説明

熱接着性不織布、吸音性繊維シートおよび吸音材料

【課題】本発明の課題は、熱接着性に優れた不織布を提供することにある。
【解決手段】 繊度3.0dtex以上、繊維長30〜100mmであり融点が180℃以下の低融点熱可塑性樹脂繊維を30質量%以上含むニードルパンチ不織布とすることで熱接着性に優れた熱接着性不織布を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性に優れた不織布、上記不織布と多孔質パルプ繊維を含む繊維シートとからなる吸音性繊維シート、更に上記吸音性繊維シートと多孔質基材との積層材である吸音材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱接着性不織布としては、従来から低融点熱可塑性樹脂繊維を含むニードルパンチ不織布が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−78446号公報
【特許文献2】特開2005−201991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ニードルパンチ不織布は繊維ウェブをニードルパンチすることによってウェブ中の繊維相互を絡合することで製造される。上記ニードルパンチング工程において、繊維ウェブはパンチング方向、即ちウェブ厚み方向に配向される傾向にある。
上記熱接着性不織布には上記したように低融点熱可塑性樹脂繊維が含まれているが、上記ニードルパンチング工程においては、上記低融点繊維もウェブ厚み方向に配向され不織布中に埋没するので、熱接着に有効な不織布表面の低融点熱可塑性樹脂繊維の割合が減少する。
【0005】
上記熱接着性不織布は、他の繊維シートや繊維マット等と接着されて吸音性シートあるいは吸音性材料として使用されることが多い。しかし上記ニードルパンチ不織布の場合は、上記したように表面に露出する低融点熱可塑性樹脂繊維の割合が減少しているので、上記熱接着性ニードルパンチ不織布と、他の繊維シートあるいは繊維マットとの接着が不充分になるという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の問題点を解決するための手段として、繊度3.0dtex以上、繊維長30〜100mmであり融点が180℃以下の低融点熱可塑性樹脂繊維を30質量%以上含むニードルパンチ不織布である熱接着性不織布を提供するものである。
上記低融点熱可塑性樹脂繊維は、融点190℃以上の高融点熱可塑性樹脂からなる芯成分と、融点180℃以下の低融点熱可塑性樹脂からなる鞘成分とによって構成される芯鞘型複合繊維であることが望ましい。
更に本発明にあっては、上記熱接着性不織布と、叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲の多孔質パルプ繊維を90質量%以上含み、通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mの範囲に設定されている繊維シートとを熱接着した吸音性繊維シート、更に上記吸音性繊維シートと多孔質基材との積層材である吸音材料が提供される。
上記吸音材料においては、上記熱接着性不織布、上記繊維シートおよび上記多孔質基材のうち少なくとも1つに合成樹脂を塗布および/または含浸および/または混合することが望ましく、該合成樹脂として擬似熱可塑性樹脂のみ、または上記擬似熱可塑性樹脂と他の合成樹脂との混合樹脂を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
繊度が3.0dtex以上の低融点熱可塑性樹脂繊維にあっては、剛性が高いのでニードルパンチングの際、ウェブ厚み方向に配向されにくい。その上該不織布を加熱した際、溶融物は不織布表面に広がり易く、熱接着性が向上する。繊度が3.0dtexに満たない低融点熱可塑性樹脂繊維の場合には、繊度が細すぎて接着性や剛性が低くなり、ニードルパンチングによってウェブ厚み方向に配向され易くなって不織布中に埋没してしまい、更に該不織布を加熱した際、溶融物は不織布表面に広がらず、有効熱接着面積も減少する。
更に繊維長が30mmに満たない低融点熱可塑性樹脂繊維の場合には、該繊維が繊維シートの面方向に配向したとしても繊維長さが短いために接着性に寄与せず、不織布繊維相互間の絡み合いが弱くなり、また該不織布と他の繊維シートとを熱接着する場合、該低融点熱可塑性樹脂繊維と他の繊維シートを構成する繊維との接着面における絡み合いも弱くなる。繊維長が30mm以上の低融点熱可塑性樹脂繊維の場合には、不織布繊維間の絡み合いも他の繊維シートの繊維との絡み合いも強くなり、熱接着性が向上するが、繊維長が100mmを超えると、繊維長さが長すぎるために繊維シートの面方向に繊維が配向しにくくなり、低融点熱可塑性樹脂繊維がニードルパンチングの際に糸まり状になり易く、その結果不織布中での繊維相互間の絡み合いや他の繊維シートの繊維との絡み合いが弱くなり、有効熱接着面積も減少する。
更に上記低融点熱可塑性樹脂繊維の含有量が30質量%に満たない不織布の場合には、該不織布の熱接着性が不充分なものとなる。
【0008】
上記低融点熱可塑性樹脂繊維として、融点190℃以上の高融点熱可塑性樹脂からなる芯成分と、融点180℃以下の低融点熱可塑性樹脂からなる鞘成分とによって構成される芯鞘型複合繊維を用いると、上記高融点熱可塑性樹脂からなる芯成分によって不織布に望ましい剛性と耐熱性とが付与される。
【0009】
上記不織布に例えば叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲の多孔質パルプ繊維を90質量%以上含み、通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mの範囲に設定されている繊維シートを熱接着すると、吸音性繊維シートが提供される。
【0010】
上記繊維シートには多孔質パルプ繊維が90質量%以上含まれているが、上記多孔質パルプ繊維は叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲である。叩解度がろ水度で650ml(CSF)を超えている場合には、同心円状の緩みが不充分となり、パルプ繊維の多孔質化が不充分となり空隙率が低下して吸音材料の吸音性能に悪影響が及ぼされる。一方350ml(CSF)を下回るとパルプ繊維のフィブリル化が進んで細分化されてしまい、極微細繊維が増加するので、かかるパルプ繊維を90質量%以上含む繊維シート、即ち紙の密度が高くなり、通気抵抗が高くなって吸音材料の吸音特性に悪影響が及ぼされる。
