説明

熱間プレス用鋼板およびそれを用いた熱間プレス部材の製造方法

【課題】熱間プレス時にスケールやZnOの生成を抑制可能な耐酸化性に優れる熱間プレス用鋼板およびそれを用いた熱間プレス部材の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板表面に、10〜25質量%のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、付着量が10〜90g/m2のめっき層を有することを特徴とする熱間プレス用鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の足廻り部材や車体構造部材などを熱間プレスで製造するのに適した熱間プレス用鋼板およびそれを用いた熱間プレス部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の足廻り部材や車体構造部材などの多くは、所定の強度を有する鋼板をプレス加工して製造されている。近年、地球環境の保全という観点から、自動車車体の軽量化が熱望され、使用する鋼板を高強度化して、その板厚を低減する努力が続けられている。しかし、鋼板の高強度化に伴ってそのプレス加工性が低下するため、鋼板を所望の部材形状に加工することが困難になる場合が多くなっている。
【0003】
そのため、特許文献1には、ダイとパンチからなる金型を用いて加熱された鋼板を加工すると同時に急冷することにより加工の容易化と高強度化の両立を可能にした熱間プレスと呼ばれる加工技術が提案されている。しかし、この熱間プレスでは、熱間プレス前に鋼板を950℃前後の高い温度に加熱するため、鋼板表面にはスケール(鉄酸化物)が生成し、そのスケールが熱間プレス時に剥離して、金型を損傷させる、または熱間プレス後の部材表面を損傷させるという問題がある。また、部材表面に残ったスケールは、外観不良や塗装密着性の低下の原因にもなる。このため、通常は酸洗やショットブラストなどの処理を行って部材表面のスケールは除去されるが、これは製造工程を複雑にし、生産性の低下を招く。さらに、自動車の足廻り部材や車体構造部材などには優れた耐食性も必要とされるが、上述のような工程により製造された熱間プレス部材ではめっき層などの防錆皮膜が設けられていないため、耐食性が甚だ不十分である。
【0004】
このようなことから、熱間プレス前の加熱時にスケールの生成を抑制するとともに、熱間プレス後の部材の耐食性を向上させることが可能な熱間プレス技術が要望され、表面にめっき層などの皮膜を設けた鋼板やそれを用いた熱間プレス方法が提案されている。例えば、特許文献2には、ZnまたはZnベース合金で被覆された鋼板を熱間プレスし、Zn-Feベース化合物またはZn-Fe-Alベース化合物を表面に設けた耐食性に優れる熱間プレス部材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1490535号公報
【特許文献2】特許第3663145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法で製造された熱間プレス部材では、スケールの生成に起因する外観不良や塗装密着性低下を引き起こし、ZnOの生成に起因する耐食性劣化を招く場合がある。
【0007】
本発明は、熱間プレス時にスケールやZnOの生成を抑制可能な耐酸化性に優れる熱間プレス用鋼板およびそれを用いた熱間プレス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的とする熱間プレス用鋼板について鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
i) スケールの生成は、めっき層の欠陥部や、熱間プレスにより加熱時に形成されたZn-Fe金属化合物を起点に発生したクラックのような局所的な部位で起きやすい。
ii) スケールやZnOの生成は、融点が700℃未満の低いZn系めっき層で起きやすい。
iii) スケールやZnOの生成を抑制するには、融点が高い10〜25質量%のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるめっき層とすることが効果的である。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、鋼板表面に、10〜25質量%のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、付着量が10〜90g/m2のめっき層を有することを特徴とする熱間プレス用鋼板を提供する。
【0010】
本発明の熱間プレス用鋼板では、めっき層上に、さらに、Si含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することが好ましい。
【0011】
本発明の熱間プレス用鋼板におけるめっき層の下地鋼板としては、質量%で、C:0.15〜0.5%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板を用いることができる。この下地鋼板には、さらに、質量%で、Cr:0.01〜1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005〜0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種やSb:0.003〜0.03%が、個別にあるいは同時に含有されることが好ましい。
