説明

熱輸送ユニット、電子機器

【課題】発熱体の熱を所定方向に向けて高速に輸送できる熱輸送ユニットを提供する。
【解決手段】本発明の熱輸送ユニット(1)は、上部板(2)と、上部板(2)と対向する下部板(3)と、上部板(2)と下部板(3)とによって形成され、冷媒を封入可能な内部空間(4)と、内部空間(4)に含まれ、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散空間(5)と、内部空間(4)に含まれ、凝縮した冷媒が還流する冷媒還流空間(6)と、蒸気拡散空間(5)を拡散する気化した冷媒と、冷媒還流空間(6)を還流する凝縮した冷媒と、の干渉を防止する干渉防止板(7)と、を備え、干渉防止板(7)は、蒸気拡散空間(5)で凝縮した冷媒を、冷媒還流空間(6)に移動させる複数の細孔(8)を有し、細孔における蒸気拡散空間(5)側の開口面積は、冷媒還流空間(6)側における開口面積よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路、LED素子、パワーデバイス、電子部品などの発熱体から受熱した熱を効率的に輸送する熱輸送ユニットおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、産業機器および自動車などには、半導体集積回路、LED素子、パワーデバイスなどの電子部品が使用されている。これらの電子部品は、内部を流れる電流によって発熱する発熱体になっている。発熱体の発熱が一定温度以上となると、動作保証ができなくなる問題もあり、他の部品や筐体へ悪影響を及ぼし、結果として電子機器や産業機器そのものの性能劣化を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような発熱体を冷却するために、封入された冷媒の気化と凝縮による冷却効果を有するヒートパイプを用いた冷却装置が提案されている。
【0004】
ヒートパイプは、内部に封入された冷媒が気化する際に、発熱体から熱を奪う。気化した冷媒は、放熱によって冷却されて凝縮し、凝縮した冷媒は再び還流する。この気化と凝縮の繰り返しによって、ヒートパイプは発熱体を冷却する。すなわち、ヒートパイプは、熱を拡散したり輸送したりする。更に、放熱部材などと組み合わされることで、ヒートパイプは拡散や輸送された熱を冷却する。金属で形成された熱拡散部材に比較すると、ヒートパイプは冷媒を用いることでより効率的に熱を拡散したり輸送したりできる。
【0005】
近年、冷却対象となる電子部品は、CPU(Central Processing Unit)や専用ICのような比較的大型の半導体集積回路のみでなく、高輝度LED(Light Emitting Device)をはじめとする非常に小型の電子部品であることも多い。このような小型の電子部品は、単体でのサイズが小さいだけでなく、複数の電子部品で1セットとなることも多い。このため、ヒートパイプを用いた冷却装置は、複数の小型の電子部品を冷却する必要があることも多い。
【0006】
このような小型の電子部品は電子基板の一部に集中的に実装されることが多く、実装されている場所においては空間的余裕度がなく、その場所で熱を放散や排出できないことが多い。このため、電子部品からの熱を奪った上で所定方向に熱を高速に輸送し、輸送された先で冷却される必要がある。すなわち、冷媒の気化と還流とを用いる熱輸送部材であって、所定方向に熱を高速に輸送する熱輸送部材が求められている。
【0007】
このような状況において、発熱体から奪った熱を、所定方向に輸送するヒートパイプが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−101585号公報
【特許文献2】特開2002−39693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヒートパイプを用いた冷却装置では、熱輸送効率(気化冷媒の拡散と冷媒の還流の一回あたりの速度と、単位期間でのサイクル数により定まる)を向上させることが、冷却能力向上に重要である。
【0010】
一般的なヒートパイプにおいては、受熱部で気化した冷媒は、圧力差によって放熱部に到達する。放熱部に到達した冷媒は、放熱部において冷却して凝縮し、毛細管力によってウィックとして形成されている毛細管流路を受熱部に向けて還流する。このとき、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流とは、対向する方向になる。
【0011】
この対向する方向における気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流との速度差によって、両者の間にはせん断応力が生じる。かかるせん断応力は、気化した冷媒と凝縮した冷媒との速度差の増加に応じて増大する。このため、受熱量の増加と共に気化した冷媒の拡散速度が高まって、凝縮した冷媒に対するせん断応力が増加し、凝縮した冷媒の還流を阻害する。この結果、ヒートパイプにおける熱輸送サイクルが減少することになる。
【0012】
特許文献1に開示されるヒートパイプは、細孔(細孔というよりは通路)が整列する板型ヒートパイプを開示する。特許文献1に開示されるヒートパイプでは、各々の通路が、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流を行う。この細孔によって、特許文献1に開示されるヒートパイプは、所定方向に向けて熱を輸送できる。すなわち、細孔の第1端部から第2端部にかけて気化した冷媒が拡散し、第2端部から第1端部にかけて凝縮した冷媒が還流する。
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示されるヒートパイプでは、通路となっている細孔を気化した冷媒が還流すると共に凝縮した冷媒が還流する。このため、気体となった冷媒と液体となった冷媒とが細孔において衝突したり干渉したりして、冷媒の輸送サイクルが低減してしまう。結果として、特許文献1に開示されるヒートパイプは、所定方向に熱を高速に輸送することができない。
【0014】
また、特許文献2に開示されるヒートパイプは、積層される部材に設けられるスリットを相互にずらすことによって、気化した冷媒の拡散路と凝縮した冷媒の還流路とを形成する。このスリットが所定方向に形成されていることで、冷媒の拡散と還流とも所定方向に行なわれる。結果として、特許文献2に開示されるヒートパイプは、所定方向に熱を輸送できる。
【0015】
しかしながら、特許文献2に開示されるヒートパイプは、気化した冷媒を拡散させる蒸気拡散路と凝縮した冷媒を還流させる冷媒還流路とが所定方向にそった一部で重複している。この重複した領域において、気化した冷媒と凝縮した冷媒とが衝突したり干渉したりして、冷媒の輸送サイクルが低減してしまう。結果として、特許文献2に開示されるヒートパイプは、所定方向に熱を高速に輸送できない。ヒートパイプの第1端部から第2端部に向かう気化した冷媒の拡散と、第2端部から第1端部に向かう凝縮した冷媒の還流とが相互に干渉するからである。
【0016】
以上のように、従来技術におけるヒートパイプは、気化した冷媒と凝縮した冷媒との干渉を生じさせ、所定方向に熱を高速に輸送できない問題を有していた。
【0017】
もちろん、冷媒の気化と凝縮とを必要とするヒートパイプでは、気化した冷媒の拡散路と凝縮した冷媒の還流路とが、完全に分離されることはできない。
【0018】
すなわち、発熱体から奪った熱を所定方向に高速に輸送するために、(1)蒸気拡散路で凝縮した冷媒が冷媒還流路に移動しつつ冷媒還流路の冷媒が気化して蒸気拡散路に移動できるように冷媒同士は行き来できること、(2)気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流とが干渉しないこと、が両立される必要がある。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑み、上記の(1)、(2)を両立させて、発熱体の熱を所定方向に向けて高速に輸送できる熱輸送ユニットを提供することを目的とする。なお、熱輸送ユニットは、封入した冷媒の気化と凝縮を用いるヒートパイプの構造を有する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題に鑑み、本発明の熱輸送ユニットは、上部板と、上部板と対向する下部板と、上部板と下部板とによって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、内部空間に含まれ、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散空間と、内部空間に含まれ、凝縮した冷媒が還流する冷媒還流空間と、蒸気拡散空間を拡散する気化した冷媒と、冷媒還流空間を還流する凝縮した冷媒と、の干渉を防止する干渉防止板と、を備え、干渉防止板は、蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を、冷媒還流空間に移動させる複数の細孔を有し、細孔における蒸気拡散空間側の開口面積は、冷媒還流空間側における開口面積よりも小さい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱輸送ユニットは、発熱体から奪った熱を、所定方向に向けて高速かつ効率よく輸送できる。
【0022】
熱輸送ユニットは、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散空間と凝縮した冷媒が還流する冷媒還流空間とを、干渉防止板で分離しており、気化した冷媒は蒸気拡散空間を拡散し凝縮した冷媒は冷媒還流空間を還流するので、それぞれが高速に移動できる。
【0023】
また、干渉防止板は、細孔によって蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を冷媒還流空間に移動させることができるので、蒸気拡散空間と冷媒還流空間とは、冷媒をやり取りできる。すなわち、冷媒の気化と凝縮を利用したヒートパイプ機能を有することができる。
【0024】
