説明

熱転写成形装置及び熱転写成形方法

【課題】真空(減圧)条件の下で熱転写成形を行う成形装置に要する設備経費を圧縮し、かつ、時間当たりの生産性の向上も実現できる熱転写成形装置並びに及び熱転写成形方法を提供する。
【解決手段】被加工材を収容し減圧状態を維持する搬送成形ユニット10と、加熱盤部21を積層して備え加熱盤部同士の間に搬送成形ユニットを挟持して加熱及び加圧し搬送成形ユニット内の被加工材を加熱成形する加熱成形部20と、冷却盤部31を垂直方向に積層して備え冷却盤部同士の間に搬送成形ユニットを挟持して冷却及び加圧し複数の搬送成形ユニット内の被加工材を冷却する冷却部30と、搬送成形ユニットを掴持するチャック部41を備え搬送成形ユニットを載置かつ搬送する搬送装置40とを有し、搬送装置が、搬送成形ユニットを加熱成形部、冷却部の前進方向の配置順で搬送する熱転写成形装置1並びに同装置1を用いた熱転写成形方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写成形装置及び熱転写成形方法に関し、特に被加工材自体を移動させるのではなく、被加工材自体を収容したユニットごと移動し成形する熱転写成形装置及び熱転写成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂等からなる被加工材に対し型面を転写する熱転写成形の装置では、熱板を有する固定側部材上に被加工材が載置され、固定側部材に対して可動熱板を有する可動側部材が前進され、双方からの押圧により被加工材の加熱加圧が行われる。このような熱転写成形の装置としては、例えば、可動側部材の前進時に真空チャンバを形成し、減圧状態で被加工材を加熱加圧(熱転写プレス)する装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。前記の特許文献1,2等の熱転写プレスの装置においては、成形時真空状態とするため、被加工材に対するスタンパの密着が良好となり、特に精密かつ微細な表面形状の成形に好都合である。
【0003】
前記の特許文献等の装置の場合、成形時を減圧状態とすることから、被加工材に対する加熱加圧及び冷却加圧は、ともに一対のプレス装置内にて行われている。つまり、加熱加圧には、被加工材に型面を転写するスタンパの背後のプレス盤側に形成された流路内に水蒸気等が送通される。また、冷却加圧時には、同じ流路内に冷水等が送通される。成形のためいったん装置内を減圧状態とした後、被加工材は装置外に取り出されることなく、圧着状態が維持されたまま、プレス盤の側で温度上昇と降下が繰り返される。
【0004】
被加工材に応じた所定の設定温度条件において加熱加圧並びに冷却加圧を行う必要上、各処理同士の間にプレス盤の温度調整のための準備時間が否応なく生じてしまう。それゆえ、作業の連続化による単位時間当たりの処理能力の向上を勘案すると、その要望に必ずしも応えきれていない。また、従来装置により処理能力を向上させようとする場合、装置や機器の数を増やして対応することになる。このため、設備投資が増す問題がある。
【0005】
そこで、真空(減圧)条件の下で熱転写成形を行う成形装置において、装置に要する設備経費を圧縮し、かつ、時間当たりの生産性の向上も実現できる成形装置並びに成形方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−167788号公報
【特許文献2】特開2008−155521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、真空(減圧)条件の下で熱転写成形を行う成形装置に要する設備経費を圧縮し、かつ、時間当たりの生産性の向上も実現できる熱転写成形装置並びに及び熱転写成形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有し、前記搬送装置が、前記搬送成形ユニットを前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順で搬送することを特徴とする熱転写成形装置に係る。
【0009】
請求項2の発明は、前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、前記搬送装置は前記搬送成形ユニットを前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送する請求項1に記載の熱転写成形装置に係る。
【0010】
請求項3の発明は、前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置を備える請求項2に記載の熱転写成形装置に係る。
【0011】
請求項4の発明は、前記搬出部及び前記搬入部において、前記搬送成形ユニットは前進方向と直交する左右方向に移動可能である請求項2または3に記載の熱転写成形装置に係る。
【0012】
請求項5の発明は、前記搬出部及び前記搬入部が、前記加熱成形部における前記加熱盤部及び前記冷却部における前記冷却盤の配置に応じ前記搬送成形ユニットを垂直方向に複数載置可能としている請求項2ないし4に記載の熱転写成形装置に係る。
【0013】
請求項6の発明は、前記チャック部は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して掴持可能とする長さを有し、前記搬送装置は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部に搬送し載置する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の熱転写成形装置に係る。
【0014】
請求項7の発明は、前記加熱成形部に搬入された前記搬送成形ユニット及び前記冷却部に搬入された前記搬送成形ユニットは、ともに前記脱気部を通じて減圧される請求項1ないし6のいずれか1項に記載の熱転写成形装置に係る。
【0015】
