説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】
本発明は、耐熱性、色調、流動性などの物性バランスに優れ、且つ、成形加工時の金型汚れの原因となるブリード量を減らし、操業性や生産性に優れた熱可塑性共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】
(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、さらに、
(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する熱可塑性共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、色調などのバランスに優れ、且つ、成形加工性と生産性に優れた透明熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム強化スチレン系樹脂に代表されるスチレン系樹脂は、優れた機械的性質、成形加工性および外観特性を有することから、家庭用電気機器、OA機器および一般雑貨等をはじめとする広範な分野で使用されている。さらに、このゴム強化スチレン系樹脂は、N−置換マレイミド系単量体に代表されるN−フェニルマレイミドを適量共重合させることによって耐熱性を付与することができ、このようにして得られた耐熱樹脂は、自動車内外装部品や家庭用電気機器に使用されている。
【0003】
このような、N−置換マレイミドを共重合する方法として、特許文献1,2が提案されているが、これらの方法では樹脂の組成分布を均一にすることができず、色調、機械的強度が劣り、耐熱性の向上効果も充分に発揮されない。
【0004】
また、樹脂の組成分布が均一な前記共重合体を得る方法としては、特許文献3,4など種々の提案がなされているが、ビニル系単量体の添加方法を検討しただけであり、抜本的に重合方法を見直すなどの改良は行われていない。
【0005】
また、特許文献5などでは連続溶液重合法による製造方法が記載されているが、この方法においては共重合体の組成分布は均一になるものの、耐熱性が高く、かつ残存フェニルマレイミドの少ない共重合体を得ることができないという欠点がある。
【0006】
耐熱性を向上するために、多量のフェニルマレイミドを含んだ単量体を供給した場合、その全てが重合せず、残存フェニルマレイミドとして残る。更に残存フェニルマレイミドは、揮発除去装置内でのオリゴマー発生やポリマーの組成分布の広がりの原因となる。熱可塑性樹脂の幅広い組成分布や残存フェニルマレイミドは、射出成形時のオイル状物質(ブリード)の原因となる。ブリード量が多いと金型汚れが顕著となり、連続射出成形化が進んでいる現在、ブリード物を取り除いたり、金型を清掃するために自動生産を中止する必要があるため、能率が低下する。
【0007】
また、フェニルマレイミド単量体自体が黄色を示しているため、製造ポリマーの着色の原因となるだけでなく、フェニルマレイミドが固体単量体であるために、製造プロセス中の配管内でのスケーリング、固化と言った操業上のトラブル原因となる可能性がある。
【0008】
残存フェニルマレイミドを低減する方法としては、可能な限り重合を進行させて、ポリマー鎖に取り込む必要があるが、高重合率のポリマーは、重合安定性が悪く、安定に且つ経済的に有利に生産できていない。
【特許文献1】特公昭62−50357号公報
【特許文献2】特公平01−34961号公報
【特許文献3】特許第2971399号公報
【特許文献4】特開昭58−162616号公報
【特許文献5】特開昭61−276807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。本発明の目的は、N−置換マレイミドを共重合したスチレン系樹脂において、樹脂の耐熱性を兼ね備えつつ、優れた色調を保有するとともに、均一な組成分布、残存フェニルマレイミドを低減する事で金型汚れの原因となるブリード量を低減し、製造プロセス上のトラブルがなく、生産性に優れた熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、さらに、
(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する熱可塑性共重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、熱可塑性樹脂組成物の製造方法について鋭意検討した結果、従来の知見では成し得ることができなかった、樹脂の耐熱性を兼ね備えつつ、優れた色調と均一な組成分布、更に残存フェニルマレイミドを低減する事でブリード量を削減し、操業性や生産性に優れた熱可塑性樹脂組成物の製造方法を見出した。
【0012】
また従来、共重合体(A)を高重合率領域において連続重合した場合、しばしば高粘度により重合を安定化できない課題があったが、共重合体(A)を本発明の重合装置を用いることによって、高粘度化した重合溶液となる共重合体(A)の含有率が高い条件でも安定的に、経済的に有利な連続重合が可能となった。
【0013】
本発明により、耐衝撃性などの物性バランスに優れた耐熱性スチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂を得ることができる。また、樹脂の組成分布を均一にすることができ、且つ残存フェニルマレイミド量を低減できるため、樹脂の色調が改善し、ブリード量が低減した熱可塑性共重合体を得ることができる。また、フェニルマレイミド系特有のプロセス問題である配管内のスケーリングや固化といった操業上のトラブルを回避できるとともに、高重合率のポリマーを生産性よく工業的に有利に製造することが可能となった。
【0014】