また、細孔は、蒸気拡散空間のせん断応力を冷媒還流空間に伝播させない構造を有するので、気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流とが干渉しなくなる。このため、(1)蒸気拡散路で凝縮した冷媒が冷媒還流路に移動しつつ冷媒還流路の冷媒が気化して蒸気拡散路に移動できるように冷媒同士は行き来できること、(2)気化した冷媒の拡散と凝縮した冷媒の還流とが干渉しない、ことが両立される。結果として、本発明の熱輸送ユニットは、発熱体から奪った熱を、所定方向に高速に輸送できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの内面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの側断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における上部板の斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1における上部板の斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態1における細孔の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態1における細孔の側面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの分解斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの側断面図である。
【図11】比較例1、比較例2、実施例での細孔の構造を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態1における比較例1のシミュレーション結果を示す説明図である。
【図13】本発明の実施の形態1における比較例2のシミュレーション結果を示す説明図である。
【図14】本発明の実施の形態1における実施例のシミュレーション結果を示す説明図である。
【図15】本発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの分解斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの側断面図である。
【図18】本発明の実施の形態3における電子機器の模式図である。
【図19】本発明の実施の形態3における電子機器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1の発明に係る熱輸送ユニットは、上部板と、上部板と対向する下部板と、上部板と下部板とによって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、内部空間に含まれ、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散空間と、内部空間に含まれ、凝縮した冷媒が還流する冷媒還流空間と、蒸気拡散空間を拡散する気化した冷媒と、冷媒還流空間を還流する凝縮した冷媒と、の干渉を防止する干渉防止板と、を備え、干渉防止板は、蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を、冷媒還流空間に移動させる複数の細孔を有し、細孔における蒸気拡散空間側の開口面積は、冷媒還流空間側における開口面積よりも小さい。
【0027】
この構成により、熱輸送ユニットは、所定方向に拡散する気化冷媒の拡散空間と、所定方向と逆方向に還流する凝縮冷媒の還流空間とを分離できる。分離しつつも、熱輸送ユニットは、細孔によって、気化する冷媒のせん断応力の伝播を防止しつつ冷媒を移動できる。この分離と移動の両立によって、熱輸送ユニットは、気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流との相互干渉を防止しつつ、発熱体から奪った熱を高速に所定方向に輸送できる。
【0028】
本発明の第2の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1の発明に加えて、蒸気拡散空間と冷媒還流空間とは、干渉防止板によって分離される。
【0029】
この構成により、熱輸送ユニットは、所定方向に拡散する気化冷媒の拡散空間と、所定方向と逆方向に還流する凝縮冷媒の還流空間とを分離できる。
【0030】
本発明の第3の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1又は第2の発明に加えて、蒸気拡散空間は、第1方向に沿って気化した冷媒を拡散し、冷媒還流空間は、第1方向と逆方向である第2方向に沿って凝縮した冷媒を還流する。
【0031】
この構成により、熱輸送ユニットは、所定方向に沿って、発熱体から奪った熱を高速に輸送できる。
【0032】
本発明の第4の発明に係る熱輸送ユニットでは、第3の発明に加えて、熱輸送ユニットは、第1端部および第1端部と逆側の第2端部とを有し、第1端部近傍に配置された発熱体の熱によって封入された冷媒が気化し、蒸気拡散空間が、気化した冷媒を第1方向に沿って拡散させ、細孔は、第1端部から第2端部に拡散する過程で凝縮した冷媒を、冷媒還流空間に移動させ、冷媒還流空間は、冷媒還流空間に移動した凝縮した冷媒を、第2方向に沿って還流させる。
【0033】
この構成により、熱輸送ユニットは、所定方向に沿って、発熱体から奪った熱を気化冷媒によって拡散しつつ、凝縮した冷媒を、蒸気拡散空間の途中で冷媒還流空間に移動させることができる。この結果、蒸気拡散空間での気化冷媒の拡散に対する凝縮冷媒の干渉を防止でき、熱輸送ユニットは、所定方向に高速に熱を輸送できる。
【0034】
本発明の第5の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第4のいずれかの発明に加えて、細孔は、蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を冷媒還流空間に移動させると共に、蒸気拡散空間を拡散する気化した冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間に伝播するのを防止する。
【0035】
この構成により、細孔を通じて、拡散する気化した冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間に伝播することがなくなる。この結果、熱輸送ユニットは、蒸気拡散空間から冷媒還流空間への干渉を防止できる。
【0036】
本発明の第6の発明に係る熱輸送ユニットでは、第3から第5のいずれかの発明に加えて、せん断応力が冷媒還流空間に伝播するのを防止することで、干渉防止板は、第2方向に沿った凝縮した冷媒の還流に対する第1方向に沿った気化した冷媒による干渉を防止する。
【0037】
この構成により、熱輸送ユニットは、蒸気拡散空間と冷媒還流空間との干渉を防止でき、発熱体から奪った熱を高速に輸送できる。
【0038】
本発明の第7の発明に係る熱輸送ユニットでは、第4から第6のいずれかの発明に加えて、第1端部および第2端部の少なくとも一方は、蒸気拡散空間と冷媒還流空間とを結ぶ開口部を更に備える。
【0039】
この構成により、気化冷媒よりも凝縮冷媒の多い端部では、熱輸送ユニットは凝縮冷媒をより効率的に冷媒還流空間に移動させ、凝縮冷媒よりも気化冷媒の多い端部では、熱輸送ユニットは、気化冷媒をより効率的に蒸気拡散空間に移動させる。結果として、冷媒の輸送サイクルが速くなり、熱輸送ユニットは、発熱体から奪った熱を高速に輸送できる。
【0040】
本発明の第8の発明に係る熱輸送ユニットでは、第7の発明に加えて、開口部は、干渉防止板に設けられ、細孔よりも大きな開口面積を有する。
【0041】
この構成により、熱輸送ユニットは、蒸気拡散空間と冷媒還流空間との間で、冷媒を効率的に移動できる。
【0042】
本発明の第9の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第8のいずれかの発明に加えて、細孔は、蒸気拡散空間から冷媒還流空間に向けてその断面積を拡張させる形状を有する。
【0043】
この構成により、細孔は、蒸気拡散空間を拡散する気化冷媒によるせん断応力を、冷媒還流空間に伝播させない。
【0044】
本発明の第10の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第9のいずれかの発明に加えて、上部板および下部板の少なくとも一方は複数の溝を有し、複数の溝は、冷媒還流空間を形成する。
【0045】
この構成により、熱輸送ユニットは、容易に冷媒還流空間を形成できる。
【0046】
本発明の第11の発明に係る熱輸送ユニットでは、第10の発明に加えて、複数の溝は、第2方向に沿っている。
【0047】
この構成により、冷媒還流空間は、第2方向に沿って、凝縮した冷媒を還流できる。
【0048】
本発明の第12の発明に係る熱輸送ユニットでは、第10又は第11の発明に加えて、上部板および下部板の双方が溝を備える場合には、上部板には、第1の干渉防止板が対向して設けられ、下部板には、第2の干渉防止板が対向して設けられる。
【0049】
この構成により、熱輸送ユニットは設置における上下を選ばずに、発熱体を冷却できる。また、熱輸送ユニットは、より高速に熱を輸送できる。
【0050】
本発明の第13の発明に係る熱輸送ユニットでは、第1から第12のいずれかの発明に加えて、蒸気拡散空間および冷媒還流空間の少なくとも一方は、その表面に金属めっきを有する。
【0051】
この構成により、蒸気拡散空間および冷媒還流空間は、気化した冷媒や凝縮した冷媒を効率的に移動できる。
【0052】
本発明の第14の発明に係る熱輸送ユニットでは、第13の発明に加えて、金属めっきは、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金の少なくとも一つの金属から選ばれる。
【0053】
この構成により、蒸気拡散空間および冷媒還流空間は、気化した冷媒や凝縮した冷媒を効率的に移動できる。
【0054】
本発明の第15の発明に係る熱輸送ユニットでは、第4から第14のいずれかの発明に加えて、第2端部において気化した冷媒を冷却する放熱部を更に備える。
【0055】
この構成により、輸送された熱が早期に冷却され、熱輸送ユニットは、高い熱輸送サイクルを得ることができる。
【0056】
本発明の第16の発明に係る熱輸送ユニットでは、第4から第15のいずれかの発明に加えて、第1端部において、発熱体と熱的に接触する接触部を更に備える。
【0057】
この構成により、熱輸送ユニットは、発熱体から効率的に熱を奪うことができる。
【0058】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0059】