【0012】
本発明は、また、上記のような熱間プレス用鋼板を、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲に加熱後、熱間プレスすることを特徴とする熱間プレス部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、熱間プレス時にスケールやZnOの生成を抑制可能な耐酸化性に優れる熱間プレス用鋼板を製造できるようになった。本発明である熱間プレス用鋼板を用い、本発明である熱間プレス部材の製造方法で製造した熱間プレス部材は、外観が良好であり、優れた塗装密着性や耐食性を有するので、自動車の足廻り部材や車体構造部材に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1) 熱間プレス用鋼板
1-1) めっき層
本発明では、熱間プレス時にスケールやZnOの生成を抑制するために、鋼板表面に10〜25質量%以上のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるめっき層を設ける。めっき層のNi含有率を10〜25質量%とすることによりNi2Zn11、NiZn3、Ni5Zn21のいずれかの結晶構造を有する融点が881℃と高いγ相が形成されるので、加熱時におけるスケールやZnOの生成反応を最小限に抑制することができる。また、加熱時にはZn-Fe金属化合物が形成されないため、クラックの発生に伴うスケールの生成も抑制される。さらには、熱間プレス完了後にも、めっき層はγ相として残存するため、Znの犠牲防食効果により優れた耐食性を発揮する。なお、Ni含有率が10〜25質量%におけるγ相の形成は、Ni-Zn合金の平衡状態図とは必ずしも一致しないが、これは電気めっき法などで行われるめっき層の形成反応が非平衡で進行するためと考えられる。Ni2Zn11、NiZn3、Ni5Zn21のγ相は、X線回折法やTEM(Transmission Electron Microscopy)を用いた電子線回折法により確認できる。また、めっき層のNi含有率を10〜25質量%とすることにより上述のとおりγ相が形成されるが、電気めっきの条件等によっては多少のη相が混在することがある。このとき、加熱時におけるスケールやZnOの生成反応を最小限に抑制するために、η相含有率は5質量%以下であることが好ましい。η相含有率は、めっき層の全重量に対するη相の重量比で定義され、例えばアノード溶解法などにより定量することができる。
【0015】
めっき層の片面当たりの付着量は、10g/m2未満ではZnの犠牲防食効果が十分に発揮されず、90g/m2を超えるとその効果が飽和し、コストアップを招くので、10〜90g/m2とする。
【0016】
こうしためっき層の形成方法は特に限定されるものではないが、公知の電気めっき法が好適である。
【0017】
めっき層上に、さらに、Si含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を設けると優れた塗装密着性が得られる。こうした効果を得るには、化合物層の厚みを0.1μm以上にすることが好ましいが、3.0μmを超えると化合物層が脆くなって塗装密着性の低下を招く場合があるので、3.0μm以下にすることが好ましい。より好ましくは0.4〜2.0μmである。
【0018】
Si含有化合物としては、例えば、シリコーン樹脂、リチウムシリケート、珪酸ソーダ、コロイダルシリカ、シランカップリング剤などを適用できる。Ti含有化合物としては、例えば、チタン酸リチウムやチタン酸カルシウムなどのチタン酸塩、チタンアルコキシドやキレート型チタン化合物を主剤とするチタンカップリング剤などを適用できる。Al含有化合物としては、例えば、アルミン酸ナトリウムやアルミン酸カルシウムなどのアルミン酸塩、アルミニウムアルコキシドやキレート型アルミニウム化合物を主剤とするアルミニウムカップリング剤などを適用できる。Zr含有化合物としては、例えば、ジルコン酸リチウムやジルコン酸カルシウムなどのジルコン酸塩、ジルコニウムアルコキシドやキレート型ジルコニウム化合物を主剤とするジルコニウムカップリング剤などを適用できる。
【0019】
めっき層上にこうした化合物層を形成するには、上記のSi含有化合物、Ti含有化合物、Al含有化合物、Zr含有化合物のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物をめっき層上に付着処理した後、水洗することなく加熱乾燥すればよい。これらの化合物の付着処理は塗布法、浸漬法、スプレー法のいずれでもよく、ロールコーター、スクイズコーター、ダイコーターなどを用いればよい。このとき、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、厚みの均一化を行うことも可能である。また、加熱乾燥は鋼板最高到達温度が40〜200℃となるように行うことが好ましい。60〜160℃で行うことがより好ましい。
【0020】
また、めっき層上にこうした化合物層を形成するには、Si、Ti、Al、Zrのうちから選ばれた少なくとも一種のカチオンを含有し、リン酸イオン、フッ素酸イオン、フッ化物イオンのうちから選ばれた少なくとも一種のアニオンを含有する酸性の水溶液にめっき層を有する鋼板を浸漬する反応型処理を行った後、水洗するかまたは水洗することなく加熱乾燥する方法によっても可能である。