本製造方法で得られる熱可塑性樹脂は、AS樹脂やABS樹脂とブレンド押出し、耐熱ABS樹脂として利用される。耐熱ABS樹脂は、自動車内外装部品や家庭用電気機器に使用されており、従来の耐熱ABS樹脂より、ブリード成分が少ないため、射出成形時の金型汚れを低減することができ、連続生産性に優れる。また、色調が改良するために着色性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、さらに、(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する熱可塑性共重合体の製造方法である。
【0017】
本発明においては、単量体混合物(a)は、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む。
【0018】
ビニル系単量体(a)中の芳香族ビニル系単量体(a1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特に、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。芳香族ビニル系単量体(a1)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
シアン化ビニル系単量体(a2)としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリル等が挙げられるが、特に、アクリロニトリルが好ましく用いられる。シアン化ビニル系単量体(a2)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)としては、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられるが、特にN−フェニルマレイミドが好ましく用いられる。不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明においては、単量体混合物(a)は、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)のみで構成される場合と、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)以外の他の単量体(a4)を含有する場合がある。他の単量体(a4)としては、アクリル酸、メタアクリル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。他の単量体(a4)は、1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明においては、単量体混合物(a)は、耐熱性と耐衝撃性と剛性との物性バランスの点から、芳香族系ビニル化合物単位(a1)20〜80重量%、シアン化ビニル化合物単位(a2)5〜30重量%、N−置換マレイミド単位(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%からなるビニル系単量体混合物であることが好ましい(ただし、芳香族系ビニル化合物単位(a1)、シアン化ビニル化合物単位(a2)、N−置換マレイミド単位(a3)、これらと共重合可能な他の単量体(a4)の合計は、100重量%)。本発明においては、単量体混合物(a)は、より好ましくは、芳香族系ビニル化合物単位(a1)30〜70重量%、シアン化ビニル化合物単位(a2)5〜20重量%、N−置換マレイミド単位(a3)20〜45重量%、および、これらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%(ただし、芳香族系ビニル化合物単位(a1)、シアン化ビニル化合物単位(a2)、N−置換マレイミド単位(a3)、これらと共重合可能な他の単量体(a4)の合計は、100重量%)であり、さらにより好ましくは、芳香族系ビニル化合物単位(a1)40〜60重量%、シアン化ビニル化合物単位(a2)8〜15重量%、N−置換マレイミド単位(a3)30〜45重量%、および、これらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜50重量%(ただし、芳香族系ビニル化合物単位(a1)、シアン化ビニル化合物単位(a2)、N−置換マレイミド単位(a3)、これらと共重合可能な他の単量体(a4)の合計は、100重量%)である。
【0023】
本発明においては、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給して、共重合体(A)の重合率が20〜70重量%となるまで反応させることが好ましい。
【0024】
完全混合型反応器としては、各種の撹拌翼、例えば、パドル翼、タービン翼、プロペラ翼、ブルマージン翼、多段翼、アンカー翼、マックスブレンド翼およびダブルヘリカル翼などを有する混合タイプの重合槽類を使用することができる。
【0025】
これらの重合槽類や反応器類は、1基(槽)または2基(槽)以上で使用され、また必要に応じて2種類以上の反応器類を組み合わせることもできるが、均一な組成分布を得るために、1槽の完全混合槽を利用する事が好ましい。
【0026】
本発明においては、ビニル系単量体混合物(a)を、連続塊状重合または連続溶液重合せしめるプロセス中に添加することが好ましい。
【0027】
連続溶液重合を選択する場合、上記単量体のほかに、ビニル系単量体混合物(a)100%に対して、1〜50重量%、好ましくは、1〜30重量%、より好ましくは、1〜20重量%の溶媒が使用される。使用する溶媒には飽和分の水が含まれていることも可能である。溶媒を使用する場合は、溶媒として、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ブチルアルコール、テトラヒドロフランなどの極性溶媒などが挙げられるが、これらの中で極性溶媒が好ましく、より好ましくは、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン基を有する溶媒であり、さらにより好ましくは、共重合体(A)の溶解性からメチルエチルケトンである。
【0028】
本発明においては、好ましくは、単量体混合液100重量%に対して、1〜30重量%の極性溶媒を用いる。
【0029】