【0011】
上記多孔質パルプ繊維は長径が100μm以下の微細繊維となるが、表面に開口する細孔を多数有し、該多孔質パルプ繊維自体に通気性および空気保持性があり、また繊維表面は毛羽立ち状態となっているので、繊維相互間に形成される空間によっても通気性、空気保持性が付される。このような多孔質パルプ繊維を90質量%以上含む繊維からなる繊維シートは、目付量が15g/m〜35g/mの範囲内であっても、上記繊維シートの通気抵抗は0.07〜2.50kPa・s/mの範囲となり、望ましい吸音性能を有する繊維シートとなる。上記繊維シートの通気抵抗が0.07kPa・s/mを下回ると繊維シートの密度が低くなり過ぎ、繊維シートの強度や剛性が低下し、吸音性能が不充分になる。また上記通気抵抗が2.50kPa・s/mを上回ると繊維シートの密度が高くなり、吸音特性が不充分になり、剛性が大きくなり柔軟性が減少して成形性も悪くなる。
【0012】
上記吸音性繊維シートは多孔質基材の片面または両面、あるいは多孔質基材内に挿入すれば、自動車等に有用な吸音材料が提供されるが、上記したように上記吸音性繊維シートは吸音性能に好適な通気抵抗を有するから、該多孔質基材の厚みを増大させて通気抵抗を高める必要はなく、軽量な厚みの薄い吸音材料が提供される。
上記吸音材料において上記熱接着性不織布、上記繊維シートおよび上記多孔質基材のうち少なくとも1つに合成樹脂を塗布および/または含浸および/または混合すれば、例えば低融点繊維の溶融物による不織布表面の凹凸の形成を抑制することが出来る等のように、吸音材料の表面平滑性が向上する。
塗布および/または含浸および/または混合せしめる合成樹脂として擬似熱可塑性樹脂、あるいは上記擬似熱可塑性樹脂と他の合成樹脂との混合樹脂を使用した場合、擬似熱可塑性樹脂は、酸とアルコールとの反応によって硬化するから、硬化に際してホルムアルデヒド等の有害物質を発生せず、また硬化温度が160℃〜220℃程度の範囲にあるために、該擬似熱可塑性樹脂を含浸した熱接着性不織布や繊維シートや多孔質基材を上記硬化温度以下の温度で加熱乾燥して原反とすれば、上記原反中には上記擬似熱可塑性樹脂が未硬化の状態で安定に存在するので、上記原反は長期保存が可能であり、成形する時には上記原反を重合して160℃〜220℃の硬化温度で熱圧成形すれば、上記原反中の上記擬似熱可塑性樹脂は可塑化し、そして硬化し、成形型には上記擬似熱可塑性樹脂が付着しないから、熱接着性不織布や繊維シートや多孔質基材を重ねて一度に熱圧成形することができる。
【0013】
〔効果〕
したがって本発明にあっては、不織布に含まれている低融点熱可塑性樹脂繊維が有効に熱接着性に関与するから、該不織布の熱接着性が向上する。
該熱接着性不織布は叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲の多孔質パルプ繊維を90質量%以上含み通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mの範囲に設定されている繊維シートに補強材や表皮材として熱接着されると、薄くて吸音性能が高い吸音性繊維シートが提供され、また上記吸音性繊維シートと多孔質基材とを積層すると軽量な厚みの薄い吸音材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】突起高さhを説明する説明図
【図2】通気抵抗Rの測定方法を説明する説明図
【図3】本発明の吸音材料の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔熱接着性不織布〕
(低融点熱可塑性樹脂繊維)
本発明の熱接着性不織布には融点が180℃以下、望ましくは80℃以上180℃以下の低融点熱可塑性樹脂繊維が少なくとも30質量%以上含まれる。
上記低融点熱可塑性繊維としては、例えば融点180℃以下のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等のポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル共重合体繊維、ポリアミド繊維、ポリアミド共重合体繊維等がある。これらの低融点熱可塑性樹脂繊維は、単独あるいは2種以上組み合わせて使用される。該低融点熱可塑性樹脂繊維の繊度は、3.0dtex以上とする。更にニードルパンチングの際の絡合性を考慮すれば、該低融点熱可塑性樹脂繊維の繊度は60dtex以下であることが好ましい。より好ましい繊度は4.0〜20.0dtexの範囲である。更に上記低融点熱可塑性樹脂繊維の繊維長は30〜100mmの範囲に、好ましくは40〜75mmの範囲に設定する。本発明に使用する望ましい低融点熱可塑性樹脂繊維としては、例えば融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を芯部分とし、該低融点熱可塑性樹脂繊維の材料樹脂である融点80〜180℃の低融点熱可塑性樹脂を鞘とする芯鞘型複合繊維がある。該芯鞘型複合繊維を使用すると、得られる表皮材の剛性や耐熱性が低下しない。
上記低融点熱可塑性樹脂繊維の含有量が30質量%を下回ると、不織布の熱接着性が不充分なものとなる。
【0016】
(その他の繊維)
上記低融点熱可塑性樹脂繊維以外に使用される繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維等の合成繊維、とうもろこしやサトウキビ等の植物から抽出された澱粉からなる生分解繊維、パルプ、木綿、ヤシ繊維、麻繊維、竹繊維、ケナフ繊維等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機繊維、あるいはこれらの繊維を使用した繊維製品のスクラップを解繊して得られた再生繊維の1種または2種以上の繊維が使用されるが、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維、ステンレス繊維等の無機繊維やポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維等のアラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の望ましくは融点が250℃以上の耐熱性合成繊維を混合使用すれば、耐熱性の極めて高い不織布が得られる。その中でも炭素繊維は焼却処理が可能で細片が飛散しにくい点で有用な無機繊維であり、アラミド繊維は比較的安価で入手し易い点で有用な難燃性合成繊維である。