【0021】
なお、こうした化合物層には、無機系固形潤滑剤を含有させることができる。これは、無機系固形潤滑剤を含有させることにより、熱間プレス時の動摩擦係数が低下し、プレス加工性を向上させることができるためである。
【0022】
無機系固形潤滑剤としては、金属硫化物(二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど)、セレン化合物(セレン化モリブデン、セレン化タングステンなど)、グラファイト、フッ化物(フッ化黒鉛、フッ化カルシウムなど)、窒化物(窒化ホウ素、窒化ケイ素など)、ホウ砂、雲母、金属スズ、アルカリ金属硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなど)のうちから選ばれた少なくとも一種を挙げられる。こうした無機系固形潤滑剤の化合物層における含有率は、0.1〜20質量%とすることが好ましい。これは、0.1質量%以上であれば潤滑効果が得られ、20質量%以下であれば塗料密着性が低下しないためである。
【0023】
1-2) 下地鋼板
980MPa以上の強度を有する熱間プレス部材を得るには、めっき層の下地鋼板として、例えば、質量%で、C:0.15〜0.5%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延鋼板や冷延鋼板を用いることができる。各成分元素の限定理由を、以下に説明する。ここで、成分の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0024】
C:0.15〜0.5%
Cは、鋼の強度を向上させる元素であり、熱間プレス部材のTSを980MPa以上にするには、その量を0.15%以上とする必要がある。一方、C量が0.5%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性が著しく低下する。したがって、C量は0.15〜0.5%とする。
【0025】
Si:0.05〜2.0%
Siは、C同様、鋼の強度を向上させる元素であり、熱間プレス部材のTSを980MPa以上にするには、その量を0.05%以上とする必要がある。一方、Si量が2.0%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥の発生が著しく増大するとともに、圧延荷重が増大したり、熱延鋼板の延性の劣化を招く。さらに、Si量が2.0%を超えると、ZnやAlを主体としためっき皮膜を鋼板表面に形成するめっき処理を施す際に、めっき処理性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、Si量は0.05〜2.0%とする。
【0026】
Mn:0.5〜3%
Mnは、フェライト変態を抑制して焼入れ性を向上させるのに効果的な元素であり、また、Ac3変態点を低下させるので、熱間プレス前の加熱温度を低下するにも有効な元素である。このような効果の発現のためには、その量を0.5%以上とする必要がある。一方、Mn量が3%を超えると、偏析して素材の鋼板および熱間プレス部材の特性の均一性が低下する。したがって、Mn量は0.5〜3%とする。
【0027】
P:0.1%以下
P量が0.1%を超えると、偏析して素材の鋼板および熱間プレス部材の特性の均一性が低下するとともに、靭性も著しく低下する。したがって、P量は0.1%以下とする。
【0028】
S:0.05%以下
S量が0.05%を超えると、熱間プレス部材の靭性が低下する。したがって、S量は0.05%以下とする。
【0029】
Al:0.1%以下
Al量が0.1%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、Al量は0.1%以下とする。
【0030】
N:0.01%以下
N量が0.01%を超えると、熱間圧延時や熱間プレス前の加熱時にAlNの窒化物を形成し、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、N量は0.01%以下とする。
【0031】
残部はFeおよび不可避的不純物であるが、以下の理由により、Cr:0.01〜1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005〜0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種や、Sb:0.003〜0.03%が、個別にあるいは同時に含有されることが好ましい。
【0032】
Cr:0.01〜1%
Crは、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cr量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が1%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は1%とすることが好ましい。
【0033】
Ti:0.2%以下