なお、本明細書におけるヒートパイプとは、内部空間に封入された冷媒が、発熱体からの熱を受けて気化し、気化した冷媒が冷却されて凝縮することを繰り返すことで、発熱体を冷却する機能を実現する部材、部品、装置、デバイスを意味する。また、本明細書における熱輸送ユニットとは、冷媒の移動によって発熱体からの熱を輸送する機能を有する部材、部品、装置、デバイスを意味する。
【0060】
(実施の形態1)
【0061】
(ヒートパイプの概念説明)
本発明の熱輸送ユニットは、ヒートパイプの機能や動作を利用しているので、まずヒートパイプの概念について説明する。
【0062】
ヒートパイプは、内部に冷媒を封入しており、受熱面となる面を、電子部品をはじめとする発熱体に接している。内部の冷媒は、発熱体からの熱を受けて気化し、気化する際に発熱体の熱を奪う。気化した冷媒は、ヒートパイプの中を移動する。この移動によって発熱体の熱が運搬されることになる。移動した気化した冷媒は、放熱面などにおいて(あるいはヒートシンクや冷却ファンなどの二次冷却部材によって)冷却されて凝縮する。凝縮して液体となった冷媒は、ヒートパイプの内部を還流して再び受熱面に移動する。受熱面に移動した冷媒は、再び気化して発熱体の熱を奪う。
【0063】
このような冷媒の気化と凝縮の繰り返しによって、ヒートパイプは発熱体を冷却する。このため、ヒートパイプは、その内部に気化した冷媒を拡散する蒸気拡散空間と、凝縮した冷媒を還流させる冷媒還流空間を有することが好適である。このような蒸気拡散空間と冷媒還流空間を有するヒートパイプは、発熱体から奪った熱を所定方向に輸送できる。
【0064】
(全体概要)
実施の形態1における熱輸送ユニットの全体概要について図1〜図3を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの斜視図である。図2は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの内面図である。図3は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの側断面図である。
【0065】
図1は、熱輸送ユニット1の端部を切断して内部を露出した状態を示している。図2は、熱輸送ユニット1の内部に設けられる干渉防止板を上から見た状態を示している。図3は、熱輸送ユニット1の内部を可視状態にして示しつつ、気化した冷媒と凝縮した冷媒の移動経路を破線矢印で示している。
【0066】
熱輸送ユニット1は、上部板2、上部板2と対向する下部板3、上部板2と下部板3とによって形成される内部空間4を有する。内部空間4は、冷媒を封入可能である。ま熱輸送ユニット1は、内部空間4に含まれる蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを備える。蒸気拡散空間5は、気化した冷媒を拡散する。冷媒還流空間6は、凝縮した冷媒を還流する。また、熱輸送ユニット1は、蒸気拡散空間5を拡散する気化した冷媒(以下、「気化冷媒」という)と、冷媒還流空間を還流する凝縮した冷媒(以下、「凝縮冷媒」という)と、の干渉を防止する干渉防止板7を備える。
【0067】
干渉防止板7は、蒸気拡散空間5で凝縮した冷媒を冷媒還流空間6に移動させる複数の細孔8を有し、細孔8の蒸気拡散空間5側での開口面積は、冷媒還流空間6側の開口面積よりも小さい。
【0068】
熱輸送ユニット1は、上部板2と下部板3とによって、まず内部空間4を形成する。このとき、上部板2と下部板3の端部は、内部空間4を封止する構造を有しており、上部板2と下部板3とが接合されると、周囲が閉鎖された内部空間4が形成される。干渉防止板7は、上部板2と下部板3との間に積層されることで、干渉防止板7が内部空間4に設置される。
【0069】
内部空間4は、冷媒を封入して気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流とを行なわせるが、干渉防止板7によって、内部空間4は、上部板2側と下部板3側の上下に分離される。この上部板2側の空間は、気化冷媒を拡散する蒸気拡散空間5となり、下部板3側の空間は、凝縮冷媒を還流する冷媒還流空間6となる。なお、上部板2および下部板3とは区別するための便宜上の用語であって、物理的な上下と合致しなければならないわけではない。当然、蒸気拡散空間5は、内部空間4における物理的な上方に存在しなければならないわけではなく、冷媒還流空間6も、内部空間4における物理的な下方に存在しなければならないわけではない。
【0070】
このように、干渉防止板7は、内部空間4を蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とに分離する。この結果、内部空間4に封入されている冷媒は、気化して気化冷媒となると蒸気拡散空間5を所定方向(図1では第1方向)に拡散し、凝縮して凝縮冷媒となると冷媒還流空間6を所定方向(図1では、第1方向と逆方向)に還流する。
【0071】
熱輸送ユニット1は、蒸気拡散空間5を用いて気化冷媒を第1方向に拡散し、冷媒還流空間6を用いて凝縮冷媒を第1方向と逆方向に還流させる。この結果、熱輸送ユニット1は、発熱体から奪った熱を、第1方向に沿って高速に輸送できる。
【0072】
内部空間4が蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とに分離されていない場合には、発熱体からの熱で気化した冷媒の拡散と、冷却されて凝縮した冷媒の還流とが相互に干渉する。この干渉によって、気化冷媒の拡散速度と凝縮冷媒の還流速度との両方が遅くなる。拡散速度と還流速度が遅くなることで、発熱体から奪った熱の輸送速度が遅くなる。
【0073】
一方、実施の形態1に示される干渉防止板7で蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とが分離されている熱輸送ユニット1は、気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流とが干渉しないので、拡散速度と還流速度とが速くなる。結果として、熱輸送ユニット1は、発熱体から奪った熱を高速に輸送できる。
【0074】
また、干渉防止板7は、複数の細孔8を有している。細孔8は、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒が凝縮した場合、凝縮冷媒を蒸気拡散空間5から冷媒還流空間6へ移動させる。この移動によって、凝縮冷媒は冷媒還流空間6に到達し、凝縮冷媒は冷媒還流空間6を還流する。蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒は、熱輸送ユニット1の外部環境によって、蒸気拡散空間5の端部で凝縮することもありえるし、途中で凝縮することもありえる。干渉防止板7は、複数の細孔8を備えることで、蒸気拡散空間5の途中で凝縮した冷媒であっても、端部で凝縮した冷媒であっても、細孔8は、凝縮冷媒を蒸気拡散空間5から冷媒還流空間6へ移動させることができる。
【0075】
ここで、細孔8の蒸気拡散空間5側での開口面積は、冷媒還流空間6側での開口面積より小さい。細孔8の開口面積のアンバランスは、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播するのを防止する。
【0076】
この結果、細孔8は、蒸気拡散空間5の様々な場所において凝縮冷媒を移動させると共に気化冷媒のせん断応力の伝播をも防止できる。
【0077】
干渉防止板7は、図2に示されるように、その全体に渡って細孔8を備える。もちろん、全体に渡って備えることは絶対条件ではなく、干渉防止板7の一部においてのみ細孔8を備えても良い。細孔8は、凝縮した冷媒を移動させる役割を有するので、その直径は毛細管力を働かせるような大きさであっても良い。
【0078】
次に、図3を用いて熱輸送ユニット1の動作メカニズムを説明する。
【0079】
図3は、熱輸送ユニット1の内部を側面から可視化した状態を示している。内部空間4は、干渉防止板7によって、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とに分離される。
【0080】
熱輸送ユニット1は、方形かつ平板形状を有しており、第1方向にそって長い形状を有している。熱輸送ユニット1の端部の一方である第1端部13であって下部板3の底面に発熱体20が配置されている。発熱体20は、電子部品、発光素子、パワーデバイスなどの発熱量の大きな素子を含む。
【0081】
熱輸送ユニット1は、内部空間4に予め冷媒を封入しており、液体の状態である冷媒は、冷媒還流空間6に溜まっている。下部板3は、発熱体20からの熱を奪う。この熱によって冷媒は気化し、気化冷媒は細孔8を通じて冷媒還流空間6から蒸気拡散空間5へ移動する。この移動は、破線矢印18によって示される。
【0082】
次に、気化した冷媒は、蒸気拡散空間5を第1方向に沿って拡散する。熱源たる発熱体20が、熱輸送ユニット1の端部に存在するので、気化冷媒は、温度の高い位置から低い位置に移動する力を持つため、気化冷媒は第1方向に沿って拡散する。破線矢印15は、蒸気拡散空間5を第1方向に沿って気化冷媒が拡散する状態を示す。
【0083】
気化冷媒は、蒸気拡散空間5を拡散する間に、外部環境の影響を受けて冷却される。この冷却によって気化冷媒の一部もしくは全部は凝縮する。気化冷媒は、蒸気拡散空間5の途中で凝縮することもありえるし、第2端部14に到達してから凝縮することもありえる。一般的には、蒸気拡散空間5の途中で凝縮する冷媒と第2端部14に到達してから凝縮する冷媒とが混在すると考えられる。
【0084】
細孔8は、蒸気拡散空間5の全般に対応して、干渉防止板7に設けられる。このため、蒸気拡散空間5の途中で凝縮した冷媒は、蒸気拡散空間5の途中に設けられる細孔8を介して冷媒還流空間6に移動する。また、蒸気拡散空間5の第2端部14において凝縮した冷媒は、第2端部14付近に設けられる細孔8を介して冷媒還流空間6に移動する。破線矢印17は、細孔8を介して、凝縮冷媒が冷媒還流空間6に移動する状態を示している。
【0085】
細孔8が、蒸気拡散空間5の様々な位置に設けられることで、凝縮した冷媒は手近な細孔8を介して冷媒還流空間6に移動できる。このため、蒸気拡散空間5において凝縮冷媒が滞留することがほとんどなくなり、気化冷媒が蒸気拡散空間5を拡散する際の障害がなくなる。この障害がなくなることで、蒸気拡散空間5は、気化冷媒を、高速かつ第1方向に沿って拡散できる。
【0086】