【0017】
上記繊維材料を使用してニードルパンチ不織布を製造するには、先ず上記繊維材料を使用して流繊方式ウェブ形成機、気流方式ウェブ形成機等によってウェブを製造し、該ウェブの上からフックのついた針(バーブニードル)を多数配設した針板を上下させることによって該バーブニードルを該ウェブに突刺したり引き上げたりすることを繰返してウェブ中の繊維同士を互いに絡ませる方法による。
【0018】
上記ニードルパンチ不織布に例えば平板プレス、ロールプレス等によって加圧処理を行なってもよい。上記加圧処理は常温でもあるいは加熱状態にしてもよいが、加圧力はロールプレスの場合で通常5〜300kg/cm程度とする。
【0019】
〔吸音性繊維シート〕
上記熱接着性不織布は例えば、叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲の多孔質パルプ繊維を90質量%以上含み、通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mの範囲に設定されている繊維シートに補強材または表面材として積層熱接着され、吸音性繊維シートが製造される。
【0020】
(多孔質パルプ繊維)
上記繊維シートに使用される多孔質パルプ繊維とは、繊維自体が、その表面で開口する細孔を多数有するものをいう。上記多孔質パルプ繊維は、非木材系植物繊維および/または木材系植物繊維からなり、通常針葉樹や広葉樹のチップを原料とし、叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲で繊維の長径が100μm以下の多孔質パルプ繊維である。
上記叩解は通常コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等によって行われる。
上記多孔質パルプ繊維の平均長は0.2〜30mmの範囲であることが望ましく、長径は5〜100μmであることが望ましい。上記多孔質パルプ繊維の平均長が0.2mmに満たない場合は繊維シート基材中の繊維相互の絡み合いが不充分となって繊維シート基材の強度が低下し、平均長が30mmを超えると繊維自体が糸まり状に絡み易くなり、繊維をシートにすることが困難となる。また繊維長径が5μmに満たない場合はシート密度が過大になりまたシート強度が低下し、繊維長径が100μmを超えると繊維自体の剛性が高くなって繊維相互の絡み合いが困難になる。
上記繊維シートに使用される多孔質パルプ繊維は二種以上混合使用されてもよく、また、上記多孔質パルプ繊維と通常繊維(非多孔質繊維)とを混合してもよい。なお、この場合の混合比率は多孔質パルプ繊維が90質量%以上含まれるべきであり、望ましくは95質量%以上、更に望ましくは100質量%含まれるべきである。
【0021】
(通常繊維)
上記繊維シートにあっては、上記多孔質パルプ繊維が90質量%以上含まれるが、上記多孔質パルプ繊維以外に使用される繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維等の合成繊維、とうもろこしやサトウキビ等の植物から抽出された澱粉からなる生分解繊維(ポリ乳酸繊維)、パルプ、木綿、ヤシ繊維、麻繊維、竹繊維、ケナフ繊維等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機繊維、あるいはこれらの繊維を使用した繊維製品のスクラップを解繊して得られた再生繊維の1種または2種以上の繊維が使用される。
【0022】
上記繊維シートは上記多孔質パルプ繊維あるいは所望なれば上記多孔質パルプ繊維以外の繊維を添加した混合繊維を抄造、ニードルパンチング、編繊等を施すことによってシートとしたものであるが、その通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mになるように設定される。上記通気抵抗が0.07kPa・s/mを下回ると繊維シート基材の密度が低くなり過ぎ、繊維シート基材の強度や剛性が低下する。また上記通気抵抗が2.50kPa・s/mを上回ると繊維シート基材の密度が高くなり、吸音特性が不充分になり剛性が大きくなり、柔軟性が減少して成形性も悪くなる。
上記繊維シート基材には所望なればクレープ加工および/またはエンボス加工を施して表面に、例えば縮緬状の皺状凹凸や多数の突起等の多数の凹凸を形成して伸縮性を付与して成形性を改良してもよい。
【0023】
上記クレープ加工には、湿潤の状態の繊維シートに対してプレスロールやドクターブレード等を用いて縦方向(抄造方向)に圧縮して皺付けを行なうウェットクレープと、上記繊維シートをヤンキードライヤーやカレンダーで乾燥した後、ドクターブレード等を用いて縦方向に圧縮して皺付けを行なうドライクレープとがある。クレープ加工された繊維シートの場合は、クレープ率が10〜50%であることが望ましい。
ここで、該クレープ率は、
クレープ率(%)=(A/B)×100(Aはクレープ加工前の長さ、Bはクレープ加工後の長さ)
換言すれば、該クレープ率は多孔質パルプ繊維からなる繊維シートがクレーピングで縦方向(抄造方向)に圧縮される割合である(参考:特開2002-327399、特表平10-510886)。
ここで、クレープ率が10%に満たないとクレープ加工による吸音性能の向上が顕著でなくなり、かつ伸縮性も不足して深絞り成形に対応困難となり、一方、該クレープ率が50%を越えると、成形時に皺が入り易くなる。
上記エンボス加工は、表面に多数の凹凸が彫られたロール(エンボスロール)やプレート(エンボスプレート)を原繊維シートに押圧して該繊維シートの表面に多数の突起を形成したものであり、該突起の突起高さが0.02〜2.00mmであり、かつ、突起数が20〜200個/cmであることが望ましい。該突起高さが0.02mmに満たないと、エンボス加工による吸音性能の向上が顕著でなくなり、かつ伸縮性も不足して深絞り成形に対応困難となり、また、突起高さが2.00mmを越えた場合には、成形時に皺が入り易い。また、突起数が20個/cmに満たないと、エンボス加工による吸音性能の向上が顕著でなくなり、突起数が200個/cmを越えた場合には、エンボス加工繊維シート基材の吸音性能の向上が見られなくなる。なお、図1において、エンボス加工繊維シート基材1aには突起1bが多数形成されており、突起1bの高さは、図1に示す「h」に相当する。
なお、上記エンボス加工工程において、原繊維シートにクレープ加工繊維シートを用いれば、エンボスクレープ加工繊維シート基材が得られる。