請求項8の発明は、前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の熱転写成形装置に係る。
【0016】
請求項9の発明は、被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有する成形装置を用いた熱転写成形方法であって、前記加熱成形部及び前記冷却部のいずれにおいても前記脱気部を通じて前記チャンバ空間内の減圧が行われ、前記搬送成形ユニットが、前記搬送装置により前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順に搬送されることによって前記搬送成形ユニット内に収容されている前記被加工材の成形が行われることを特徴とする熱転写成形方法に係る。
【0017】
請求項10の発明は、前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、前記搬送成形ユニットは前記搬送装置により前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送される請求項9に記載の熱転写成形方法に係る。
【0018】
請求項11の発明は、前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置が備えられる請求項10に記載の熱転写成形方法に係る。
【0019】
請求項12の発明は、前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧される請求項9ないし11のいずれか1項に記載の熱転写成形方法に係る。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明に係る熱転写成形装置によると、被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有し、前記搬送装置が、前記搬送成形ユニットを前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順で搬送するため、真空(減圧)条件の下で熱転写成形を行う成形装置に要する設備経費を圧縮し、かつ、時間当たりの生産性の向上も実現できる。
【0021】
請求項2の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項1の発明において、前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、前記搬送装置は前記搬送成形ユニットを前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送するため、搬出部では搬出のための準備や待機が可能となり、また搬入部では搬入後の加工済み被加工材の取り出しや返送のための準備も可能となる。よって、加熱成形部への搬入効率並びに冷却部からの搬出効率が高められる。
【0022】
請求項3の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項2の発明において、前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置を備えるため、被加工材を封入した搬送成形ユニットを加熱成形部と冷却部との間で逐一進退させる必要がなく、搬送成形ユニットを常に一方通行の搬送とすることができ、成形加工の生産性を向上させることができる。
【0023】
請求項4の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項2または3の発明において、前記搬出部及び前記搬入部において、前記搬送成形ユニットは前進方向と直交する左右方向に移動可能であるため、搬出部及び搬入部内の限られた場所で搬送成形ユニットを方向転換して移動することができる。
【0024】
請求項5の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項2ないし4のいずれかの発明において、前記搬出部及び前記搬入部が、前記加熱成形部における前記加熱盤部及び前記冷却部における前記冷却盤の配置に応じ前記搬送成形ユニットを垂直方向に複数載置可能としているため、熱転写成形装置の規模、処理数に応じて柔軟に対応することができる。
【0025】
請求項6の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項2ないし5のいずれかの発明において、前記チャック部は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して掴持可能とする長さを有し、前記搬送装置は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部に搬送し載置するため、搬送装置の1回の前進動作で搬送可能となる搬送成形ユニットの数が増し、熱転写成形装置内の搬送成形ユニットの搬送効率を高めることができる。
【0026】
請求項7の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記加熱成形部に搬入された前記搬送成形ユニット及び前記冷却部に搬入された前記搬送成形ユニットは、ともに前記脱気部を通じて減圧されるため、搬送時に搬送成形ユニットの収容空間内の真空度が低下したとしても、加熱成形部における成形不良、冷却部における位置ずれを回避し、成形精度を高めることができる。
【0027】
請求項8の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項1ないし7のいずれかの発明において、前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧されるため、搬送成形ユニットの収容空間内が陽圧となり、上側収容部材と下側収容部材との乖離は容易となる。また、加工済み被加工材と上側及び下側スタンパの隙間にも圧縮空気が侵入するため双方の剥離も円滑に行うことができる。