本発明において、完全混合型反応器における重合温度は、70〜120℃が好ましく、より好ましくは、90〜115℃が望ましい。重合温度が70℃以下では、未反応N−置換マレイミドの低減が不十分となる場合がある。また、120℃以上では、反応速度が著しく速くなり、製造の安定性に問題が生じることがある。
【0030】
完全混合型反応器による重合工程の平均滞留時間は、目標とする重合率、重合温度、開始剤の種類・使用量によって決定されるが、0.5〜4時間の範囲が好ましく、より好ましくは1〜3時間である。この範囲にすることにより、重合制御が安定するとともに、組成が均一化した脂組成物を製造することができる。滞留時間が0.5時間より短いと、ラジカル重合開始剤の使用量を増加させる必要があり、重合反応の制御が困難になる場合がある。
【0031】
本発明において、完全混合型反応器における重合条件を制御することにより、得られる重合溶液(a)中の重合体含有率を20〜70質量%の範囲にすることができ、より好ましくは、重合体含有率は、30〜65質量%である。
【0032】
本発明では、単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、さらに、
前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する。
【0033】
本発明では、完全混合型反応器から反応液を抜き出して静的混合用構造部を有する管状反応器へ送液する操作は、例えば、ポンプにより行うことができる。ポンプは市販のギアポンプが好ましい。ポンプにより反応液を抜き出すことにより、安定に次の工程に反応液を送液することができるとともに、続いて設置された静的混合用構造部を有する管状反応器内部を反応液の蒸気圧以上に昇圧することができる。
【0034】
本発明の静的混合用構造部を有する管状反応器とは、可動部分の無い複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器(静的ミキシングエレメントを有する管状反応器)である。管状反応器による静的な混合を行いながら連続的に塊状重合または溶液重合を行うことにより、これまで達成することのできなかった、高ポリマー濃度領域で連続重合が可能となった。
【0035】
静力学的混合器は、複合湾曲管を持っているものが好ましい。本発明で使用する管状反応器の単位体積あたりの伝熱面積は、好ましくは、10m/m以上、より好ましくは、30m/m以上、更に好ましくは、50m/m以上である。
【0036】
さらに、静力学的混合器は、好ましくは、大きい内部熱交換表面との組み合わせにより、高い熱伝導が達成される。これにより、ホットスポットを形成するおそれなく、熱制御下にきわめて堅い発熱重合反応を行うことが可能となる。
【0037】
管状反応器の内部に固定されている複数のミキシングエレメントとしては、例えば、管内に流入した重合液の流れの分割と流れの方向を変え、分割と合流を繰り返すことにより、乱流を形成し重合液を混合するものが挙げられ、このような管状反応器として、好ましくは、スタティックミキサーが挙げられ、例として、SMX型、SMR型のスルザー式の管状ミキサー、ケニックス式のスタティクミキサー、東レ式の管状ミキサーなどが挙げられる。特に、SMX型、SMR型のスルザー式の管状ミキサーが好ましい。
【0038】
本発明では、完全混合型反応器に直列に配した静的混合用構造部を有する管状反応器で重合を進めることにより、最終重合体含有率(重合率)を高くして、引き続いて行う揮発物除去工程へ導入するN−フェニルマレイミド量を低減することが可能となり、経済的に有利な製造方法として工業的メリットが大きい。
【0039】
静的混合用構造部を有する管状反応器としては、有効反応容積を大きくするために、液状熱伝導媒体が内部コイルを流動する、少なくとも1個の静力学的混合用構造部が配設されている、少なくとも1個の反応器をから構成されていることが望ましい。これらの反応器は、1基または2基以上で使用され、また必要に応じて2種類以上の反応器類を組み合わせることもできる。
【0040】
本発明の管状反応器内部の圧力は、反応液の蒸気圧以上であることが好ましい。管状反応器内部の圧力は、好ましくは、1〜40kg/cm2Gかつ反応液の蒸気圧以上である。反応器内部を反応液の蒸気圧以上に維持することにより、反応液の発泡が抑えられ、発泡による閉塞が防止できる。
【0041】
本発明において、静的混合用構造部を有する管状反応器における重合温度は、70〜200℃が好ましく、90〜180℃がより望ましく、更に好ましくは100〜160℃である。重合温度が70℃以下では、重合速度が本発明に達せず、生産性が確保出来ない上に、未反応N−置換マレイミドの低減が不十分となる場合がある。また、200℃以上では反応速度が著しく速くなるとともに、重合体(A)が静的混合用構造部にスケールとして付着し、製造の安定性に問題が生じる場合がある。
【0042】
本発明は、管状反応器における反応液の平均滞留時間を0.01〜60分の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは0.1〜45分であり、この平均通過時間が0.01分より短いと重合率を十分に高めることができない。一方、この平均通過時間が60分より長いと最終的に得られる熱可塑性共重合体(A)の熱安定性が低下し、生産性も低下する場合があるため好ましくない。
【0043】
本発明では、完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて反応した共重合体(A)と未反応原料混合物の重合溶液中のN−置換マレイミド単量体の割合が1.0%以下である事が好ましい。N−置換マレイミド単量体が1.0%以上残留していると、揮発除去装置内でのオリゴマー発生や不均一なポリマー組成分布の原因となる場合があり、またN−置換マレイミド単量体自体が黄色を示しているため、製造ポリマーの着色の原因となる場合があり、N−置換マレイミドが固体単量体であるために、真空脱揮配管内でのスケーリング、固化と言った操業上のトラブル原因となる可能性がある。完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて反応した共重合体(A)と未反応原料混合物の重合溶液中のN−置換マレイミド単量体は、好ましくは、0.5%以下であり、より好ましくは、0.2%以下である。