【0024】
上記繊維シートの目付量は15g/m〜35g/mに設定することが望ましい。この範囲で該繊維シートの通気抵抗0.07〜2.50kPa・s/mが実現される。そして該目付量が15g/mに満たない場合には繊維シートの強度が低下して成形時に繊維シートの破れが生じ易くなり、一方、目付量が35g/mを越えると質量が増大して吸音材料の軽量性が失われ、かつ成形性が低下し皺が生じ易くなる。
【0025】
また前記したように、上記繊維シート基材の通気抵抗は、0.07〜2.50kPa・s/mであるが、ここで、上記の通気抵抗(Pa・s/m)とは、通気性材料の通気の程度を表す尺度である。この通気抵抗の測定は定常流差圧測定方式により行われる。図2に示すように、シリンダー状の通気路W内に試験片Tを配置し、一定の通気量V(図中矢印の向き)の状態で図中矢印の始点側の通気路W内の圧力P1と、図中矢印の終点P2の圧力差を測定し、次式より通気抵抗Rを求めることが出来る。
R=ΔP/V
ここで、ΔP(=P1−P2):圧力差(Pa)、V:単位面積当りの通気量(m/m・s)である。
通気抵抗は、例えば、通気性試験機(製品名:KES−F8−AP1、カトーテック株式会社製、定常流差圧測定方式)によって測定することが出来る。
【0026】
上記不織布と上記多孔質パルプ繊維含有繊維シートとの熱接着は、上記不織布中に含まれている低融点熱可塑性樹脂の融点以上の温度に上記不織布を加熱して上記不織布中の低融点熱可塑性樹脂繊維を軟化させた状態で上記繊維シートと圧着することによって行われる。上記不織布の加熱は上記繊維シートと圧着する前に予め上記不織布を加熱しておいてもよいし、あるいは上記不織布と上記繊維シートとの圧着時に加圧ロール、加圧板等の圧着手段を加熱しておいてもよい。
【0027】
〔吸音材料〕
(多孔質基材)
上記吸音性繊維シートは多孔質基材と積層されることによって、自動車等に好適な吸音材料が提供される。
上記多孔質基材としては、例えばポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維等の合成繊維、とうもろこしやサトウキビ等の植物から抽出された澱粉からなる生分解繊維(ポリ乳酸繊維)、パルプ、木綿、ヤシ繊維、麻繊維、竹繊維、ケナフ繊維等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機繊維、あるいはこれらの繊維を使用した繊維製品のスクラップを解繊して得られた再生繊維の1種または2種以上の混合繊維や、融点180℃以下のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等のポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル共重合体繊維、ポリアミド繊維、ポリアミド共重合体繊維、更には融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を芯部分とし、該低融点熱可塑性樹脂繊維の材料樹脂である融点80〜180℃の低融点熱可塑性樹脂を鞘とする芯鞘型複合繊維、あるいはこれら繊維の2種以上の混合繊維を材料としたフェルト、不織布等の繊維マットあるいはシート、通気性ポリウレタン発泡体、通気性ポリエチレン発泡体、通気性ポリプロピレン発泡体、通気性ポリスチレン発泡体、通気性フェノール樹脂発泡体、通気性メラミン樹脂発泡体等の通気性プラスチック発泡体からなるシートが多孔質性基材の材料として用いられてもよい。
上記多孔質基材の目付量、厚みは原則任意に設定可能であるが、望ましくは、目付量50〜3000g/m、更に望ましくは100〜2000g/m、厚み2〜30mm、更に望ましくは5.0〜20.0mmに設定され得る。
【0028】
上記吸音性繊維シートと上記多孔質基材との積層構造としては、図3(a)に示すように該多孔質基材11の片面に該吸音性繊維シート12を接着した構造、(b)に示すように該多孔質基材11の両面に該吸音性繊維シート12を接着した構造、(c)に示すように該吸音性繊維シート12の両面に該多孔質基材11A、11Bを接着した構造等がある。
【0029】
図3(a)、(b)の場合は、通常該吸音性繊維シート12の多孔質パルプ繊維含有シート側を該多孔質基材11表面に接着する。
この場合には該吸音性繊維シート12と該多孔質基材11との接着は通気性接着剤層を介して行なう。該通気性接着剤層としては、例えば篩分け法によって測定した粒度が80μm〜500μmで軟化温度が80〜180℃であるホットメルト接着剤粉末を2g/m〜40g/mの塗布量で撒布して加熱溶融付着させることによって形成されるが、それ以外にもくもの巣状のホットメルト接着剤ウェブを使用する方法、ホットメルト接着剤やアクリル系樹脂接着剤等の溶液あるいは分散液をシルクスクリーン印刷、オフセット印刷等によって点状に塗布する方法やスプレー塗布等によっても形成される。
上記ホットメルト接着剤としては、上記したように軟化温度が80〜180℃であるポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の合成樹脂が使用される。
また、図3(a)、(b)で該吸音性繊維シート12の熱接着性不織布側を該多孔質基材11表面に接着する場合は、そのまま熱接着性不織布を介して熱接着する。
【0030】
図3(c)の場合には、上記吸音性繊維シート12の熱接着性不織布側では上記多孔質基材11Aまたは11Bを上記熱接着性不織布を介して熱接着し、多孔質パルプ繊維含有繊維シート側では、上記通気性接着剤層を介して上記多孔質基材11Aまたは11Bと接着する。
【0031】
(合成樹脂)
本発明に係る不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材にあっては、剛性や成形性を付与するために、合成樹脂等を塗布および/または含浸および/または混合させてもよい。合成樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂および/または擬似熱可塑性樹脂が例示される。
【0032】