移動した凝縮冷媒は、冷媒還流空間6を第1方向と逆の第2方向に沿って還流する。発熱体20が配置される第1端部14では、受熱によって気圧が下がっており、気圧の下がっている第1端部13に凝縮冷媒が移動するからである。破線矢印16は、第2方向に沿った凝縮冷媒の還流を示している。
【0087】
冷媒還流空間6を第2方向に沿って還流した凝縮冷媒は、第1端部13に還流する。第1端部13に還流した凝縮冷媒は、発熱体20からの熱によって再び気化して細孔8を通じて蒸気拡散空間5へ移動する。蒸気拡散空間5へ移動した気化冷媒は、再び第1方向にそって拡散する。
【0088】
また、気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流とが往復して行なわれる際に、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力は、細孔8を通じて冷媒還流空間6に伝播しにくい。これは、細孔8の蒸気拡散空間5側での開口面積が、細孔8の冷媒還流空間6側での開口面積よりも小さいからである。この結果、凝縮冷媒が冷媒還流空間6を還流する際の障害が無くなり、冷媒還流空間6は、凝縮冷媒を、高速かつ第2方向に沿って還流できる。
【0089】
蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が冷媒還流空間6に伝播するのが防止されることで、干渉防止板7は、第2方向に沿った凝縮冷媒の還流に対する第1方向にそった気化冷媒による干渉を防止できる。
【0090】
このような第1方向に沿った気化冷媒の拡散と、第2方向に沿った凝縮冷媒の還流との繰り返しによって、熱輸送ユニット1は、発熱体20から奪った熱を第1方向に沿って高速に輸送できる。特に、干渉防止板7によって蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とが分離されつつも、細孔8によって、気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流とが、相互に干渉しなくなる。この不干渉によって、気化冷媒の拡散速度および凝縮冷媒の還流速度が高速化される。
【0091】
以上より、実施の形態1の熱輸送ユニット1は、所定方向に高速に熱を輸送できる。高速に熱が輸送できることで、ある位置に配置される発熱体の熱を、高速に別の場所に移動させることができ、複雑な形状を有する電子機器、輸送機器、産業機器などに実装される発熱体の冷却が、フレキシブルに行なわれるようになる。
【0092】
次に、各部の詳細について説明する。
【0093】
(上部板)
上部板2について説明する。
【0094】
上部板2は、平板形状を有し、好ましくは短手方向と長手方向とを有する方形である。勿論、部分的に方形と異なる形状を有していたり、湾曲や屈曲を有していたりしてもよい。但し、上部板2が短手方向と長手方向とを有する方形であることで、熱輸送ユニット1は、短手方向と長手方向とを有する方形となるので、熱輸送ユニット1は、端部に配置された発熱体からの熱を所定方向に輸送できるようになる。
【0095】
上部板2は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(あるいは耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。
【0096】
上部板2は、下部板3と共に内部空間4を形成する。例えば、上部板2や下部板3は、その周縁に内部空間4を形成するための凸部や壁材を有しており、上部板2と下部板3とが、これら凸部や壁材などを介して接合されることで上部板2と下部板3との間に内部空間4が形成される。下部板3と接合される際に、これらの凸部や壁材が、内部空間4の周囲の側壁となる。勿論、これら凸部や壁材は、上部板2と別部材であっても同一部材であっても良い。
【0097】
また、上部板2は、図4に示されるように、長手方向に沿った複数の溝を有していてもよい。図4は、本発明の実施の形態1における上部板の斜視図である。溝30は、冷媒還流空間6を形成する。上部板2および下部板3のいずれ側に蒸気拡散空間5および冷媒還流空間6が形成されるかは、用途や使用の条件次第であるので、冷媒還流空間6となる溝30が、上部板2に形成されても良い。
【0098】
また、上部板2は、少なくとも内部空間4に接する面(気化した冷媒が通る面)に、金属めっきを有していることも好適である。金属めっきが施されていることで、気化した冷媒の拡散を促進させるからである。金属めっきとしては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金の少なくとも一つの金属から選ばれれば良い。勿論、単層めっき、多層めっき、電解めっき、非電解めっきのいずれでもよい。
【0099】
上部板2は、「上部」との呼称を有するが、物理的に上方に配置されなければならないわけではなく、便宜上の呼称である。発熱体は上部板2に接してもよいし、下部板3に接しても良い。
【0100】
また、上部板2は、冷媒を注入する注入口を備えている。上部板2と下部板3とが接合されて内部空間4が形成されると、この内部空間4に冷媒を封入する必要がある。注入口は、冷媒を注入した後で封止される。
【0101】
なお、冷媒は、上部板2と下部板3との接合後に注入口から封入されても良く、接合される際に封入されても良い。また、冷媒の封入は、真空下もしくは減圧下にて行われることが好適である。真空または減圧下で行われることで、内部空間4が真空または減圧された状態となって冷媒が封入される。減圧下であると、冷媒の気化・凝縮温度が低くなり、冷媒の気化・凝縮の繰り返しが活発になるメリットがある。
【0102】
また、上部板2は、図5に示されるように、格子形状を有する溝31を備えても良い。格子形状の溝31は、図4の場合と同じく冷媒還流空間6を形成する。図5は、本発明の実施の形態1における上部板の斜視図である。
【0103】
溝31が格子形状を有することで、毛細管力が生じ、冷媒還流空間6は、凝縮冷媒を還流させやすくなる。
【0104】
(下部板)
次に下部板3について説明する。下部板3は、上部板2と同様の形状や構造を有している。このため、下部板3は、上部板2の正面図である図4、図5で代用して示す。
【0105】
下部板3は、平板形状を有し、好ましくは短手方向と長手方向とを有する方形である。特に、下部板3は、上部板2と対向して接合されるので、上部板2と略同一形状や同一面積を有していることも好適である。但し、下部板3は、上部板2と内部空間4を形成できるのであれば上部板2と異なる面積や形状を有していても良い。勿論、部分的に方形と異なる形状を有していたり、湾曲や屈曲を有していたりしてもよい。なお、上部板2と同様に下部板3が短手方向と長手方向とを有する方形であることで、熱輸送ユニット1は、短手方向と長手方向とを有する方形となるので、熱輸送ユニット1は、端部に配置された発熱体からの熱を所定方向に輸送できるようになる。
【0106】
下部板3は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(あるいは耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。
【0107】
下部板3は、上部板2と接合されて内部空間を形成するので、その周縁に内部空間4を形成するための凸部や壁材を有していても良い。上部板2と接合される際に、これらの凸部や壁材が、内部空間4の周囲の側壁となる。勿論、これら凸部や壁材は、下部板3と別部材であっても同一部材であっても良い。なお、上部板2および下部板3のそれぞれが、凸部や壁材を有していてもよいし、上部板2および下部板3のいずれか一方のみが、凸部や壁材を有していても良い。
【0108】
また、下部板3は、上部板2と同様に、図4、図5の通りの溝30、31を備えていても良い。これらの溝30、31は、冷媒還流空間6を形成する。下部板3が第2方向(第1方向)に沿った溝30を備える場合には、第2方向に沿って凝縮冷媒が還流し、格子形状の溝31を備える場合には、毛細管力によって凝縮冷媒が還流しやすくなる。
【0109】
また、下部板3が上部板2と同様に冷媒の注入口を備えていても良い。
【0110】
下部板3は、上部板2と対向して接合されることで、内部空間4が形成される。
【0111】
また、下部板3は、少なくとも内部空間4に接する面(気化した冷媒が通る面)に、金属めっきを有していることも好適である。金属めっきが施されていることで、凝縮した冷媒の拡散を促進させるからである。金属めっきとしては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金の少なくとも一つの金属から選ばれれば良い。勿論、単層めっき、多層めっき、電解めっき、非電解めっきのいずれでもよい。
【0112】
下部板3は、「下部」との呼称を有するが、物理的に下を向いていなければならないわけではなく、便宜上の呼称である。発熱体は下部板3に接してもよいし、上部板2に接しても良い。
【0113】
(干渉防止板)
次に、干渉防止板7について説明する。干渉防止板7は、内部空間4を蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とに分離すると共に蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒と冷媒還流空間6を還流する凝縮冷媒との干渉を防止する。
【0114】
干渉防止板7は、上部板2と下部板3と対向し、これらの間に積層される。干渉防止板7は単数でも複数でもよい。
【0115】
干渉防止板7は複数の細孔8を有し、細孔8は、蒸気拡散空間5で凝縮した冷媒を冷媒還流空間6に移動させる。細孔8の蒸気拡散空間5側の開口面積は、細孔8の冷媒還流空間6側の開口面積よりも小さい。このように細孔8の開口面積が、冷媒還流空間6側が大きいことで、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播することが防止される。この防止によって、蒸気拡散空間5を第1方向に拡散する気化冷媒からの冷媒還流空間6を還流する凝縮冷媒への干渉が防止される。
【0116】
図3に示されるように、上部板2と下部板3との間に単数の干渉防止板7が積層され、上部板2側を蒸気拡散空間5とし、下部板3側を冷媒還流空間6としてもよい。この場合には、干渉防止板7によって内部空間4が上下に分離され、上側が蒸気拡散空間5となり下側が冷媒還流空間6となる。
【0117】
干渉防止板7は、上部板2および下部板3との間に積層されるので、上部板2および下部板3と同様の形状、材質、サイズを有することが適当である。すなわち、上部板2や下部板3が短手方向と長手方向を有する方形である場合には、干渉防止板7も同じ構成を有する。