【0028】
請求項9の発明に係る熱転写成形方法によると、被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有する成形装置を用いた熱転写成形方法であって、前記加熱成形部及び前記冷却部のいずれにおいても前記脱気部を通じて前記チャンバ空間内の減圧が行われ、前記搬送成形ユニットが、前記搬送装置により前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順に搬送されることによって前記搬送成形ユニット内に収容されている前記被加工材の成形が行われるため、真空(減圧)条件の下で熱転写成形を行う成形装置に要する設備経費を圧縮し、かつ、時間当たりの生産性の向上も実現できる方法を見いだすことができる。
【0029】
また、搬送時に搬送成形ユニットの収容空間内の真空度が低下したとしても、加熱成形部における成形不良を回避し、成形精度を高めることができる。
【0030】
請求項10の発明に係る熱転写成形方法によると、請求項9の発明において、前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、前記搬送成形ユニットは前記搬送装置により前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送されるため、搬出部では搬出のための準備や待機が可能となり、また搬入部では搬入後の加工済み被加工材Wの取り出しや返送のための準備も可能となる。そこで、加熱成形部への搬入効率並びに冷却部からの搬出効率が高められる。
【0031】
請求項11の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項10の発明において、前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置が備えられるため、被加工材を封入した搬送成形ユニットを加熱成形部と冷却部との間で逐一進退させる必要がなく、搬送成形ユニットを常に一方通行の搬送とすることができ、成形加工の生産性を向上させることができる。
【0032】
請求項12の発明に係る熱転写成形装置によると、請求項9ないし11のいずれかの発明において、前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧されるため、搬送成形ユニットの収容空間内が陽圧となり、上側収容部材と下側収容部材との乖離は容易となる。また、加工済み被加工材と上側及び下側スタンパの隙間にも圧縮空気が侵入するため双方の剥離も円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例に係る熱転写成形装置の概要斜視図である。
【図2】搬送成形ユニットの概略断面図である。
【図3】搬送装置の主要部断面図である。
【図4】搬入部の全体斜視図である。
【図5】熱転写成形装置を構成する各部の第1概略側面図である。
【図6】熱転写成形装置を構成する各部の第2概略側面図である。
【図7】搬送装置による搬送状態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1の概要斜視図に示す熱転写成形装置1は、例えばPMMA等の熱可塑性樹脂からなる被加工材W(図2参照)の表層に対し加熱加圧を行うことにより、その表面にパターン形成をするための装置である。本発明の熱転写成形装置1を用いた熱転写成形方法においては、被加工材Wが単独で順次搬送されて加熱成形、冷却が行われるのではない。被加工材Wは、搬送成形ユニット10内に収容され、搬送成形ユニット10が順次搬送されることによって当該搬送成形ユニット10の内部に収容された被加工材Wに対して加熱加圧等が行われる。以下、本発明の熱転写成形装置1の構成を説明する。
【0035】
熱転写成形装置1において、搬送成形ユニット10が前進する順に搬出部50、加熱成形部20、冷却部30、そして搬入部80が直線状に配置される。この順は前進方向の配置である。搬送成形ユニット10の前進方向への搬送は搬送装置40により行われる。図1中、符号21は加熱盤部、31は冷却盤部、41はチャック部、45は返送装置である。また、搬出部50において、符号51は第1搬出ステージ、52は第2搬出ステージ、53は第1搬出区、54は第1搬入区、55は第2搬出区、56は第2搬入区である。搬入部80において、符号81は第1搬入ステージ、82は第2搬入ステージ、83は第1搬入区、84は第1搬出区、85は第2搬入区、86は第2搬出区である。各部については後に詳述する。
【0036】
図2は搬送成形ユニット10を構成する部材を示す概略断面図である。図2(a)からわかるように、被加工材Wと、被加工材Wの上表面Waに対して密着する上側スタンパ11及び同被加工材Wの下表面Wbに対して密着する下側スタンパ12が備えられる。上下方向に上側スタンパ11、被加工材W、及び下側スタンパ12とする順を維持したまま、これらは上側収容部材13と下側収容部材14との間に収容される。上側及び下側スタンパには所定の成形模様が付され、加熱に伴い軟化した被加工材Wの表面にスタンパの模様が転写される。被加工材Wの表面を平面(平滑面)に加工する場合、鏡面仕上げのスタンパが用いられる。
【0037】
上側収容部材13と下側収容部材14には、互いの合着時の位置合わせのため、ピンと係合穴等を備えた位置決め部材16が備えられる。また、合着時の気密性確保等の目的から上側収容部材13と下側収容部材14との接合面にパッキン(図示せず)が備えられる。
【0038】
図2(b)のとおり、上側収容部材13と下側収容部材14が合着して、上側スタンパ11、被加工材W、及び下側スタンパ12は収容保持される。上側収容部材13と下側収容部材14との合着により収容空間15が生じる。被加工材Wは減圧条件において加熱加圧される。減圧状態とすることにより、上側及び下側スタンパ11,12と被加工材Wとの密着精度が高まる。特に微細な模様を均一に形成する際に都合良い。
【0039】