a.熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)樹脂、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合(ASA)樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合(AS)樹脂、アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン共重合(ACS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、エチレンビニルアルコール共重合(EVOH)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリブタジエン(BDR)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合(ABS)樹脂、塩素化ポリエチレン(CPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリプロピレン(PP)、酢酸繊維素(セルロースアセテート:CA)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリオキシメチレン(=ポリアセタール)(POM)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)エラストマー、熱可塑性エラストマー(TPE)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、全芳香族ポリエステル(POB)等が例示される。このような熱可塑性樹脂は、上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材に含浸および/または塗布および/または混合されて、成形形状保持性および剛性を向上せしめる。
【0033】
上記熱可塑性樹脂は、2種以上混合使用されてもよく、また熱可塑性シートの熱可塑性樹脂を阻害しない程度で若干量の熱硬化性樹脂の1種または2種以上を混合使用してもよい。該熱可塑性樹脂は取り扱いが容易な点から水溶液、水性エマルジョン、水性ディスパージョンの形のものを使用することが好ましいが、有機溶剤溶液の形のものを使用してもよい。
【0034】
b.熱硬化性樹脂
上記熱硬化性樹脂としては、例えばウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等が使用されるが、該合成樹脂を生成するウレタン樹脂プレポリマー、尿素樹脂プレポリマー(初期縮合体)、フェノール樹脂プレポリマー(初期縮合体)、ジアリルフタレートプレポリマー、アクリルオリゴマー、多価イソシアナート、メタクリルエステルモノマー、ジアリルフタレートモノマー等のプレポリマー、オリゴマー、モノマー等の合成樹脂前駆体が使用されてもよい。該熱硬化性樹脂も取り扱いが容易な点から、水溶液、水性エマルジョン、水性ディスパーションの形のものを使用することが好ましいが、有機溶剤溶液の形のものを使用してもよい。
上記熱硬化性樹脂あるいは合成樹脂前駆体は二種以上混合使用されてもよい。
上記合成樹脂、特に熱硬化性樹脂の添加は、上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材の成形形状保持性と剛性を共に向上せしめる。
【0035】
また、特に本発明で使用される樹脂として望ましいのは、フェノール系樹脂である。該フェノール系樹脂は、フェノール系化合物とホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒド供与体とを縮合させることによって得られる。
上記フェノール系樹脂に使用されるフェノール系化合物としては、一価フェノールであってもよいし、多価フェノールであってもよいし、一価フェノールと多価フェノールとの混合物であってもよいが、一価フェノールのみを使用した場合、硬化時および硬化後にホルムアルデヒドが放出され易いため、好ましくは多価フェノールまたは一価フェノールと多価フェノールとの混合物を使用する。
【0036】
c.擬似熱可塑性樹脂
本発明において使用される擬似熱可塑性樹脂は、
(A)5〜100質量%がエチレン性不飽和酸無水物またはカルボン酸基が酸無水物基を形成することができるエチレン性不飽和ジカルボン酸からなるラジカル重合により得られたポリマーと、
(B)少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルカノールアミンと、
(A)+(B)の和に対して1.5質量%より少ない、リン含有反応促進剤と、
を含有する、ホルムアルデヒド不含の水性結合剤である。
上記水性結合剤は一般的に、水性エマルジョン、水溶液、あるいはイソプロパノール、エタノール、グリコール等の水溶性有機溶媒溶液、水と上記水溶性有機溶媒との混合溶媒の溶液等の形状で提供され、ポリマー(A)に含まれる酸と、アルカノールアミン(B)に含まれる水酸基とのエステル化反応によって硬化し、水溶性が水不溶性に変化し、熱可塑性が擬似熱可塑性に変化する。
上記擬似熱可塑性樹脂は、現在BASF社より商品名アクロデュア(Acrodur)として上市されており、水溶液タイプとしては950L,DS3530、水性エマルジョンタイプとしては958Dがある。
上記アクロデュアは、大凡120℃以上の温度で上記エステル化反応によって架橋が開始され、160℃以上の温度で硬化するが、架橋前の熱可塑性の状態でも充分な硬さを有し、取扱いが容易であり、しかも熱成形時には加熱により硬さが低下して一時的に熱可塑性になり(擬似熱可塑性)、良好な成形性を示し、高い成形精度が得られる。また上記アクロデュアの架橋はエステル化反応によるから、水のみが副成され、ホルムアルデヒド等の有害物質が副成されないという利点がある。
上記擬似熱可塑性樹脂は二種以上、例えば水溶液タイプと水性エマルジョンタイプとが混合されてもよいし、他の熱可塑性樹脂水性エマルジョン等のような他の合成樹脂が混合されてもよい。
上記擬似熱可塑性樹脂の詳細は、例えば特表2000−506940号公報に記載されている。
【0037】
d.添加物あるいは混合物