【0118】
干渉防止板7は、金属、樹脂などで形成されるが、銅、アルミニウム、銀、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、ステンレスなどの熱伝導率の高いあるいは防錆性(あるいは耐久性)の高い金属で形成されることが好ましい。加えて、干渉防止板7は、上部板2と共に蒸気拡散空間5を形成するので、上部板2と干渉防止板7とが所定の対向距離を有するように、干渉防止板7の周縁に壁材や凸部を備えていることも好適である。
【0119】
また、干渉防止板7は、少なくとも内部空間4に接する面(気化した冷媒が通る面)に、金属めっきを有していることも好適である。金属めっきが施されていることで、凝縮した冷媒の拡散を促進させるからである。金属めっきとしては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金の少なくとも一つの金属から選ばれれば良い。勿論、単層めっき、多層めっき、電解めっき、非電解めっきのいずれでもよい。
【0120】
干渉防止板7は、上部板2および下部板3と共に積層される。
【0121】
また、上部板2および下部板3のそれぞれが、溝30、溝31を備えて、いずれもが冷媒還流空間6を形成可能な場合には、第1の干渉防止板7が上部板2と対向して積層され、第2の干渉防止板7が下部板3と対向して積層される。このように積層されることで、熱輸送ユニット1の厚み方向中央部に蒸気拡散空間5が形成され、その上下のそれぞれに冷媒還流空間6が形成される。
【0122】
(細孔)
次に、細孔について説明する。
【0123】
細孔8は、干渉防止板7に設けられる複数の貫通孔であり、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを物理的に接続する。細孔8は、干渉防止板7に孔が穿たれることで形成される。
【0124】
細孔8は、干渉防止板7の長手方向全体に渡って形成されても良いし、一部のみに形成されても良い。また、細孔8は、干渉防止板7の短手方向全体に渡って形成されても良いし、一部のみに形成されても良い。
【0125】
細孔8が干渉防止板7の長手方向の一部のみに形成される場合には、長手方向における両端部および中央付近のみに細孔8が形成されることも好適である。気化冷媒は、端部および中央付近において主に凝縮しやすいからである。
【0126】
また、細孔8が干渉防止板7の短手方向の一部のみに形成される場合には、周縁部を中心に設けられることも好適である。気化冷媒は、周縁部において主に凝縮しやすいからである。
【0127】
複数の細孔8は、等間隔で形成されても良いし、非均一間隔で設けられても良い。複数の細孔8のそれぞれの大きさや断面積や異なっても同一であっても良いし、形状も異なっても同一であっても良い。
【0128】
細孔8は、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを分離する干渉防止板7に設けられることで、蒸気拡散空間5で凝縮した冷媒を冷媒還流空間6に移動させる。もちろん、逆に冷媒還流空間6で気化した冷媒を蒸気拡散空間5に移動させる。このように、細孔8は、第1の役割として干渉防止板7によって分離されている蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6との間での、冷媒の移動を実現する。
【0129】
また、細孔8の蒸気拡散空間5側での開口面積は、冷媒還流空間6側での開口面積よりも小さい。蒸気拡散空間5側での開口面積が冷媒還流空間6側での開口面積よりも小さいことで、蒸気拡散空間5を拡散する気化した冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播することを防止できる。蒸気拡散空間5側の開口面積が、冷媒還流空間6側の開口面積よりも小さいことで、毛細管力で移動する凝縮冷媒と異なり気化冷媒が細孔8内部に入り込みにくくなるからである。
【0130】
図6は、本発明の実施の形態1における細孔の斜視図である。図7は、本発明の実施の形態1における細孔の側面図である。いずれも、細孔8の蒸気拡散空間5側の開口面積が、冷媒還流空間6側での開口面積よりも小さい状態を示している。なお図6は、細孔8の形状を分かりやすく示すために、細孔8を冷媒還流空間6側から見た状態を示している。
【0131】
図6、図7に示される細孔8は、紡錘形状(テーパー形状)を有しており、蒸気拡散空間5から冷媒還流空間6に向けてその断面積を徐々に拡張させる形状を有している。このような紡錘形状を有していることで、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播するのが防止される。
【0132】
断面積が徐々に拡張する形状であることは、図7により明確に示されている。
【0133】
もちろん、細孔8の形状は、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が、冷媒空間6に伝播するのを防止するために定まるので、開口面積のアンバランスを実現する種々の形状を含む。例えば、細孔8内部にスパイラル溝が設けられても良い。あるいは、段々形状を有してもよい。但し、複数の細孔8が干渉防止板7に形成されるので、製造工程の容易性から図7に示されるような紡錘形状の細孔8が形成されるのが適当である。
【0134】
以上のように細孔8は、干渉防止板7によって分離された蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とにおいて冷媒の移動を実現すると共に、第2の役割として、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播するのを防止する。
【0135】
蒸気拡散空間5においては、気化冷媒が第1方向に拡散し、冷媒還流空間6においては、凝縮冷媒が第2方向(第1方向と逆方向)に還流する。せん断応力が冷媒還流空間6に伝播するのが防止されることで、冷媒還流空間6における第2方向に沿った凝縮冷媒の還流に対する蒸気拡散空間5における第1方向に沿った気化冷媒の拡散による干渉が防止できる。
【0136】
この結果、蒸気拡散空間5における第1方向に沿った気化冷媒の拡散速度および冷媒還流空間6における第2方向に沿った凝縮冷媒の還流速度は高速となり、熱輸送ユニット1の所定方向における熱輸送サイクルが向上する。
【0137】
(蒸気拡散空間および冷媒還流空間)
上部板2と下部板3の接合およびこれらの間に積層される干渉防止板7とによって、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とが形成される。上部板2と下部板3との間に、1枚の干渉防止板7が積層される場合には、上部板2側に蒸気拡散空間5が形成され下部板3側に冷媒還流空間6が形成される。これは図3に示されるとおりである。もちろん、上部板2や下部板3は、便宜上の呼称であるので、熱輸送ユニット1の上側に蒸気拡散空間5が形成され、下側に冷媒還流空間6が形成されなければならないことを意味するわけではない。
【0138】
図3に示されるように、熱輸送ユニット1が1層ずつの蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを備える場合には、蒸気拡散空間5を拡散した気化冷媒が凝縮すると細孔8を介して冷媒還流空間6に移動し、移動した凝縮冷媒は、冷媒還流空間6を還流する。
【0139】
また、上部板2および下部板3に1枚の干渉防止板7が積層される場合には、上部板2と干渉防止板7との対向する空間に蒸気拡散空間5が形成される。このため、上部板2および干渉防止板7の少なくとも一方は、それぞれが対向する側において周縁を囲う壁材を備えていることが好適である。この壁材によって上部板2と干渉防止板7とは所定の対向距離を持って積層されるので、この対向距離が蒸気拡散空間5を形成する。
【0140】
これに対して冷媒還流空間が溝30によって形成される場合には、下部板3と干渉防止板7とは対向距離を持たずに積層されてもよい。
【0141】
熱輸送ユニット1が1層ずつの蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを有する場合には、蒸気拡散空間5から凝縮冷媒が冷媒還流空間6に移動しやすいように、冷媒還流空間6側が下方となるように設置されることが好適である。
【0142】
一方、図8に示されるように、上部板2および下部板3が溝30を有し、上部板2に設けられた溝30が冷媒還流空間5を形成すると共に下部板3に設けられた溝30が冷媒還流空間6を形成してもよい。この場合には、上部板2に第1の干渉防止板7が対向して積層され、下部板3に第2の干渉防止板7が対向して積層される。熱輸送ユニット1の上下面のそれぞれに冷媒還流空間6が形成され、上下面のそれぞれに形成された冷媒還流空間6に挟まれて蒸気拡散空間5が形成されることになる。
【0143】
すなわち、熱輸送ユニット1において上側の冷媒還流空間6と下側の冷媒還流空間6とに挟まれた蒸気拡散空間5を、気化冷媒が拡散する。蒸気拡散空間5の途中あるいは端部などで気化冷媒が凝縮すると、細孔8を通じて上側の冷媒還流空間6に移動したり、下側の冷媒還流空間6に移動したりする。上側の冷媒還流空間6と下側の冷媒還流空間6とのそれぞれは、凝縮冷媒を還流する。
【0144】
図8は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの分解斜視図である。上部板2、下部板3および2枚の干渉防止板7の積層によって、熱輸送ユニット1が形成される。なお、図8では、上部板2の溝30を可視状態とするために、上部板2は、上面がふさがっていない状態で示されている。また、図8では、熱輸送ユニット1は、2枚の干渉防止板7が上部板2と下部板3との間に積層される構成を有するので、蒸気拡散空間5を形成するための中間板40も更に積層されている。中間板40は、2枚の干渉防止板7同士の対向距離を確保し、この対向距離が蒸気拡散空間5を形成する。すなわち、2枚の干渉防止板7が、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを分離する。
【0145】
図8の上から順に、上部板2、干渉防止板7、中間板40、干渉防止板7、下部板3が積層される。
【0146】