そこで、搬送成形ユニット10内に形成された収容空間15内を脱気して、減圧状態(真空状態)を維持するために脱気部17が備えられる。この脱気部17には公知の逆止弁、チェック弁等が用いられる。後述するように、収容空間15内の脱気は、搬出部50、加熱成形部20、冷却部30において、脱気部17を介して行われる。例えば、列記の各部において、個々の搬送成形ユニット10の脱気部17が真空ポンプVに接続され、収容空間15内の空気が吸引される。
【0040】
図1に加え図5,6を用い加熱成形部20及び冷却部30の構造を説明する。加熱成形部20には、固定盤22に対して油圧ピストン部24により進退駆動する可動盤23,26と、平行を保つシャフト部25等が備えられる。加熱盤部21は垂直方向に積層して備えられる。搬入された搬送成形ユニット10は加熱盤部21,21同士の間に挟持される。そして、搬送成形ユニット10は加熱盤部21,21から加熱と押圧(熱転写プレス)を受けることにより、前述の上側及び下側スタンパ11,12の型面が被加工材Wに転写される。実施例の加熱成形部20の構造では、加熱盤部21は4段備えられる。上方から可動盤23に接続された加熱盤部21、可動盤26の上下それぞれに接続された加熱盤部21、固定盤22に接続された加熱盤部21である。実施例の加熱盤部21の配置構成のため、上下に2個の搬送成形ユニット10が加熱成形部20において一度に処理可能である。従って、複数(2個)の搬送成形ユニット10,10内の被加工材W,Wが、同時に加熱成形される。
【0041】
加熱成形部20には、図示しないものの、作動油の供給調整のポンプ、作動油のタンク、作動油の圧力制御用のセンサ、加熱盤部の位置検知調整用のセンサ、加熱盤部の温度センサ、加熱盤部への加熱油または水蒸気等の供給装置等が適式に備えられる。また、公知の真空ポンプが加熱成形部20に備えられる。
【0042】
熱転写成形に当たり、スタンパと被加工材との隙間に空気が残留する場合がある。すると、空気が加熱成形時に熱膨張して被加工材に変形や成形漏れを生じさせてしまい、製品の歩留まりを押し下げてしまう。熱転写成形では微細な加工、成形が要求されるため、わずかな空気の残留も致命的である。このような不具合を改善する目的から、減圧条件下で加熱成形することが主流になりつつある。減圧することで真空度が増し、スタンパと被加工材との隙間に残留している空気の除去効率も高まり、飛躍的に成形精度を高めることができる。
【0043】
そこで、熱転写成形装置1においても真空熱転写成形の利点をより生かすため、加熱成形部20にも真空ポンプが備えられる。そして、加熱成形部20に搬入された搬送成形ユニット10に対し加熱加圧時の真空度を所定量以上に高められる。このことから、搬送時に搬送成形ユニットの収容空間内の真空度が低下したとしても、再度加熱成形部において搬送成形ユニット10の収容空間15の減圧が行われる。
【0044】
冷却部30には、固定盤32に対して油圧ピストン部34により進退駆動する可動盤33,36と、平行を保つシャフト部35等が備えられる。冷却盤部31は垂直方向に積層して備えられる。搬入された搬送成形ユニット10は冷却盤部31,31同士の間に挟持される。そして、搬送成形ユニット10は冷却盤部31,31から冷却と押圧を受けることにより、その内部の上側及び下側スタンパ11,12を介して被加工材Wは冷却される。実施例の冷却部30の構造では、冷却盤部31は前出の加熱盤部21と同様に4段備えられる。上方から可動盤33に接続された冷却盤部31、可動盤36の上下それぞれに接続された冷却盤部31、固定盤32に接続された冷却盤部31である。実施例の冷却盤部31の配置構成のため、上下に2個の搬送成形ユニット10が冷却部30において一度に処理可能である。従って、複数(2個)の搬送成形ユニット10,10内の被加工材W,Wが、同時に冷却される。
【0045】
冷却部30にも、図示しないものの、作動油の供給調整のポンプ、作動油のタンク、作動油の圧力制御用のセンサ、冷却盤部の位置検知調整用のセンサ、冷却盤部の温度センサ、冷却盤部への冷水供給装置等が適式に備えられる。また、冷却部30にも加熱成形部20と同様に公知の真空ポンプが備えられる。搬送時に搬送成形ユニット10の収容空間15内の真空度が低下しても再度冷却部30において減圧が行われるため、より低い真空度を得ることができる。それゆえ、スタンパと被加工材との密着性が高まることから互いの位置ずれが回避され、製品の不具合が解消される。また、スタンパが密着するため被加工材を効率よく冷却することもできる。
【0046】
搬送成形ユニット10を加熱成形部20、冷却部30の順に搬送するための装置は、安定して搬送できる限り特段限定されない。実施例にあっては、図1、図3に開示されるように、搬送成形ユニット10を掴持するチャック部41,41を備えた搬送装置40が用いられる。搬送成形ユニット10は加熱成形部20、冷却部30の前進方向の配置順に搬送されるとともに、各加熱盤部21,21同士の間、あるいは各冷却盤31,31同士の間の所定位置に載置される。
【0047】
図1及び図3から理解されるように、搬送装置40のチャック部41,41は、搬送成形ユニット10の前進方向(加熱成形部20、冷却部30の配置順となる前進方向)に対して直交する左右方向から当該搬送成形ユニットに接近、離隔する。前記のチャック部41,41の動きとすることにより、加熱成形部20及び冷却部30にて行われる加圧の際、チャック部41,41が加熱盤部21や冷却盤部31に巻き込まれることなく、待避可能である。個々の搬送成形ユニット10の昇降、加熱盤部21や冷却盤部31への位置合わせは、別途の適宜の装置の使用、あるいは搬送装置40のチャック部41,41により行われる。符号42は、チャック部を保持するチャック保持部である。
【0048】