【0044】
本発明では、完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器に、単量体混合液(a)を連続的に供給し、共重合体(A)の重合率が50〜90重量%となるまで反応させることが好ましい。共重合体(A)の重合率は、より好ましくは、60〜90重量%、さらに好ましくは、60〜85重量%である。共重合体(A)の重合率が50〜90重量%となるまで反応させることにより、完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて反応した共重合体(A)と未反応原料混合物の重合溶液中のN−置換マレイミド単量体を1.0%以下となる。
【0045】
本発明において、静的混合用構造部を有する管状反応器へは、完全混合型の反応器からの重合溶液の他に、ビニル系単量体混合物(b)や各種有機溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、熱安定剤を供給する事が出来る。
【0046】
静的混合用構造部を有する管状反応器へ供給するビニル系単量体混合物(b)を構成する単量体成分は、芳香族系ビニル化合物単位(b1)、シアン化ビニル化合物単位(b2)、N−置換マレイミド単位(b3)およびこれらと共重合可能な他の単量体(b4)からなるビニル系単量体混合物であることが好ましく、単量体混合物(a)と同等または異なる組成でもよい。単量体混合物(b)の供給量は、単量体混合物(a)100重量%に対して、好ましくは、0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%である。
【0047】
静的混合用構造部を有する管状反応器へ供給する有機溶媒としては、完全混合型の反応器へ供給する有機溶媒と、同等であっても異なる種類でもよいが、揮発分分離の容易性から、完全混合型の反応器へ供給する有機溶媒と同等の有機溶媒を用いることが望ましい。管状反応器へ供給する有機溶媒の量は単量体混合物(a)100重量%に対して、好ましくは、1〜30重量%、より好ましくは、1〜20重量%である。
【0048】
静的混合用構造部を有する管状反応器へ供給する単量体混合物(b)や有機溶媒には、適時、重合開始剤や連鎖移動剤、酸化防止剤、熱安定剤を混合することができる。酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系および含リン有機化合物系等であり、熱安定剤としては、フェノール系やアクリレート系等が挙げられる。酸化防止剤、熱安定剤の供給量としては単量体混合物(a)に対して、0〜2重量%が好ましい。その添加方法は、当該管状反応器入口に併設したサイドラインより添加する方法や管状反応器入口において、別に直列配置されたスタティックミキサーで予備混合し、当該管状反応器に通す方法が好ましい。
【0049】
本発明の熱可塑性共重合体の製造方法では、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する時、重合開始剤を使用せずに熱重合することも、重合開始剤を用いて開始剤重合することも、さらに熱重合と開始剤重合を併用することも可能である。重合開始剤としては、過酸化物またはアゾ系化合物などが用いられる。
【0050】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。
【0051】
また、アゾ系化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1′−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−1−シアノシクロヘキサン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノブタンおよび2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。
【0052】
なかでも、重合開始剤として、10時間半減期温度が70〜120℃であるものが好ましく、より好ましくは、80〜100℃であり、過酸化物系の重合開始剤の1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンが特に好ましく用いられる。
【0053】
開始剤の添加量は単量体100部に対して、通常0〜1重量部であるが、上記した液状熱伝導媒体が内部コイルを流動する静力学的混合反応器を用いることで、重合反応を重合開始剤ではなく、液状媒体の温度で制御できるため、開始剤の添加量を低減することができる。好ましくは、残存開始剤を低減する目的で、添加する開始剤の量は0〜0.1重量部である。
【0054】
これらの重合開始剤を使用する場合、1種または2種以上を併用することができる。二種以上を使用する場合は、10時間半減期温度が5℃以上離れているものを使用することが好ましい。これにより効率的に重合を進めることができる。
【0055】
また、本発明の熱可塑性共重合体の製造方法では、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する時、重合度調節を目的として、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を単量体混合物100重量部に対して、0.05〜0.2重量部を添加することが好ましい。本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでも、特にn−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンおよびn−ドデシルメルカプタンが連鎖移動剤として好ましく用いられる。これらの連鎖移動剤を使用する場合、1種または2種以上を併用することができる。
