説明

熱可塑性樹脂成形物の製造方法および製造装置

【課題】無機充填材に水分が含まれていた場合でも、成形機中で水蒸気が発生することを防ぎ、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂成形物の原料である熱可塑性樹脂の樹脂材を、樹脂材用ホッパから供給する樹脂材供給工程と、無機物を含む充填材を、充填材用ホッパから供給する充填材供給工程と、樹脂材供給工程で供給された熱可塑性樹脂と、充填材供給工程から供給された充填材とを混練する混練工程と、混練工程で混練された、充填材を含む熱可塑性樹脂を成形する熱可塑性樹脂成形工程とを備え、充填材供給工程は、充填材に含まれている水分を除去する充填材水分除去工程を含み、充填材供給工程は、充填材水分除去工程によって充填材に含まれている水分を除去しながら、充填材を混練工程に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形物の製造方法および製造装置に関する、さらに詳しくは、成形機を用いて熱可塑性樹脂と無機充填材とを含む熱可塑性樹脂成形物の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を射出成形機や押出成形機等の成形機で成形する際、熱可塑性樹脂に、無機物を含有する充填材(以下、無機充填材と称する)や各種添加剤等を混練して熱可塑性樹脂組成物の改質を行う方法が広く知られている。熱可塑性樹脂に無機充填材を混練して熱可塑性樹脂組成物の改質を行う場合、当該無機充填材に水分が含まれていると、当該水分と成形する際の加熱とで当該熱可塑性樹脂が加水分解したり、水分が水蒸気となって成形機中の混練物に空隙が生じることによって混練ムラが生じたりする。さらに、熱可塑性樹脂が水蒸気を含んだまま成形されると、当該成形物には水蒸気由来の気泡が混入し、外観不良となる。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1に記載の技術では、成形機のベントから強制的に脱気することによって成形機内の気体を除去している。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術では、無機充填材を、成形機に投入する前にタンク等で乾燥させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−146878号公報
【特許文献2】特開2000−229331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、無機充填材に含有される水分に由来する水蒸気がベントがある位置までに発生した場合は、当該水蒸気によって熱可塑性樹脂が加水分解する。また、ベントがある位置までに水蒸気による空隙が生じた場合、ベントがある位置までは混練ムラが生じるため、混練ムラがない状態で混練されるのはベントから成形機の排出口までとなる。すなわち、水蒸気が発生した場合と、水蒸気が発生しない場合とで、混練条件が変わるため、熱可塑性樹脂成形物の品質にばらつきが生じる。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、成形機に投入する前に無機充填材をタンクで乾燥させると、水分の蒸発によって無機充填材がタンク内で凝集し、ブリッジが生じることがある。ブリッジが生じた場合、無機充填材をスムーズに供給できないため、熱可塑性樹脂成形物の品質にばらつきが生じる問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑み、無機充填材に水分が含まれていた場合でも、成形機中で水蒸気が発生することを防ぎ、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下に述べる特徴を有する。
第1の発明は、充填材を含む熱可塑性樹脂成形物を製造する熱可塑性樹脂成形物製造方
法であって、上記熱可塑性樹脂成形物の原料である熱可塑性樹脂の樹脂材を、樹脂材用ホッパから供給する樹脂材供給工程と、無機物を含む上記充填材を、充填材用ホッパから供給する充填材供給工程と、上記樹脂材供給工程で供給された熱可塑性樹脂と、上記充填材供給工程から供給された充填材とを混練する混練工程と、上記混練工程で混練された、上記充填材を含む上記熱可塑性樹脂を成形する熱可塑性樹脂成形工程とを備え、上記充填材供給工程は、上記充填材に含まれている水分を除去する充填材水分除去工程を含み、上記充填材供給工程は、上記充填材水分除去工程によって上記充填材に含まれている水分を除去しながら、上記充填材を上記混練工程に供給する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