本発明で使用する合成樹脂あるいは合成樹脂前駆体には、更に、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、コロイダルシリカ、雲母、珪藻土、ドロマイト、石膏、タルク、クレー、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、ベントナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、ガラス粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材;天然ゴムまたはその誘導体;スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム等の合成ゴム;ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、澱粉、澱粉誘導体、ニカワ、ゼラチン、血粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子や天然ガム類;木粉、クルミ粉、ヤシガラ粉、小麦粉、米粉等の有機充填材;ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ブチリルステアレート、グリセリンモノステアレート等の脂肪酸のエステル類;脂肪酸アミド類;カルナバワックス等の天然ワックス類、合成ワックス類;パラフィン類、パラフィン油、シリコンオイル、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、グリス等の離型剤;アゾジカーボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アゾビス−2,2’−(2−メチルグロピオニトリル)等の有機発泡剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム等の無機発泡剤;シラスバルーン、パーライト、ガラスバルーン、発泡ガラス、中空セラミックス等の中空粒体;発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン等のプラスチック発泡体や発泡粒;顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶化促進剤、燐系化合物、窒素系化合物、硫黄系化合物、ホウ素系化合物、臭素系化合物、グアニジン系化合物、燐酸塩系化合物、燐酸エステル系化合物、アミノ系樹脂等の難燃剤、難燃剤、防炎剤、撥水剤、撥油剤、防虫剤、防腐剤、ワックス類、界面活性剤、滑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤;DBP、DOP、ジシクロヘキシルフタレートのようなフタル酸エステル系可塑剤やその他のトリクレジルホスフェート等の可塑剤等を添加、混合してもよい。
【0038】
また、撥水撥油剤としては、天然ワックス、合成ワックス、フッ素樹脂、シリコン系樹脂等がある。
【0039】
e.合成樹脂の塗布含浸
上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材に上記合成樹脂等を塗布含浸するには、通常上記合成樹脂の水性エマルジョンあるいは水性ディスパーションに該繊維シート基材、表皮材、または多孔質基材を浸漬するか、あるいはナイフコーター、ロールコーター、フローコーター等によって塗布する。
上記樹脂を含浸または塗布した上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材中の樹脂量を調節するには、樹脂を含浸または塗布後、該不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材を絞りロールやプレス盤を使用して絞る。この場合、該不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材はその厚みを減少させるが、該不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材として繊維シートまたはマットを用いた場合には、該繊維シートまたはマットが低融点繊維からなるか、あるいは低融点繊維が含まれている場合には、上記樹脂含浸前に該繊維シートまたはマットを加熱して低融点繊維を溶融させ、繊維を該溶融物によって結着しておくことが望ましい。そうすると該不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材としての繊維シートまたはマットは強度および剛性が更に向上し、樹脂含浸の際の作業性が向上し、また絞り後の厚みの復元も顕著になる。
上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材としての繊維シートまたはマットに上記樹脂を含浸または塗布した後は、上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材を常温または加熱して乾燥させる。
上記樹脂の含浸量は通常10g/m〜100g/m程度とする。この程度の樹脂含浸量であれば、上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材の通気抵抗に殆んど影響を及ぼさない。
【0040】
(難燃剤)
また、上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材には、難燃剤が添加されてもよい。上記難燃剤としては、例えば燐系難燃剤、窒素系難燃剤、硫黄系難燃剤、ホウ素系難燃剤、臭素系難燃剤、グアニジン系難燃剤、燐酸塩系難燃剤、燐酸エステル系難燃剤、アミノ樹脂系難燃剤、膨張黒鉛等がある。
本発明においては特に水に難溶または不溶の粉末状の固体難燃剤が使用されることが望ましい。水に難溶または不溶の粉末状の固体難燃剤は本発明の熱接着性不織布、吸音性繊維シート、あるいは吸音材料に耐水性、耐久性に優れた難燃性を付与する。特に本発明の不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材は粗構造を有しているから、上記粉末状の固体難燃剤が内部にまで円滑に浸透して高度な難燃性ないし不燃性を付与する。
【0041】
〔吸音材料成形物〕
上記吸音材料は、所定形状に成形されていてもよい。上記吸音材料の構成要素である不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材に熱可塑性樹脂が塗布および/または含浸および/または混合されているか、あるいは上記不織布、多孔質パルプ繊維含有繊維シート、あるいは多孔質基材が低融点繊維からなるか、あるいは低融点繊維を含む場合には、上記吸音材料を上記熱可塑性樹脂あるいは低融点繊維の軟化温度以下でホットプレスを行なうか、あるいは上記軟化温度以上に加熱した上でコールドプレスを行なう。
【0042】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例を記載するが、本発明は該実施例にのみ限定されるものではない。