搬送成形ユニット10を加熱成形部20、冷却部30の配置順に搬送し、各部にて加熱成形、冷却とすることによっても、搬送成形ユニット内の被加工材Wを成形することができる。ただし、「搬送成形ユニット10内への被加工材Wの収容、搬送成形ユニット10の順送りの搬送、成形が完成した被加工材Wの取り出し、再度の搬送成形ユニットへの被加工材の収容、...」のように、各工程を連続することにより生産性を向上させようとする場合、被加工材Wに対する成形及び冷却以外の直接加工に関与しない工程も無視することができない。
【0049】
そこで、図1等に開示のとおり熱転写成形装置1においては、搬送成形ユニット10の待機、送り出し、出来上がった被加工材の取り出し等を効率化するべく、加熱成形部20の前側に搬出部50が備えられ、冷却部30の後側に搬入部80が備えられる。また、熱転写成形装置1に返送装置45も備えられる。搬送成形ユニット10を構成する上側収容部材13及び下側収容部材14、さらには、上側スタンパ11、下側スタンパ12等の資材は、搬入部80側から搬出部50側へ返送装置45により返送される。返送装置45による返送は前記の前進方向と正反対の後退方向である。返送装置45は、ローラーコンベア、あるいはレールと台車等の搬送可能な装置である限り特に限定されない。
【0050】
前述のとおり、実施例の加熱成形部20及び冷却部30は、それぞれ上下2個の搬送成形ユニット10を収容し処理可能としている(図5,6参照)。そこで、上下2個の搬送成形ユニット10,10の搬出を可能とするべく、搬出部50には第1搬出ステージ51と、当該第1搬出ステージ51の上段に第2搬出ステージ52が脚部Piの高さ分かさ上げされて設けられる(図1、4参照)。同様に、搬入部80においても第1搬入ステージ81と、その上段に第2搬入ステージ82が設けられる(図1参照)。
【0051】
従って、搬出部50及び搬入部80は、加熱成形部20における加熱盤部21並びに冷却部30における冷却盤部31の配置に対応して、搬送成形ユニット10を垂直方向に複数載置することができる。そのため、搬送成形ユニットを垂直方向に載置する載置数は、図示実施例の2段(上下2個)に限られず、熱転写成形装置の規模、処理数等に応じて、実施例の2段(上下2個)から4段(上下4個)、8段(上下8個)と柔軟に拡張することもできる。
【0052】
なお、実施例の搬出部50及び搬入部80では、それぞれに使用される部材等が共通である。このため、搬出部50のみ図4に図示して詳細構成を説明し、搬入部80についての詳細な図示を省略する。
【0053】
第1搬出ステージ51は、1個の組み立てられた搬送成形ユニット10を待機位置に載置し加熱成形部20に向けて搬出する第1搬出区53と、搬入部80から返送装置45(図1参照)を通じて上側収容部材13及び下側収容部材14等が搬入される第1搬入区54に区分される。
【0054】
搬出部50の第1搬出ステージ51において、第1搬出区53及び第1搬入区54の双方にローラーコンベア61が備えられる。ローラーコンベア61は、台座に複数のローラーを列状に並べているため、返送装置45から後退方向で搬入される資材の移動が簡便になる。同時に、搬送成形ユニット10を加熱成形部20に向けて前進方向に円滑に搬出することもできる。
【0055】
さらに、搬出部50の第1搬出ステージ51には、前記のローラーコンベア61と直交する向きにローラーコンベア62も備えられる。そのため、搬送成形ユニット10が、第1搬入区54から第1搬出区53へ、第1搬出ステージ51内を前進方向と直交する左右方向(搬出部50の長手方向)の移動も可能となる。このため、ローラーコンベア61とローラーコンベア62を組み合わせることにより、搬出部50の第1搬出ステージ51内の限られた場所で搬送成形ユニット10を方向転換して移動することができる。
【0056】
ローラーコンベア61とローラーコンベア62は、第1搬出ステージ51内では異なる高さ位置に設置される。第1搬入区54から第1搬出区53への搬送成形ユニット10の移動の際、リフト部58が上昇して搬送成形ユニット10は持ち上げられてローラーコンベア62に載せられ、搬送成形ユニット10はローラーコンベア62を介して第1搬出区53へ送られる。次に、第1搬出区53から加熱成形部20への搬送成形ユニット10の移動の際、リフト部57が上昇して搬送成形ユニット10が持ち上げられてローラーコンベア61に載せられる。そして搬送装置40により搬送成形ユニット10は加熱成形部20へ送られる。
【0057】
第1搬出ステージ51内には、可動部71とマグネットロッド73を備えたリニアアクチュエータ70aが備えられる。そこで、ローラーコンベア62上の搬送成形ユニット10は可動部71と接触して押され、搬送成形ユニット10は第1搬出ステージ51内において左右方向の移動可能となる。搬送成形ユニット10等の不用意な移動を避けて安全性を確保するため、可動停止板65、停止板67が備えられる。また、マグネットロッド73に沿ってガイドレール75も備えられる。
【0058】
搬入部80から返送装置45を通じて返送されてきた搬送成形ユニット10を構成する上側収容部材13及び下側収容部材14、さらには、上側スタンパ11、下側スタンパ12等の資材は、いったん第1搬入区54に受け入れられる。第1搬入区54では、新たに加工前の被加工材Wが上側スタンパ11及び下側スタンパ12とともに上側収容部材13及び下側収容部材14内に位置合わせの後に収容され、改めて搬送成形ユニット10が組み立てられる。
【0059】
組み立てられた搬送成形ユニット10は、前述のとおり、ローラーコンベア62、リニアアクチュエータ70aにより第1搬出区53まで運ばれる。第1搬出区53において、搬送成形ユニット10に真空ポンプ(図示せず)が接続され、搬送成形ユニット10の収容空間15内は、脱気部17を通じて所定の真空度まで減圧される。そして、同第1搬出区53(待機位置)において、加熱成形部20への搬送待機状態となる。
【0060】
第2搬出ステージ52も、1個の搬送成形ユニット10を待機位置に載置し加熱成形部20に向けて搬出する第2搬出区55、搬入部80から返送装置45(図1参照)を通じて上側収容部材13及び下側収容部材14等が搬入される第2搬入区56に区分される。搬出部50の第2搬出ステージ52においても前記の第1搬出ステージ51と同様に、第2搬出区55及び第2搬入区56の双方にローラーコンベア63、ローラーコンベア64が備えられる。そこで、搬送成形ユニット10は、第2搬入区56から第2搬出区55へ、第2搬出ステージ52内を前進方向と直交する左右方向(搬出部50の長手方向)へ移動することができる。