明に従属する発明であって、上記熱可塑性樹脂成形工程は、押出成形によって上記無機充填材を含む熱可塑性樹脂を成形することを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明に従属する発明であって、上記樹脂材供給工程は、上記樹脂材に含まれている水分を除去する樹脂材水分除去工程を備え、上記樹脂材供給工程は、上記樹脂材水分除去工程によって上記樹脂材に含まれている水分を除去しながら、上記樹脂材を上記混練工程に供給することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明のいずれか1つに従属する発明であって、上記無機物は、ハイドロタルサイトであることを特徴とする。
【0013】
第5の発明は、充填材を含む熱可塑性樹脂成形物を製造する熱可塑性樹脂成形物製造装置であって、上記熱可塑性樹脂成形物の原料である熱可塑性樹脂の樹脂材を、樹脂材用ホッパから供給する樹脂材供給手段と、無機物を含む上記充填材を、充填材用ホッパから供給する充填材供給手段と、上記樹脂材供給手段から供給された熱可塑性樹脂と、上記充填材供給手段から供給された充填材とを混練する混練手段と、上記混練手段で混練された、上記充填材を含む上記熱可塑性樹脂を成形する熱可塑性樹脂成形手段とを備え、上記充填材供給手段は、上記充填材に含まれている水分を除去する充填材水分除去手段を含み、上記充填材供給手段は、上記充填材水分除去手段によって上記充填材に含まれている水分を除去しながら、上記充填材を上記混練手段に供給する。
【0014】
第6の発明は、上記第5の発明に従属する発明であって、上記熱可塑性樹脂成形手段は、押出成形によって上記無機充填材を含む熱可塑性樹脂を成形することを特徴とする。
【0015】
第7の発明は、上記第5または第6の発明に従属する発明であって、上記樹脂材供給手段は、上記樹脂材に含まれている水分を除去する樹脂材水分除去手段を備え、上記樹脂材供給手段は、上記樹脂材水分除去手段によって上記樹脂材に含まれている水分を除去しながら、上記樹脂材を上記混練手段に供給することを特徴とする。
【0016】
第8の発明は、上記第5〜第7の発明のいずれか1つに従属する発明であって、上記無機物は、ハイドロタルサイトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、無機充填材に水分が含まれていた場合でも、当該水分を充填材供給工程で除去することができるので、当該水分由来の水蒸気が混練工程で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができる。そのため、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法を提供することができる。
【0018】
第2の発明によれば、押出成形によって熱可塑性樹脂成形物を製造する場合でも、混練工程で水蒸気が発生することを防ぎ、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法
を提供することができる。
【0019】
第3の発明によれば、樹脂材に水分が含まれていた場合でも、当該水分を樹脂材供給工程で除去することができるので、樹脂材に含まれる水分由来の水蒸気が混練工程で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができる。そのため、さらに安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法を提供することができる。
【0020】
第4の発明によれば、無機充填材に、層間水を有するハイドロタルサイトを含む場合でも、当該層間水を充填材供給工程で除去することができるので、当該層間水由来の水蒸気が混練工程で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができるため、さらに安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法を提供することができる。
【0021】
第5の発明によれば、無機充填材に水分が含まれていた場合でも、当該水分を充填材供給手段で除去することができるので、当該水分由来の水蒸気が混練手段で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができる。そのため、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造することができる、熱可塑性樹脂成形物装置を提供することができる。
【0022】
