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)に架橋ポリビニルアセタール樹脂が含有されている、または、第1のポリビニルアセタール樹脂(A)、及び/または第2のポリビニルアセタール樹脂(B)が分子間架橋されたポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項9】
第2のポリビニルアセタール樹脂層(B)の厚みを厚み(B)、第1のポリビニルアセタール樹脂層(A)の厚みを厚み(A)としたときに、厚み(B)/厚み(A)が0.5〜10の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項10】
少なくとも1層のポリビニルアセタール樹脂層(B)の両面に異なる厚みのポリビニルアセタール樹脂層(A)が積層されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂シートを少なくとも1つの層として備える積層体。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂シートが、ガラス板と透明樹脂板との間に狭着されていることを特徴とする請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記透明樹脂板が、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリル共重合体樹脂及びポリエステルからなる群から選択された1種により構成されていることを特徴とする請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記透明樹脂板が透明エラストマーで被覆されている請求項12に記載の積層体。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂シートが、一対のガラス板に狭着されていることを特徴とする請求項11に記載の積層体。
【請求項16】
前記ガラス板のうち、少なくとも1枚のガラスが、有色透明ガラスである、請求項12〜15のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項17】
面密度が、12kg/m以下であることを特徴とする、請求項11〜16のいずれか1項に記載の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−201932(P2010−201932A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90649(P2010−90649)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【分割の表示】特願2005−108906(P2005−108906)の分割
【原出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】