【0061】
ローラーコンベア63とローラーコンベア64も、第2搬出ステージ52内では異なる高さ位置に設置される。第2搬入区56から第1搬出区55への搬送成形ユニット10の移動の際、リフト部60が上昇して搬送成形ユニット10が持ち上げられ、ローラーコンベア62に載せられ、これを介して搬送成形ユニット10は第2搬出区55へ送られる。次に、第2搬出区55から加熱成形部20への搬送成形ユニット10の移動の際、リフト部59が上昇して搬送成形ユニット10が持ち上げられてローラーコンベア61に載せられる。そして搬送装置40により搬送成形ユニット10は加熱成形部20へ送られる。
【0062】
第2搬出ステージ52内においても、可動部72とマグネットロッド74を備えたリニアアクチュエータ70bが備えられる。ローラーコンベア62上の搬送成形ユニット10は可動部72と接触して押され、搬送成形ユニット10は第2搬出ステージ52内において左右方向の移動可能となる。第2搬出ステージ52にも可動停止板66、停止板68が備えられ、マグネットロッド74に沿ってガイドレール76も備えられる。
【0063】
搬入部80から返送装置45を通じて返送されてきた搬送成形ユニット10を構成する上側収容部材13及び下側収容部材14、さらには、上側スタンパ11、下側スタンパ12等の資材は、いったん第2搬入区56に受け入れられる。第2搬入区56でも同様に、新たに加工前の被加工材Wが上側スタンパ11及び下側スタンパ12とともに上側収容部材13及び下側収容部材14内に位置合わせの後に収容され、改めて搬送成形ユニット10が組み立てられる。
【0064】
組み立てられた搬送成形ユニット10は、前述のとおり、ローラーコンベア62、リニアアクチュエータ70bにより第2搬出区55まで運ばれる。第2搬出区55においても、真空ポンプにより搬送成形ユニット10の収容空間15内は、脱気部17を通じて所定の真空度まで減圧される。そして、同第2搬出区55(待機位置)において、加熱成形部20への搬送待機状態となる。
【0065】
冷却部30において冷却を終えた搬送成形ユニット10は、図1参照のとおり、冷却部30の後側に配置される搬入部80に受け入れられる。下方の搬送成形ユニット10は、搬入部80の第1搬入ステージ81の第1搬入区83に搬入される。そして、図示省略のローラーコンベア、リニアアクチュエータ等により第1搬入区83から第1搬出区84に搬送される。また、上方の搬送成形ユニット10も同様に、第2搬入ステージ82の第2搬入区85に搬入され、図示省略のローラーコンベア、リニアアクチュエータ等により第2搬入区85から第2搬出区86に搬送される。
【0066】
熱転写成形装置1は搬出部50と搬入部80を備えているため、搬出部50では搬出のための準備や待機が可能となり、また搬入部80では搬入後の加工済み被加工材Wの取り出しや返送のための準備も可能となる。従って、加熱成形部20への搬入効率並びに冷却部30からの搬出効率が高められる。
【0067】
また、熱転写成形装置1は返送装置45を備え、搬入部80から搬出部50へ、搬送成形ユニット10を構成する上側収容部材13、下側収容部材14等の資材を返送可能としている。このため、熱転写成形装置1において、被加工材Wを封入した搬送成形ユニット10を加熱成形部20と冷却部30との間で逐一進退させる必要はない。搬送成形ユニット10は常に一方通行の搬送となり、成形加工の生産性が飛躍的に向上する。
【0068】
実施例の熱転写成形装置1では、搬送成形ユニット10からの加工済み被加工材Wの取り出しは搬入部80において行われる。冷却部30において冷却を終えて搬入部80に搬入される搬送成形ユニット10は、真空ポンプによる脱気のため収容空間15内の真空度が高くなっている(高真空状態である)。単に脱気部17の気密を解除して収容空間15内を大気圧に戻したとしても、加工済み被加工材W(製品)と上側及び下側スタンパ11,12との剥離は容易ではない場合がある。
【0069】
実施例の熱転写成形装置1では、冷却部30において冷却を終えた後、当該搬入部80において搬送成形ユニット10はその脱気部17を通じて収容空間15内に圧縮空気が供給され、同収容空間15内の加圧が行われる。収容空間15内が大気圧よりも陽圧となるため、搬送成形ユニット10を構成する上側収容部材13と下側収容部材14との乖離は容易となる。また、加工済み被加工材W(製品)と上側及び下側スタンパ11,12の隙間にも圧縮空気が侵入して双方の剥離も円滑に行うことができる。
【0070】
前述のとおり、搬出部50から搬入部80までの搬送成形ユニット10の搬送は搬送装置40により行われる。実施例の熱転写成形装置1は、搬送成形ユニット10の搬送効率をより高めるため、搬送装置40のチャック部41,41を搬送成形ユニットの前進方向側に長くすることで対処している。具体的には、図5,6に概略視されるように、搬送装置40のチャック部41,41は、搬出部50、加熱成形部20、及び冷却部30に載置されている各搬送成形ユニット10を一括して掴持可能とする全長に形成される。
【0071】
そこで、搬出部50、加熱成形部20、及び冷却部30のそれぞれに載置されている各搬送成形ユニット10は、搬送装置40のチャック部41,41の前進方向への移動に伴い一括して順送りの搬送が可能となり、加熱成形部20、冷却部30、及び搬入部80のそれぞれに搬送、載置される。搬送装置40のチャック部41,41が搬入部80に到達し搬送成形ユニット10を搬送、載置し終えた後、搬送装置40のチャック部41,41は掴持しない状態で当初の搬出部50まで後退する。そして、再び同様に搬送成形ユニット10を掴持、搬送を繰り返し続ける。搬送装置40は、搬出部50、加熱成形部20、冷却部30、及び搬入部80の中のひとつの部に相当する距離の前進と後退を繰り返すことにより、絶えず搬送成形ユニット10は前進方向に搬送される。こうして、搬送装置の1回の前進で搬送可能とする搬送成形ユニットの数が増し、熱転写成形装置内での搬送成形ユニットの搬送効率が高まる。