第6の発明によれば、押出成形によって熱可塑性樹脂成形物を製造する場合でも、混練手段で水蒸気が発生することを防ぎ、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造することができる、熱可塑性樹脂成形物装置を提供することができる。
【0023】
第7の発明によれば、樹脂材に水分が含まれていた場合でも、当該水分を樹脂材供給手段で除去することができるので、樹脂材に含まれる水分由来の水蒸気が混練手段で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができる。そのため、さらに安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造することができる、熱可塑性樹脂成形物装置を提供することができる。
【0024】
第8の発明によれば、無機充填材に、層間水を有するハイドロタルサイトを含む場合でも、当該層間水を充填材供給手段で除去することができるので、当該層間水由来の水蒸気が混練手段で発生することを防ぎながら、ホッパ内で上記水分を除去した場合に生じるブリッジの発生を防ぐことができるため、さらに安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造することができる、熱可塑性樹脂成形物装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る熱可塑性樹脂成形物製造装置の概略構成を示した図
【図2】本発明の実施例に係る熱可塑性樹脂成形物(右側)と比較例に係る熱可塑性樹脂成形物の第1の実施形態に係る熱可塑性樹脂成形物(左側)を示した図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の第1の実施形態に係る熱可塑性樹脂成形物製造方法および熱可塑性樹脂成形物製造装置について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
なお、本明細書において、「熱可塑性樹脂」は、加熱によって軟化して可塑性を示し、冷却によって固化する性質をもつ合成樹脂をいい、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ABS、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、アクリル樹脂等が挙げられる。これらは1種用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いて
も良い。
【0028】
また、本明細書において、「樹脂材」は、上記熱可塑性樹脂を含む、熱可塑性樹脂成形物の原料である。樹脂材は、例えば、上記熱可塑性樹脂をペレット状にしたものである。
【0029】
また、本明細書において、「無機充填材」は、熱可塑性樹脂成形物の原料であり、無機物からなる充填材である。無機充填材の例としては、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維、水酸化マグネシウム、フライアッシュ、ハイドロタルサイト等が挙げられ、これらは1種用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
図1は、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形物製造装置1の概略構成を示した平面図である。本実施形態に係る熱可塑性樹脂成形物製造装置1は、樹脂成形装置2と、樹脂材用ホッパ3と、樹脂材供給装置4と、充填材用ホッパ5と、充填材用供給装置6とを備える。なお、図1では、樹脂材用ホッパ3および充填材用ホッパ5が、それぞれ樹脂材供給装置4および充填材用供給装置6に平面方向から接続されているが、これは図示の便宜上のためであり、実際は縦方向に設けられている。
【0031】
樹脂成形装置2は、連続して熱可塑性樹脂を成形する装置であれば特に限定なく用いることができる。連続して熱可塑性樹脂を成形する装置の一例としては、スクリューが単軸の単軸押出機や2軸以上の多軸押出機のほか、ニーダ、バンバリータイプの連続式混練機が挙げられる。本実施形態においては、樹脂成形装置2は、単軸押出機として説明するが、これに限定されるものではない。
【0032】
本実施形態に係る樹脂成形装置2は、駆動モータ21と、シリンダ22と、スクリュー23と、樹脂成形装置用ヒータ24と、ベント25と、ダイス26とを備える。
【0033】