【0056】
本発明の熱可塑性共重合体の製造方法では、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)の重量平均分子量(以下Mwとも言う)は、好ましくは、3〜15万、より好ましくは、5〜13万、さらに、より好ましくは、8〜12万である。尚、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0057】
本発明の熱可塑性共重合体の製造方法で製造された共重合体をABS樹脂と溶融ブレンドする観点と、流動性の観点から、Mwの上限としては、15万であることがより好ましく、更に好ましくは上限が、13万である。また、Mwの下限は、耐衝撃性と溶融滞留安定性の観点から、3万であることがより好ましく、更に好ましくは、1万である。
【0058】
好ましい態様においては本発明の熱可塑性共重合体の製造方法で製造された共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、好ましくは、2以下、より好ましい態様においては、1.9以下である。分子量分布が、2以下にある場合には、得られる熱可塑性共重合体が成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。尚、本発明でいう分子量分布(Mw/Mn)とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から算出した数値を示す。本発明の前重合工程で使用する重合反応槽としては、均一混合が可能となり、均質な重合溶液(a)が得られる観点から、完全混合型反応槽を用いることが好ましい。
【0059】
本発明の熱可塑性共重合体の製造方法では、必要に応じて、公知の可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤などを添加してもよい。
【0060】
本発明では、好ましくは、(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器に連続的に供給し、さらに、(ハ)温度100℃以上300℃未満で、圧力が200Torr以下の減圧下において、連続的に脱揮し、未反応原料混合物と共重合体(A)を分離除去する。
【0061】
この脱揮工程における脱揮温度は、100以上300℃未満が好ましく、より好ましくは120以上280℃未満とする。100℃以下では、脱揮が不十分となる場合があるため、未反応単量体または重合溶媒である有機溶媒が除去されず、結果として得られる熱可塑性共重合体(A)の熱安定性や製品品質が低下する場合がある。また、300℃以上の場合は、残存する未反応単量体と共重合体(A)の熱劣化により、着色し、品質が低下する場合がある。
【0062】
また、脱揮工程においては、圧力が200Torr以下の減圧条件下であることが好ましく、より好ましくは100Torr以下、最も好ましくは50Torr以下である。圧力の下限については、好ましくは、0.1Torr以上である。
【0063】
脱揮工程における圧力が200Torr以上であると、前述の温度範囲で脱揮を行っても、効率よく未反応単量体または未反応単量体と重合溶媒の混合物を分離除去することができない場合があり、得られる熱可塑性共重合体(A)の熱安定性や品質が低下し、本発明の目的を達成できない場合がある。
【0064】
脱揮工程後の残留単量体の量は少なければ少ないほど、熱安定性や製品品質の観点から好ましい。好ましくは、芳香族系ビニル単量体が1.0%以下、より好ましくは1000ppm以下、好ましくは、シアン化ビニル化合物単位が500ppm以下、より好ましくは100ppm以下、好ましくは、N−置換マレイミド単位が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、好ましくは、有機溶媒が1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0065】
このような脱揮を行う連続式脱揮装置としては、ベントを有する一軸または二軸の押出機で加熱下常圧または減圧でベント口から揮発成分を除去する方法、遠心型などのプレートフィン型加熱器をドラムに内蔵する蒸発器で揮発成分を除去する方法、遠心型などの薄膜蒸発器で揮発成分を除去する方法、および多管式熱交換器を用いて予熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法などがあり、いずれの方法も使用できるが、特に共重合体の熱分解を抑制可能であり、設備費用が安価である多管式熱交換器を用いて予熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法が好ましい。連続式脱揮装置内の平均滞留時間は、好ましくは、5〜60分であり、より好ましくは10〜45分である。上記連続式脱揮装置は本発明の目的を損なわない範囲で2機以上使用する事も可能である。
【0066】
本発明では、単量体混合液(a)から共重合体(A)が生成する速度が20%/h以上である事が好ましい。
【0067】
上記脱揮工程で除去した未反応単量体または、未反応単量体と有機溶媒の混合物を回収し、重合工程において全量リサイクルすることが好ましい。揮発成分は脱揮工程において、減圧加熱状態で気化させられるため、当該揮発成分を回収する方法としては、コンデンサー付き蒸留機などの公知の冷却装置に通じ、揮発成分を液体状として回収することにより、そのまま再度、重合工程において全量リサイクルすることができる。また、液体状に回収した揮発成分は、必要に応じて、公知の蒸留装置を用いて蒸留精製した後、重合工程でリサイクルすることも可能である。
【0068】
揮発成分を除去した重合溶融体を押出して粒子化することにより、共重合体(A)のペレットを得ることができる。得られた共重合体(A)は、好ましくは、脱揮工程以前でN−置換マレイミドがほぼ完全に消費されているため、マレイミド単量体由来の黄色が改善し、好ましくは、ペレットYIが10以下となる。
【0069】