Tiは、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、次に述べるBよりも優先して窒化物を形成して、固溶Bによる焼入れ性の向上効果を発揮させるのに有効な元素でもある。しかし、Ti量が0.2%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、熱間プレス部材の靭性が低下するので、その上限は0.2%とすることが好ましい。
【0034】
B:0.0005〜0.08%
Bは、熱間プレス時の焼入れ性や熱間プレス後の靭性向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、B量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、B量が0.08%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、熱間圧延後にマルテンサイト相やベイナイト相が生じて鋼板の割れなどが生じるので、その上限は0.08%とすることが好ましい。
【0035】
Sb:0.003〜0.03%
Sbは、熱間プレス前に鋼板を加熱してから熱間プレスの一連の処理によって鋼板を冷却するまでの間に鋼板表層部に生じる脱炭層を抑制する効果を有する。このような効果の発現のためにはその量を0.003%以上とする必要がある。一方、Sb量が0.03%を超えると、圧延荷重の増大を招き、生産性を低下させる。したがって、Sb量は0.003〜0.03%とすることが好ましい。
【0036】
2) 熱間プレス部材の製造方法
上記した本発明の熱間プレス用鋼板は、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲に加熱後熱間プレスされて熱間プレス部材となる。熱間プレス前にAc3変態点以上に加熱するのは、熱間プレス時の急冷でマルテンサイト相などの硬質相を形成し、部材の高強度化を図るためである。また、加熱温度の上限を1000℃としたのは、1000℃を超えるとめっき層表面に多量のZnOが生成するためである。なお、ここでいう加熱温度とは鋼板の最高到達温度のことをいう。
【0037】
熱間プレス前の加熱時の平均昇温速度は、特に限定されるものではないが、例えば2〜200℃/sが好適である。めっき層表面におけるZnOの生成やめっき層の欠陥部における局所的なスケールの生成は、鋼板が高温条件下に晒される高温滞留時間が長くなるほど増大するため、平均昇温速度が速いほど好適である。また、最高到達板温における保持時間についても特に限定されるものではないが、上記と同じ理由により短時間とする方が好適であり、好ましくは300s以下、より好ましくは120s以下、さらに好ましくは10s以下とする。
【0038】
熱間プレス前の加熱方法としては、電気炉やガス炉などによる加熱、火炎加熱、通電加熱、高周波加熱、誘導加熱などを例示できる。
【実施例1】
【0039】
下地鋼板として、質量%で、C:0.23%、Si:0.25%、Mn:1.2%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.03%、N:0.005%、Cr:0.2%、Ti:0.02%、B:0.0022%、Sb:0.008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、Ac3変態点が820℃で、板厚1.6mmの冷延鋼板を用いた。この冷延鋼板の表面に、200g/Lの硫酸ニッケル六水和物および10〜100g/Lの硫酸亜鉛七水和物を含有するpH1.5、温度50℃のめっき浴中で電流密度を5〜100A/dm2と変化させて電気めっき処理を施して、表1に示すようなNi含有率(残部はZnおよび不可避的不純物)、付着量、およびη相含有率の異なるめっき層を有する鋼板No.1〜19を作製した。また、比較として、上記冷延鋼板に溶融めっき処理を施した溶融Znめっき鋼板(GI)、合金化溶融Znめっき鋼板(GA)、溶融Zn-5%Alめっき鋼板(GF)、溶融Zn-55%Alめっき鋼板(GL)、めっき層のない冷延鋼板ままの鋼板No.20〜24を作製した。
【0040】
このようにして得られた鋼板No.1〜24を、電気炉または直接通電により表1に示す加熱条件で加熱後、Al製金型で挟み込んで冷却速度50℃/sで冷却し、次に示す耐酸化性の評価を行った。
耐酸化性:表1に示す加熱条件で加熱後、鋼板の重量を測定し、加熱前との重量変化を測定した。ここで、重量変化は、スケールやZnOの生成による重量増加と生成したZnOの飛散による重量減少の和であるが、その絶対値が小さいほど耐酸化性に優れるとし、以下の基準で評価し、◎、○であれば本発明の目的を満足しているとした。
◎:重量変化の絶対値≦3g/m2
○:3g/m2<重量変化の絶対値≦5g/m2
×:5g/m2<重量変化の絶対値
結果を表1に示す。本発明である鋼板No.1〜16は、いずれも重量変化の絶対値が小さく、耐酸化性に優れていることがわかる。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、本実施例では実際に熱間プレスによる加工を行っていないが、上述したように、耐酸化性は熱間プレス前の加熱によるめっき層の変化、特にめっき層中のZnの挙動に左右されるので、本実施例の結果で熱間プレス部材の耐酸化性を評価できることになる。
【実施例2】
【0043】