また、図9に示されるように格子形状の溝31を有する上部板2と下部板3とによって、熱輸送ユニット1が形成されても良い。図9は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの分解斜視図である。図9は、図8と同じ態様で熱輸送ユニット1を形成する各部材を示している。
【0147】
格子形状の溝31によって、冷媒還流空間6が形成される。冷媒還流空間6は格子形状の溝31を有するので、強い毛細管力を備えることとなり、凝縮した冷媒を効率的に還流できる。図9の上から順に、上部板2、干渉防止板7、中間板40、干渉防止板7、下部板3が積層され、図10に示される熱輸送ユニットが形成される。
【0148】
図10は、本発明の実施の形態1における熱輸送ユニットの側断面図である。図10は、図9に示される部材の積層によって形成されるので、上部板2側および下部板3側の双方に冷媒還流空間6が設けられ(溝31が冷媒還流空間6を形成する)、冷媒還流空間6に挟まれて(2枚の干渉防止板7に挟まれて)蒸気拡散空間5が形成される。すなわち、熱輸送ユニット1の厚み方向において、中央付近に蒸気拡散空間5が形成されて、蒸気拡散空間5と上下の冷媒還流空間6との間で、冷媒が移動する。
【0149】
図10の破線矢印に示されるように、気化冷媒は、蒸気拡散空間5を第1方向に沿って拡散する。蒸気拡散空間5の途中や端部などにおいて凝縮した冷媒は、細孔8を通じて、上部板2側の冷媒還流空間6に移動したり下部板3側の冷媒還流空間6に移動したりする。使用態様に応じて、凝縮した冷媒は、上部板2側の冷媒還流空間6に移動しても良いし、下部板3側の冷媒還流空間6に移動しても良い。
【0150】
また、図10に示されるように、2枚の干渉防止板7によって、厚み方向中央部に蒸気拡散空間5が形成されると共に厚み方向上下に(上部板2側と下部板3側とに)冷媒還流空間6が形成されることで、上下対称の熱輸送ユニット1が形成される。熱輸送ユニット1の構造が上下対称であることで、熱輸送ユニット1は、設置における上下を選ばない。
【0151】
熱輸送ユニット1は、外部から見た場合には、上下の区別が難しい。例えば、熱輸送ユニット1が上方に冷媒還流空間6が下方に蒸気拡散空間5が配置されるように設置される場合には、下方に位置する蒸気拡散空間5で凝縮した冷媒が上方に位置する冷媒還流空間6に移動しにくい場合もある。
【0152】
図10に示される上下対称の熱輸送ユニット1は、上下方向がどのように設置されたとしても、蒸気拡散空間5の下側に冷媒還流空間6が存在することになる。この結果、蒸気拡散空間5で凝縮した冷媒は、細孔8を通じて容易に冷媒還流空間6へ移動できる。
【0153】
以上のように、図10に示される熱輸送ユニット1は、設置状態を選ばずに使用できる。
【0154】
もちろん、細孔8は、凝縮した冷媒を毛細管力によって移動させるので、下方に位置する蒸気拡散空間5から上方に位置する冷媒還流空間6に凝縮した冷媒は移動できる。
【0155】
(製造工程)
次に製造工程について説明する。図8や図9に示されるように、上部板2、下部板3、中間板40、干渉防止板7のそれぞれの部材が積層されることで、熱輸送ユニット1は、製造される。
【0156】
上部板2、下部板3、中間板40、干渉防止板7のそれぞれが所定の位置関係に合わせられる。上部板2、下部板3、中間板40、干渉防止板7の少なくとも一つは、接合突起を有している。これらの部材は、位置合わせされた上で積層され、ヒートプレスによって直接接合されて一体化される。このとき、各部材は、接合突起によって直接接合される。
【0157】
ここで、直接接合とは、接合しようとする2つの部材の面を密着させた状態で加圧しつつ熱処理を加えることであって、面部の間に働く原子間力によって原子同士を強固に接合させることであり、接着剤を用いることなく、2つの部材の面同士を一体化しうる。このとき、接合突起が強固な接合を実現する。すなわち、接合突起がつぶれて、接触面積が増加することで、熱的接合を実現するので、接合突起の接合における役割は高い。
【0158】
次に、上部板2や下部板3の一部に空けられた注入口を通じて、冷媒が注入される。その後、注入口が封止されて熱輸送ユニット1が完成する。なお、冷媒の封入は真空または減圧下で行われる。真空または減圧下で行われることで、熱拡散部や熱輸送部の内部空間が真空または減圧された状態となって冷媒が封入される。減圧下であると、冷媒の気化・凝縮温度が低くなり、冷媒の気化・凝縮の繰り返しが活発になるメリットがある。
【0159】
以上の製造工程を経て、熱輸送ユニット1が製造される。なお、ここで示した製造工程は一例であり、他の製造工程によって製造されても良い。
【0160】
(せん断応力伝播のシミュレーション結果)
細孔8が、図6、図7に示されるように紡錘形状(テーパー形状)を有することで、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒のせん断応力の伝播を防止できることを、シミュレーション結果から説明する。
【0161】
シミュレーションにおいては、細孔8が、ストレート形状(蒸気拡散空間5側の開口面積と冷媒還流空間6側の開口面積とが同一)を有する場合を比較例1、逆紡錘形状(蒸気拡散空間5側の開口面積が冷媒還流空間6側の開口面積よりも大きい)を有する場合を比較例2、紡錘形状(蒸気拡散空間5側の開口面積が冷媒還流空間6側の開口面積より小さい)を有する場合を実施例とする。
【0162】
図11は、比較例1、比較例2、実施例での細孔の構造を示す説明図である。それぞれの細孔の側面を示している。図11において、左側から比較例1、比較例2、実施例を示す。いずれも、図11の上部に蒸気拡散空間5が存在し、下部に冷媒還流空間6が存在する。細孔8は、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを接続する。
【0163】
比較例1では、図11より明らかな通り、蒸気拡散空間5側の開口面積と冷媒還流空間6側の開口面積が同一である。比較例2では、蒸気拡散空間5側の開口面積が冷媒還流空間6側の開口面積よりも大きい。実施例では、蒸気拡散空間5側の開口面積が冷媒還流空間6側の開口面積より小さい。
【0164】
気化冷媒は、蒸気拡散空間5を破線矢印の「拡散方向」に従って拡散し、凝縮冷媒は、冷媒還流空間6を破線矢印の「還流方向」に従って還流する。シミュレーションは、下記(1)〜(7)の条件で行なった。
【0165】
(1)気化冷媒の拡散速度は、蒸気拡散空間の右端において与える。
(2)気化冷媒は、図11の右から左に拡散する。
(3)凝縮冷媒は、図11の左から右に還流する。
(4)左端は、自由流出とする。
(5)温度は298.15K均一とする。
(6)気化冷媒の拡散速度を0m/secおよび20m/secのそれぞれでシミュレーションする。
(7)細孔のサイズは、図11中に示すとおりである。
【0166】
(比較例1での結果)
【0167】
比較例1でのシミュレーション結果を図12に示す。図12は、本発明の実施の形態1における比較例1のシミュレーション結果を示す説明図である。
【0168】
比較例1では、気化冷媒の拡散速度が0m/secの場合には、気化冷媒の相と凝縮冷媒の相は、ほぼ対称な形状をしており、相互の干渉はない。しかし、気化冷媒の拡散速度が20m/secの場合には、気化冷媒からのせん断応力によって凝縮冷媒の相の界面が引きずられて変形している。すなわち、気化冷媒の拡散によるせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播し、凝縮冷媒の還流に干渉している。このような干渉が生じると、冷媒還流空間6における凝縮冷媒の還流速度が減少し、熱輸送ユニット1の熱輸送速度(熱輸送効率)が減少する。
【0169】
このように、細孔8の蒸気拡散空間5側の開口面積と冷媒還流空間6側の開口面積とが同一であると、熱輸送ユニット1の熱輸送効率が減少する。
【0170】
なお、図12において、色味の薄い領域が気化冷媒の相であり、色味の濃い領域が凝縮冷媒の相である。
【0171】
(比較例2での結果)
【0172】
次に、比較例2でのシミュレーション結果を図13に示す。図13は、本発明の実施の形態1における比較例2のシミュレーション結果を示す説明図である。
【0173】
比較例2では、気化冷媒の拡散速度が0m/secの場合には、気化冷媒の相と凝縮冷媒の相は、ほぼ対称な形状をしており、相互の干渉はない。しかし、気化冷媒の拡散速度が20m/secの場合には、気化冷媒からのせん断応力によって凝縮冷媒の相の界面が引きずられて変形している。すなわち、気化冷媒の拡散によるせん断応力が、冷媒還流空間6に伝播し、凝縮冷媒の還流に干渉している。このような干渉が生じると、冷媒還流空間6における凝縮冷媒の還流速度が減少し、熱輸送ユニット1の熱輸送速度(熱輸送効率)が減少する。
【0174】
このように、細孔8の蒸気拡散空間5側の開口面積が冷媒還流空間6側の開口面積より大きいと、熱輸送ユニット1の熱輸送効率が減少する。
【0175】
なお、図13において、色味の薄い領域が気化冷媒の相であり、色味の濃い領域が凝縮冷媒の相である。
【0176】
(実施例での結果)
【0177】
次に、実施例でのシミュレーション結果を図14に示す。図14は、本発明の実施の形態1における実施例のシミュレーション結果を示す説明図である。
【0178】
実施例では、気化冷媒の拡散速度が0m/secの場合には、気化冷媒の相と凝縮冷媒の相は、ほぼ対称な形状をしており、相互の干渉はない。また、気化冷媒の拡散速度が20m/secの場合には、気化冷媒の影響を若干受けているとはいえ、凝縮冷媒の相はほとんど変形していない。これは、気化冷媒からのせん断応力が、冷媒還流空間6にほとんど伝播していないことを示している。すなわち、気化冷媒の拡散が、冷媒還流空間6における凝縮冷媒の還流に干渉していない(もちろん、逆に言えば、冷媒還流空間6を還流する凝縮冷媒が、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒に干渉していない)。
【0179】
このように、細孔8の蒸気拡散空間5側の開口面積が、冷媒還流空間6側の開口面積より小さいことで、気化冷媒の拡散速度および凝縮冷媒の還流速度が向上し、熱輸送ユニット1の熱輸送効率が向上する。
【0180】
熱輸送ユニット1の熱輸送効率が向上することで、熱輸送ユニット1は、発熱体から奪った熱を他の場所へ高速に輸送できる。高速に輸送された熱は、排熱しやすい場所で排出されるので、電子機器、輸送機器、産業機器など、複雑な形状を有する機器に実装される発熱体の排熱が容易に実現できる。
【0181】
なお、図14において、色味の薄い領域が気化冷媒の相であり、色味の濃い領域が凝縮冷媒の相である。