シリンダ22は、その軸を横方向へ延ばし、シリンダ22の外周に設けられた樹脂成形装置用ヒータ24によって加熱される。シリンダ22の内部には、スクリュー23が当該シリンダ22の軸方向に設けられている。スクリュー23は、駆動モータ21の回転力によって軸を中心にして回転する。樹脂材供給装置4(後述)から供給された樹脂材は、樹脂成形装置用ヒータ24による加熱によって溶融され、スクリュー23の回転によって、混練されながら樹脂成形装置2のダイス26に向けて移送される。なお、本明細書において、説明の便宜上、熱可塑性樹脂成形物の原料の移送方向の移送先、すなわち樹脂成形装置2のダイス26側を「下流側」と称し、移送元側を「上流側」と称する。ベント25は、樹脂成形装置2内の、樹脂材および無機充填材の気化成分、ならびに樹脂材および無機充填材に含有されていた水分に起因する水蒸気を排出する。また、ベント25に真空ポンプのような減圧装置を連結させ、減圧吸引することで上記水蒸気等を排出しても良い。図1に記載の熱可塑性樹脂成形物製造装置1において、ベント25は、充填材供給装置6(後述)よりも下流側に設けられているが、これに限定されず、少なくとも樹脂材供給装置4(後述)より下流側に設けられていれば良い。なお、図1では、ベント25は、平面方向に設けられているが、これは図示の便宜上のためであり、実際は縦方向に設けられている。
【0034】
本実施形態に係る樹脂材用ホッパ3は、樹脂材供給装置4(後述)に設けられている。樹脂材用ホッパ3は、樹脂材を蓄える。
【0035】
本実施形態に係る樹脂材供給装置4は、熱可塑性樹脂成形物製造装置1において、少なくとも充填材供給装置6(後述)より上流側に設けられている。樹脂材供給装置4は、樹脂材用ホッパ3に蓄えられた樹脂材を、樹脂成形装置2に定量供給する。樹脂材供給装置4は、樹脂材用ホッパ3に蓄えられた樹脂材を定量供給できる装置であれば、特に限定な
く用いることができる。当該樹脂材を定量供給できる装置の例としては、スクリュー式定量供給装置、振動式定量供給装置、ベルト式定量供給装置が挙げられる。本実施形態においては、樹脂材供給装置4は、スクリュー式定量供給装置として説明するが、これに限定されるものではない。本実施形態に係る樹脂材供給装置4は、駆動モータ41と、シリンダ42と、スクリュー43とを備える。
【0036】
シリンダ42は、その軸を横方向へ延ばし、シリンダ42の内部にはスクリュー43が当該シリンダ42の軸方向に設けられている。スクリュー43は、駆動モータ41の回転力によって軸を中心にして回転する。樹脂材用ホッパ3に蓄えられていた樹脂材は、回転したスクリュー43によって樹脂成形装置2に定量供給される。樹脂材供給装置4から供給された樹脂材は、上述したように、樹脂成形装置用ヒータ24による加熱によって溶融され、スクリュー23の回転によって、混練されながら樹脂成形装置2のダイス26に向けて移送される。
【0037】
本実施形態に係る充填材用ホッパ5は、充填材供給装置6(後述)に備えられている。充填材用ホッパ5は、充填材を蓄える。
【0038】
本実施形態に係る充填材供給装置6は、熱可塑性樹脂成形物製造装置1において、少なくとも樹脂材供給装置4より下流側に設けられている。充填材供給装置6は、充填材用ホッパ5に蓄えられている無機充填材を、樹脂成形装置2に定量供給する。充填材供給装置6は、充填材用ホッパ5に蓄えられている無機充填材を定量供給できる装置であれば、特に限定なく用いることができる。当該無機充填材を定量供給できる装置の例としては、例えばスクリュー式定量供給装置、振動式定量供給装置、ベルト式定量供給装置が挙げられる。本実施形態においては、充填材供給装置6は、スクリュー式定量供給装置として説明するが、これに限定されるものではない。本実施形態に係る充填材供給装置6は、駆動モータ61と、シリンダ62と、スクリュー63と、充填材水分除去手段64と、ベント65とを備える。
【0039】
シリンダ62は、その軸を横方向へ延ばし、シリンダ62の内部にはスクリュー63が当該シリンダ62の軸方向に設けられている。スクリュー63は、駆動モータ61の回転力によって軸を中心にして回転する。充填材用ホッパ5に蓄えられた無機充填材は、回転したスクリュー63によって樹脂成形装置2に定量供給される。この時、充填材水分除去手段64は、当該無機充填材が含んでいる水分を連続的に除去する。充填材水分除去手段64によって水分が除去され、回転したスクリュー63によって樹脂成形装置2に定量供給された無機充填材は、スクリュー23の回転によって、溶融された熱可塑性樹脂と混練されながら樹脂成形装置2のダイス26に向けて移送される。そして、混練されながら移送された熱可塑性樹脂と無機充填材は、ダイス26から押し出され、熱可塑性樹脂成形物が製造される。
【0040】