実施例1と同様な下地鋼板の表面に、実施例1と同様な方法で、Ni含有率、付着量、およびη相含有率の異なるめっき層を形成した。その後、めっき層上に、下記に示すSi含有化合物、Ti含有化合物、Al含有化合物、Zr含有化合物、SiとZr含有化合物のいずれかの化合物を含み、残部溶媒からなる組成物(固形分割合15質量%)を塗布後、到達鋼板温度が140℃となる条件で乾燥し、表2、3に示す厚みの異なるSi含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層、SiとZr含有化合物層のいずれかの化合物層を形成し、鋼板No.1〜32を作製した。
【0044】
なお、Si含有化合物、Ti含有化合物、Al含有化合物およびZr含有化合物として以下の化合物を用いた。
【0045】
シリコーン樹脂:信越化学(株)製 KR-242A
リチウムシリケート:日産化学工業(株)製 リチウムシリケート45
コロイダルシリカ:日産化学工業(株)製 スノーテックスOS
シランカップリング剤:信越化学(株)製 KBE-403
チタンカップリング剤:マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTA-22
チタン酸リチウム:チタン工業(株)製 チタン酸リチウム
アルミン酸ナトリウム:朝日化学工業(株)製 NA-170
アルミニウムカップリング剤:味の素ファインテクノ(株)製 プレンアクトAL-M
酢酸ジルコニウム:三栄化工(株)製 酢酸ジルコニウム
ジルコニウムカップリング剤:マツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスZA-65
なお、化合物としてシリコーン樹脂を使用する場合の溶媒はエチレングリコールモノブチルエーテル:石油系ナフサを55:45(質量比)のシンナーとした。また、化合物としてシリコーン樹脂以外のものを使用する場合の溶媒は脱イオン水とした。
【0046】
このようにして得られた、表面に、順に、めっき層と化合物層を有する表2、3に示す鋼板No.1〜32を、電気炉または直接通電により表2、3に示す加熱条件で加熱後、Al製金型で挟み込んで冷却速度50℃/sで冷却し、実施例1と同様な耐酸化性の評価、および次に示す塗装密着性の評価を行った。
塗装密着性:熱処理後の鋼板からサンプルを採取し、日本パーカライジング株式会社製PB-SX35を使用して標準条件で化成処理を施した後、関西ペイント株式会社製電着塗料GT-10HTグレーを170℃×20分間の焼付け条件で膜厚20μm成膜して、塗装試験片を作製した。そして、作製した試験片の化成処理および電着塗装を施した面に対してカッターナイフで碁盤目(10×10個、1mm間隔)の鋼素地まで到達するカットを入れ、接着テープにより貼着・剥離する碁盤目テープ剥離試験を行った。以下の基準で評価し、◎、○であれば塗装密着性に優れるとした。
◎:剥離なし
○:1〜10個の碁盤目で剥離
△:11〜30個の碁盤目で剥離
×:31個以上の碁盤目で剥離
結果を表2、3に示す。化合物層を設けることにより、耐酸化性に加え、塗装密着性にも優れていることがわかる。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
なお、本実施例では実際に熱間プレスによる加工を行っていないが、耐酸化性と同様、本実施例の結果で熱間プレス部材の塗装密着性も評価できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、10〜25質量%のNiを含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、付着量が10〜90g/m2のめっき層を有することを特徴とする熱間プレス用鋼板。
【請求項2】
めっき層上に、さらに、Si含有化合物層、Ti含有化合物層、Al含有化合物層、Zr含有化合物層のうちから選ばれた少なくとも一種の化合物層を有することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項3】
めっき層の下地鋼板が、質量%で、C:0.15〜0.5%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項4】
めっき層の下地鋼板が、さらに、質量%で、Cr:0.01〜1%、Ti:0.2%以下、B:0.0005〜0.08%のうちから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項3に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項5】
めっき層の下地鋼板が、さらに、質量%で、Sb:0.003〜0.03%を含有することを特徴とする請求項3または4に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の熱間プレス用鋼板を、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲に加熱後、熱間プレスすることを特徴とする熱間プレス部材の製造方法。

【公開番号】特開2012−233249(P2012−233249A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162680(P2011−162680)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】