静的混合用構造部を有する管状反応器で反応させた後の共重合体(A)の組成は、好ましくは、芳香族系ビニル化合物20〜80重量%、シアン化ビニル化合物5〜30重量%、N−置換マレイミド10〜50重量%(ただし、芳香族系ビニル化合物、シア化ビニル化合物、N−置換マレイミドの合計は、100重量%である)であり、より好ましくは、芳香族系ビニル化合物30〜60重量%、シアン化ビニル化合物8〜15重量%、N−置換マレイミド25〜45重量%である(ただし、芳香族系ビニル化合物、シア化ビニル化合物、N−置換マレイミドの合計は、100重量%である)。
【0070】
本製造方法で得られる熱可塑性樹脂は、AS樹脂やABS樹脂とブレンド押出し、耐熱ABS樹脂として利用される。ブレンドするAS樹脂やABS樹脂、その他の添加剤やポリマーについてはいずれも利用可能である。耐熱ABS樹脂は、一般雑貨以外にも自動車内外装部品や家庭用電気機器など、種々の用途等に好適に用いられる。
【0071】
また、本発明で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形品として使用する場合、その成形方法についてはいずれも利用可能であり、成形手段としては射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形およびトランスファ成形などがあり、生産性の観点から射出成形が望ましい。
【実施例】
【0072】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法をさらに具体的に説明するため、以下に実施例を挙げて説明する。ここでは特に断りのない限り「%」は重量%を表し、「部」は重量部を示す。まず、熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性の分析方法を下記する。
【0073】
(1)重合率
ガスクロマトグラフにより、共重合体(A)と残存ビニル単量体化合物(a)の重合溶液および仕込み原料溶液中の未反応単量体濃度(重量%)を定量し、下式より
重合率=100×(1−M1/M0)
算出した。なお、各記号は下記の数値を
M1=重合溶液(a)中の未反応単量体濃度(重量%)
M0=仕込み原料溶液中の単量体濃度(重量%)
示す。
【0074】
(2)N−置換マレイミド残存量
脱揮工程に導入する前の共重合体(A)各2gをアセトン20gに溶解し、島津(株)製GC−14Aガスクロマトグラフにより残存する未反応N−置換マレイミド単量体を定量し、下式より含有量を
成分含有量(ppm)={α/P1}×1000000
算出した。なお、各記号は下記の数値を
α =ガスクロマトグラフより定量した残存N−置換マレイミドの重量(g)
P1=サンプリングした共重合体(A)の重量(g)
示す。
【0075】
(3)ポリマ生成速度
反応系モノマ単量体(a)の供給量をX1(kg/h)、脱揮装置から排出される共重合体(A)の吐出量をX2(kg/h)とし、完全混合槽、管状反応器、脱揮装置内の単量体(a)と共重合体(A)のトータル滞留時間をτ(h)とし、下式より
反応速度(%/h)=(X2/X1)/τ
算出した。
【0076】
(4)共重合体(A)の重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体(A)および熱可塑性共重合体(C)10mgをテトラヒドロフラン2gに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、温度30℃、流速1.0mL/分の条件で重量平均分子量Mw(絶対分子量)、数平均分子量Mn(絶対分子量)を測定した。分子量分布は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)から算出した。
【0077】
(5)熱可塑性樹脂組成物の色調(YI値)
JISK7105(1981制定)、6.3黄色度黄変度の測定方法に従って評価した。
【0078】
(6)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0079】
(7)各成分組成分析
重ジメチルスルフォキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0080】
(8)ブリード量
得られた共重合体(A)ペレット15gを80℃で3時間乾燥させた後、下部に配置した270℃熱プレートに平敷きとした。スペーサーを用い上部プレートの隙間を4mmに調整し、10分間加熱後、上部プレートを外した。上部プレートに付着したブリード物を秤量し、試料15gに含まれるブリード量(重量%)を求めた。
【0081】
[実施例1](連続溶液重合法)
容量が20リットルで、ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、20L/分の窒素ガスで15分間バブリングした下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2重量部
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 0.005重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
50rpmで撹拌し、内温を110℃に制御し、平均滞留時間2時間で、連続重合を行った。重合率は60%であった。ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブは、完全混合型の反応器である。
【0082】
続いて、前重合工程で得られた重合溶液を連続的に抜き出し、ギアポンプを用い、内径2.5インチ管状反応器(スイス国ゲブリューター・ズルツァー社製SMX型スタティックミキサー・静的ミキシングエレメント30個内蔵、伝熱面積130m/m)に連続的に供給し、重合反応を行った。この時の管型反応器の内壁温度は130℃であり、平均滞留時間は30分であり、重合率80%であり、N−フェニルマレイミド残存量は、1500ppmであった。管状反応器は、ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに直列に配置されていた。