すなわち、無機充填材が含んでいる水分を充填材水分除去手段64によって連続的に除去しながら、当該無機充填材を樹脂成形装置2に供給することによって、無機充填材が再び水分を含む前に熱可塑性樹脂と混練することができる。これにより、無機充填材に含有されていた水分に起因する水蒸気はシリンダ22内で発生しないため、当該水蒸気によって熱可塑性樹脂が加水分解することを防ぐことができる。また、上記水蒸気による空隙がシリンダ22内で生じないため、上記原料の混練ムラが生じず、熱可塑性樹脂成形物の品質のばらつきを低減させることができる。
【0041】
上記充填材水分除去手段64の一例としては、ヒータによる加熱が挙げられる。当該加熱に用いられるヒータの例としては、棒ヒータ、プレートヒータ、および熱媒ヒータが挙げられる。
【0042】
上述のように、上記充填材水分除去手段64は、充填材供給装置6に設けられる。従って、上記充填材水分除去手段64による、無機充填材に含まれている水分を除去する条件は、種々の状況に応じて変える必要がある。例えば、無機充填材がハイドロタルサイトのような吸着水と結晶水を含むものである場合、当該結晶水を除去するためには、190〜200℃程度で熱処理する必要がある。一方、例えば、無機充填材がシリカのような、結晶水を含まないものである場合は、吸着水を除去するために100〜120℃程度で熱処理すれば良い。熱処理を行う時間も、例えば、充填材供給装置6の長さ、充填材供給装置6による無機充填材の送り速度、および最終的な熱可塑性樹脂成形物の生産量に応じて、適宜調節する必要がある。
【0043】
上記充填材水分除去手段64がヒータで加熱する手法である場合、加熱によって無機充填材に含有されている水分に起因する水蒸気が発生するため、当該水蒸気を排気する手段を充填材供給装置6に設ける必要がある。本実施形態では、上記水蒸気を排気する手段として、充填材供給装置6の、充填材供給装置6と樹脂成形装置2とが接続されている部分の近傍にベント65を設けている。すなわち、加熱により無機充填材に含有されている水分が水蒸気になっており、かつ無機充填材が樹脂成形装置2に投入される前に当該水蒸気が排気されるようにベント65を設けている。なお、図1では、ベント65は、平面方向に設けられているが、これは図示の便宜上のためであり、実際には縦方向に設ける。また、ベント65の代わりに、もしくはベント65とともに、シリンダ62にスリット等を設け、当該スリット等から上記水蒸気が排気されるようにしても良い。
【0044】
また、無機充填材を、常温の状態で樹脂成形装置2に供給した場合、樹脂成形装置2内で溶融されている熱可塑性樹脂の温度が低下するため、粘度が上昇する。そのため、無機充填材を常温の状態でシリンダ22内に投入した場合、熱可塑性樹脂と無機充填材の混練性が低下する可能性がある。しかし、上記充填材水分除去手段64がヒータで加熱する手法である場合、常温の状態の無機充填材を樹脂成形装置2に投入した場合よりも、溶融されている熱可塑性樹脂の粘度は上昇しないため、熱可塑性樹脂と無機充填材との混練性が低下するのを防ぐことができる。
【0045】
なお、上記実施形態においては、充填材水分除去手段としてヒータによる加熱を挙げた。しかしながら、他の実施形態においては、充填材水分除去手段として、ヒータによる加熱に換え、もしくはヒータによる加熱とともに、乾燥空気による乾燥を用いても良い。すなわち、冷凍式および中空糸膜式等の手法によって生成された乾燥空気を充填材供給装置内に供給し、湿気を含んだ空気を排出することによって、充填材に含まれている水分を除去しても良い。
【0046】
また、上記実施形態においては、水分除去手段は、充填材供給装置6に係る充填材供給装置6のみに設けられているものとした。しかしながら、他の実施形態においては、上記充填材供給装置6に設けられている充填材水分除去手段64に加えて、樹脂材供給装置4に、樹脂材に含有されている水分を除去するための樹脂材用水分除去手段を設けても良い。上記樹脂材に含有されている水分を、上記樹脂材用水分除去手段によって除去しながら樹脂成形装置2に供給することによって、上記ペレットに含有されていた水分に起因する水蒸気は樹脂成形装置2内で発生しないため、当該水蒸気による熱可塑性樹脂の加水分解をさらに防ぐことができる。また、上記水蒸気による空隙が樹脂成形装置2内で生じないため、上記原料の混練ムラがさらに生じず、熱可塑性樹脂成形物の品質のばらつきをさらに低減させることができる。
【0047】
上記樹脂材用水分除去手段の一例としては、上記充填材水分除去手段64の例と同様に、ヒータで加熱する手法が挙げられる。ヒータで加熱する手法に用いられるヒータの例と
しては、上記充填材水分除去手段64の例と同様に、棒ヒータ、プレートヒータ、および熱媒ヒータが挙げられる。
【0048】