【0072】
図7の概要図も用い、ひとつの搬送成形ユニット10xに着目してさらに説明する。当初、搬出部50の待機位置に搬送成形ユニット10xは載置される(同図(a))。搬送成形ユニット10xは、搬送装置40(チャック部41)の前進に伴い次の加熱成形部20に搬送、載置される(同図(b))。同時に、加熱成形部20の搬送成形ユニット10は冷却部30に、冷却部30の搬送成形ユニット10は搬入部80に搬送される。
【0073】
次に、搬送装置40(チャック部41)は掴持しない状態で後退し、搬出部50、加熱成形部20、冷却部30の搬送成形ユニットを掴持する(同図(c))。掴持した搬送装置40(チャック部41)が前進することにより、搬送成形ユニット10xは加熱成形部20から冷却部30に搬送、載置される(同図(d))。
【0074】
再度、搬送装置40(チャック部41)は掴持しない状態で後退し、搬出部50、加熱成形部20、冷却部30の搬送成形ユニットを掴持する(同図(e))。掴持した搬送装置40(チャック部41)が前進することにより、搬送成形ユニット10xは冷却部30から搬入部80に搬送、載置される(同図(f))。
【0075】
そして再度、搬送装置40(チャック部41)は掴持しない状態で後退する(同図(g))。最終的に、搬送成形ユニット10xから加工済みの被加工材が取り出される(同図(h))。この後、前述のとおり、搬入部80から搬出部50へ、上側収容部材と下側収容部材が返送される。
【0076】
これまでに図示し詳述した熱転写成形装置1を用いて行われる熱転写成形方法も説明する。はじめに、熱転写成形装置1の搬出部50(第1搬入区54、第2搬入区56)において、上下方向に上側スタンパ11、被加工材W、及び下側スタンパ12とする順に、これらは上側収容部材13と下側収容部材14との間に収容され、搬送成形ユニット10が組み立てられる。そして、搬送成形ユニット10は脱気部17を通じてその収容空間15内の空気が脱気され、搬出部50の待機位置(第1搬出区53、第2搬出区55)に載置される。
【0077】
搬送成形ユニット10は、搬送装置40により搬出部50から加熱成形部20へ前進方向に搬送され、加熱成形部20の加熱盤部21同士の間に載置される。この加熱成形部20においても搬送成形ユニット10は脱気部17を通じてその収容空間15内の空気が脱気される。脱気の後、加熱成形部20の加熱盤部21により搬送成形ユニット10を経由して被加工材Wは熱転写プレスされる。
【0078】
次に、搬送成形ユニット10は、搬送装置40により加熱成形部20から冷却部30へ前進方向に搬送され、冷却部30の冷却盤部31同士の間に載置される。この冷却部30においても搬送成形ユニット10は脱気部17を通じてその収容空間15内の空気が脱気される。脱気の後、冷却部30の冷却盤部31により搬送成形ユニット10を経由して被加工材Wは加圧、冷却される。
【0079】
そして、搬送成形ユニット10は、搬送装置40により冷却部30から搬入部80へ前進方向に搬送され、搬入部80の搬入位置(受け入れ位置)となる第1搬入区83、第2搬入区85に載置される。
【0080】
冷却部30における冷却を終えた搬送成形ユニット10は、その直後の搬入部80(特には第1搬入区83、第2搬入区85)において脱気部17を通じてその収容空間15に圧縮空気が給気される。搬送成形ユニット10は第1搬入区83から第1搬出区84へ、第2搬入区85から第2搬出区85へ搬入部80を移動して、第1搬出区84、第2搬出区85で搬送成形ユニット10の上側収容部材13と下側収容部材14の分離、上側スタンパ11及び下側スタンパ12からの被加工材Wが取り外される。ここで、熱転写成形は完了し、加工済み被加工材W(製品)を得ることができる。
【0081】
加工済み被加工材W(製品)を取り出した後の上側収容部材13及び下側収容部材14、さらに上側スタンパ11及び下側スタンパ12は、返送装置45を用いて第1搬出区84から第1搬入区54へ、第2搬出区85から第2搬入区56へ返送される。
【0082】
そして、搬出部50において搬入部80から返送されて来た上側収容部材13及び下側収容部材14、上側スタンパ11及び下側スタンパ12に新たな被加工材Wが組み込まれ搬送成形ユニット10が組み立てられる。以下同様に、新たな搬送成形ユニット10の収容空間15内の脱気後、加熱成形部20への搬送、同部20での脱気、熱転写プレス、続く冷却部30への搬送、同部30での脱気、冷却、加圧、続く搬入部80への搬送、搬送成形ユニット10の収容空間15内への給気、加工済み被加工材W(製品)の取り出し、資材の返送となるとおり、熱転写成形装置1の稼働時間内では絶えず被加工材Wの熱転写成形が行われる。
【0083】
当該説明の一連の工程から理解されるように、被加工材に対する真空熱転写成形の連続化が可能である。それゆえ、単位時間当たりの生産性を高めることができる。また、被加工材を単独ではなく、搬送成形ユニットとして減圧状態を維持した状態のまま搬送することができる。このため、従前の装置のように加熱成形部や冷却部自体を減圧チャンバで囲む必要もなくなり、装置自体も簡素化することができる。加えて、途中の加熱成形部の加熱盤部や冷却部の冷却盤部の温度をほぼ一定化することができることから、温度の昇降調節も不要となり、時間短縮に貢献する。
【符号の説明】
【0084】
1 熱転写成形装置
10 搬送成形ユニット
11 上側スタンパ
12 下側スタンパ
13 上側収容部材
14 下側収容部材
15 収容空間
17 脱気部
20 加熱成形部
21 加熱盤部
30 冷却部
31 冷却盤部
40 搬送装置
41 チャック部
50 搬出部
51 第1搬出ステージ
52 第2搬出ステージ
53 第1搬出区
54 第1搬入区
55 第2搬出区