【0083】
続いて、重合溶液を260℃に加熱した脱揮タンクに供給し、30分間、圧力20Torrにて、脱揮反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)を得た。得られたポリマーの量は4.2kg/hであり、トータル滞留時間は3時間、ポリマ生成速度は28%/hであった。この共重合体(A−1)のMwは、120000、Mw/Mnは1.5であった。
【0084】
[実施例2](連続溶液重合法)
下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2重量部
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
実施例1と同様に連続重合を行った。完全混合型反応器での重合率は、50%であり、管状反応器の内壁温度は、140℃であり、出口重合率は75%、N−フェニルマレイミド残存量は2000ppmであった。脱揮反応は実施例1と同様であり、ポリマ生成速度は28%/hであった。この共重合体(A−2)のMwは、115000、Mw/Mnは、1.4であった。
【0085】
[実施例3](連続溶液重合法)
下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 9.0重量部
スチレン 55.0重量部
N−フェニルマレイミド 36.0重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 0.005重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
実施例1と同様に連続重合を行った。完全混合型反応器の重合率は、65%であり、管状反応器出の重合率は、82%、N−フェニルマレイミド残存量は、100ppmであった。得られたポリマーの量は4.4kg/hであり、ポリマ生成速度は、29.3%/hであった。この共重合体(A−3)のMwは、110000、Mw/Mnは、1.5であった。
【0086】
[実施例4](連続溶液重合法)
下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2重量部
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 0.005重量部
n−オクチルメルカプタン 0.25重量部
実施例1と同様に連続重合を行った。この共重合体(A−4)のMwは、85000、Mw/Mnは、1.5であった。
【0087】
[実施例5](連続塊状重合法)
下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2重量部
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
実施例1と同様に連続重合を行った。完全混合器での平均滞留時間は、1時間であり、重合率は、60%であった。管型反応器の内壁温度は、130℃であり、平均滞留時間は30分であり、重合率80%であり、N−フェニルマレイミド残存量は、700ppmであった。続いて、脱揮反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−5)を得た。得られたポリマーの量は、4.2kg/hであり、トータル滞留時間は2時間、ポリマ生成速度は、42%/hであった。この共重合体(A−5)のMwは、120000、Mw/Mnは、1.5であった。
【0088】
[実施例6](連続溶液重合法)
実施例1の条件のうち、重合溶液を260℃に加熱した脱揮タンクに供給し、120分間、圧力250Torrにて、脱揮反応を行なった以外は、実施例1と同様の条件で実施した。ポリマー生成速度18.2%/hであり、脱揮缶内での長時間滞留により共重合体が大量の熱履歴を受けたため、得られたペレットが黄色を呈していた。この共重合体(A−6)のMwは、170000、Mw/Mnは、2.3であった。
【0089】
[実施例7](連続溶液重合法)
実施例1の条件のうち、メチルエチルケトン量を50重量部とした以外は、メチルエチルケトン同様の条件で実施した。完全混合槽内での平均滞留時間は2時間であり、重合率は30%であった。
【0090】
管型反応器の内壁温度は、130℃、平均滞留時間は、30分であり、重合率40%であり、N−フェニルマレイミド残存量は、15000ppmであった。脱揮反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−7)を得た。得られたポリマーの量は、2.0kg/hであり、トータル滞留時間は3時間、ポリマ生成速度は13%/hであった。この共重合体(A−7)のMwは、40000、Mw/Mnは、2.2であった。
【0091】
[比較例1](連続溶液重合法)
容量が20リットルで、ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、20L/分の窒素ガスで15分間バブリングした下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、50rpmで撹拌し、内温が110℃に制御し、平均滞留時間2時間で、連続重合を行った。
【0092】
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 0.005重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
重合率は、60%であり、N−フェニルマレイミド残存量は、30000ppmであった。
【0093】
続いて、重合溶液を260℃に加熱した脱揮タンクに供給し、30分間、圧力20Torrにて、脱揮反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−6)を得た。脱揮配管内に大量のN−フェニルマレイミドが残留し、テスト開始後24時間でライン閉塞した。この共重合体(A−8)のMwは、40000、Mw/Mnは、1.5であった。得られたペレットは、残存イミドモノマにより黄色を呈していた。