上記樹脂材水分除去手段がヒータで加熱する手法である場合、加熱によって樹脂材に含有されている水分に起因する水蒸気が発生するため、当該水蒸気を排気する手段を樹脂材供給装置6に設ける必要がある。上記水蒸気を排気する手段の一例としては、樹脂材供給装置4の、樹脂材供給装置4と樹脂成形装置2とが接続されている部分の近傍に設けられるベントが挙げられる。すなわち、加熱により樹脂材に含有されている水分が水蒸気になっており、かつ樹脂材が樹脂成形装置2に投入される前に当該水蒸気が排気されるようにベントを設ける。なお、当該ベントの代わりに、もしくは当該ベントとともに、シリンダ42にスリット等を設け、当該スリット等から上記水蒸気が排気されるようにしても良い。
【0049】
また、上記実施形態においては、樹脂材水分除去手段としてヒータによる加熱を挙げた。しかしながら、他の実施形態においては、樹脂材水分除去手段として、ヒータによる加熱に換え、もしくはヒータによる加熱とともに、乾燥空気による乾燥を用いても良い。すなわち、冷凍式および中空糸膜式等の手法によって生成された乾燥空気を樹脂材供給装置内に供給し、湿気を含んだ空気を排出することによって、樹脂材に含まれている水分を除去しても良い。
【0050】
また、上記実施形態においては、熱可塑性樹脂成形物製造装置1の樹脂成形装置2を、押出成形機とした。しかしながら、他の一実施形態に係る樹脂成形機としては、熱可塑性樹脂を溶融さらには混練して成形できるもので、溶融混練時に原料樹脂に含まれる揮発成分を除去するための脱揮機構(すなわちベント)を有しているものであれば特に制限はなく用いることができる。なお、複数種類の熱可塑性樹脂を混練する場合や無機充填材を分散する場合等には、二軸押出機を用いることが好ましく、スクリューの回転方向が同方向であるものが品質の優れた樹脂組成物が得られるためより好ましい。
【0051】
上記樹脂材用水分除去手段の一例としては、上記充填材水分除去手段64の例と同様に、ヒータで加熱する手法が挙げられる。ヒータで加熱する手法に用いられるヒータの例としては、上記充填材水分除去手段64の例と同様に、棒ヒータ、プレートヒータ、および熱媒ヒータが挙げられる。また、樹脂材水分除去手段として、ヒータによる加熱に換え、もしくはヒータによる加熱とともに、乾燥空気を用いても良い。すなわち、冷凍式および中空糸膜式等の手法によって生成された乾燥空気を樹脂材供給装置内に供給し、湿気を含んだ空気を排出することによって、樹脂材に含まれている水分を除去しても良い。
【実施例】
【0052】
熱可塑性樹脂および無機充填材からなる熱可塑性樹脂成形物を、押出成形によって製造した。詳細な製造条件を以下に記す。
【0053】
(押出成形機)
・二軸押出成形機
(押出機条件)
・シリンダ温度:260℃
・スクリュー回転:200rpm
・押出量:18kg/hr
・ダイス:口径φ75、流路φ54、絞り角19度(外筒30度、内筒49度)
(樹脂材供給条件)
・熱可塑性樹脂:ポリオレフィン型樹脂
・供給量:350kg/hr
(充填材供給条件)
・無機充填材:ハイドロタルサイト
・供給量:150kg/hr
(充填材水分除去手段)
・温度
・時間
【0054】
(比較例)
比較例では充填材水分除去手段による、ハイドロタルサイトに含まれている水分の除去を行わなかった。それ以外の条件は実施例と同様である。
【0055】
図2は、上記実施例に係る熱可塑性樹脂成形物および上記比較例に係る熱可塑性樹脂成形物の写真である。比較例では、ハイドロタルサイトに水分が含まれており、当該水分はシリンダ22内で水蒸気になるため、当該比較例に係る熱可塑性樹脂成形物には当該水蒸気由来の気泡が混入し、外観不良になる(図2左側)。一方、実施例では、ハイドロタルサイトに含まれていた水分は除去されているので、シリンダ22内で水蒸気は発生しない。そのため、当該比較例に係る熱可塑性樹脂成形物は、当該比較例に係る熱可塑性樹脂成形物には当該水蒸気由来の気泡が混入せず、良好な外観を有する熱可塑性樹脂成形物を得ることができる(図2右側)。
【0056】
また、実施例では、製造開始から4時間を経過すると樹脂圧が上昇し、製造不能となった。一方、比較例では、製造開始から8時間を経過すると樹脂圧が上昇し、製造不能となった。すなわち、熱可塑性樹脂成形物の製造において、比較例では早期に成形不能となるのに対し、実施例では成形不能になるのが比較例よりも遅いことから、実施例は比較例よりも生産性が優れる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。また、本発明の範囲を逸脱することなく上記各実施形態を適宜組み合わせることや種々の改良を行うことができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、無機充填材に水分が含まれていた場合でも、成形機中で水蒸気が発生することを防ぎ、安定した品質の熱可塑性樹脂成形物を製造する方法および熱可塑性樹脂成形物製造装置を提供でき、例えば、熱可塑性樹脂成形物を製造する分野等において好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 熱可塑性樹脂成形物製造装置