【0043】
〔熱接着性不織布の作製〕
下記の表1に記載の低融点熱可塑性樹脂繊維を用い、表2、表3に記載の配合比率でポリエステル樹脂(繊度:6.6dtex、繊維長:75mm、融点:260℃)と混合し、通常のニードルパンチング法により目付量80g/mのニードルパンチング不織布である熱接着性不織布を作製した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
〔吸音性繊維シートの作製〕
針葉樹パルプからなる木材パルプを原料とし、ディスクリファイナーを用いて叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で500ml(CSF)になるように叩解し、通常の抄紙工程を経てクレープ率20%、目付量22g/m、通気抵抗0.80kPa・s/mの多孔質パルプ繊維からなる繊維シートを作製した。
次に上記表2、表3で得られた熱接着性不織布と上記繊維シートとを重合し、180℃に調整されたプレス機にてスペーサーを介して初期厚み(プレス前の厚み)の90%厚さになるように加圧加熱接着し、吸音性繊維シートを作製した。得られた吸音性繊維シートの接着力を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
試験結果より、繊度、繊維長共に本発明の範囲内にある低融点熱可塑性樹脂繊維No.1、No.2、No.3の配合比率を30〜50質量%とした吸音性繊維シートである実施例1〜6は接着力が0.9N/25mm以上であり高強度であることがわかる。
同じ低融点熱可塑性樹脂繊維No.1、No.2、No.3を用いても配合比率を20質量%とした比較例1〜3では上記実施例1〜6と比べて格段に接着力が低いことがわかる。
繊度を4.4dtexとしても、繊維長が25mmである低融点熱可塑性樹脂繊維No.4を用いた比較例10、比較例15、および繊維長が120mmである低融点熱可塑性樹脂繊維No.5を用いた比較例11、比較例16も、配合比率が30〜50質量%であっても充分な接着力が得られていないことがわかる。
繊維長を30mm〜100mmの範囲にしても繊度が3.0dtex以下(2.2dtex)である低融点熱可塑性樹脂繊維No.6、No.7、No.8を用いた比較例No.12、No.13、No.14、No.17、No.18、No.19も、配合比率を30〜50質量%としても接着力が弱いことがわかる。
【0050】
〔実施例7〕
低融点熱可塑性樹脂繊維として、芯部分がポリエステル繊維(融点:260℃)、鞘部分がポリエステル繊維(融点:110℃)からなる芯鞘型複合繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:76mm)を50質量%混合したポリエステル繊維からなる目付量120g/mのニードルパンチング不織布である熱接着性不織布を作製した。
次に針葉樹パルプ50質量部および広葉樹パルプ50質量部からなる木材パルプを原料とし、ディスクリファイナーを用いて叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で460ml(CSF)になるように叩解し、通常の抄紙工程を経てクレープ率20%、目付量26g/m、通気抵抗2.13kPa・s/mの多孔質パルプ繊維からなる繊維シートを作製した。
更に多孔質基材として、上記芯鞘型複合繊維が30質量%混合されている目付量600g/m、厚さ30mmのフェルトを用い、該フェルトの片面に上記熱接着性不織布を重合し、更にその上に上記繊維シートを重合し、180℃の加熱炉内にて1分間吸引しながら加熱した後、冷却されたプレス機にてプレス成形して所定形状の吸音材料成形物を作製した。
得られた成形物は成形部分によって差はあるが、通気抵抗が約2.20〜2.45kPa・s/mの範囲であり、吸音性能および各々の材料間の接着性に優れた成形物であった。
【0051】
〔実施例8〕
低融点熱可塑性樹脂繊維として、ポリエステル繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:55mm、融点:160℃)40質量部、ポリエステル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:75mm、融点:260℃)60質量部の混合物からなる目付量60g/mのニードルパンチング不織布を180℃の加熱ロールにて100kg/cmの加圧力にて加圧処理を行ない熱接着性不織布を作製した。
次に針葉樹パルプ80質量部および広葉樹パルプ20質量部からなる木材パルプを原料とし、ディスクリファイナーを用いて叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で580ml(CSF)になるように叩解し、通常の抄紙工程を経て目付量30g/m、通気抵抗0.12kPa・s/m、クレープエンボス加工(クレープ率:20%、エンボス突起高さ:1.0mm、突起数:140個/cm)の多孔質パルプ繊維からなる繊維シートを作製した。
得られた上記繊維シートと上記熱接着性不織布を重合し、上記繊維シート側から200℃の熱ロールに軽く圧着させて上記繊維シートと上記熱接着性不織布とを接着させ、吸音性繊維シートを作製した。
次に剛性を付与するため、熱硬化性樹脂としてフェノール−アルキルレゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物(固形分45質量%水溶液)20質量部、カーボンブラック(固形分20質量%水分散溶液)2質量部、10質量%フッ素系撥水撥油剤水溶液1質量部、水77質量部からなる混合水溶液を、上記吸音性繊維シートに対して固形分で20g/mの塗布量で含浸させ、さらに上記吸音性繊維シートの繊維シート側にポリアミド樹脂からなるホットメルト接着剤粉末(融点:135℃、粒度:200〜300μm)を5g/mの撒布量で塗布した後、140℃で乾燥させ上記熱硬化性樹脂をプレキュアさせた通気抵抗が0.23kPa・s/mである樹脂含浸吸音性繊維シートを作製した。
更に、得られた上記樹脂含浸吸音性繊維シートのホットメルト塗布面側(繊維シート側)を、レゾール型フェノール樹脂が塗布された目付量500g/m、厚さ40mmのガラスウール原綿である多孔質基材に重合し、200℃で加熱プレスし所定形状の吸音材料成形物を作製した。
得られた成形物は成形部分によって差はあるが、通気抵抗が約0.68〜1.25kPa・s/mの範囲であり、吸音性能、接着力、剛性に優れた成形物であった。