【0182】
(シミュレーション結果の比較)
【0183】
また、図15に、比較例1、比較例2および実施例のシミュレーション結果のグラフを示す。図15は、本発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果を示すグラフである。図15では、上から3つのグラフを並べて示しており、上から順に、比較例1におけるグラフ、比較例2におけるグラフ、実施例におけるグラフを示している。
【0184】
図15の各グラフは、縦軸に冷媒還流空間6における凝縮冷媒の還流速度を示し、横軸に冷媒還流空間6の幅を示している。各グラフは、気化冷媒の拡散速度が0m/secの場合での凝縮冷媒の還流速度を破線で示し、気化冷媒の拡散速度が20m/secの場合での凝縮冷媒の還流速度を実線で示す。
【0185】
比較例1および比較例2のグラフから明らかな通り、気化冷媒の拡散速度が20m/secでは、凝縮冷媒の還流速度が、値「0m/sec」となっている。すなわち、気化冷媒の拡散によるせん断応力の影響を受けて凝縮冷媒の還流速度が非常に遅くなっている。
【0186】
一方、実施例のグラフから明らかな通り、気化冷媒の拡散速度が20m/secの場合でも、気化冷媒の拡散速度が0m/secの場合でも、凝縮冷媒の還流速度はほとんど同じである。すなわち、気化冷媒の拡散によるせん断応力が、凝縮冷媒の還流に干渉を及ぼしていないことが分かる。干渉が無いことから、気化冷媒の拡散速度と凝縮冷媒の還流速度が向上し、熱輸送ユニット1の熱輸送効率が高い。
【0187】
なお、実施例のグラフにおいて右端での速度が小さいのは、右端で自由流出条件を与えているために内部で循環流が発生しているためである。実際の熱輸送ユニット1では、右端で蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6同士での冷媒の移動が生じるので、このような速度低下は生じない(なお、図12〜14における左端と図15における右端が同じ側である)。
【0188】
シミュレーション結果からも、実施の形態1における熱輸送ユニット1の備える細孔8は、蒸気拡散空間5を拡散する気化冷媒と冷媒還流空間6を還流する上記冷媒との干渉を防止しつつ、冷媒の行き来を実現することが分かる。
【0189】
以上のように、実施の形態1における熱輸送ユニット1は、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを分離しつつ相互の干渉を防止しながら、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6との間の冷媒の移動を実現できる。結果として、発熱体から奪った熱を高速に輸送できる。
【0190】
(実施の形態2)
【0191】
次に、実施の形態2について説明する。
【0192】
実施の形態2では、干渉防止板7が、第1方向に対応する一方の端部である第1端部および第1端部と逆側の第2端部の少なくとも一方に、開口部を備える場合を説明する。
【0193】
熱輸送ユニット45は、実施の形態1と同じく、上部板2、下部板3、干渉防止板7および中間板40が積層されて形成される。
【0194】
図16は、本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの分解斜視図である。図17は、本発明の実施の形態2における熱輸送ユニットの側断面図である。実施の形態2における熱輸送ユニット45を、図16、図17を用いて説明する。図16は、熱輸送ユニット45を形成する部材を分解した状態を斜めから表しており、図17は、図16に示される部材が積層されて形成された熱輸送ユニット45内部を側面から見た状態を表している。
【0195】
熱輸送ユニット1は、短手方向と長手方向とを有する方形を有しており、気化冷媒が拡散する第1方向は、長手方向に沿う。この第1方向において、熱輸送ユニット1の両端の一方は、第1端部46であり、第1端部46と逆側の端部が、第2端部48である。
【0196】
上部板2、下部板3および中間板40は、実施の形態1で説明したものと同様である。上部板2と中間板40の間に1枚の干渉防止板7が積層され、中間板40と下部板3との間に、1枚の干渉防止板7が積層される。2枚の干渉防止板7が積層されることで、熱輸送ユニット45の厚み方向の中央に蒸気拡散空間5が形成され、上下のそれぞれに冷媒還流空間6が形成される。
【0197】
また、上部板2が備える溝30が、上部板2側における冷媒還流空間6を形成し、下部板3が備える溝30が、下部板3側における冷媒還流空間6を形成する。なお、冷媒還流空間6は、溝30のみで形成されるのではなく、溝30を含めた上部板2と干渉防止板7とが対向する空間(下部板3と干渉防止板7とが対向する空間)によって、形成される。
【0198】
中間板40は、2枚の干渉防止板7同士の対向距離を形成して蒸気拡散空間5を形成する。
【0199】
ここで、干渉防止板7は、第1端部46および第2端部48の少なくとも一方に、開口部47、49を備える。なお、図16、図17に示される熱輸送ユニット45は、2枚の干渉防止板7を備えるので、2枚の干渉防止板7のそれぞれが開口部47、49を備えても良いし、2枚の干渉板7のいずれか一方が開口部47、49を備えても良い。
【0200】
開口部47は、第1端部46において、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを結ぶ。開口部47は、一つの細孔8の開口面積よりも大きい開口面積を有し、気化冷媒や凝縮冷媒を、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6との間で移動させる。
【0201】
同様に、開口部49は、第2端部48において、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6とを結ぶ。開口部47は、細孔8の開口面積よりも大きい開口面積を有し、気化冷媒や凝縮冷媒を、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6との間で移動させる。
【0202】
開口部47、49は細孔8より大きな開口面積を有するので、気化冷媒が凝縮冷媒よりも多い場合には、開口部47、49は、気化冷媒を、冷媒還流空間6から蒸気拡散空間5へ容易に移動させる。逆に、凝縮冷媒が気化冷媒よりも多い場合には、開口部47、49は、凝縮冷媒を、冷媒還流空間6から蒸気拡散空間5へ容易に移動させる。
【0203】
例えば、第1端部46に発熱体が配置されているとする。
【0204】
第1端部46において発熱体からの熱によって、冷媒還流空間6に封入されている冷媒は気化する。このため、第1端部46においては、気化冷媒の量が凝縮冷媒よりも多くなりやすい。一方、気化冷媒は、蒸気拡散空間5を第1方向に拡散し、第2端部48に到達したところで、冷却されて凝縮する。このため、第2端部48においては、凝縮冷媒の量が気化冷媒の量よりも多くなりやすい。
【0205】
もちろん、蒸気拡散空間5の途中において凝縮した冷媒は、細孔8を介して冷媒還流空間6に移動する。しかし、蒸気拡散空間5の途中では、凝縮できる冷媒量は少なく気化冷媒と凝縮冷媒とは、いずれが多いとはいえない状態である。
【0206】
これに対して、発熱体と接触する第1端部46では気化冷媒の量が多く、発熱体と最も離れた第2端部48では凝縮冷媒の量が多い状態になりやすい。開口部47、49は、端部において気化冷媒や凝縮冷媒のいずれかが多い状態に対応して、気化冷媒や凝縮冷媒を、蒸気拡散空間5と冷媒還流空間6との間で効率的に移動させる。開口部47、49が、気化冷媒や凝縮冷媒を、効率的に移動させることで、熱輸送ユニット45の熱輸送サイクルが向上する。結果として熱輸送ユニット45は、発熱体からの熱を高速に輸送できる。
【0207】
以上のように、実施の形態2における熱輸送ユニット45は、端部における気化冷媒や凝縮冷媒の移動を高速化することで、熱輸送効率を向上させる。
【0208】
(実施の形態3)
【0209】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、放熱部および接触部を更に備える熱輸送ユニットについて説明する。図18は、本発明の実施の形態4における電子機器の模式図である。図18は、電子機器の筐体に熱輸送ユニット70が格納されている状態を示している。
【0210】
電子機器60は、筐体62と筐体内部に格納された電子基板64を備えている。電子基板64は、発熱体61を実装している。発熱体61は、熱を発する電子部品である。例えば、半導体集積回路、パワーデバイス、発光素子、ディスクリートの電子素子などを含む。
【0211】
発熱体61には、熱輸送ユニット70が、接触部71において熱的に接触している。
【0212】
熱輸送ユニット70は、実施の形態1〜3で説明した熱輸送ユニット1、45と同様の機能、構成を有する。
【0213】
発熱体61は、熱輸送ユニット70の第1端部65において熱的に接触する。熱輸送ユニット70は、この発熱体61から受熱した熱を、第1端部と逆側の端部である第2端部66に輸送する。輸送においては、実施の形態1〜3で説明したとおり、気化冷媒が蒸気拡散空間5を第1端部65から第2端部66に向けて拡散し、蒸気拡散空間5において凝縮した冷媒は、細孔8を通じて冷媒還流空間6に移動する。冷媒還流空間6に移動した凝縮冷媒は、冷媒還流空間6を第2端部66から第1端部65に向けて還流する。この気化冷媒の拡散と凝縮冷媒の還流によって、発熱体61の熱が、第1端部65から第2端部66に輸送される。
【0214】
電子機器60おいては、発熱体61が実装される位置と、発熱体61の熱を排出できる位置とが離隔していることも多い。電子機器60の構造が複雑である場合が多いからである。また、電子機器60は、発熱体61の近辺で排熱しにくいことも多い。実装状態に依存するからである。
【0215】
熱輸送ユニット70は、このように、発熱体61の位置と排熱位置とが離隔する電子機器60に最適に用いられる。
【0216】
熱輸送ユニット70は、発熱体61が熱的に接触する第1端部65と逆の第2端部66に、気化した冷媒を冷却する放熱部63を有する。図18では、放熱部63の一例として、冷却ファンが示されている。
【0217】
冷却ファンは、熱輸送ユニット70の第2端部66を冷却する。第2端部66には、拡散した気化冷媒が到達し、冷却ファンは、この気化冷媒を冷却する。気化した冷媒は冷却されることで、凝縮して凝縮冷媒となる。凝縮冷媒は、細孔8や開口部47、49を通じて、蒸気拡散空間5から冷媒還流空間6に移動する。