2 樹脂成形装置
21 駆動モータ
22 シリンダ
23 スクリュー
24 樹脂成形装置用ヒータ
25 ベント
26 ダイス
3 樹脂材用ホッパ
4 樹脂材供給装置
41 駆動モータ
42 シリンダ
43 スクリュー
5 充填材用ホッパ
6 充填材供給装置
61 駆動モータ
62 シリンダ
63 スクリュー
64 充填材水分除去手段
65 ベント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を含む熱可塑性樹脂成形物を製造する熱可塑性樹脂成形物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂成形物の原料である熱可塑性樹脂の樹脂材を、樹脂材用ホッパから供給する樹脂材供給工程と、
無機物を含む前記充填材を、充填材用ホッパから供給する充填材供給工程と、
前記樹脂材供給工程で供給された熱可塑性樹脂と、前記充填材供給工程から供給された充填材とを混練する混練工程と、
前記混練工程で混練された、前記充填材を含む前記熱可塑性樹脂を成形する熱可塑性樹脂成形工程とを備え、
前記充填材供給工程は、前記充填材に含まれている水分を除去する充填材水分除去工程を含み、前記充填材供給工程は、前記充填材水分除去工程によって前記充填材に含まれている水分を除去しながら、前記充填材を前記混練工程に供給する、熱可塑性樹脂成形物の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂成形工程は、押出成形によって前記充填材を含む熱可塑性樹脂を成形することを特徴とする、請求項1記載の熱可塑性樹脂成形物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材供給工程は、前記樹脂材に含まれている水分を除去する樹脂材水分除去工程を備え、前記樹脂材供給工程は、前記樹脂材水分除去工程によって前記樹脂材に含まれている水分を除去しながら、前記樹脂材を前記混練工程に供給することを特徴とする、請求項1または2記載の熱可塑性樹脂成形物の製造方法。
【請求項4】
前記無機物は、ハイドロタルサイトであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂成形物の製造方法。
【請求項5】
充填材を含む熱可塑性樹脂成形物を製造する熱可塑性樹脂成形物の製造装置であって、
前記熱可塑性樹脂成形物の原料である熱可塑性樹脂の樹脂材を、樹脂材用ホッパから供給する樹脂材供給手段と、
無機物を含む前記充填材を、充填材用ホッパから供給する充填材供給手段と、
前記樹脂材供給手段から供給された熱可塑性樹脂と、前記充填材供給手段から供給された充填材とを混練する混練手段と、
前記混練手段で混練された、前記充填材を含む前記熱可塑性樹脂を成形する熱可塑性樹脂成形手段とを備え、
前記充填材供給手段は、前記充填材に含まれている水分を除去する充填材水分除去手段を含み、前記充填材供給手段は、前記充填材水分除去手段によって前記充填材に含まれている水分を除去しながら、前記充填材を前記混練手段に供給する、熱可塑性樹脂成形物の製造装置。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂成形手段は、押出成形によって前記充填材を含む熱可塑性樹脂を成形することを特徴とする、請求項5記載の熱可塑性樹脂成形物の製造装置。
【請求項7】
前記樹脂材供給手段は、前記樹脂材に含まれている水分を除去する樹脂材水分除去手段を備え、前記樹脂材供給手段は、前記樹脂材水分除去手段によって前記樹脂材に含まれている水分を除去しながら、前記樹脂材を前記混練手段に供給することを特徴とする、請求項5または6記載の熱可塑性樹脂成形物の製造装置。
【請求項8】
前記無機物は、ハイドロタルサイトであることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂成形物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−192551(P2012−192551A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56504(P2011−56504)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】