56 第2搬入区
61,62,63,64 ローラーコンベア
80 搬入部
81 第1搬入ステージ
82 第2搬入ステージ
83 第1搬入区
84 第1搬出区
85 第2搬入区
86 第2搬出区
W 被加工材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、
複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、
複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、
前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有し、
前記搬送装置が、前記搬送成形ユニットを前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順で搬送することを特徴とする熱転写成形装置。
【請求項2】
前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、
前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、
前記搬送装置は前記搬送成形ユニットを前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送する請求項1に記載の熱転写成形装置。
【請求項3】
前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置を備える請求項2に記載の熱転写成形装置。
【請求項4】
前記搬出部及び前記搬入部において、前記搬送成形ユニットは前進方向と直交する左右方向に移動可能である請求項2または3に記載の熱転写成形装置。
【請求項5】
前記搬出部及び前記搬入部が、前記加熱成形部における前記加熱盤部及び前記冷却部における前記冷却盤の配置に応じ前記搬送成形ユニットを垂直方向に複数載置可能としている請求項2ないし4に記載の熱転写成形装置。
【請求項6】
前記チャック部は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して掴持可能とする長さを有し、
前記搬送装置は、前記搬出部、前記加熱成形部、及び前記冷却部に載置されている前記各搬送成形ユニットを一括して前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部に搬送し載置する請求項2ないし5のいずれか1項に記載の熱転写成形装置。
【請求項7】
前記加熱成形部に搬入された前記搬送成形ユニット及び前記冷却部に搬入された前記搬送成形ユニットは、ともに前記脱気部を通じて減圧される請求項1ないし6のいずれか1項に記載の熱転写成形装置。
【請求項8】
前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧される請求項1ないし7のいずれか1項に記載の熱転写成形装置。
【請求項9】
被加工材と、前記被加工材の上下表面に密着する上側スタンパ及び下側スタンパと、前記上側スタンパ、前記被加工材及び前記下側スタンパとする順に収容する上側収容部材及び下側収容部材と、前記上側収容部材と前記下側収容部材との合着により形成された収容空間内を減圧する脱気部を備え、減圧状態を維持しながら搬送可能とする搬送成形ユニットと、
複数の加熱盤部を垂直方向に積層して備え、前記各加熱盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して加熱及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に加熱成形する加熱成形部と、
複数の冷却盤部を垂直方向に積層して備え、前記各冷却盤部同士の間に前記搬送成形ユニットを挟持するとともに前記搬送成形ユニットに対して冷却及び加圧し前記複数の搬送成形ユニット内の前記被加工材を同時に冷却する冷却部と、
前記搬送成形ユニットを掴持するチャック部を備え、前記各加熱盤部同士の間あるいは前記各冷却盤部同士の間の所定位置に前記搬送成形ユニットを載置しかつ搬送する搬送装置とを有する成形装置を用いた熱転写成形方法であって、
前記加熱成形部及び前記冷却部のいずれにおいても前記脱気部を通じて前記チャンバ空間内の減圧が行われ、
前記搬送成形ユニットが、前記搬送装置により前記加熱成形部、前記冷却部の前進方向の配置順に搬送されることによって前記搬送成形ユニット内に収容されている前記被加工材の成形が行われる
ことを特徴とする熱転写成形方法。
【請求項10】
前記加熱成形部の前側に配置され前記脱気部を通じて前記収容空間内の減圧を行い待機位置に前記搬送成形ユニットを載置し前記加熱成形部に向けて前記搬送成形ユニットを搬出する搬出部と、
前記冷却部の後側に配置され前記冷却部から搬入される前記搬送成形ユニットを受け入れ前記搬送成形ユニットの分離を行う搬入部が備えられ、
前記搬送成形ユニットは前記搬送装置により前記搬出部、前記加熱成形部、前記冷却部、及び前記搬入部の順に搬送される請求項9に記載の熱転写成形方法。
【請求項11】
前記搬入部から前記搬出部へ前記上側収容部材及び下側収容部材を返送する返送装置が備えられる請求項10に記載の熱転写成形方法。
【請求項12】
前記搬送成形ユニットは前記冷却部において冷却を終えた後、前記搬送成形ユニットは前記脱気部を通じ給気されて前記収容空間内が加圧される請求項9ないし11のいずれか1項に記載の熱転写成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131105(P2012−131105A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284817(P2010−284817)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(592199412)安田工機株式会社 (7)
【Fターム(参考)】