【0218】
このように、熱輸送ユニット70が放熱部63を有することで、熱輸送ユニット70は、気化して輸送された冷媒を、効率的に冷却できる。このため、放熱部63は、熱輸送ユニット70において発熱体61と逆側の端部を冷却することが好適である。逆側の端部を冷却することで、気化した冷媒の凝縮が促進され、熱輸送ユニット70は、より高速に発熱体61から奪った熱を第1方向に沿って輸送できる。
【0219】
放熱部63は、冷却ファン以外にも、液冷ジャケット、ペルチェ素子、ヒートシンクなどの熱を放散できる種々の部材を含む。
【0220】
また、熱輸送ユニット70は、発熱体61と熱的に接触する接触部71を有することも好適である。
【0221】
接触部71は、発熱体61と熱輸送ユニット70との熱的な接触を容易にする。例えば熱的接合材(TIM「Termal Interface Material)を、接触部71は有していることも好適である。
【0222】
熱的接合材には、サーマルグリースやサーマルグリースにフィラーなどを添加した素材が用いられる。これらの熱的接合材が、接触部71に塗布されていればよい。
【0223】
接触部71は、熱的接合材を有していることで、発熱体61との熱抵抗を小さくでき、小さくなった熱抵抗のおかげで、熱輸送ユニット70は、発熱体61からの熱を受熱しやすくなる。
【0224】
電子機器60に含まれる発熱体61に、熱輸送ユニット70が熱的に接触することで、発熱体61が発生させる熱が効率的に発熱体61から離れた位置に輸送される。この結果、発熱体61が、効率的に冷却される。すなわち、電子機器60の発熱による誤動作が防止できる。
【0225】
また、熱輸送ユニット70は、薄い平板状の上部板や下部板の積層によって形成されるので非常に薄型である。このため、電子機器の小型化を阻害しない。特に、電子機器は、電子基板64のように、面積は広いが厚みが小さい要素を多く格納する。このため、平面方向には実装スペースが余っているが、厚み方向には実装スペースはほとんど余っていない。この状況において、熱輸送ユニット70は、薄型であって、平面方向に熱を輸送できるので、発熱体61の冷却に適している。
【0226】
以上のように、熱輸送ユニット70は、電子機器の小型化・薄型化を阻害せずに、電子機器60内部に格納でき、発熱体61を効率的に冷却できる。
【0227】
電子機器の例として、図19のような携帯端末が用いられることも好適である。図19は、本発明の実施の形態3における電子機器の斜視図である。
【0228】
電子機器80は、カーテレビやパーソナルモニターなどの薄型、小型が要求される携帯端末である。
【0229】
電子機器80は、ディスプレイ83、発光素子84、スピーカ85を備えている。この電子機器80の内部に熱輸送ユニット70が格納されており、発熱体の冷却を実現する。
【0230】
このような熱輸送ユニット70が使用されることにより、電子機器の小型化や薄型化を阻害せずに、発熱体の冷却が実現できる。すなわち熱輸送ユニット70は、発熱体からの熱を高速に輸送して冷却でき、発熱体の発熱を抑えることができる。
【0231】
熱輸送ユニット70は、ノートブックパソコン、携帯端末、コンピュータ端末などに実装されている放熱フィンや液冷装置などに置き換えられたり、産業機器に実装される冷却装置や、制御コンピュータ部に実装されている放熱フレームや冷却装置などに、おき換えられたりすることが可能である。熱輸送ユニット70は、従来用いられているヒートパイプよりも高速に熱を輸送できるので、冷却能力が高くなる。更には発熱体へのフレキシブルな対応も可能であって、種々の電子部品を冷却対象にできる。結果として、熱輸送ユニット70は、広い適用範囲を有する。
【0232】
また熱輸送ユニット70は、平板状であるが、薄い板部材の積層で形成されているので、折り曲げたり湾曲させたりすることも可能である。この場合でも、通路を気化した冷媒が拡散し、毛細管流路を還流して通路と分離されている溝を凝縮した冷媒が還流するので、熱輸送ユニットは、高い効率で熱を輸送できる。特に気化した冷媒と凝縮した冷媒との干渉が生じないので、熱輸送効率が高い。
【0233】
例えば、電子機器内部の形状によっては、熱輸送ユニット70が湾曲状態でなければ実装しにくい場合もある。このような場合には、湾曲された熱輸送ユニット70が実装される。
以上の実施の形態1〜3で説明した熱輸送ユニットおよび電子機器は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0234】
1、45、70 熱輸送ユニット
2 上部板
3 下部板
4 内部空間
5 蒸気拡散空間
6 冷媒還流空間
7 干渉防止板
8 細孔
13 第1端部
14 第2端部
15、16、17、18 破線矢印
20 発熱体
30、31 溝
40 中間板
46 第1端部
47 開口部
48 第2端部
49 開口部
60 電子機器
61 発熱体
62 筐体
63 放熱部
64 電子基板
65 第1端部
66 第2端部
71 接触部
80 電子機器
61 発熱体
83 ディスプレイ
84 発光素子
85 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部板と、
前記上部板と対向する下部板と、
前記上部板と前記下部板とによって形成され、冷媒を封入可能な内部空間と、
前記内部空間に含まれ、気化した冷媒が拡散する蒸気拡散空間と、
前記内部空間に含まれ、凝縮した冷媒が還流する冷媒還流空間と、
前記蒸気拡散空間を拡散する気化した冷媒と、前記冷媒還流空間を還流する凝縮した冷媒と、の干渉を防止する干渉防止板と、を備え、
前記干渉防止板は、前記蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を、前記冷媒還流空間に移動させる複数の細孔を有し、
前記細孔における前記蒸気拡散空間側の開口面積は、前記冷媒還流空間側における開口面積よりも小さい熱輸送ユニット。
【請求項2】
前記蒸気拡散空間と前記冷媒還流空間とは、前記干渉防止板によって分離される請求項1記載の熱輸送ユニット。
【請求項3】
前記蒸気拡散空間は、第1方向に沿って気化した冷媒を拡散し、前記冷媒還流空間は、前記第1方向と逆方向である第2方向に沿って凝縮した冷媒を還流する、請求項1又は2記載の熱輸送ユニット。
【請求項4】
前記熱輸送ユニットは、第1端部および前記第1端部と逆側の第2端部とを有し、
前記第1端部近傍に配置された発熱体の熱によって封入された冷媒が気化し、前記蒸気拡散空間が、気化した冷媒を前記第1方向に沿って拡散させ、
前記細孔は、前記第1端部から前記第2端部に拡散する過程で凝縮した冷媒を、前記冷媒還流空間に移動させ、
前記冷媒還流空間は、前記冷媒還流空間に移動した凝縮した冷媒を、前記第2方向に沿って還流させる、請求項3記載の熱輸送ユニット。
【請求項5】
前記細孔は、前記蒸気拡散空間で凝縮した冷媒を前記冷媒還流空間に移動させると共に、前記蒸気拡散空間を拡散する気化した冷媒のせん断応力が、前記冷媒還流空間に伝播するのを防止する請求項1から4のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項6】
前記せん断応力が前記冷媒還流空間に伝播するのを防止することで、前記干渉防止板は、前記第2方向に沿った凝縮した冷媒の還流に対する前記第1方向に沿った気化した冷媒による干渉を防止する、請求項3から5のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項7】
前記第1端部および前記第2端部の少なくとも一方は、前記蒸気拡散空間と前記冷媒還流空間とを結ぶ開口部を更に備える請求項4から6のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項8】
前記開口部は、前記干渉防止板に設けられ、前記細孔よりも大きな開口面積を有する請求項7記載の熱輸送ユニット。
【請求項9】
前記細孔は、前記蒸気拡散空間から前記冷媒還流空間に向けてその断面積を拡張させる形状を有する請求項1から8のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項10】
前記上部板および前記下部板の少なくとも一方は複数の溝を有し、前記複数の溝は、前記冷媒還流空間を形成する請求項1から9のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項11】
前記複数の溝は、前記第2方向に沿っている請求項10記載の熱輸送ユニット。
【請求項12】
前記上部板および前記下部板の双方が前記溝を備える場合には、前記上部板には、第1の前記干渉防止板が対向して設けられ、前記下部板には、第2の前記干渉防止板が対向して設けられる請求項10又は11記載の熱輸送ユニット。
【請求項13】
前記蒸気拡散空間および前記冷媒還流空間の少なくとも一方は、その表面に金属めっきを有する請求項1から12のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項14】
前記金属めっきは、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびこれらの合金の少なくとも一つの金属から選ばれる請求項13記載の熱輸送ユニット。
【請求項15】
前記第2端部において気化した冷媒を冷却する放熱部を更に備える請求項4から14のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項16】
前記第1端部において、発熱体と熱的に接触する接触部を更に備える請求項4から15のいずれか記載の熱輸送ユニット。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか記載の熱輸送ユニットと、
前記接触部において熱的に接触する発熱体と、
前記発熱体を実装する電子基板と、
前記電子基板を格納する筐体と、を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−145044(P2011−145044A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8599(P2010−8599)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(390015244)日本モレックス株式会社 (37)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】