【0094】
[比較例2]
容量が20リットルで、ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、20L/分の窒素ガスで15分間バブリングした下記処方の単量体混合物を5kg/hの速度で連続的に供給し、
アクリロニトリル 12.3重量部
スチレン 51.2重量部
N−フェニルマレイミド 36.5重量部
メチルエチルケトン 15.0重量部
1,1′−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン 0.2重量部
n−オクチルメルカプタン 0.20重量部
50rpmで撹拌し、内温を110℃に制御し、平均滞留時間2時間で、連続重合を行った。重合率が90%まで上昇した。反応制御が不可能であり、後段の直列に配置された管状反応器へポリマを移液することができなかった。
【0095】
上記の実施例1〜7と比較例1、2の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を表1に、得られたペレットのブリード量、ペレットYI値、組成分布結果などの特性等を表2にまとめて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
実施例1〜7の結果から明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物は、生産効率がよく、操業上の問題も解決されており、分子量、分子量分布、色調(YI値)、成形機金型汚れ(ブリード量)、耐熱性(ガラス転移温度)の全てにおいて優れていた。特に、実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物は、生産効率がよく、優れた分子量、分子量分布、色調(YI値)、成形機金型汚れ(ブリード量)、耐熱性(ガラス転移温度)を示した。
【0099】
比較例1は、管状反応器を有していない。残存N−置換マレイミドの影響から脱揮工程の配管が閉塞し、分子量、ブリード量、製品色調において、実施例より劣っていた。
【0100】
比較例2では、重合暴走したために重合条件を確立できず、熱可塑性樹脂を生産することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、さらに、
(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて、芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)からなる共重合体(A)を製造する熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項2】
(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給し、
(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器に連続的に供給し、さらに、
(ハ)温度100℃以上300℃未満で、圧力が200Torr以下の減圧下において、連続的に脱揮し、未反応原料混合物と共重合体(A)を分離除去する
請求項1記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項3】
(イ)芳香族系ビニル単量体(a1)、シアン化ビニル単量体(a2)、N−置換マレイミド単量体(a3)を含む単量体混合液(a)を完全混合型の反応器に連続的に供給して、共重合体(A)の重合率が20〜70重量%となるまで反応させ、
(ロ)前記完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器に連続的に供給し、共重合体(A)の重合率が50〜90重量%となるまで反応させる請求項1または2に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の静的混合用構造部を有する管状反応器が、複合湾曲管を持った構造部を有し、単位体積あたりの伝熱面積が50m/m以上である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項5】
完全混合型反応器に直列に配置された静的混合用構造部を有する管状反応器を用いて反応した共重合体(A)と未反応原料混合物の重合溶液中のN−置換マレイミド単量体の割合が1.0%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項6】
単量体混合液100重量%に対して、1〜30重量%の極性溶媒を用いる請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項7】
共重合体(A)の重量平均分子量が、5〜13万であり、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnが、2以下である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項8】
静的混合用構造部を有する管状反応器で反応させた後の重合体(A)が、芳香族系ビニル化合物20〜80重量%、シアン化ビニル化合物5〜30重量%、N−置換マレイミド10〜50重量%(ただし、芳香族系ビニル化合物、シア化ビニル化合物、N−置換マレイミドの合計は、100重量%である)からなる請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−191096(P2009−191096A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30429(P2008−30429)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】