【0052】
〔実施例9〕
低融点熱可塑性樹脂繊維として、ポリエステル繊維(繊度:22dtex、繊維長:60mm、融点:110℃)50質量部、ポリエステル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:75mm、融点:260℃)50質量部の混合物からなる目付量50g/mのニードルパンチング不織布である熱接着性不織布を作製した。
次に針葉樹パルプ90質量部および広葉樹パルプ10質量部からなる木材パルプを原料とし、ディスクリファイナーを用いて叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で550ml(CSF)になるように叩解し、通常の抄紙工程を経てクレープ率25%、目付量18g/m、通気抵抗0.42kPa・s/mの多孔質パルプ繊維からなる繊維シートを作製した。
得られた上記繊維シートと上記熱接着性不織布を重合し、上記繊維シート側から150℃の熱ロールに軽く圧着させて上記繊維シートと上記熱接着性不織布とを接着させ、吸音性繊維シートを作製した。
更に上記繊維シート側に、ポリアミド樹脂からなるホットメルト接着剤粉末(融点:110℃、粒度:20〜80μm)20質量部、難燃剤としてメラミン樹脂被覆されたポリリン酸アンモニウム粉末(粒度:20〜80μm)20質量部、アクリル樹脂エマルジョン(固形分50質量%水分散液)5質量部、水55質量部からなる混合溶液をスプレー方式にて固形分として20g/mの塗布量で塗布し、100℃で2分間加熱乾燥して吸音性繊維シートの繊維シート側に接着剤塗布および難燃処理を行なった。
次に上記吸音性繊維シートの両面に、低融点繊維および難燃剤が添加された目付量300g/m、厚さ20mmのフェルト原綿である多孔質基材を重合し、150℃で吸引しながら加熱し、ロールにて厚さを15mmに調整した吸音材料を作製した。
得られた吸音材料は通気抵抗が0.75kPa・s/mであり、難燃性、吸音性、接着性に優れた吸音材料であった。
尚上記吸音性繊維シートには、ニードルパンチ不織布からなる熱接着性不織布の目付量が小さい(60g/m以下)にもかかわらず取扱いが容易になり、またパルプ繊維からなる繊維シートも剛性が補強されるという相互の補強がなされ、作業性に優れるという効果もあった。
【0053】
〔実施例10〕
繊維シートと熱接着性不織布とを接着して得られる吸音性繊維シートとして、上記実施例9と同じものを用いた。
該吸音性繊維シートにおいて、繊維シート側には、ポリエステル樹脂からなるホットメルト接着剤粉末(融点150℃、粒度200〜300μm)を5g/mの塗布量で撒布し、160℃で20秒間加熱して、該ホットメルト接着剤粉末を融着させた。
次いで上記吸音性繊維シートに対し、擬似熱可塑性樹脂(熱硬化性アクリル樹脂)であるアクロデュア950L(固形分50質量%、BASFジャパン株式会社製)が20質量部、フッ素系撥水撥油剤(10質量%水溶液)が2質量部、水が78質量部からなる混合樹脂液を、固形分として50g/mの塗布量になるように含浸し、100〜120℃で加熱乾燥させて、該アクロデュア950Lが未架橋状態で含浸された吸音性繊維シートを作製した。
次に上記吸音性繊維シートのホットメルト接着剤粉末が融着された面に対し、
低融点ポリエステル繊維が30質量部添加された目付量500g/m、厚さ30mmのフェルト原綿である多孔質基材を重合し、プレス成形機を用いて200℃で加熱プレスして所定形状の成形物を作製した。
得られた成形物は、形状箇所により違いはあるが、通気抵抗がおおよそ0.9〜1.8kPa・s/mであり、吸音性に優れ、剛性の良好なホルムアルデヒド放出のない吸音材料であった。
尚上記吸音性繊維シートは、擬似熱可塑性樹脂の硬化温度が160℃〜220℃程度の範囲にあり、該擬似熱可塑性樹脂を含浸した吸音性繊維シートを100〜120℃で加熱乾燥しても、該擬似熱可塑性樹脂が未架橋状態のままであるため、加熱乾燥後であっても熱接着性不織布や繊維シートや多孔質基材を重ねた状態で一度にプレス成形することができ、成形型には上記擬似熱可塑性樹脂が付着しないから、作業性に優れるという効果もあった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の熱接着性不織布は、該熱接着性不織布に含まれている低融点熱可塑性樹脂繊維が有効に熱接着性に関与するから、該不織布の熱接着性が向上し、作業性能が向上するので、産業上利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度3.0dtex以上、繊維長30〜100mmであり融点が180℃以下の低融点熱可塑性樹脂繊維を30質量%以上含むニードルパンチ不織布であることを特徴とする熱接着性不織布。
【請求項2】
上記低融点熱可塑性樹脂繊維は、融点190℃以上の高融点熱可塑性樹脂からなる芯成分と、融点180℃以下の低融点熱可塑性樹脂からなる鞘成分とによって構成される芯鞘型複合繊維である請求項1に記載の熱接着性不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱接着性不織布と、叩解度がJIS P 8121−1995の4.カナディアン・スタンダード・フリーネスに規定されるカナダ標準型ろ水度で350〜650ml(CSF)の範囲の多孔質パルプ繊維を90質量%以上含み、通気抵抗が0.07〜2.50kPa・s/mの範囲に設定されている繊維シートと、を熱接着したことを特徴とする吸音性繊維シート。
【請求項4】
請求項3に記載の吸音性繊維シートと、多孔質基材と、の積層材であることを特徴とする吸音材料。
【請求項5】
上記熱接着性不織布、上記繊維シートおよび上記多孔質基材のうち少なくとも1つに合成樹脂を塗布および/または含浸および/または混合した請求項4に記載の吸音材料。
【請求項6】
上記合成樹脂として擬似熱可塑性樹脂のみ、または上記擬似熱可塑性樹脂と他の合成樹脂との混合樹脂を用いる請求項5に記載の吸音材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84855(P2011−84855A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195434(P2010−195434)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000243892)名古屋油化株式会社 (78)
【Fターム(参考)】